説明

車両用ギヤボックス装置

本発明は車両用のギヤボックス装置(10)に関する。車両は、好ましくは工業用または農業用の実用車両である。ギヤボックス装置(10)は少なくとも部分的には潤滑剤貯留部の潤滑剤(24)によって給油可能であり、少なくとも2つのギヤボックス区分(20、22)を有している。各ギヤボックス区分(20、22)はギヤボックスハウジング部(44、46)を有していて、それら2つのギヤボックス区分(20、22)のギヤボックスハウジング部(44、46)は互に接していて潤滑剤貯留部の一部を形成している。特に定常駆動モードでは通例一方のギヤボックス区分またはもう一方のギヤボックス区分(20、22)が駆動可能である。少なくとも殆どの車両駆動状態ではギヤボックス装置(10)の攪拌損失が減少し、ギヤボックス装置(10)用にあてがわれる構成空間はあまり高くならないように、2つのギヤボックス区分(20、22)の間に分離部材(42)を設け、それによって2つのギヤボックス区分(20、22)が少なくとも部分的には互に分離できるようにすることが提案されている。それにより、ギヤボックス区分(20、22)が瞬間的に駆動していない状態又は低回転数で駆動している状態では潤滑剤(24)はギヤボックスハウジング部(44、46)に留まることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用のギヤボックス装置に関する。車両は、好ましくは、工業用または農業用の実用車両である。ギヤボックス装置は少なくとも部分的には潤滑剤貯留部の潤滑剤によって給油することができる。ギヤボックス装置は少なくとも2つのギヤボックス区分を有している。各ギヤボックス区分はギヤボックスハウジング部を有しており、それら2つのギヤボックス区分のギヤボックスハウジング部は互に接していて潤滑剤貯留部の一部を形成している。特に定常駆動モードでは、通例一方のギヤボックス区分又はもう一方のギヤボックス区分が駆動可能である。
【背景技術】
【0002】
上記種類のギヤボックス装置は随分以前から現況技術として公知である。例えば、トラクターに使用される出願人のギヤ装置は、直接相接して潤滑剤貯留部を形成している複数のギヤボックス区分を有している。本発明におけるギヤボックス区分とは、例えば差動歯車区分または出力歯車区分など、特にギヤ装置の機能部のことである。本発明の意味におけるギヤボックスハウジング部とは、ギヤボックスハウジング全体の中で特にギヤボックス区分を収容している部分のことである。ギヤボックスハウジング部は、必ずしも他のギヤボックスハウジング部から取り外しできる必要はなく、また2つあるいはそれ以上の部分から形成されている必要もない。ギヤボックスハウジング部は1つに繋がっているハウジング部から構成することもできる。潤滑剤としては、この場合通例通り駆動油が使用される。該ギヤボックス区分から空間的に分離された−例えば負荷切換装置を有している−別のギヤボックス区分には空気ポンプが装備されている。車両の運転中には、同時稼動する空気ポンプが、別のギヤボックス区分に存在する潤滑剤を適宜設けられた潤滑剤通路を通して該ギヤボックス区分(具体的には差動歯車および出力歯車)へ搬送する作用を果たす。
【0003】
これにより、ドライブトレイン出力歯車領域および差動歯車領域つまりギヤボックス区分では潤滑剤の液高レベルが高まり、そのため特に回転が速い場合ギヤボックス装置の差動歯車領域では攪拌損失が増大する。それによって不利なことに、とりわけ速い走行速度の場合にギヤボックス装置の作用効率が低下する。
【0004】
