説明

車両用スライドドア支持装置および合成樹脂製スラストワッシャ

【課題】車両用スライドドア支持装置のスライドドアヒンジに設けられたローラの回転トルクを低減して、スライドドアの操作性を改善することである。
【解決手段】スライドドアヒンジのガイドローラ6bを支持する支持軸5bに、ガイドローラ6bの支持軸基端側の端面を、支持軸5bを立設したブラケット面4bに受ける合成樹脂製のスラストワッシャ7を装着することにより、ガイドローラ6bの支持軸基端側の端面をスラストワッシャ7と摺接させて摺接摩擦抵抗を低減するとともに、塗装時のガイドローラ6bとブラケット面4bとの間の軸方向隙間からの塗料の進入による支持軸5bの外径面への塗料の付着を防止して、ガイドローラ6bの回転トルクを低減し、スライドドアの操作性を改善できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドアを車両ボデーに開閉可能に支持する車両用スライドドア支持装置と、車両用スライドドア支持装置のローラの支持軸に装着される合成樹脂製スラストワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
車両ボデーの側面に取り付けられるスライドドアは、金属製のブラケットに立設した各支持軸にロードローラとガイドローラを回転自在に支持したスライドドアヒンジをスライドドアに取り付けて、このスライドドアヒンジのロードローラとガイドローラを車両ボデーに設けたガイドレールに転接させる車両用スライドドア支持装置によって開閉可能に支持されている。通常、スライドドアの重量を支持するロードローラは水平な支持軸に支持され、スライドドアの開閉を案内するガイドローラは垂直な支持軸に支持されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
前記ロードローラやガイドローラの支持軸は、ブラケットに加締めで固定される加締め軸や、ブラケットに螺着されるボルトとされ、各ローラは支持軸が立設されたブラケット面との間に回転を許容する軸方向隙間を開けて、支持軸に取り付けられている。スライドドアの重量によって大きなラジアル荷重が負荷されるロードローラは、軸受を介して支持軸に取り付けられ、金属部材の外周に樹脂部材を固着した複合ローラとされることが多く、ラジアル荷重がそれほど負荷されないガイドローラは、支持軸に径方向隙間を開けて直接取り付けられ、樹脂で形成された樹脂ローラとされることが多い。
【0004】
また、スライドドアは、塗装工程に先立ってスライドドアヒンジを取り付けた状態で塗装され、この塗装には電着塗装や静電塗装の電気塗装が採用されることが多い。
【0005】
【特許文献1】特開2002−274179号公報
【特許文献2】特開2006−63682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の車両用スライドドア支持装置は、軸方向隙間を開けて支持軸に支持されたロードローラやガイドローラの各ローラが軸方向に偏って、その支持軸基端側端面が支持軸を立設したブラケット面と摺接すると、金属で形成されたブラケットとの摺接摩擦抵抗によって各ローラの回転トルクが大きくなり、スライドドアの開閉が重くなって操作性が悪くなる問題がある。特に、支持軸に径方向隙間を開けて取り付けられるガイドローラは軸方向に偏りやすい。
【0007】
また、前記ローラの支持軸を加締め軸とする場合は、支持軸を加締める際に、軸方向隙間の存在によって支持軸が傾いて立設されることがあり、ローラの回転が不安定になって、スライドドアの操作性が悪くなる問題もある。
【0008】
さらに、上述したように、スライドドアはスライドドアヒンジを取り付けた状態で塗装されるので、支持軸に支持されたローラと支持軸が立設されたブラケット面との間の軸方向隙間から塗料が侵入し、ローラを回転自在に支持する支持軸の外径面に塗料が付着して、各ローラの回転トルクが大きくなり、スライドドアの操作性が悪くなる問題もある。塗装が電着塗装や静電塗装の電気塗装とされる場合は、支持軸の外径面に塗料がより付着しやすくなる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、車両用スライドドア支持装置のスライドドアヒンジに設けられたローラの回転トルクを低減して、スライドドアの操作性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の車両用スライドドア支持装置は、ブラケットに立設した各支持軸にロードローラとガイドローラを回転自在に支持したスライドドアヒンジをスライドドアに取り付け、このスライドドアヒンジのロードローラとガイドローラを車両ボデーに設けたガイドレールに転接させて、スライドドアを車両ボデーに開閉可能に支持する車両用スライドドア支持装置において、前記ロードローラおよびガイドローラの少なくとも一方のローラを支持する前記支持軸に、このローラの支持軸基端側の端面を、支持軸を立設した前記ブラケットの面に受ける合成樹脂製のスラストワッシャを装着した構成を採用した。
【0011】
