説明

車両用カウル構造

【課題】NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させる。
【解決手段】カウルアウタパネル14の前端部14Bとカウルインナパネル16の下部壁16Cとは、複数のブレース30によって車両上下方向に連結されており、これによりブレース30の配設部位ではNV性能確保のための閉断面部38が形成されている。カウルインナパネル16の下部側には第1折れ部32が設定されていると共に、ブレース30の中間部には第2折れ部34が設定されている。また、閉断面部38の寸法関係はA+B+C=D+Eに設定されており、更に∠α<∠θに設定されている。従って、衝突体が矢印F方向から衝突してきた際に閉断面部38は前後に開きながら略車両上下方向に重なるように潰れていくため、変形ストロークを充分に確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NV性能と歩行者保護に配慮した車両用カウル構造に関する。

【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、歩行者保護に配慮した車両用カウル構造が開示されている。簡単に説明すると、この公報に開示された技術では、歩行者保護性能を確保するため、カウルアウタの前面縦壁を廃止しカウル全体を開き断面構造にしている。これにより、歩行者の頭部等の衝突体がフロントウインドシールドガラスの下端部付近に当接した際のカウルの変形ストロークを充分に確保する、というものである。
【特許文献1】特開2005−104438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術に開示された構成のように、歩行者保護性能を向上させるべくカウル全体を開き断面構造にすると、フロントウインドシールドガラスの下端部の支持剛性が低下する。このため、フロントウインドシールドガラスの上下振動が増加し、車室内に上下振動に起因したこもり音が発生し易くなるという課題がある。つまり、一般には、NV性能と歩行者保護性能とは背反事項の関係にある。
【0004】
その一方で、近年、歩行者保護性能を更に向上させたいという要請がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができる車両用カウル構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の本発明は、フロントウインドシールドガラスの下端部に沿って車両幅方向に延在され、当該フロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持するカウルアウタと、このカウルアウタの下方側に車両幅方向に沿って延在されると共に上端部がカウルアウタの後端側に結合されてカウルアウタとで開断面構造のカウルを形成し、フロントウインドシールドガラスへの衝突荷重の入力時に下部側に設定された第1折れ部を起点として荷重入力方向へ折れ曲がる後部縦壁を備えたカウルインナと、カウルアウタとカウルインナとを車両幅方向の所定位置で略車両上下方向に連結しカウルアウタ及びカウルインナとで部分的な閉断面部を形成する連結部材と、を含んで構成された車両用カウル構造であって、前記連結部材の高さ方向の所定位置にフロントウインドシールドガラスへの衝突荷重の入力によりカウルインナの後部縦壁の折れ曲がり方向と離間する方向へ連結部材を折り曲げるための第2折れ部を設定し、さらに、カウルアウタの変形部位の線長と連結部材の上端部から第2折れ部までの線長とを足した長さと、カウルインナの変形部位の線長と連結部材の第2折れ部からカウルインナへの結合部までの線長とを足した長さとを略一致させた、ことを特徴としている。
【0007】
請求項2の本発明は、請求項1記載の車両用カウル構造において、前記第2折れ部と前記連結部材のカウルインナへの結合部とを結んだ方向をインパクタ進入方向に略一致させると共に、前記連結部材のカウルアウタへの結合部と前記連結部材のカウルインナへの結合部とを結んだ線分とインパクタ進入方向線とがなす角度を、前記連結部材のカウルアウタへの結合部と第2折れ部とを結んだ線分とインパクタ進入方向線とがなす角度よりも小さく設定した、ことを特徴としている。
【0008】
請求項3の本発明は、請求項1又は請求項2記載の車両用カウル構造において、前記カウルインナの後部縦壁を車両側面視でインパクタ進入方向に対して非平行な略Z字状に形成した、ことを特徴としている。
