説明

車両ステアリング用伸縮軸の製造方法

【課題】従来の鉄系材料を用いた雄スプライン軸と同等又はそれ以上の強度を有し、大幅に軽量化されるにもかかわらず、優れた耐クリープ性と摺動性を併せ持つ車両ステアリング用伸縮軸を得ることができる車両ステアリング用伸縮軸の製造方法を提供する。
【解決手段】車両ステアリング用伸縮軸20は、回転不能且つ軸方向に摺動自在に嵌合する雄スプライン軸21と雌スプライン軸22とからなり、雄スプライン軸21が、引張強度2GPa以上、且つ引張弾性率50GPa以上の高強度・高弾性率の有機繊維のフィラメントを束にした1本以上のフィラメント束を液状熱硬化性樹脂に含浸させながら、回転する芯材に所定の角度で巻き付け、熱で硬化させるフィラメントワインディング法によって円筒状素材を成形した後、円筒状素材を切削加工して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ステアリング用伸縮軸の製造方法に関し、より詳細には、軽量であるにもかかわらず、高摺動性及び高耐クリープ性を合わせ持ち、車両の操舵機構部に用いるのに好適な車両ステアリング用伸縮軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車の操舵機構部15は、図6に示すように、車体側のメンバ1に、アッパブラケット2とロアブラケット3とを介して取り付けられるステアリングコラム4と、ステアリングコラム4に回転自在に支持されるステアリングシャフト5と、ステアリングシャフト5の上端に装着されるステアリングホイール6と、ステアリングシャフト5の下段にカルダン軸継手7を介して連結される中間シャフト8と、中間シャフト8にカルダン軸継手9を介して連結されるピニオンシャフト10に連結されるステアリングラック軸11と、ステアリングラック軸11を支持して車体の別のフレーム12に弾性体13を介して固定されるステアリングラック支持部材14と、を備える。
【0003】
中間シャフト8には、雄スプライン軸8aと雌スプライン軸8bとを嵌合した伸縮軸が採用されている(以下、伸縮軸8と称する)。この伸縮軸8には、自動車が走行する際に発生する軸方向の変位を吸収し、ステアリングホイール6上にその変位や振動を伝えない性能が要求される。
【0004】
このような性能は、車体がサブフレーム構造となっていて、操舵機構部15の上部を固定するメンバ1と、ステアリングラック支持部材14が固定されるフレーム12と、が別体となっており、ステアリングラック支持部材14がゴムなどの弾性体13を介してフレーム12に締結固定される構造の場合に要求される。
【0005】
また、その他のケースとして、カルダン軸継手9をピニオンシャフト10に締結する際に、作業者が伸縮軸8を一旦収縮させてからピニオンシャフト10に嵌合させて締結するために伸縮機能が必要とされる。
【0006】
さらに、操舵機構部15の上部にあるステアリングシャフト5も、雄スプライン軸5aと雌スプライン軸5bとを嵌合したものである(以下、伸縮軸5と称する)。この伸縮軸5は、運転者が自動車を運転するのに最適な運転姿勢を確保するためにステアリングホイール6の位置を軸方向に移動し、その位置を調整するテレスコ機能が要求されるため、軸方向に伸縮する機能が要求される。
【0007】
ここで、伸縮軸5,8には、雄スプライン軸5a,8a及び雌スプライン軸5b,8bの嵌合部におけるガタ音の低減、ステアリングホイール6上のガタ感の低減、さらには、軸方向摺動時における摺動抵抗の低減が要求される。
【0008】
従来の車両ステアリング用伸縮軸としては、雄スプライン軸の表面にポリアミド等のナイロン膜を形成し、さらに摺動部にグリースを塗布して、金属騒音、金属打音等を吸収又は緩和すると共に、摺動抵抗の低減、及び回転方向ガタの低減を図ったものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような雄スプライン軸は、シャフト(軸)洗浄→プライマー塗布→加熱→ナイロン粉末コート→粗切削加工→仕上げ切削加工→雌スプライン軸との選択嵌合の各工程を経て製作される。最終の仕上げ切削加工は、既に加工済みの雌スプライン軸の加工精度に合わせて、ダイスを選択して加工される。
【0009】
また、モース硬度4.5以下の充填剤を5〜50重量%含有する合成樹脂組成物からなる樹脂層を、雄スプライン軸と雌スプライン軸との間に設け、耐クリープ性を向上させた車両ステアリング用伸縮軸が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2006−123820号公報
