説明

車両の衝突被害軽減装置

【課題】車両の前方衝突によって前方障害物が乗員空間内へ進入した場合に乗員の被害を軽減することができるようにする。
【解決手段】車両11の前方に存在する前方障害物を監視する前方障害物監視手段5と、前方障害物監視手段5からの情報に基づいて、前方障害物の突起部12が前記シート上方空間6に進入するかを予測する進入予測手段47と、シートのシートバック3を後方へ傾倒駆動させて前記シートの乗員4を前記シート上方空間6から退避させるシートバック駆動手段51と、前記進入予測手段により前記突起部が前記シート上方空間に進入すると予測されたら、前記シートバック駆動手段51を作動させる制御手段41とを備え、前方障害物の突起部12が前記車両の車室内のシートの上方空間6に進入した際に前記車両の乗員4の被害を軽減するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前方衝突時に車室内部に進入する前方障害物の後部の突起部による乗員の被害を軽減する、車両の衝突被害軽減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の技術として、自車両の前方の障害物を検知し、自車両の前方障害物への衝突が避けられないと判断した場合に、自動的にブレーキを作動させて追突時の被害を軽減又は回避させる自動ブレーキ装置が開発されている。
また、車両の衝突時にシートの動きを制御することで、乗員を保護する技術が知られている。例えば特許文献1には、自動車の衝突時に座席の背もたれがヘッドレストと共に前方に倒れ、乗員の身体と頭部を抑え込んで、頚部の鞭打ち症を防ぐ技術が開示されている。特許文献2には、自車両に追突されたときに、リクライニング・シートの背もたれ部が後方へ倒れるのを阻止する技術が開示されている。
【0003】
また、車両の衝突時に衝撃を吸収し、乗員への衝撃を緩和する技術が知られている。例えば特許文献3には、車両が後方から衝突された場合に、シートバック側ブラケットの下部を後方に移動させる第1の衝撃吸収動作と、シートバック側ブラケットの下部を後方に移動させる第2の衝撃吸収動作によって、乗員にかかる荷重を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7085号公報
【特許文献2】特開平7−156704号公報
【特許文献3】特開2007−296925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両が前方車両と衝突した場合に、車室内に前方障害物の突起部が入り込んで、車室内の乗員の位置する空間(乗員空間)内に進入するおそれが考えられる。例えば、前方車両に搭載された積載物が後部に突き出ている場合、追突時に積載物の後端が自車両の車室内に入り込んで、車室内の乗員空間内に進入するおそれがある。この場合、積載物の後部が前方障害物の突起部に相当する。また、自車両がセダンタイプの乗用車等の車高の低い小型車であって、前方車両がトラック等の車高の高い大型車である場合には、自車両が前方車両後部の下に潜り込む事故も発生し、この際も前方車両の後部が自車両の車室内に入り込んで車室内の乗員空間内に進入するおそれがある。この場合、前方車両の後部が前方障害物の突起部となる。
【0006】
しかしながら、従来はこのような課題への着目はなく、従来の自動ブレーキ装置が備えられた車両では前方障害物の突起部が入り込んで、車室内の乗員空間内に進入した場合に、乗員の衝突被害軽減対策は特に講じられてはいない。
例えば、上記の特許文献1乃至3記載の技術思想は、いずれもこのような前方障害物が乗員空間内へ進入した場合は想定されておらず、上記課題の解決は困難である。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みて案出されたもので、車両の前方衝突によって前方障害物が乗員空間内へ進入した場合に、乗員の被害を軽減することができるようにした車両の衝突被害軽減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の衝突被害軽減装置は、車両の前方に存在する前方障害物の後部の突起部が前記車両の車室内のシートの上方空間に進入した際に前記車両の乗員の被害を軽減する車両の衝突被害軽減装置であって、前記前方障害物を監視する前方障害物監視手段と、前記前方障害物監視手段からの情報に基づいて、前記前方障害物の前記突起部が前記シート上方空間に進入するかを予測する進入予測手段と、前記シートのシートバックを後方へ傾倒駆動させて前記シートの乗員を前記シート上方空間から退避させるシートバック駆動手段と、前記進入予測手段により前記突起部が前記シート上方空間に進入すると予測されたら、前記シートバック駆動手段を作動させる制御手段とを備えることを特徴としている。
