説明

車両用シート装置および車両用シートの調整方法

【課題】 中折れ機能を有するシートバックの中折れ角を変化させた場合に、シートクッションを自動調整して最適な運転姿勢を取ることができる車両用シート装置の提供を図る。
【解決手段】 それぞれ独立して傾動されるシートバック下部14に対するシートバック上部15の傾斜角で決定される中折れ角θ2をシートバック上・下部状態検出手段110,107で検出して、シートリフタ・スライド駆動制御部103により、前記中折れ角θ2の増大に伴ってシートクッション11を上昇させるようにしたので、シートバック11の中折れ角θ2の増大により乗員の腰椎を直線に近づけて脊柱負荷を低減した着座姿勢を取ることができるとともに、シートクッション11の上昇によりステアリングホイール20の操作性や視界が損なわれるのを防止し、もって長時間の運転によっても疲労の少ない着座姿勢を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート装置およびそのシート装置の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用シート装置としては、キーに予め各運転者のドライビングポジションを記憶したIDコードを付しておき、キーをキーシリンダに差し込むことにより、その運転者に対応したドライビングポジションの調整、例えば運転席シート調整、ステアリング位置調整、ドアミラー調整、ルームミラー調整を自動的に行うようしたドライビングポジション自動調整システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、運転席シート調整では、シートクッションを前後移動させるスライダー、シートクッションを上下移動させるリフター、シートバックを前後傾動させるリクライニング、ヘッドレストを上下移動させるヘッドレストリフタ等を駆動するようになっている。
【0004】
また、シートバックを、上下に分割したシートバック上部とシートバック下部とによって構成し、これらシートバック上・下部を中折れさせるようにした車両用シートも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9−123924号公報(第4頁、図1)
【特許文献2】特開2003−210275号公報(第2頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来のドライビングポジション自動調整システムでは、特許文献1に示すように、乗員が個々に設定したドライビングポジションをキーの差し込みにより再現するもので、運転中にドライビングポジション、例えば運転席シートのシートバックのリクライニング設定を変化させた場合には、そのリクライニングの変化に伴ってステアリングホイール位置等が変化することになり、アイポイントの変化等と相俟って最適な運転姿勢が取れなくなってしまう。
【0006】
また、このことは特許文献2に示すシートバックの中折れ機能を有する車両用シートに特許文献1の機能を持たせた場合にも、同様に最適な運転姿勢が崩れてしまうことになる。
【0007】
そこで、本発明は中折れ機能を有するシートバックの中折れ角を変化させた場合に、シートクッションを自動調整して最適な運転姿勢を取ることができる車両用シート装置および車両用シートの調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用シート装置は、シートバックを上下に分割したシートバック下部およびシートバック上部を備え、これらシートバック下部およびシートバック上部をそれぞれ独立して傾動するシートバック駆動手段と、
シートクッションを少なくとも上下移動するシートクッション駆動手段と、を備えた車両用シートであって、
シートバック下部に対するシートバック上部の傾斜角で決定される中折れ角を検出するシートバック中折れ角検出手段と、
前記中折れ角の増大に伴ってシートクッションを上昇させるシートクッション制御手段と、を設けたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用シート装置によれば、シートバック中折れ角検出手段によって検出したシートバックの中折れ角の増大に伴って、シートクッション制御手段によりシートクッション駆動手段を駆動してシートクッションを上昇させるようにしたので、シートバックの中折れ角の増大により乗員の腰椎を直線に近づけて脊柱負荷を低減した着座姿勢を取ることができるとともに、シートクッションの上昇によりステアリングホイールの操作性や視界が損なわれるのを防止し、もって長時間の運転によっても疲労の少ない着座姿勢を確保できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0011】
