説明

車両の車体前部構造

【課題】車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減が、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できるようにする。
【解決手段】フロントカウル7が、ダッシュパネル11と結合される底部パネル9aと、底部パネル9aから前上方に延出し、延出端部が自由端とされる前部パネル9bと、底部パネル9aから上方に延出する後部パネル9cとを有する。車体2の側面断面視で、前部パネル9bの幅方向の中途部を屈曲し、かつ、屈曲を前部パネル9bの長手方向に沿って施すことにより線状屈曲部28を形成する。車体2の平面視で、前方に向かって凸状とされ、左右基端部33a,33bが線状屈曲部28上に位置する左右一対の円弧状線33,33を、前部パネル9b上に車体2の幅方向で互いに離間させて配置し、各円弧状線33に対応する前部パネル9bの各部分を屈曲させて、左右一対の円弧状屈曲部35,35を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントカウルに上端縁部が結合されて、その後側が車室とされるダッシュパネルを備えた車両の車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の車体前部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の車体前部構造は、車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、このフロントカウルの下方域で車体の幅方向かつ上下方向に延びて上端縁部が上記フロントカウルに結合され、その後側が車室とされるダッシュパネルとを備えている。
【0003】
上記車両が走行するとき、通常、上記フロントカウルの長手方向の左右各端部に対し、走行面側から車輪、サスペンション、および上記サスペンションタワーを介しそれぞれ衝撃力が与えられる。この場合、これら左右衝撃力により、上記フロントカウルにはその長手方向に向かう圧縮荷重が与えられる。そして、車両の走行時、上記圧縮荷重が断続的に与えられることにより、上記フロントカウルは、車体の前、後方向に向かう円弧凸状の屈曲を前、後に交互に繰り返すよう振動しがちとなる。また、この際、上記フロントカウルの振動に連動して上記ダッシュパネルも、前、後方向に振動しがちとなる。
【0004】
ここで、上記フロントカウルの振動が、このフロントカウルの両端部を節として単一の腹を発生させる一次振動モードの場合には、その振幅は大きいものである。このため、上記フロントカウルに連動して振動する上記ダッシュパネルの振幅も大きくなる。すると、このダッシュパネルの振動により、音圧の大きい振動騒音であるこもり音が、上記ダッシュパネルの後側の車室に生じがちとなり、これは車室の乗員にとって好ましくない。
【0005】
そこで、上記従来の技術では、フロントカウルを長手方向に三等分した2ヵ所の各部位に補強部材を設けて、上記各部位が剛性の大きい中空閉断面構造となるよう補強している。これによれば、上記フロントカウルは、このフロントカウルの各両端部と上記2ヵ所の各部位とを節(4つの節)として3つの腹を発生させる三次振動モードの振動をすることとなる。
【0006】
そして、上記したフロントカウルの三次振動モードの振動によれば、前記したフロントカウルの一次振動モードの振動に比べて振幅が小さくなる。このようにして、このフロントカウルに連動して振動する上記ダッシュパネルの振幅が小さく抑制され、このダッシュパネルの振動により車室に生じるこもり音の音圧が低減されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−206004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記した従来の技術では、車室に生じるこもり音の音圧を低減させようとして、上記フロントカウルの各部位を補強する補強部材を設けている。しかし、このような補強部材を単に設けると、車体前部の部品点数が増加して構成が複雑になると共に、車両の軽量化という一般的要求に反し、車体前部の質量が増加するという不都合が生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減が、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できるようにすることである。
【0010】
