説明

車両用シートのスライダ構造

【課題】フロアへの固定前は車両用シートを通常使用されない拡大領域に設定されたフロアへの固定作業に邪魔にならない位置までスライドさせられるようにし、固定後には不要な拡大領域へのスライドを規制できるようにする。
【解決手段】車両用シート1のスライド領域を通常使用される使用領域内に規制するストッパ機構20は、ロアレール11に設けられる板部材21と、アッパレール12に設けられる回転部材22とを有し、回転部材22は、板部材21に後方側から当接する時にはアッパレール12のスライドを規制し、前方側から当接する時には板部材21に乗り上がってアッパレール12のスライドを許容する。ロアレール11は、その後側脚部11Bの固定前には、アッパレール12が回転部材22が板部材21の前方側に位置する拡大領域のスライド位置に配置されることで、車両用シート1が前方側に退避して固定作業のスペースが広げられた状態とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのスライダ構造に関する。詳しくは、車両のフロア上に固定されるロアレールと、ロアレールにスライド可能に組み付けられて車両用シートに一体的に組み付けられるアッパレールと、アッパレールのロアレールに対するスライド領域を所定の範囲内に規制可能なストッパ機構と、を有する車両用シートのスライダ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートのスライダ構造として、下記特許文献1に開示されたものが知られている。このスライダ構造は、通常、車両用シートをフロアに対してスライドロックするスライドロック機構とは別に、車両用シートを所定状態に切り替えなければスライドさせられないようにするストッパ機構を備えたものとなっている。具体的には、ストッパ機構は、シートバックを前傾させて車両用シート全体を前方側へスライドさせた状態(ウォークイン状態)とすることにより、その後にシートバックを元の姿勢に戻す操作を行わない限り、スライドロック機構の解除操作を行っても、車両用シートの後方側へのスライドを規制した状態に保持する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−2092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術では、ストッパ機構は、車両用シートの姿勢が切り替えられることで解除される構成であるため、車両用シートを車両に搭載して固定する時にのみストッパ機能を働かせないようにして、車両用シートを通常使用されることのない拡大領域に設定されたフロアへの固定作業に邪魔にならない位置まで移動させられるようにし、固定後にはストッパ機能を常時働かせた状態にして車両用シートの上記拡大領域への不要な移動を規制するように用いるには不向きなものとなっている。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、車両用シートをフロアへの固定前は、通常使用されることのない拡大領域に設定されたフロアへの固定作業に邪魔にならない位置までスライドさせられるようにし、固定後には不要な拡大領域へのスライドを規制できるようにするスライダ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、車両のフロア上に固定されるロアレールと、ロアレールにスライド可能に組み付けられて車両用シートに一体的に組み付けられるアッパレールと、アッパレールのロアレールに対するスライド領域を所定の範囲内に規制可能なストッパ機構と、を有する車両用シートのスライダ構造である。ストッパ機構は、ロアレールに設けられる係止片と、アッパレールに設けられる被係止片と、を有する。被係止片は、アッパレールのスライドにより係止片に一方側から当接することにより、アッパレールのスライドを規制した状態となり、係止片に他方側から当接する時には、アッパレールのスライドを許容する。アッパレールは、そのスライド領域のうち、被係止片が係止片に一方側から当接する位置から一方側の領域が、車両用シートが通常使用される使用領域として設定され、上記当接する位置から他方側の領域が、車両用シートが通常使用されることのない拡大領域として設定されている。ロアレールは、アッパレールが使用領域のスライド位置にある時には、フロアに固定される固定部の上方側に車両用シートが重なって配置されて、固定部の固定作業を行うためのスペースが狭められた状態となるが、アッパレールが拡大領域のスライド位置にある時には、車両用シートが固定部の上方側から退避して固定部の固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となる構成とされている。固定部の固定前には、アッパレールが拡大領域のスライド位置に配置される。
