説明

車両の走行装置の状態を評価するための方法と装置、車両に対するカーブ警告方法ならびにコンピュータプログラム製品

【課題】より効率的に車両の走行装置の状態を評価する。
【解決手段】ブレーキ制御システムの少なくとも1つの制御信号と、走行データを検出するための手段の出力信号とを結合し、結合信号を取得し、結合信号に基づき走行装置の状態を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行装置の状態を評価するための方法と装置、車両に対するカーブ警告方法ならびにコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車輪はドライバによって認識されることなく経年劣化するものである。すなわち、車輪は使用年数が長くなると脆くなり、またさらに硬くなり、さらには走行した距離が長くなるとタイヤの溝は浅くなり、その結果、タイヤのグリップ特性は徐々に劣化していく。溝の深さは簡単に検査することができるが、全体の状態を評価することは非常に困難である。走行装置全体の他の特性、例えばダンパおよびトーインも緩慢に変化する。それらの特性は路面グリップにあらゆる影響を及ぼす。
【0003】
DE 10 2006 028 277 A1には、地図データを有するメモリと接続されており、かつ、位置算出手段によって現在地を求める制御手段を用いてカーブを事前警告するための装置および方法に関する発明が開示されている。この発明では、前方に位置する所定の区間に関して、その区間の曲率を地図データに基づき算出することができ、またその曲率と、有利には入力手段を用いて操作者によって入力可能な入力値とに基づき、推奨すべきカーブ目標速度を算出して表示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DE 10 2006 028 277 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の背景のもとに、本発明の課題は、より効率的に車両の走行装置の状態を評価することができる方法、ならびにこの方法を使用する装置、さらには相応のコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のステップを有する、走行データを検出するための手段とブレーキ制御システムとを有する車両の走行装置の状態を評価するための方法が提供される:
ブレーキ制御システムの少なくとも1つの制御信号と、走行データを検出するための手段の出力信号とを結合し、結合信号を取得するステップ;
結合信号に基づき走行装置の状態を評価するステップ。
【0007】
車両とは、自動車、例えば乗用車やトラックなどの道路車両と解することができる。車両の走行装置は、走行路との接触に使用される車両の可動部を含む。この可動部には、例えば、車輪、サスペンション、スプリング、ダンパ、ステアリングならびに常用ブレーキが属する。走行装置の状態は走行装置の所定の機能に関連する。走行装置の一部または複数の部分の不適当な状態は走行装置の機能に悪影響を及ぼす可能性がある。ブレーキ制御システムとして電子システム、例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)、および/または、トラクションコントロールシステム(ASR)、および/または、スタビリティプログラム(ESP)が考えられる。ブレーキ制御システムは、加速過程ないし制動過程において、またカーブ走行において、制御信号を用いて他の車両システムに介入することにより、車両の確実な接地性を保証する。走行データを検出するための手段は、車両の位置を検出する手段、例えばナビゲーションシステムでよい。ナビゲーションシステムは、位置決定部および記憶されている地理情報を用いて、選択された場所までのルート案内を実現するか、または所望の判定基準を考慮したルートを算出することができる。ナビゲーションシステムはさらに走行データ、例えば速度情報および/または加速度情報を位置情報から求めることができる。位置情報および/または速度情報および/または加速度情報は、走行データを検出するための手段の出力信号を表すことができる。結合を行うステップでは、例えば四則演算を用いた、信号の算術的ないし論理的な結合が行われる。この結合ないし組み合わせから結合信号が得られる。評価を行うステップでは、適切なアルゴリズムないし適切な装置を用いて、また所定の規則にしたがい、結合信号から走行装置の状態が推測される。
【0008】
さらに本発明によれば、車両の走行装置の状態を評価するための装置が提供され、この装置は、ブレーキ制御システムのデータおよび走行データを検出するための手段を有し、また装置は以下の特徴を有する:
結合信号を取得するために、ブレーキ制御システムの少なくとも1つの制御信号と、走行データを検出するための手段の出力信号とを結合するユニット;
結合信号に基づき走行装置の状態を評価するユニット。
【0009】
しかしながら、本発明による装置は、ブレーキ制御システムおよび/または走行データを検出するための手段自体を有している必要は無く、むしろ既に車両内に組み込まれているユニットのデータを本発明に転用することができる。
【0010】
したがって本発明によれば、本発明による方法のステップを実施ないしは開始するように構成されている、装置または走行装置状態識別器が提供される。殊に、装置または走行装置状態識別器は、上記の方法のうちの1つのそれぞれ1つのステップを実施するよう構成されているユニットを有する。装置または走行装置状態識別器の形態の本発明の変形形態によっても、本発明が基礎とする課題を迅速かつ効率的に解決することができる。
【0011】
本願発明において、装置または走行装置状態識別器とは、センサ信号を処理し、それらのセンサ信号に依存して制御信号または走行装置状態識別信号を出力する電気的なデバイスと解される。装置または走行装置状態識別器はインタフェースを有することができ、このインタフェースはハードウェアおよび/またはソフトウェアにより構成することができる。ハードウェアにより構成されている場合、インタフェースは例えば、装置または制御機器の種々の機能を含むいわゆるシステムASICの一部でよい。しかしながら、インタフェースを固有の集積回路とすることができるか、または、少なくとも部分的に離散的な構成素子から構成してもよい。ソフトウェアにより構成されている場合、インタフェースは例えば、他のソフトウェアモジュールと並列してマイクロコントローラに設けられているソフトウェアモジュールでよい。
【0012】
また、半導体メモリ、ハードディスクメモリまたは光学メモリのような機械読取可能な担体上に記憶されており、プログラムが装置または走行装置状態識別器において実行される場合に、本発明による方法を実施するために使用される、プログラムコードを有するコンピュータプログラム製品も有利である。
【0013】
本発明は、タイヤ状態および走行状態の評価により、タイヤ状態または走行装置特性がドライバに気付かれることなく徐々に劣化した際に、その劣化をドライバに警告できるという知識を基礎としている。電子的なブレーキ制御システムの介入操作を介するこのブレーキ制御システムの信号の評価では、タイヤ状態を評価するために、想定される道路状態、したがって走行速度での想定される路面グリップおよび道路経過も一緒に考慮される。
【0014】
一方では、評価をカーブ走行時に実施することができる。この場合には、ナビゲーションシステムまたは走行データを検出する手段は、使用可能なあらゆる情報、例えばカーブ半径、湿度または水気を考慮して推奨最大速度を算出する。この推奨最大速度が維持されれば、欠陥無く機能する走行装置、殊に新品のタイヤにおいては、電子的なブレーキ制御システムの介入操作は行われない。それにもかかわらず電子的なブレーキ制御システムが応答する場合、それは不適当なタイヤ状態を示唆している可能性がある。この関係は、本発明の1つの実施形態によれば、走行装置の状態に関する情報を提供できるようにするために評価される。
【0015】
他方では、評価を車両の加速時または減速時に実施することができる。到達した加速値または減速値も判定に使用することができる。つまり例えば、乾燥した道路の想定のもとで、加速/減速が少なくても電子ブレーキ制御システムが頻繁に応答するということは、やはりタイヤの摩耗を示唆している可能性がある。
【0016】
本発明の利点は、電子的なブレーキ制御システムおよびナビゲーションシステムのネットワーク化によって、個々のシステムでは実現できないやり方で情報を評価できることにある。タイヤ状態の劣化が進んだ際にドライバに対して警告が行われ、例えばドライバは専門家にタイヤを検査してもらうことができる。さらに好適には、個々の結果が先ず統計モジュールにおいて収集され、イベントが蓄積された際に初めて警告が出力される。本発明の1つの実施形態にしたがい、走行装置の問題の早期の解決、例えば新品のタイヤへの交換がより確実かつ安全に実現され、走行の安全性が高まる。
【0017】
