説明

車両用エンジン制御システム

【課題】エンジン回転数を記憶部に記憶させる操作や記憶されたエンジン回転数による制御を実行させる操作などのエンジン回転数メモリ制御の操作を簡単にする技術の提供。
【解決手段】第1スイッチング状態を作り出す第1操作位置と第2スイッチング状態を作り出す第2操作位置とを有するスイッチと、スイッチング状態を検出するスイッチ検出モジュールと、エンジン回転数を表示する表示部とが備えられている。第1・第2スイッチング状態の少なくとも1つの状態が所定時間以上継続すると現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数が記憶部に記憶され、第1スイッチング状態が所定時間未満である限界時間だけ継続すると記憶部から読み出されたエンジン回転数に基づいてエンジンの回転数が調整され、第2スイッチング状態が限界時間だけ継続すると記憶部に記憶されたエンジン回転数が表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶部に記憶されたエンジン回転数に基づいてエンジンの回転数を制御するエンジン制御ユニットを備えた車両用エンジン制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用エンジン制御システムを備えた移動農機が特許文献1に記載されている。この移動農機は、ハンドアクセルレバーまたはフートアクセルペダルによってエンジンの回転数を設定し、ハンドアクセルレバー値入力またはフートアクセルペダル値入力を設定切換スイッチによって選択し、ハンドアクセルレバー値またはフートアクセルペダル値に基づき、エンジン出力制御を行う。その際、設定切換スイッチによってハンドアクセルレバー値を選択し、エンジン回転自動スイッチをオン操作することにより、ハンドアクセルレバーによって初期設定された設定回転数が入力され、ハンドアクセルレバーの設定回転数でエンジンが駆動され、フートアクセルペダルの増速足踏み操作が行われたとき、ハンドアクセルレバーの設定回転数でエンジンを駆動する自動制御が解除され、エンジンの回転を自動的に低下させる動作が行われる。しかしながら、このエンジン回転数制御は、移動農機に対する何らかの作業操作に伴ってエンジン回転数を低下させるものであり、運転者が任意のエンジン回転数を簡単に設定するとともに、この設定エンジン回転数にエンジンの回転数を維持させる制御モードを簡単に選択するような使用には向いていない。
【0003】
さらに、変速レバーのグリップ部にはエンジン回転数を規定回転数にセット又はリセットする操作部としてアクセルメモリAのセット/リセットスイッチとアクセルメモリBのセット/リセットスイッチ、車速増速スイッチと減速スイッチと、アクセルメモリAのセット/リセットスイッチとアクセルメモリBのセット/リセットスイッチでセットされたエンジン回転数を変更調整する変速側メモリ回転調整スイッチと減速側メモリ回転調整スイッチが設けられたトラクタが、特許文献2に記載されている。ここでは、アクセルメモリのセット/リセットスイッチは、エンジン回転数を所定値にセットするため及び一旦セットされたエンジン回転数の所定値から通常(アクセルレバーなどで調整されている)のエンジン回転数に戻すためにリセットするスイッチとして用いられている。しかしながら、この特許文献2からは、1つの押しボタンスイッチでエンジン回転数のセットとリセットが行われることが読み取れるが、そのような使い方をした場合、エンジン回転数のセット操作とリセット操作の区別ができないので、熟練者でなければ、セット/リセット操作において混乱が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3478448号公報(段落番号〔0022〕、図8)
【特許文献2】特開2008−223865号公報(段落番号〔0044−0058〕、図12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、エンジン回転数を記憶部に記憶させる操作や記憶されたエンジン回転数による制御を実行させる操作などのエンジン回転数メモリ制御の操作を簡単にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