【0006】
ここで、「被係止片が係止片に一方側から当接する位置から他方側の領域」とは、被係止片が係止片の他方側に位置する状態、又は被係止片が係止片に他方側から当接している状態を指す。
この第1の発明によれば、ロアレールの固定部の固定前には、アッパレールが拡大領域のスライド位置に配置されることにより、車両用シートが固定部の上方側から退避して、固定部の固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となり、固定部の固定作業が行いやすくなる。上記被係止片は、係止片に他方側から当接してもアッパレールのスライドを許容するため、固定部が固定された後に、アッパレールをスライドさせて被係止片を係止片の一方側に移動させて使用領域に移すことができる。そして、この移動により、アッパレールは、そのスライドによって被係止片を係止片に一方側から当接させることにより、そのスライドが使用領域内に規制される状態となる。このように、車両用シートをフロアへの固定前はフロアへの固定作業に邪魔にならない位置までスライドさせられるようにし、固定後には不要な拡大領域へのスライドを規制できるようにすることができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、ロアレールは、固定部とは別に、固定部よりも先にフロアに固定される他の固定部を有する。ストッパ機構は、アッパレールを被係止片が係止片に他方側から当接する方向にスライドさせることにより、被係止片が係止片に当接して乗り上がることでアッパレールの同方向へのスライドを逃がす構成となっている。被係止片が係止片に当接して乗り上がった状態となることにより、他の固定部の上方側から車両用シートが退避された状態となって、他の固定部の固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となる。
【0008】
この第2の発明によれば、アッパレールを被係止片が係止片に他方側から当接して乗り上がる位置までスライドさせることにより、ロアレールの他の固定部の固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となる構成としたことにより、被係止片が係止片に一方側から当接してアッパレールのスライドが規制される位置や、被係止片が係止片に他方側から当接してもアッパレールのスライドが許容された状態に保たれる領域の広さを変更することなく、係止片をスライド方向に長くして、被係止片が一方側からスライドしてくる動きを受け止める係止片の構造強度を高めることができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、係止片が、ロアレールに一体的に突出した状態で設けられた板部材により構成され、被係止片が、アッパレールに回転可能に設けられた回転部材により構成されているものである。被係止片は、常時はバネの附勢力によって一の回転方向に附勢されて、アッパレールに設けられたストッパ片と当接する位置で回転止めされている。被係止片が係止片に一方側から当接する時には、被係止片は、係止片によって、ストッパ片により回転止めされた一の回転方向に押圧されてアッパレールのスライドを規制するが、被係止片が係止片に他方側から当接する時には、被係止片は、係止片によって、ストッパ片との当接から離れる他の回転方向に押し回されてアッパレールのスライドを逃がす構成となっている。
【0010】
この第3の発明によれば、被係止片を、一の回転方向に回転規制され、他の回転方向に回転自由とされた回転部材により構成したことにより、係止片に対して一方側から当接する時にはアッパレールのスライドを規制し、他方側から当接する時には回転によりアッパレールのスライドを逃がして許容する構成を簡単に具現化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の車両用シートのスライダ構造の側面図である。
【図2】車両用シートの斜視図である。
【図3】ロアレールの後側脚部をフロアにボルト締結した状態を示す側面図である。
【図4】回転部材が板部材に前方側から当接した状態を示す側面図である。
【図5】回転部材が板部材の後方側に移った状態を示す側面図である。
【図6】回転部材が板部材に後方側から当接した状態を示す側面図である。
【図7】図6のVII-VII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の車両用シートのスライダ構造について、図1〜図7を用いて説明する。本実施例の車両用シートのスライダ構造は、図1に示すように、車両用シート1をフロアFに対して車両前後方向にスライド可能な状態に連結するスライダ機構10と、このスライダ機構10のスライド領域を所定の範囲内(後述する使用領域内)に規制可能なストッパ機構20と、を備えたものとなっている。