【特許文献2】特開2008−168890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、地球温暖化に対応するため炭酸ガス排出量の低減要求が強く、各部品の軽量化を進めることによっても自動車の低燃費化が図られている。しかしながら、車両ステアリング用伸縮軸は、摺動する表面部分を除いて鉄系材料が用いられており、必ずしも軽量化に対応したものではなかった。また、上記特許文献1及び2に記載の車両ステアリング用伸縮軸は、雄スプライン軸の表面に樹脂層を形成し、摺動抵抗及び回転方向ガタの低減や、耐クリープ性の向上を図っているが、この樹脂層によっても発生するガタをまったくゼロにすることはできなかった。また、樹脂層に添加する充填剤が、摩擦特性等の摺動性改善にあまりつながらないため、作動性に改善の余地があった。
【0012】
また、上記特許文献1に記載の車両ステアリング用伸縮軸によると、ナイロン膜が形成された雄スプライン軸を、雌スプライン軸の加工精度に合わせて高精度に仕上げ切削加工する必要があり、加工コストが非常に高くなるという問題点があった。また、膜の材料として、非強化のナイロンを使用しているため、徐々にへたり(クリープ)が発生して、雄スプライン軸と雌スプライン軸との間に微小なガタが発生する可能性があった。
【0013】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の鉄系材料を用いた雄スプライン軸と同等又はそれ以上の強度を有し、大幅に軽量化されるにもかかわらず、優れた耐クリープ性と摺動性を併せ持つ車両ステアリング用伸縮軸を得ることができる車両ステアリング用伸縮軸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)車両の操舵機構部に組み込まれ、回転不能且つ軸方向に摺動自在に嵌合する雄スプライン軸と雌スプライン軸とからなる車両ステアリング用伸縮軸の製造方法であって、雄スプライン軸が、引張強度2GPa以上、且つ引張弾性率50GPa以上の高強度・高弾性率の有機繊維のフィラメントを束にした1本以上のフィラメント束を液状熱硬化性樹脂に含浸させながら、回転する芯材に所定の角度で巻き付け、熱で硬化させるフィラメントワインディング法によって円筒状素材を成形した後、円筒状素材を切削加工して形成されることを特徴とする車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。
(2)有機繊維は、炭素繊維、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)に記載の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。
(3)液状熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂又はビスマレイミド樹脂であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。
(4)車両ステアリング用伸縮軸は、ラックアンドピニオン式電動パワーステアリング装置の伸縮軸として用いられることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法によれば、雄スプライン軸が、引張強度2GPa以上、且つ引張弾性率50GPa以上の高強度・高弾性率の有機繊維のフィラメントを束にした1本以上のフィラメント束を液状熱硬化性樹脂に含浸させながら、回転する芯材に所定の角度で巻き付け、熱で硬化させるフィラメントワインディング法によって円筒状素材を成形した後、この円筒状素材を切削加工して形成されるため、従来の鉄系材料を用いた雄スプライン軸と同等又はそれ以上の強度を有し、大幅に軽量化されるにもかかわらず、優れた耐クリープ性と摺動性を併せ持つ車両ステアリング用伸縮軸を得ることができる。
【0016】
また、プリプレグを積層して製造するシートワインディング法(プリプレグの厚さと巻数による)と比較すると、フィラメント径と巻数を調整することによって外径精度を細かくコントロールすることができるので、車両ステアリング用伸縮軸の製作コストを抑制することができる。また、スプライン部等の仕上げを切削加工で行っても、シートワインディング法によるとプリプレグ間で生じる可能性がある層間剥離等が起き難いので、信頼性の高い車両ステアリング用伸縮軸を得ることができる。
【0017】
