説明

車両用シート

【課題】乗員の身体の特定部位を効果的に押圧することができる車両用シートを提供すること。
【解決手段】クッション材であるシートパッド2と、このシートパッド2の少なくとも表面を覆うシートカバー3と、前記シートパッド3の所定部位21を前方に押し出す押出機構4a、および、この押出機構4aによる押し出し動作と同時に前記所定部位21に隣接する前記シートパッドの隣接部位22またはこの隣接部位22の表面を覆う前記シートカバー3の隣接被覆部位31を後方に引き込む引込機構4bを有する押出引込手段4と、を備える車両用シート1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートパッドの所定部位を前方に隆起させる機構を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載されるように、長時間同じ姿勢で乗車することもある乗員の身体をほぐすため、シートパッドの所定部位を前方に隆起させることのできる車両用シートが知られている。この特許文献1に記載の車両用シートでは、ガス(空気)の吸入によって大きくなるマッサージ部材の圧力により、シートパッドの所定部位を前方に押し出し、当該部位を隆起させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−198070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構成のようにシートパッドの所定部位を前方に押し出す機構のみを備えた車両用シートでは、所定部位を押し出す操作を行った際、当該押し出された部位に隣接する部位も前方に引っ張られてしまう。したがって、隆起させたい部位と、それに隣接する部位の圧力差が小さく、乗員の身体の特定部位を局所的にほぐす効果に劣るという問題があった。例えば、乗員の腰部が位置する部位を前方に隆起させると、それに隣接する乗員の背部が位置する部位も前方に引っ張られてしまうため、腰部を効果的に押圧できない。
【0005】
上記実情に鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、乗員の身体の特定部位を効果的に押圧することができる車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明にかかる車両用シートは、クッション材であるシートパッドと、このシートパッドの少なくとも表面を覆うシートカバーと、前記シートパッドの所定部位を前方に押し出す押出機構、および、この押出機構による押し出し動作と同時に前記所定部位に隣接する前記シートパッドの隣接部位またはこの隣接部位の表面を覆う前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込む引込機構を有する押出引込手段と、を備えることを要旨とする。
【0007】
これにより、押出機構によってシートパッドの所定部位が前方に押し出されると同時に、引込機構によって当該所定部位に隣接する隣接部位が後方に引き込まれる。よって、所定部位と隣接部位の圧力差(所定部位が乗員の身体を押圧する力と隣接部位が乗員の身体を押圧する力の差のことをいう。以下同じ)が大きくなる。したがって、所定部位によって乗員の身体を局所的に押圧する効果(ほぐし効果)に優れる。
【0008】
また、前記押出引込手段は、互いに一方側の端部で回動自在に連結された第一リンク部材および第二リンク部材を有し、この両リンク部材をそれぞれの他方側の端部が近づく方向に回動させることにより、両リンク部材の一方側の端部を前方に移動させ前記シートパッドの所定部位を前方に押し出すと同時に、両リンク部材の他方側の端部を後方に移動させその他方側の端部に連結された前記シートパッドの隣接部位または前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込む構成とすることができる。
【0009】
また、前記押出引込手段は、第一ラック部を有する押出部材と、前記第一ラック部と対向する第二ラック部を有する引込部材と、前記第一ラック部と前記第二ラック部の間に配置され両ラック部に噛合する駆動歯車と、を有し、
前記駆動歯車を一方に回転させることにより、前記第一ラック部とともに前記押出部材を前方に移動させ前記シートパッドの所定部位を前方に押し出すと同時に、前記第二ラック部とともに前記引込部材を後方に移動させその引込部材に連結された前記シートパッドの隣接部位または前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込む構成とすることもできる。
