説明

車両の運動支援装置及び車両の運動支援方法

【課題】第1制動部材と第2制動部材との間に存在する液体を除去するための液体除去制御を、前走車から巻き上げられるミスト状の液体を考慮した適切なタイミングで実行させることができる液体量推定装置及び車両の運動支援装置を提供する。
【解決手段】ECUは、降水中である場合に、自車の車体速度VS、ワイパの作動周期FS及び前走車との車間距離Lpを取得する(ステップS13〜S15)。ECUは、車間距離Lp、車体速度VS及び作動周期FSに対応する単位成長量ΔWl、第1ゲインA及び第2ゲインBを設定し、単位成長量ΔWlに各ゲインA,Bを共に乗算し、該乗算結果を実成長量ΔWとする(ステップS16)。ECUは、ブレーキロータの摺接面の水分膜厚Wを更新し(ステップS17)、該更新した水分膜厚Wが膜厚閾値KW以上である場合に、ブレーキロータにブレーキパッドを摺接させる水分除去制御を実行させる(ステップS18)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪と共に回動するブレーキロータなどの第1制動部材と該第1制動部材に接触可能なブレーキパッドなどの第2制動部材との間に存在する水分などの液体を除去するための制御を行なう車両の運動支援装置及び車両の運動支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両には、車輪と共に回動する第1制動部材としてのブレーキロータと、該回動するブレーキロータに摺接可能な第2制動部材としてのブレーキパッドとを有するディスクブレーキ装置が車輪毎に搭載されている。こうしたディスクブレーキ装置では、ブレーキロータにブレーキパッドを摺接させる際に、該ブレーキパッドがブレーキロータに付与する押圧力が大きいほど、車輪に対して大きな制動力が付与される。
【0003】
ところが、車両を雨天で走行させる場合には、路面からの雨水などの跳ね返りや回転する車輪が巻き上げるミスト状の水分がブレーキパッドやブレーキロータなどに付着してしまう。こうしたブレーキパッドやブレーキロータなどに付着する水分の水分量(液体量)が多くなるほど、ディスクブレーキ装置による車輪への制動力の付与効率が低下する問題があった。そこで、近年では、降水時であっても車輪に対して好適な制動力を付与させるための装置として、特許文献1に記載の運動支援装置が提案されている。
【0004】
この運動支援装置は、車両に搭載されるワイパが作動する場合には、降水中であると判断し、車輪に対して最後に制動力が付与されてからの経過時間を計測する。また、運動支援装置は、車両の車体速度やワイパの作動周期に応じた経過時間閾値を予め設定された所定周期毎(例えば「1秒」)に設定する。そして、上記運動支援装置は、計測する経過時間がその時点の経過時間閾値を経過した場合に、ブレーキパッドやブレーキロータに付着する水分の水分量が多くなったことに起因して制動力の付与効率が低下した可能性があると判断し、運転手が感じない程度の大きさの制動力を車輪に付与させる水分除去制御(液体除去制御)を実行するようになっている。その結果、ブレーキパッドやブレーキロータからは、該ブレーキパッドとブレーキロータとの間に発生した摩擦力などによって水分が除去される。したがって、その後に制動制御や運転手によるブレーキ操作が実行された場合には、車輪に対して好適な制動力が付与されるようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,570,937号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両を雨天で走行させる場合には、前方を走行する車両(以下、「前走車」という。)の後輪が巻き上げるミスト状の水分の一部がブレーキパッドやブレーキロータなどに付着することがある。前走車が巻き上げるミスト状の水分に起因してブレーキパッドとブレーキロータとの間に存在する水分量は、前走車との車間距離に応じて変化するものである。ところが、従来の運動支援装置では、前走車の後輪が巻き上げるミスト状の水分のことを全く考慮していない。そのため、水分除去制御が適切なタイミングで実行されているとは言い難かった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、第1制動部材と第2制動部材との間に存在する液体を除去するための液体除去制御を、前走車から巻き上げられるミスト状の液体を考慮した適切なタイミングで実行させることができる液体量推定装置及び車両の運動支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、車両の運動支援装置にかかる請求項1に記載の発明は、車輪(FR,FL,RR,RL)と共に回動する第1制動部材(50)と、該回動する第1制動部材(50)に接触することにより前記車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力を付与可能な第2制動部材(51,52)とを有する車両に搭載され、前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が存在する場合に、該液体を除去するために前記第1制動部材(50)に前記第2制動部材(51,52)を接触させる液体除去制御を実行する制御手段(16、S19)を備えた車両の運動支援装置において、前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であるか否かを判定する状況判定手段(16、S10)と、前方を走行する前走車(C2)との車間距離(Lp)を取得する車間距離取得手段(16、S15)と、をさらに備え、前記制御手段(16、S19)は、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)が短いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを要旨とする。なお、本発明における「各制動部材の間に液体が入り得る状況」とは、降水中又は降水後で路面が濡れている状況、又は、路面が濡れている場合に限らず車両外部から各制動部材の間に液体が入り得る状況のことをいう。
【0009】
一般に、第1制動部材と第2制動部材との間に液体が入り得る状況である場合、車両の後輪からは、ミスト状の液体が大量に巻き上げられる。こうしたミスト状の液体の一部は、後方を走行する車両の各制動部材の間に入り込んでしまう。しかも、各制動部材の間に存在する液体量の増加度合いは、前走車との車間距離が短いほど多くなる。そこで、本発明では、各制動部材の間に液体が入り得る状況である場合、液体除去制御の実行タイミングは、前走車との車間距離が短いほど早いタイミングに設定される。したがって、第1制動部材と第2制動部材との間に存在する液体を除去するための液体除去制御を、前走車との車間距離を考慮した適切なタイミングで実行させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の運動支援装置において、車両の車体速度(VS)を取得する車体速度取得手段(16、S13)をさらに備え、前記制御手段(16、S19)は、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記車体速度取得手段(16、S13)によって取得される車体速度(VS)が速いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、液体除去制御の実行タイミングは、前走車との車間距離だけではなく、車体速度をも考慮したタイミングに設定される。そのため、液体除去制御を、より適切なタイミングで実行させることが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の運動支援装置において、降水時に車両に対する降水量を取得する降水量取得手段(16、S14)をさらに備え、前記制御手段(16、S19)は、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記降水量取得手段(16、S14)によって取得される降水量が多いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、液体除去制御の実行タイミングは、前走車との車間距離だけではなく、降水量をも考慮したタイミングに設定される。