説明

車両の牽引フック構造

【課題】車両の牽引フック構造において、牽引強度を確保しつつ、衝突に対する車体フレームの変形ストロークを確保することを目的とする。
【解決手段】車両前後方向に延設されたフロントサイドレール12(車体フレーム)の端部にクラッシュボックス14を設け、フロントサイドレール12側に支持された牽引フック16をクラッシュボックス14に沿って配置している。このため、牽引フック16の張出し量を少なくして牽引時における牽引フック16及びその支持部へのモーメント等の入力を減少させることができ、牽引強度の確保が容易となる。また牽引フック16はクラッシュボックス14の軸圧縮変形時に該クラッシュボックス14から離脱するように構成されており、クラッシュボックス14の変形ストロークを十分に確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の牽引フック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用フックの取付け構造として、フックへの衝突時に該フックが回動することで衝撃を吸収すると共に、牽引時には長孔の前端とボルトが当接することで牽引荷重等が車体に入力される構成が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平2−60603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来例では、フックに対して直接的に衝突荷重が入力された場合の衝撃吸収を考慮した構成となっており、車体に対して衝突荷重が入力された場合の衝撃吸収とフックとの関係については特に考慮されていない。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、車両の牽引フック構造において、牽引強度を確保しつつ、衝突に対する車体フレームの変形ストロークを確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、車両前後方向に延設された車体フレームと、該車体フレームの端部に設けられ、衝突時の軸圧縮力に対して該車体フレームよりも変形し易く構成されたクラッシュボックスと、前記車体フレーム側に支持されて前記クラッシュボックスに沿って配置されると共に、衝突による前記クラッシュボックスの軸圧縮変形時に該クラッシュボックスから離脱するように構成された牽引フックと、を有することを特徴としている。
【0006】
請求項1に記載の車両の牽引フック構造では、車体フレーム側に支持された牽引フックが、該車体フレームの端部に設けられたクラッシュボックスに沿って配設されており、牽引フックが車体のより端部に配置された状態となっているので、車体フレームからの牽引フックの張出し量を少なくしても、牽引ロープ等の牽引角度を十分に確保することができる。牽引フックの張出し量を少なくすることで、牽引時における牽引フック及び該牽引フックの支持部へのモーメント等の入力を減少させることができるので、牽引強度の確保が容易となる。
【0007】
また請求項1に記載の車両の牽引フック構造では、牽引フックが、衝突によるクラッシュボックスの軸圧縮変形時に該クラッシュボックスから離脱するように構成されているので、通常時に牽引フックがクラッシュボックスに沿って配置されていても、衝突時に該牽引フックがクラッシュボックスの変形の妨げとなることはない。このため、クラッシュボックスの変形ストロークを十分に確保することが可能である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両の牽引フック構造において、前記牽引フックは、前記車体フレームに設けられた支持ブラケットに回動自在に支持されると共に通常時には前記クラッシュボックスに係止されて牽引可能状態となっており、その係止状態は、前記クラッシュボックスの軸圧縮変形に伴い解除されるように構成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の車両の牽引フック構造では、牽引フックが車体フレームの支持ブラケットに回動自在に支持されているものの、通常時にはクラッシュボックスに係止されて牽引可能な状態となっているので、牽引作業を通常通り行うことが可能である。
【0010】