【0010】
また、車両用シートが、前記シートパッドに設けられたパッド側ワイヤと前記シートカバーに設けられたカバー側ワイヤとが結束部材によって結束されることにより、前記シートパッドに対して前記シートカバーが取り付けられる構成である場合に、前記カバー側ワイヤを後方に引くことにより、前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込むようにすればよい。
【0011】
このように、シートカバーを取り付けるためのカバー側ワイヤを、隣接被覆部位を後方に引き込むための部材として利用すれば、新たな部材を設けることなく、押出引込手段を機能させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる車両用シートによれば、シートパッドの所定部位が前方に押し出されると同時に、その所定部位に隣接する隣接部位が後方に引き込まれるため、所定部位によって乗員の身体の特定部位を効果的に押圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両用シートの概念図であり、図1(a)は押出引込手段(押出引込装置)の非動作時、図1(b)は押出引込手段(押出引込装置)の動作時を示している。
【図2】第一形態にかかる押出引込装置の分解斜視図である。
【図3】第一形態にかかる押出引込装置の要部を模式的に示した図である。
【図4】第二形態にかかる押出引込装置の分解斜視図である。
【図5】第二形態にかかる押出引込装置の要部を模式的に示した図である。
【図6】隣接被覆部位を後方へ引き込む引込構造の一例である。
【図7】図6に示したシートカバーを背面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明における上下方向(高さ方向)とは車両用シート1の高さ方向(図1における上下方向)をいい、前後方向とは車両用シート1の前後方向(図1における左右方向。車両の進行方向を前とする)をいい、幅方向とは車両用シート1の幅方向(上下方向および前後方向に直交する方向)をいう。なお、以下では、シートバック(背もたれ部)を用いて本発明を説明するが、本発明はシートクッション(着座部)にも適用可能である。
【0015】
本実施形態にかかる車両用シート1は、シートパッド2と、シートカバー3と、押出引込手段4と、を備える。シートパッド2は、発泡体などから構成されるクッション材であり、シートの骨格を構成するシートフレームに取り付けられている。シートカバー3は、少なくともシートパッド2の表面(前側の面)を覆うようにシートパッド2に取り付けられたカバー部材である。
【0016】
押出引込手段4は、押出機構4aおよび引込機構4bを有し、シート後方に設けられる。押出機構4aは、シートパッド2の所定部位21を局所的に前方に押し出す。なお、ここでいう所定部位21は、シートパッド2の一部であれば特定の部位に限定されるものではない。一方、引込機構4bは、シートパッド2における上記所定部位21に隣接する隣接部位22またはこの隣接部位22の表面を覆うシートカバー3の隣接被覆部位31を後方に引き込む。この後方への引込動作は、押出機構4aによる前方への押出動作と同時に行われる。隣接部位22を引き込めば、当然当該隣接部位22が後方に移動することになる。一方、隣接被覆部位31を引き込んでも、当該隣接被覆部位31に覆われている隣接部位22が後方に移動することになる。すなわち、引込機構4bは、直接的に隣接部位22を後方に移動させるか、隣接被覆部位31を介して間接的に隣接部位22を後方に移動させるかのどちらかの構成であればよい。なお、引込手段によって後方に移動する隣接部位22は、所定部位21を挟む二箇所であってもよいし、一方側のみであってもよい。また、押出引込手段4は、本実施形態のように所定部位21と隣接部位22が上下方向に並ぶように設定してもよいし、幅方向に並ぶように設定してもよい。
【0017】
このように、押出引込手段4は、シートパッド2の所定部位21を局所的に前方に押し出すと同時に、所定部位21に隣接する隣接部位22または隣接被覆部位31を後方に引き込む。これにより、シートパッド2の所定部位21が前方に移動すると同時に隣接部位22が後方に移動するから、所定部位21と隣接部位22の圧力差(既述)が大きくなる。したがって、このような押込引込手段を設けることにより、所定部位21によって乗員の身体を局所的に押圧する効果(ほぐし効果)に優れる車両用シートとすることができる。
【0018】