【0009】
請求項4の本発明は、請求項3記載の車両用カウル構造において、前記カウルインナの後部縦壁の隣り合う面の間の角度は、当該隣り合う面のいずれか一方の面とインパクタ進入方向とがなす角度のうち大きい方の角度以下に設定されている、ことを特徴としている。
【0010】
請求項1記載の本発明によれば、フロントウインドシールドガラスに衝突荷重が入力されると、その衝突荷重はフロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持しているカウルアウタを介してカウルインナに伝達されると共に、カウルアウタとカウルインナとを車両幅方向の所定位置で略車両上下方向に連結している連結部材に伝達される。カウルインナが備える後部縦壁の下部側には第1折れ部が設定されているため、衝突荷重がカウルインナに伝達されると、カウルインナは第1折れ部を起点として荷重入力方向へ折れ曲がる。一方、連結部材の高さ方向の所定位置には第2折れ部が設定されているため、衝突荷重が連結部材に伝達されると、連結部材は第2折れ部を起点としてカウルインナの後部縦壁の折れ曲がり方向と離間する方向へ折れ曲がる。このようにカウルインナ及び連結部材が互いに離間する方向へ折れ曲がることにより、衝突時のエネルギーが吸収されて(衝突体への)衝突反力が低減される。
【0011】
また、本発明では、歩行者保護の観点からカウルがカウルアウタとカウルインナとで開断面構造に形成されているが、連結部材によってカウルアウタとカウルインナとが略車両上下方向に連結されてその部位では閉断面部が形成されるため、全くの開断面構造のカウルに比べれば、フロントウインドシールドガラスの下端部の支持剛性は高い。このため、フロントウインドシールドガラスの上下振動が抑制され、車室内のこもり音の発生も抑制される。
【0012】
加えて、本発明では、カウルアウタの変形部位の線長と連結部材の上端部から第2折れ部までの線長とを足した長さと、カウルインナの変形部位の線長と連結部材の第2折れ部からカウルインナへの結合部までの線長とを足した長さとを略一致させたので、カウルの閉断面部が略車両上下方向に圧縮されて断面変形する際に、カウルの閉断面部の上部側の線長総和と下部側の線長総和とが略同一になる。このため、カウルの閉断面部の断面変形時の潰れ残りが大幅に低減され、カウルの閉断面部を効率的に断面変形させることができる。
【0013】
請求項2記載の本発明によれば、第2折れ部と連結部材のカウルインナへの結合部とを結んだ方向をインパクタ進入方向に略一致させると共に、連結部材のカウルアウタへの結合部と連結部材のカウルインナへの結合部とを結んだ線分とインパクタ進入方向線とがなす角度を、連結部材のカウルアウタへの結合部と第2折れ部とを結んだ線分とインパクタ進入方向線とがなす角度よりも小さく設定したので、連結部材を常に車両前方側へ変形させることができる。その結果、連結部材が車両後方側へ折れ曲がってカウルインナに接触することによる底付きを回避することができる。
【0014】
請求項3記載の本発明によれば、カウルインナの後部縦壁を車両側面視でインパクタ進入方向に対して非平行な略Z字状に形成したので、衝突荷重が入力された際にカウルアウタ、カウルインナ、及び連結部材で構成される閉断面部がパンタグラフ状に断面変形していく。このため、フロントウインドシールドガラスのガラス面直交方向のエネルギー吸収ストロークを充分に確保することができる。
【0015】
請求項4記載の本発明によれば、カウルインナの後部縦壁の隣り合う面の間の角度を、当該隣り合う面のいずれか一方の面とインパクタ進入方向とがなす角度のうち大きい方の角度以下に設定したので、閉断面部をパンタグラフ状に変形させる際に、連結部材を常に車両前方側へ変形させることができる。その結果、連結部材が車両後方側へ折れ曲がってカウルインナに接触することによる底付きを回避することができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の本発明に係る車両用カウル構造は、NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができるという優れた効果を有する。
【0017】