なお、有機繊維としては、引張強度が2GPa以上、且つ引張弾性率が50GPa以上の炭素繊維、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維であることが好ましい。さらに、液状熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂又はビスマレイミド樹脂であることが好ましい。このような車両ステアリング用伸縮軸は、ラックアンドピニオン式電動パワーステアリング装置に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両ステアリング用伸縮軸の製造方法を適用するのに好適な車両ステアリング用伸縮軸の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、車両ステアリング用伸縮軸20(以下、単に「伸縮軸20」と省略する)は、雄スプライン軸21と雌スプライン軸22とからなり、互いに回転不能且つ軸方向に摺動自在に嵌合し、例えば、車両の操舵機構部に組み込まれて用いられる。なお、操舵機構部の構成については、上記した従来の操舵機構部15と同様であるので、その説明を省略する。
【0020】
雌スプライン軸22は、従来の雌スプライン軸と同様に鉄系材料によって製作されており、図2に示すように、軸方向に雌スプライン部22aが形成される。また、雌スプライン軸22は、適宜の熱処理を施すことにより、雌スプライン部22aの表面硬度を上げて、耐摩耗性を向上させる方が好ましい。
【0021】
雄スプライン軸21は、図3及び図4に示すように、フィラメントワインディング法によって円筒状素材23を成形し、その円筒状素材23の外周面を切削加工することによって、雄スプライン部21aが形成される。
【0022】
本実施形態のフィラメントワインディング法とは、従来用いられていた鉄系材料に代わって、高強度・高弾性率の有機繊維(例えば、引張強度が2GPa以上、且つ引張弾性率が50GPa以上)のフィラメントを束にしたフィラメント束24を、液状熱硬化性樹脂に含浸させながら、回転する芯材25に所定の角度で巻き付け、熱で硬化させる製造方法であり、この製造方法によって上記円筒状素材23が成形される。
【0023】
そして、引張強度が2GPa以上、且つ引張張比率が50GPa以上の高強度・高弾性率の有機繊維としては、表1及び表2に示す繊維を挙げることができる。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
上記表1に示すパラ系アラミド繊維とは、具体的には、ポリパラフェニレンテレフタラミドと、それに第3成分としてジアミンを共重合させて延伸性等を改善したコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミドのことである。また、PBO繊維とは、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール)繊維のことである。また、ポリアリレート繊維とは、二価フェノールと芳香族ジカルボン酸との重縮合物である全芳香族ポリエステル繊維のことである。そして、上記表1に示す3つの繊維の中では、引張強度がPAN系炭素繊維の引張強度(2.0〜7.1GPa程度)のレベルに近いPBO繊維が最も好適である。
【0027】
上記表2に示す有機繊維は、引張強度が2GPa以上、且つ引張弾性率が50GPa以上の特性を有するものの、超高分子量ポリエチレン繊維は、融点が140℃程度であり、使用時に軟化することが想定されるので適用が困難である。また、PAN系炭素繊維は、鉄系材料への傷付性があるので、相手部材である雌スプライン軸22に熱処理等の硬化処理を行う必要があり、コストアップの要因となる。ただし、炭素繊維部分を表面層に使わずに、芯材近傍部分に用いることにより、雄スプライン軸21の剛性を向上させることもできる。
【0028】
これに対して、上記表1に示す3種類の有機繊維は、高強度でありながら、柔軟性を有し、鉄系材料への傷付性がなく、摺動特性にも優れるので、相手材である雌スプライン軸22に熱処理等の硬化処理を行う必要がなく、低コスト化が可能となる。また、従来の鉄系材料同士の摺動に比べて、滑らかな作動が可能になる。
【0029】
これらの有機繊維は、液状熱硬化性樹脂との接着性を向上させるために、その繊維表面に、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びビスマレイミド樹脂から選ばれる少なくとも1つのサイジング剤を処理した方がより好適である。
【0030】