【0014】
ここで、車両用シート1は、シートバック2とシートクッション3とを備えて構成されている。スライダ機構10は、シートクッション3とフロアFとの間に左右一対で設けられている。これらスライダ機構10は、車両のフロアF上に一体に固定されるロアレール11と、ロアレール11に対して車両前後方向にスライド可能に組み付けられるアッパレール12と、アッパレール12のロアレール11に対するスライドをロック可能な図示しないロック装置と、を有する。
【0015】
詳しくは、上記各ロアレール11は、それらの前後側の各端部が、前側脚部11Aと後側脚部11Bとによって、それぞれフロアF上に一体に固定されて設けられている。ここで、後側脚部11Bが本発明の固定部に相当し、前側脚部11Aが本発明の他の固定部に相当する。これら前側脚部11Aや後側脚部11Bは、それぞれ、図示しないかしめピンによるかしめによって、ロアレール11の底面部に一体に固定されている。そして、これらロアレール11に一体に固定された前側脚部11Aや後側脚部11Bが、それぞれ、後述するように、フロアFに対してボルトBaやボルトBbによる締結により固定されている。
【0016】
上記各ロアレール11は、図2及び図7に示すように、長尺状に形成された一枚の鋼板を短手方向に所々に折り曲げて形成したものであり、シート上方側に面を向けた底面部と、底面部の左右両側の縁部からそれぞれシート上方側に立ち上がる左右の側面部と、これら両側面部の各上縁部からそれぞれ互いに向かい合う側の下方に向かって曲げ返される左右の折返部と、を有した形に形成されている。
【0017】
一方、各アッパレール12は、長尺状に形成された一枚の鋼板を短手方向に所々に折り曲げて形成したものであり、シート上方側に面を向けた上面部と、上面部の左右両側の縁部からそれぞれシート下方側に垂下する左右の側面部と、これら両側面部の各下縁部からそれぞれ互いに離反する方向に跳ね上げられるように曲げ返される左右のひれ部と、を有する形に形成されている。そして、上記アッパレール12の上面部上には、二枚の板材を枠状に折り曲げて形成した支持フレーム12Aが一体に接着された状態で設けられている。この支持フレーム12Aの上部には、図示しないシートクッション3のフレームが一体に接着されて固定されている。
【0018】
上記各アッパレール12は、これを各ロアレール11の前後どちらか一方側の開口した端部から、その両ひれ部がロアレール11の両折返部の折り返された空間内に収められるように長手方向に差し込むことにより、ロアレール11に対して長手方向にスライド可能な状態となって組み付けられる。これにより、各アッパレール12は、各ロアレール11の形状に沿って長手方向にスライドするようにガイドされた状態となると共に、その両ひれ部がロアレール11の両折返部に引っ掛かることで、ロアレール11から上方側に抜け外れないように剥離防止された状態となって保持される。
【0019】
上記各アッパレール12は、常時は図示しないロック装置により各ロアレール11に対するスライドがロックされた状態となって保持されている。この両ロック装置のスライドロック状態は、これらに連結されてシートクッション3の前方側Frに張り出す操作レバー10Aの引き上げ操作を行うことにより解除される。この解除により、各アッパレール12が各ロアレール11に対してスライドすることができる状態となる。そして、各アッパレール12を所望のスライド位置にスライドさせた後、操作レバー10Aの引き上げ操作をやめることにより、上記各ロック装置(図示省略)が再びロック作動して、各アッパレール12がスライドロックされた状態に戻される。
【0020】
ここで、上記車両用シート1が図5に示す通常使用される使用領域のスライド位置にある状態から前方側Frへスライドすることができる限界位置は、図6に示すように、後述するストッパ機構20の回転部材22が板部材21に対して後方側Rrから当接して係止する位置となっている。ここで、板部材21が本発明の係止片に相当し、回転部材22が本発明の被係止片に相当する。また、車両用シート1が上記使用領域のスライド位置にある状態から後方側Rrへスライドすることができる限界位置は、図には示されていないが、アッパレール12とロアレール11との間に設けられたストッパ構造が当接して係止する位置(図示省略)となっている。ここで、前方側Frが本発明の他方側に相当し、後方側Rrが本発明の一方側に相当する。
【0021】