図1〜図8は本発明の車両用シート装置の一実施形態を示し、図1は車両用シート装置のシート構成を示す側面図、図2は車両用シート装置の駆動システムを示すブロック図、図3は車両用シート装置による疲労の少ない着座姿勢を設定するための制御手順を実行するフローチャートを示す説明図、図4は(a)に通常運転姿勢を(b)に疲労低減姿勢Aを(c)に疲労低減姿勢Bをそれぞれ示す説明図、図5は車両用シートのシートクッションとシートバック下部とシートバック上部の傾斜角をそれぞれ示す説明図、図6は車両用シートの各可動部の駆動量の関係を(a)〜(e)にそれぞれ示す説明図、図7は各運転姿勢の判断基準のマトリクスを示す説明図、図8は車両用シートの各可動部の制御を実行するフローチャートを示す説明図である。
【0012】
本実施形態の車両用シート装置1は運転席10に適用され、図1に示すように、この運転席10のシートクッション11はリフタ・スライド部13を介して車体フロアFに設置するとともに、このシートクッション11にシートバック12を取り付けてある。
【0013】
前記シートバック12は、シートバック下部14とシートバック上部15とに上下に分割され、シートバック下部14は下部フレーム16に支持されて、この下部フレーム16の下端部をシートクッション11の後端部に前後傾動可能に取り付けてある。
【0014】
また、シートバック上部15は上部フレーム17に支持されて、この上部フレーム17の上下方向略中央部をシートバック上部支持アーム18の上端部に前後傾動可能に取り付けるとともに、このシートバック上部支持アーム18の下端部をシートクッション11の後端部に前後傾動可能に取り付けてある。
【0015】
更に、前記運転席10の車両前方には、チルト・テレスコ部19を備えた運転操作系としてのステアリングホイール20が位置する。尚、運転操作系としてはステアリングホイール20を例示するが、これ以外にもコントロールレバーやインストルメントパネルに配置した各種機能の操作ボタン等がある。
【0016】
即ち、本実施形態の車両用シート装置1は図2に示す構成が採られ、シート駆動演算部101、シート駆動判断部102、シートクッション制御手段としてのシートリフタ・スライド駆動制御部103、シートバック下部駆動制御部106、シートバック上部駆動制御部109、チルト・テレスコ駆動制御部112、道路環境検出手段115を備えている。
【0017】
シート駆動演算部101はシート駆動判断部102と情報が遣り取りされ、このシート駆動判断部102は、シートリフタ・スライド駆動制御部103、シートバック下部駆動制御部106、シートバック上部駆動制御部109、チルト・テレスコ駆動制御部112および道路環境検出手段115とそれぞれ情報が遣り取りされる。
【0018】
前記シートリフタ・スライド駆動制御部103には、シートリフタ・スライド状態検出手段104で検出したシートクッション11の上下位置および前後位置の検出信号が入力されるとともに、シートクッション駆動手段としてのシートリフタ・スライド駆動手段105にシートクッション11の上下・前後駆動信号を出力するとともに、そのフィードバック信号が入力される。
【0019】
前記シートバック下部駆動制御部106には、シートバック下部状態検出手段107で検出したシートバック下部14のリクライニング角の検出信号が入力されるとともに、シートバック下部駆動手段108にリクライニング駆動信号を出力するとともに、そのフィードバック信号が入力される。
【0020】
前記シートバック上部駆動制御部109には、シートバック上部状態検出手段110で検出したシートバック上部15の前後傾斜角の検出信号が入力されるとともに、シートバック上部駆動手段111に前後傾斜駆動信号を出力するとともに、そのフィードバック信号が入力される。
【0021】
前記チルト・テレスコ駆動制御部112には、チルト・テレスコ状態検出手段113で検出したステアリングホイール20の上下位置および前後位置の検出信号が入力されるとともに、チルト・テレスコ駆動手段114に駆動信号を出力するとともに、そのフィードバック信号が入力される。
【0022】