記憶部に記憶されたエンジン回転数に基づいてエンジンの回転数を制御するエンジン制御ユニットを備えた、本発明による車両用エンジン制御システムの特徴は、第1スイッチング状態を作り出す第1操作位置と第2スイッチング状態を作り出す第2操作位置とを有するスイッチと、前記スイッチのスイッチング状態を検出するスイッチ検出モジュールと、前記エンジン回転数を表示する表示部とが備えられ、前記第1スイッチング状態と前記第2スイッチング状態の少なくとも1つの状態が所定時間以上継続すると現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数が前記記憶部に記憶され、前記第1スイッチング状態が前記所定時間未満である限界時間だけ継続すると前記記憶部から読み出されたエンジン回転数に基づいて前記エンジンの回転数が調整され、前記第2スイッチング状態が前記所定時間未満である限界時間だけ継続すると前記記憶部に記憶されたエンジン回転数が表示される点にある。ここで、スイッチング状態を所定時間以上継続させる操作を長操作(押しボタンなら長押し)、スイッチング状態を所定時間未満である限界時間だけ継続させる操作を短操作(押しボタンなら短押し)と表現することができるので、以後そのような表現も用いられる。また、現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数とは、例えば、現状のアクセルレバーやアクセルペダルの位置における無負荷回転数であってもよいし、現状の実際のエンジン回転数であってもよい。また、予めアクセルレバーやアクセルペダルの位置を入力パラメータとしてエンジン回転数を導出するテーブルを設定しておいて、現状のアクセル位置から導出される出力値を現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数として用いてもよい。
【0007】
この構成によると、1つのスイッチの異なる2つの操作位置によって作り出される2つのスイッチング状態の少なくとも1つの状態の時間経過を評価することで、3つの区分け可能な状態が認識できる。従って、エンジン回転数メモリ制御にとって重要な、(1)現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数が記憶部に記憶する動作、(2)エンジン回転数の調整のため記憶部に記憶されたエンジン回転数を読み出す動作、(3)記憶部に記憶されたエンジン回転数を確認するためそれを表示させる動作が、1つのスイッチに対する操作で実現する。しかもその操作が、2つ異なる操作位置と時間的操作挙動との組み合わせで区分けされているので、操作の容易性と操作の明瞭性の両方の利点が得られる。
【0008】
予め記憶させたエンジン回転数にエンジンを調整して、エンジンを一定回転数で駆動する制御モード(ここではメモリモードと称する)は、車両の走行状況や作業状況によって頻繁に中断する必要があることが少なくない。従って、このようなメモリモードの一時的な中断及びメモリモードへの復帰の操作を簡単にすることが要望される。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第1スイッチング状態の前記限界時間の継続を一操作単位として、当該一操作単位を行う毎に、前記記憶部に記憶された前記エンジン回転数に前記エンジンを調整するメモリモード実行処理と、当該メモリモード実行処理を中断するメモリモード中断処理とが、交互に実行される。つまり、この構成では、第1スイッチング状態が所定時間より短い限界時間だけ継続すれば、言い換えると第1スイッチング状態の短操作を行う毎に、メモリモード実行処理のON(実行)とOFF(中断)が繰り返される。
【0009】
なお、上述したような2つのスイッチング状態の作り出しと、長操作と短操作との2つの操作パターンを簡単に実現するスイッチの具体的な形態として、中立位置から第1方向への変位で第1操作位置となるとともに第2方向への変位で第2操作位置となるモーメンタリ動作式の、シーソースイッチ、ロッカースイッチ、トグルスイッチ、スライドスイッチのうちのいずれかが提案される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による車両用エンジン制御システムで採用されているエンジン回転数メモリ制御の基本的な流れを図解する模式図である。
【図2】本発明による変速制御システムを搭載したトラクタの斜視図である。
【図3】トラクタの運転部に備えられた各種操作器を含む運転席の俯瞰図である。
【図4】トラクタに組み込まれた変速制御システムの一例を図解した説明図である。
【図5】変速制御システムの概略機能ブロック図である。