そのため、液体除去制御を、さらに適切なタイミングで実行させることが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の車両の運動支援装置において、前記制御手段(16、S19)は、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合において、前記前走車(C2)によって液体が自車(C1)側に向けて巻き上げられる第1位置(P1)から、該巻き上げられた液体が路面上に着地する第2位置(P2)までの飛散距離(Lw)と、液体が前記前走車(C2)によって巻き上げられてから路面上に着地するまでの間における自車(C1)の走行距離(Lv)との和(Lw+Lv)が、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)以上であるときには、前記和(Lw+Lv)が前記車間距離(Lp)未満であるときよりも早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、前走車が自車側に向けて巻き上げた液体が自車の各制動部材に付着し易い場合には、付着しにくい場合に比して液体除去制御が早いタイミングで実行される。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の運動支援装置において、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、予め設定された所定周期における前記各制動部材(50,51,52)の間に存在する液体の増加量(ΔW)を、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)が短いほど多くなるように推定する単位増加量推定手段(16、S16)と、前記所定周期毎に前記単位増加量推定手段(16、S16)によって推定される前記液体の増加量(ΔW)を積算し、該積算結果に基づき前記各制動部材(50,51,52)の間に存在する液体の液体量(W)を演算する液体量演算手段(16、S17)と、をさらに備え、前記制御手段(16、S19)は、前記液体量演算手段(16、S17)によって演算される前記各制動部材(50,51,52)の間に存在する液体の液体量(W)が予め設定された液体量閾値(KW)以上である場合に、前記液体除去制御を実行することを要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、予め設定された所定周期における各制動部材の間に存在する液体の増加量は、前走車との車間距離が短いほど多くなるように推定される。そして、所定周期毎に推定される増加量を積算し、該積算結果が各制動部材の間に存在する液体の液体量とされる。このように演算された液体量が予め設定された液体量閾値以上になった場合に、液体除去制御が実行される。その結果、各制動部材の間に存在する液体が除去されるため、その後のブレーキ操作や制動制御時には、車輪に対して適切な制動力が付与される。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の運動支援装置において、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対して制動力が付与されてからの経過時間(T)を計測する経過時間計測手段(16、S32)と、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記液体除去制御の実行タイミングを決定するための経過時間閾値(KT)を、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)が短いほど小さくするように設定する閾値設定手段(16、S30)と、をさらに備え、前記制御手段(16、S19)は、前記経過時間計測手段(16、S32)によって計測される経過時間(T)が、前記閾値設定手段(16、S30)によって設定される経過時間閾値(KT)以上である場合に、前記液体除去制御を実行することを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、液体除去制御の実行タイミングを決定するための経過時間閾値は、前走車との車間距離が短いほど小さくなるように推定される。そして、車輪に対して制動力が付与されてからの経過時間が経過時間閾値以上となった場合に、液体除去制御が実行される。その結果、各制動部材の間に存在する液体が除去されるため、その後のブレーキ操作や制動制御時には、車輪に対して適切な制動力が付与される。
【0020】
一方、車両の運動支援方法にかかる請求項7に記載の発明は、車両に搭載される車輪(FR,FL,RR,RL)と共に回動する第1制動部材(50)と、該回動する第1制動部材(50)に接触することにより前記車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力を付与可能な第2制動部材(51,52)との間に液体が存在する場合に、前記第1制動部材(50)に前記第2制動部材(51,52)を接触させて前記液体を除去する液体除去制御を実行させる実行ステップ(S19)を有する車両の運動支援方法において、前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であるか否かを判定させる状況判定ステップ(S10)と、前方を走行する前走車(C2)との車間距離(Lp)を取得させる車間距離取得ステップ(S15)と、をさらに有し、前記実行ステップ(S19)では、前記状況判定ステップ(S10)にて前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定した場合に、前記車間距離取得ステップ(S15)にて取得した車間距離(Lp)が短いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行させることを要旨とする。
【0021】
上記構成によれば、請求項1に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態における制動装置が搭載された車両のブロック図。
【図2】第1の実施形態における制動装置の一部を示すブロック図。
【図3】(a)(b)はディスクブレーキ装置を模式的に示す断面図。
【図4】車間距離に基づき単位成長量を推定するためのマップ。
【図5】車両の車体速度に基づき第1ゲインを設定するためのマップ。
【図6】ワイパの作動周期に基づき第2ゲインを設定するためのマップ。
【図7】自車と前走車との間の車間距離と自車の前輪に付着するミスト状の水分の量との関係を模式的に示す作用図。
【図8】第1の実施形態における降水対策処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図9】自車と前走車との間の車間距離と自車の前輪に付着するミスト状の水分の量との関係を模式的に示す作用図。
【図10】自車と前走車との間の車間距離と自車の前輪に付着するミスト状の水分の量との関係を模式的に示す作用図。
【図11】車間距離に基づき仮時間閾値を推定するためのマップ。
【図12】第2の実施形態における降水対策処理ルーチンの一部を説明するフローチャート。
【図13】自車の走行するレーンとは異なるレーンを走行する前走車によって巻き上げられたミスト状の水分によって自車の前輪が被水する様子を模式的に示す作用図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図10に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における左右方向は、車両進行方向における左右方向と一致するものとする。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の車両は、右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RLを有する自動四輪車両であって、運転手による図示しないアクセルペダルの踏込み操作に基づいた駆動力が駆動輪(例えば後輪RR,RL)に伝達されることにより走行する。このような車両には、該車両のフロントガラス11に着弾した雨水や雪などの水滴(液体)を払拭するためのワイパ装置12と、前方を走行する車両(以下、「前走車」という。)との車間距離を計測するための車間距離計測装置ACCとが設けられている。また、車両には、運転手によるブレーキペダル13の踏込み操作に基づいた液圧としてのブレーキ液圧を発生させる液圧発生装置14と、該液圧発生装置14に接続され、各車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与するための制動装置15とが設けられている。この制動装置15は、その駆動が運動支援装置としての電子制御装置(以下、「ECU」という。)16によって制御される。また、車両には、運転手によるブレーキペダル13の踏込み操作又は制動装置15の駆動に基づき車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与するディスクブレーキ装置17が車輪FR,FL,RR,RL毎に車輪FR,FL,RR,RLの上部に設けられている。
【0025】
