説明

車両用サスペンション制御装置

【課題】スタビライザの状態を変化させる場合の車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比の変動を抑制することができる車両用サスペンション制御装置を提供すること。
【解決手段】左車輪に接続された左スタビライザバー11と右車輪に接続された右スタビライザバー12とを連結した連結状態と、左スタビライザバーと右スタビライザバーとを遮断した遮断状態とに切替え可能なスタビライザ10と、左車輪および右車輪にそれぞれ配置されたエアサスペンションと、左車輪に配置されたエアサスペンション41FLの空気室41dと右車輪に配置されたエアサスペンション41FRの空気室とを連通する通路53Fと、通路の流路断面積を変更する調節機構55と、を備え、スタビライザの連結状態と遮断状態とが切り替わるときの車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比の変動を抑制するように調節機構を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サスペンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制御機構を有するスタビライザが提案されている。例えば、特許文献1には、高速走行時または旋回時にはクラッチ機構によりスタビライザのトーション部の左半部と右半部間を締結してスタビライザ機能を発揮させ、低速の直進時には左半部と右半部間を遮断する車両用サスペンションのスタビライザ装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−289427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、スタビライザの連結状態と遮断状態とを切り替える場合など、スタビライザの状態を変化させる場合、車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比が変化し、乗心地の低下を招く虞がある。
【0005】
本発明の目的は、スタビライザの状態を変化させる場合の車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比の変動を抑制することができる車両用サスペンション制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用サスペンション制御装置は、左車輪に接続された左スタビライザバーと右車輪に接続された右スタビライザバーとを連結した連結状態と、前記左スタビライザバーと前記右スタビライザバーとを遮断した遮断状態とに切替え可能なスタビライザと、前記左車輪および前記右車輪にそれぞれ配置されたエアサスペンションと、前記左車輪に配置されたエアサスペンションの空気室と前記右車輪に配置されたエアサスペンションの空気室とを連通する通路と、前記通路の流路断面積を変更する調節機構と、を備え、前記スタビライザの前記連結状態と前記遮断状態とが切り替わるときの車両のロール方向のばね力と前記ロール方向の減衰力との比の変動を抑制するように前記調節機構を制御することを特徴とする。
【0007】
上記車両用サスペンション制御装置において、前記スタビライザの前記連結状態と前記遮断状態とが切り替わる前後で前記ロール方向のばね力と前記ロール方向の減衰力との比を維持するように前記調節機構を制御することが好ましい。
【0008】
上記車両用サスペンション制御装置において、前記スタビライザとして、前記連結状態においてばね定数を変更可能なものを備え、前記連結状態において前記スタビライザのばね定数を変更する前後で前記ロール方向のばね力と前記ロール方向の減衰力との比を維持するように前記調節機構を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用サスペンション制御装置は、左スタビライザバーと右車輪に接続された右スタビライザバーとを連結した連結状態と、左スタビライザバーと右スタビライザバーとを遮断した遮断状態とに切替え可能なスタビライザと、左車輪に配置されたエアサスペンションの空気室と右車輪に配置されたエアサスペンションの空気室とを連通する通路と、通路の流路断面積を変更する調節機構と、を備え、スタビライザの連結状態と遮断状態とが切り替わるときの車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比の変動を抑制するように調節機構を制御する。よって、本発明に係る車両用サスペンション制御装置によれば、スタビライザの状態を変化させる場合の車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比の変動を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施形態に係る車両用サスペンション制御装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態に係る車両用サスペンション制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