請求項2記載の本発明に係る車両用カウル構造は、連結部材のカウルインナへの変形底付き回避により、歩行者保護性能を更に向上させることができるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項3記載の本発明に係る車両用カウル構造は、カウルアウタ、カウルインナ、及び連結部材で構成される閉断面部がパンタグラフ状に断面変形することにより、歩行者保護性能をより一層向上させることができるという優れた効果を有する。
【0019】
請求項4記載の本発明に係る車両用カウル構造は、連結部材のカウルインナへの変形底付き回避により、歩行者保護性能を更に向上させることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
【0021】
以下、図1〜図4を用いて、本発明に係る車両用カウル構造の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0022】
図1には、本発明が適用されたカウル10を車両前後方向に沿って切断し、その切断面を車両側方から見た拡大縦断面図が示されている。この図に示されるように、カウル10は、フロントウインドシールドガラス12の下端部12Aに沿って車両幅方向に延在され、当該フロントウインドシールドガラス12の下端部12A付近を支持するカウルアウタパネル14と、このカウルアウタパネル14の下方側に配置されて車両幅方向に沿って延在されたカウルインナパネル16と、このカウルインナパネル16の車両前方側に離間して配置されてフード18の後端側へ向けて延設されたカウルロアパネル20と、カウルロアパネル20の上端フランジ部20Aとフロントウインドシールドガラス12の下端部12Aとの間に被嵌される樹脂製のカウルルーバ22と、カウルアウタパネル14の前端部14Bとカウルインナパネル16の下部壁16Cとを連結する連結部材としての複数のブレース30と、を含んで構成されている。
【0023】
カウルアウタパネル14は、フロントウインドシールドガラス12のガラス面に沿って平行に配置されたガラス支持部14Aと、このガラス支持部14Aの前端部から屈曲垂下された前端部14Bと、ガラス支持部14Aの後端部から斜め後方下側へ屈曲された傾斜面14Cと、この傾斜面14Cの下端部から車両後方側へ延出された後端フランジ部14Dと、によって構成されている。ガラス支持部14Aには、フロントウインドシールドガラス12の下端部12Aが接着剤24によって固着されかつシールされている。
【0024】
カウルインナパネル16は、カウルアウタパネル14の後端フランジ部14Dに結合される上端フランジ部16Aと、この上端フランジ部16Aの前端部から車両下方斜め前方側へ屈曲垂下された後部縦壁16Bと、この後部縦壁16Bの下端部から屈曲されて略車両下方側へ延設された下部壁16Cと、この下部壁16Cの下端部から略車両前方側へ屈曲されて略水平に配置された下端部16Dと、によって構成されている。別の見方をすると、カウルインナパネル16の縦壁はその高さ方向中間部付近に設定された第1折れ部32で車両後方側へ折り曲げられており、これにより当該縦壁は車両側面視で略「く」の字状に形成されている。
【0025】
カウルロアパネル20は、フード18の略後端下方に平行に配置された上端フランジ部20Aと、この上端フランジ部20Aの後端部から略車両斜め下方へ屈曲された前部縦壁20Bと、この前部縦壁部20Bの下端部から屈曲されて車両後方側へ延設された前部底壁部20Cと、この前部底壁部20Cの後端部から略車両上方側へ屈曲された後に車両後方側へ延設されてカウルインナパネル16の下端部16Dの上面に接着剤26で接着及びシールされた後端部20Dと、によって構成されている。
【0026】
カウルルーバ22は、フロントウインドシールドガラス12の下端部12Aとカウルロアパネル20の上端フランジ部20Aとの間に掛け渡されて雨水等の水をカウル10内へ落とし込む本体部22Aと、この本体部22Aの前端部から凹状に形成されてカウルロアパネル20の上端フランジ部20Aに固定される凹部22Bと、この凹部22Bの前壁の上端部から車両前方側へ延出されてフード18の下面との間をシールするシール材28が取付けられるシール材支持部22Cと、によって構成されている。
【0027】