また、有機繊維の平均直径は、好ましくは6〜21μm、より好ましくは8〜15μmである。平均直径が6μm未満の場合、繊維径が細すぎて、1本あたりの強度が低いため、安定した製造が困難となり、大幅なコストアップとなるので実用性が低い。また、平均直径が21μmを越える場合、1本あたりの強度は増加するものの、繊維が太くなることで、緻密なフィラメントワインディングが困難になり好ましくない。
【0031】
なお、有機繊維の一部に、強度が低いものの鉄への傷付性がなく、耐熱性に優れる高耐熱性の有機繊維を代わりに含有させてもよい。このような高耐熱性の有機繊維の具体例としては、メタ系アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド(PI)繊維等を挙げることができる。
【0032】
液状熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好適に用いられる。その他、ビスマレイミド樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂等も適用可能である。なお、ポリアミノアミド樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤としても使用可能である。
【0033】
また、液状熱硬化性樹脂の含有量は、好ましくは25〜45重量%、より好ましくは30〜40重量%である。含有率が25重量%未満の場合は、含有率が少なすぎてフィラメント同士の接着接合が難しく、安定した製造が困難となり好ましくない。含有率が45重量%を越える場合は、成形体状態での柔軟性は向上するものの、有機繊維の絶対量が少な過ぎるため、鉄系材料並の引張強度を達成することが困難となり好ましくない。
【0034】
フィラメント束24は、完成した雄スプライン軸21に求められる一定レベル以上の引張強度と曲げ強度を達成するため、図5に示すように、芯材25に対して垂直に近い角度80〜88°で巻き付けるパラレル巻工程と、芯材25に対して平行に近い角度10〜20°で巻きつけるヘリカル巻工程と、を数巻ずつ交互に行うのがよい。
【0035】
芯材25としては、雄スプライン軸21を軽量化するため、アルミニウム又は表面に酸化被膜(アルマイト)処理を行ったアルミニウム製の丸棒を選定するのが最も好適であるが、強度が不足する場合は、鉄系材料を用いてもよい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法によれば、雄スプライン軸21が、引張強度2GPa以上、且つ引張弾性率50GPa以上の高強度・高弾性率の有機繊維のフィラメントを束にした1本以上のフィラメント束24を液状熱硬化性樹脂に含浸させながら、回転する芯材25に所定の角度で巻き付け、熱で硬化させるフィラメントワインディング法によって円筒状素材23を成形した後、この円筒状素材23を切削加工して形成されるため、従来の鉄系材料を用いた雄スプライン軸と同等又はそれ以上の強度を有し、大幅に軽量化されるにもかかわらず、優れた耐クリープ性と摺動性を併せ持つ車両ステアリング用伸縮軸20を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法によれば、フィラメントワインディング法によって円筒状素材23を成形するため、プリプレグを積層して製造するシートワインディング法(プリプレグの厚さと巻数による)と比較すると、フィラメント径と巻数を調整することによって外径精度を細かくコントロールすることができるので、車両ステアリング用伸縮軸20の製作コストを抑制することができる。また、スプライン部等の仕上げを切削加工で行っても、シートワインディング法によるとプリプレグ間で生じる可能性がある層間剥離等が起き難いので、信頼性の高い車両ステアリング用伸縮軸20を得ることができる。
【実施例】
【0038】
本発明の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法の作用効果を確認するため、本発明の製造方法により製作された雄スプライン軸(本発明例)と、従来の製造方法により製作された雄スプライン軸(比較例)について、摺動耐久性試験を行い比較した。
【0039】
(本発明例の製作方法)
アルミニウム製の芯材25をフィラメントワインディング装置に固定した状態で回転させ、有機繊維フィラメント束24を樹脂含浸槽に浸潰して液状エポキシ樹脂に含浸させた後、張力を掛けながら樹脂含浸槽を移動してフィラメント束24を芯材25に巻き付ける。
【0040】