【0009】
また、前記前方障害物監視手段からの情報に基づいて、前記車両が前記前方障害物と衝突するかを予測する衝突予測手段と、前記前方障害物監視手段からの情報に基づいて、前記前方障害物の後部に前記シート上方空間に進入しうる前記突起部があるかを判定する突起部判定手段とを備え、前記進入予測手段は、衝突予測手段により前記車両が前記前方障害物と衝突すると予測され、前記突起部判定手段により前記前方障害物の後部に前記シート上方空間に進入しうる前記突起部があると判定されたら、前記前方障害物の前記突起部が前記シート上方空間に進入すると予測することが好ましい。
【0010】
さらに、前記シートに付設されたシートベルトを締め付けるシートベルト締付手段と、前記車両の制動を行う制動手段とを備え、前記制御手段は、前記衝突予測手段により前記車両が前記前方障害物と衝突すると予測されたら、前記シートベルト締付手段と前記制動手段を作動させることが好ましい。
また、前記衝突予測手段は、前記車両と前記前方障害物とが衝突するまでの衝突予測時間を推定し、推定した前記衝突予測時間を閾値と比較して前記衝突予測時間が前記閾値以下の場合に前記車両が前記前方障害物と衝突すると予測するように構成され、前記閾値として、第一閾値と、前記第一閾値よりも小さな第二閾値と、前記第二閾値よりも小さな第三閾値とが設定され、前記制御手段は、前記衝突予測手段が前記第一閾値との比較により前記衝突を予測した場合には、前記シートベルト締付手段を作動させ、前記衝突予測手段が前記第二閾値との比較により前記衝突を予測した場合には、前記制動手段を作動させ、前記進入予測手段により前記突起部が前記シート上方空間に進入すると予測され、前記衝突予測時間が前記第三閾値との比較により前記衝突を予測した場合において、前記シートバック駆動手段を作動させることが好ましい。
【0011】
さらに、前記車両の前方ウインドウに、前記前方ウインドウへの前記前方突起部の衝突を検知する前方ウインドウ衝突検知手段を備え、前記制御手段は、前記衝突予測手段が前記第二閾値との比較により前記衝突を予測し、且つ、前記前方ウインドウ衝突検知手段により前記前方ウインドウに前記前方突起部の衝突を検知した場合に、前記シートバック駆動手段を作動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の衝突被害軽減装置によれば、車両の前方に存在する前方障害物を監視し、前方障害物の突起部が車両の車室内のシート上方空間に進入すると予測された場合に、シートのシートバックを後方へ傾倒駆動させることで、乗員をシート上方空間から退避させることにより、車両衝突時の乗員の被害を軽減することが出来る。
また、車両が前方障害物と衝突すると予測し、この前方障害物の後部にシート上方空間に進入しうる突起部があると判定された場合に、前方障害物の突起部が前記シート上方空間に進入すると予測することにより、不要なシートバックの傾倒駆動を避け、運転者の操舵操作による衝突回避の可能性を確保することが出来る。
【0013】
また、シートベルトの締め付けを行い、ブレーキングによる車両の制動を行うことにより、衝突被害軽減の効果をさらに高めることが出来る。
また、衝突予測時間を算出し、第一閾値、第二閾値、第三閾値と比較することにより車両と前方障害物との衝突の予測を行い、衝突予測時間に応じて、衝突被害を軽減するための制御を段階的に行うことで、不用意にシートバックの後方への傾倒駆動を行わず、運転者の操舵操作による衝突可能性を向上させ、また衝突被害軽減の効果をさらに高めることが出来る。
【0014】
また、衝突予測時間を第二閾値と比較して、車両が前方障害物と衝突すると予測した場合であって、フロントガラスへの前方突起部の衝突を検知した場合に、シートバックの後方への傾倒駆動を行うことで、突起部のフロントガラスへの衝突時に、確実にシートバックを後方へ傾倒させ、乗員を保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a),(b)ともに、本発明の第1実施形態に係る衝突被害軽減装置による衝突被害軽減処理を説明する模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る衝突被害軽減装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】(a),(b)ともに、本発明の第1実施形態に係るシートバックの後方への傾倒動作を説明するためのシートの斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る衝突被害軽減装置による衝突被害軽減処理を説明するフローチャートである。
【図5】(a),(b)ともに、本発明の第2実施形態に係る衝突被害軽減装置による衝突被害軽減処理を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により、本発明の実施形態について説明する。