図1及び図4に示されるように、カウルアウタパネル14の前端部14Bとカウルインナパネル16の下部壁16Cとを略車両上下方向に連結するブレース30は、カウル10の長手方向に沿って所定の間隔で立設されている。各ブレース30は帯板状に形成されており、その高さ方向中間部付近で車両後方側へ折り曲げられている。これにより、ブレース30は、第2折れ部34よりも車両上方側に位置して概ね略車両上下方向に沿って延在された上部30Aと、第2折れ部34よりも車両下方側に位置して概ね車両斜め後方に延在された下部30Bと、を備えた略「く」の字状に形成されている。
【0028】
上部30Aの上端部30Cは、カウルアウタパネル14の前端部14Bの後面にスポット溶接で接合されている。また、下部30Bは、更にその高さ方向中間部付近に設定された第3折れ部36にて車両前方側へ若干折り曲げられている。第3折れ部36は第1折れ部32に高さが一致するように設定されており、又折り曲げ度合いは第3折れ部36よりも下方側の部分である下端部30Dがカウルインナパネル16の下部壁16Cにスポット溶接にて接合可能な角度に設定されている。
【0029】
上記構成のブレース30が配設されたことにより、歩行者保護性能を考慮して車両上方側の面が開放された開断面構造に構成されたカウル10に、ブレース30の配設部位にてカウルアウタパネル14、カウルインナパネル16、及びブレース30の三者によって部分的な閉断面部38が形成されている。
【0030】
さらに、図2に示されるように、カウルアウタパネル14の変形部位の線長(ガラス支持部14Aの線長B+傾斜面14Cの線長C)とブレース30の上端部30Cから第2折れ部34までの線長Aとを足した長さ(A+B+C)と、カウルインナパネル16の変形部位の線長(後部縦壁16Bの線長D)とブレース30の第2折れ部34からカウルインナパネル16への結合部(d点;第3折れ部36)までの線長(下部30Bの線長E)とを足した長さ(D+E)とは、略一致されている。すなわち、「A+B+C=D+E」となるように各部の寸法設定がなされている。
【0031】
また、第2折れ部34(e点)とブレース30のカウルインナパネル16への結合部(d点;第3折れ部36)とを結んだ方向F’は、インパクタ進入方向(矢印F方向であり、フロントウインドシールドガラス12のガラス面に略直交する方向)に略一致されている。
【0032】
さらに、ブレース30のカウルアウタパネル14への結合部(a点)とブレース30のカウルインナパネル16への結合部(d点)とを結んだ線分Gとインパクタ進入方向線F(a点を通るインパクタ進入方向平行線F”でも等価)とがなす角度αが、ブレース30のカウルアウタパネル14への結合部(a点)と第2折れ部(e点)とを結んだ線分Hとインパクタ進入方向線F(e点を通るインパクタ進入方向平行線F’でも等価)とがなす角度θよりも小さく設定されている。
【0033】
(本実施形態の作用・効果)
【0034】
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0035】
図1に示される状態から、図3に示されるように、フロントウインドシールドガラス12の下端部12A付近に衝突体40が衝突すると、その際の衝突荷重はフロントウインドシールドガラス12の下端部12A付近を支持しているカウルアウタパネル14を介してカウルインナパネル16に伝達されると共に、カウルアウタパネル14の前端部14Bとカウルインナパネル16の下部壁16Cとを連結している三箇所のブレース30に伝達される。
【0036】
カウルインナパネル16が備える後部縦壁16Bの下部側には第1折れ部32が設定されており、かつ後部縦壁16Bは荷重入力点となるカウルアウタパネル14のガラス支持部14A側へ後傾されているため、衝突荷重がカウルインナパネル16に伝達されると、カウルインナパネル16の後部縦壁16Bは第1折れ部32を起点として荷重入力方向である車両後方下側(矢印F方向側)へ折れ曲がる。
【0037】
一方、ブレース30の高さ方向の中間部付近には第2折れ部34が設定されており、かつブレース30は荷重入力点となるカウルアウタパネル14のガラス支持部14Aよりも前側に位置する前端部14Bとカウルインナパネル16の後部縦壁16Bの下側に位置する下部壁16Cとを車両側面視で略「く」の字状に連結しているため、衝突荷重がブレース30に伝達されると、ブレース30は第2折れ部34を起点としてカウルインナパネル16の後部縦壁16Bの折れ曲がり方向と離間する方向(車両前方下側)へ折れ曲がる。
【0038】