請求項1の発明は、車体2の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー10側と結合されるフロントカウル7と、上下方向に延びて上端縁部が上記フロントカウル7に結合され、その後側が車室19とされるダッシュパネル11とを備え、上記フロントカウル7が、上記ダッシュパネル11の上端縁部と結合される底部パネル9aと、この底部パネル9aの前縁部から前上方に向かって延出し、その延出端部が車体2の側面断面視(図3,4)で自由端とされる前部パネル9bと、上記底部パネル9aの後縁部から上方に向かって延出し、その後側が車室19とされる後部パネル9cとを有した車両の車体前部構造において、
車体2の側面断面視(図4)で、上記前部パネル9bの幅方向の中途部を屈曲し、かつ、この屈曲を上記前部パネル9bの長手方向に沿って施すことにより線状屈曲部28を形成し、車体2の平面視(図1)で、前方に向かって凸状とされ、その左右基端部33a,33bが上記線状屈曲部28上に位置する左右一対の円弧状線33,33を、上記前部パネル9b上に車体2の幅方向で互いに離間させて配置し、上記各円弧状線33に対応する上記前部パネル9bの各部分を屈曲させて、左右一対の円弧状屈曲部35,35を形成したことを特徴とする車両の車体前部構造である。
【0011】
請求項2の発明は、車体2の平面視(図1)で、上記フロントカウル7を全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成し、上記線状屈曲部28を車体2の幅方向に直線状に延びるよう形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体前部構造である。
【0012】
請求項3の発明は、車体2の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー10側と結合され、車体2の平面視(図1)で、全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成されるフロントカウル7と、上下方向に延びて上端縁部が上記フロントカウル7に結合され、その後側が車室19とされるダッシュパネル11とを備え、上記フロントカウル7が、上記ダッシュパネル11の上端縁部と結合される底部パネル9aと、この底部パネル9aの前縁部から前上方に向かって延出し、その延出端部が車体2の側面断面視(図3,4)で自由端とされる前部パネル9bと、上記底部パネル9aの後縁部から上方に向かって延出し、その後側が車室19とされる後部パネル9cとを有した車両の車体前部構造において、
車体2の側面断面視(図4)で、上記前部パネル9bの幅方向の中途部を屈曲し、かつ、この屈曲を上記前部パネル9bの長手方向に沿って施すことにより線状屈曲部28を形成し、この線状屈曲部28を車体2の幅方向に直線状に延びるよう形成したことを特徴とする車両の車体前部構造である。
【0013】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明による効果は、次の如くである。
【0015】
請求項1の発明は、車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、上下方向に延びて上端縁部が上記フロントカウルに結合され、その後側が車室とされるダッシュパネルとを備え、上記フロントカウルが、上記ダッシュパネルの上端縁部と結合される底部パネルと、この底部パネルの前縁部から前上方に向かって延出し、その延出端部が車体の側面断面視で自由端とされる前部パネルと、上記底部パネルの後縁部から上方に向かって延出し、その後側が車室とされる後部パネルとを有した車両の車体前部構造において、
車体の側面断面視で、上記前部パネルの幅方向の中途部を屈曲し、かつ、この屈曲を上記前部パネルの長手方向に沿って施すことにより線状屈曲部を形成し、車体の平面視で、前方に向かって凸状とされ、その左右基端部が上記線状屈曲部上に位置する左右一対の円弧状線を、上記前部パネル上に車体の幅方向で互いに離間させて配置し、上記各円弧状線に対応する上記前部パネルの各部分を屈曲させて、左右一対の円弧状屈曲部を形成している。
【0016】
ここで、上記車両が走行するとき、通常、フロントカウルの長手方向の左右各端部に対し、上記サスペンションタワー側からそれぞれ衝撃力が与えられる。この場合、これら左右衝撃力により、上記フロントカウルにはその長手方向に向かう圧縮荷重が与えられる。そして、車両の走行時、上記圧縮荷重が断続的に与えられることにより、上記フロントカウルは、車体の前、後方向に向かう円弧凸状の屈曲を前、後に交互に繰り返すよう振動しがちとなる。そして、このフロントカウルの振動に上記ダッシュパネルが連動して振動すると、音圧の大きいこもり音が車室に生じがちとなって好ましくない。
【0017】
しかし、上記発明によれば、上記サスペンションタワー側からの衝撃力により振動するフロントカウルは、特に、このフロントカウルの前部パネルの自由端側が、剛性の比較的低い上記線状屈曲部を振動中心として、より容易に振動する。また、上記線状屈曲部と、上記円弧状線の各基端部に位置する上記円弧状屈曲部の各端部とが合流する上記前部パネルの各部分は、この前部パネルにおける単なる平坦面の部分に比べて剛性が、より低くなる部分である。このため、上記ロアカウルの前部パネルの自由端側は、上記線状屈曲部を中心として更に容易に振動する。
