車両前部構造
【課題】車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる車両前部構造を提供する。
【解決手段】サイドシル4の前部とフロントサイドフレームの後端部とを連結するようにダッシュパネル2に沿って延びる閉断面14を備え、該閉断面14には、その下面を形成するトルクボックス部材13を備えた車両前部構造であって、トルクボックス部材13は、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結しており、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結する連結部分には、補強部材としてのガセット15を設けた。
【解決手段】サイドシル4の前部とフロントサイドフレームの後端部とを連結するようにダッシュパネル2に沿って延びる閉断面14を備え、該閉断面14には、その下面を形成するトルクボックス部材13を備えた車両前部構造であって、トルクボックス部材13は、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結しており、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結する連結部分には、補強部材としてのガセット15を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サイドシルの前部とフロントサイドフレームの後端部とを連結するようにダッシュパネルに沿って延びる閉断面と、その下面を形成するトルクボックス部材とを備えた車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車室内の乗員を確実に保護するという観点から、障害物に対して車両前部が衝突した時、障害物の車室内への侵入をいかにして抑制するかが課題となっており、この課題を解決すべく、今日までに様々な構造が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、フロントサイドフレームの略真下に配設されたサブフレームの前端部とフロントサイドフレームとの間に衝突荷重伝達部材を介装したものが開示されている。
【0004】
下記特許文献1は、ポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に車両前部が衝突した時を想定したものであり、上記障害物の衝突時にその衝突荷重がサブフレームに加わると、上記衝突荷重伝達部材を介して上記衝突荷重をフロントサイドフレームに分散させることが可能になっている。この場合、最終的には、フロントサイドフレームが有する衝突エネルギー吸収機能によって上記衝突荷重を吸収することができる。
【0005】
また、この他にも、下記特許文献2では、車両前部のフロントピラーの下部に車幅方向に延びるクロスメンバを配設したものにおいて、フロントピラーの前壁とクロスメンバの前壁とを、結合部材としてのリーンホースメントによって結合したものが開示されている。
【0006】
下記特許文献2では、フロントピラーとクロスメンバとの結合強度を上記リーンホースメントによって向上させることが可能になっている。このため、車両前部が衝突した時、タイヤの入り込みに伴ってフロントピラーとクロスメンバとが剥離することを防止でき、その結果、タイヤが車室内に侵入することを抑制できるようなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−83258号公報
【特許文献2】特開平11−310160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、車両前部がポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突した時、特にフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した上記障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制したいというニーズが高まっている。
【0009】
そこで、本発明者は、フロントサイドフレームの車幅方向外側から上記障害物が侵入する時に発生する現象について解析を行った。そして、本発明者は、鋭意研究の結果、フロントサイドフレームの車幅方向外側から上記障害物が侵入した時、該障害物の衝突荷重によって、トルクボックス部材とサイドシルとが剥離し易くなることを見出した。なお、サイドシルは、車両側部にて前後方向に延びる部材であり、トルクボックス部材は、サイドシルの前部とフロントサイドフレームの後端部とを連結する閉断面において、その下面を形成する部材である。
【0010】
ここで、上記特許文献1について見てみると、該特許文献1では、あくまでも上記障害物が車両前部の車幅方向中央部に衝突、侵入した時を想定しているに過ぎない。従って、フロントサイドフレームの略真下に配設されたサブフレームで上記障害物の衝突荷重を受け止める上記特許文献1の構成では、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した上記障害物が車室内へ侵入することを確実に抑制できない。
【0011】
また、上記特許文献2について見てみると、該特許文献2では、あくまでもフロントピラーとクロスメンバとが剥離することを防止しているに過ぎず、このような構成では、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した上記障害物が車室内へ侵入することを確実に抑制できない。
【0012】
この発明は、車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の車両前部構造は、車室の前壁部を構成するダッシュパネルと、車両側部にて前後方向に延びる左右一対のサイドシルと、上記ダッシュパネルから車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの後方において車体フロア下面を前後方向に延びる左右一対のフロアフレームとを備えると共に、上記サイドシルの前部と上記フロントサイドフレームの後端部とを連結するように上記ダッシュパネルに沿って延びる閉断面を備え、該閉断面には、その下面を形成するトルクボックス部材を備えた車両前部構造であって、上記トルクボックス部材は、上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結しており、上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結する連結部分には、補強部材を設けたものである。
【0014】
この構成によれば、車両前部が車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突し、この障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入したとしても、トルクボックス部材とサイドシルとが剥離することを補強部材によって防止できる。そして、このようにしてトルクボックス部材とサイドシルとの剥離を防止することで、上記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記補強部材が、上記トルクボックス部材と上記サイドシルとを連結するガセットにより構成されるものである。
【0016】