またクラッシュボックスによる牽引フックの係止状態は、クラッシュボックスの軸圧縮変形に伴い解除されるように構成されているので、衝突によりクラッシュボックスが軸圧縮変形し、牽引フックの係止が解除されることにより、該牽引フックが支持ブラケットを中心として回動してクラッシュボックスから離脱する。このため、牽引フックがクラッシュボックスの変形の妨げとなることがなく、クラッシュボックスの変形ストロークをより多く確保することが可能である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の車両の牽引フック構造において、前前記牽引フックは、前記クラッシュボックスに対して牽引荷重を伝達するための第1荷重伝達部と、前記支持ブラケットに対して前記牽引荷重を伝達するための第2荷重伝達部とを有することを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の車両の牽引フック構造では、牽引フックが、クラッシュボックスに対して牽引荷重を伝達するための第1荷重伝達部と、支持ブラケットに対して牽引荷重を伝達するための第2荷重伝達部とを有しているので、牽引荷重をクラッシュボックス及び支持ブラケットの広い範囲で受け持つことができ、これによって牽引強度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両の牽引フック構造によれば、車両の牽引フック構造において、牽引強度を確保しつつ、衝突に対する車体フレームの変形ストロークを確保することができる、という優れた効果が得られる。
【0014】
請求項2に記載の車両の牽引フック構造によれば、牽引作業を通常通り行うことができると共に、クラッシュボックスの変形ストロークをより多く確保することができる、という優れた効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載の車両の牽引フック構造によれば、牽引強度をより高めることができる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1において、本実施の形態に係る車両の牽引フック構造Sは、例えばフレーム付車両の前部10における牽引フック取付け構造に係り、車体フレームの一例たるフロントサイドレール12と、クラッシュボックス14と、牽引フック16とを有している。
【0017】
フロントサイドレール12は、車両の前部10の左右において夫々車両前後方向に延設された剛性部材であって、車両の前面衝突時の軸圧縮変形を抑制するために高剛性に構成されている。
【0018】
クラッシュボックス14は、フロントサイドレール12の端部に例えば一体的に設けられ、前面衝突時の軸圧縮力に対してフロントサイドレール12よりも変形し易く構成された衝撃吸収用の変形可能部である。具体的には、クラッシュボックス14には、車両の前面衝突時に軸圧縮変形し易いように、例えば車幅方向に延びるスリットやビード等の脆弱部14Aが設けられている。
【0019】
なお、クラッシュボックス14は、フロントサイドレール12の端部に一体的に設けられているものに限られず、別部品としてフロントサイドレール12に組み付けられるものであってもよい。クラッシュボックス14の前端には、バンパ20が車幅方向に延設されている。
【0020】
クラッシュボックス14の後側のフロントサイドレール12には、車幅方向にキャブマウントブラケット18が延設されており、例えば該キャブマウントブラケット18の下方に位置するフロントサイドレール12の下面に、牽引フック取付け部強化用のリインフォースメント22が固着されている。
【0021】
牽引フック16は、例えば略C字形に形成された鉤状部材であって、フロントサイドレール12側に支持されてクラッシュボックス14に沿って配置されると共に、衝突によるクラッシュボックス14の軸圧縮変形時に該クラッシュボックス14から離脱するように構成されている。
【0022】
具体的には、牽引フック取付け部強化用のリインフォースメント22には、支持ブラケット28がその基部28Bにおいてボルト24及びナット26により固設されており、該支持ブラケット28のうち、牽引フック16を支持する前端部28Aは、基部28Bよりも下方かつ前方に突出形成されている。牽引フック16は、その基部16Dにおいて、例えばピン30を用いて、支持ブラケット28の前端部28Aに回動自在に支持されている。
【0023】
図1に示される通常時において、牽引フック16の上面16Uは、クラッシュボックス14の下面14Bに相対すると共に、該下面14Bに対して例えば面状に近接又は当接しており、該上面16Uがクラッシュボックス14に対して牽引荷重を伝達するための第1荷重伝達部となっている。
【0024】
また牽引フック16の後面16Rは、支持ブラケット28の前面28Fに相対すると共に、該前面28Fに対して例えば面状に近接又は当接しており、該後面16Rが、支持ブラケット28に対して牽引荷重を伝達するための第2荷重伝達部となっている。なお、牽引フック16の後面16Rは、牽引時において、支持ブラケット28の前面28Fだけでなく、リインフォースメント22に対しても当接することが望ましい。支持ブラケット28だけでなく、リインフォースメント22においても、牽引フック16の後面16Rからの牽引荷重を受け持つことが可能となるからである。
【0025】
また牽引フック16の上面16Uは、基部16Dから見てクラッシュボックス14の下面14Bに沿って車両前方へ延びており、例えばその前端には、クラッシュボックス14の下面14Bに係合可能な爪部16Cが設けられている。具体的には、図1に示される通常時において、爪部16Cは、牽引フック16の上面16Uから上方に突出すると共に、先端が車両後方を向いたL字形に形成されている。