【0018】
よって、上記サスペンションタワー側からの衝撃力により、上記フロントカウルとこのフロントカウルに結合された上記ダッシュパネルとが振動しようとする際、上記したようにフロントカウルの前部パネルがより容易に振動する分、上記フロントカウル7の後部パネル9cと、ダッシュパネルとの振動が抑制される。この結果、上記後部パネル9cやダッシュパネルの振動により、これら後部パネル9cやダッシュパネルの後側の車室に生じようとするこもり音の音圧は、より確実に低減される。
【0019】
しかも、上記したように、上記線状屈曲部と、上記円弧状線の各基端部に位置する上記円弧状屈曲部の各端部とが合流する上記前部パネルの各部分は、この前部パネルにおける単なる平坦面の部分に比べて剛性が、より低くなる部分である。このため、上記ロアカウルの前部パネルの自由端側は、上記各円弧状屈曲部の各端部の近傍部分を4つの節として3つの腹を発生させる三次振動モードの振動をすることとなる。
【0020】
そして、上記したフロントカウルの前部パネルの三次振動モードの振動によれば、前記したフロントカウルの一次振動モードの振動に比べて振幅が小さくなる。このため、このフロントカウルに連動して上記ダッシュパネルが上記フロントカウルと同様に三次振動モードにより振動するとしても、その振幅は小さく抑制される。よって、このダッシュパネルの振動により車室に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0021】
また、上記した3つの腹を発生させる三次振動モードは、左右各側部の腹が前方(もしくは後方)に向かうとき、中央部の腹は後方(もしくは前方)に向かうこととなる。
【0022】
このため、上記したようにダッシュパネルが三次振動モードで振動するとき、このダッシュパネルの左右各側部が撓む方向と、中央部が撓む方向とは前後方向で互いに逆になることから、上記振動に基づく車室の容積変化は、左右バランスよく、小さく抑制される。よって、上記ダッシュパネルの振動により車室に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0023】
そして、上記したこもり音の音圧の低減は、上記フロントカウルの前部パネルに線状屈曲部や左右一対の円弧状屈曲部という屈曲部を形成したことにより達成されることから、前記従来の技術でいうような別途の補強部材を設けないで足りる。よって、車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減は、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できる。
【0024】
請求項2の発明は、車体の平面視で、上記フロントカウルを全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成し、上記線状屈曲部を車体の幅方向に直線状に延びるよう形成している。
【0025】
ここで、上記したように、車体の平面視で、上記フロントカウルを前方に向かって凸状の円弧形状とし、仮に、これに相応するように上記線状屈曲部を円弧形状にしたとすると、この線状屈曲部の剛性は大きくなりがちである。このため、車両の走行中に、上記前部パネルの自由端側が上記線状屈曲部を振動中心として振動しようとしても、この振動はし難くなる。
【0026】
そこで、上記したように、車体の平面視で、上記フロントカウルを全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成したことにかかわらず、上記線状屈曲部を車体の幅方向に直線状に延びるよう形成している。
【0027】
このため、上記前部パネルの自由端側への何らかの負荷に対する上記線状屈曲部の剛性は、この線状屈曲部が仮に前記したように円弧形状に屈曲している場合に比べて十分に低下することから、車両の走行時、上記前部パネルの自由端側は、上記線状屈曲部を振動中心として、更に容易に振動する。
【0028】
よって、上記サスペンションタワー側からの衝撃力により、上記フロントカウルとこのフロントカウルに結合された上記ダッシュパネルとが振動しようとする際、上記したようにフロントカウルの前部パネルが更に容易に振動する分、上記フロントカウルの後部パネルと、ダッシュパネルとの振動は、より効果的に抑制される。この結果、上記後部パネルやダッシュパネルの振動により、これら後部パネルやダッシュパネルの後側の車室に生じようとするこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0029】