以下、上記押込引込手段の具体例(第一形態にかかる押出引込装置5および第二形態にかかる押出引込装置6)について説明する。第一形態にかかる押出引込装置6は、リンク機構を利用したものであり、第一リンク部材51および第二リンク部材52を有する。
【0019】
第一リンク部材51は、第二リンク部材52の下側に位置する板状の部材である。第一リンク部材51の一方側(第二リンク部材52側)の端部には凸状の第一リンク連結部511が形成されている。この第一リンク連結部511には、幅方向に貫通する断面長孔の第一貫通孔512が形成されている。第一リンク連結部511のさらに先端には、駆動部57が連結される駆動部連結部515が形成されている。また、第一リンク部材51の他方側の端部(前面側)には、引き込む対象(所定部位21の下方に隣接する隣接部位22またはその隣接部位22を覆う隣接被覆部位31)と連結される(この連結方法については後述)第一引込部513が形成されている。さらに、第一リンク部材51には、その本体部分を幅方向に貫通する第一支持孔514が形成されている。第一支持孔514は、第一リンク部材51の一方側の端部と他方側の端部の間(すなわち、第一リンク連結部511と第一引込部513の間)に位置する。
【0020】
第二リンク部材52は、第一リンク部材51の上側に位置する板状の部材である。第二リンク部材52の一方側(第一リンク部材51側)の端部には、幅方向両側が突出した第二リンク連結部521が形成されている。第二リンク連結部521同士の間(凹部)は、第一リンク連結部511が係合可能な大きさに形成されている。両第二リンク連結部521のそれぞれには、幅方向に貫通する断面長孔の第二貫通孔522が形成されている。また、第二リンク部材52の他方側の端部(前面側)には、引き込む対象(所定部位21の下方に隣接する隣接部位22またはその隣接部位22を覆う隣接被覆部位31)と連結される(この連結方法については後述)第二引込部523が形成されている。さらに、第二リンク部材52には、その本体部分を幅方向に貫通する第二支持孔524が形成されている。第二支持孔524は、第二リンク部材52の一方側の端部と他方側の端部の間(すなわち、第二リンク連結部521と第二引込部523の間)に位置する。
【0021】
この第一リンク部材51と第二リンク部材52は、両リンク部材の一方側の端部で回動自在に連結されている。具体的には、第一貫通孔512および二つの第二貫通孔522に挿通された中央シャフト54に回動自在に連結されている。上述したように、第一貫通孔512および第二貫通孔522は長孔であるため、その長孔内を中央シャフト54が移動できる範囲内で両リンク部材の回動中心は移動可能である。以下、この移動する回動中心をリンク回動中心と称する。
【0022】
また、第一リンク部材51と第二リンク部材52は、それぞれU字状の連繋シャフト55に連結されている。具体的には、第一リンク部材51は、第一支持孔514に挿通された連繋シャフト55の第一軸部551に回転自在に支持され、第二リンク部材52は、第二支持孔524に挿通された連繋シャフト55の第二軸部552に回転自在に支持されている。つまり、第一リンク部材51は第一軸部551を中心として回動し、第二リンク部材52は第二軸部552を中心として回動する。なお、連繋シャフト55の第一軸部551および第二軸部552の先端は、支持板56に固定されている。以下、第一軸部551を中心とする第一リンク部材51の回動中心を第一回動中心、第二軸部552を中心とする第二リンク部材52の回動中心を第二回動中心と称する。
【0023】
第一リンク部材51の駆動部連結部515には、本装置を駆動させるための駆動部57が連結されている。駆動部57が有する駆動源が駆動すると、その出力部に連結された第一リンク部材51の一方側の端部が前進する。かかる駆動源は、このように第一リンク部材51の一方側の端部を前進させることができるものであれば特に限定されない。本実施形態では、駆動源であるモータ571の回転によってリードスクリューが形成された出力軸572が前進し、その出力軸572の先端に連結された第一リンク部材51の一方側の端部が前進する。
【0024】
本装置は、シートフレームFに固定されている。この固定位置は、回動自在に連結された第一リンク部材51の一方側の端部と第二リンク部材52の一方側の端部が、隆起させようとするシートパッド2の所定位置の略後側に位置するように設定する。シートに着座した乗員の腰部が接触する部位を所定部位21とする場合には、当該両リンク部材の一方側の端部が、腰部が接触する部位の略後側に位置するように設定する。
【0025】