1つの実施形態によれば、結合ステップにおいて、検出手段の出力信号として、ナビゲーションシステムからの少なくとも1つの位置情報および/または速度情報および/または加速度情報を表すデータが使用され、さらにブレーキ制御システムの制御信号として、アンチブロックブレーキシステム(ABS)、および/または、トラクションコントロールシステム(ASR)、および/または、スタビリティプログラム(ESP)に由来するデータを使用することができる。これにより、ブレーキ制御システムおよびナビゲーションシステムを備えた車両においていずれにせよ存在しており、また問題なく入手ないし利用することができるデータが使用されるという利点が得られる。
【0018】
1つの実施形態によれば、結合ステップおよび/または評価ステップにおいては、車両固有の情報、および/または、走行装置固有の情報、および/または、他の車両から伝送される少なくとも1つの周辺情報をさらに使用することができる。車両固有の情報および/または走行装置固有の情報とは、車両固有の特性および/または走行装置固有の特性、例えばタイヤ固有の特性であると解することができる。具体的には、この特性はメーカ情報でよい。周辺情報は、例えば天候に影響される道路状態に関する情報を含んでいてもよい。このことは、車両固有の特性およびタイヤ固有の特性(メーカ情報)を考慮して、評価結果を改善できるという利点を提供する。車両間の通信、いわゆるCar-to-Car通信によって、車両同士が道路状態に関する経験値を交換することができる。比較的近い周囲内の多数の車両または全ての車両が平坦な道路を通知するが、自身の車両では、電子的なブレーキ制御システムが走行速度またはブレーキ遅延に関して過度に頻繁に応答する場合、このことは劣化したタイヤ状態を示唆している可能性がある。したがって、走行装置の状態をさらに安全に判定することができる。
【0019】
1つの実施形態によれば、結合ステップおよび評価ステップを、車両の少なくとも2つの車輪に関して別個に実施することができる。車両の少なくとも2つの車輪は種々のブレーキ制御信号を受け取ることができるので、種々の制御信号を走行装置状態の別個の判定のためにも使用することもできる。つまり、例えば、少なくとも1つの左側の車輪および少なくとも1つの右側の車輪、少なくとも1つの前輪および少なくとも1つの後輪を別個に考察することができるが、しかしながらまた、全体的な走行装置状態を決定するために全ての車輪を相互に考察することができる。したがってこのことは、走行装置の一部もその状態に関して評価することができるという利点を提供する。それらの走行装置の一部は別個の構成を設けなければ評価は行われない。不適当な路面グリップは例えば、走行装置の欠陥のあるダンパまたは位置のずれたトーインを示唆する可能性がある。
【0020】
1つの実施形態によれば、本発明による方法は、統計モジュールにおいて走行装置の評価された状態を収集する別のステップと、収集され評価された状態を統計的に分析する別のステップとを有する。統計モジュールは記憶素子と解することができ、この記憶素子に評価された状態をデータとして記憶することができる。この際に、走行装置の最適でない状態ないし劣化した状態を示唆する、走行装置の否定的に評価された状態のみが収集されることは好適である。適切なプログラムは統計的な分析のために、統計モジュールに記憶されているデータにアクセスすることができる。統計的な分析では、例えば、閾値を上回ったか、または閾値を下回ったかを検査することができ、この閾値は、所定の期間内に否定的に評価された状態の発生頻度に関連付けられている。このことは、走行装置の実際の状態に関するより確実な情報、および、個々の評価された状態に基づき実現されるよりも長い期間に関する情報を構成するデータ収集が達成される利点を提供する。
【0021】
1つの実施形態によれば、本発明による方法は、走行装置の評価された状態、またはその状態から導出された情報が警告判定基準を満たすと警告信号を出力する別のステップを有することができる。警告信号の出力を、例えば、車両乗員に対して光学的および/または音響的に行うことができる。走行装置の評価された状態から導出される情報は、走行装置全体または走行装置の個々の部分が良好な状態にあるか、不適当な状態にあるかを表すことができる。所定の期間内の否定的に評価された状態の発生頻度に関連付けられている閾値を上回った際に、警告判定基準は満たされる。このことは、走行装置の状態を車両乗員に通知することができ、またドライバはこの通知に基づき自身の走行様式を適切に適合させることができるという利点を提供する。
【0022】