前記道路環境検出手段115には、地図情報提供手段116から予め記憶した地図情報が入力されるとともに、自車位置検出手段117で検出した現在の走行位置の検出信号が入力される。
【0023】
また、前記シート駆動判断部102には後席乗員検出手段118で検出した後席乗員有無の検出信号が入力されるとともに、運転時間検出手段119で積算した運転開始からの経過時間が入力される。
【0024】
前記シートバック下部駆動手段108は、下部フレーム16とシートクッション11との取付け部に設けられ、シートクッション11に対するシートバック下部14のリクライニング角度を任意に設定可能となっている。
【0025】
また、前記シートバック上部駆動手段111は、上部フレーム17とシートバック上部支持アーム18との取付け部に設けた第1駆動手段111aと、シートバック上部支持アーム18とシートクッション11との取付け部に設けた第2駆動手段111bと、によって構成され、第1駆動手段111aによってシートバック上部支持アーム18に対するシートバック上部15の前後傾動角を任意に設定するとともに、第2駆動手段111bによってシートクッション11に対するシートバック上部支持アーム18のリクライニング角度を任意に設定可能となっている。
【0026】
このとき、図1に示すように、前記シートバック下部駆動手段108と前記第2駆動手段111bとは同軸上に配置されるとともに、前記シートリフタ・スライド駆動手段103はシートクッション11のリフタ・スライド部13に設けられる。
【0027】
そして、前記シートバック下部駆動手段108と、第1,第2駆動手段111a,111bからなるシートバック上部駆動手段111と、によってシートバック駆動手段120を構成している。
【0028】
ここで、本実施形態の車両用シート装置1では、運転席10のシートバック下部14に対するシートバック上部15の傾斜角で決定される中折れ角θ2(図5参照)を検出するシートバック中折れ角検出手段121と、前記中折れ角θ2の増大に伴ってシートクッション11を上昇させるシートクッション制御手段と、を設けてあり、このシートクッション制御手段として前記シートリフタ・スライド駆動制御部103を用いている。
【0029】
前記シートバック中折れ角検出手段121は、シートバック下部状態検出手段段107とシートバック上部状態検出手段110とで構成され、これら両検出手段107,110の検出情報からシート駆動演算部101およびシート駆動判断部102によって前記中折れ角θ2が算出される。
【0030】
また、前記運転席10のシート調整方法では、前記シートバック12の中折れ角θ2の増大に伴って、運転者Dの前方下方角を所定の範囲から逸脱しないようにシートクッション11を上昇させるようになっている。
【0031】
このとき、シートリフタ・スライド駆動制御部103によって、シートバック12の中折れ角θ2の増大に伴うシートクッション11の上昇とともに、このシートクッション11を車両前方に移動させる機能を合わせ持っている。
【0032】
即ち、本実施形態では前記車両用シート装置1は運転シーンや乗員数に応じた車両走行状態にあって、長時間運転した場合にも疲労の少ない着座姿勢を提供するようになっており、その制御を図3〜図7によって以下説明する。
【0033】
図3のフローチャートでは、まず、通常の乗車時には運転者はステップS20によって一般道路の運転において着座姿勢が最適化されるように個々の運転者の体格により、運転席10の各可動部を操作して運転姿勢を作ることになり、運転者Dは図4(a)に示すようにシートバック下部14とシートバック上部15の相対関係を中折れ形状としない通常運転姿勢を取ることになる。
【0034】
次に、ステップS21ではシートリフタ・スライド状態検出手段104、シートバック下部状態検出手段107、シートバック上部状態検出手段110によって、運転者Dが設定した状態を検出する。
【0035】
そして、本実施形態ではシートクッション11の移動量は、運転者Dの体格と着座姿勢に基づいて算出するようになっている。
【0036】
即ち、ステップS22では検出したシートスライド位置から運転者Dの体格を算出し、ステップS23によって後席乗員検出手段118により後席に乗員が居るかどうかを検出する。
【0037】
そして、車両が走行状態になるとステップS24によって、ナビゲーションなどの地図情報提供手段116と自車位置検出手段117による情報から道路環境検出手段115によって、自車がどのような道路を走行しているかの情報を常にシート駆動判断部102に提供する。