【0026】
この爪部16Cは、クラッシュボックス14の下面14Bに設けられた係止孔14Cからクラッシュボックス14内に差し込まれ、車両後方にスライドした位置で該係止孔14Cの後縁14Rに係合し、これにより牽引フック16がクラッシュボックス14に係止されて、図1,図2に示される牽引可能状態とされている。係止孔14Cの前縁14Fと爪部16Cとの間は、後縁14Rと爪部16Cとの係合代よりも長く離間しており、クラッシュボックス14の軸圧縮変形により係止孔14Cの位置が後退して、その後退量が爪部16Cと後縁14Rとの係合代を上回ると、該後縁14Rに対する爪部16Cの係止状態が解除されるようになっている。
【0027】
図1に示される通常時において、牽引フック16における前端から下方には、アーム部16Aが形成され、牽引フック16は、該アーム部16Aの下端から車両後方に延び、そこから車両上方に延びる先端部16Eにおいて終端している。先端部16Eと基部16Dとの間は、牽引ロープ32(図2)を通すことができるように例えば離間している。またアーム部16Aには、牽引時における牽引ロープ32のずり上がりを抑制するストッパ部16Bが設けられている。なお、支持ブラケット28の形状は、牽引フック16の回動時の軌跡を避けたものとなっている。
【0028】
図1に示されるように、牽引フック16は、全体的にクラッシュボックス14の下面14Bに沿って配置されており、リインフォースメント22の下側に配置する場合と比較して、車体の前端部、即ちバンパ20に近くなっている。また牽引フック16の重心は、ピン30よりも車両前方側にあり、クラッシュボックス14により係止状態が解除されると、自重によりクラッシュボックス14から離脱する方向に回動するようになっている。
【0029】
なお、牽引フック16は、走行時等における異音の発生を防止するために、図2に示されるように、牽引フック16の上面16Uとクラッシュボックス14の下面14Bとの間、及び牽引フック16の後面16Rと支持ブラケット28の前面28Fとの間に、防振用の例えばゴムシート34を夫々配設してもよい。
【0030】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図2において、車両の牽引フック構造Sでは、フロントサイドレール12側の支持ブラケット28に回動自在に支持された牽引フック16が、爪部16Cによりクラッシュボックス14に係止されることで該クラッシュボックス14に沿って配設されており、該牽引フック16がバンパ20により近い位置に配置された状態となっている。このため、アーム部16Aの長さを短くして、フロントサイドレール12から下方への牽引フック16の張出し量を少なくしても、牽引ロープ32等の牽引角度θを十分に確保することが可能である。
【0031】
牽引フック16のアーム部16Aを短くすることで、牽引時における牽引フック16及び該牽引フック16の支持ブラケット28、クラッシュボックス14及びフロントサイドレール12へのモーメント等の入力を減少させることができるので、牽引強度の確保が容易となる。
【0032】
次に、図2において、牽引時の作用について説明すると、牽引フック16は、フロントサイドレール12に設けられた支持ブラケット28に回動自在に支持されているものの、通常時にはクラッシュボックス14に係止されて牽引可能な状態となっているので、牽引ロープ32を牽引フック16に掛けて牽引作業を通常通り行うことが可能である。牽引フック16のアーム部16Aには、ストッパ部16Bが設けられているので、該ストッパ部16Bにより、牽引時における牽引ロープ32のずり上がりが抑制される。
【0033】
牽引ロープ32に対して牽引荷重Fが作用した場合、牽引フック16には、ピン30を中心としたモーメントが作用する。このとき、牽引荷重Fは、牽引フック16の第1荷重伝達部である上面16Uからクラッシュボックス14の下面14Bに伝達されると共に、第2荷重伝達部である後面16Rから支持ブラケット28の前面28Fに伝達される。牽引荷重Fを、クラッシュボックス14及び支持ブラケット28の広い範囲で受け持つことができるので、車両の牽引フック構造Sの牽引強度をより高めることが可能である。
【0034】
続いて、図3において、車両が前面衝突した場合の作用について説明すると、バンパ20に対して衝突体36が衝突して、衝突荷重が車体の前部10に入力されると、該衝突荷重によりクラッシュボックス14が軸圧縮変形する。このとき、図4(A)に示される通常時と比較すると、図3,図4(B)に示されるように、クラッシュボックス14の下面14Bの係止孔14Cの位置が矢印R方向に後退するため、牽引フック16の爪部16Cと係止孔14Cの後縁14Rとの係合代が次第に減少して行く。そして該係合代がなくなるまで係止孔14Cの位置が後退したときに、爪部16Cが後縁14Rから外れて、クラッシュボックス14による牽引フック16の係止状態が解除される。