以上のように構成される本装置は、次のように動作する。モータ571を正転させると、出力軸572が前進し、第一リンク部材51の一方側の端部が前方に移動する。第一リンク部材51の一方側の端部(第一リンク連結部511)には、第二リンク部材52の一方側の端部(第二リンク連結部521)が連結されているから、第二リンク部材52の一方側の端部も前方に移動する。両リンク部材は、連繋シャフト55の第一軸部551および第二軸部552に回動自在に支持されているから、この第一軸部551および第二軸部552に支持された部分の間隔を保ったまま、リンク回動中心の位置を変化させつつ、第一リンク部材51は第一回動中心を中心として、第二リンク部材52は第二回動中心を中心として回動する。第一回動中心は第一リンク部材51の一方側の端部と他方側の端部の間に位置し、第二回動中心は第二リンク部材52の一方側の端部と他方側の端部に位置するから、両リンク部材の一方側の端部(すなわちリンク回動中心)が前方に移動すると、両リンク部材の他方側の端部は後方に移動する。
【0026】
両リンク部材の一方側の端部が前方に移動することにより、シートパッド2の所定位置は前方に押し出される。一方、両リンク部材の他方側の端部は、所定部位21に隣接する隣接部位22またはその隣接部位22を覆う隣接被覆部位31に連結されているから、隣接部位22は後方に引き込まれる。このようにして、シートパッド2の所定位置が前方に押し出され隆起するとともに、所定位置に隣接する隣接部位22が後方に引き込まれた状態となる。
【0027】
所定位置の隆起を解消する場合は、モータ571を逆転させる。モータ571が逆転すると出力軸572が後退し、両リンク部材の一方側の端部が後方(原位置の方向)に移動する。この一方側の端部の後方への移動とともに、両リンク部材の他方側の端部は前方(原位置の方向)に移動する。したがって、両リンク部材の一方側の端部による所定位置の前方への押し出し、および、他方側の端部による隣接部位22の後方への引き込みが解消される。
【0028】
次に、第二形態にかかる押出引込装置6について説明する。第二形態にかかる押出引込装置6は、押出部材61と、引込部材62と、駆動歯車63と、を備える。
【0029】
押出部材61は、板状体の上下面に形成された上側第一ラック部611および下側第一ラック部612を有する。この両第一ラック部が形成された板状体の先端には、押出部613が取り付けられている。押出部613は、例えば図示されるような先端面が断面円弧状である部材である。かかる形状は特に限定されない。押出部材61がシートパッド2の所定位置を前方に押し出す部分であることを考慮して、押出部613の形状や大きさを設定すればよい。
【0030】
引込部材62は、両第一ラック部と対向する第二ラック部を有する。図6に示すように、引込部材62としては、箱状体の内側上面に上側第一ラック部611と対向する上側第二ラック部621が形成され、箱状体の内側下面に下側第一ラック部612と対向する下側第二ラック部622が形成された構成が例示できる。また、引込部材62の幅方向両側壁には、前後方向に長い貫通孔である歯車支持孔623が形成されている。さらに、引込部材62の外側上面および外側下面の後方には、引き込む対象(所定部位21の下方に隣接する隣接部位22またはその隣接部位22を覆う隣接被覆部位31)と連結される(この連結方法については後述)引込部624が形成されている。
【0031】
駆動歯車63は、引込部材62の歯車支持孔623に支持された幅方向に長い歯車である。この駆動歯車63の歯部631は、押出部材61の上側第一ラック部611および引込部材62の下側第二ラック部622の両方に噛合している。駆動歯車63は、歯部631の外側に形成された軸状の支持部632が歯車支持孔623内に回転自在に支持されている。上述したように引込部材62の歯車支持孔623は前後方向に長い貫通孔であるから、この孔の長さの範囲内で引込部材62は前後方向に移動可能である。この駆動歯車63の一方側の端部は、駆動歯車63を回転させる駆動部(本装置ではモータ64)に連結されている。
【0032】
また、本装置は、押出部材61の下側第一ラック部612および引込部材62の下側第二ラック部622の両方に噛合する従動歯車633を有する。なお、従動歯車633と上記駆動歯車63の位置は逆であってもよい。すなわち、駆動源によって回転する駆動歯車63を押出部材61の下側第一ラック部612および引込部材62の下側第二ラック部622に噛合させ、従動歯車633を押出部材61の上側第一ラック部611および引込部材62の下側第二ラック部622に噛合させた構成としてもよい。
【0033】
本装置は、シートフレームFに固定されている。この固定位置は、押出部材61の押出部613が、隆起させようとするシートパッド2の所定位置の略後側に位置するように設定する。シートに着座した乗員の腰部が接触する部位を所定部位21とする場合には、当該押出部613が、腰部が接触する部位の略後側に位置するように設定する。