[実施形態]
図1を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両用サスペンション制御装置に関する。図1は、実施形態に係る車両用サスペンション制御装置1−1の概略構成を示す図である。
【0013】
本実施形態に係る車両は、左右のスタビライザバーを連結状態と遮断状態とに切替え可能な切替えスタビシステムを備えている。左右のスタビライザバーをロックする連結状態と、左右のスタビライザバーの相対回転を規制せずにフリーとする遮断状態とは、路面状況等に応じて切り替えられる。連結状態と遮断状態との切替えがなされると、スタビライザのばね定数が変化する。スタビライザの連結/遮断の状態変化に応じて車両の適正なロール減衰係数が変化してしまい、ロール方向の乗心地の低下が発生する虞がある。
【0014】
本実施形態の車両用サスペンション制御装置1−1は、エアサスペンションシステム(図1の符号40参照)を備えており、かつ左右のエアばね(図1の符号41参照)を連結するエア配管(図1の符号53F,53R参照)に配置された可変オリフィス(図1の符号55,56参照)を備える。車両用サスペンション制御装置1−1は、可変オリフィス55,56によって車両のロール方向の減衰力を発生させる。また、車両用サスペンション制御装置1−1は、アクティブスタビライザ(図1の符号10,20参照)の状態に応じたロール減衰を実現するように可変オリフィス55,56を制御する。
【0015】
よって、本実施形態の車両用サスペンション制御装置1−1によれば、アクティブスタビライザ10,20の状態を変化させる場合の車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比の変動を抑制することができる。これにより、アクティブスタビライザ10,20の状態を変化させる場合の乗心地の低下が抑制される。
【0016】
図1に示す車両用サスペンション制御装置1−1は、前輪アクティブスタビライザ10、後輪アクティブスタビライザ20、ECU30、エアばね41、前輪エア配管53F、後輪エア配管53Rおよび可変オリフィス55,56を備えている。アクティブスタビライザ10,20は、車両のロールを抑制するアンチロールモーメントを発生させる。アクティブスタビライザ10,20は、車両のロールに対してアンチロールモーメントを発生させることによりロールを抑制する。
【0017】
前輪アクティブスタビライザ10は、スタビライザバー部材11,12およびアクチュエータ13を有する。スタビライザバー部材11は、車両の右前輪を保持する保持部材とアクチュエータ13とを接続する。また、スタビライザバー部材12は、車両の左前輪を保持する保持部材とアクチュエータ13とを接続する。スタビライザバー部材11,12は、それぞれ車幅方向に延在するトーションバー部11a,12aと、トーションバー部11a,12aと一体に形成され、車両前後方向に延在するアーム部11b,12bとを有する。アーム部11bにおけるトーションバー部11a側と反対側の端部は、右前輪を保持する保持部材、例えばロワアームに接続されている。また、アーム部12bにおけるトーションバー部12a側と反対側の端部は、左前輪を保持する保持部材、例えばロワアームに接続されている。
【0018】
アクチュエータ13は、右前輪側のスタビライザバー部材11と左前輪側のスタビライザバー部材12との相対的なねじれ量を制御する。アクチュエータ13は、固定子および回転子を有するモータを備えている。スタビライザバー部材11,12の一方がモータの固定子側に、他方がモータの回転子側に接続されている。従って、モータの回転量を制御することによってスタビライザバー部材11とスタビライザバー部材12との相対回転量を制御することができる。
【0019】