1つの実施形態によれば、本発明による方法は、走行装置の評価された状態、またはその状態から導出された情報を、車両点検のためのメモリに記憶する別のステップを有することができる。車両点検のためのメモリとは、車両点検の際にメーカ固有の機材によって読み出すことができるエラーメモリと解することができる。このことは、相応のネットワーク化されている車両のエラーメモリへの記憶によって、走行装置状態を工場での点検時に評価することができる。車輪/ダンパ毎に分析を実施し、エラーメモリに登録することもできる。したがって、不適切な状態を示唆する、走行装置の状態に関する通知が、エラーメモリに記憶されている場合、走行装置または走行装置の一部を検査、調整、修理または交換することができる。安全性に関連する、欠陥のある走行装置の状態が見逃される危険は著しく低減されている。
【0023】
1つの実施形態によれば、本発明による方法においては、車両に対するカーブ事前警告のために、車両の走行装置の評価された状態を本発明による方法にしたがい使用して、最大カーブ速度または推奨カーブ速度を決定することができる。現在のナビゲーションシステムはドライバにカーブ事前警告機能、いわゆるカーブ警告器を提供する。車両に対するカーブ事前警告のための方法においては、車両の前方に存在するディジタル化された道路の経過を基礎として、殊に既存のカーブのカーブ半径を基礎として、また想定される路面グリップ、殊に摩擦値を基礎として、既存のカーブに関する最大走行可能速度が算出され、この速度を上回った際に警告が行われる。さらに、想定される路面グリップが、レインセンサ、外部温度計のような別のセンサの利用によって、また電子的なブレーキ制御システム(ABS,ASR,ESP)の信号の評価によってより良好に、もしくはより正確に決定される。求められたタイヤ状態を路面グリップの検出にも使用することができ、したがってカーブ警告に使用することができる。このことは、より安全な最大カーブ速度を求めることができるようにするために、走行装置の評価された状態と共に、重要で付加的なパラメータが使用されるという利点を提供する。
【0024】
以下では、添付の図面に基づいて本発明を例示的により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による実施例による装置のブロック回路図を示す。
【図2】本発明の実施例による方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面、図面の説明ならびに請求項には多数の特徴の組み合わせが含まれている。それらの特徴を個別に考察できること、また、それらの特徴をここでは明示的に示さない別の組み合わせに統合できることも当業者には明らかである。さらには、本発明による方法のステップを繰り返し実施することができ、また上記の順序とは異なる順序で実施することもできる。第1の特徴/ステップと第2の特徴/ステップとの間に「および/または」の接続詞を含む実施例の場合、この実施例は、第1の実施形態によれば第1の特徴/第1のステップも、第2の特徴/第2のステップも有するものであり、また別の実施形態によれば、第1の特徴/第1のステップのみを有するか、第2の特徴/第2のステップのみを有するものと解される。
【0027】
図1は、本発明の1つの実施例による装置のブロック回路図を示す。車両100、4つの車輪110、ナビゲーションシステム120、ブレーキ制御システム130、車両の走行装置の状態を評価するための装置140、結合ユニット150、評価ユニット155、統計モジュール160、収集ユニット170、分析ユニット175、警告出力装置180およびエラーメモリ190が示されている。
【0028】
4つの車輪110を有する車両100には、ナビゲーションシステム120およびブレーキ制御システム130が配置されており、これらのシステムには、車両の走行装置(図1においては見やすくするために、走行装置のうち4つの車輪110しか示していない)の状態を評価するための装置140が接続されている。装置140は結合ユニット150および評価ユニット155を有する。さらに、収集ユニット170および分析ユニット175を備えた統計モジュール160が車両100内に配置されており、またこの統計モジュール160は装置140と接続されている。車両100の警告出力装置180およびエラーメモリ190は装置140および統計モジュール160と接続されている。
【0029】
ブレーキ制御システム130は一方では、車両100の4つの車輪と接続されている。ここでは、4つの各車輪110、殊に各車輪110の制動装置がブレーキ制御システム130と接続されている。ブレーキ制御システム130は、例えば、アンチロックブレーキシステム(ABS)、および/または、トラクションコントロールシステム(ASR)、および/または、スタビリティプログラム(ESP)を含む。ブレーキ制御システム130は、当業者には公知の方式で、4つの車輪110に作用する。ブレーキ制御システム130は他方では装置140と接続されている。
【0030】