【0034】
以上のように構成される本装置は、次のように動作する。モータ64を駆動し、駆動歯車63を正転させると、駆動歯車63の歯部631に噛合している上側第一ラック部611を有する押出部材61が前方に移動する。これと同時に、駆動歯車63の歯部631に噛合している上側第二ラック部621を有する引込部材62が後方に移動する。この際、駆動歯車63の支持部632の外面を歯車支持孔623の内面が摺動するようにして引込部材62が後方に移動する。また、このように駆動歯車63が正転し、押出部材61が前方に移動すると、下側第一ラック部612に噛合している従動歯車633は、駆動歯車63の回転方向とは反対の方向に回転する。かかる方向に従動歯車633が回転することにより、従動歯車633と噛合している下側第二ラック部622を有する引込部材62は、従動歯車633から伝達される後方への力を受ける。つまり、引込部材62は、駆動歯車63の回転およびそれに従動する従動歯車633の回転によって、上側第二ラック部621側(上壁側)および下側第二ラック部622側(下壁側)の両方で後方への力を受ける。したがって、引込部材62は後方へスムーズに移動する。
【0035】
押出部材61が前方に移動することにより、押出部材61の押出部613によってシートパッド2の所定位置は前方に押し出される。一方、引込部材62の外側上面および外側下面の後方の引込部624は、所定部位21に隣接する隣接部位22またはその隣接部位22を覆う隣接被覆部位31に連結されているから、隣接部位22は後方に引き込まれる。このようにして、シートパッド2の所定位置が前方に押し出され隆起するとともに、所定位置に隣接する隣接部位22が後方に引き込まれた状態となる。
【0036】
所定位置の隆起を解消する場合は、モータ64の回転方向を変え、駆動歯車63を逆転させる。駆動歯車63が逆転すると駆動歯車63の歯部631に噛合している上側第一ラック部611を有する押出部材61が後方に移動する。この後方への移動とともに、駆動歯車63の歯部631に噛合している上側第二ラック部621、および、駆動歯車63とは反対方向に回転する従動歯車633に噛合している下側第二ラック部622を有する引込部材62が前方に移動する。これにより、押出部材61の押出部613による所定位置の前方への押し出し、および、引込部材62による隣接部位22の後方への引き込みが解消される。
【0037】
次に、シートパッド2の隣接部位22またはその隣接部位22を覆う隣接被覆部位31の後方への引込構造の一例について説明する。以下で説明する例は、隣接被覆部位31と引込機構4bの引込部との連結構造例である。
【0038】
車両用シート1において、次のようにシートカバー3が取り付けられている。シートパッド2には、所定位置にパッド側ワイヤ23が埋設されている。シートカバー3の背面側には、シートパッド2におけるパッド側ワイヤ23が埋設された位置に対応する位置(シートカバー3を所定位置に取り付けると、パッド側ワイヤ23に沿う位置)にカバー側ワイヤ32が取り付けられている。シートパッド2には、パッド側ワイヤ23に沿って後方に向かって窪んだ溝24が形成されている。この溝24内で、パッド側ワイヤ23とカバー側ワイヤ32とが結束部材Hによって結束(ホグリング)されることにより、シートパッド2に対してシートカバー3が取り付けられる。
【0039】
シートパッド2は、上記溝24が形成された部位の一部が前後方向に貫通している。すなわち、溝24の底面からシートパッド2の後面にかけて貫通している(以下、この貫通孔を連絡孔25と称する)。本実施形態では、幅方向に並ぶ三つの連絡孔25が形成されている。このように連絡孔25を分割するのは、一つの大きな連絡孔25を形成すると、当該連絡孔25が形成された部分のシートパッド2の強度が低下してしまうからである。
【0040】
カバー側ワイヤ32には、例えば布等で構成される連結部材33が接続されている。この連結部材33は、伸縮性の無い不織布等で構成されていることが好ましい。本実施形態では、連結部材33は、その一方側の端部で、カバー側ワイヤ32を包むようにしてカバー側ワイヤ32およびシートカバー3に接続されている。このようにカバー側ワイヤ32に接続された連結部材33の他方側端部は、上記連絡孔25を通じて、シートパッド2の背面側に引き出される。具体的には、連結部材33は、一方側の端部から他方側の端部にかけて三つに分割されており、各分割された部分が連絡孔25に挿通されて、シートパッド2の背面側に引き出されている。この引き出された他方側の端部が、押出引込装置5,6の引込部(第一形態にかかる押出引込装置5;第一引込部513および第二引込部523、第二形態にかかる押出引込装置6;引込部624)に接続されている。押出引込装置5,6の引込機構によって引込部を後方に移動させると、カバー側ワイヤ32が後方に引き込まれる。カバー側ワイヤ32をシートカバー3の隣接被覆部位31付近に設けておけば、カバー側ワイヤ32後方に引き込まれることにより、隣接被覆部位31が後方に引き込まれる。