【0038】
次に、ステップS25では運転時間検出手段119によって、運転開始からの経過時間を検出し、これにより予め定めた所定の時間により運転者Dの姿勢による疲労度を判断する。
【0039】
次のステップS26ではシート駆動演算部102によって、ステップS23で検出した後席乗員の有無、ステップS25で判断した疲労度の情報を基にして運転者Dが取るべき適正な姿勢を判断し、ステップS27ではシート駆動演算部101によって適正姿勢を実現するためのシート可動部の駆動量を計算する。
【0040】
そして、ステップS28において適正姿勢の状態に応じてリフタ・スライド部13、シートバック下部14およびシートバック上部15を駆動し、同時にステップS29において適正姿勢の状態に応じた操作系駆動の必要性を判断し、必要な場合にはステップS30によって運転者Dの体格とシート可動部の状態および適正姿勢を基に駆動量を計算した後、ステップS31ではチルト・テレスコ駆動手段114によりステアリングホイール20のチルト・テレスコ部19を駆動する。
【0041】
前記フローチャートは車両の運転中において常に所定の時間間隔で繰り返すことにより、シートバック駆動手段120およびシートリフタ・スライド駆動手段105を駆動して運転者Dに対して常時適正な姿勢を提供でき、姿勢による疲労を低減することができる。
【0042】
このとき、シートクッション制御手段としてのシートリフタ・スライド駆動制御部103は、運転者Dの下方視界角が略一定となるように、シートクッション11の移動量を算出するようになっている。
【0043】
また、前記シートリフタ・スライド駆動制御部103は、シートバック下部14の裏面角度が車両(例えばフロアの所定位置)に対して略一定となるように、シートクッション11の移動量を算出するようになっている。
【0044】
更に、前記シートリフタ・スライド駆動制御部103は、ステアリングホイール20と運転者Dの上半身上部、例えば胸郭との相対位置が略一定となるように、シートクッション11の移動量を算出するようになっている。
【0045】
即ち、本実施形態ではステップS24で判定した道路環境と、ステップS23で判定した後席乗員の有無と、ステップS25で判定した乗員の疲労度と、の各情報の組み合わせから運転者Dに最適な着座姿勢を判断する適合姿勢判定手段としての前記シート駆動判断部102を設け、このシート駆動判断部102の判断に基づいてシートバック駆動手段120およびシートクッション駆動手段としてのシートリフタ・スライド駆動手段105を駆動するようになっている。
【0046】
ここで、運転者Dの最適な着座姿勢としては、図4(a)に示すように運転者Dが市街地を通常運転する場合に設定する通常運転姿勢と、同図(b)に示すようにその通常運転姿勢のシートバック上部15の絶対角度を保持して、シートバック下部14をリクライニングした疲労低減姿勢Aと、同図(c)に示すようにその疲労低減姿勢Aのシートバック上部15およびシートバック下部14の相対関係とシートクッション11の絶対角度を維持して、シートクッション11を前方かつ上方に移動した疲労低減姿勢Bと、があり、これら各運転姿勢を自動設定するようになっている。
【0047】
このとき、疲労低減姿勢Bで疲労低減姿勢Aのシートバック上・下部15,14の相対関係とシートクッション11との状態を維持する理由は、着座姿勢における肉体的な疲労の原因が骨盤と胸郭の相対角度および大腿部と骨盤の相対角度により定まる脊柱形状と腹部圧迫量で定まるためである。
【0048】
従って、図5に示すシートクッション11およびシートバック下部14のフロアに対する角度θ0,θ1と、シートバック下部14に対するシートバック上部15の中折れ角θ2との関係は、疲労低減姿勢Aの場合は図6(a),(d)に示す関係となり、一方、疲労低減姿勢Bの場合は図6(b),(c)に示す関係となり、それぞれがシートバック下部14のリクライニング角度θ1に応じて、予め定めた所定の特性に沿ってシートバック上部15およびリフタ・スライド部13を駆動するようになっている。
【0049】
このとき、図6(e)に示すように、運転者Dの体格と車両から決定される通常運転姿勢の前方下方角を予め定めた一定の許容範囲内に保つことが駆動の条件となる。
【0050】
このように本実施形態では、上述した通常運転姿勢、疲労低減姿勢A、疲労低減姿勢Bの各着座姿勢を、道路環境、後席乗員の有無、運転者Dの疲労度に応じて使い分けるのであるが、その判断基準は図7に示すマトリクスとなる。