また、巻き方は、図5(a)に示すヘリカル巻(巻付け角度を芯材25に対して15°に設定)で一定厚みになるまで巻き付けた後、図5(b)に示すパラレル巻(巻付け角度を芯材25に対して88°に設定)で一定厚みになるまで巻き付ける工程を1サイクルとし、所定のサイクル数を行う。その後、ヘリカル巻で最終外径を超えるまで巻き付けて最表層部分を成形した後、150℃で2時間の熱処理を行って液状エポキシ樹脂を硬化させ、端面からはみ出した芯材25と両端部分を切断して、図4に示す円筒状素材23を製作した。
【0041】
(本発明例1の仕様)
(1)有機繊維の種類:PAN系炭素繊維(サイジング剤処理済み:東邦テナックス製テナックス(商標登録)・フィラメントHTA−12K)
(2)フィラメント繊維直径:7μm
(3)フィラメント束数:12000本
(4)フィラメント引張強度:3.92GPa
(5)フィラメント引張弾性率:235GPa
(6)フィラメント伸度:1.7%
(7)液状熱硬化性樹脂含有率:30重量%(エポキシ樹脂、硬化温度150℃)
(8)巻き方の仕様(円筒状素材外径φ30mm、アルミ芯材外径φ12mm)
ヘリカル巻(角度は、芯材に対して15°)厚さ0.5mm
パラレル巻(角度は、芯材に対して88°)厚さ0.5mm
以上を1サイクルとして8サイクル実施後、厚さ1.0mmのヘリカル巻(角度は、芯材に対して15°)を行って最表層部分を形成。
【0042】
(本発明例2の仕様)
(1)有機繊維の種類:
内側:PAN系炭素繊維(サイジング剤処理済み:東邦テナックス製テナックス(商標登録)・フィラメントHTA−12K)
外側:パラ系アラミド繊維(サイジング剤処理されたコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド:帝人テクノプロダクツ製テクノーラ(商標登録))
(2)フィラメント繊維直径:PAN系炭素繊維7μm、パラ系アラミド繊維12μm
(3)フィラメント束数:12000本
(4)フィラメント引張強度:PAN系炭素繊維3.92GPa、パラ系アラミド繊維3.43GPa
(5)フィラメント引張弾性率:PAN系炭素繊維235GPa、パラ系アラミド繊維7 2.5GPa
(6)フィラメント伸度:PAN系炭素繊維1.7%、パラ系アラミド繊維4.6%
(7)液状熱硬化性樹脂含有率:30重量%(エポキシ樹脂、硬化温度150℃)
(8)巻き方の仕様(円筒状素材外径φ30mm、アルミ芯材外径φ12mm)
ヘリカル巻(角度は、芯材に対して15°)厚さ0.5mm
パラレル巻(角度は、芯材に対して88°)厚さ0.5mm
以上を1サイクルとしてPAN系炭素繊維で6サイクル実施後、パラ系アラミド繊維で2サイクル実施、さらにパラ系アラミド繊維で厚さ1.0mmのヘリカル巻(角度は、芯材に対して15°)を行って最表層部分を形成。
【0043】
(本発明例3の仕様)
(1)有機繊維の種類:サイジング剤処理されたポリアリレート繊維(クラレ製ベクトラン(商標登録)高強力タイプ)
(2)フィラメント繊維直径:10μm
(3)フィラメント束数:12000本
(4)フィラメント引張強度:3.23GPa
(5)フィラメント引張弾性率:74.6GPa
(6)フィラメント伸度:3.8%
(7)液状熱硬化性樹脂含有率:30重量%(エポキシ樹脂、硬化温度150℃)
(8)巻き方の仕様:本発明例1と同じ
【0044】
(本発明例4の仕様)
(1)有機繊維の種類:サイジング剤処理されたPBO繊維(東洋紡製ザイロン(商標登録)HM:高弾性率タイプ)
(2)フィラメント繊維直径:124μm
(3)フィラメント束数:12000本
(4)フィラメント引張強度:5.8GPa
(5)フィラメント引張弾性率:270GPa
(6)フィラメント伸度:2.5%
(7)液状熱硬化性樹脂含有率:30重量%(エポキシ樹脂、硬化温度150℃)
(8)巻き方の仕様:本発明例1と同じ
【0045】
(比較例1の仕様)
従来の工程(雄スプライン軸の表面にナイロン膜をコーティングし、摺動部にグリースを塗布する工程:シャフトの洗浄→プライマー塗布→加熱→ナイロン粉末コート→粗切削→仕上げ切削→雄スプライン軸)で、洗浄後にプライマー処理を行った雄スプライン軸の表面に、ナイロン11(PA11:例えば、アルケマ製リルサン(商標登録)BMNOTLD、熱安定剤・UV安定剤添加グレード)の粉末コーティングを実施して皮膜を形成し、その後、切削加工で膜厚500μmに調整した雄スプライン軸を形成した(上記特許文献1参照)。
【0046】
(比較例2の仕様)