【図6】エンジン回転数制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【図7】図6のエンジン回転数制御におけるスイッチ状態評価ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】図6のエンジン回転数制御における制御モード選択ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を、具体的に説明する前に、図1の模式図を用いて本発明によるエンジン制御システムにおけるエンジン回転数メモリ制御(以下単にメモリ制御と称する)と通常制御の基本的な流れを説明する。メモリ制御とは、特定のエンジン回転数をメモリに記憶させておき、後でその記憶されたエンジン回転数を実現するようにエンジンを制御することを意味している。また、通常制御とは、ここでは、メモリ制御以外のエンジン制御であり、記憶されたエンジン回転数とは関係なく、その他の条件でエンジンを制御することを意味している。
【0012】
図1では、第1状態と第2状態を作り出すスイッチが、中立復帰するモーメンタリ動作式のシーソースイッチで構成されており、中立位置から左側操作部を押すことで第1操作位置に変位して第1状態が作り出され、中立位置から右側操作部を押すことで第2操作位置に変位して第2状態が作り出される。
図1から明らかなように、ここでは、このスイッチに対する異なる3つの操作に応じて、以下のように3つの操作信号評価が行われる。
(1)左側操作部を長押しすることで第1スイッチング状態が所定時間以上継続したと評価される。同様に、右側操作部を長押しすることで第2スイッチング状態が所定時間以上継続したと評価される。この2つの操作は、同一な操作とみなされ、同一の操作信号が入力されたと評価される。
(2)左側操作部を短押しすることで、第1スイッチング状態が前記所定時間未満である限界時間だけ継続したと評価される。
(3)右側操作部を短押しすることで、第2スイッチング状態が前記所定時間未満である限界時間だけ継続したと評価される。
上記3つの操作信号評価の結果と、その時のエンジン制御状態に応じて、エンジン制御に関係する情報が生成され、この情報に基づく制御が実行される。
上記(1)に記述されたスイッチ長押し評価信号が生成されるとともに、その時のエンジン制御状態がメモリ制御であれば、このスイッチ長押し評価信号は無視される(#a)。上記(1)に記述されたスイッチ長押し評価信号が生成されるとともに、その時のエンジン制御状態が通常制御であれば、回転数書込要求が生成される。この要求に基づき、現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数が取得され、当該エンジン回転数がメモリに書き込まれる(#b)。
上記(2)に記述された右側操作部短押し評価信号が生成されると、その時のエンジン制御状態に関係なく、メモリ回転数表示要求が生成される。この要求に基づき、メモリに書き込まれているエンジン回転数が読み出され、当該エンジン回転数が表示部に表示される(#c)。
上記(3)に記述された左側操作部短押し評価信号が生成されるとともに、その時のエンジン制御状態がメモリ制御であれば、通常制御切替要求が生成される。この要求に基づきメモリ制御がOFFに、通常制御がONになり、エンジン制御はメモリ制御から通常制御に移行する(#d)。また、左側操作部短押し評価信号が生成された時のエンジン制御状態が通常制御であれば、メモリ制御切替要求が生成される。この要求に基づき通常制御がOFFに、メモリ制御がONになり、エンジン制御は通常制御からメモリ制御に移行する(#e)。
【0013】
上述した基本的なエンジン制御システムの具体的な実施形態を以下に説明する。図2は、本発明によるエンジン制御システムを搭載したトラクタの斜視図であり、図3はトラクタの運転部に備えられた各種操作器を含む運転席の俯瞰図である。図4はトラクタに組み込まれた変速制御システムの一例を図解した説明図である。
【0014】
このトラクタは、車輪3によって支持された機体の後部に、ここでは耕耘装置である外部作業機4を装備している。機体の前部に配置されているエンジン1はコモンレール1a方式で回転制御される形式のディーゼルエンジンである。エンジン1の出力軸10からの動力は、変速装置2を構築する、油圧操作式のギヤ変速装置20と前後進切換装置23と複数段(ここでは高低2段)の変速を行う副変速装置24とを通じて変速出力軸11に伝達され、最終的に駆動輪(前輪または後輪あるいはその両方)3を回転させる。さらに、このエンジン1の出力軸10からの分岐動力はPTO伝動系12を経てトラクタに装備されている耕耘作業機などの外部作業機4にも伝達される。
【0015】