ところで、上記車両用シート1は、車両のフロアF上に搭載される際には、予めスライダ機構10が一体に組み付けられた状態で車内に搬送され、各ロアレール11に一体に設けられた前側脚部11Aと後側脚部11BとをそれぞれボルトBaとボルトBbとによってフロアFに固定することにより、フロアF上に固定されるようになっている(図1及び図3参照)。詳しくは、車両用シート1は、フロアF上に固定される際には、上記ストッパ機構20により規制される使用領域を前方側Frに越えた、車両用シート1が通常使用されることのない拡大領域のスライド位置にある状態(図1又は図3の状態)とされており、前側脚部11Aや後側脚部11Bを締付け工具Mを用いてフロアFに固定する作業の邪魔にならない位置にスライドさせて退避させられるようになっている。そして、車両用シート1は、図5に示すように、フロアFに固定された後には、これを後述するストッパ機構20の回転部材22が板部材21を後方側Rrに越える位置までスライドさせることにより、車両用シート1が通常使用される使用領域内に入った状態となって、その前方側Frへのスライドがストッパ機構20によって規制される状態(上記不要な拡大領域へのスライドが規制される状態)となる。
【0022】
以下、上記ストッパ機構20の構成について説明する。ストッパ機構20は、図6及び図7に示すように、ロアレール11の側面部に一体的に突出した状態で設けられた板部材21と、アッパレール12に対して回転可能に設けられた回転部材22と、を有する。板部材21は、ロアレール11の長手方向に沿って長尺なL字板状に形成されており、その折り曲げられた側部が、ロアレール11の側面部に当てがわれて一体的に固定されている。回転部材22は、L字状のリンク部材によって形成されており、軸ピン22Aによってアッパレール12の上部に固定された支持フレーム12Aに軸回転可能に連結されている。詳しくは、軸ピン22Aは、支持フレーム12Aに一体的に固着されており、回転部材22を軸回転可能に支持する構成となっている。上記回転部材22は、軸ピン22Aとの間にバネ22Bが掛着されており、常時はバネ22Bの附勢力によって図6に示す反時計回り方向に回転附勢された状態とされている。
【0023】
上記回転部材22の図示反時計回り方向の附勢回転は、回転部材22がロアレール11の側面部に突出して設けられたストッパ片22Cと当接する位置にて規制されている。これにより、回転部材22は、常時は、上記ストッパ片22Cと当接する図示反時計回り方向の回転が規制された状態とされており、図示時計回り方向には回転することのできる状態とされている。上記回転部材22は、図3に示すように、アッパレール12が拡大領域のスライド位置にある状態、すなわち回転部材22が板部材21の前方側Frに位置する状態の時には、この状態からアッパレール12を後方側Rrにスライドさせて板部材21に前方側Frから押し当てられることにより、図1に示すように、板部材21により押し回される形で板部材21の上面部上に乗り上がり、板部材21の上面部上をスライドするようになっている。これにより、上記アッパレール12を拡大領域(図1及び図3の領域)から使用領域(図5の領域)へと移動させる後方側Rrへのスライドが許容されるようになっている。
【0024】
一方、回転部材22は、図5に示すように、アッパレール12が使用領域のスライド位置にある状態、すなわち回転部材22が板部材21の後方側Rrに位置する状態の時には、この状態からアッパレール12を前方側Frにスライドさせて板部材21に後方側Rrから押し当てられることにより、図6に示すように、板部材21に対してその回転が規制されている図示反時計回り方向に押し当てられて係止されるようになっている。これにより、上記アッパレール12を使用領域から拡大領域へと移動させる前方側Frへのスライドが許容されるようになっている。
【0025】
次に、前述した車両用シート1を車内に搬送して、ロアレール11の前側脚部11Aや後側脚部11Bを締付け工具Mを用いてフロアFに固定する手順について説明する。上記固定作業を行うに際しては、車両用シート1は、図3に示すように、回転部材22が板部材21よりも前方側Frに位置する状態、すなわちアッパレール12が拡大領域のスライド位置にある状態とされている。この状態では、前側脚部11AのボルトBaを締め付ける部位の上方側に車両用シート1が重なって配置された状態となっており、前側脚部11Aに締付け工具M(図1参照)を用いてボルトBaの締付け作業を行うことが困難な状態(締付け作業を行うためのスペースが狭められた状態)とされている。
【0026】
そこで、次に、アッパレール12(車両用シート1)を後方側Rrにスライドさせて、図1に示すように、回転部材22が板部材21に前方側Frから当接して乗り上がった状態となるようにする。これにより、車両用シート1が上記前側脚部11AのボルトBaを締め付ける部位の上方側から後方側Rrに退避して、前側脚部11Aに締付け工具Mを用いてボルトBaの締付け作業を行うことができる状態(締付け作業を行うためのスペースが広げられた状態)となるため、この状態で前側脚部11Aを締付け工具Mを用いてボルトBaによりフロアFに固定する。なお、車両用シート1は、車内に搬送される段階で、始めから、回転部材22が板部材21の上部に乗り上がった状態となる位置に配置されていてもよい。