例えば、DE1 801 917で使用されているような車両の走行速度が高い場合、潤滑剤を収容することのできる追加ハウジング部を設けることもできよう。DE1 801 917では潤滑剤の追加ハウジング部への収容は、潤滑剤を上方接線方向に遠心放出させ、ギヤボックスハウジングの上壁で反射させた後、この追加ハウジング部に到達させる、潤滑剤貯留部に浸漬する軸転かさ歯車を装備することによって実現される。しかし、この追加ハウジング部には、容易に用意することのできない構成空間が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況から、本発明では、前記の問題を克服する上記種類のギヤボックス装置を提供し改良することを基本課題としている。特に車両駆動状態では、少なくとも殆どの場合についてはギヤボックス装置の攪拌損失は減少させなければならないが、ただし、ギヤボックス装置にあてがわれる構成空間はあまり大きくすべきでない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明に関する特許請求の範囲の請求項1の教示によって解決される。本発明のその他の有利な実施態様および改良の内容は従属請求項から明らかである。
【0007】
本発明に基づく上記種類のギヤボックス装置は、2つのギヤボックス区分を少なくとも部分的に分離させることのできる分離部材が2つのギヤボックス区分間に装備されていることを特徴としている。これにより、潤滑剤は、そのギヤボックス区分が瞬間的に駆動していない状態、または低回転数で駆動している状態にあるギヤボックスハウジング部に留まることができる。
【0008】
本発明による場合、先ず最初に、潤滑剤貯蔵器として追加のハウジング部は必要ないことが認識された。それは、車両の瞬間的駆動状態において全く又はごく僅かしか駆動していないギヤボックス区分を分離部材によって潤滑剤貯蔵器として利用できるからである。これにより、車両の瞬間的駆動状態において高回転数で駆動するギヤボックス区分の潤滑剤は量を減少させること、つまりその液高レベルを下げることができる。それにより、少なくともこのギヤボックス区分に関しては、特に有利なことに、攪拌損失を著しく減らすことができる。本発明に基づくギヤボックス装置の場合、貯蔵器として追加のハウジング部を設けなくてよいので、構成空間を拡大する必要はない。この場合、高回転数で駆動するギヤボックス区分から潤滑剤を、例えば潤滑剤貯留部に浸漬する円板状歯車により分離部材の方向に及び/又は分離部材を越えて別のギヤボックス区分のほうへ遠心放出させることができる。それに対応して、潤滑剤が間接的に供給される本例では、一方のギヤボックス区分からもう一方のギヤボックス区分へ潤滑剤を直接及び/又は能動的に送り込むための付属ポンプまたは類似の手段を備える必要がない。分離部材によって2つのギヤボックス区分の境壁分離が実現する。これにより、特に潤滑剤液高レベルの望み通りの低下という観点からは、有利なことに、両ギヤボックス区分の一方における潤滑剤貯蔵量を明らかに引き下げることができる。
【0009】
好ましい実施形態では分離部材は分離隔壁を有している。この分離隔壁は2つのギヤボックス区分の間に設けられており、好ましくは、ギヤボックスハウジング部の底部から上方へ延びているが、しかしギヤボックスハウジング部上方のギヤボックスハウジングの内壁にまでは達していない。その限りにおいて、2つのギヤボックス区分は残されたスリットを通じて、または残された開口部を通じて空気結合している。また潤滑剤も、潤滑剤貯留部に浸漬して駆動中回転している円板車の利用により、それぞれ残されたスリットまたは残された開口部を通って別なギヤボックス区分へ遠心放出される。
【0010】
特に好ましくは、分離隔壁は、ギヤボックス装置の底部から少なくともギヤボックスハウジング部の1つに配置されたギヤボックス入力軸またはギヤボックス出力軸の高さまで延びている。具体的には、一方のギヤボックス区分を差動歯車として且つもう一方のギヤボックス区分を出力歯車として形成することができよう。この場合では、分離隔壁はギヤボックス装置の底部からほぼ出力軸の駆動軸高さにまで延びていると想定される。分離隔壁は、必要に応じて特に潤滑剤用に利用できる容積が2つのギヤボックス区分間で格段な差が生じるようにする場合には更に高く形成することもできよう。つまり、この場合には分離隔壁が高く形成されているため、収容容量の小さいほうのギヤボックス区分は、収容容量の大きいほうのギヤボックス区分に通常収容できる量に相当する、より多くの潤滑剤を貯留することが可能であろう。分離隔壁の上端が出力軸の駆動軸を越えて延びている場合、分離隔壁に出力軸の駆動軸用としてくり抜き部または穿孔部を設けることができよう。