キャビン36で覆われるとともに、ステアリングホイール34と運転シート35との間に配置されている操縦空間には、ブレーキペダル、アクセルペダル30、変速レバー32など種々の操作デバイスが備えられている。さらに、本発明のエンジン制御システムを特徴付けているスイッチとしてモーメンタリ動作式のシーソースイッチ90が、運転シート35の側方に位置するキャビン36のセンターピラー36aの下部に配置された箱型の操作ボックスに取り付けられている。(図3参照)。なお、シーソースイッチ90をセンターピラー36aのキャビン内側に直接取り付けてもよく、運転シートの側方に位置する左右のサイドパネル33やステアリングホイール34の前方の表示パネル80近傍に配置してもよい。このシーソースイッチ90では、第1揺動方向のための左操作部90aの操作面に「ON/OFF」と記述され、第2揺動方向のため右側操作面90bの操作面に「表示」と記述され、左側操作部90aと右側操作部90bにわたって「メモリ」と記述されている。また、シーソースイッチ90に近接して、LEDの表示灯91が配置されており、このシーソースイッチ90の操作を通じて指令することができるメモリ回転数制御の実行中に点灯するように構成されている。シーソースイッチ90の近傍にはさらにエンジン回転数上限設定ダイアルスイッチも配置されている。このダイアルスイッチによってエンジン回転数の上限を設定することができる。
【0016】
このエンジン制御システムの制御系は、エンジン制御ユニット(以下エンジンECUと略称する)5、変速制御ユニット(以下変速ECUと略称する)6、エンジン回転数制御モジュール7、表示ECU8、車両状態検出ECU9、外部作業機ECU40などから構成され、それぞれは車載LANによってデータ伝送可能に接続されている。
【0017】
車両状態検出ECU9は、トラクタに配備されている種々のセンサからの信号や、運転者によって操作される操作デバイスの状態を示す信号を入力し、必要に応じて信号変換や評価演算を行い、得られた評価結果やデータを車載LANに送り出す。この車両状態検出ECU9に入力される信号のうち、特に本発明に関係するものは、シーソースイッチ90からの信号である。このため、この実施形態では、このシーソースイッチ90からの信号を評価する機能部としてのスイッチ検出モジュール9aが車両状態検出ECU9内に特別に区分けして示されている。スイッチ検出モジュール9aは、シーソースイッチ90における左側揺動操作位置と右側揺動操作位置及びそれぞれの操作位置の保持時間とに基づいて、前述したような(1)長押し評価(2)左短押し評価(3)右短押し評価の3つの種類の操作信号評価を行う。また、このスイッチ検出モジュール9aには、エンジン制御に関するスイッチとして、アクセルペダル30の踏み込み操作量(ここでは揺動角度)を検出信号として生成するペダルセンサ92、などが接続されている。なお、この実施形態では、ペダルセンサ92によるアクセルペダル30の揺動角度に基づいて、エンジン回転速度(時間当たりの回転数)を算定する構成を採用している。もちろん、直接エンジン出力軸の回転検出センサが装備されている場合は、その検出信号を利用してもよい。また、アクセルペダル30に代えて、あるいは付加的にアクセルレバーとその操作位置を検出するアクセルレバーセンサを備えてもよい。本発明では、エンジン回転数を検出するデバイスを特には限定していない。
そのほか、車両状態検出ECU9には、変速レバー32の操作位置を検出して操作信号を生成するレバーセンサ93、トラクタ車速の演算にも用いることができる変速出力軸11の回転速度(回転数)を検出する回転センサ(又は車速センサ)94なども接続されている。
【0018】
エンジンECU5は、よく知られているように、エンジン1を電子制御するための中核機能部であり、外部操作入力信号及び内部センサ信号等によって推定されるエンジン1の運転状態に応じて、予め設定されているプログラムに基づく制御、例えば定回転数制御や定トルク制御など種々のタイプのエンジン制御を行う。
【0019】
変速ECU6は、外部操作入力信号や内部センサ信号等に基づいて前述した変速装置2の油圧制御要素を油圧制御ユニット6aを介して制御して、変速装置2の変速比を設定し、トラクタを所望の速度で走行させる。外部作業機ECU40は、外部作業機4を制御するための制御信号を生成する。表示ECU8は、運転操作領域に設けられている表示パネル80に組み込まれた液晶ディスプレイなどからなる表示部81に各種報知情報を表示するための制御信号を生成する。
【0020】
アクセルペダル30等のエンジン回転数を設定するデバイスの操作に応じてエンジン回転数を調整する通常制御以外のエンジン回転数制御として、予め記憶させたエンジン回転数に基づいてエンジンの回転数を一定に制御するメモリ制御を行うために、図4や図5の機能ブロック図では、エンジンECU5とは、別にエンジン回転数制御モジュール7が示されている。もちろん、このエンジン回転数制御モジュール7はエンジンECU5に組み込むことができる。本発明のエンジン制御ユニットは、エンジン回転数制御モジュール7ないしはエンジン回転数制御モジュール7が組み込まれたエンジンECU5である。エンジン回転数制御モジュール7は、現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数を取得する回転数取得部71、メモリ回転数転送部72、制御モード管理部74、記憶部73を含む。なお、ここで取り使われるメモリ回転数の分解能は20rpm程度である。