その結果、カウルアウタパネル14とカウルインナパネル16とブレース30とでカウル10の長手方向の所定位置に部分的に形成された閉断面部38は車両上下方向に押し潰されて折り畳まれるように変形される。この変形過程で衝突体40の衝突時のエネルギーが吸収されて衝突体40への衝突反力が低減される。
【0039】
また、本実施形態では、歩行者保護の観点からカウル10がカウルアウタパネル14とカウルインナパネル16とで開断面構造に形成されているが、ブレース30によってカウルアウタパネル14とカウルインナパネル16とが略車両上下方向に連結されてその連結部位に閉断面部38が形成されるため、全くの開断面構造のカウルに比べれば、フロントウインドシールドガラス12の下端部12Aの支持剛性は高い。このため、フロントウインドシールドガラス12の上下振動が抑制され、車室内のこもり音の発生も抑制される。
【0040】
さらに、本実施形態では、カウルアウタパネル14の変形部位の線長(ガラス支持部14Aの線長B+傾斜面14Cの線長C)とブレース30の上端部30Cから第2折れ部34までの線長Aとを足した長さ(A+B+C)と、カウルインナパネル16の変形部位の線長(後部縦壁16Bの線長D)とブレース30の第2折れ部34からカウルインナパネル16への結合部(d点;第3折れ部36)までの線長(下部30Bの線長E)とを足した長さ(D+E)とを略一致させたので、カウル10の閉断面部38が略車両上下方向に圧縮されて断面変形する際に、カウル10の閉断面部38の上部側の線長総和(A+B+C)と下部側の線長総和(D+E)とが略同一になる。このため、カウル10の閉断面部38の断面変形時の潰れ残りが大幅に低減され、カウル10の閉断面部38を効率的に断面変形させることができる。
【0041】
以上より、本実施形態に係る車両用カウル構造によれば、NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、第2折れ部34(e点)とブレース30のカウルインナパネル16への結合部(d点)とを結んだ方向F’を、インパクタ進入方向(矢印F方向)に略一致させると共に、ブレース30のカウルアウタパネル14への結合部(a点)とブレース30のカウルインナパネル16への結合部(d点)とを結んだ線分Gとa点を通るインパクタ進入方向平行線F”とがなす角度αを、ブレース30のカウルアウタパネル14への結合部(a点)と第2折れ部(e点)とを結んだ線分Hとe点を通るインパクタ進入方向平行線F’とがなす角度θよりも小さく設定したので、ブレース30を常に車両前方側へ変形させることができる。その結果、ブレース30が車両後方側へ折れ曲がってカウルインナパネル16に接触することによる底付きを回避することができ、歩行者保護性能を更に向上させることができる。
【0043】
〔第2実施形態〕
【0044】
次に、図5〜図9を用いて、本発明に係る車両用カウル構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0045】
図5、図6、図7及び図9に示されるように、この第2実施形態では、カウルインナパネル50の後部縦壁50Bが車両側面視でインパクタ進入方向Fに対して非平行な略Z字状に形成されている点に特徴がある。
【0046】
具体的に説明すると、カウルインナパネル50の後部縦壁50Bは前述した第1実施形態のようなストレート形状ではなく、後端フランジ部50Aの前端部から車両斜め前方下側へ屈曲されてブレース30の上部30Aの中間部付近まで延在される第1傾斜部50B1と、この第1傾斜部50B1の下端部から反対方向である車両斜め後方下側へ屈曲されて(折り返されて)ブレース30の第2折れ部34の後方付近まで延在される第2傾斜部50B2と、この第2傾斜部50B2の下端部から更にその反対方向である車両斜め前方下側へ屈曲されて下部壁50Cの上端(第1折れ部32)に至る第3傾斜部50B3と、によって構成されている。なお、第1傾斜部50B1と第3傾斜部50B3とは略平行に配置されている。
【0047】
換言すれば、この第2実施形態に係る車両用カウル構造では、カウルインナパネル50には、第1折れ部32の他に後部縦壁50B中に第4折れ部52及び第5折れ部54といった二箇所の折れ部(稜線)が追加設定された構造となっている。
【0048】
補足すると、カウルインナパネル50の後部縦壁50Bが車両側面視でインパクタ進入方向Fに対して「非平行な略Z字状」というのは、インパクタ進入方向Fに対して第1傾斜部50B1乃至第3傾斜部50B3がインパクタ進入方向Fに対して平行であると、衝突体40への荷重反力が高くなるので、そのような高い反力を発生させるような「平行配置」を除く意である。