まず、第1実施形態として、本発明をトラック等の車高の高い大型自動車(以下、大型車両とも言う)に適用した例を説明し、次に、第2実施形態として、本発明を例えばセダンタイプの乗用車等の車高の低い小型自動車(以下、小型車両とも言う)に適用した例を説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は本衝突被害軽減装置による衝突被害軽減処理を説明する模式図、図2は本衝突被害軽減装置の全体構成を示すブロック図、図3はシートバックの後方への傾倒動作を説明するシートの斜視図、図4は本衝突被害軽減装置による衝突被害軽減処理を説明するフローチャートである。
【0018】
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態に係る衝突被害軽減装置は、大型車両(車両、自車両ともいう)1に適用されるものであって、前方の障害物(ここでは、大型車両、以下、前方車両とも言う)11の突起部(ここでは、大型車両11に搭載された積載物13の後部)12が自車両11の車室内のシート上方空間6に進入する場合に(図1(a))、シート2のシートバック3を後方へ傾倒駆動させることにより、乗員4と積載物13の後部の突起部12との衝突を回避しようとするものである(図(1b))。
【0019】
本衝突被害軽減装置は、図2に示すように、制御装置としての統合ECU41と、ステレオカメラ42及びミリ波レーダ44等からなる前方障害物監視装置(前方障害物監視手段)5と、前方ウインドウ衝突検知手段としてのフロントガラス歪みゲージ46と、シート2(図3参照)のシートバック3を後方へ傾倒駆動させるシートバック駆動手段としてのシートバック駆動モータ51と、シートベルト7(図示略)を締め付ける(締め付け力を増大させる)シートベルト締付手段としての締付モータ51と、制動手段としての自動ブレーキシステム8の作動を制御するブレーキECU53とが設けられている。なお、ECUは、電子制御ユニット(Electric Control Unit)の略称であり、このECUは、図示しない入出力装置,制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)及びタイマカウンタ等を備えて構成されている。
【0020】
また、統合ECU(制御装置ともいう)41には、突起部12がシート上方空間6に進入するかを予測する進入予測部(進入予測手段)47及びフロントガラス異常判定部(異常判定手段)50が機能要素として設けられている。この実施形態では、進入予測部47は、衝突予測部(衝突予測手段)48と突起部判定部(突起部判定手段)49とから構成される。この進入予測部47及びフロントガラス異常判定部50は、コンピュータプログラムによるソフトウエアとして設けられている。
【0021】
統合ECU41は、自車両全体を制御する電子制御ユニットであり、上述のように各部42〜53が連携して動作する。そして、この統合ECU41は、各検出系42〜46から情報(信号)を受信したら、上記情報に基づいて判断や演算を行い、その判断結果や演算結果に基づいて各部51,52,53に制御信号を送信するようになっている。
衝突予測部48は、後述するミリ波レーダ44から受信した情報に基づき、自車両1と前方車両11とが衝突するかを判断する。
【0022】
突起部判定部49は、後述するステレオカメラ42から受信した情報に基づき、前方車両11の後部に、シート上方空間6に進入しうる突起部12があるかを判定する。
進入予測部47は、衝突予測部48と突起部判定部49との判断結果に基づき、前方車両11の突起部12がシート上方空間6に進入するかを予測する。
フロントガラス異常判定部50は、後述するフロントガラス歪みゲージ46から受信した情報に基づき、前方車両11の突起部12が、車両1の前方ウインドウに衝突したかを判定する。
【0023】
前方障害物監視装置5を構成するステレオカメラ42及びミリ波レーダ44は、車両1の前部に前方を向いて設置されている。前方障害物監視装置5は、ステレオカメラ42で得られた画像情報及びミリ波レーダ44で得られる情報等に基づいて、前方車両11を始めとする車両1の前方の障害物を監視することができるようになっている。
また、統合ECU41の入力側には、これらのステレオカメラ42やミリ波レーダ44が接続されており、統合ECU41はこれらのセンサからの情報が入力されるようになっている。
【0024】
ここで、前方障害物監視装置5についてさらに説明する。前方障害物監視装置5では、ミリ波レーダ44によって、前方車両11の存在と自車両1と前方車両11との相対位置情報を得て、ステレオカメラ42によって、前方車両11の後部の突起部12を把握するため、前方車両11の後部のステレオ画像(三次元画像)を得る。