【0027】
次に、後側脚部11Bを締付け工具Mを用いてフロアFに固定するためのスペースを広げるために、回転部材22が板部材21を前方側Frへ乗り越える位置までアッパレール12(車両用シート1)を前方側Frへスライドさせる。これにより、図3に示すように、車両用シート1が上記後側脚部11BのボルトBbを締め付ける部位の上方側から前方側Frに退避して、後側脚部11Bに締付け工具Mを用いてボルトBbの締付け作業を行うことができる状態(締付け作業を行うためのスペースが広げられた状態)となるため、この状態で後側脚部11Bを締付け工具Mを用いてボルトBbによりフロアFに固定する。これにより、ロアレール11(車両用シート1)がフロアFに固定された状態となる。
【0028】
したがって、次に、回転部材22が板部材21を後方側Rrへ乗り越える位置までアッパレール12(車両用シート1)を後方側Rrにスライドさせる。これにより、図5に示すように、アッパレール12が使用領域のスライド位置に入った状態となり、アッパレール12(車両用シート1)の使用領域を超えた前方側Frへのスライドがストッパ機構20により規制される状態となる(図6参照)。なお、回転部材22が板部材21よりも後方側Rrに位置する状態、すなわちアッパレール12が使用領域のスライド位置にある状態では、後側脚部11BのボルトBbを締め付ける部位の上方側に車両用シート1が重なって配置される状態となるため、後側脚部11Bに締付け工具M(図3参照)を用いてボルトBbの締付け作業を行うことが困難な状態(締付け作業を行うためのスペースが狭められた状態)となる。したがって、前述したように、後側脚部11Bの固定作業を行うに際しては、車両用シート1を回転部材22が板部材21よりも前方側Frに位置する状態、すなわちアッパレール12が拡大領域のスライド位置にある状態としておくことにより、前述した前側脚部11Aの固定作業に加えて、後側脚部11Bの固定作業も簡便に行うことができる。
【0029】
このように、本実施例の車両用シートのスライダ構造によれば、ロアレール11の後側脚部11Bの固定前には、アッパレール12が拡大領域のスライド位置に配置されることにより、車両用シート1が後側脚部11Bの上方側から退避して、後側脚部11Bの固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となり、後側脚部11Bの固定作業が行いやすくなる。ストッパ機構20の回転部材22は、板部材21に前方側Frから当接してもアッパレール12のスライドを許容するため、後側脚部11Bが固定された後に、アッパレール12をスライドさせて回転部材22を板部材21の後方側Rrに移動させて使用領域に移すことができる。そして、この移動により、アッパレール12は、そのスライドによって回転部材22を板部材21に後方側Rrから当接させることにより、そのスライドが使用領域内に規制される状態となる。このように、車両用シート1をフロアFへの固定前はフロアFへの固定作業に邪魔にならない位置までスライドさせられるようにし、固定後には不要な拡大領域へのスライドを規制できるようにすることができる。
【0030】
また、アッパレール12を回転部材22が板部材21に前方側Frから当接して乗り上がる位置までスライドさせることにより、ロアレール11の前側脚部11Aの固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となる構成としたことにより、回転部材22が板部材21に後方側Rrから当接してアッパレール12のスライドが規制される位置や、回転部材22が板部材21に前方側Frから当接してもアッパレール12のスライドが許容された状態に保たれる領域(拡大領域)の広さを変更することなく、板部材21をスライド方向に長くして、回転部材22が後方側Rrからスライドしてくる動きを受け止める板部材21の構造強度を高めることができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、上記実施例では、アッパレール12のスライド領域について、通常使用される使用領域を前方側Frに越えた領域に拡大領域が設定された構成を示したが、拡大領域を使用領域を後方側に越えた領域に設定するようにストッパ機構を設けてもよい。また、上記実施例では、本発明のストッパ機構として、アッパレール12に設けられる被係止片を回転部材22により構成し、ロアレール11に設けられる係止片を板部材21により構成したものを例示したが、被係止片を板部材により構成し、係止片を回転部材により構成したものであってもよい。また、上記実施例では、本発明の被係止片が係止片に当接して乗り上がる構成として、被係止片を係止片に当接することで回転して係止片に乗り上がる回転部材22により構成したものを例示したが、被係止片(又は係止片)を係止片(被係止片)に当接することで上下方向にスライドして係止片(被係止片)に乗り上がるように構成したものであってもよい。また、上記実施例では、後側脚部11B(本発明の固定部に相当する。)よりも先に前側脚部11A(本発明の別の固定部に相当する。)の固定を行うようにしたものを例示したが、後側脚部11Bを先に固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 車両用シート