車両のロールによってスタビライザバー部材11,12に捻り力が作用するときに、アクチュエータ13によってこの捻り力による捻り方向と反対方向にスタビライザバー部材11,12を相対回転させることで、ロールモーメントに対抗するアンチロールモーメントを発生させることができる。そして、モータ力によってアクチュエータ13の回転量を変化させることで、左右のスタビライザバー部材11,12の相対回転量を変化させれば、ロール抑制力としてのアンチロールモーメントが変化し、車体のロールをアクティブに抑制することが可能となる。なお、ここでいうアクチュエータ13の回転量とは、車両が平坦路に静止している状態を基準状態としてその基準状態でのアクチュエータ13の回転位置を中立位置とした場合において、その中立位置からの回転量、つまり、動作量を意味する。したがって、アクチュエータ13の回転量が大きくなるほど、アクチュエータ13の回転位置が中立位置から離れ、スタビライザバー部材11,12の捻り反力、つまり、ロール抑制力も大きくなる。
【0020】
後輪アクティブスタビライザ20は、前輪アクティブスタビライザ10と同様のものであり、スタビライザバー部材21,22およびアクチュエータ23を有する。スタビライザバー部材21は、アクチュエータ23と右後輪を保持する保持部材とを接続している。スタビライザバー部材22は、アクチュエータ23と左後輪を保持する保持部材とを接続している。アクチュエータ23は、モータ力によって左右のスタビライザバー部材21,22の相対回転量を変化させることにより、後輪側のロール抑制力を変化させる。このように、アクティブスタビライザ10,20は、左右のスタビライザバー部材間の捻り角を可変に制御可能な可変捻り角スタビライザである。言い換えると、アクティブスタビライザ10,20は、ロール方向のばね定数を変更可能なものであり、所定のロールモーメントに対して車両に発生させるアンチロールモーメントを可変に制御することができる。
【0021】
アクティブスタビライザ10,20は、連結状態と遮断状態とに切替え可能なスタビライザである。連結状態とは、左車輪に接続された左スタビライザバーと右車輪に接続された右スタビライザバーとを連結した状態である。例えば、前輪アクティブスタビライザ10では、左スタビライザバーとしてのスタビライザバー部材12と右スタビライザバーとしてのスタビライザバー部材11とが連結されてスタビライザバー部材12とスタビライザバー部材11とでトルクが相互に伝達可能な状態が連結状態である。同様にして、後輪アクティブスタビライザ20では、スタビライザバー部材21とスタビライザバー部材22とが連結されてスタビライザバー部材21とスタビライザバー部材22とでトルクが相互に伝達可能な状態が連結状態である。
【0022】
連結状態は、アクチュエータ13,23の回転量を制御してアクティブスタビライザ10,20によって能動的にアンチロールモーメントを発生させる状態、および入力されるトルクよってアクチュエータ13,23に発電を行わせることによってロール方向の減衰力を発生させ、受動的にアンチロールモーメントを発生させる状態を含むことができる。なお、ロール方向とは、車両の前後方向に沿った軸である前後軸まわりの方向である。
【0023】
遮断状態とは、左スタビライザバーと右スタビライザバーとを遮断した状態である。例えば、前輪アクティブスタビライザ10では、スタビライザバー部材12とスタビライザバー部材11とが遮断され、スタビライザバー部材12とスタビライザバー部材11とがトルクを伝達不能な状態が遮断状態である。つまり、遮断状態では、スタビライザバー部材11とスタビライザバー部材12とのトルクの伝達が遮断される。同様にして、後輪アクティブスタビライザ20では、スタビライザバー部材21とスタビライザバー部材22とが遮断され、スタビライザバー部材21とスタビライザバー部材22とがトルクを伝達不能な状態が遮断状態である。
【0024】
遮断状態は、例えば、アクチュエータ13,23のモータを電動機としても発電機としても機能させないフリーの状態とすることによって実現可能である。遮断状態では、アクチュエータ13,23のモータは、固定子と回転子との相対回転が規制されない状態となる。
【0025】
エアサスペンションシステム40は、エアばね41(41FR、41FL、41RR、41RL)、および車高調整ユニット40Aを備える。車高調整ユニット40Aは、フィルタ42、コンプレッサ43、モータ44、チェック弁45,46、オリフィス47、ドライヤ48、高圧タンク49、排気バルブ50、低圧タンク51、ハイトコントロールバルブ52(52FR、52FL、52RR、52RL)、エア配管53および排出配管54を備える。なお、エアばね41およびハイトコントロールバルブ52において、添字FRは右前輪、FLは左前輪、RRは右後輪、RLは左後輪に係る構成要素をそれぞれ示すものとする。
【0026】
エアばね41は、エアサスペンションであり、ショックアブソーバ60と共に各車輪にそれぞれ配置されている。ショックアブソーバ60は、外筒61と、ピストンロッド62とを有する。外筒61は中空円筒形状であって、内部に作動流体、例えばオイルが封入されている。ピストンロッド62は、外筒61の内部に配置されて外筒61の内壁面に沿って摺動するピストン部を有している。外筒61の内部は、ピストン部によってピストン上室とピストン下室とに仕切られている。ピストン部には、ピストン上室とピストン下室とを連通する連通路が形成されている。
