説明

車両接近警告送信装置、車両接近警告受信装置および車両接近警告システム

【課題】聴覚障害者にも有効な車両接近警告送信装置、受信装置を提供すること。
【解決手段】車両接近警告送信装置は、車両において、LEDを用いた前照灯などの外部に光を放射する発光手段、断続的に所定の変調信号を生成する信号生成手段、変調信号に基づいて発光手段の点灯、消灯を制御する制御手段とを備える。受信装置は、変調光を受光する光センサー手段、復調手段、変調信号の有無を判定する判定手段、変調信号が検出された場合に音声出力手段、振動出力手段、有線出力手段、無線出力手段の内の少なくとも1つの手段で情報を出力する出力手段を備える。また、無線出力信号を受信し、振動出力を発生させる子機を備えてもよい。聴覚障害者であっても車両の接近を認識することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両接近警告送信装置、車両接近警告受信装置および車両接近警告システムに関するものであり、特に聴覚障害者にも有効な車両接近警告送信装置、車両接近警告受信装置および車両接近警告システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者に車両の接近を警告する方法として、例えば車両がバックする時や左右へ曲る時にブザーや合成音声で警告するものがある。また、電気自動車などエンジン音がしない車両の場合には低速走行時に疑似走行音あるいは接近警告音を発生させることが検討されている。下記の特許文献1には、周囲の特定の歩行者などに自車両が接近していることを的確に認識可能となるようにするために、車両から接近告知音を発生させる接近告知装置が開示されている。
【0003】
この接近告知装置においては、乗員がステアリングに設けているトラッグパットに触れ、更にトラッグパッド上を移動すると、接触位置の移動方向を判定し、この移動方向を接近告知音の発音方向に設定し、アクチュエータを作動してスピーカを発音方向へ向けた後、スピーカから接近告知音を発する。これにより、乗員の意思に基づいて、特定の歩行者などへ向けて接近告知音を発し、自車両の接近を的確に告知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2008−162477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような警告音を用いた従来の車両接近警告方式においては、健常者や視覚障害者には有効であるが、耳が遠くなった高齢者を含めた聴覚障害者には効果が無いという問題点があった。
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決し、聴覚障害者にも有効な車両接近警告送信装置、車両接近警告受信装置および車両接近警告システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両接近警告送信装置は、車両において、外部に光を放射する発光手段と、断続的に所定の変調信号を生成する信号生成手段と、前記変調信号に基づいて前記発光手段の点灯、消灯を制御する制御手段とを備えたことを主要な特徴とする。
【0007】
また、上記した車両接近警告送信装置において、前記発光手段は発光ダイオードを用いた車両の前照灯あるいはバックライトのいずれかである点にも特徴がある。また、上記した車両接近警告送信装置において、前記信号生成手段および前記制御手段は、既存の電子制御装置に前記信号生成手段および前記制御手段の機能を実行するためのプログラムを実装したものである点にも特徴がある。
【0008】
本発明の車両接近警告受信装置は、車両から送信される変調光を受光して光強度に応じた電気信号を出力する光センサー手段と、前記電気信号から変調信号を検出する復調手段と、前記復調手段によって検出された変調信号の有無を判定する判定手段と、前記変調信号が検出された場合に音声出力手段、振動出力手段、有線出力手段、無線出力手段の内の少なくとも1つの手段で情報を出力する出力手段とを備えたことを主要な特徴とする。
【0009】
また、上記した車両接近警告受信装置において、前記出力手段は無線出力手段を備え、更に、前記無線出力手段による出力信号を受信し、振動出力を発生させる子機を備えた点にも特徴がある。また、上記した車両接近警告受信装置において、前記子機は標準化された近距離無線インターフェイス機能を備えた携帯電話機である点にも特徴がある。
本発明の車両接近警告システムは、上記した車両接近警告送信装置と、上記した車両接近警告受信装置とを含むことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果がある。