ステレオカメラ42は、二つのカメラからなり、前方車両11の後部のステレオ画像(三次元画像)を得ることが出来る。ステレオカメラ42には、画像解析部43が備えられている。画像解析部43は、ステレオカメラの視差を利用して得られた画像の解析を行い、前方車両11の形状を三次元的に認識する。前方車両11に搭載された積載物13の後部に突き出ている突起部12を検出した場合には、突起部12の形状及び地上面からの高さを算出する。そして、それら算出結果を統合ECU41へ送信するようになっている。
【0025】
ミリ波レーダ44は、ミリ波を出射し、この出射したミリ波が反射した電波(反射波)を受信することが出来る。ミリ波レーダ44には、レーダECU45が内蔵されている。レーダECU45は、ミリ波レーダ44により反射波が検知されると、自車両の前方に車両11があるものと判定し、この前方車両11からの反射波情報に基づき、自車両1と前方車両11との相対距離、及び自車両1に対する前方車両11の相対速度を算出する。そして、それら算出結果を統合ECU41へ送信するようになっている。
【0026】
フロントガラス歪みゲージ46は、自車両1の前方のフロントガラスに取り付けられ、歪みゲージに備えられた抵抗体の抵抗値の変化から、フロントガラスの変形を歪み量として検出するものである。そして、このフロントガラス歪みゲージ46により検出されたフロントガラスの歪み情報(歪み量)を統合ECU41へ送信するようになっている。
シート2は、自車両1に設けられ、乗員4が運転時に座するものである。図3に示すように、シート2には、シートバック3を、図3(a)に示す通常の使用状態から図3(b)に示す状態のように、自車両1の後方へ傾倒駆動させるシートバック駆動モータ51が備えられている。統合ECU41は、シートバック駆動モータ51を作動させることで、シートバック3を後方に倒すことが出来るようになっている。なお、シートバック駆動モータ51は、ここでは電動モータであるが、エア圧モータや油圧モータといった流体圧モータを適用してもよい。
【0027】
シートベルト7は、自車両1のシート2に付設され、乗員4の身体を締め付けてシート2に拘束するものである。このシートベルト7には、緊急時にシートベルト7の巻き上げを行い、乗員4の締付の増強を行うシートベルト締付モータ52が備えられている。統合ECU41により、シートベルト締付モータ52を動作させることで、シートベルト7による締め付けを増強して、乗員4の確実な拘束を行うことが出来るようになっている。なお、シートベルト締付モータ52は、ここでは電動モータであるが、少なくともシートベルト7の巻上げを行うものであればよく、例えば電動、エア圧、又は油圧のアクチュエータを用いてもよい。
【0028】
ブレーキECU53は、自動ブレーキシステム8の作動を制御する。自動ブレーキシステム8は、自車両1の各車輪に設けられた制動装置(図示略)を駆動するアクチュエータ(図示略)を有し、このアクチュエータを作動させることにより自車両1の自動制動を行うものである。ブレーキECU53は、統合ECU41からの制御信号を受けて、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作がなくてもブレーキを作動させ、自車両1を強制的に制動させるようになっている。なお、アクチュエータは、少なくとも制動装置を駆動可能であれば良く、例えば電動、エア圧、又は油圧のアクチュエータ等が用いられる。
【0029】
<衝突被害軽減処理に関する要部構成>
次に、本発明の第1実施形態に係る、衝突被害軽減処理に関する要部構成について詳述する。
突起部判定部49は、ステレオカメラ42から受信した情報に基づき、前方障害物の後部の突起部12の形状及び地上面からの高さと、自車両1に取り付けられたステレオカメラ42の取り付け位置及び取り付け角度と、車室内のシートの上方空間6のスペース及び地上面からの高さを比較し、前方車両11の後部の突起部12と車室内のシートの上方空間6の相対位置関係から、自車両1が現状の運転状態のまま走行した場合、前方障害物の後部の突起部12が自車両1のシート上方空間6に進入するか否かを予測する。
【0030】
ここで、本実施例においては、自車両1が大型車両であって、前方車両11が大型車両であり、前方車両11に搭載された積載物13が後部に突き出ており、追突時に積載物13の後部が自車両1の車室内に入り込み、車室内の乗員空間内6に進入する場合である。このため、前方車両11の積載物13の後部が突起部12に相当する。
また、衝突予測部48は、ミリ波レーダ44から受信した情報に基づき、自車両1と前方車両11との相対速度及び相対距離から、衝突予測時間(TTC:Time to Collision)を算出し、自車両1と前方障害物が衝突するか否かを判断する。
【0031】