【0027】
外筒61の下端は、車輪を保持する保持部材によってブシュ63を介して支持されている。エアばね41は、車体側外殻部材41a、車輪側外殻部材41bおよびローリングダイアフラム41cを有する。車体側外殻部材41aは、ピストンロッド62に連結されており、ピストンロッド62と共にショックアブソーバ60の軸方向に移動することができる。また、車体側外殻部材41aは、車体を支持している。右前輪に配置されたエアばね41FRの車体側外殻部材41aは、車体の右前輪側を支持している。同様に、エアばね41FL,41RR,41RLは、それぞれ車体の左前輪側、右後輪側、左後輪側を支持している。
【0028】
車輪側外殻部材41bは、ショックアブソーバ60の外筒61に連結されている。すなわち、車輪側外殻部材41bは、外筒61を介して車輪を保持する保持部材によって支持されている。右前輪のエアばね41FRの車輪側外殻部材41bは、右前輪を保持する保持部材によって支持されている。同様に、エアばね41FL,41RR,41RLの車輪側外殻部材41bは、それぞれ左前輪を保持する保持部材、右後輪を保持する保持部材、左後輪を保持する保持部材によって支持されている。
【0029】
ローリングダイアフラム41cは、車体側外殻部材41aと車輪側外殻部材41bとを接続している。車体側外殻部材41a、ローリングダイアフラム41cおよび車輪側外殻部材41bによって、空気室41dが形成されている。各エアばね41FR,41FL,41RR,41RLの空気室41dには、エア配管53が接続されている。
【0030】
エア配管53には、コンプレッサ43が設けられている。コンプレッサ43は、モータ44の動力によって駆動されて作動気体としての空気を圧縮する。コンプレッサ43は、フィルタ42を介して吸入した空気を圧縮して各エアばね41に向けて吐出する。エア配管53における各エアばね41とコンプレッサ43との間には、コンプレッサ43に近い側から順に、チェック弁45、チェック弁46およびオリフィス47、ドライヤ48が設けられている。チェック弁45は、コンプレッサ43から各エアばね41に向かう空気の流れを許容し、各エアばね41からコンプレッサ43に向かう空気の流れを規制する逆止弁である。チェック弁46およびオリフィス47は、並列に設けられている。チェック弁46は、チェック弁45と同様に、コンプレッサ43から各エアばね41に向かう空気の流れを許容し、これと逆向きの空気の流れを規制する。ドライヤ48は、コンプレッサ43から吐出された空気に含まれる水分を除去する。
【0031】
各エアばね41には、ハイトコントロールバルブ52がそれぞれ配置されている。ハイトコントロールバルブ52は、エア配管53におけるコンプレッサ43と各エアばね41との空気の流路を開閉するものである。例えば、右前輪のハイトコントロールバルブ52FRは、エアばね41FRの空気室41dとコンプレッサ43との間の空気の流路を開閉する。コンプレッサ43の作動時にハイトコントロールバルブ52FRが流路を開放すると、コンプレッサ43から吐出された空気がエアばね41FRの空気室41dに流入する。これにより、車体側外殻部材41aは、上側に向けて車輪側外殻部材41bに対して相対移動する。つまり、車体側外殻部材41aと車輪側外殻部材41bとはショックアブソーバ60の軸方向において離間する方向に相対移動する。その結果、車体の右前輪側は、右前輪の接地面に対して離間する。つまり、車体の右前部の車高が増加する。
【0032】
他のエアばね41についても同様であり、エア配管53に圧縮空気が供給されている状態でエアばね41FL、41RR、41RLのハイトコントロールバルブ52FL、52RR、52RLが開かれると、車体の左前部、右後部、左後部の車高がそれぞれ増加する。
【0033】
なお、エア配管53におけるドライヤ48よりも各エアばね41側には、高圧タンク49が接続されている。高圧タンク49は、コンプレッサ43から吐出された圧縮空気を蓄えるアキュムレータとしての機能を有する。高圧タンク49には、エア配管53との間の空気の流路を開閉する図示しない開閉弁が設けられている。開閉弁を開放させることにより、エア配管53の圧縮空気を高圧タンク49に受け入れること、あるいは高圧タンク49内に蓄えた圧縮空気をエア配管53に流出させることが可能である。
【0034】
高圧タンク49の開閉弁は、例えば、エアばね41の空気室41dに空気を供給する際に開かれる。高圧タンク49に予め蓄えられた圧縮空気をエア配管53に流出させることにより、コンプレッサ43をアシストして空気室41dに速やかに圧縮空気を供給することが可能となる。また、車高の調整が完了した後などに、各ハイトコントロールバルブ52を閉じた状態でコンプレッサ43を運転することにより、高圧タンク49に圧縮空気を貯留することが可能である。