(1)耳が遠くなった高齢者や聴覚障害者であっても車両の接近を認識することができる。
(2)既存のヘッドライト等を利用して警告信号を送信可能であり、車両側の装置の追加負担を軽くできる。
(3)騒音環境下でも確実に認識することが可能である。
(4)警告音による騒音問題が発生しない。
(5)本発明のシステムと警告音との併用により、より効果が増す。
(6)ヘッドライトには指向性があるので無用な方向へ警告信号が放射されない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の車両接近警告システム全体の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の車両接近警告送信装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の車両接近警告受信装置の構成を示すブロック図である。
【図4】車両接近警告受信装置の子機の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の車両接近警告システムにおいて伝送される警告信号の構成例を示す波形図である。
【図6】本発明の車両接近警告送信装置の実施例2の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の車両接近警告システム全体の構成を示すブロック図である。自動車等の車両10には、本発明の車両接近警告送信装置を構成する制御装置11および前照灯12が備えられている。制御装置11は、車両に標準的に装備されている既存の前照灯制御回路に本発明の警告信号送信機能を追加したものである。詳細は後述する。
【0014】
前照灯12はLED(発光ダイオード)を使用したライトであり、高速でオン(点灯)、オフ(消灯)が可能なものである。制御装置11からの制御に基づき、前照灯12は所定の周期で、人には認識できない程度の短い時間だけ警告信号を送信(発光)する。
【0015】
歩行者15は、例えばヘッドバンド18を用いて後頭部に本発明の車両接近警告受信装置16を装着している。また、車両接近警告受信装置16の子機(携帯電話機)17をポケット等に携帯している。車両10が後方から接近してきた場合には、車両接近警告受信装置16は前照灯12から照射された警告信号光を受光し、警告信号を検出すると、音、振動、有線信号あるいは無線信号の内の少なくとも1つを出力する。
【0016】
子機(携帯電話機)17は、車両接近警告受信装置16から出力された無線信号を受信するとバイブレータを用いて振動を出力し、歩行者に車両の接近を警告する。
【0017】
なお、車両接近警告受信装置16から無線出力信号としてブルートゥースなどの標準化された近距離無線インターフェイス規格の所定の信号を出力し、ブルートゥース機能を実装した携帯電話機においてこの信号を受信した場合にバイブレータを駆動するアプリプログラムを実行させておくことにより、子機17として市販の携帯電話機を使用することも可能である。
【0018】
図2は、本発明の車両接近警告送信装置の構成を示すブロック図である。ECU20は車両に装備されている既存の電子制御装置であり、運転者の操作や車両の状態に応じて駆動回路25を制御してLED前照灯12を点灯あるいは消灯させる。ECU20から出力される前照灯12の点灯(論理1)、消灯(論理0)信号は論理回路26のAND回路21に入力される。
【0019】
1s(1秒)クロック発生器30は1秒周期の矩形波を発生する。1ms(1ミリ秒)パルス発生器31はクロック発生器30から出力される矩形波の立ち上がりにおいて1msだけ1になるパルスを発生する。この信号は論理回路26のAND回路22およびNOT回路24に入力され、NOT回路24の出力はAND回路21に入力される。2つのAND回路21、22の出力はOR回路23に入力される。
【0020】
従って、OR回路23からは、1msパルス発生器31の出力が1のときのみ、パルス変調器33の出力信号が出力され、それ以外の時にはECU20の出力信号が出力される。
【0021】
10μs(1マイクロ秒)クロック発生器32は10マイクロ秒(周波数=100kHz)周期の矩形波を発生する。パルス変調器33は、クロック発生器32から出力される10μs周期の矩形波、パルス発生器31から出力されるパルス、車種データ、速度データを入力し、変調信号(パルス振幅変調−パルス幅変調)を出力する。
【0022】
図5は、本発明の車両接近警告システムにおいて伝送される警告信号の構成例を示す波形図である。図5(a)は、パルス発生器31から出力されるパルスの例であり、Tpは1秒、Tsは1msである。図5(b)は、パルス変調器33から出力されるパルスの例であり、Tcは10μ秒、T1は例えば400μsであり、この間連続して10μs周期の矩形波(パルス振幅変調信号)が出力される。