次に、ワイパ装置12について図1に基づき説明する。
ワイパ装置12には、フロントガラス11を払拭する複数本(本実施形態では2本)のワイパ18と、該各ワイパ18の作動周期(「作動速度」ともいう。)を調整すべく運転手が操作するワイパ操作部19(「ワイパスイッチ」ともいう。)とが設けられている。ワイパ装置12では、運転手によるワイパ操作部19の操作によって、ワイパ18の作動周期が長周期(図1では「L」)、中周期(図1では「M」)、短周期(図1では「H」)と複数段階に調整可能とされている。また、ワイパ操作部19が図1に示す「OFF」となるように設定された場合、ワイパ18の作動が停止される。そして、ワイパ操作部19からは、ワイパ18の作動周期に応じた検出信号がECU16に出力される。
【0026】
次に、車間距離計測装置ACCについて図1に基づき説明する。
車間距離計測装置ACCは、車両(以下、前走車と区別するために「自車」という。)から前方に向けてレーザ光を射出する図示しない射出部と、該射出部から射出されるレーザ光のうち前走車にて反射された反射光を受光する図示しない受光部とを備えている。また、車間距離計測装置ACCには、射出部からレーザ光が射出されてから受光部によって反射光が受光されるまでの時間を計測し、該計測した時間に基づき自車に対する前走車の相対速度及び自車と前走車との間の車間距離Lp(図7参照)とを計測する図示しない計測部が設けられている。この計測部は、ECU16と電気的に接続されており、計測部からは、自車に対する前走車の相対速度及び自車と前走車との間の車間距離Lpなどに関する各種情報がECU16に送信される。
【0027】
次に、液圧発生装置14について図1及び図2に基づき説明する。
図1及び図2に示すように、液圧発生装置14は、マスタシリンダ20及びブースタ21を備えている。そして、液圧発生装置14では、運転手がブレーキペダル13を踏込み操作(以下、「ブレーキ操作」という。)する場合、マスタシリンダ20及びブースタ21が作動する。すると、マスタシリンダ20からは、車輪FR,FL,RR,RL毎に設けられた各ホイールシリンダ内にブレーキ液がそれぞれ供給される。その結果、各ホイールシリンダ内のホイールシリンダ圧に対応した制動力が、車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ付与される。なお、液圧発生装置14には、ブレーキペダル13が踏込み操作されたことを検出するためのブレーキスイッチSW1が設けられ、該ブレーキスイッチSW1からは、運転手によるブレーキペダル13の操作態様に応じた検出信号がECU16に出力される。
【0028】
次に、制動装置15について図1及び図2に基づき説明する。なお、制動装置15は、略同一構成の2つの液圧回路22,23を有している。そのため、図2では、明細書の説明を理解してもらう便宜上、一方の液圧回路22のみを図示し、他方の液圧回路23の図示を省略するものとする。
【0029】
図1及び図2に示すように、本実施形態の制動装置15は、2つの液圧回路22,23を有している。各液圧回路22,23は、液圧発生装置14のマスタシリンダ20に接続され、第1液圧回路22は、左前輪FL及び右後輪RRに対応して設けられた各ホイールシリンダ24,25に接続されると共に、第2液圧回路23は、右前輪FR及び左後輪RLに対応して設けられた図示しない各ホイールシリンダに接続されている。
【0030】
第1液圧回路22には、マスタシリンダ20に連結される連結流路26が形成されており、該連結流路26には、マスタシリンダ20内のマスタシリンダ圧とホイールシリンダ24,25内のホイールシリンダ圧との間に圧力差を発生させるための比例差圧弁27が設けられている。この比例差圧弁27は、図示しない弁座及び弁体を備えており、該弁体は、ECU16から給電される電流の大きさに応じた位置に移動される。なお、本実施形態の比例差圧弁27において、上記弁座と弁体との間に形成される通路は、比例差圧弁27のマスタシリンダ20側と該マスタシリンダ20の反対側となるホイールシリンダ24,25側との間で圧力差を発生させるために、ECU16から給電されていない場合であっても連結流路26よりも幅狭となるオリフィスになっている。
【0031】
また、第1液圧回路22には、ホイールシリンダ24に接続される左前輪用経路28と、ホイールシリンダ25に接続される右後輪用経路29とが形成されている。そして、これら各経路28,29上には、ホイールシリンダ24,25内のホイールシリンダ圧の増圧を規制する際に作動する常開型の第1電磁弁30,31(「保持弁」ともいう。)と、ホイールシリンダ24,25内のホイールシリンダ圧を減圧させる際に作動する常閉型の第2電磁弁32,33(「減圧弁」ともいう。)とが設けられている。
【0032】
さらに、第1液圧回路22には、各ホイールシリンダ24,25内から第2電磁弁32,33を介して流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ34と、モータMTの回転に基づき作動するポンプ35とが設けられている。このポンプ35は、吸入用流路36を介してリザーバ34に接続されると共に、供給用流路37を介して第1液圧回路22における第1電磁弁30,31と比例差圧弁27との間の接続部位38に接続されている。また、吸入用流路36には、マスタシリンダ20側に向けて分岐された分岐液圧路39が形成されている。そして、ポンプ35は、モータMTが回転した場合に、リザーバ34及びマスタシリンダ20側から吸入用流路36及び分岐液圧路39を介してブレーキ液を吸引し、該ブレーキ液を供給用流路37内に吐出する。
【0033】
第2液圧回路23は、上記第1液圧回路22と同等の構成を有している。そのため、第2液圧回路23上に設けられた各種電磁弁やポンプなどが個別に作動することにより、右前輪FR及び左後輪RL用の各ホイールシリンダ内のホイールシリンダ圧がそれぞれ調整される。
【0034】
次に、ディスクブレーキ装置17について図3(a)(b)に基づき説明する。なお、車輪FR,FL,RL,RR毎に設けられたディスクブレーキ装置17は、互いに略同一構成であるため、左前輪FL用のディスクブレーキ装置17についてのみ説明し、他の車輪FR.RR,RL用のディスクブレーキ装置17については、その説明を省略するものとする。
【0035】
図3(a)(b)に示すように、ディスクブレーキ装置17は、左前輪FLと一体に回動する第1制動部材としての円環状のブレーキロータ50を備えている。また、ディスクブレーキ装置17には、ブレーキロータ50の第1摺接面50a及び第2摺接面50bに個別に対向した状態で配置される第2制動部材としてのブレーキパッド51,52が設けられている。これら各ブレーキパッド51,52は、図示しない付勢機構によりブレーキロータ50から離間する方向への付勢力がそれぞれ付与されている。そのため、各ブレーキパッド51,52は、ホイールシリンダ24内に制動装置15側からブレーキ液が流入していない場合、それぞれが対向する摺接面50a,50bとの間に所定間隔のクリアランスCが介在した状態でそれぞれ配置されている。
【0036】
その一方で、各ブレーキパッド51,52は、ホイールシリンダ24内に制動装置15側からブレーキ液が流入する場合、そのブレーキ液の流入量に対応した駆動力が付与されることにより、ブレーキロータ50に相対的に接近するようにそれぞれ構成されている。そして、各ブレーキパッド51,52がブレーキロータ50の各摺接面50a,50bに摺接した状態でブレーキ液がホイールシリンダ24内にさらに流入した場合、各ブレーキパッド51,52がブレーキロータ50を互いに押圧する。その結果、左前輪FLには、ホイールシリンダ24内のブレーキ液量、即ちホイールシリンダ圧に対応した大きさの制動力が付与される。
【0037】
なお、各ブレーキロータ50には、降水などによって路面が濡れている場合、路面からの雨水などの跳ね返り、及び前走車及び自車が巻き上げるミスト状の水分などが付着してしまうことがある。この場合、各ブレーキロータ50の摺接面50a,50bには、水分膜がそれぞれ形成される。このように各ブレーキロータ50の摺接面50a,50bに形成される水分膜の成長量(即ち、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に存在する水分の増加量)は、車両の走行距離が長くなったり、降水量が多くなったりするに連れて多くなる。したがって、降水などによって路面が濡れている状況とは、各ブレーキロータ50の摺接面50a,50bに水分膜が形成され得る(即ち、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に水分が入り得る)状況ということができる。また、本実施形態において「降水」とは、車両の走行に伴いブレーキロータ50の摺接面50a,50bに形成された水分膜が成長するような状態のことであって、自然に雨や雪が降ったり、人工的に雨を降らせたり、打ち水などを車両の走行する路面に散布したりすることを含んだ現象である。