請求項3の発明によれば、前記請求項2の発明の効果についての段落番号[0025]〜[0028]に記載のもの、と同様の効果が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】車体前部の部分平面図である。
【図2】車体前部の部分斜視図である。
【図3】図1のIII−III線矢視断面図である。
【図4】図1のIV−IV線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の車両の車体前部構造に関し、車両の走行中に車室に生じるこもり音についての音圧の低減が、簡単な構成で、かつ、車体前部の質量の増加を抑制しつつ達成できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0032】
即ち、車両の車体前部構造は、車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、上下方向に延びて上端縁部が上記フロントカウルに結合され、その後側が車室とされるダッシュパネルとを備える。上記フロントカウルが、上記ダッシュパネルの上端縁部と結合される底部パネルと、この底部パネルの前縁部から前上方に向かって延出し、その延出端部が車体の側面断面視で自由端とされる前部パネルと、上記底部パネルの後縁部から上方に向かって延出し、その後側が車室とされる後部パネルとを有している。
【0033】
車体の側面断面視で、上記前部パネルの幅方向の中途部を屈曲し、かつ、この屈曲を上記前部パネルの長手方向に沿って施すことにより線状屈曲部が形成されている。車体の平面視で、前方に向かって凸状とされ、その左右基端部が上記線状屈曲部上に位置する左右一対の円弧状線が、上記前部パネル上に車体の幅方向で互いに離間するよう配置される。上記各円弧状線に対応する上記前部パネルの各部分を屈曲させて、左右一対の円弧状屈曲部が形成されている。
【実施例】
【0034】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0035】
図において、符号1は、自動車で例示される車両であり、Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、上記前方に向かっての車両1の車体2の幅方向をいうものとする。
【0036】
上記車体2は板金製で、この車体2は、前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ3,3と、これら左右サイドメンバ3,3を互いに結合させるクロスメンバ4と、上記各サイドメンバ3の長手方向の中途部からそれぞれ上方に延出するフロントピラー5と、これら各フロントピラー5の上下方向の中途部から前方に突出するエプロンメンバ6と、車体2の幅方向に延び、その長手方向の各端部が上記各フロントピラー5の上下方向の中途部とエプロンメンバ6の基部とに跨るようにスポット溶接により結合されるフロントカウル7とを備えている。
【0037】
上記フロントカウル7は、車体2の平面視で、全体として前方に向かって凸状の円弧形状となるよう形成されている。このフロントカウル7は、このフロントカウル7の上部を構成し、車体2の幅方向に延びると共に前後方向に延びるアッパカウル8と、上記フロントカウル7の下部を構成し、上記アッパカウル8の下方で車体2の幅方向に延び、車体2の側面断面視(図3,4)で、その長手方向の各部断面がU字形状をなすロアカウル9とを備えている。
【0038】
上記ロアカウル9は、その底部を構成する底部パネル9aと、この底部パネル9aの前縁部から前上方に向かって一体的に延出し、その延出端部が車体2の側面断面視(図3,4)で自由端とされる前部パネル9bと、上記底部パネル9aの後縁部から後上方に向かって一体的に延出する後部パネル9cとを備えている。この後部パネル9cの上端縁部に形成された外向きフランジと上記アッパカウル8の後端縁部とがスポット溶接S1されている。上記アッパカウル8の前端縁部と上記前部パネル9bの延出端縁部との間には前方に向かって開く開口9dが形成されている。なお、上記後部パネル9cは、上記底部パネル9aの後縁部からほぼ鉛直方向の上方に向かって延出するものであってもよい。
【0039】
また、上記車体2は、その左右各側部において、それぞれ上記サイドメンバ3とエプロンメンバ6とに架設されて支持されると共に、上記ロアカウル9の各端部とスポット溶接S2により互いに結合されるサスペンションタワー10と、上記ロアカウル9の下方域で車体2の幅方向かつ上下方向に平坦状に延び、その上端縁部が上記ロアカウル9の底部パネル9aにスポット溶接S3により結合されるダッシュパネル11とを備えている。
【0040】