【0035】
すると、牽引フック16が、自重により、ピン30を中心として矢印D方向に回動し、クラッシュボックス14から離脱するため、クラッシュボックス14の変形の妨げとなることがなく、該クラッシュボックス14は、更に軸圧縮変形することができる。
【0036】
このように、牽引フック構造Sでは、牽引フック16が、衝突によるクラッシュボックス14の軸圧縮変形時に該クラッシュボックス14から離脱するように構成されているので、通常時に牽引フック16がクラッシュボックス14に沿って配置されていても、衝突時に該牽引フック16がクラッシュボックス14の変形の妨げとなることはない。このため、クラッシュボックス14の変形ストロークを十分に確保することが可能である。
【0037】
図2に示されるように、牽引フック16の上面16Uとクラッシュボックス14の下面14Bとの間、及び牽引フック16の後面16Rと支持ブラケット28の前面28Fとの間には、防振用のゴムシート34が夫々配設されているので、走行時等における異音の発生が防止される。
【0038】
なお、上記実施形態では、車両の牽引フック構造Sを、車両の前部10における牽引フック構造として説明したが、これに限られず車両の後部に用いてもよい。また図示の例では、牽引フック16の上面16Uの前端に1つの爪部16Cが設けられているが、爪部16Cの位置及び数はこれに限られるものではない。
【0039】
係止孔14Cの形状や大きさは、図示のものに限られず、クラッシュボックス14の軸圧縮変形時に牽引フック16の係止状態が解除され易くするために、係止孔14Cを車幅方向及び車両前方により大きく形成してもよい。
【0040】
更に、車両の衝突時に牽引フック16がクラッシュボックス14から離脱する構成は、該クラッシュボックス14における係止孔14Cの後縁14Rと、牽引フック16の爪部16Cとの係合を用いたものに限られず、例えばクラッシュボックス14の軸圧縮変形時に破断するピン等(図示せず)を用いて牽引フック16をクラッシュボックス14に係止しておく構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】通常時における車両の牽引フック構造を示す部分破断側面図である。
【図2】牽引フックに牽引ロープを掛けて車両を牽引している状態を示す部分破断側面図である。
【図3】車両の前面衝突によりクラッシュボックスが軸圧縮変形することで、牽引フックの係止状態が解除され、該牽引フックが自重により回動してクラッシュボックスから離脱した状態を示す部分破断側面図である。
【図4】(A)通常時において、クラッシュボックスに係止された牽引フックを示す斜視図である。(B)クラッシュボックスの軸圧縮変形により牽引フックの係止状態が解除され、該牽引フックが自重により回動してクラッシュボックスから離脱した状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
12 フロントサイドレール(車体フレーム)
14 クラッシュボックス
16 牽引フック
16R 後面(第2荷重伝達部)
16U 上面(第1荷重伝達部)
28 支持ブラケット
F 牽引荷重
S 牽引フック構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延設された車体フレームと、
該車体フレームの端部に設けられ、衝突時の軸圧縮力に対して該車体フレームよりも変形し易く構成されたクラッシュボックスと、
前記車体フレーム側に支持されて前記クラッシュボックスに沿って配置されると共に、衝突による前記クラッシュボックスの軸圧縮変形時に該クラッシュボックスから離脱するように構成された牽引フックと、
を有することを特徴とする車両の牽引フック構造。
【請求項2】
前記牽引フックは、前記車体フレームに設けられた支持ブラケットに回動自在に支持されると共に通常時には前記クラッシュボックスに係止されて牽引可能状態となっており、その係止状態は、前記クラッシュボックスの軸圧縮変形に伴い解除されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の牽引フック構造。
【請求項3】
前記牽引フックは、前記クラッシュボックスに対して牽引荷重を伝達するための第1荷重伝達部と、前記支持ブラケットに対して前記牽引荷重を伝達するための第2荷重伝達部とを有することを特徴とする請求項2に記載の牽引フック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−237867(P2007−237867A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61680(P2006−61680)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】