【0038】
次に、ECU16の構成について図1に基づき説明する。
図1に示すように、ECU16の図示しない入力側インターフェースには、ブレーキスイッチSW1、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を演算するための車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4、ワイパ装置12のワイパ操作部19及び車間距離計測装置ACCが電気的に接続されている。また、ECU16の図示しない出力側インターフェースには、比例差圧弁27、各第1電磁弁30,31、各第2電磁弁32,33及びモータMTが電気的に接続されている。そして、ECU16は、ブレーキスイッチSW1、車輪速度センサSE1〜SE4及びワイパ操作部19からの検出信号に基づき、各比例差圧弁27、各第1電磁弁30,31、各第2電磁弁32,33及びモータMTの作動を個別に制御する。
【0039】
ECU16には、CPU55、ROM56及びRAM57が設けられている。ROM56には、各種制御処理(後述する降水対策処理等)、各種マップ(図4、図5及び図6に示す各種マップ等)及び各種閾値(後述する膜厚閾値など)などが予め記憶されている。また、RAM57には、車両の図示しないイグニッションスイッチが「オン」である間、適宜書き換えられる各種情報(後述する車輪速度、車体速度、作動周期、車間距離、実成長量、水分膜厚など)が一時的に記憶される。
【0040】
次に、ROM56に記憶される各種マップについて図4〜図6に基づき説明する。
図4に示す第1マップは、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bにおける水分膜の単位時間あたりの成長量(以下、「単位成長量」という。)を、自車と前走車との車間距離Lp(以下、単に「車間距離」という。)に基づき推定するためのマップである。図4に示すように、水分膜の単位成長量ΔWlは、車間距離Lpが予め設定された車間距離閾値Lpthを超える場合、第1成長量ΔWl1とされる。また、水分膜の単位成長量ΔWlは、車間距離Lpが車間距離閾値Lpth以下であって且つ車間距離閾値Lpthの半分(=Lpth/2)を超える場合、第1成長量ΔWl1よりも多い第2成長量ΔWl2とされる。そして、水分膜の単位成長量ΔWlは、車間距離Lpが車間距離閾値Lpthの半分(=Lpth/2)以下である場合、第2成長量ΔWl2よりも多い第3成長量ΔWl3とされる。すなわち、車間距離Lpに基づき設定される単位成長量ΔWlは、車間距離Lpが短いほど多くなるように設定される。なお、本実施形態における「単位時間」とは、後述する降水対策処理ルーチンが繰り返し実行される間隔である所定周期に相当する時間である。そのため、降水対策処理ルーチンが「6msec. (ミリ秒)」毎に実行される場合、単位時間は「6msec. 」とされる。
【0041】
図5に示す第2マップは、車両の車体速度VSと後述する第1ゲインAとの関係を示すマップである。図5に示すように、第1ゲインAは、車両の車体速度VSが速くなるほど大きくなるように設定される。なお、本実施形態では、自車及び前走車の各車体速度が等しいものとし、自車の車体速度を車体速度VSとしている。
【0042】
図6に示す第3マップは、ワイパ18の作動周期FSと後述する第2ゲインBとの関係を示すマップである。図6に示すように、第2ゲインBは、ワイパ18の作動周期FSが短いほど大きくなるように設定される。
【0043】
ここで、図7に示すように、路面上の水分が前走車C2の後輪60によって巻き上げられる位置P1(以下、「第1位置」という。)から路面上に着地する位置P2(以下、「第2位置」という。)までの距離を、ミスト状の水分が飛ぶ距離(飛散距離)Lwとする。また、ミスト状の水分が第1位置P1から第2位置P2までに到達する時間を、飛散時間とする。そして、この飛散時間の間に自車C1が走行する走行距離を、飛散時走行距離Lvとする。すると、車間距離Lpがミスト状の水分が飛ぶ距離Lwと飛散時走行距離Lvとの和以下である場合(即ち、Lp≦Lw+Lvである場合)、自車C1の前輪FR,FL及び該前輪FR,FLに対応する各ディスクブレーキ装置17には、前走車C2が巻き上げたミスト状の水分が被水し易い。その一方で、車間距離Lpがミスト状の水分が飛ぶ距離Lwと飛散時走行距離Lvとの和よりも長い場合(即ち、Lp>Lw+Lvである場合)、自車C1の前輪FR,FL及び該前輪FR,FLに対応する各ディスクブレーキ装置17には、前走車C2が巻き上げたミスト状の水分が被水し難い。よって、水分が飛ぶ距離Lw、飛散時走行距離Lv及び車間距離Lpの関係から、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bにおける水分膜の単位時間あたりの実際の成長量を推定することが望ましい。
【0044】
ところで、ミスト状の水分が飛ぶ距離Lwは、前走車C2の車体速度が速いほど、後輪60の回転速度が速くなることから長くなる。また、自車C1の各車輪FR,FL,RR,RLに対応する各ディスクブレーキ装置17には、自車C1の車体速度が速いほど、各車輪FR,FL,RR,RLの回転速度が速くなることから被水量がそれぞれ多くなる。さらに、各ディスクブレーキ装置17には、自車C1に対する降水量が多いほど被水量がそれぞれ多くなる。一般的に、車両の運転手は、自車C1に対する降水量が多くなるほどワイパ18の作動周期FSを短い周期に設定する。
【0045】
そこで、本実施形態では、自車C1及び前走車C2の各車体速度VSがそれぞれ「50km/h」であって且つワイパ18の作動周期が長周期Lである場合のミスト状の水分が飛ぶ距離Lw及び飛散時走行距離Lvが、実験やシミュレーションなどによってそれぞれ取得される。そして、車間距離閾値Lpthは、車体速度VSが「50km/h」である場合のミスト状の水分が飛ぶ距離Lwと飛散時走行距離Lvとの和若しくは該和に近い値に予め設定される。また、第2マップは、自車C1の車体速度VSが「50km/h」である場合の第1ゲインAが「1」となるように設定される。また、第3マップは、ワイパ18の作動周期が長周期Lである場合の第2ゲインBが「1」となるように設定される。例えば、自車C1と前走車C2との車間距離Lpが車間距離閾値Lpthと等しいと共に、自車C1の車体速度VSが「100km/h」であり、さらにワイパ18の作動周期が短周期Hであるとすると、単位成長量ΔWlは、第1マップに基づき第2成長量ΔWl2とされる。また、第1ゲインAは、第2マップに基づき第1の値A1(「1」よりも大きな値であって、例えば「1.5」)とされると共に、第2ゲインBは、第3マップに基づき短周期Hに応じた値(「1」よりも大きな値であって、例えば「2」)とされる。そして、こうした条件での実際の単位成長量(以下、「実成長量」という。)ΔWは、第1マップに基づき設定された単位成長量ΔWlに対して、各ゲインA,Bを共に乗算することにより導出される(図8参照)。
【0046】
次に、本実施形態のECU16が実行する各種制御処理のうち車輪FR,FL,RR,RLに好適な制動力の付与を継続させるための降水対策処理ルーチンについて、図8に示すフローチャートに基づき説明する。
【0047】
さて、ECU16は、予め設定された所定周期(例えば「6msec. 」)毎に降水対策処理ルーチンを実行する。この降水対策処理ルーチンにおいて、ECU16は、ワイパ操作部19からの検出信号に基づき、降水中であるか否かを判定する(ステップS10)。具体的には、ECU16は、ワイパ操作部19が「OFF」に設定されている場合には降水中ではないと判定する一方、ワイパ操作部19が「L」「M」「H」の何れかに設定されている場合には降水中であると判定する。したがって、本実施形態では、ECU16が、各ブレーキロータ50の摺接面50a,50bに水分膜が形成され得るか否かを判定する状況判定手段としても機能する。また、ステップS10が、状況判定ステップに相当する。
【0048】
ステップS10の判定結果が否定判定である場合、ECU16は、その処理を後述するステップS20に移行する。一方、ステップS10の判定結果が肯定判定である場合、即ち降水中である場合、ECU16は、運転手によるブレーキ操作や制動制御(例えばトラクション制御やクルーズコントロール)などによって、全ての車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与されているか否かを判定する(ステップS11)。この判定結果が肯定判定である場合、ECU16は、その処理を後述するステップS20に移行する。全ての車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与される状態とは、車輪FR,FL,RR,RL毎のディスクブレーキ装置17においてブレーキロータ50の摺接面50a,50bにブレーキパッド51,52がそれぞれ摺接する状態のことである。こうした状態では、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bに水分が付着しているとしても、該水分は、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間で発生する摩擦などによってブレーキロータ50の摺接面50a,50bからそれぞれ除去される。