【0021】
回転数取得部71は、シーソースイッチ90の操作が長押し評価されると、アクセルペダル30の操作位置から算定されるエンジン回転数(この実施形態ではアクセルペダル30の操作位置における無負荷回転数)を取得して、メモリ回転数として記憶部73に書き込む。制御モード管理部74は、通常制御時にシーソースイッチ90の操作が左短押し評価されるとエンジン回転制御を通常制御からメモリ制御に制御モードを変更し、メモリ制御時にシーソースイッチ90の操作が左短押し評価されるとエンジン回転制御をメモリ制御から通常制御に制御モードを変更するように、エンジンECU5に要求する。メモリ回転数転送部72は、制御モード管理部74がエンジンECU5にメモリ制御の開始を要求する際に設定エンジン回転数として記憶部73から読み出したメモリ回転数を転送する。さらに、メモリ回転数転送部72は、シーソースイッチ90の操作が右短押し評価されると、現状のメモリ回転数を表示部81に表示するため、記憶部73から読み出したメモリ回転数を表示ECU8に転送する。
【0022】
上述したように構成されたエンジン制御システムにおけるエンジン回転数制御処理の一例を図6から図8のフローチャートを用いて以下に説明する。
キーONなどの初期動作により、図6に示すエンジン回転数制御処理のメインルーチンがスタートすると、実行すべき制御モード又は実行中の制御モードを示す制御モードフラグ(単に制御フラグと略称される)に制御“正常”が代入される(#01)。まず、制御フラグの内容がチェックされる(#02)。制御フラグの内容が“通常”ならば(#03)、エンジンECU5に対して通常制御の実行が要求される(#04)。制御フラグの内容が“メモリ”ならば(#05)、エンジンECU5に対してメモリ制御の実行が要求される(#06)。なお、このメモリ制御の実行要求には、記憶部73から読み出されたメモリ回転数がリンクされる。次いで、シーソースイッチ90の操作状態を評価するスイッチ状態評価ルーチンを行い(#20)、さらにその評価に基づいて制御モードを選択する制御モード選択ルーチンを行う。このエンジン回転数制御を終了要求がない限り(#09No分岐)、再びステップ#02に戻ってこの一連の処理を繰り返す。
【0023】
図7を用いてスイッチ状態評価ルーチンを説明する。まず、シーソースイッチ90の接点電気信号からスイッチ状態、つまりシーソースイッチ90における左側揺動操作位置と右側揺動操作位置及びそれぞれの操作位置の保持時間を取得する(#21)。スイッチ状態に基づいて、その時点での操作信号評価を決定する(#22)。そして、決定された以下に述べる5つの評価結果に応じた処理が行われる。
(1)“中立”(#23)
シーソースイッチ90が操作されていないことを意味するので、何もせずにこのルーチンを終了する。
(2)“短第2状態”(右側操作部短押し評価信号の生成)(#24)
シーソースイッチ90の右側操作部90bを、所定時間未満である限界時間(0<t2<t1、t1:所定時間、t2:限界時間)だけ短押しすることで評価される状態であり、これによってメモリ回転数表示が要求される。従って、記憶部73からメモリ回転数が読み出され(#25)、メモリ回転数表示のための表示データが生成され(#26)、表示データが表示ECU8に転送され(#27)、このルーチンを終了する。
(3)“短第1状態”(左側操作部短押し評価信号の生成)(#28)
シーソースイッチ90の左側操作部90aを、所定時間未満である限界時間(0<t2<t1、t1:所定時間、t2:限界時間)だけ短押しすることで評価される状態であり、これによって通常制御とメモリ制御との間の制御モードの切り替えが要求される。つまり、まずは、制御フラグの内容がチェックされる(#29)。制御フラグの内容が“通常”ならば(#30)、現状では通常制御が行われていることになるので、通常制御からメモリ制御に制御モードを切り替えるべく制御フラグに“メモリ”が代入される(#31)。制御フラグの内容が“メモリ”ならば(#32)、現状ではメモリ制御が行われていることになるので、メモリ制御から通常制御に制御モードを切り替えるべく制御フラグに“通常”が代入され(#33)、このルーチンを終了する。
(4)“長第1状態”(左側操作部短押し評価信号(=長押し評価信号)の生成(#34a)、“長第2状態”(右側操作部短押し評価信号(=長押し評価信号)の生成(#34b)