この構成によれば、上記障害物が衝突した時の衝突荷重によって剥離し易いとされるトルクボックス部材とサイドシルとの連結部分を直接的に補強でき、両者の剥離をより効果的に防止できる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記ガセットが、上記閉断面内に設けられているものである。
【0018】
この構成によれば、閉断面の断面剛性をガセットによって向上させることができる。このため、フロアフレームとサイドシルの前部との連結部分をさらに補強することができ、ひいては、トルクボックス部材とサイドシルとの剥離をより効果的に防止することができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、上記トルクボックス部材が、上記ダッシュパネルに沿って車両後方から前方に向かって立ち上がる立ち上がり部を有し、上記補強部材は、上記立ち上がり部と対応する位置に設けられるものである。
【0020】
この構成によれば、上記障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時には、立ち上がり部及びこれに対応する補強部材の部位が、上記障害物の衝突荷重を真正面で強固に受け止めることができる。このため、トルクボックス部材とサイドシルとの剥離をより効果的に防止することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、上記連結部分よりも後方に、車幅方向に延びるクロスメンバを備えており、上記補強部材を、上記連結部分から上記クロスメンバに亘って前後方向に延びるように設けたものである。
【0022】
この構成によれば、補強部材と、車体剛性の確保のために元々高い剛性を有しているクロスメンバとの協働によって、上記連結部分をより強固に補強することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、車両前部が車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突し、この障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入したとしても、トルクボックス部材とサイドシルとが剥離することを補強部材によって防止できるため、上記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図。
【図2】図1の底面図。
【図3】ダッシュロアパネルを取外した状態を示す斜視図。
【図4】図3のA−A線矢視相当の断面図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る車両前部を下方から見た斜視図。
【図6】図5のB−B線矢視断面図。
【図7】図5のC−C線矢視断面図。
【図8】本発明の第3実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図。
【図9】図8のD−D線矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図4に示す第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図であり、図2は、同底面図である。また、図3は、ダッシュロアパネル22を取外した状態を示す斜視図であり、図4は、図3のA−A線矢視相当の断面図である。なお、図中において矢印(F)は車体前方、矢印(R)は車体後方を示し、矢印(IN)は車体内方、矢印(OUT)は車体外方を示す。
【0026】
図1、図2に示すように、第1実施形態に係る車両は、その前部において、エンジンルームEと車室1と仕切り、該車室1の前壁部を構成しているダッシュパネル2と、車室1の底面を形成するフロアパネル3とを備えている。ここで、ダッシュパネル2は、フロアパネル3から立ち上がるように配設されたダッシュアッパパネル21と、該ダッシュアッパパネル21の下端部からフロアパネル3に向かって下方かつ後方に延びるダッシュロアパネル22とにより構成されている。
【0027】
また、車両前部では、フロアパネル3の左右両側部に、車両前後方向に延設された一対のサイドシル4と、サイドシル4の前端部から上方に延びるフロントドア(不図示)用のヒンジピラー5とが備えられており、これらサイドシル4やヒンジピラー5等により、側部開口部6を形成している。
【0028】
また、ダッシュパネル2及びフロアパネル3の車幅方向中央には、前端部がダッシュパネル2に接続されると共に、フロアパネル3から車体内方側の車室1に向かって凸設されたトンネル部7が備えられている。そして、フロアパネル3には、車幅方向に延びてトンネル部7とサイドシル4とを接続するクロスメンバ8が備えられている。
【0029】
クロスメンバ8は、フロアパネル3の上面側において車体内方側に凸設された断面ハット状のフレーム部材であり、後述するサイドシル4のインナパネル41に接合するためのフランジ部8aと、フロアパネル3に接合するためのフランジ部8bと、トンネル部7の側面に接合するためのフランジ部8cとを有している。そして、クロスメンバ8と、フロアパネル3、サイドシル4、及びトンネル部7との接合により、クロスメンバ8とフロアパネル3との間には、トンネル部7からサイドシル4に亘って車幅方向に延びる閉断面が形成されている。
【0030】
また、車両前部の底面側では、図2に示すように、フロアパネル3において、サイドシル4とトンネル部7との間に、車両前後方向に延びるフロアフレーム9、9が配設され、図2に示すようにダッシュパネル2から車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム10、10の後方に位置している。
【0031】
フロアフレーム9、9は、フロアパネル3の下面において車体外方側に凸設された断面ハット状のフレームであり、ダッシュロアパネル22及びフロアパネル3とによって、車両前後方向に延びる閉断面9A(図4参照)を形成している。
【0032】
また、左右一対のフロントサイドフレーム10、10は、図2に示すようにその前端部にそれぞれ衝撃吸収部材としてのクラッシュカン11、11が取り付けられている。そして、クラッシュカン11の前端部には、車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント12の両端部が連結されている。
【0033】
また、図1〜図4に示すように、ダッシュパネル2を構成するダッシュロアパネル22の下方では、フロアフレーム9とサイドシル4との間にトルクボックス部材13が配設されている。
【0034】
トルクボックス部材13は、ダッシュロアパネル22に沿った形状をなし、図2、図3に示すように、車両後方から前方に向かって立ち上がる立ち上がり部13aを有している。
【0035】
本実施形態では、ダッシュロアパネル22の下方において、サイドシル4の前部とフロントサイドフレーム10の後端部とを連結するようにダッシュパネル2(ダッシュロアパネル22)に沿って延びる閉断面14(図4参照)が形成されており、上述したトルクボックス部材13は、この閉断面14の下面を形成している。そして、車両前部では、この閉断面14により、車幅方向における操舵性の向上が図られている。
【0036】
また、本実施形態では、図1〜図4に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結する連結部分において、閉断面14の内部に、補強部材としてのガセット15が設けられている。
【0037】