さらに、統合ECU41は、衝突予測部48により算出された衝突予測時間TTCに基づき、自車両1の制御を行う。
ここで、衝突予測時間TTCとは、ある時点における自車両1と前方車両11との相対距離Drを、相対速度Vrで除したもの(TTC=Dr/Vr)である。自車両1と前方車両11との衝突を予測する指標として、衝突予測時間TTCを用いることが出来る。衝突予測時間TTCを、衝突可能性の判断閾値としての、第一閾値Ts1、第二閾値Ts2、及び第三閾値Ts3との比較を行うことにより、自車両1の制御を行うか否かを判断する。
【0032】
なお、第一閾値Ts1、第二閾値Ts2、及び第三閾値Ts3の関係は、以下の式(1)で表される。
s1>Ts2>Ts3 ・・・(1)
すなわち、第一閾値Ts1の値が最も大きく、次に第二閾値Ts2が大きく、第三閾値Ts3は最も小さい値となっている。
【0033】
第一閾値Ts1とは、自車両1が前方車両11に衝突する可能性が高いと判断される指標となる時間である。衝突予測時間TTCが、第一閾値Ts1以下である場合(TTC≦Ts1)、統合ECU41は、シートベルト締付モータ52を作動させることにより、シートベルト7の締付増強を行う。これは、後述の自車両1の制動に備え、後述のシートバック3を後方へ傾倒駆動させる動作を行うために、また前方車両11との衝突時の衝撃に備えるために、乗員4をシート2に確実に拘束するためである。
【0034】
第二閾値Ts2とは、自車両1が前方車両11に衝突すると判断される指標となる時間である。衝突予測時間TTCが、第二閾値Ts2以下である場合(TTC≦Ts2)、統合ECU41は、ブレーキECU53を介して自動ブレーキシステム8を作動させることにより、自車両1の自動制動を行う。これは、自車両1の制動により、自車両1の走行速度を落とし、自車両1と前方車両11との相対速度を下げることで、衝突までの時間を伸ばし、また衝突時の相対速度を下げることにより、前方車両11との衝突時の被害を軽減するためである。
【0035】
第三閾値Ts3とは、自車両1が前方車両11に衝突すると判断され、さらに衝突被害軽減の要請が高いと判断される指標となる時間である。衝突予測時間TTCが、第三閾値Ts3以下である場合(TTC≦Ts3)、統合ECU41は、シートバック駆動モータ51を作動させることにより、シートバック3を後方へ傾倒駆動させる動作を行う。これは、シートバック3を後方へ傾倒駆動させることにより、乗員4の上半身をシート上方空間6から退避させ、突起部12との乗員4の接触を回避するためである。
【0036】
また、フロントガラス異常判定部50は、フロントガラス歪みゲージ46から受信した情報に基づき、歪み量の大きさが一定値を超えた場合、前方車両11の突起部12が、車両1の前方ウインドウに衝突したと判定する。
【0037】
<衝突被害軽減処理の手順>
次に、本発明の第1実施形態に係る、衝突被害軽減処理の手順について詳述する。
本衝突被害軽減装置は、自車両1の前方に、前方車両11が存在する場合に、図4に示すフローチャートのような手順で制御を行なうようになっている。
なお、ここでは一例として、第一閾値Ts1=1.4秒、第二閾値Ts2=0.6秒、及び第三閾値Ts3=0.4秒として説明を行う。
まず、自車両1に搭載されたステレオカメラ42及びミリ波レーダ44が作動し、前方車両11の検出を行う(ステップS11)。
【0038】
なお、このとき、前方車両を検出しなかった場合(ステップS11のNoルート)、統合ECU41はシートベルト7の締付増強を行わず(ステップS21)、ブレーキECU53による自動制動も実行せず(ステップS22)、シートバック3の後方への傾倒駆動を行わない。
その後、衝突予測部48が、ミリ波レーダ44により算出された自車両1と前方車両11との相対速度及び相対距離から、衝突予測時間TTCを算出する(ステップS12)。
【0039】
そして、衝突予測部48は、衝突予測時間TTCが、第一閾値Ts1以下であるかを判定する。このとき、衝突予測時間TTCが、第一閾値Ts1を上回っている場合(ステップS13のNoルート)、統合ECU41はシートベルト7の締付増強を行わず(ステップS21)、ブレーキECU53による自動制動も実行させず(ステップS22)、シートバック3の後方への傾倒駆動を行わない。
【0040】
一方、衝突予測時間TTCが、第一閾値Ts1以下の場合(ステップS13のYesルート)、統合ECU41は、シートベルト締付モータ52を作動させ、シートベルト7の締付を増強させる。(ステップS14)。
さらに、衝突予測部48は、衝突予測時間TTCが、第二閾値Ts2以下であるかを判定する。このとき、衝突予測時間TTCが、第二閾値Ts2を上回っている場合(ステップS15のNoルート)、統合ECU41はブレーキECU53による自動制動を実行せず(ステップS22)、シートバック6の後方への傾倒駆動も行わない。