シーソースイッチ90の左側操作部90a又は右側操作部90bのいずれかを所定時間以上(>t1)長押しすることで評価される状態であり、これによって現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数がメモリ回転数として記憶部73に記憶することが要求される。ただし、このメモリ回転数の記憶は通常制御時のみに行われるので、まずは現状の制御モードを確認するため制御フラグがチェックされる(#35)。制御フラグの内容が“通常”である場合(#36)、アクセルペダル30の操作位置によって推定することができる現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数(操作指示回転数)が取得される(#37)。取得した操作指示回転数をメモリ回転数として記憶部73に書き込み(#38)、このルーチンを終了する。制御フラグの内容が“メモリ”である場合(#39)、新たなメモリ回転数の書き込みは行わないので、何もせずにこのルーチンを終了する。
【0024】
図8を用いて制御モード選択ルーチンを説明する。まず、予め設定されている特定故障が発生していないかどうかを、車両状態検出ECU9にリクエストしてチェックする(#51)。ここでの特定故障とは、キーON時に起動する初期動作チェックにおける不都合の発生、その後のアクセル系やエンジン系での動作不良の発生などメモリ制御で一定回転数でのエンジン運転ではなく、運転者によって調整されるエンジン運転が要求されるような状況を招く故障である。従って、特定故障が発生した場合には(#51Yes分岐)、制御フラグに“通常”を代入して(#59)、このルーチンを終了する。特定故障が発生していない場合には(#51No分岐)、さらに特定操作が発生していないかどうかを、車両状態検出ECU9にリクエストしてチェックする(#52)。ここでの特定操作とは、例えば、ブレーキ操作やその他のエンジンを一定速度で回転させることが不都合となるような操作である。従って、特定操作が発生した場合には(#52Yes分岐)、制御フラグに“通常”を代入して(#59)、このルーチンを終了する。特定操作が発生していない場合には(#52No分岐)、さらにアクセル操作が発生していないかどうかを、車両状態検出ECU9にリクエストしてチェックする(#53)。
【0025】
アクセル操作がなければ(#53No分岐)、このルーチンを終了する。アクセル操作があれば(#53Yes分岐)、そのアクセル操作によって更新される目標エンジン回転数:Nsに応じて異なるエンジン回転数制御が行われる。ただし、通常制御が実行されている場合では、アクセル操作に応じたエンジン制御が行われているので、制御フラグメモリチェックを行って(#54)、制御フラグの内容が“通常”であれば(#55)、このルーチンを終了する。制御フラグメモリチェックを行って(#54)、制御フラグの内容が“メモリ”であれば(#56)、まず、今回のアクセル操作によって更新される目標エンジン回転数:Nsとメモリ回転数:Nmの比較が行われる(#57)。目標エンジン回転数:Nsがメモリ回転数:Nmより大きい場合(所定値以上大きいように設定してもよい)(#57Yes分岐)、運転者により意識的な増速(アクセル操作による追い回しと呼ばれる)とみなして、アクセル操作に基づくエンジン回転数制御を行うために、制御フラグに“通常”を代入して(#59)、このルーチンを終了する。目標エンジン回転数:Nsがメモリ回転数:Nmより大きくない場合(#57No分岐)、さらに、目標エンジン回転数:Nsと最低回転数:Nuの比較が行われる(#58)。この最低回転数:Nuにはアイドリング回転数に近い回転数が好ましいが、ここではアイドリング回転数より所定回転数だけ、例えば100rpmだけ高い回転数が採用されている。目標エンジン回転数:Nsが最低回転数:Nuより低く設定されることは通常の作業走行を望まないとみなされるので(#58Yes分岐)、アクセル操作に基づく低回転数へエンジン回転数を制御するために、制御フラグに“通常”を代入して(#59)、このルーチンを終了する。目標エンジン回転数:Nsが最低回転数:Nuより低くなければ(#58No分岐)、メモリ制御を続行するため、そのままこのルーチンを終了する。
【0026】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態におけるメモリ制御では、記憶されるメモリ回転数として、現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数として、アクセル位置に対応する無負荷回転数を採用して、その分解能を20rpmとしていた。しかしながら、本発明における現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数の範囲は限定されるべきでなく、例えば記憶されるメモリ回転数が数種類、極端には1種類として常に同じ回転数が記憶される形態も含まれる。