【0049】
一方、ステップS11の判定結果が否定判定である場合、ECU16は、各車輪FR,FL,RR,RLのうち少なくとも1つの車輪に対して制動力が付与されていないため、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度センサSE1〜SE4の各検出信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWをそれぞれ演算する(ステップS12)。続いて、ECU16は、ステップS12にて演算した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち少なくとも1つの車輪の車輪速度VWを用いて車両の車体速度VSを演算する(ステップS13)。したがって、本実施形態では、ECU16が、車体速度取得手段としても機能する。続いて、ECU16は、ワイパ操作部19からの検出信号に基づきワイパ18の作動周期FSが長周期L、中周期M及び短周期Hのうち何れの周期であるかを特定する(ステップS14)。したがって、本実施形態では、ECU16が、降水時に車両に対する降水量を推定するために、ワイパ18の作動周期FSを取得する降水量取得手段としても機能する。
【0050】
続いて、ECU16は、車間距離計測装置ACCから送信された車間距離Lpに関する情報を取得する(ステップS15)。したがって、本実施形態では、ECU16が、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpを取得する車間距離取得手段としても機能する。また、ステップS15が、車間距離取得ステップに相当する。そして、ECU16は、ステップS13,S14,S15にて取得した車体速度VS、作動周期FS及び車間距離Lpに対応した実成長量ΔWを推定する(ステップS16)。
【0051】
具体的には、ECU16は、ステップS15にて取得した車間距離Lpを図4に示す第1マップに代入し、現時点の車間距離Lpに対応する単位成長量ΔWlを設定する。続いて、ECU16は、ステップS13にて演算した車体速度VSを図5に示す第2マップに代入し、現時点の車体速度VSに対応する第1ゲインAを設定すると共に、ステップS14にて演算した作動周期FSを図6に示す第3マップに代入し、現時点の作動周期FSに対応する第2ゲインBを設定する。そして、ECU16は、単位成長量ΔWlに対して各ゲインA,Bを共に乗算し、該乗算結果を実成長量ΔWとする。したがって、本実施形態では、ECU16が、所定周期における水分膜の実成長量ΔW(即ち、所定周期での水分の増加量)を推定する単位増加量推定手段としても機能する。
【0052】
続いて、ECU16は、ステップS16にて推定した実成長量ΔWに基づき、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bの水分膜の厚み(以下、「水分膜厚」という。)W、即ちブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に存在する液体の液体量を更新する(ステップS17)。具体的には、ECU16は、更新前の水分膜厚Wに対してステップS16にて推定した実成長量ΔWを加算し、該加算結果を現時点の水分膜厚Wとする。したがって、本実施形態では、ECU16が、所定周期毎の実成長量ΔWを積算して水分膜厚Wを演算する液体量演算手段としても機能する。なお、本実施形態では、各車輪FR,FL,RR,RLのブレーキロータ50のうち最も水分膜厚が厚いブレーキロータ50の水分膜厚Wが推定される。
【0053】
そして、ECU16は、ステップS17にて演算した水分膜厚Wが予め設定された液体量閾値としての膜厚閾値KW以上であるか否かを判定する(ステップS18)。ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に存在する水分の量(水分量)が多すぎる場合、該水分の影響によって、運転手によるブレーキ操作に応じた適切な大きさの制動力が車輪FR,FL,RR,RLに付与されないおそれがある。すなわち、車両の制動距離が長くなるおそれがある。そのため、本実施形態では、水分膜厚Wが膜厚閾値KW以上になった場合には、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に存在する水分の量が多すぎると判定される。そして、ステップS18の判定結果が否定判定(W<KW)である場合、ECU16は、ブレーキロータ50の水分膜厚Wが車両の制動距離に影響を及ぼすほどの膜厚まで成長していないと判断し、降水対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0054】
一方、ステップS18の判定結果が肯定判定(W≧KW)である場合、ECU16は、ブレーキロータ50の水分膜厚Wが車両の制動距離に影響を及ぼすほどの膜厚まで成長したと判断し、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に存在する水分を除去させるための水分除去制御(液体除去制御)を実行する(ステップS19)。具体的には、ECU16は、予め設定された制御時間(例えば2sec.)の間、ポンプ35を作動させる。すると、比例差圧弁27内には非作動状態であってもオリフィスが形成されているため、ホイールシリンダ24,25内には、ポンプ35の作動に基づきブレーキ液が流入する。そのため、マスタシリンダ20とホイールシリンダ24,25との間には圧力差が発生し、ブレーキパッド51,52は、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bにそれぞれ相対的に接近する。その結果、ブレーキパッド51,52は、制動制御中であることを運転手に気付かれない程度の制動力が車輪FR,FL,RR,RLに付与されるように、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bに摺接する。したがって、本実施形態では、ECU16が、制御手段としても機能する。また、ステップS19が、実行ステップに相当する。そして、ECU16は、水分除去制御が開始されてから上記制御時間が経過した場合、ポンプ35を停止させ、その後、その処理を次のステップS20に移行する。
【0055】
ステップS20において、ECU16は、水分膜厚Wを「0(零)」にリセットする。すなわち、ステップS20では、降水中ではない場合、又は、全ての車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与される場合には、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に水分が存在しないと判断される。その後、ECU16は、降水対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0056】
次に、降水時における制動装置15の作用について図9及び図10に基づき説明する。なお、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpは、図8に示す制御処理のサイクル間隔の期間においては一定であるものとする。また、図9では、実線は、第1位置P1の水分を巻き上げた初期時点t0の車両状態を示すものであり、破線は、第1位置P1から巻き上げられたミスト状の水分が第2位置P2に着地した着地時点t1の車両状態を示すものである。
【0057】
さて、降水時に走行する場合、各車輪FR,FL,RR,RLのディスクブレーキ装置17内には、路面で跳ね返った水滴や回転する前輪FR,FLが跳ね上げるミスト状の水分などがそれぞれ入り込んでくる。すなわち、各ディスクブレーキ装置17内において、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に介在する水分量は、次第に多くなってくる。また、自車C1の前方に前走車C2が存在する場合、該前走車C2からは、その各後輪60の回転によって、ミスト状の水分が後方(即ち、自車C1)に向けて巻き上げられる。このとき、前走車C2によって自車C1に向けて巻き上げられたミスト状の水分が飛散し始めてから路面に着地するまでの飛散時間の間に飛ぶ距離Lwと、飛散時間における自車C1の飛散時走行距離Lvとの和が、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpよりも小さいとする。すると、自車C1の前輪FR,FL及び該前輪FR,FL用の各ディスクブレーキ装置17には、前走車C2の後輪60によって巻き上げられたミスト状の水分がほとんど付着しない(図7参照)。これは、各ディスクブレーキ装置17に付着するミスト状の水分の付着量は、上記飛散時間において前走車C2から自車に向かって飛ぶ距離Lwと、飛散時間における自車C1の飛散時走行距離Lvとの和が、ミスト状の水分が飛散し始めた時点での前走車C2と自車C1との車間距離Lpを超えるか否かに依存するためである。