【0041】
一方、衝突予測時間TTCが、第二閾値Ts2以内の場合(ステップS15のYesルート)、統合ECU41は、ブレーキECU53を介して自動ブレーキシステムを作動させ、自車両1の制動を行う(ステップS16)。
次に、突起部判定部49が、ステレオカメラ42により撮影されたステレオ画像情報に基づき、前方車両11の後部に、自車両1のシート上方空間6に進入する位置に突起部12を有するかを判定する。すなわち、自車両1が現状の運転状態のまま走行した場合、前方車両11の後部の突起部12が自車両1のシート上方空間6に進入するか否かを判定する。このとき、前方車両11の後部に、自車両1のシート上方空間6に進入しうる突起部12を有しないと判定された場合(ステップS17のNoルート)、シートバック3の後方への傾倒駆動を行わない。
【0042】
そして、衝突予測部48は、衝突予測時間TTCが、第三閾値Ts3以下であるかを判定する。このとき、衝突予測時間TTCが、第三閾値Ts3を上回っている場合(ステップS18のNoルート)、フロントガラス異常判定部50は、フロントガラス歪みゲージ46により得られる歪み量に基づきフロントガラスの異常検出を行う。このとき、フロントガラスの異常が検出されない場合(ステップS20のNoルート)には、シートバック3の後方への傾倒駆動を行わない。
【0043】
一方、衝突予測時間TTCが、第三閾値Ts3以内の場合(ステップS18のYesルート)、又はフロントガラスの異常がフロントガラス異常判定部50により検出された場合(ステップS20のYesルート)には、統合ECU41は、シートバック駆動モータ51を作動させ、シートバック3を後方へ傾倒駆動させる(ステップS19)。
【0044】
従って、例えば、前方車両11が検出され(ステップS11のYesルート)、衝突予測時間TTCが極めて短い時間(例えば、0.3秒)と算出されたとする(ステップS12)。
この場合、衝突予測時間TTCが、第一閾値Ts1(=1.4秒)以下であると判断され(ステップS13のYesルート)、シートベルト7の締付増強が行われる(ステップS14)。
【0045】
次に、衝突予測時間TTCが、第二閾値Ts2(=0.6秒)以下であると判断され(ステップS15のYesルート)、自車両1の自動制動が行われる(ステップS16)。
さらに、前方車両11が自車両1のシート上方空間6に進入しうる突起物12を有すると判定された場合には(ステップS17のYesルート)、衝突予測時間TTCが、第三閾値Ts3(=0.4秒)以下であると判断され(ステップS18のYesルート)、シートバック3の後方への傾倒駆動が行われる(ステップS19)。
【0046】
他方、前方車両11が検出され、衝突予測時間TTCが、例えば0.5秒と算出されたたとする(ステップS12)。
この場合、衝突予測時間TTCが第一閾値Ts1(=1.4秒)及び第二閾値Ts2(=0.6秒)以下であると判断され、シートベルト7の締付増強と、自車両1の自動制動が行われる(ステップS14,17)。
さらに、前方車両11が自車両1のシート上方空間6に進入しうる突起物12を有すると判定された場合には(ステップS17のYesルート)、衝突予測時間TTCが、第三閾値Ts3(=0.4秒)より大きいと判断される(ステップS18のNoルート)。
【0047】
このとき、フロントガラスに異常が検出されない場合(ステップS20のNoルート)、シートバック3の後方への傾倒駆動は行われない。
一方、フロントガラスに異常が検出された場合には(ステップS20のYesルート)、シートバック3の後方への傾倒駆動が行われる(ステップS19)。
【0048】
<作用・効果>
本発明の一実施形態に係る衝突被害軽減装置は上述のように構成されているので、以下のような作用及び効果を奏する。
【0049】
本衝突被害軽減装置は、自車両1が大型車両である場合において、自車両1と前方車両11との衝突時にシートバック3を後方へ傾倒駆動させることにより、乗員4をシート2の上方空間6から退避させて、乗員4と車室内の乗員空間内に進入する前方車両11に搭載された積載物13の後部の突起部12との接触を回避し、乗員4の保護の効果を高めることが出来る。
【0050】
また、前方車両に搭載された積載物13の後部の突起部12が、自車両1のシート上方空間6に進入するか否かの判定を行い、進入すると判定された場合、すなわちシートバック3を後方へ傾倒駆動させることで、追突時に乗員4への前方車両に搭載された積載物13の突起部12の接触を回避できる場合にのみシートバック3を傾倒駆動するようにしていることで、不要なシートバック3の傾倒駆動を避け、運転者の操舵操作による衝突可能性を確保することが出来る。
【0051】