ガセット15は、図1〜図3に示すように、フロアパネル3の前端部から車両前方に延びており、トルクボックス部材13の立ち上がり部13aの形状に沿うようにしてこれと対応する位置にも設けられている。そして、ガセット15は、図3、図4に示すように、トルクボックス部材13に沿って形成された横壁部15aと、該横壁部15aの車幅方向外側端部から上方に立ち上がる縦壁部15bとを有し、これら横壁部15aと縦壁部15bとによって断面略L字状をなしている。
【0038】
ところで、トルクボックス部材13よりも車幅方向外側に位置するサイドシル4は、図1〜図4に示すように、主に車幅方向内側部を構成するサイドシルインナ41と、車幅方向外側部を構成するサイドシルアウタ42により構成され、これらサイドシルインナ41とサイドシルアウタ42とによって、車両前後方向に延びる閉断面4A(図4参照)を形成している。そして、サイドシル4は、図4に示すように、閉断面4A内において、サイドシルインナ41とサイドシルアウタ42との間にサイドシルレインフォースメント43を有している。
【0039】
上述したトルクボックス部材13は、その車幅方向内側端部がフロアフレーム9の下面9aに接合される一方、その反対側となる車幅方向外側端部がサイドシルインナ41の下面41bに接合されている。これにより、サイドシル4の前部とフロアフレーム9とは、トルクボックス部材13を介して連結されている。
【0040】
また、ガセット15は、トルクボックス部材13aの立ち上がり部13aに沿ってその前部が上方に立ち上がった形状をなしており、その横壁部15aが図3にて×印で示す位置でトルクボックス部材13にスポット溶接される一方、縦壁部15bがサイドシルインナ41の側面41aに図3にて×印で示す位置でスポット溶接されている。これにより、トルクボックス部材13とサイドシル4(サイドシルインナ41)とは、直接的な接合だけでなく、ガセット15を介した間接的な接合によっても両者が連結されている。なお、ここでは、各部位の接合をスポット溶接によって行うこととしているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、レーザー溶接でもよい。
【0041】
ここで、本実施形態に係る車両において、その前部が、車幅方向に広がりを備えていないポールP(図2参照)に衝突し、このポールPがフロントサイドフレーム10の車幅方向外側から侵入した時を考えてみる。この時、ポールPの車幅方向における位置は、図2に示すように、サイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の比較的剛性の低い領域であって、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結している位置、より詳しくは、トルクボックス部材13とサイドシル4とを連結している位置と略同じになる。このため、ポールPが車両後方に向かってさらに侵入すると、いずれは、図2にて二点鎖線で示すようにトルクボックス部材13とサイドシル4との連結部分の直ぐ前方に到達し、トルクボックス部材13等に対して大きな衝突荷重が加わることになる。
【0042】
そこで、本実施形態では、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分に、該連結部分を補強する補強部材として、トルクボックス部材13とサイドシル4とを連結するガセット15を設けている。これにより、車両前部が車幅方向に広がりを備えていないポールPに衝突し、このポールPがフロントサイドフレーム10の車幅方向外側から侵入したとしても、トルクボックス部材13とサイドシル4とが剥離することをガセット15によって防止できる。そして、このようにしてトルクボックス部材13とサイドシル4との剥離を防止することで、ポールPがサイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の領域を経て車室1内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0043】
また、トルクボックス部材13とサイドシルインナ41とを連結するガセット15により上記補強部材を構成することで、ポールPが衝突した時の衝突荷重によって剥離し易いとされる、トルクボックス部材13とサイドシルインナ41との連結(接合)部分を直接的に補強でき、両者の剥離をより効果的に防止できる。
【0044】
また、ガセット15が閉断面14の内部に設けられることにより、該閉断面14の断面剛性をガセット15によって向上させることができる。このため、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分をさらに補強することができ、ひいては、トルクボックス部材13とサイドシル4との剥離をより効果的に防止することができる。
【0045】
また、トルクボックス部材13の立ち上がり部13aと対応する位置にもガセット15を設けることにより、ポールPがフロントサイドフレーム10の車幅方向外側から侵入した時には、立ち上がり部13a及びこれに対応するガセット15の部位が、ポールPの衝突荷重を真正面で強固に受け止めることができる。このため、トルクボックス部材13とサイドシル4との剥離をより効果的に防止することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、図5〜図7に示す第2実施形態について説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る車両前部を下方から見た斜視図であり、図6、図7は、それぞれ図5のB−B線矢視断面図、C−C線矢視断面図である。なお、図5〜図7において、図1〜図4に示す第1実施形態と同様の構成要素については、同一の番号を付して説明を省略する。
【0047】
本実施形態では、図5、図6に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、閉断面14の外部に、トルクボックス部材13の下面からサイドシルインナ41の下面41bに亘って延びるガセット55が設けられている。そして、ガセット55は、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からその後方に位置するクロスメンバ8に亘って車両前後方向に延びるように設けられている。
【0048】
ガセット55は、トルクボックス部材13に沿った形状をなす第1横壁部55aと、フロアパネル3に沿った形状をなす第2横壁部55bとを有すると共に、トルクボックス部材13とフロアパネル3との間に成形された段差部の形状に沿った形状をなし、第1、第2横壁部55a、55bを接続する段差部55cを有している。
【0049】
また、ガセット55は、第1、第2横壁部55a、55bの車幅方向外側に位置してサイドシルインナ41と図5にて×印で示す位置で接合される第1フランジ55dと、第1横壁部55aの車幅方向内側に位置してトルクボックス部材13と図5にて×印で示す位置で接合される第2フランジ55eと、第2横壁部55aの車幅方向内側に位置してフロアパネル3に接合される第3フランジ55fとを有している。
【0050】
本実施形態では、図6に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、トルクボックス部材13の下面とサイドシルインナ41の下面41bとがガセット55により閉断面14の外部で連結されている。そして、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分とクロスメンバ8との間では、図7に示すように、サイドシルインナ41の下面41bとフロアパネル3の下面とがガセット55により連結されている。