【0049】
さらに、図6に示されるように、カウルインナパネル50の後部縦壁50Bの隣り合う面の角度(第1傾斜部50B1と第2傾斜部50B2とがなす角度β、第2傾斜部50B2と第3傾斜部50B3とがなす角度β’)は、当該隣り合う面のいずれか一方の面とインパクタ進入方向とがなす角度のうち大きい方の角度(第1傾斜部50B1とインパクタ進入方向平行線F1とがなす角度γ、第3傾斜部50B3とインパクタ進入方向F2とがなす角度γ’以下に設定されている。
【0050】
なお、図7に示されるように、この第2実施形態においても、前述した第1実施形態と同様に、カウルアウタパネル14の変形部位の線長(ガラス支持部14Aの線長B+傾斜面14Cの線長C)とブレース30の上端部30Cから第2折れ部34までの線長Aとを足した長さ(A+B+C)と、カウルインナパネル50の変形部位の線長(後部縦壁50Bの線長D−E+F)とブレース30の第2折れ部34からカウルインナパネル50への結合部(f点;第3折れ部36)までの線長(下部30Bの線長G)とを足した長さ(D−E+F+G)とは、略同一に設定されている。すなわち、「A+B+C=D−E+F+G」となるように各部の寸法設定がなされている。
【0051】
また、第2折れ部34(g点)とブレース30のカウルインナパネル50への結合部(f点)とを結んだ方向F’は、インパクタ進入方向(矢印F方向であり、フロントウインドシールドガラス12のガラス面に略直交する方向)に略一致されている。
【0052】
さらに、ブレース30のカウルアウタパネル14への結合部(a点)とブレース30のカウルインナパネル50への結合部(f点)とを結んだ線分G’とインパクタ進入方向線F(a点を通るインパクタ進入方向平行線F”でも等価)とがなす角度αが、ブレース30のカウルアウタパネル14への結合部(a点)と第2折れ部(g点)とを結んだ線分Hとインパクタ進入方向線F(g点を通るインパクタ進入方向平行線F’でも等価)とがなす角度θよりも小さく設定されている。
【0053】
(作用・効果)
【0054】
本実施形態においても前述した第1実施形態の基本的な構成は踏襲しているので、第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。すなわち、NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、カウルインナパネル50の後部縦壁50Bを車両側面視でインパクタ進入方向Fに対して非平行な略Z字状に形成したので、図8に示されるように、衝突荷重が入力された際にカウルアウタパネル14、カウルインナパネル50、及びブレース30で構成される閉断面部38がパンタグラフ状に断面変形していく。このため、フロントウインドシールドガラス12のガラス面直交方向のエネルギー吸収ストロークを充分に確保することができる。その結果、本実施形態によれば、歩行者保護性能をより一層向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、カウルインナパネル50の後部縦壁50Bの隣り合う面の間の角度β、β’を、当該隣り合う面のいずれか一方の面とインパクタ進入方向F1、F2とがなす角度のうち大きい方の角度γ、γ’以下に設定したので、閉断面部38をパンタグラフ状に変形させる際に、ブレース30を常に車両前方側へ変形させることができる。その結果、本実施形態によれば、ブレース30が車両後方側へ折れ曲がってカウルインナパネル50に接触することによる底付きを回避することができ、歩行者保護性能を更に向上させることができる。
【0057】
〔上記実施形態の補足説明〕
【0058】
なお、上述した第1実施形態及び第2実施形態では、カウル10の長手方向に沿って3箇所にブレース30を設定したが、1箇所でもよいし、2箇所又は四箇所以上に設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1実施形態に係る車両用カウル構造を車両前後方向に沿って切断し、その切断面を車両側方から見た拡大縦断面図である。
【図2】図1のブレースを含む閉断面部を抽出した拡大縦断面図である。
【図3】衝突体が衝突してきた際の変形モードを示す図1に対応する拡大縦断面図である。