【0041】
かかる引込構造の例は一例であり、適宜変更可能である。例えば、シートパッド2の隣接部位22に引き込み用の部材(例えばワイヤ)を別途埋設しておき、この埋設された部材と引込部を連結することにより、引込機構4bによって隣接部位22が後方に引き込まれるように構成してもよい。
【0042】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 車両用シート
2 シートパッド
21 所定部位
22 隣接部位
23 パッド側ワイヤ
3 シートカバー
31 隣接被覆部位
32 カバー側ワイヤ
33 連結部材
4 押出引込手段
4a 押出機構
4b 引込機構
5 押出引込装置(第一形態)
51 第一リンク部材
52 第二リンク部材
6 押出引込装置(第二形態)
61 押出部材
611 上側第一ラック部
612 下側第一ラック部
62 引込部材
621 上側第二ラック部
622 下側第二ラック部
63 駆動歯車
633 従動歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション材であるシートパッドと、
このシートパッドの少なくとも表面を覆うシートカバーと、
前記シートパッドの所定部位を前方に押し出す押出機構、および、この押出機構による押し出し動作と同時に前記所定部位に隣接する前記シートパッドの隣接部位またはこの隣接部位の表面を覆う前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込む引込機構を有する押出引込手段と、
を備えることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記押出引込手段は、互いに一方側の端部で回動自在に連結された第一リンク部材および第二リンク部材を有し、
この両リンク部材をそれぞれの他方側の端部が近づく方向に回動させることにより、両リンク部材の一方側の端部を前方に移動させ前記シートパッドの所定部位を前方に押し出すと同時に、両リンク部材の他方側の端部を後方に移動させその他方側の端部に連結された前記シートパッドの隣接部位または前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込むことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記押出引込手段は、第一ラック部を有する押出部材と、前記第一ラック部と対向する第二ラック部を有する引込部材と、前記第一ラック部と前記第二ラック部の間に配置され両ラック部に噛合する駆動歯車と、を有し、
前記駆動歯車を一方に回転させることにより、前記第一ラック部とともに前記押出部材を前方に移動させ前記シートパッドの所定部位を前方に押し出すと同時に、前記第二ラック部とともに前記引込部材を後方に移動させその引込部材に連結された前記シートパッドの隣接部位または前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込むことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記シートパッドに設けられたパッド側ワイヤと前記シートカバーに設けられたカバー側ワイヤとが結束部材によって結束されることにより、前記シートパッドに対して前記シートカバーが取り付けられる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用シートであって、
前記引込機構は、前記カバー側ワイヤを後方に引くことにより、前記シートカバーの隣接被覆部位を後方に引き込むことを特徴とする車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91347(P2013−91347A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233020(P2011−233020)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】