雄スプライン軸をコアにしたインサート成形により、表面部分の樹脂スリーブを形成した。樹脂スリーブを形成する合成樹脂組成物は、直鎖状PPS樹脂組成物[チタン酸カリウムウィスカー表面処理品を30重量%含有する、例えば、ポリプラスチックス製フォートロン(商標登録)3130A1]とし、厚さは500μmとした(上記特許文献2参照)。
【0047】
(摺動耐久性の評価)
本試験は、試験体である本発明例1〜4及び比較例1、2の雄スプライン軸の表面にグリースを塗布した後、それぞれを雌スプライン軸に圧入して、下記の環境条件下で行った。
環境条件1:30℃、50%RH
環境条件2:80℃、50%RH
【0048】
摺動回数は10万回、30万回、50万回で、雄スプライン軸の表面にへたりが発生することで雌スプライン軸との間にガタが生じ、初期の騒音レベルに対して、騒音レベルの増加が2dB以上のものを不合格「×」、騒音レベルの増加が2dB以下のものを合格「○」とした。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3から明らかなように、本発明例1〜4の雄スプライン軸は、いずれの環境条件及び摺動回数でも問題はなく合格であった。これに対して、比較例1、2の雄スプライン軸は、比較例2の環境条件1以外、摺動回数50万回を達成することができなかった。
【0051】
従って、本発明の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法により雄スプライン軸を形成することによって、従来の鉄系材料を用いた雄スプライン軸と同等又はそれ以上の強度を有し、大幅に軽量化されるにもかかわらず、優れた耐クリープ性と摺動性を併せ持つ車両ステアリング用伸縮軸を得ることができ、本発明の有効性が実証された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る車両ステアリング用伸縮軸の製造方法により製作される車両ステアリング用伸縮軸を示す斜視図である。
【図2】図1に示す雌スプライン軸の横断面図である。
【図3】図1に示す雄スプライン軸の横断面図である。
【図4】フィラメントワインディング法によって製作された円筒状素材の縦断面図である。
【図5】フィラメントワインディング法におけるフィラメントの巻き方を説明する図であり、(a)はヘリカル巻きの概略図、(b)はパラレル巻きの概略図である。
【図6】自動車の操舵機構部の概略構成図である。
【符号の説明】
【0053】
15 操舵機構部
20 車両ステアリング用伸縮軸(伸縮軸)
21 雄スプライン軸
21a 雄スプライン部
22 雌スプライン軸
22a 雌スプライン部
23 円筒状素材
24 フィラメント束
25 芯材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵機構部に組み込まれ、回転不能且つ軸方向に摺動自在に嵌合する雄スプライン軸と雌スプライン軸とからなる車両ステアリング用伸縮軸の製造方法であって、
前記雄スプライン軸が、引張強度2GPa以上、且つ引張弾性率50GPa以上の高強度・高弾性率の有機繊維のフィラメントを束にした1本以上のフィラメント束を液状熱硬化性樹脂に含浸させながら、回転する芯材に所定の角度で巻き付け、熱で硬化させるフィラメントワインディング法によって円筒状素材を成形した後、前記円筒状素材を切削加工して形成されることを特徴とする車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。
【請求項2】
前記有機繊維は、炭素繊維、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。
【請求項3】
前記液状熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂又はビスマレイミド樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。
【請求項4】
前記車両ステアリング用伸縮軸は、ラックアンドピニオン式電動パワーステアリング装置の伸縮軸として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両ステアリング用伸縮軸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−95159(P2010−95159A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267842(P2008−267842)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】