上記ダッシュパネル11は上記左右フロントピラー5,5間の全幅にわたり車体2の幅方向に延び、上記ダッシュパネル11の左右各側端縁部はそれぞれ上記フロントピラー5に結合されている。また、上記ダッシュパネル11の上端縁部の車体2の幅方向における各端部は、上記ロアカウル9の端部における底部パネル9aとサスペンションタワー10の上端面との間に挟まれて前記スポット溶接S2により互いに結合されている。また、上記ダッシュパネル11の下端縁部は、不図示のフロアパネルの前端縁部に結合されている。
【0041】
上記左右フロントピラー5,5の各上部側と上記ロアカウル9とで囲まれた空間がウィンド開口14とされる。このウィンド開口14は、その前方からウィンドガラス15で覆われ、このウィンドガラス15の外縁部は上記各フロントピラー5の上部側の前面とフロントカウル7のアッパカウル8の上面とに接着剤16により接着されて車体2に支持されている。
【0042】
上記車体2の後部側の内部であって、上記フロントカウル7、ダッシュパネル11、およびウィンドガラス15の後側が車室19とされている。この車室19の下面は前記フロアパネルにより全体的に形成され、上記車室19の下部前面は、面積の広い上記ダッシュパネル11により全体的に形成されている。一方、上記車体2の前部の内部であって、上記ダッシュパネル11の前側がエンジンルーム21とされている。このエンジンルーム21の上端開口を覆うフード22が設けられる。また、上記フロントカウル7の開口9dをその上方から覆うカウルルーバ23が設けられている。
【0043】
上記サイドメンバ3、クロスメンバ4、フロントピラー5、エプロンメンバ6、およびフロントカウル7は、それぞれ車体2の骨格部材をなして互いに強固に結合されている。また、上記各サスペンションタワー10には、緩衝器25を介して不図示の車輪がそれぞれ懸架され、これら車輪を介して車体2が走行面上に支持される。
【0044】
図1,2,4において、車体2の側面断面視(図4)で、上記前部パネル9bの幅方向の中途部が屈曲されている。また、この屈曲は、上記前部パネル9bの長手方向のほぼ全体にわたり、かつ、この長手方向に沿って施され、これにより線状屈曲部28が形成されている。この線状屈曲部28は、車体2の平面視(図1)で、車体2の幅方向に直線状に延びるよう、また、水平方向に直線状に延びるよう形成される。
【0045】
上記線状屈曲部28とほぼ同構成の他の線状屈曲部29が、上記線状屈曲部28よりも上記底部パネル9a側で、上記前部パネル9bの下部側に形成されている。上記両線状屈曲部28,29の長手方向各端部は互いに合流している。
【0046】
車体2の側面断面視(図4)で、上記線状屈曲部28は谷折れ屈曲部とされ、他の線状屈曲部29は山折れ屈曲部とされている。これら両線状屈曲部28,29の間にはほぼ水平に、帯板(ベルト)状に延びる幅狭の棚部30が形成されている。
【0047】
車体2の平面視(図1)で、前方に向かって凸状とされ、その左右基端部33a,33bが上記線状屈曲部28上に位置する左右一対の円弧状線33,33が上記前部パネル9b上に仮想設定される。上記左右円弧状線33,33は、車体2の幅方向で互いに離間するよう配置され、かつ、車体2の幅方向の中心線34を基準としてほぼ左右対称形とされている。
【0048】
上記各円弧状線33のそれぞれ左右基端部33a,33bのうち、フロントカウル7の長手方向の端部側に位置する各基端部33aは、上記フロントカウル7の端部近傍に位置している。また、上記左右円弧状線33,33の各基端部33a,33bの車体2の幅方向におけるピッチは互いにほぼ同寸法とされている。
【0049】
そして、上記各円弧状線33に対応する上記前部パネル9bの各部分が屈曲されて、左右一対の円弧状屈曲部35,35が形成されている。車体2の側面断面視(図4)で、上記各円弧状屈曲部35はそれぞれ谷折れ屈曲部とされている。
【0050】
ここで、上記車両1が走行するとき、通常、フロントカウル7の長手方向の左右各端部に対し、走行面側から車輪、サスペンション、およびサスペンションタワー10を介して衝撃力が与えられる。この場合、これら左右衝撃力により、上記フロントカウル7にはその長手方向に向かう圧縮荷重が与えられる。そして、車両1の走行時、上記圧縮荷重が断続的に与えられることにより、上記フロントカウル7は、車体2の前、後方向に向かう円弧凸状の屈曲を前、後に交互に繰り返すよう振動しがちとなる。そして、このフロントカウル7の振動に上記ダッシュパネル11が連動して振動すると、音圧の大きいこもり音が車室19に生じがちとなって好ましくない。
【0051】
しかし、上記構成によれば、上記サスペンションタワー10側からの衝撃力により振動するフロントカウル7は、特に、このフロントカウル7の前部パネル9bの自由端側が、剛性の比較的低い上記線状屈曲部28を振動中心として、より容易に振動する。また、上記線状屈曲部28と、上記円弧状線33の各基端部33a,33bに位置する上記円弧状屈曲部35の各端部35a,35bとが合流する上記前部パネル9bの各部分は、この前部パネル9bにおける単なる平坦面の部分に比べて剛性が、より低くなる部分である。このため、上記ロアカウル9の前部パネル9bの自由端側は、上記線状屈曲部28を中心として更に容易に振動する。