ナビゲーションシステム120は一方ではアンテナ(図1においてはナビゲーションシステム120の左隣に示されている)と接続されている。ナビゲーションシステム120は、当業者には公知であるように、例えば衛星および無線により支援されるよう設計されている。市販のナビゲーションシステム120はGPS(Global Positioning System)を基礎としている。したがってナビゲーションシステム120のアンテナは例えばGPS送受信器ないし無線送受信器である。他方では、ナビゲーションシステム120は装置140と接続されている。
【0031】
車両の走行装置の状態を評価するための装置140はナビゲーションシステム120およびブレーキ制御システム130と接続されており、また統計モジュール160、警告出力装置180およびエラーメモリ190とも接続されている。結合ユニット150および評価ユニット155は装置140の一部である。車両の走行装置の状態を評価するための本発明による方法を実施できるように、装置140のユニット150,155は相互に接続されており、また装置140と、この装置140に接続されているシステム、モジュールおよびユニットとが相互に接続されている。
【0032】
統計モジュール160は収集ユニット170および分析ユニット175を有する。収集ユニット170は例えばメモリの形態で設けられている。分析ユニット175は収集ユニット170と接続されており、また収集ユニット170に記憶されている内容にアクセスし、その内容を統計的に分析する。統計モジュール160は装置140、警告出力装置180およびエラーメモリ190と接続されている。
【0033】
警告出力装置180は装置140および統計モジュール160と接続されている。警告出力装置180は、例えば、車両100の表示部、および/または、スピーカ、および/または、計器盤の一部である。表示部は、例えば、文字数次式のメッセージを出力するために構成されている、計器盤またはナビゲーション装置または中央コンソールの警告灯または表示フィールドを含む。
【0034】
車両100のエラーメモリ190は装置140および統計モジュール160と接続されている。エラーメモリ190には、車両100の種々のシステムおよび構成素子群のエラー通知を格納することができる。車両100の修理または周期的な点検の際に、エラーの発見ないしエラーの診断、またそれに続くエラーの解決を容易にするために、エラーメモリ190を読み出すことができる。
【0035】
以下では、車両100における走行装置の状態を評価するための装置140の機能を、本発明の図1に示した実施例にしたがい説明する。
【0036】
ナビゲーションシステム120は、アンテナからの入力信号および(図示していない)別の車両センサからのデータの形態の別の入力信号から、ディジタルマップ上の車両100の位置情報を算出する。これらの他の車両センサは、例えば、ナビゲーション装置内のジャイロメータまたは加速度センサのようなセンサ素子でよい。時間的に連続して検出される位置情報から、速度に関する情報ならびに車両100の加速度に関する情報を導出することができる。さらにナビゲーション装置は、本発明の図1に示されている実施例において、既存のカーブに関して推奨最大カーブ速度も算出する。ナビゲーションシステム120は、出力信号、例えば上述の位置情報、および/または、速度情報、および/または、加速度情報、および/または、カーブ速度情報を装置140に出力する。
【0037】
ブレーキ制御システム130は、車両100の各車輪110の制動装置と通信するように、それらの制動装置と接続されている。ブレーキ制御システム130と車輪110のブレーキ装置の相互作用の方式は、当業者には十分に公知であり、したがってここでは詳細に説明しない。ブレーキ制御システム130が走行時のイベントに介入すると、ブレーキ制御システム130は出力信号を装置140に出力する。
【0038】
したがって装置140は、ナビゲーションシステム120からの入力信号と、ブレーキ制御システム130からの入力信号とを受信する。さらに、装置140は別のデータも計算の基礎として使用することができる。そのような別のデータは、例えば、メーカ情報の形の車両固有の特性および/または走行装置固有の特性、ならびに、他の車両から伝送される道路状態に関する経験データである。例えば、このために、走行データを検出するための手段としての複数の車両センサからの信号を使用することができ、これらの手段は適切なセンサ素子、例えば水気または湿度を検出するためのレインセンサを有する。また、車両センサとして、外部温度に関するデータを検出する外部温度計を設けることができる。車両センサのこれらの信号も同様に走行データを供給することができ、それらの走行データを装置においてブレーキ制御システムの信号と結合させることができる。装置140の入力信号は先ず結合ユニット150において処理される。入力信号の結合は、論理結合の意味において、または四則演算を使用して行われる。結合ユニット150は、複数の入力信号から結合信号を形成する。この結合信号は結合ユニット150に出力され、続いて評価ユニット155に出力される。評価ユニット155は、結合信号の状態から、車両100の走行装置の状態を推論する。