【図4】図2に示されるカウルの要部を示す全体斜視図である。
【図5】第2実施形態に係る車両用カウル構造を車両前後方向に沿って切断し、その切断面を車両側方から見た拡大縦断面図である。
【図6】図5に示されるブレースを抽出した拡大縦断面図である。
【図7】図5のブレースを含む閉断面部を抽出した拡大縦断面図である。
【図8】衝突体が衝突してきた際の変形モードを示す図5に対応する拡大縦断面図である。
【図9】図7に示されるカウルの要部を示す全体斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
10 カウル
12 フロントウインドシールドガラス
12A 下端部
14 カウルアウタパネル
14D 後端フランジ部(カウルアウタの後端側)
16 カウルインナパネル
16A 上端フランジ部(カウルインナの上端部)
16B 後部縦壁
18 フード
30 ブレース(連結部材)
30C 上端部(連結部材のカウルアウタへの結合部)
32 第1折れ部
34 第2折れ部
36 第3折れ部(連結部材のカウルインナへの結合部)
38 閉断面部
40 衝突体
50 カウルアウタパネル
50B 後部縦壁
50B1 第1傾斜部
50B2 第2傾斜部
50B3 第3傾斜部
F インパクタ進入方向
F’ インパクタ進入方向平行線(インパクタ進入方向線)
F” インパクタ進入方向平行線(インパクタ進入方向線)
F1 インパクタ進入方向
F2 インパクタ進入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインドシールドガラスの下端部に沿って車両幅方向に延在され、当該フロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持するカウルアウタと、
このカウルアウタの下方側に車両幅方向に沿って延在されると共に上端部がカウルアウタの後端側に結合されてカウルアウタとで開断面構造のカウルを形成し、フロントウインドシールドガラスへの衝突荷重の入力時に下部側に設定された第1折れ部を起点として荷重入力方向へ折れ曲がる後部縦壁を備えたカウルインナと、
カウルアウタとカウルインナとを車両幅方向の所定位置で略車両上下方向に連結しカウルアウタ及びカウルインナとで部分的な閉断面部を形成する連結部材と、
を含んで構成された車両用カウル構造であって、
前記連結部材の高さ方向の所定位置にフロントウインドシールドガラスへの衝突荷重の入力によりカウルインナの後部縦壁の折れ曲がり方向と離間する方向へ連結部材を折り曲げるための第2折れ部を設定し、
さらに、カウルアウタの変形部位の線長と連結部材の上端部から第2折れ部までの線長とを足した長さと、カウルインナの変形部位の線長と連結部材の第2折れ部からカウルインナへの結合部までの線長とを足した長さとを略一致させた、
ことを特徴とする車両用カウル構造。
【請求項2】
前記第2折れ部と前記連結部材のカウルインナへの結合部とを結んだ方向をインパクタ進入方向に略一致させると共に、
前記連結部材のカウルアウタへの結合部と前記連結部材のカウルインナへの結合部とを結んだ線分とインパクタ進入方向線とがなす角度を、前記連結部材のカウルアウタへの結合部と第2折れ部とを結んだ線分とインパクタ進入方向線とがなす角度よりも小さく設定した、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用カウル構造。
【請求項3】
前記カウルインナの後部縦壁を車両側面視でインパクタ進入方向に対して非平行な略Z字状に形成した、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用カウル構造。
【請求項4】
前記カウルインナの後部縦壁の隣り合う面の間の角度は、当該隣り合う面のいずれか一方の面とインパクタ進入方向とがなす角度のうち大きい方の角度以下に設定されている、
ことを特徴とする請求項3記載の車両用カウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−331720(P2007−331720A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169233(P2006−169233)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】