(2)上述した実施形態においては、エンジンタイプを、コモンレール方式で回転制御されるディーゼルエンジンとしていたが、ガソリンエンジンでもよいし、ハイブリッド式エンジンであれば電気モータでもよい。
(3)上述した実施形態におけるスイッチ90の形式は、中立位置から第1方向への変位で第1操作位置となるとともに第2方向への変位で第2操作位置となるモーメンタリ動作式のシーソースイッチであったが、これに代えて、ロッカースイッチ、トグルスイッチ、スライドスイッチなどを採用してもよい。
(4)上述した実施形態でのスイッチ90における左側操作部90a、右側操作部90bの配置は左右逆であってもよく、上下に並べて配置してもよい。また、スイッチ90における「ON/OFF」、「表示」、「メモリ」の表示位置は、「メモリ」を上側に配置し、「ON/OFF」、「表示」を下側に配置してもよい。さらに左側操作部90aと右側操作部90bとを上下に並べて配置した場合にあっては、左右一方に「ON/OFF」、「表示」を配置し、左右他方に「メモリ」を配置すればよい。
(5)上述した実施形態では、スイッチ90の表示面が運転者側に向くように配置したが、スイッチ90をサイドパネル33や表示パネル80近傍に配置した場合には、スイッチ90の表示面が上向きや後向きとなるようにスイッチ90を配置してもよい。
(6)本発明が適用できる車両としては、トラクタ以外、田植機、コンバイン、芝刈り機、土木・建築作業機、バギーなどのオフロードカーなどが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、エンジン回転数をメモリ回転数に基づいて一定に維持するエンジン回転制御を行う種々の車両用エンジン制御システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1:エンジン
5エンジンECU(エンジン制御ユニット)
7:エンジン回転数制御モジュール
71:回転数取得部
72:メモリ回転数転送部
73:記憶部
74:制御モード管理部
8:表示ECU
81:表示部
9:車両状態検出ECU
9a:スイッチ検出モジュール
90:スイッチ(シーソースイッチ)
90a:左操作部
90b:右操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶部に記憶されたエンジン回転数に基づいてエンジンの回転数を制御するエンジン制御ユニットを備えた車両用エンジン制御システムにおいて、
第1スイッチング状態を作り出す第1操作位置と第2スイッチング状態を作り出す第2操作位置とを有するスイッチと、前記スイッチのスイッチング状態を検出するスイッチ検出モジュールと、前記エンジン回転数を表示する表示部とが備えられ、前記第1スイッチング状態と前記第2スイッチング状態の少なくとも1つの状態が所定時間以上継続すると現状のアクセル位置に対応するエンジン回転数が前記記憶部に記憶され、前記第1スイッチング状態が前記所定時間未満である限界時間だけ継続すると前記記憶部から読み出されたエンジン回転数に基づいて前記エンジンの回転数が調整され、前記第2スイッチング状態が前記限界時間だけ継続すると前記記憶部に記憶されたエンジン回転数が表示される車両用エンジン制御システム。
【請求項2】
前記第1スイッチング状態の前記限界時間の継続を一操作単位として、当該一操作単位を行う毎に、前記記憶部に記憶された前記エンジン回転数に前記エンジンを調整するメモリモード実行処理と、当該メモリモード実行処理を中断するメモリモード中断処理とが、交互に実行される請求項1に記載の車両用エンジン制御システム。
【請求項3】
前記スイッチは、中立位置から第1方向への変位で第1操作位置となるとともに第2方向への変位で第2操作位置となるモーメンタリ動作式の、シーソースイッチ、ロッカースイッチ、トグルスイッチ、スライドスイッチのうちのいずれかである請求項1又は2に記載の車両用エンジン制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154179(P2012−154179A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11190(P2011−11190)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】