【0051】
このように、トルクボックス部材13とサイドシル4とをガセット55により閉断面14の外部で連結する構成であっても、ポールP(図2参照)の衝突時には、第1実施形態と同様、トルクボックス部材13とサイドシル4とが剥離することをガセット55によって防止でき、ポールPがサイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の領域を経て車室1(図1参照)内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0052】
また、本実施形態の場合、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からクロスメンバ8に亘ってガセット55を設けているため、ガセット55と、車体剛性の確保のために元々高い剛性を有しているクロスメンバ8との協働によって、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分をより強固に補強することができる。
【0053】
なお、本実施形態においても、上述した第1実施形態と同様、ガセット55をトルクボックス部材13の立ち上がり部13aまで延設してもよい。
【0054】
(第3実施形態)
次に、図8、図9に示す第3実施形態について説明する。図8は、本発明の第3実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図であり、図9は、図8のD−D線矢視断面図である。なお、図8、図9において、図1〜図4に示す第1実施形態と同様の構成要素については、同一の番号を付して説明を省略する。
【0055】
本実施形態では、図8、図9に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、閉断面14の外部に、ダッシュロアパネル22の上面からサイドシルインナ41の側面41aに亘って延びるガセット65が設けられている。そして、ガセット65は、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からクロスメンバ8に亘って車両前後方向に延びるように設けられている。
【0056】
ガセット65は、ダッシュロアパネル22及びフロアパネル3に沿った形状をなす横壁部65aと、サイドシルインナ41の側面41aに沿った形状をなす縦壁部65bとを有し、これら横壁部65aと縦壁部65bとによって断面略L字状をなしている。
【0057】
また、ガセット65は、その横壁部65aがダッシュロアパネル22に沿って図8にて×印で示す位置でこれにスポット溶接される一方、縦壁部65bがサイドシルインナ41の側面41aに図8にて×印で示す位置でスポット溶接されている。
【0058】
本実施形態では、図9に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、ダッシュロアパネル22の上面とサイドシルインナ41の側面41aとがガセット65により閉断面14の外部で連結されている。そして、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分とクロスメンバ8との間では、サイドシルインナ41の側面41aとフロアパネル3の上面とがガセット65により連結されている。
【0059】
このように、連結部材としてのガセット65がトルクボックス部材13とサイドシル4とを連結するものでなかったとしても、これをフロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分に設けることで、ポールP(図2参照)の衝突時には、トルクボックス部材13とサイドシル4とが剥離することをガセット65によって防止でき、ポールPがサイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の領域を経て車室1内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0060】
また、本実施形態の場合、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からクロスメンバ8に亘ってガセット65を設けたことで、クロスメンバ8とガセット55との協働により、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分をより強固に補強することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
なお、本発明では、第1実施形態のガセット15、第2実施形態のガセット55、及び第3実施形態のガセット65のいずれか2つの部材を組み合わせることにより上記補強部材を構成してもよく、さらには、全てのガセット15、55、65を組み合わせて上記補強部材を構成してもよい。但し、この場合、補強の効果を考慮すると、少なくともトルクボックス部材13の立ち上がり部13aと対応する位置まで延設されたガセット15を設けるのが好ましい。
【0062】
また、上述した各実施形態では、車両前部が車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突した例として、車両前部がポールPに衝突した時について説明したが、車幅方向に広がりを備えていない障害物であれば、必ずしもポールPに限定されるものではない。
例えば、車幅方向に広がりを備えていない障害物を、自動車道の中央分離帯や、ガードレールの端部、ブロック塀等としてもよい。
【0063】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の、連結部材は、ガセット15、55、65に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
2…ダッシュパネル
4…サイドシル
8…クロスメンバ
9…フロアフレーム
10…フロントサイドフレーム
13…トルクボックス部材
13a…立ち上がり部
14…閉断面
15、55、65…ガセット
【技術分野】
【0001】
この発明は、サイドシルの前部とフロントサイドフレームの後端部とを連結するようにダッシュパネルに沿って延びる閉断面と、その下面を形成するトルクボックス部材とを備えた車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車室内の乗員を確実に保護するという観点から、障害物に対して車両前部が衝突した時、障害物の車室内への侵入をいかにして抑制するかが課題となっており、この課題を解決すべく、今日までに様々な構造が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、フロントサイドフレームの略真下に配設されたサブフレームの前端部とフロントサイドフレームとの間に衝突荷重伝達部材を介装したものが開示されている。
【0004】
下記特許文献1は、ポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に車両前部が衝突した時を想定したものであり、上記障害物の衝突時にその衝突荷重がサブフレームに加わると、上記衝突荷重伝達部材を介して上記衝突荷重をフロントサイドフレームに分散させることが可能になっている。この場合、最終的には、フロントサイドフレームが有する衝突エネルギー吸収機能によって上記衝突荷重を吸収することができる。