【0051】
即ち、市街地と高速道で分別したように車両近傍の視界の運転シーンの違いと、後席空間の使用可否によるマトリクスに、運転経過時間から換算した運転者Dの疲労状態をそれぞれ掛け合わせることにより、前記各運転姿勢が決定される。
【0052】
そして、このような各運転姿勢は、運転席10のリフタ・スライド部13、シートバック上・下部15,14およびチルト・テレスコ部19の各可動部を駆動して作り出すのであるが、これら可動部13,15,14,19の駆動手段105,111,108,114に対して駆動信号を送り、それぞれの状態検出手段104,110,107,113の信号を受けて駆動制御を行う流れを図8のフローチャートによって説明する。
【0053】
即ち、このフローチャートではステップS50によって駆動後の状態の目標値をそれぞれの制御部103,106,109,112で設定して駆動信号を送り、ステップS51ではそれぞれの駆動手段105,108,111,114を駆動する。
【0054】
そして、ステップS52ではそれぞれの状態検出手段104,107,110,113によって各可動部13,15,14,19の駆動量を常にモニタしつつ目標値に達するまで駆動するようになっている。
【0055】
以上の構成により本実施形態の車両用シート装置1によれば、シートバック中折れ角検出手段121によって検出したシートバック12の中折れ角θ2の増大に伴って、シートリフタ・スライド駆動制御部103によりシートリフタ・スライド駆動手段105を駆動してシートクッション11を上昇させるようにしたので、シートバック12の中折れ角θ2の増大により運転者Dの腰椎を直線に近づけて脊柱負荷を低減した着座姿勢を取ることができ、長時間の運転によっても疲労の少ない着座姿勢を確保できるとともに、シートクッション11の上昇によりステアリングホイール20の操作性や視界が損なわれるのを低減することができる。
【0056】
また、本実施形態の車両用シートの調整方法によれば、シートバック12の中折れ角θ2の増大に伴って、運転者Dの前方下方角を所定の範囲から逸脱しないようにシートクッション11を上昇させるようにしたので、シートバック12の中折れ角θ2の増大により運転者Dの腰椎を直線に近づけて脊柱負荷を低減した着座姿勢を取った場合に、シートクッション11の上昇によりステアリングホイール20の操作性や視界を良好に保つことができる。
【0057】
また、前記シートリフタ・スライド駆動手段105は、上下移動に加えて前後移動する機能を備え、シートリフタ・スライド駆動制御部103は、シートバック12の中折れ角θ2の増大に伴うシートクッション11の上昇とともに、このシートクッション11を車両前方に移動させる機能を合わせ持たせたので、通常の運転姿勢のみでなく、腰椎を直線に近づけて脊柱負荷を低減した運転姿勢を取った場合に、ステアリングホイール20の操作性や運転者Dの視界を損なうことなく、長時間運転しても疲労の少ない着座姿勢を提供することができる。
【0058】
更に、前記シートクッション11の移動量は、運転者Dの体格と着座姿勢に基づいて算出するようにしたので、それぞれ体格の異なる運転者であっても、かつ、運転者の様々な好みによる着座姿勢を取った場合にも、疲労低減姿勢を取った場合にステアリングホイール20の操作性や運転者Dの視界を損なうことなく、長時間運転しても疲労の少ない着座姿勢を提供することができる。
【0059】
更にまた、シートリフタ・スライド駆動制御部103は、運転者Dの下方視界角が略一定となるように、シートクッション11の移動量を算出するようにしたので、通常運転姿勢から疲労低減姿勢を取った場合にも、運転者Dの下方視界を十分に確保して安全走行を達成できる。
【0060】
また、シートリフタ・スライド駆動制御部103は、シートバック下部14の裏面角度が車両に対して略一定となるようにシートクッション11の移動量を算出したので、腰椎を直線に近づけて脊柱負荷を低減した運転姿勢を取った場合に、後席乗員前の空間を損なうことなく、長時間運転しても疲労の少ない着座姿勢を提供することができる。
【0061】
更に、シートリフタ・スライド駆動制御部103は、ステアリングホイール20と運転者Dの上半身上部との相対位置が略一定となるように、シートクッション11の移動量を算出したので、疲労低減姿勢を取った場合にも運転者Dとステアリングホイール20との距離を略一定に保持できるので、ステアリング操作性が悪化するのを防止できる。