【0035】
エア配管53には、排出配管54が接続されている。排出配管54は、エア配管53におけるチェック弁45とチェック弁46との間に接続されている。排出配管54は、エア配管53と低圧タンク51とを接続している。低圧タンク51は、例えば、大気圧よりも低圧に保たれている。低圧タンク51内の空気は、例えば、コンプレッサ43によって吸引されるようにしてもよい。あるいは、低圧タンク51内の空気を吸引するポンプ等が設けられていてもよい。
【0036】
排出配管54には、排出配管54の空気の流路を開閉する排気バルブ50が設けられている。排気バルブ50が開かれると、エア配管53内の空気が排出配管54を介して低圧タンク51に流出する。低圧タンク51内が大気圧よりも低圧であることから、エア配管53の空気が大気に放出される場合よりも速やかにエア配管53の空気を排出させる積極排気が可能となる。排気バルブ50は、空気室41dに空気が供給されるときには排出配管54を遮断する。
【0037】
空気室41d内の空気を排出して車高を下げる場合、コンプレッサ43が停止され、かつ排気バルブ50およびハイトコントロールバルブ52が開かれる。このとき、高圧タンク49の開閉弁は閉じられる。エア配管53に圧縮空気が供給されておらず、かつ排気バルブ50が開かれた状態でエアばね41FR、41FL、41RR、41RLのハイトコントロールバルブ52FR、52FL、52RR、52RLが開かれると、それぞれ車体の右前部、左前部、右後部、左後部の車高が減少する。
【0038】
前輪アクティブスタビライザ10、後輪アクティブスタビライザ20およびエアサスペンションシステム40は、それぞれECU30によって制御される。ECU30は、例えばコンピュータを有する電子制御ユニットである。前輪アクティブスタビライザ10のアクチュエータ13および後輪アクティブスタビライザ20のアクチュエータ23は、それぞれECU30に接続されており、ECU30によって制御される。また、エアサスペンションシステム40のモータ44、排気バルブ50、高圧タンク49および各ハイトコントロールバルブ52(52FR、52FL、52RR、52RL)はそれぞれECU30に接続されており、ECU30によって制御される。
【0039】
ECU30には、車両の走行状態を検出するセンサ70が接続されている。センサ70は、車高を検出する車高センサ、車速を検出する車速センサ、車両の横Gを検出する横Gセンサ、ヨーレートを検出するヨーレートセンサおよび操舵角を検出する舵角センサを含む。
【0040】
ECU30は、車両の旋回時など、車両のロール運動が発生する場合に、ロールに対するアンチロールモーメントの目標値である目標アンチロールモーメントに基づいてアクティブスタビライザ10,20を制御する。目標アンチロールモーメントは、例えば、センサ70によって検出された横G、ヨーレート、車速および操舵角に基づいて算出される。ECU30は、算出された目標アンチロールモーメントに基づいてアクチュエータ13,23の回転量を制御する。つまり、ECU30は、目標アンチロールモーメントに基づいてアクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを変化させる。
【0041】
また、ECU30は、路面状況や車両の走行状態等に基づいてアクティブスタビライザ10,20の連結状態と遮断状態とを切り替える。ECU30は、例えば、悪路走行時にアクティブスタビライザ10,20を連結状態とし、悪路走行時以外ではアクティブスタビライザ10,20を遮断状態とするようにしてもよい。また、ECU30は、例えば、直進時や低速走行時にアクティブスタビライザ10,20を遮断状態とし、旋回時や高速走行時にアクティブスタビライザ10,20を連結状態とするようにしてもよい。
【0042】
ここで、車両のロール方向の減衰特性を決めるショックアブソーバ60は、操縦安定性能・乗心地性能等を加味してチューニングが行われ、減衰特性が一意に決まっている。このため、以下に説明するように、アクティブスタビライザ10,20のばね定数が変化すると、適正なロール減衰力が得られず、乗心地の低下を招くことがある。
【0043】
例えば、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを大きな値に設定して臨界減衰比ζを合わせている場合、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを小さな値に切り替えると、適正なロール減衰を得られなくなる。ここで、臨界減衰比ζは、下記[数1]で示される。