【0005】
また、この他にも、下記特許文献2では、車両前部のフロントピラーの下部に車幅方向に延びるクロスメンバを配設したものにおいて、フロントピラーの前壁とクロスメンバの前壁とを、結合部材としてのリーンホースメントによって結合したものが開示されている。
【0006】
下記特許文献2では、フロントピラーとクロスメンバとの結合強度を上記リーンホースメントによって向上させることが可能になっている。このため、車両前部が衝突した時、タイヤの入り込みに伴ってフロントピラーとクロスメンバとが剥離することを防止でき、その結果、タイヤが車室内に侵入することを抑制できるようなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−83258号公報
【特許文献2】特開平11−310160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、車両前部がポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突した時、特にフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した上記障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制したいというニーズが高まっている。
【0009】
そこで、本発明者は、フロントサイドフレームの車幅方向外側から上記障害物が侵入する時に発生する現象について解析を行った。そして、本発明者は、鋭意研究の結果、フロントサイドフレームの車幅方向外側から上記障害物が侵入した時、該障害物の衝突荷重によって、トルクボックス部材とサイドシルとが剥離し易くなることを見出した。なお、サイドシルは、車両側部にて前後方向に延びる部材であり、トルクボックス部材は、サイドシルの前部とフロントサイドフレームの後端部とを連結する閉断面において、その下面を形成する部材である。
【0010】
ここで、上記特許文献1について見てみると、該特許文献1では、あくまでも上記障害物が車両前部の車幅方向中央部に衝突、侵入した時を想定しているに過ぎない。従って、フロントサイドフレームの略真下に配設されたサブフレームで上記障害物の衝突荷重を受け止める上記特許文献1の構成では、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した上記障害物が車室内へ侵入することを確実に抑制できない。
【0011】
また、上記特許文献2について見てみると、該特許文献2では、あくまでもフロントピラーとクロスメンバとが剥離することを防止しているに過ぎず、このような構成では、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した上記障害物が車室内へ侵入することを確実に抑制できない。
【0012】
この発明は、車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の車両前部構造は、車室の前壁部を構成するダッシュパネルと、車両側部にて前後方向に延びる左右一対のサイドシルと、上記ダッシュパネルから車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの後方において車体フロア下面を前後方向に延びる左右一対のフロアフレームとを備えると共に、上記サイドシルの前部と上記フロントサイドフレームの後端部とを連結するように上記ダッシュパネルに沿って延びる閉断面を備え、該閉断面には、その下面を形成するトルクボックス部材を備えた車両前部構造であって、上記トルクボックス部材は、上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結しており、上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結する連結部分には、補強部材を設けたものである。
【0014】
この構成によれば、車両前部が車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突し、この障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入したとしても、トルクボックス部材とサイドシルとが剥離することを補強部材によって防止できる。そして、このようにしてトルクボックス部材とサイドシルとの剥離を防止することで、上記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記補強部材が、上記トルクボックス部材と上記サイドシルとを連結するガセットにより構成されるものである。
【0016】
この構成によれば、上記障害物が衝突した時の衝突荷重によって剥離し易いとされるトルクボックス部材とサイドシルとの連結部分を直接的に補強でき、両者の剥離をより効果的に防止できる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記ガセットが、上記閉断面内に設けられているものである。
【0018】
この構成によれば、閉断面の断面剛性をガセットによって向上させることができる。このため、フロアフレームとサイドシルの前部との連結部分をさらに補強することができ、ひいては、トルクボックス部材とサイドシルとの剥離をより効果的に防止することができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、上記トルクボックス部材が、上記ダッシュパネルに沿って車両後方から前方に向かって立ち上がる立ち上がり部を有し、上記補強部材は、上記立ち上がり部と対応する位置に設けられるものである。
【0020】
この構成によれば、上記障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時には、立ち上がり部及びこれに対応する補強部材の部位が、上記障害物の衝突荷重を真正面で強固に受け止めることができる。このため、トルクボックス部材とサイドシルとの剥離をより効果的に防止することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、上記連結部分よりも後方に、車幅方向に延びるクロスメンバを備えており、上記補強部材を、上記連結部分から上記クロスメンバに亘って前後方向に延びるように設けたものである。
【0022】
この構成によれば、補強部材と、車体剛性の確保のために元々高い剛性を有しているクロスメンバとの協働によって、上記連結部分をより強固に補強することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、車両前部が車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突し、この障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入したとしても、トルクボックス部材とサイドシルとが剥離することを補強部材によって防止できるため、上記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図。
【図2】図1の底面図。
【図3】ダッシュロアパネルを取外した状態を示す斜視図。
【図4】図3のA−A線矢視相当の断面図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る車両前部を下方から見た斜視図。
【図6】図5のB−B線矢視断面図。