【0011】
分離隔壁には、場合によって即ち分離隔壁の上縁がギヤボックス入力軸またはギヤボックス出力軸を越えている場合には、分離隔壁とギヤボックス入力軸またはギヤボックス出力軸との間を密封することのできるパッキン材を装備することができよう。これにより、場合によってはそれぞれのギヤボックス軸と分離隔壁間の間隙で起きる望ましくない潤滑剤の還流を減少または回避させることができる。
【0012】
特に好ましい実施形態では、別のパッキン材を用いて分離部材とギヤボックスハウジング部との間を密封することができる。例えば、分離部材は、ギヤボックス装置内に元々存在し場合によっては出力歯車の正面軸受部分を支える1つまたは複数の付属金属壁板と結合した軸受台によって形成することができよう。軸受台または金属壁板とギヤボックス装置の底部壁面および側部壁面との間の密封は、例えば弾性バネ帯鋼によって行うことができる。その場合、バネ帯鋼は、一方では軸受台または金属壁板に固定され、もう一方ではギヤボックス装置のハウジング壁面に設けられた傾斜領域に装備される。バネ帯鋼の代わりに、ゴム製またはプラスチック製のパッキン部材を使用することもできる。これにより、2つのギヤボックス区分間で確かに密封遮断は達成されないが、それが必ず必要であるとは限らない。それは、追加パッキン材の密封性に不備があるために、一方のギヤボックス区分からもう一方のギヤボックス区分へ達してしまう潤滑剤の割合が、例えば回転円板状歯車によって一方のギヤボックス区分からもう一方のギヤボックス区分へ送り込まれる潤滑剤の割合に比べて無視し得るからである。特に有利なことに、バネ帯鋼の装備によって、鋳造部品および金属薄板部品の製造公差に対する要求を低く抑えることができる。それにより、本発明に基づくギヤボックス装置はコスト的に有利な製造が可能になる。
【0013】
該分離部材は、特に好ましいことに、2つのギヤボックス区分内に通常存在する量の潤滑剤の半分以上が一方のギヤボックスハウジング部内に滞留できるように構成されている。特に、分離部材は単に平坦な分離隔壁によって形成されているのではなく、ギヤボックス構成部品による構成でないギヤボックス区分の対応形態部分を通って中に延びるように形成することができよう。その限りでは、分離部材は相接する2つのギヤボックス区分の内容積を例えばギヤボックス区分それぞれのハウジングによって定義付けされるのものとは異なる幾何学形態で相互分離させることができる。好ましくは、分離部材は、2つのギヤボックス区分内に通常存在する潤滑剤量の約半分〜2/3が2つのギヤボックス区分のうちの1つに貯留できるように構成されている。
【0014】
原則的には、潤滑剤用ポンプ、空気ポンプまたは類似構造装置群を用いて言わば能動的に高回転数で駆動するギヤボックス区分からもう一方のギヤボックス区分に潤滑剤の一部を送り込むことができよう。これにより、例えば潤滑剤の液高レベル制御が実現できよう。しかし、好ましくは、このような構造装置群はギヤボックス装置内に設置しなければならないことが多く、それにより製造コストの追加原因になっている。従って、ギヤボックスハウジング部内に配置された回転式ギヤ部品例えば円板状歯車から遠心放出される潤滑剤を別のギヤボックスハウジング部へ案内することができる少なくとも1つの案内手段をギヤボックスハウジング部内に設けることが特に好ましいものと想定される。この有利な実施形態に基づけば、潤滑剤は回転式ギヤ部品の遠心放出作用により一方のギヤボックス区分からもう一方のギヤボックス区分へと案内される。案内手段の設置で推進作用を改善または最適化させることができる。案内手段としては、ギヤボックス装置の底部付近例えばギヤボックスハウジングに固定され、少なくとも部分的には回転式ギヤ部品と同心位置に配置される案内金属偏向板が使用できよう。弓形に作られた案内金属偏向板を更なる案内手段として用いることもできよう。その場合これはギヤボックス装置のハウジング上壁に配置され、一方のギヤボックス区分から斜め下方へ調整可能な予設定角度で放出される潤滑剤放射液流をもう一方のギヤボックス区分のほうへ反射させて案内する。