【0058】
自車C1の車体速度VSが速くなり、図9に示すように、前走車C2によって自車C1に向けて巻き上げられたミスト状の水分が第1位置P1(初期時間t0)から第2位置P2(着地時間t1)までに到達するまでの飛散時間Th(=t1−t0)の間にミスト状の水分が飛ぶ距離Lwと、飛散時間Thの間に自車C1が走行する飛散時走行距離Lv(=VS・Th)との和(=Lw+Lv)が、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpよりも大きくなったとする。なお、この飛散時間Thの間、前走車C2は進行方向に進行している。すると、自車C1の前輪FR,FL及び該前輪FR,FL用の各ディスクブレーキ装置17は、前走車C2の後輪60によって巻き上げられたミスト状の水分のうち一部によって被水する。その結果、各ディスクブレーキ装置17内において、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に介在する水分の増加量は、前走車C2の後輪60によって巻き上げられたミスト状の水分がブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間にほとんど入り込まない場合に比して多くなる。そのため、前輪FR,FL用のブレーキロータ50の摺接面50a,50bの水分膜の実成長量ΔWは、車体速度VSが速いこと、及び前走車C2が自車C1に向けて巻き上げるミスト状の水分(即ち、飛散水分)によるディスクブレーキ装置17の被水量が多いことに起因して、降水量が変化しなくても多くなる。
【0059】
また、図10に示すように、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpが短くなると、前走車C2の後輪60によって巻き上げられたミスト状の水分のうち、自車C1の前輪FR,FL及び該前輪FR,FL用の各ディスクブレーキ装置17に付着する水分の量が多くなる。そして、前輪FR,FL用のブレーキロータ50の摺接面50a,50bの水分膜の水分膜厚Wが膜圧閾値KW以上になると、各車輪FR,FL,RR,RLに対して水分除去制御が実行される。
【0060】
すると、各車輪FR,FL,RR,RLのブレーキロータ50の摺接面50a,50bには、各ブレーキパッド51,52がそれぞれ摺接することになる。その結果、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bにおける水分膜は、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との摩擦力によって除去される。しかも、このときに各車輪FR,FL,RR,RLに付与される制動力は、それぞれ非常に小さいものであることから、水分除去制御の実行が車両の運転手に気付かれることはほとんどない。こうした水分除去制御が終了した後、運転手のブレーキ操作やECU16によって実行される制動制御時には、各車輪FR,FL,RR,RLに対して適切な大きさの制動力がそれぞれ付与される。
【0061】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)一般に、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に水分が入り得る状況である場合、前走車C2の後輪60からは、ミスト状の水分が大量に巻き上げられる。こうしたミスト状の液体の一部は、自車C1のブレーキロータ50とブレーキパッド51,52との間に入り込んでしまう。しかも、ブレーキロータ50とブレーキパッド51,52の間に存在する水分量の増加度合いは、前走車C2と自車C1との間の車間距離Lpが短いほど多くなる。そこで、本実施形態では、降水時に車両が走行する場合、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bにおける水分膜を除去するための水分除去制御の実行タイミングは、自車C1と前走車C2との車間距離Lpが短いほど早いタイミングに設定される。したがって、水分除去制御を、自車C1と前走車C2との車間距離Lpを考慮した適切なタイミングで実行させることができる。
【0062】
(2)また、水分除去制御は、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpだけではなく、自車C1の車体速度VSをも考慮したタイミングで実行される。そのため、水分除去制御を、より適切なタイミングで実行させることができる。
【0063】
(3)さらに、水分除去制御は、自車C1と前走車C2との車間距離Lp及び自車C1の車体速度VSだけではなく、ワイパ18の作動周期FSをも考慮したタイミングで実行される。そのため、水分除去制御を、さらに適切なタイミングで実行させることができる。
【0064】
(4)降水対策処理ルーチンの実行周期として予め設定された所定周期におけるブレーキロータ50の摺接面50a,50bにおける水分膜の実成長量ΔWは、自車C1と前走車C2との車間距離Lpが短いほど多くなるように推定される。そして、所定周期毎に推定される実成長量ΔWを積算し、該積算結果がブレーキロータ50の摺接面50a,50bにおける水分膜の水分膜厚Wとされる。このように演算された水分膜厚Wが予め設定された液体量閾値KW以上になった場合に、水分除去制御が実行される。その結果、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bの水分膜が除去されるため、その後のブレーキ操作や制動制御時には、車輪FR,FL,RR,RLに対して適切な制動力を付与できる。
【0065】
(5)本実施形態では、各車輪FR,FL,RR,RLのブレーキロータ50のうち最も水分膜厚Wが厚いブレーキロータ50の水分膜厚Wが膜圧閾値KW以上となった場合に、水分除去制御が実行される。そのため、車輪FR,FL,RR,RL毎に水分除去制御を個別に実行する場合に比して、ECU16の制御負荷の増大を抑制できる。
【0066】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図11及び図12に従って説明する。なお、第2の実施形態は、水分除去制御の実行タイミングを設定する方法が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0067】
図11に示すように、本実施形態のECU16のROM56には、自車C1と前走車C2との車間距離Lpと仮時間閾値KT_Kとの関係を示す第4マップが予め記憶されている。仮時間閾値KT_Kは、車間距離Lpが予め設定された車間距離閾値Lpthを超える場合、第1時間閾値T1とされる。また、仮時間閾値KT_Kは、車間距離Lpが車間距離閾値Lpth以下であって且つ車間距離閾値Lpthの半分(=Lpth/2)を超える場合、第1時間閾値T1よりも短時間である第2時間閾値T2とされる。さらに、仮時間閾値KT_Kは、車間距離Lpが車間距離閾値Lpthの半分(=Lpth/2)以下である場合、第2時間閾値T2よりも短時間である第3時間閾値T3とされる。すなわち、車間距離Lpに基づき設定される仮時間閾値KT_Kは、車間距離Lpが短いほど短時間となるように設定される。
【0068】
なお、仮時間閾値KT_Kは、自車C1の車体速度VSが「50km/h」であって、且つワイパ18の作動周期FSが長周期Lである場合に、自車C1と前走車C2との車間距離Lpに応じて設定される経過時間閾値である。そして、上記各時間閾値T1〜T3は、該閾値に対応する車間距離Lpを維持した状態で車両が走行した際に、前輪FR,FL用のブレーキロータ50の摺接面50a,50bにおける水分膜厚Wが上記膜厚閾値KW以上になったと推定される時間にそれぞれ設定されている。
【0069】
次に、本実施形態のECU16が実行する降水対策処理ルーチンについて、上記第1の実施形態の降水対策処理ルーチンとは異なる部分を中心に図12に示すフローチャートに基づき説明する。なお、図12では、降水対策処理ルーチンの中で、上記第1の実施形態の降水対策処理ルーチンとは異なる部分のみが図示されている。