【0039】
結合信号の状態を、車両100の目下の走行速度が推奨最大カーブ速度よりも速いか否かに関連付けることができる。目下の走行速度が推奨最大カーブ速度よりも速くない場合には、走行装置の状態は良好であると想定されるので、電子的なブレーキ制御システム130の応答ないし介入操作は行われるべきではない。それにもかかわらずブレーキ制御システム130が応答する場合には、走行装置の不適当な状態を推量することができる。また結合信号の状態を、目下到達している正の加速度または負の加速度において、ブレーキ制御システム130が応答するか否かに関連付けることもできる。乾燥している走行路状態および低い加速度値が想定されるにもかかわらず、ブレーキ制御システム130が応答する場合、例えばそれどころか頻繁に応答する場合、これは走行装置の不適当な状態を示唆する。
評価ユニット155が結合信号を評価ないし処理した後には、さらなる処理の経過に関して種々の可能性が存在する。走行装置の不適当な状態が求められた場合には、評価された結合信号を装置140から警告出力装置180に直接的に出力することができ、この警告出力装置180によって、走行装置の状態が不適当であることが車両乗員に対して警告される。また、走行装置の不適当な状態が求められた場合、評価された結合信号を装置140からエラーメモリ190に供給することもでき、このエラーメモリ190から車両100の点検時に走行装置の不適当な状態を読み出すことができる。
【0040】
しかしながら、走行装置の不適当な状態を表す、評価された結合信号の形態で、個々の結果を差し当たり統計モジュール160において収集し、それらのイベントが蓄積されたときに初めて、警告出力装置180を介して警告を出力することができる、および/または、エラーメモリ190へのエントリを指示することができる。このために、評価された結合信号が装置140から統計モジュール160へと出力される。統計モジュール160においては、評価された結合信号が収集ユニット170内に記憶される。分析ユニット175は、記憶されている、評価された結合信号を統計的に分析する。統計的な分析によって、事前に規定された閾値を上回るイベントの蓄積が明らかになると、統計モジュール160は、記憶されている、評価された結合信号を基礎とする、統計的に分析された信号を警告出力装置180および/またはエラーメモリ190に出力する。
【0041】
車両100の走行装置の評価された状態を、装置140から、または統計モジュール160からナビゲーションシステム120に供給することも考えられる。この場合、走行装置の評価された状態を、推奨最大カーブ速度を正確に求めるために使用することができる。
【0042】
図2は、本発明の1つの実施例による、車両の走行装置の状態を評価するための方法200のフローチャートを示す。ステップ210においては、先ずブレーキ制御システムの少なくとも1つの制御信号が、ナビゲーションシステムの少なくとも1つの出力信号と結合され、結合信号が取得される。結合ステップ210においては、ナビゲーションシステムの出力信号として、例えば、少なくとも1つの位置情報、および/または、速度情報、および/または、加速度情報を表すデータが使用される。さらに、結合ステップ210においては、ブレーキ制御システムの制御信号として、アンチロックブレーキシステム(ABS)、および/または、トラクションコントロールシステム(ASR)、および/または、スタビリティプログラム(ESP)に由来するデータを使用することができる。
【0043】
ステップ220においては、走行装置の状態が結合信号に基づき評価される。付加的に、結合ステップ210において、および/または、評価ステップ220において、例えば、車両固有の情報、および/または、走行装置固有の情報、および/または、他の車両から伝送される少なくとも1つの周辺情報を使用することができる。ステップ230においては、走行装置の評価された状態が統計モジュールにおいて収集される。ステップ240においては、評価されて収集された状態が統計的に分析される。ステップ250においては、走行装置の評価された状態、またはその状態から導出された情報が警告判定基準を満たすと、警告信号が出力される。ステップ260においては、走行装置の評価された状態、またはその状態から導出された情報が、車両点検のためのメモリに記憶される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行データを検出するための手段(120)とブレーキ制御システム(130)とを有する車両(100)の走行装置(110)の状態を評価するための方法(200)において、