【0015】
特に好ましい一つの実施形態においては、潤滑剤を一方のギヤボックスハウジング部からもう一方のギヤボックスハウジング部へ戻るように案内することのできる戻し案内手段が設けられている。最も簡単な例では、その戻し案内手段は、特に底部近辺の領域で分離部材に配置される好ましくは貫流穴の形態に形成されている。貫流穴の直径は、潤滑剤液高レベルの高い方のギヤボックス区分からの潤滑剤環流があまり遅くならないように、従って、高回転数で駆動するギヤボックス区分内に常に十分な量の潤滑剤が存在し、その結果このギヤボックス構成部が十分に給油されると同時に、あらゆる操業条件下で潤滑剤が潤滑剤用ポンプにより潤滑剤貯留部から確実に吸引されることが保証されるように決められている。他方、高回転数で駆動するギヤボックス区分の攪拌損失があまりにも大きくならないように、潤滑剤液高レベルの高いほうのギヤボックス区分からの潤滑剤環流があまりにも速くなり過ぎてはならない。戻し案内手段としてはもちろん、潤滑剤を、状況によっては潤滑剤用ポンプの使用下で、その中を通して他のギヤボックス区分へ送り込むことのできる潤滑剤通路をギヤボックス装置内に設けることも考えられよう。
【0016】
これにより、分離部材および戻し案内手段が適切に構成され且つサイズが設定されている場合には、準自動制御下で作動する潤滑剤または油剤の液高レベルの動力学的制御が可能である。
【0017】
既に触れたように、例えば出願人の農業用実用車両のためのギヤボックス装置の場合がそうであるように、具体的には一方のギヤボックス区分が差動歯車を備え、もう一方のギヤボックス区分が出力歯車を備えることができよう。走行速度が速い場合、差動歯車は高回転数で駆動されるので、潤滑剤は差動歯車から出力歯車へ遠心放出される。走行速度が低下して出力軸が接続されれば、差動歯車は低回転数で駆動され、出力歯車は高回転数で駆動される。この場合出力歯車に存在する潤滑剤は差動歯車の方へ遠心放出される。双方いずれの場合でも、調整可能な予備設定量(状況によっては僅かな量)が一方のギヤボックス区分からもう一方のギヤボックス区分へ流れ込むことができるように戻し案内手段が配備されている。これにより、潤滑剤液高レベルの動力学的制御が実現され、特に農業用実用車両が高い走行速度例えば50km/hを出す場合には有利である。この場合には、潤滑剤は差動歯車から出力歯車へ遠心放出されるので、攪拌損失は殆ど発生せず、駆動ギヤトレインにおいて約4kWの出力損失が回避できる。農業用実用車両が出力軸駆動で作動する場合、走行速度は通例数km/hに過ぎないので、低回転数で駆動する差動歯車では攪拌損失は殆ど発生しない。それに対して、高回転数で駆動する出力歯車は潤滑剤を差動歯車のほうへ遠心放出するので、出力歯車では攪拌損失は殆ど発生しない。出力軸駆動で実用車両の走行速度が速い場合攪拌損失が発生し得るが、もちろん、これは従来型のこの種のギヤボックス装置でも構造上の追加対策を講じなければ回避することができない。走行速度50km/hの出力軸駆動の場合には、本発明に基づくギヤボックス装置によっても攪拌損失に原因がある出力損失が見られるが、しかしそれに対して差動歯車での出力損失は明らかに低下しているので、本発明に基づくギヤボックス装置によれば、特に有利なことに全体として出力損失の低下が認められることが測定技術的に実証された。
【0018】
本発明に基づく教示を有利に形作り且つ改良する可能性として様々なものがある。それについては、一つには特許請求の範囲の請求項1に従属する従属請求項に、また一つには本発明の好ましい実施例に関する図面を手掛かりとした下記説明が注目されるべきである。本発明の好ましい実施例についての図面を参考とした説明に関連付けて、一般に好ましい実施態様および改良開発例についても説明する。図面はそれぞれ模式図で示されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