また、シートバック3の後方への傾倒駆動を行う前に、シートベルト7の締付増強を行うことにより、その後の自車両1の制動と、シートバック3の後方への傾倒駆動に備えることが出来る。また、シートバック3の後方への傾倒駆動を行う前に、ブレーキングによる自車両1の自動制動を行うことにより、自車両1の速度を落とすことで、自車両1と前方車両11との相対速度を下げ、衝突までの時間を伸ばし、シートバック3の後方への傾倒までの時間を確保することが出来る。
【0052】
また、衝突予測時間TTCを算出し、衝突予測時間TTCを第一閾値Ts1、第二閾値Ts2、第三閾値Ts3と順に比較することにより、自車両1と前方車両11との相対距離及び相対速度に応じて、衝突被害を軽減するための制御を段階的に行うことで、不用意にシートバック3の後方への傾倒駆動を行わず、運転者の操舵操作による衝突可能性を向上させ、また衝突被害軽減の効果をさらに高めることが出来る。
【0053】
さらに、衝突予測時間TTCが第二閾値Ts2以下であり、自車両1が前方車両11と衝突すると予測した場合であって、フロントガラス歪みゲージ46によりフロントガラスの異常を検出した場合に、シートバック3の後方への傾倒駆動を行うことで、前方車両に搭載された積載物13の突起部12のフロントガラスへの衝突時に、確実にシートバック3を後方へ傾倒させ、乗員4を保護することが可能となる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態は、一部の構成を除いて上述の第1実施形態と同様に構成されており、第1実施形態と同様のものについては説明を省略し、同符号を用いて説明する。
図5は本実施形態に係る衝突被害軽減装置による衝突被害軽減処理を説明する模式図である。
図5に示すように、本実施形態に係る衝突被害軽減装置は、普通乗用車21に適用されるものであって、前方の大型車両31の後部の突起部32が自車両21の車室内のシート上方空間26に進入する場合に(図5(a))、シート2のシートバック3を後方へ傾倒駆動させることにより、乗員4と大型車両31の後部の突起部32との衝突を回避するものである。(図5(b))
本実施例においては、前方障害物として、主に自車両の前方車両31を想定しているので、以下、前方障害物について前方車両31と呼ぶ。また、自車両21が普通乗用車であって、前方車両31が大型車両であり、追突時に自車両21が前方車両31の後部の下に潜り込み、前方車両31の後部32が自車両21の車室内に入り込み、車室内の乗員空間内26に進入する場合である。このため、前方車両31の後部32が突起部となる。
【0055】
本発明の第2実施形態に係る衝突被害軽減装置は上述のように構成されているので、本衝突被害軽減装置は、自車両1が普通乗用車である場合において、自車両1と前方車両31との衝突時にシートバック3を後方へ傾倒駆動させることにより、乗員4をシート2の上方空間26から退避させて、乗員4と車室内の乗員空間内に進入する前方車両31の後部の突起部32との接触を回避し、乗員4の保護の効果を高めることが出来る。
【0056】
[その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが出来る。
【0057】
例えば、上記実施形態で説明したような本衝突被害軽減装置は自動車全般に適用可能であって、軽自動車や、バスやけん引車両といった大型車両や、その他の特殊車両に適用しても良い。
また、上記実施形態では、ステレオカメラ42及びミリ波レーダ44により前方障害物を監視したが、ステレオカメラ42又はミリ波レーダ44のどちらか一方を用いて前方障害物の監視を行っても良い。また、レーザレーダを用いて前方障害物の監視を行っても良い。
【0058】
また、上記実施形態では、ステレオカメラ42により前方障害物の形状を認識したが、ミリ波レーダ44により前方障害物の形状の認識を行っても良い。
また、上記実施形態では、ミリ波レーダ44により自車両1、21と前方車両11、31との相対距離を算出することとしたが、ステレオカメラ42により自車両1、11と前方車11、31との相対距離を算出しても良い。また、レーザレーダを用いて相対距離及び相対速度の算出を行っても良い。
【0059】
また、上記実施形態では、前方障害物の形状の認識を、ステレオカメラ42の画像解析部43が行なっているが、ステレオカメラ42により得られた前方障害物のステレオ画像情報を統合ECU41へ送信し、統合ECU41によって前方障害物の形状の認識を行なわせても良い。
また、上記実施形態では、自車両1、21と前方車両11、31との相対距離、及び自車両1、21に対する前方車両11、31の相対速度の算出を、レーダECU45が行っているが、ミリ波レーダ44により得られた電波情報を統合ECU41へ送信し、統合ECU41によって相対距離及び相対速度の算出を行なわせても良い。
【0060】