【0062】
更にまた、シート駆動判断部102により道路環境と、後席乗員の有無と、乗員の疲労度と、の各情報の組み合わせから乗員に最適な着座姿勢を判断して、シートバック駆動手段120およびシートリフタ・スライド駆動手段105を駆動するようにしたので、道路環境や乗員数に応じて車の使い方に合った長時間運転によっても疲労の少ない着座姿勢を経済的に提供することができる。
【0063】
また、シートバック駆動手段120およびシートリフタ・スライド駆動手段105は、運転者Dが市街地走行時に設定した通常運転姿勢のシートバック上部15の絶対角度を保持して、シートバック下部14をリクライニングした疲労低減姿勢Aと、この疲労低減姿勢Aのシートバック上部15およびシートバック下部14の相対関係とシートクッション11の絶対角度を維持して、シートクッション11を前方かつ上方に移動した疲労低減姿勢Bと、を自動設定するようにしたので、疲労低減姿勢Aでは、腰椎を直線に近づけて姿勢に起因する脊柱負荷を小さくし、疲労の少ない運転姿勢を提供できるとともに、疲労低減姿勢Bでは、膝角度を用いて姿勢を変えることで、後席前方へ運転席後面が突出することなく、同時にステアリングホイール20との相対関係を維持できるため、必要空間を狭くしつつ操作系の駆動も無くすことができる。
【0064】
このとき、膝角度で姿勢を変更する理由は、膝関節は下肢の関節の中で受動的弾性特性が低くて柔らかいため快適な角度範囲が広くなり、姿勢快適性に関する感度が低いためである。
【0065】
尚、本実施形態では運転シーンに応じた適正姿勢を自動制御により提供したが、運転者Dが自由に姿勢を選択可能とし、運転者Dが運転に支障が無いように姿勢を選択することも可能である。
【0066】
また、自動制御の姿勢拘束条件として運転者Dのアイポイントにより定義される前方下方角を指標としたが、後席との距離またはステアリングとショルダポイントの相対関係を指標とし、同条件を通常運転姿勢から予め所定の範囲内に納めた場合にも同様の効果を奏することができる。
【0067】
また、本実施形態では3通りの運転姿勢を使い分けるものであるが、疲労低減姿勢Bにあっては視界および操作性は通常運転姿勢と同様で疲労低減効果が大きい姿勢であるため、この疲労低減姿勢Bと通常運転姿勢の2つをシートバック下部14のリクライニング角度に対して連続的に提供することも可能である。
【0068】
ところで、本発明の車両用シート装置を前記実施形態に例をとって説明したが、この実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態における車両用シート装置のシート構成を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態における車両用シート装置の駆動システムを示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態における車両用シート装置による疲労の少ない着座姿勢を設定するための制御手順を実行するフローチャートを示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態で(a)に通常運転姿勢を(b)に疲労低減姿勢Aを(c)に疲労低減姿勢Bをそれぞれ示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態における車両用シートのシートクッションとシートバック下部とシートバック上部の傾斜角をそれぞれ示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態における車両用シートの各可動部の駆動量の関係を(a)〜(e)にそれぞれ示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態における各運転姿勢の判断基準のマトリクスを示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態における車両用シートの各可動部の制御を実行するフローチャートを示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1 車両用シート装置
10 運転席
11 シートクッション
12 シートバック
13 リフタ・スライド部
14 シートバック下部
15 シートバック上部
19 チルト・テレスコ部