2 シートバック
3 シートクッション
10 スライダ機構
10A 操作レバー
11 ロアレール
11A 前側脚部(他の固定部)
11B 後側脚部(固定部)
12 アッパレール
12A 支持フレーム
20 ストッパ機構
21 板部材(係止片)
22 回転部材(被係止片)
22A 軸ピン
22B バネ
22C ストッパ片
F フロア
Fr 前方側(他方側)
Rr 後方側(一方側)
Ba ボルト
Bb ボルト
M 締付け工具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア上に固定されるロアレールと、該ロアレールにスライド可能に組み付けられて車両用シートに一体的に組み付けられるアッパレールと、該アッパレールの前記ロアレールに対するスライド領域を所定の範囲内に規制可能なストッパ機構と、を有する車両用シートのスライダ構造であって、
前記ストッパ機構は、
前記ロアレールに設けられる係止片と、
前記アッパレールに設けられ、該アッパレールのスライドにより前記係止片に一方側から当接することにより前記アッパレールのスライドを規制した状態となり、前記係止片に他方側から当接する時には前記アッパレールのスライドを許容する被係止片と、を有し、
前記アッパレールは、そのスライド領域のうち、前記被係止片が前記係止片に一方側から当接する位置から一方側の領域が前記車両用シートが通常使用される使用領域として設定され、前記当接する位置から他方側の領域が前記車両用シートが通常使用されることのない拡大領域として設定され、前記ロアレールは、前記アッパレールが前記使用領域のスライド位置にある時には前記フロアに固定される固定部の上方側に前記車両用シートが重なって配置されて前記固定部の固定作業を行うためのスペースが狭められた状態となるが、前記アッパレールが前記拡大領域のスライド位置にある時には前記車両用シートが前記固定部の上方側から退避して前記固定部の固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となる構成とされ、前記固定部の固定前には前記アッパレールが前記拡大領域のスライド位置に配置されることを特徴とする車両用シートのスライダ構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートのスライダ構造であって、
前記ロアレールは前記固定部とは別に該固定部よりも先に前記フロアに固定される他の固定部を有し、前記ストッパ機構は前記アッパレールを前記被係止片が前記係止片に他方側から当接する方向にスライドさせることにより前記被係止片が前記係止片に当接して乗り上がることで前記アッパレールの同方向へのスライドを逃がす構成となっており、前記被係止片が前記係止片に当接して乗り上がった状態となることにより前記他の固定部の上方側から前記車両用シートが退避された状態となって前記他の固定部の固定作業を行うためのスペースが広げられた状態となることを特徴とする車両用シートのスライダ構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用シートのスライダ構造であって、
前記係止片が前記ロアレールに一体的に突出した状態で設けられた板部材により構成され、前記被係止片が前記アッパレールに回転可能に設けられた回転部材により構成され、該被係止片は常時はバネの附勢力によって一の回転方向に附勢されて前記アッパレールに設けられたストッパ片と当接する位置で回転止めされており、前記被係止片が前記係止片に一方側から当接する時には前記被係止片は前記係止片によって前記ストッパ片により回転止めされた一の回転方向に押圧されて前記アッパレールのスライドを規制するが、前記被係止片が前記係止片に他方側から当接する時には前記被係止片は前記係止片によって前記ストッパ片との当接から離れる他の回転方向に押し回されて前記アッパレールのスライドを逃がす構成となっていることを特徴とする車両用シートのスライダ構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−1171(P2012−1171A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140394(P2010−140394)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】