【図7】図5のC−C線矢視断面図。
【図8】本発明の第3実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図。
【図9】図8のD−D線矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図4に示す第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図であり、図2は、同底面図である。また、図3は、ダッシュロアパネル22を取外した状態を示す斜視図であり、図4は、図3のA−A線矢視相当の断面図である。なお、図中において矢印(F)は車体前方、矢印(R)は車体後方を示し、矢印(IN)は車体内方、矢印(OUT)は車体外方を示す。
【0026】
図1、図2に示すように、第1実施形態に係る車両は、その前部において、エンジンルームEと車室1と仕切り、該車室1の前壁部を構成しているダッシュパネル2と、車室1の底面を形成するフロアパネル3とを備えている。ここで、ダッシュパネル2は、フロアパネル3から立ち上がるように配設されたダッシュアッパパネル21と、該ダッシュアッパパネル21の下端部からフロアパネル3に向かって下方かつ後方に延びるダッシュロアパネル22とにより構成されている。
【0027】
また、車両前部では、フロアパネル3の左右両側部に、車両前後方向に延設された一対のサイドシル4と、サイドシル4の前端部から上方に延びるフロントドア(不図示)用のヒンジピラー5とが備えられており、これらサイドシル4やヒンジピラー5等により、側部開口部6を形成している。
【0028】
また、ダッシュパネル2及びフロアパネル3の車幅方向中央には、前端部がダッシュパネル2に接続されると共に、フロアパネル3から車体内方側の車室1に向かって凸設されたトンネル部7が備えられている。そして、フロアパネル3には、車幅方向に延びてトンネル部7とサイドシル4とを接続するクロスメンバ8が備えられている。
【0029】
クロスメンバ8は、フロアパネル3の上面側において車体内方側に凸設された断面ハット状のフレーム部材であり、後述するサイドシル4のインナパネル41に接合するためのフランジ部8aと、フロアパネル3に接合するためのフランジ部8bと、トンネル部7の側面に接合するためのフランジ部8cとを有している。そして、クロスメンバ8と、フロアパネル3、サイドシル4、及びトンネル部7との接合により、クロスメンバ8とフロアパネル3との間には、トンネル部7からサイドシル4に亘って車幅方向に延びる閉断面が形成されている。
【0030】
また、車両前部の底面側では、図2に示すように、フロアパネル3において、サイドシル4とトンネル部7との間に、車両前後方向に延びるフロアフレーム9、9が配設され、図2に示すようにダッシュパネル2から車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム10、10の後方に位置している。
【0031】
フロアフレーム9、9は、フロアパネル3の下面において車体外方側に凸設された断面ハット状のフレームであり、ダッシュロアパネル22及びフロアパネル3とによって、車両前後方向に延びる閉断面9A(図4参照)を形成している。
【0032】
また、左右一対のフロントサイドフレーム10、10は、図2に示すようにその前端部にそれぞれ衝撃吸収部材としてのクラッシュカン11、11が取り付けられている。そして、クラッシュカン11の前端部には、車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント12の両端部が連結されている。
【0033】
また、図1〜図4に示すように、ダッシュパネル2を構成するダッシュロアパネル22の下方では、フロアフレーム9とサイドシル4との間にトルクボックス部材13が配設されている。
【0034】
トルクボックス部材13は、ダッシュロアパネル22に沿った形状をなし、図2、図3に示すように、車両後方から前方に向かって立ち上がる立ち上がり部13aを有している。
【0035】
本実施形態では、ダッシュロアパネル22の下方において、サイドシル4の前部とフロントサイドフレーム10の後端部とを連結するようにダッシュパネル2(ダッシュロアパネル22)に沿って延びる閉断面14(図4参照)が形成されており、上述したトルクボックス部材13は、この閉断面14の下面を形成している。そして、車両前部では、この閉断面14により、車幅方向における操舵性の向上が図られている。
【0036】
また、本実施形態では、図1〜図4に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結する連結部分において、閉断面14の内部に、補強部材としてのガセット15が設けられている。
【0037】
ガセット15は、図1〜図3に示すように、フロアパネル3の前端部から車両前方に延びており、トルクボックス部材13の立ち上がり部13aの形状に沿うようにしてこれと対応する位置にも設けられている。そして、ガセット15は、図3、図4に示すように、トルクボックス部材13に沿って形成された横壁部15aと、該横壁部15aの車幅方向外側端部から上方に立ち上がる縦壁部15bとを有し、これら横壁部15aと縦壁部15bとによって断面略L字状をなしている。
【0038】
ところで、トルクボックス部材13よりも車幅方向外側に位置するサイドシル4は、図1〜図4に示すように、主に車幅方向内側部を構成するサイドシルインナ41と、車幅方向外側部を構成するサイドシルアウタ42により構成され、これらサイドシルインナ41とサイドシルアウタ42とによって、車両前後方向に延びる閉断面4A(図4参照)を形成している。そして、サイドシル4は、図4に示すように、閉断面4A内において、サイドシルインナ41とサイドシルアウタ42との間にサイドシルレインフォースメント43を有している。
【0039】
上述したトルクボックス部材13は、その車幅方向内側端部がフロアフレーム9の下面9aに接合される一方、その反対側となる車幅方向外側端部がサイドシルインナ41の下面41bに接合されている。これにより、サイドシル4の前部とフロアフレーム9とは、トルクボックス部材13を介して連結されている。
【0040】
また、ガセット15は、トルクボックス部材13aの立ち上がり部13aに沿ってその前部が上方に立ち上がった形状をなしており、その横壁部15aが図3にて×印で示す位置でトルクボックス部材13にスポット溶接される一方、縦壁部15bがサイドシルインナ41の側面41aに図3にて×印で示す位置でスポット溶接されている。これにより、トルクボックス部材13とサイドシル4(サイドシルインナ41)とは、直接的な接合だけでなく、ガセット15を介した間接的な接合によっても両者が連結されている。なお、ここでは、各部位の接合をスポット溶接によって行うこととしているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、レーザー溶接でもよい。
【0041】
ここで、本実施形態に係る車両において、その前部が、車幅方向に広がりを備えていないポールP(図2参照)に衝突し、このポールPがフロントサイドフレーム10の車幅方向外側から侵入した時を考えてみる。この時、ポールPの車幅方向における位置は、図2に示すように、サイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の比較的剛性の低い領域であって、フロアフレーム9とサイドシル4の前部とを連結している位置、より詳しくは、トルクボックス部材13とサイドシル4とを連結している位置と略同じになる。このため、ポールPが車両後方に向かってさらに侵入すると、いずれは、図2にて二点鎖線で示すようにトルクボックス部材13とサイドシル4との連結部分の直ぐ前方に到達し、トルクボックス部材13等に対して大きな衝突荷重が加わることになる。