【0052】
よって、上記サスペンションタワー10側からの衝撃力により、上記フロントカウル7とこのフロントカウル7に結合された上記ダッシュパネル11とが振動しようとする際、上記したようにフロントカウル7の前部パネル9bがより容易に振動する分、上記フロントカウル7の後部パネル9cと、ダッシュパネル11との振動が抑制される。この結果、上記後部パネル9cやダッシュパネル11の振動により、これら後部パネル9cやダッシュパネル11の後側の車室19に生じようとするこもり音の音圧は、より確実に低減される。
【0053】
しかも、上記したように、上記線状屈曲部28と、上記円弧状線33の各基端部33a,33bに位置する上記円弧状屈曲部35の各端部35a,35bとが合流する上記前部パネル9bの各部分は、この前部パネル9bにおける単なる平坦面の部分に比べて剛性が、より低くなる部分である。このため、上記ロアカウル9の前部パネル9bの自由端側は、上記各円弧状屈曲部35の各端部35a,35bの近傍部分を4つの節として3つの腹37を発生させる三次振動モードの振動をすることとなる。
【0054】
そして、上記したフロントカウル7の前部パネル9bの三次振動モードの振動によれば、前記したフロントカウル7の一次振動モードの振動に比べて振幅が小さくなる。このため、このフロントカウル7に連動して上記ダッシュパネル11が上記フロントカウル7と同様に三次振動モードにより振動するとしても、その振幅は小さく抑制される。よって、このダッシュパネル11の振動により車室19に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0055】
また、上記した3つの腹37を発生させる三次振動モードは、図1中一点鎖線で示すように、左右各側部の腹37,37が前方(もしくは後方)に向かうとき、中央部の腹37は後方(もしくは前方)に向かうこととなる。
【0056】
このため、上記したようにダッシュパネル11が三次振動モードで振動するとき、このダッシュパネル11の左右各側部が撓む方向と、中央部が撓む方向とは前後方向で互いに逆になることから、上記振動に基づく車室19の容積変化は、左右バランスよく、小さく抑制される。よって、上記ダッシュパネル11の振動により車室19に生じるこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0057】
そして、上記したこもり音の音圧の低減は、上記フロントカウル7の前部パネル9bに線状屈曲部28や左右一対の円弧状屈曲部35,35という屈曲部を形成したことにより達成されることから、前記従来の技術でいうような別途の補強部材を設けないで足りる。よって、車両1の走行中に車室19に生じるこもり音についての音圧の低減は、簡単な構成で、かつ、車体2前部の質量の増加を抑制しつつ達成できる。
【0058】
また、前記したように、車体2の平面視(図1)で、上記フロントカウル7を全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成し、上記線状屈曲部28を車体2の幅方向に直線状に延びるよう形成している。
【0059】
ここで、上記したように、車体2の平面視(図1)で、上記フロントカウル7を前方に向かって凸状の円弧形状とし、仮に、これに相応するように上記線状屈曲部28を円弧形状にしたとすると、この線状屈曲部28の剛性は大きくなりがちである。このため、この車両1の走行中に、上記前部パネル9bの自由端側が上記線状屈曲部28を振動中心として振動しようとしても、この振動はし難くなる。
【0060】
そこで、上記したように、車体2の平面視(図1)で、上記フロントカウル7を全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成したことにかかわらず、上記線状屈曲部28を車体2の幅方向に直線状に延びるよう形成している。
【0061】
このため、上記前部パネル9bの自由端側への何らかの負荷に対する上記線状屈曲部28の剛性は、この線状屈曲部28が仮に前記したように円弧形状に屈曲している場合に比べて十分に低下することから、車両1の走行時、上記前部パネル9bの自由端側は、上記線状屈曲部28を振動中心として、更に容易に振動する。
【0062】
よって、上記サスペンションタワー10側からの衝撃力により、上記フロントカウル7とこのフロントカウル7に結合された上記ダッシュパネル11とが振動しようとする際、上記したようにフロントカウル7の前部パネル9bが更に容易に振動する分、上記フロントカウル7の後部パネル9cと、ダッシュパネル11との振動は、より効果的に抑制される。この結果、上記後部パネル9cやダッシュパネル11の振動により、これら後部パネル9cやダッシュパネル11の後側の車室19に生じようとするこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0063】