また、上記実施形態では、一例として、第一衝突予測時間を1.4秒、第二衝突予測時間を0.6秒、第三衝突予測時間を0.4秒としたが、これに限定されるものでなく、衝突予測時間は車両ごとの制動回避限界若しくは操舵回避限界、又は車両の種類に応じて変更しても良い。
【符号の説明】
【0061】
1、21 自車両
2 シート
3 シートバック
4 乗員
5 前方障害物監視装置(前方障害物監視手段)
6、26 シート上方空間
7 シートベルト
8 自動ブレーキシステム(制動手段)
11,31 前方車両
12,32 突起部
13 積載物
41 統合ECU(制御装置)
42 ステレオカメラ
43 画像解析部
44 ミリ波レーダ
45 レーダECU
46 フロントガラス歪みゲージ(ウインドウ衝突検知手段)
47 進入予測部(進入予測手段)
48 衝突予測部(衝突予測手段)
49 突起部判定部(突起部判定手段)
50 フロントガラス異常判定部(フロントガラス異常判定手段)
51 シートバック駆動モータ(シートバック駆動手段)
52 シートベルト締付モータ(シートベルト締付手段)
53 ブレーキECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方に存在する前方障害物の後部の突起部が前記車両の車室内のシートの上方空間に進入した際に前記車両の乗員の被害を軽減する車両の衝突被害軽減装置であって、
前記前方障害物を監視する前方障害物監視手段と、
前記前方障害物監視手段からの情報に基づいて、前記前方障害物の前記突起部が前記シート上方空間に進入するかを予測する進入予測手段と、
前記シートのシートバックを後方へ傾倒駆動させて前記シートの乗員を前記シート上方空間から退避させるシートバック駆動手段と、
前記進入予測手段により前記突起部が前記シート上方空間に進入すると予測されたら、前記シートバック駆動手段を作動させる制御手段とを備える
ことを特徴とする、車両の衝突被害軽減装置。
【請求項2】
前記前方障害物監視手段からの情報に基づいて、前記車両が前記前方障害物と衝突するかを予測する衝突予測手段と、
前記前方障害物監視手段からの情報に基づいて、前記前方障害物の後部に前記シート上方空間に進入しうる前記突起部があるかを判定する突起部判定手段とを備え、
前記進入予測手段は、衝突予測手段により前記車両が前記前方障害物と衝突すると予測され、前記突起部判定手段により前記前方障害物の後部に前記シート上方空間に進入しうる前記突起部があると判定されたら、前記前方障害物の前記突起部が前記シート上方空間に進入すると予測する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の衝突被害軽減装置。
【請求項3】
前記シートに付設されたシートベルトを締め付けるシートベルト締付手段と、
前記車両の制動を行う制動手段とを備え、
前記制御手段は、前記衝突予測手段により前記車両が前記前方障害物と衝突すると予測されたら、前記シートベルト締付手段と前記制動手段を作動させる
ことを特徴とする、請求項2記載の車両の衝突被害軽減装置。
【請求項4】
前記衝突予測手段は、前記車両と前記前方障害物とが衝突するまでの衝突予測時間を推定し、推定した前記衝突予測時間を閾値と比較して前記衝突予測時間が前記閾値以下の場合に前記車両が前記前方障害物と衝突すると予測するように構成され、
前記閾値として、第一閾値と、前記第一閾値よりも小さな第二閾値と、前記第二閾値よりも小さな第三閾値とが設定され、
前記制御手段は、
前記衝突予測手段が前記第一閾値との比較により前記衝突を予測した場合には、前記シートベルト締付手段を作動させ、
前記衝突予測手段が前記第二閾値との比較により前記衝突を予測した場合には、前記制動手段を作動させ、
前記進入予測手段により前記突起部が前記シート上方空間に進入すると予測され、前記衝突予測時間が前記第三閾値との比較により前記衝突を予測した場合において、前記シートバック駆動手段を作動させる
ことを特徴とする、請求項3記載の車両の衝突被害軽減装置。
【請求項5】
前記車両の前方ウインドウに、前記前方ウインドウへの前記前方突起部の衝突を検知する前方ウインドウ衝突検知手段を備え、
前記制御手段は、前記衝突予測手段が前記第二閾値との比較により前記衝突を予測し、且つ、前記前方ウインドウ衝突検知手段により前記前方ウインドウに前記前方突起部の衝突を検知した場合に、前記シートバック駆動手段を作動させる
ことを特徴とする、請求項4記載の車両の衝突被害軽減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−101722(P2012−101722A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253241(P2010−253241)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】