【0042】
そこで、本実施形態では、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分に、該連結部分を補強する補強部材として、トルクボックス部材13とサイドシル4とを連結するガセット15を設けている。これにより、車両前部が車幅方向に広がりを備えていないポールPに衝突し、このポールPがフロントサイドフレーム10の車幅方向外側から侵入したとしても、トルクボックス部材13とサイドシル4とが剥離することをガセット15によって防止できる。そして、このようにしてトルクボックス部材13とサイドシル4との剥離を防止することで、ポールPがサイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の領域を経て車室1内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0043】
また、トルクボックス部材13とサイドシルインナ41とを連結するガセット15により上記補強部材を構成することで、ポールPが衝突した時の衝突荷重によって剥離し易いとされる、トルクボックス部材13とサイドシルインナ41との連結(接合)部分を直接的に補強でき、両者の剥離をより効果的に防止できる。
【0044】
また、ガセット15が閉断面14の内部に設けられることにより、該閉断面14の断面剛性をガセット15によって向上させることができる。このため、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分をさらに補強することができ、ひいては、トルクボックス部材13とサイドシル4との剥離をより効果的に防止することができる。
【0045】
また、トルクボックス部材13の立ち上がり部13aと対応する位置にもガセット15を設けることにより、ポールPがフロントサイドフレーム10の車幅方向外側から侵入した時には、立ち上がり部13a及びこれに対応するガセット15の部位が、ポールPの衝突荷重を真正面で強固に受け止めることができる。このため、トルクボックス部材13とサイドシル4との剥離をより効果的に防止することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、図5〜図7に示す第2実施形態について説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る車両前部を下方から見た斜視図であり、図6、図7は、それぞれ図5のB−B線矢視断面図、C−C線矢視断面図である。なお、図5〜図7において、図1〜図4に示す第1実施形態と同様の構成要素については、同一の番号を付して説明を省略する。
【0047】
本実施形態では、図5、図6に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、閉断面14の外部に、トルクボックス部材13の下面からサイドシルインナ41の下面41bに亘って延びるガセット55が設けられている。そして、ガセット55は、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からその後方に位置するクロスメンバ8に亘って車両前後方向に延びるように設けられている。
【0048】
ガセット55は、トルクボックス部材13に沿った形状をなす第1横壁部55aと、フロアパネル3に沿った形状をなす第2横壁部55bとを有すると共に、トルクボックス部材13とフロアパネル3との間に成形された段差部の形状に沿った形状をなし、第1、第2横壁部55a、55bを接続する段差部55cを有している。
【0049】
また、ガセット55は、第1、第2横壁部55a、55bの車幅方向外側に位置してサイドシルインナ41と図5にて×印で示す位置で接合される第1フランジ55dと、第1横壁部55aの車幅方向内側に位置してトルクボックス部材13と図5にて×印で示す位置で接合される第2フランジ55eと、第2横壁部55aの車幅方向内側に位置してフロアパネル3に接合される第3フランジ55fとを有している。
【0050】
本実施形態では、図6に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、トルクボックス部材13の下面とサイドシルインナ41の下面41bとがガセット55により閉断面14の外部で連結されている。そして、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分とクロスメンバ8との間では、図7に示すように、サイドシルインナ41の下面41bとフロアパネル3の下面とがガセット55により連結されている。
【0051】
このように、トルクボックス部材13とサイドシル4とをガセット55により閉断面14の外部で連結する構成であっても、ポールP(図2参照)の衝突時には、第1実施形態と同様、トルクボックス部材13とサイドシル4とが剥離することをガセット55によって防止でき、ポールPがサイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の領域を経て車室1(図1参照)内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0052】
また、本実施形態の場合、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からクロスメンバ8に亘ってガセット55を設けているため、ガセット55と、車体剛性の確保のために元々高い剛性を有しているクロスメンバ8との協働によって、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分をより強固に補強することができる。
【0053】
なお、本実施形態においても、上述した第1実施形態と同様、ガセット55をトルクボックス部材13の立ち上がり部13aまで延設してもよい。
【0054】
(第3実施形態)
次に、図8、図9に示す第3実施形態について説明する。図8は、本発明の第3実施形態に係る車両前部を上方から見た斜視図であり、図9は、図8のD−D線矢視断面図である。なお、図8、図9において、図1〜図4に示す第1実施形態と同様の構成要素については、同一の番号を付して説明を省略する。
【0055】
本実施形態では、図8、図9に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、閉断面14の外部に、ダッシュロアパネル22の上面からサイドシルインナ41の側面41aに亘って延びるガセット65が設けられている。そして、ガセット65は、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からクロスメンバ8に亘って車両前後方向に延びるように設けられている。
【0056】
ガセット65は、ダッシュロアパネル22及びフロアパネル3に沿った形状をなす横壁部65aと、サイドシルインナ41の側面41aに沿った形状をなす縦壁部65bとを有し、これら横壁部65aと縦壁部65bとによって断面略L字状をなしている。
【0057】
また、ガセット65は、その横壁部65aがダッシュロアパネル22に沿って図8にて×印で示す位置でこれにスポット溶接される一方、縦壁部65bがサイドシルインナ41の側面41aに図8にて×印で示す位置でスポット溶接されている。