【0070】
さて、ECU16は、予め設定された所定周期毎に降水対策処理ルーチンを実行する。この降水対策処理ルーチンにおいて、ECU16は、上記ステップS10〜S15に相当する各処理を順次実行する。続いて、ECU16は、自車C1と前走車C2との間の現時点の車間距離Lp、自車C1の現時点の車体速度VS及びワイパ18の現時点の作動周期FSに応じた経過時間閾値KTを設定する(ステップS30)。具体的には、ECU16は、ステップS15にて取得した車間距離Lpを図11に示す第4マップに代入し、該車間距離Lpに対応する仮時間閾値KT_Kを設定する。続いて、ECU16は、上記ステップS13にて演算した車体速度VSを図5に示す第2マップに代入し、現時点の車体速度VSに対応する第1ゲインAを設定すると共に、上記ステップS14にて演算した作動周期FSを図6に示す第3マップに代入し、現時点の作動周期FSに対応する第2ゲインBを設定する。そして、ECU16は、仮時間閾値KT_Kに対して各ゲインA,Bを共に除算し、該除算結果を経過時間閾値KTとする。したがって、本実施形態では、ECU16が、閾値設定手段としても機能する。
【0071】
続いて、ECU16は、全ての車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与されてからの経過時間TがステップS30にて設定した経過時間閾値KT以上であるか否かを判定する(ステップS31)。この判定時間が否定判定(T<KT)である場合、ECU16は、ブレーキロータ50の水分膜厚Wが車両の制動距離に影響を及ぼすほどの膜厚まで成長していないと判断し、経過時間Tを更新する(ステップS32)。したがって、本実施形態では、ECU16が、経過時間計測手段としても機能する。その後、ECU16は、降水対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0072】
一方、ステップS31の判定結果が肯定判定(T≧KT)である場合、ECU16は、ブレーキロータ50の水分膜厚Wが車両の制動距離に影響を及ぼすほどの膜厚まで成長したと判断し、上記ステップS19と同一の処理である水分除去制御を実行する(ステップS33)。そして、ECU16は、水分除去制御を終了させると、経過時間Tを「0(零)」にリセットし(ステップS34)、その後、降水対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0073】
したがって、本実施形態では、上記第1の実施形態における効果(1)〜(3)に加え、さらに以下に示す効果を得ることができる。
(6)水分除去制御の実行タイミングを決定するための経過時間閾値KTは、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpが短いほど小さくなるように設定される。そして、全ての車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力が付与されてからの経過時間Tが経過時間閾値KT以上となった場合に、水分除去制御が実行される。その結果、ブレーキロータ50の摺接面50a,50bの水分膜が除去されるため、その後のブレーキ操作や制動制御時には、車輪FR,FL,RR,RLに対して適切な制動力を付与できる。
【0074】
なお、各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・各実施形態において、水分除去制御では、ポンプ35だけではなく比例差圧弁27も作動させてもよい。この場合、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との圧力差が大きくなるため、各車輪FR,FL,RR,RLには、上記各実施形態の場合に比して大きな制動力がそれぞれ付与されることになる。そのため、各ブレーキロータ50の摺接面50a,50bからは、水分を確実に除去できる。
【0075】
・各実施形態では、ブレーキロータ50毎に水分膜厚Wを推定し、水分膜厚Wが膜厚閾値KW以上になったブレーキロータ50にブレーキパッド51,52を摺接させるように水分除去制御を行ってもよい。例えば、図13に示すように、自車C1が走行するレーンとは異なるレーン(この場合、右側のレーン)を前走車C2が走行する場合、各前輪FR,FLのうち前走車C2に近い方の右前輪FR及び該右前輪FRに対応するディスクブレーキ装置17には、前走車C2によって巻き上げられるミスト状の水分が付着することになる。一方、左前輪FL及び該左前輪FLに対応するディスクブレーキ装置17には、前走車C2によって巻き上げられるミスト状の水分がほとんど付着しない。
【0076】
この場合、車間距離計測装置ACCなどによって自車C1に対する前走車C2の左右方向における位置を検出し、前走車C2に近い側の右前輪FRに対する水分除去制御の実行タイミングを、左前輪FLに対する水分除去制御の実行タイミングよりも早くすることが望ましい。このように構成すると、車輪FR,FL,RR,RL毎に適切なタイミングで水分除去制御を実行することができる。
【0077】
・各実施形態において、水分除去制御を、車両が旋回する最中に実行タイミングになった場合、その旋回が終了してから実行させるようにしてもよい。このように構成すると、車両旋回時に運転手の意志とは無関係に車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与されることを回避でき、結果として、旋回する車両の挙動安定を確保できる。
【0078】
・各実施形態において、車両の車体速度VSを、自車C1の各車輪速度VWから導出するのではなく、他のパラメータ(例えば、自車C1の加速度)に基づき導出してもよい。また、車体速度VSを、前走車C2の車体速度で代用してもよいし、渋滞情報などの各種インフラで使用される車体速度情報を使用して導出してもよい。
【0079】
・第1の実施形態において、実成長量ΔWは、ワイパ18の作動周期FSに関係なく、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lp及び自車C1の車体速度VSに基づき推定された値であってもよい。また、第2の実施形態において、経過時間閾値KTは、ワイパ18の作動周期FSに関係なく、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lp及び自車C1の車体速度VSに基づき推定された値であってもよい。
【0080】
・第1の実施形態において、実成長量ΔWは、自車C1の車体速度VSに関係なく、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lp及びワイパ18の作動周期FSに基づき推定された値であってもよい。また、第2の実施形態において、経過時間閾値KTは、自車C1の車体速度VSに関係なく、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lp及びワイパ18の作動周期FSに基づき推定された値であってもよい。
【0081】
・第1の実施形態において、実成長量ΔWは、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpだけに基づき推定された値であってもよい。また、第2の実施形態において、経過時間閾値KTは、自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpだけに基づき推定された値であってもよい。
【0082】
・各実施形態において、雨天を認識するためのレインセンサを車両に設けてもよい。この場合、ステップS10では、レインセンサからの検出信号に基づき降水中であるか否かを判定してもよい。
【0083】
また、レインセンサを車両に設ける場合は、降水量に応じて該レインセンサが出力する検出信号の種類に基づき降水量を取得してRAM57に記憶させたり、レインセンサからの検出信号の出力頻度をRAM57に記憶させたりし、該記憶結果に基づき降水量を取得する。そして、ECU16は、取得した降水量、降水時における車両の車体速度VS、及び自車C1と前走車C2との間の車間距離Lpにより、所定周期における水分膜の実成長量ΔWを推定する。この場合、レインセンサから出力される検出信号に基づき降水量を取得するECU16が、降水量取得手段としても機能する。
【0084】
・各実施形態において、水分除去制御の実行時間は、1〜3秒の間であれば2秒以外の時間(例えば3秒)であってもよい。
・各実施形態において、水分除去制御は、運転手によって図示しないアクセルペダルが操作されている際に実行することが望ましい。このように構成した場合、水分除去制御の実行が運転手に気付かれる可能性を低くできる。
【0085】