同じか又は類似した構成部品は同一符号で表示している。図1は、図1から8では詳しくは描かれていない車両のギヤボックス装置10を示している。図1に示されたギヤボックス装置10は駆動状態にあって、車両の内燃機関12は遮断されている。ギヤボックス装置10は、カルダン軸16を介して内燃機関12と連結しているギヤボックス入力軸14を有している。ギヤボックス装置10は、詳しくは示されていない車両の変速連動装置が配置されているギヤボックス主要部18を有している。ギヤボックス主要部18のハウジングには、内部に車両の差動歯車が配置されている第一ギヤボックス区分20が配置されている。第二のギヤボックス区分22は車両の出力歯車を収容している。
【0020】
ギヤボックス主要部18だけでなく2つのギヤボックス区分20、22にも潤滑剤24が存在する。内燃機関12が遮断状態の場合には、ギヤボックス装置10内の潤滑剤液高レベルは補償される。これについては図1を参照されたい。この状態は、2つのギヤボックス区分20、22から気密状態で分離されているギヤボックス主要部18を2つのギヤボックス区分20、22と連通させているギヤボックス装置10の底部領域内に配置された連結通路26によって達成される。
【0021】
図2は内燃機関12が接続されている状態のギヤボックス装置10を示している。この状態では、ギヤボックス入力軸14はカルダン軸16を介して駆動される。これによって、空気を2つのギヤボックス区分20、22からギヤボックス主要部18へ送り込む空気ポンプ28が駆動する。これにより、ギヤボックス主要部18内に過剰圧力が生じて潤滑剤24が連結通路26から2つのギヤボックス区分20、22へと押しやられる。その結果、ギヤボックス主要部18内の潤滑剤液高レベルは殆ど零位になるまで低下するが、それに対して2つのギヤボックス区分20、22では潤滑剤液高レベルは双方の容量比に応じて明らかに上昇する。潤滑剤用ポンプ30は潤滑剤24を吸引通路32を通じて吸引して潤滑剤供給通路34からギヤボックス主要部18内の詳しくは描かれていないギヤ部品へと連続的に送り込む。この状態では、ギヤボックス主要部18内での攪拌損失は殆ど発生しないも同然である。
【0022】
図3は2つのギヤボックス区分20、22の側方拡大図であり、2つのギヤボックス区分20、22の潤滑剤液高レベルは図2の場合と本質的に一致している。入力軸36は、図3に示された駆動状態ではギヤボックス区分20に配置された差動軸転かさ歯車38を低回転数で回転させる。図3に示された潤滑剤液高レベルでは差動軸転かさ歯車38は潤滑剤24の液中にほぼ半分まで浸漬しており、もし差動軸転かさ歯車38の回転数が高いと攪拌損失が増大するであろう。差動軸転かさ歯車38は、幾らかの潤滑剤24を矢印40が示しているように、斜め上方接線方向に遠心放出させる。
【0023】
図4は、差動軸転かさ歯車38が高回転数で回転している車両駆動状態における2つのギヤボックス区分20、22を示している。この場合、差動軸転かさ歯車38は遥かに多くの潤滑剤24を、矢印40によって示されているように、斜め上方接線方向に遠心放出する。上方に遠心放出された潤滑剤24は、ハウジング上壁によって反射されてギヤボックス区分22の方へ導かれる。従って、車両のこの駆動状態においてギヤボックス区分20で発生する攪拌損失は殆ど無視することができる。本発明による場合、この効果は、ギヤボックス区分20とギヤボックス区分22との間に分離部材42を配置することによって達成される。このように、分離部材42の使用によって2つのギヤボックス区分20、22は部分的に相互分離させることができるので、ギヤボックスハウジング部46に配置されたギヤボックス区分20の差動軸転かさ歯車38が高回転数で回転している場合には、潤滑剤24はギヤボックス区分22のギヤボックスハウジング部44に滞留させることができる。