前記ブレーキ制御システム(130)の少なくとも1つの制御信号と、走行データを検出するための前記手段(120)の出力信号とを結合し、結合信号を取得するステップ(210)と、
前記結合信号に基づき前記走行装置(110)の状態を評価するステップ(220)とを有することを特徴とする、車両(100)の走行装置(110)の状態を評価するための方法(200)。
【請求項2】
前記結合ステップ(210)において、前記手段(120)の出力信号として、ナビゲーションシステムからの少なくとも1つの位置情報および/または速度情報および/または加速度情報を表すデータを使用し、
さらに、前記ブレーキ制御システム(130)の制御信号として、アンチブロックブレーキシステム(ABS)、および/または、トラクションコントロールシステム(ASR)、および/または、スタビリティプログラム(ESP)に由来するデータを使用する、請求項1記載の方法(200)。
【請求項3】
前記結合ステップ(210)および/または前記評価ステップ(220)においては、車両固有の情報、および/または、走行装置固有の情報、および/または、他の車両から伝送される少なくとも1つの周辺情報を使用する、請求項1または2記載の方法(200)。
【請求項4】
前記結合ステップ(210)および前記評価ステップ(220)を、前記車両(100)の少なくとも2つの車輪(110)に関して別個に実施する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法(200)。
【請求項5】
統計モジュール(160)において前記走行装置(110)の評価された状態を収集する別のステップ(230)と、
収集され評価された状態を統計的に分析する別のステップ(240)とを有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法(200)。
【請求項6】
前記走行装置(110)の評価された状態、または該状態から導出された情報が警告判定基準を満たすと警告信号を出力する別のステップ(250)を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法(200)。
【請求項7】
前記走行装置(110)の評価された状態、または該状態から導出された情報を、車両点検のためのメモリ(190)に記憶する別のステップ(260)を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法(200)。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法(200)にしたがい評価された車両の走行装置の状態を使用し、最大カーブ速度または推奨カーブ速度を決定することを特徴とする、車両に対するカーブ警告方法。
【請求項9】
車両(100)の走行データを検出するための手段(120)からのデータとブレーキ制御システム(130)からのデータとを受信し、車両(100)の走行装置(110)の状態を評価する装置(140)において、
結合信号を取得するために、前記ブレーキ制御システム(130)の少なくとも1つの制御信号と、前記走行データを検出するための手段(120)の出力信号とを結合するユニット(150)と、
前記結合信号に基づき前記走行装置(110)の状態を評価するユニット(155)とを有することを特徴とする、車両(100)の走行装置(110)の状態を評価する装置(140)。
【請求項10】
機械読取可能な担体上に記憶されており、走行装置状態識別器または装置において実行される場合に、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法を実施するプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−35836(P2012−35836A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172084(P2011−172084)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】