【数1】

ここで、C:車両のロール減衰係数、Cc:臨界減衰係数、M:車両のロール慣性、K:アクティブスタビライザのばね定数をそれぞれ示す。
【0044】
上記[数1]からわかるように、臨界減衰比ζは、車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比に対応するものであり、また車両のロール減衰係数Cとアクティブスタビライザのばね定数Kとの比に対応している。
【0045】
アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを切り替える場合に、臨界減衰比ζを維持しようとすると、車両のロール減衰係数Cを変化させる必要がある。しかしながら、ショックアブソーバ60の減衰係数が一意に決められていると、車両のロール減衰係数Cを変化させることができない。このため、ばね定数Kを切り替えたときに適正なロール減衰力を得られず、乗心地の低下を招くことがあった。
【0046】
本実施形態の車両用サスペンション制御装置1−1は、左右のエアサスペンションを連結する配管、および当該配管に設けられた可変オリフィス55,56を備えている。これにより、車両の減衰係数Cを可変とすることができる。よって、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを切り替える前後で臨界減衰比ζを維持するように車両の減衰係数Cを調節することが可能となり、ドライバビリティを向上させることができる。
【0047】
図1に示すように、エア配管53は、前輪エア配管53Fおよび後輪エア配管53Rを有する。前輪エア配管53Fは、左前輪に配置されたエアばね41FLの空気室41dと右前輪に配置されたエアばね41FRの空気室41dとを連通する通路である。前輪エア配管53Fは、左前輪エア配管53FLと右前輪エア配管53FRとを有する。左前輪エア配管53FLは、エア配管53において左前輪の空気室41dに接続された分岐通路である。左前輪のハイトコントロールバルブ52FLは、左前輪エア配管53FLに配置されている。右前輪エア配管53FRは、エア配管53において右前輪の空気室41dに接続された分岐通路である。右前輪のハイトコントロールバルブ52FRは、右前輪エア配管53FRに配置されている。
【0048】
後輪エア配管53Rは、左後輪に配置されたエアばね41RLの空気室41dと右後輪に配置されたエアばね41RRの空気室41dとを連通する通路である。後輪エア配管53Rは、左後輪エア配管53RLと右後輪エア配管53RRとを有する。左後輪エア配管53RLは、エア配管53において左後輪の空気室41dに接続された分岐通路である。左後輪のハイトコントロールバルブ52RLは、左後輪エア配管53RLに配置されている。右後輪エア配管53RRは、エア配管53において右後輪の空気室41dに接続された分岐通路である。右後輪のハイトコントロールバルブ52RRは、右後輪エア配管53RRに配置されている。
【0049】
前輪エア配管53Fには、可変オリフィス55が配置されている。可変オリフィス55は、前輪エア配管53Fの流路断面積を変更する調節機構として機能することができる。また、後輪エア配管53Rには、可変オリフィス56が配置されている。可変オリフィス56は、後輪エア配管53Rの流路断面積を変更する調節機構として機能することができる。可変オリフィス55,56は、オリフィス径を変化させることができるものである。可変オリフィス55,56は、それぞれECU30に接続されており、ECU30によって制御される。
【0050】
可変オリフィス55,56は、車両にロールが発生する際、すなわち左右のエアばね41にストローク差が発生する際に、左右の空気室41d間で空気が移動するときにロール減衰を発生させる。旋回外側の収縮するエアばね41から旋回内側の伸張するエアばね41に向けてエア配管53F,53R内を移動する空気が可変オリフィス55,56を通過することで、ロール減衰が発生する。ECU30は、可変オリフィス55,56によってロール方向の減衰力を発生させる場合、対応するハイトコントロールバルブ52を開放する。
【0051】
可変オリフィス55,56によって発生するロール減衰の大きさは、オリフィス径に応じて変化する。ここで、可変オリフィス55,56で発生する差圧dpは、下記[数2]で表され、可変オリフィス55,56の減衰係数(以下、単に「オリフィス減衰係数」とも記載する。)C1は、下記[数3]で表すことができる。
【0052】
【数2】

【数3】

なお、Achamber:空気室41dの有効断面積、v:エアばね41のストローク速度、α:流量係数、ρ:流体密度スタビばね定数、d:オリフィス径、F:オリフィス減衰力である。
【0053】