【0024】
図5は、別の車両駆動状態における2つのギヤボックス区分20、22を示している。この駆動状態では、差動軸転かさ歯車38は低回転数で回転している。換言すれば、車両の走行速度は約15km/h未満である。それに対し、ギヤボックスハウジング部44に配置された出力歯車は高回転数で回転するので、潤滑剤24はギヤボックス区分22からギヤボックス区分20へ遠心放出される。つまり、回転可能なように配置された浸漬歯車が、基本的には同原理により潤滑剤24を先ず斜め上方へギヤボックス装置10のハウジング上壁に向かって遠心放出させる。潤滑剤はそこでギヤボックス区分20の方向へ反射される。この車両駆動状態では、ギヤボックス区分22における攪拌損失は殆ど無視できる程度であり、差動歯車による攪拌損失は、仮にあるとしても低レベル範囲である。潤滑剤24の中に浸漬された歯車は、それ自体潤滑剤24の一部を垂直上方に遠心放出するであろうから、潤滑剤24はギヤボックス区分20の方向には搬出されないにも拘わらず、潤滑剤24は斜め方向にギヤボックス区分20の方へ導かれる。それは、出力軸が接続駆動状態になれば、出力軸クラッチ48用の潤滑剤冷却器(図示せず)の作動が活発化して出力軸クラッチ48を貫流する潤滑剤24にギヤボックス区分20の方向への水平成分が生じるからである。これについては図7の矢印49を参照されたい。これにより、一方では矢印51が示す垂直方向の、他方では水平方向の潤滑剤遠心放出運動が重なり合って、全体として斜め上方に向かう潤滑剤成分が生み出される。矢印51方向の推進作用は、図7に示されているように、同図で右回りに回転する出力軸クラッチ48のクラッチ胴と結合している歯車によるのではない。この歯車は下方の潤滑剤貯留部にまで達していないからである。この推進作用は、むしろ、当歯車と噛合っている出力軸70と同軸配置されている歯車(図示せず)によるものである。
【0025】
図6は、2つのギヤボックス区分20、22の上面図である。この場合、分離部材42はギヤボックス区分20の方向(数字50で記された領域)にまで延びているのが認められる。その結果、ギヤボックス区分22で潤滑剤24の貯留のために提供し得る容積が拡大する。これはまた図7からも認められる。そこではただ、ギヤボックス区分20の差動軸転かさ歯車38およびギヤボックス区分22の出力歯車の個別ギヤ部品が透視図として模式的に描かれている。図6および7には、鋳造部品形態として形成され、出力歯車の正面軸受部分を支えるギヤボックス区分22の軸受台52が示されている。この軸受台52に分離部材42が取り付けられてネジ固定される。
【0026】
分離部材42には、図8から見て取れるように、バネ帯鋼54が固定具56、例えばリベットにより固定されている。分離部材42は軸受台52に対してネジ58で固定されている。この状態で、バネ帯鋼54は、ギヤボックスハウジング壁に設けられた傾斜板60に対して押し当てられる。これにより、ギヤボックス区分20、22は相互間での潤滑剤24の移行を遮断するように分離させることができる。その場合、バネ帯鋼54が取り付けられる鋳造部品または金属薄板部品に見られる生産時起因の大きな変形は、多かれ少なかれ補正することができることは有利である。
【0027】
図3乃至5から見て取れるように、分離部材42はギヤボックス装置10の底部から出力歯車用の駆動軸62の上方にまで延びている。出力歯車用の駆動軸62は分離部材42を通り抜けて延びることもあろう。その場合は、軸受64に匹敵する作用を有し、駆動軸62と分離部材42との間を密封し得るパッキン材を装備すべきであろう。他方、図7は分離部材42の領域65が出力歯車の駆動軸62の下方までしか延びていない場合を示している。それに対応し、この場所では分離部材42に対してパッキン材の使用は必要ない。
【0028】