【0023】
T2は例えば、軽車両(自転車)、普通自動車、大型車などの車種によって100〜200μs、T3は例えば車速(1〜20km/h)によって100〜200μsであってもよい。これらの信号はパルス振幅変調−パルス幅変調信号である。
【0024】
パルス変調器33は、例えばカウンタや各種論理回路などを組み合わせることによって図5に示すような変調信号を生成する。なお、本発明の実施には最低限T1期間の変調信号のみがあればよく、この場合にはパルス変調器33はANDゲート回路によって実現可能である。なお、1sクロック発生器30、1msパルス発生器31、パルス変調器33はFPGAや1チップマイクロコンピューターを用いても実現可能である。
【0025】
図3は、本発明の車両接近警告受信装置の構成を示すブロック図である。光センサー40は例えばフォトトランジスタ等を用いた、受光した光の強度を電圧に変換する公知の光センサーである。光センサー回路41は、光センサー40からの出力信号を所定の増幅率、あるいは入力電圧に応じた増幅率(AGC)で増幅する。復調器42は、例えば中心周波数が変調信号の周波数である100kHzのバンドパスフィルタ回路および検波回路を組み合わせたものであり、バンドパスフィルタ回路は演算増幅器を用いたアクティブフィルタを使用可能である。
【0026】
例えば聴覚障害の人が使用する場合には、前方は視認可能であるので、左右および後方からの車の接近が検知できればよい。そこで、光センサー40(受光範囲90度以上)、光センサー回路41、復調器42のセットは例えば3組装備され、図1に示すように利用者の後頭部に受信装置16を装着した場合に、光センサー40の向きが後方、左方、右方の3方向に向くように配置する。
【0027】
視覚障害の人が利用する場合など前方からの接近も検知する必要がある場合には、前方検知用の光センサー40の接続線を装置から延ばして光センサー40をヘッドバンドに装着するようにしてもよい。
【0028】
1チップマイクロコンピューター43は、CPU、ROM(フラッシュメモリ)、RAM、デジタル入出力ポート、内部A/D変換器に接続されたアナログ入力ポート、タイマー回路等を備えた周知のLSIであり、本発明に必要な機能を備えた任意のものを使用可能である。
【0029】
1チップマイクロコンピューター43は例えば所定の周期で各復調器42の出力電圧をアナログ入力ポートから取り込み、A/D変換して所定値よりも高いか否かによって変調信号が検出されたか否かを判定する。そして、変調信号が検出されると、DIPスイッチ48によって予め設定されている出力手段、例えば無線信号出力手段であるデータ送信器46を駆動して無線信号を出力する。電池50の出力は電源回路によって一定の電圧に変換され、受信装置16内の各回路に供給される。
【0030】
図4は、車両接近警告受信装置の子機の構成を示すブロック図である。データ受信器61は親機16のデータ送信器46から出力された無線信号を受信し、デジタルデータを出力する。1チップマイクロコンピューター62は例えば1チップマイクロコンピューター43と同一のLSIであり、データ受信器61から出力されるデジタルデータを読み込み、解析して車両接近情報である場合にはバイブレータ63を駆動して一定時間振動を出力する。
【実施例2】
【0031】
図6は、本発明の車両接近警告送信装置の実施例2の構成を示すブロック図である。既存の車両に送信機能を付加するためには、ヘッドライトの制御、駆動回路の改造が必要である。そこで、本発明の機能をより簡単に実現するために、ヘッドライトとは別に送信装置を設けてもよい。実施例2は、ヘッドライトとは別に、変調信号を単に一定間隔で一定時間だけ送信する簡単な構成の送信装置を設ける例である。
【0032】
図6において、図2と同じ番号がふられている回路は同じ機能であることを示している。AND回路71からは、1秒間隔で1msだけ10μs周期(100kHz)の変調信号が出力される。この変調信号が1の時にはNMOSFET72がオンとなり、更にPMOSFET73がオンになる。すると電源(+12V)からFET73、電流制限用抵抗74、可視光LED75に電流が流れ、車両の前方に向けて装着されたLED75が発光する。
【0033】
この回路は低速走行中にのみ発光する方式も考えられるが、むしろ、運転可能な状態(キーが挿入されている状態)である時には常に動作(発光)することが望ましい。実施例2の車両接近警告送信装置は短時間のみ発光するだけであるので消費電力は少なく、電池でも駆動可能である。従って、自転車でも装着可能である。
【0034】