また、前記したように、ロアカウル9の前部パネル9bには、車体2の幅方向に直線状に延びる2本の線状屈曲部28,29を形成して、これら28,29の間に帯板状に延びる棚部30を形成している。
【0064】
このため、上記サスペンションタワー10側からの衝撃力により振動するフロントカウル7は、その前部パネル9bの自由端側が上記両線状屈曲部28,29をそれぞれ振動中心とし、更に容易に振動する。
【0065】
よって、上記サスペンションタワー10側からの衝撃力により、上記フロントカウル7とこのフロントカウル7に結合された上記ダッシュパネル11とが振動しようとする際、上記したようにフロントカウル7の前部パネル9bがより容易に振動する分、上記フロントカウル7の後部パネル9cと、ダッシュパネル11との振動が抑制される。この結果、上記後部パネル9cやダッシュパネル11の振動により、これら後部パネル9cやダッシュパネル11の後側の車室19に生じようとするこもり音の音圧は、更に確実に低減される。
【0066】
なお、以上は図示の例によるが、上記線状屈曲部28,29、および円弧状屈曲部35の各屈曲は谷折れ、山折れのいずれであってもよい。また、上記線状屈曲部28,29は、上記フロントカウル7と同様に、前方に向かって凸状の半径の大きい円弧形状としてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 車両
2 車体
3 サイドメンバ
5 フロントピラー
6 エプロンメンバ
7 フロントカウル
8 アッパカウル
9 ロアカウル
9a 底部パネル
9b 前部パネル
9c 後部パネル
10 サスペンションタワー
11 ダッシュパネル
19 車室
28 線状屈曲部
29 線状屈曲部
30 棚部
33 円弧状線
33a 基端部
33b 基端部
34 中心線
35 円弧状屈曲部
35a 端部
35b 端部
37 腹

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合されるフロントカウルと、上下方向に延びて上端縁部が上記フロントカウルに結合され、その後側が車室とされるダッシュパネルとを備え、上記フロントカウルが、上記ダッシュパネルの上端縁部と結合される底部パネルと、この底部パネルの前縁部から前上方に向かって延出し、その延出端部が車体の側面断面視で自由端とされる前部パネルと、上記底部パネルの後縁部から上方に向かって延出し、その後側が車室とされる後部パネルとを有した車両の車体前部構造において、
車体の側面断面視で、上記前部パネルの幅方向の中途部を屈曲し、かつ、この屈曲を上記前部パネルの長手方向に沿って施すことにより線状屈曲部を形成し、車体の平面視で、前方に向かって凸状とされ、その左右基端部が上記線状屈曲部上に位置する左右一対の円弧状線を、上記前部パネル上に車体の幅方向で互いに離間させて配置し、上記各円弧状線に対応する上記前部パネルの各部分を屈曲させて、左右一対の円弧状屈曲部を形成したことを特徴とする車両の車体前部構造。
【請求項2】
車体の平面視で、上記フロントカウルを全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成し、上記線状屈曲部を車体の幅方向に直線状に延びるよう形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体前部構造。
【請求項3】
車体の幅方向に延び、その各端部がサスペンションタワー側と結合され、車体の平面視で、全体として前方に向かって凸状の円弧形状に形成されるフロントカウルと、上下方向に延びて上端縁部が上記フロントカウルに結合され、その後側が車室とされるダッシュパネルとを備え、上記フロントカウルが、上記ダッシュパネルの上端縁部と結合される底部パネルと、この底部パネルの前縁部から前上方に向かって延出し、その延出端部が車体の側面断面視で自由端とされる前部パネルと、上記底部パネルの後縁部から上方に向かって延出し、その後側が車室とされる後部パネルとを有した車両の車体前部構造において、
車体の側面断面視で、上記前部パネルの幅方向の中途部を屈曲し、かつ、この屈曲を上記前部パネルの長手方向に沿って施すことにより線状屈曲部を形成し、この線状屈曲部を車体の幅方向に直線状に延びるよう形成したことを特徴とする車両の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76534(P2012−76534A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221769(P2010−221769)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】