【0058】
本実施形態では、図9に示すように、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分において、ダッシュロアパネル22の上面とサイドシルインナ41の側面41aとがガセット65により閉断面14の外部で連結されている。そして、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分とクロスメンバ8との間では、サイドシルインナ41の側面41aとフロアパネル3の上面とがガセット65により連結されている。
【0059】
このように、連結部材としてのガセット65がトルクボックス部材13とサイドシル4とを連結するものでなかったとしても、これをフロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分に設けることで、ポールP(図2参照)の衝突時には、トルクボックス部材13とサイドシル4とが剥離することをガセット65によって防止でき、ポールPがサイドシル4とフロントサイドフレーム10との間の領域を経て車室1内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0060】
また、本実施形態の場合、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分からクロスメンバ8に亘ってガセット65を設けたことで、クロスメンバ8とガセット55との協働により、フロアフレーム9とサイドシル4の前部との連結部分をより強固に補強することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
なお、本発明では、第1実施形態のガセット15、第2実施形態のガセット55、及び第3実施形態のガセット65のいずれか2つの部材を組み合わせることにより上記補強部材を構成してもよく、さらには、全てのガセット15、55、65を組み合わせて上記補強部材を構成してもよい。但し、この場合、補強の効果を考慮すると、少なくともトルクボックス部材13の立ち上がり部13aと対応する位置まで延設されたガセット15を設けるのが好ましい。
【0062】
また、上述した各実施形態では、車両前部が車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突した例として、車両前部がポールPに衝突した時について説明したが、車幅方向に広がりを備えていない障害物であれば、必ずしもポールPに限定されるものではない。
例えば、車幅方向に広がりを備えていない障害物を、自動車道の中央分離帯や、ガードレールの端部、ブロック塀等としてもよい。
【0063】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の、連結部材は、ガセット15、55、65に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
2…ダッシュパネル
4…サイドシル
8…クロスメンバ
9…フロアフレーム
10…フロントサイドフレーム
13…トルクボックス部材
13a…立ち上がり部
14…閉断面
15、55、65…ガセット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前壁部を構成するダッシュパネルと、
車両側部にて前後方向に延びる左右一対のサイドシルと、
上記ダッシュパネルから車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
該フロントサイドフレームの後方において車体フロア下面を前後方向に延びる左右一対のフロアフレームとを備えると共に、
上記サイドシルの前部と上記フロントサイドフレームの後端部とを連結するように上記ダッシュパネルに沿って延びる閉断面を備え、
該閉断面には、その下面を形成するトルクボックス部材を備えた車両前部構造であって、
上記トルクボックス部材は、上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結しており、
上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結する連結部分には、補強部材を設けた
車両前部構造。
【請求項2】
上記補強部材は、上記トルクボックス部材と上記サイドシルとを連結するガセットにより構成される
請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
上記ガセットは、上記閉断面内に設けられている
請求項2記載の車両前部構造。
【請求項4】
上記トルクボックス部材は、上記ダッシュパネルに沿って車両後方から前方に向かって立ち上がる立ち上がり部を有し、
上記補強部材は、上記立ち上がり部と対応する位置に設けられる
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
上記連結部分よりも後方には、車幅方向に延びるクロスメンバを備えており、
上記補強部材を、上記連結部分から上記クロスメンバに亘って前後方向に延びるように設けた
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【請求項1】
車室の前壁部を構成するダッシュパネルと、
車両側部にて前後方向に延びる左右一対のサイドシルと、
上記ダッシュパネルから車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
該フロントサイドフレームの後方において車体フロア下面を前後方向に延びる左右一対のフロアフレームとを備えると共に、
上記サイドシルの前部と上記フロントサイドフレームの後端部とを連結するように上記ダッシュパネルに沿って延びる閉断面を備え、
該閉断面には、その下面を形成するトルクボックス部材を備えた車両前部構造であって、
上記トルクボックス部材は、上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結しており、
上記フロアフレームと上記サイドシルの前部とを連結する連結部分には、補強部材を設けた
車両前部構造。
【請求項2】
上記補強部材は、上記トルクボックス部材と上記サイドシルとを連結するガセットにより構成される
請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
上記ガセットは、上記閉断面内に設けられている
請求項2記載の車両前部構造。
【請求項4】
上記トルクボックス部材は、上記ダッシュパネルに沿って車両後方から前方に向かって立ち上がる立ち上がり部を有し、
上記補強部材は、上記立ち上がり部と対応する位置に設けられる
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
上記連結部分よりも後方には、車幅方向に延びるクロスメンバを備えており、
上記補強部材を、上記連結部分から上記クロスメンバに亘って前後方向に延びるように設けた
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−166740(P2012−166740A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30855(P2011−30855)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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