図3から7には、金属偏向板として形成されている案内手段66の概略が示されている。案内手段66によって差動軸転かさ歯車38の推進作用が増大するので、差動歯車が高回転数で駆動されている場合にギヤボックス区分22方向への潤滑剤24の搬送は最適化される。
【0029】
ギヤボックス装置10の底部付近の領域では、分離部材42に戻し案内手段68が設けられている。具体的には、直径約8mmの穿孔部が形成されている。これは、例えば図1、2および7から見て取れる。これにより、潤滑剤液高レベルの動力学的制御が保証され、走行速度が速い場合には潤滑剤24がギヤボックス区分20からギヤボックス区分22へ移行し、その結果、回転式差動軸転かさ歯車38による攪拌損失は明らかに減少する。一方、低走行速度の場合には、潤滑剤の平均液高レベルはあまり大きくは影響されない。それは、遠心放出される潤滑剤24の量が少なくて、ギヤボックス区分22からギヤボックス区分20の方へ難なく逆流し得るからである。図2の矢印69を参照されたい。
【0030】
出力軸70が駆動中の場合(これは通例、走行速度15km/h以下の場合にのみ当てはまる)、出力歯車の回転歯車装置の推進作用によりギヤボックス区分22における潤滑剤液高レベルは、例えば図1および3に示されているような状態に比べて低下し、これによって出力歯車の出力損失が回避されることから別な利点が生まれる。
【0031】
本発明に基づくギヤボックス装置10は、トラクターの極端な駆動モードでも、特に、極端な傾斜位置の場合や潤滑剤充填量が著しく削減された駆動の場合でも有効に作用する。これはまた、極端な消費装置(例えば液圧駆動式作業機器)がギヤボックス装置10から潤滑剤24を取り込み、これによって潤滑剤液高レベルが全体として低下する場合にも当てはまる。
【0032】
潤滑剤液高レベルの動力学的制御における作用態様から、給油維持及び各種ポンプの整備に必要なギヤボックス区分20における最少限の潤滑剤液高レベルを下回ることはできない。それは、潤滑剤液高レベルが大幅に低下した場合、当然のことながら、差動軸転かさ歯車38による潤滑剤の搬送が著しく減少するか又は完全に停止するからである。
【0033】
最後に特に注意点として言及するが、上で紹介した実施例は単に特許請求内容の説明に用いているだけであり、実施例を拘束するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】車両の第一駆動状態における、本発明に基づくギヤボックス装置の第一実施例の側面図である。
【図2】図1の実施例における車両の第二駆動状態を示す側面図である。
【図3】車両の第二駆動状態における、本発明に基づく図1および2の実施例の2つのギヤボックス区分の側面拡大図である。
【図4】車両の第3駆動状態における、図3の2つのギヤボックス区分の側面図である。
【図5】車両の第4駆動状態における、図3の2つのギヤボックス区分の側面図である。
【図6】図3における2つのギヤボックス区分の上面図である。
【図7】図3における2つのギヤボックス区分における個別構成要素の透視図である。
【図8】ギヤボックスハウジングの内面との間がパッキン材で密封されている分離部材の部分断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤボックス装置(10)が少なくとも部分的には潤滑剤貯留部の潤滑剤(24)によって給油可能であり、少なくとも2つのギヤボックス区分(20、22)を有し、各ギヤボックス区分(20、22)がギヤボックスハウジング部(44、46)を有し、2つのギヤボックス区分(20、22)のギヤボックスハウジング部(44、46)が互に接していて潤滑剤貯留部の一部を形成しており、特に定常駆動モードでは通例一方のギヤボックス区分またはもう一方のギヤボックス区分(20、22)が駆動できる車両好ましくは農業用または工業用の実用車両のためのギヤボックス装置であって、