上記[数3]からわかるように、オリフィス径dを変化させることによって、オリフィス減衰係数C1を変化させることができる。ECU30は、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを変化させるときに、ばね定数Kが変化することによる臨界減衰比ζの変動を抑制するようにオリフィス径dを制御する。例えば、アクティブスタビライザ10,20の連結状態と遮断状態とが切り替わるときは、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kが変化する。連結状態から遮断状態に切り替わるとき、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kは減少する。
【0054】
ECU30は、ばね定数Kを減少させるときには、車両のロール減衰係数Cを減少させて臨界減衰比ζの変動を抑制するようにオリフィス減衰係数C1を減少させる。このためには、オリフィス径dを増加させるようにすればよい。
【0055】
一方、ECU30は、アクティブスタビライザ10,20を遮断状態から連結状態に切り替えるとき、すなわちアクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを増加させるときには、車両のロール減衰係数Cを増加させて臨界減衰比ζの変動を抑制するようにオリフィス減衰係数C1を増加させる。このためには、オリフィス径dを減少させるようにすればよい。
【0056】
オリフィス径dの調節によって臨界減衰比ζの変動が抑制されることによって、車両の乗心地の低下が抑制される。本実施形態の車両用サスペンション制御装置1−1によれば、可変オリフィス55,56のオリフィス径dを制御するだけでロール方向だけに効く減衰力を発生させることができるという利点がある。
【0057】
また、ECU30は、アクティブスタビライザ10,20の連結状態においてばね定数Kを変更するときの臨界減衰比ζの変動を抑制するように可変オリフィス55,56を制御することができる。例えば、ECU30は、連結状態においてアクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを減少させるときには、臨界減衰比ζの変動を抑制するように可変オリフィス55,56のオリフィス径dを増加させる。また、ECU30は、連結状態においてアクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを増加させるときには、臨界減衰比ζの変動を抑制するように可変オリフィス55,56のオリフィス径dを減少させる。これにより、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを変化させる場合の車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比が変動することが抑制される。よって、車両の乗心地の向上を図ることができる。
【0058】
乗心地の低下を抑制する観点からは、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを変化させる前後やばね定数Kを変化させる過渡状態で臨界減衰比ζを維持し、臨界減衰比ζを変化させないようにオリフィス径dを調節することが好ましい。例えば、ECU30は、ばね定数Kを変化させるときの変化後のばね定数Kに基づいて、変化前と同じ臨界減衰比ζを実現することができるオリフィス径dの目標値を予め算出しておく。実際にばね定数Kを変化させるときにオリフィス径dを算出された目標値に調節するようにすれば、ばね係数Kを変化させる前後の臨界減衰比ζを維持することが可能である。
【0059】
本実施形態において、可変オリフィス55のオリフィス径dの最大値は、例えば、前輪エア配管53Fの内径と同様の径とすることができる。また、可変オリフィス55のオリフィス径dの最小値は、例えば、前輪アクティブスタビライザ10のばね定数Kの最大値に基づいて定めることができる。一例として、可変オリフィス55のオリフィス径dの最小値は、前輪アクティブスタビライザ10のばね定数Kが最大値である場合に予め定められた臨界減衰比ζを維持できる値とされる。言い換えると、可変オリフィス55のオリフィス径dの可変範囲は、前輪アクティブスタビライザ10のばね定数Kが最大値から最小値までの範囲で変化するときに、オリフィス径dを調節することで臨界減衰比ζを維持できるように定められている。なお、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kの最小値は、アクティブスタビライザ10,20が遮断状態であるときのばね定数Kとすることができる。
【0060】