20 ステアリングホイール
102 シート駆動判断部(適合姿勢判定手段)
103 シートリフタ・スライド駆動制御部(シートクッション制御手段)
105 シートリフタ・スライド駆動手段(シートクッション駆動手段)
107 シートバック下部状態検出手段
110 シートバック上部状態検出手段
121 シートバック中折れ角検出手段
θ2 中折れ角
D 運転者(乗員)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックを上下に分割したシートバック下部およびシートバック上部を備え、これらシートバック下部およびシートバック上部をそれぞれ独立して傾動するシートバック駆動手段と、
シートクッションを少なくとも上下移動するシートクッション駆動手段と、を備えた車両用シートであって、
シートバック下部に対するシートバック上部の傾斜角で決定される中折れ角を検出するシートバック中折れ角検出手段と、
前記中折れ角の増大に伴ってシートクッションを上昇させるシートクッション制御手段と、を設けたことを特徴とする車両用シート装置。
【請求項2】
シートクッション駆動手段は、上下移動に加えて前後移動する機能を備え、シートクッション制御手段は、シートバックの中折れ角の増大に伴うシートクッションの上昇とともに、このシートクッションを車両前方に移動させる機能を合わせ持つことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
シートクッションの移動量は、乗員の体格と着座姿勢に基づいて算出することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート装置。
【請求項4】
シートクッション制御手段は、乗員の下方視界角が略一定となるように、シートクッションの移動量を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用シート装置。
【請求項5】
シートクッション制御手段は、シートバック下部の裏面角度が車両に対して略一定となるようにシートクッションの移動量を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用シート装置。
【請求項6】
シートクッション制御手段は、運転操作系と乗員の上半身上部との相対位置が略一定となるように、シートクッションの移動量を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用シート装置。
【請求項7】
道路環境と、後席乗員の有無と、乗員の疲労度と、の各情報の組み合わせから乗員に最適な着座姿勢を判断する適合姿勢判定手段を設け、この適合姿勢判定手段の判断に基づいてシートバック駆動手段およびシートクッション駆動手段を駆動することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の車両用シート装置。
【請求項8】
シートバック駆動手段およびシートクッション駆動手段は、乗員が市街地走行時に設定した通常運転姿勢のシートバック上部の絶対角度を保持して、シートバック下部をリクライニングした疲労低減姿勢Aと、
この疲労低減姿勢Aのシートバック上部およびシートバック下部の相対関係とシートクッションの絶対角度を維持して、シートクッションを前方かつ上方に移動した疲労低減姿勢Bと、を自動設定することを特徴とする請求項7に記載の車両用シート装置。
【請求項9】
シートバックを上下に分割したシートバック下部およびシートバック上部を備え、これらシートバック下部およびシートバック上部をそれぞれ独立して傾動するシートバック下部駆動手段およびシートバック上部駆動手段を有するシートバック駆動手段と、
シートクッションを少なくとも上下移動するシートクッション駆動手段と、を備えた車両用シートであって、
シートバックの中折れ角の増大に伴って、乗員の前方下方角を所定の範囲から逸脱しないようにシートクッションを上昇させることを特徴とする車両用シートの調整方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−6511(P2006−6511A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185972(P2004−185972)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】