・また、車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与しても(即ち、ブレーキロータ50にブレーキパッド51,52を摺接させても)、制動力の大きさや制動力を付与する時間の長さによっては、ブレーキロータ50に付着した水分を完全に除去できない可能性がある。そこで、車輪FR,FL,RR,RLに制動力が付与された場合には、該制動力が大きいほど、及び、制動力を付与する時間が長いほど、減算量を大きな値に設定し、該減算量をブレーキロータ50における水分膜厚Wから減算して該減算結果を現時点の水分膜厚Wとしてもよい。
【0086】
・各実施形態において、車両には、ディスクブレーキ装置17の代わりにドラムブレーキ装置を搭載してもよい。この場合、ECU16は、車輪FR,FL,RR,RLと共に回動する第1制動部材としてのブレーキドラムと、該ブレーキドラムに摺接可能な第2制動部材としてのシューとの間に存在する水分の水分量を推定する。そして、ECU16は、推定した水分量が予め設定された水分量閾値(液体量閾値)以上である場合に、水分除去制御を実行する。
【符号の説明】
【0087】
16…制御手段、状況判定手段、車間距離取得手段、車体速度取得手段、降水量取得手段、単位増加量推定手段、液体量演算手段、経過時間計測手段、閾値設定手段としてのECU、50…第1制動部材としてのブレーキロータ、51,52…第2制動部材としてのブレーキパッド、C1…自車、C2…前走車、FR,FL,RR,RL…車輪、KT…経過時間閾値、KW…液体量閾値としての膜厚閾値、Lp…車間距離、Lv…飛散時走行距離、Lw…飛散距離としての水分の飛ぶ距離、P1…第1位置、P2…第2位置、T…経過時間、VS…車体速度、W…水分膜厚、ΔW…実成長量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪(FR,FL,RR,RL)と共に回動する第1制動部材(50)と、該回動する第1制動部材(50)に接触することにより前記車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力を付与可能な第2制動部材(51,52)とを有する車両に搭載され、
前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が存在する場合に、該液体を除去するために前記第1制動部材(50)に前記第2制動部材(51,52)を接触させる液体除去制御を実行する制御手段(16、S19)を備えた車両の運動支援装置において、
前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であるか否かを判定する状況判定手段(16、S10)と、
前方を走行する前走車(C2)との車間距離(Lp)を取得する車間距離取得手段(16、S15)と、をさらに備え、
前記制御手段(16、S19)は、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)が短いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを特徴とする車両の運動支援装置。
【請求項2】
車両の車体速度(VS)を取得する車体速度取得手段(16、S13)をさらに備え、
前記制御手段(16、S19)は、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記車体速度取得手段(16、S13)によって取得される車体速度(VS)が速いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動支援装置。
【請求項3】
降水時に車両に対する降水量を取得する降水量取得手段(16、S14)をさらに備え、
前記制御手段(16、S19)は、前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記降水量取得手段(16、S14)によって取得される降水量が多いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の運動支援装置。
【請求項4】
前記制御手段(16、S19)は、
前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合において、
前記前走車(C2)によって液体が自車(C1)側に向けて巻き上げられる第1位置(P1)から、該巻き上げられた液体が路面上に着地する第2位置(P2)までの飛散距離(Lw)と、液体が前記前走車(C2)によって巻き上げられてから路面上に着地するまでの間における自車(C1)の走行距離(Lv)との和(Lw+Lv)が、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)以上であるときには、前記和(Lw+Lv)が前記車間距離(Lp)未満であるときよりも早いタイミングで前記液体除去制御を実行することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両の運動支援装置。
【請求項5】
前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、予め設定された所定周期における前記各制動部材(50,51,52)の間に存在する液体の増加量(ΔW)を、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)が短いほど多くなるように推定する単位増加量推定手段(16、S16)と、
前記所定周期毎に前記単位増加量推定手段(16、S16)によって推定される前記液体の増加量(ΔW)を積算し、該積算結果に基づき前記各制動部材(50,51,52)の間に存在する液体の液体量(W)を演算する液体量演算手段(16、S17)と、をさらに備え、
前記制御手段(16、S19)は、前記液体量演算手段(16、S17)によって演算される前記各制動部材(50,51,52)の間に存在する液体の液体量(W)が予め設定された液体量閾値(KW)以上である場合に、前記液体除去制御を実行することを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の運動支援装置。
【請求項6】
前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対して制動力が付与されてからの経過時間(T)を計測する経過時間計測手段(16、S32)と、
前記状況判定手段(16、S10)によって前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定される場合に、前記液体除去制御の実行タイミングを決定するための経過時間閾値(KT)を、前記車間距離取得手段(16、S15)によって取得される車間距離(Lp)が短いほど小さくするように設定する閾値設定手段(16、S30)と、をさらに備え、
前記制御手段(16、S19)は、前記経過時間計測手段(16、S32)によって計測される経過時間(T)が、前記閾値設定手段(16、S30)によって設定される経過時間閾値(KT)以上である場合に、前記液体除去制御を実行することを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の運動支援装置。
【請求項7】
車両に搭載される車輪(FR,FL,RR,RL)と共に回動する第1制動部材(50)と、該回動する第1制動部材(50)に接触することにより前記車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力を付与可能な第2制動部材(51,52)との間に液体が存在する場合に、前記第1制動部材(50)に前記第2制動部材(51,52)を接触させて前記液体を除去する液体除去制御を実行させる実行ステップ(S19)を有する車両の運動支援方法において、
前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であるか否かを判定させる状況判定ステップ(S10)と、
前方を走行する前走車(C2)との車間距離(Lp)を取得させる車間距離取得ステップ(S15)と、をさらに有し、
前記実行ステップ(S19)では、前記状況判定ステップ(S10)にて前記各制動部材(50,51,52)の間に液体が入り得る状況であると判定した場合に、前記車間距離取得ステップ(S15)にて取得した車間距離(Lp)が短いほど早いタイミングで前記液体除去制御を実行させることを特徴とする車両の運動支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−163006(P2010−163006A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6023(P2009−6023)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】