2つのギヤボックス区分(20、24)の間に分離部材(42)が設けられて2つのギヤボックス区分(20、22)が少なくとも部分的には互に分離可能であり、それにより、そのギヤボックス区分(20、22)が瞬間的に駆動していない状態または低回転数で駆動している状態では、潤滑剤(24)がギヤボックスハウジング部(44、46)に滞留可能であることを特徴とするギヤボックス装置。
【請求項2】
前記分離部材(42)が、好ましくは、ギヤボックスハウジング部(44、46)の上方内壁までへは延びていない分離隔壁を有していることを特徴とする、請求項1に記載のギヤボックス装置。
【請求項3】
前記分離隔壁がギヤボックス装置(10)の底部から、少なくとも、ギヤボックスハウジング部(44、46)の1つに配置されたギヤボックス入力軸(62)またはギヤボックス出力軸の高さまで延びていることを特徴とする、請求項2に記載のギヤボックス装置。
【請求項4】
前記分離隔壁が、それ自体ギヤボックス入力軸(62)またはギヤボックス出力軸の高さを越えて延びている場合、分離隔壁とギヤボックス入力軸(62)またはギヤボックス出力軸との間を密封し得るパッキン材を有していることを特徴とする、請求項3に記載のギヤボックス装置。
【請求項5】
好ましくはバネ帯鋼を含む別のパッキン材(54)によって分離部材(42)とギヤボックスハウジング部(44、46)との間を密封し得ることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のギヤボックス装置。
【請求項6】
2つのギヤボックス区分(20、22)内に通常存在する潤滑剤(24)の量の半分以上が、好ましくは、2つのギヤボックス区分(20、22)内に通常存在する潤滑剤(24)の量の約1/3〜2/3がギヤボックスハウジング部(44、46)の一方に滞留可能であるように、分離部材(42)が構成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のギヤボックス装置。
【請求項7】
ギヤボックスハウジング部(20)に少なくとも1つの案内手段(66)が設けられ、それにより、ギヤボックスハウジング部(20)に配置された回転式ギヤ部品(38)(例えば軸転かさ歯車)から遠心放出される潤滑剤(24)がもう一方のギヤボックスハウジング部(22)へと誘導可能であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のギヤボックス装置。
【請求項8】
潤滑剤(24)を一方のギヤボックスハウジング部(20)からもう一方のギヤボックスハウジング部(22)へ戻るように案内可能な戻し案内手段(68)が設けられていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のギヤボックス装置。
【請求項9】
戻し案内手段(68)が、特に底部近辺の領域で、分離部材(42)に設けられていること及び好ましくは貫通穴の形態に形成されていることを特徴とする、請求項8に記載のギヤボックス装置。
【請求項10】
一方のギヤボックス区分(20)が差動歯車を含んでおり及び/又はもう一方のギヤボックス区分(22)が出力歯車を含んでいることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のギヤボックス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−514905(P2007−514905A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544441(P2006−544441)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/053506
【国際公開番号】WO2005/059409
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(591005165)ディーア・アンド・カンパニー (109)
【氏名又は名称原語表記】DEERE AND COMPANY
【Fターム(参考)】