以上、実施例について説明したが、以下のような変形例も考えられる。実施例においては、1秒に1回警告信号を送信する例を開示したが、一定距離(例えば数メートル)進む毎に警告信号を送信するようにしてもよい。受信側では受信時間間隔で速度が推定できる。実施例においてはLED前照灯を用いる例を開示したが、LED以外でもレーザー発光装置など、高速にオンオフでき、変調信号の送信が可能な発光手段であれば任意のものを利用可能である。
【0035】
実施例においては受信装置を後頭部に装着する例を開示したが、受信装置あるいは受信装置の光センサーは、頭頂部(帽子、ヘルメット)、衣服の後ろ襟、ランドセルなど背中に背負うバッグ、視覚障害者用の白杖などに装着可能である。また、受信装置あるいは受信装置の光センサーを、懐中電灯のような小型軽量の筐体に納めて、歩行者が任意の方向に向けることができるようにしてもよい。
【0036】
実施例においてはパルス振幅変調−パルス幅変調を用いる例を開示したが、10μsのパルス振幅変調信号をキャリヤと見なした調歩同期信号(パルスコード変調信号)を使用してもよい。
LEDの駆動回路としては定電流回路が使用されており、定電流回路においては電流を断続して制御している。従って、電流制御をPWM制御にすることによって定電流回路のチョッパー周波数を例えば10μsに固定することが可能である。そしてチョッパー周波数でLEDがオンオフするかあるいは明るさが増減するようにすれば、ヘッドライト点灯中に常時接近警告信号を送出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は任意の車両の車両接近警告システムとして利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10…車両
11…制御装置
12…前照灯
15…歩行者
16…車両接近警告受信装置
17…子機(携帯電話機)
18…ヘッドバンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両において、
外部に光を放射する発光手段と、
断続的に所定の変調信号を生成する信号生成手段と、
前記変調信号に基づいて前記発光手段の点灯、消灯を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする車両接近警告送信装置。
【請求項2】
前記発光手段は発光ダイオードを用いた車両の前照灯あるいはバックライトのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の車両接近警告送信装置。
【請求項3】
前記信号生成手段および前記制御手段は、既存の電子制御装置に前記信号生成手段および前記制御手段の機能を実行するためのプログラムを実装したものであることを特徴とする請求項1に記載の車両接近警告送信装置。
【請求項4】
車両から送信される変調光を受光して光強度に応じた電気信号を出力する光センサー手段と、
前記電気信号から変調信号を検出する復調手段と、
前記復調手段によって検出された変調信号の有無を判定する判定手段と、
前記変調信号が検出された場合に音声出力手段、振動出力手段、有線出力手段、無線出力手段の内の少なくとも1つの手段で情報を出力する出力手段と
を備えたことを特徴とする車両接近警告受信装置。
【請求項5】
前記出力手段は無線出力手段を備え、
更に、前記無線出力手段による出力信号を受信し、振動出力を発生させる子機を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両接近警告受信装置。
【請求項6】
前記子機は標準化された近距離無線インターフェイス機能を備えた携帯電話機であることを特徴とする請求項5に記載の車両接近警告受信装置。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載された車両接近警告送信装置と、
請求項4乃至6のいずれか1つに記載された車両接近警告受信装置と
を含むことを特徴とする車両接近警告システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−128671(P2011−128671A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283679(P2009−283679)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(501200778)
【出願人】(599161269)
【出願人】(507289128)
【出願人】(509098342)
【氏名又は名称原語表記】Oskar BARTENSTEIN
【出願人】(509098504)
【出願人】(509098490)
【Fターム(参考)】