可変オリフィス56のオリフィス径dの可変範囲は、可変オリフィス55のオリフィス径dの可変範囲と同様に定めることができる。すなわち、可変オリフィス56のオリフィス径dの可変範囲は、後輪アクティブスタビライザ20のばね定数Kが最大値から最小値までの範囲で変化するときに、オリフィス径dを調節することで臨界減衰比ζを維持できるように定められている。
【0061】
ECU30が可変オリフィス55,56のオリフィス径dを変化させ始めるタイミングは、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを変化させ始めるタイミングと同時であっても、早くても、遅くてもよい。可変オリフィス55,56のオリフィス径dを変化させるタイミングは、車両のロール方向のばね力とロール方向の減衰力との比の変動を抑制できるように適宜定められる。
【0062】
本実施形態では、前輪エア配管53Fおよび後輪エア配管53Rは、コンプレッサ43と各空気室41dとを接続するエア配管53の一部であったが、これに限定されるものではない。例えば、左右の前輪の空気室41d,41dを連通する通路は、エア配管53に対して独立したものであってもよい。同様に、左右の後輪の空気室41d,41dを連通する通路は、エア配管53に対して独立したものであってもよい。
【0063】
ECU30は、アクティブスタビライザ10,20のばね定数Kを変化させるときに、可変オリフィス55,56のオリフィス径dの調節に加えて、エアばね41のばね定数の調節を行うようにしてもよい。
【0064】
可変オリフィス55は、前輪エア配管53Fに対して複数設けられてもよい。この場合、各可変オリフィス55が発生させるロール方向の減衰力の総和をオリフィス減衰係数C1として、所望の臨界減衰比ζを維持するように各可変オリフィス55のオリフィス径dを調節するようにすればよい。同様にして、可変オリフィス56は、後輪エア配管53Rに対して複数設けられてもよい。
【0065】
本実施形態では、可変オリフィス55,56によって前輪エア配管53Fおよび後輪エア配管53Rの流路断面積が調節されたが、流路断面積を変更する調節機構は、可変オリフィス55,56に限定されるものではない。可変オリフィス以外の流路断面積を変更する機構や流路抵抗を変更する機構が用いられてもよい。
【0066】
上記の実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0067】
1−1 車両用サスペンション制御装置
10 前輪アクティブスタビライザ
11 スタビライザバー部材(右スタビライザバー)
12 スタビライザバー部材(左スタビライザバー)
40 エアサスペンションシステム
41 エアばね
41d 空気室
53F 前輪エア配管
53R 後輪エア配管
55,56 可変オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左車輪に接続された左スタビライザバーと右車輪に接続された右スタビライザバーとを連結した連結状態と、前記左スタビライザバーと前記右スタビライザバーとを遮断した遮断状態とに切替え可能なスタビライザと、
前記左車輪および前記右車輪にそれぞれ配置されたエアサスペンションと、
前記左車輪に配置されたエアサスペンションの空気室と前記右車輪に配置されたエアサスペンションの空気室とを連通する通路と、
前記通路の流路断面積を変更する調節機構と、
を備え、
前記スタビライザの前記連結状態と前記遮断状態とが切り替わるときの車両のロール方向のばね力と前記ロール方向の減衰力との比の変動を抑制するように前記調節機構を制御する
ことを特徴とする車両用サスペンション制御装置。
【請求項2】
前記スタビライザの前記連結状態と前記遮断状態とが切り替わる前後で前記ロール方向のばね力と前記ロール方向の減衰力との比を維持するように前記調節機構を制御する
請求項1に記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項3】
前記スタビライザとして、前記連結状態においてばね定数を変更可能なものを備え、
前記連結状態において前記スタビライザのばね定数を変更する前後で前記ロール方向のばね力と前記ロール方向の減衰力との比を維持するように前記調節機構を制御する
請求項1または2に記載の車両用サスペンション制御装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−218589(P2012−218589A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86630(P2011−86630)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】