すなわち、ロードローラおよびガイドローラの少なくとも一方のローラを支持する支持軸に、このローラの支持軸基端側の端面を、支持軸を立設したブラケットの面に受ける合成樹脂製のスラストワッシャを装着することにより、ローラの支持軸基端側の端面を合成樹脂製のスラストワッシャと摺接させて摺接摩擦抵抗を低減するとともに、塗装時のローラとブラケット面との間の軸方向隙間からの塗料の進入による支持軸の外径面への塗料の付着を防止して、ローラの回転トルクを低減し、スライドドアの操作性を改善できるようにした。また、支持軸が加締め軸である場合は、加締め軸を加締める際に、スラストワッシャで軸方向隙間を殺して、支持軸が傾いて立設されることをなくし、ローラの回転の不安定によるスライドドアの操作性の悪化も防止することができる。
【0012】
前記スラストワッシャを皿ばね状のものとすることにより、ローラとブラケット面との間の軸方向隙間をより確実に殺すことができる。
【0013】
前記スラストワッシャを形成する合成樹脂をフッ素樹脂とすることにより、ローラの支持軸基端側の端面との摺接摩擦抵抗をより低減することができる。このフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロポリプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。これらのフッ素樹脂の中でも、PTFE、FEP、PFAは耐熱性が高く、気温が50℃になる場合でも使用することができるので好ましい。
【0014】
前記合成樹脂を前記フッ素樹脂に繊維状補強材を配合したものとすることにより、スラストワッシャのクリープ変形を防止することができる。特に、スラストワッシャを皿ばね状とした場合でのクリープ変形防止に有効である。
【0015】
前記スラストワッシャは、前記ガイドローラを支持する支持軸に装着するとよい。
【0016】
上述した各車両用スライドドア支持装置は、前記スライドドアおよび前記スライドドアヒンジが電気塗装されるものに好適である。
【0017】
前記電気塗装は、電着塗装または静電塗装とすることができる。
【0018】
また、本発明の合成樹脂製スラストワッシャは、上述したいずれかの車両用スライドドア支持装置の前記ローラの支持軸に装着されるものとすることにより、ローラの支持軸基端側の端面の摺接摩擦抵抗を低減するとともに、塗装時のローラとブラケット面との間の軸方向隙間からの塗料の進入による支持軸の外径面への塗料の付着を防止して、ローラの回転トルクを低減でき、スライドドアの操作性を改善することができる。支持軸が加締め軸である場合は、加締め軸を加締める際に、スラストワッシャで軸方向隙間を殺して、支持軸が傾いて立設されることをなくし、ローラの回転の不安定によるスライドドアの操作性の悪化を防止することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用スライドドア支持装置は、ロードローラおよびガイドローラの少なくとも一方のローラを支持する支持軸に、このローラの支持軸基端側の端面を、支持軸を立設したブラケットの面に受ける合成樹脂製のスラストワッシャを装着したので、ローラの支持軸基端側の端面を合成樹脂製のスラストワッシャと摺接させて摺接摩擦抵抗を低減するとともに、塗装時のローラとブラケット面との間の軸方向隙間からの塗料の進入による支持軸の外径面への塗料の付着を防止して、ローラの回転トルクを低減し、スライドドアの操作性を改善することができる。また、支持軸が加締め軸である場合は、加締め軸を加締める際に、スラストワッシャで軸方向隙間を殺して、支持軸が傾いて立設されることをなくし、ローラの回転の不安定によるスライドドアの操作性の悪化も防止することができる。
【0020】
また、本発明の合成樹脂製スラストワッシャは、上述した車両用スライドドア支持装置のローラの支持軸に装着することにより、ローラの支持軸基端側の端面の摺接摩擦抵抗を低減するとともに、塗装時のローラとブラケット面との間の軸方向隙間からの塗料の進入による支持軸の外径面への塗料の付着を防止して、ローラの回転トルクを低減でき、スライドドアの操作性を改善することができる。支持軸が加締め軸である場合は、加締め軸を加締める際に、スラストワッシャで軸方向隙間を殺して、支持軸が傾いて立設されることをなくし、ローラの回転の不安定によるスライドドアの操作性の悪化を防止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この車両用スライドドア支持装置は、図1に示すように、スライドドア1の内面に取り付けられる第1ブラケット2に、第2ブラケット3を介して第3ブラケット4を首振り自在に軸支し、この第3ブラケット4に加締めて立設した各支持軸5a、5bに、それぞれ1つのロードローラ6aと2つのガイドローラ6bを回転自在に支持したものをスライドドアヒンジとして、このスライドドアヒンジのロードローラ6aとガイドローラ6bを車両ボデーに設けたガイドレール(図示省略)に転接させて、スライドドア1を車両ボデーに開閉可能に支持するものである。なお、このスライドドア1は、スライドドアヒンジを取り付けた状態で電着塗装または静電塗装の電気塗装によって塗装される。
【0022】
前記ロードローラ6aの支持軸5aは、第3ブラケット4の垂直なブラケット面4aに水平向きに立設され、ガイドローラ6bの支持軸5bは、第3ブラケット4の水平なブラケット面4bに上向きに立設されている。また、ロードローラ6aは、金属部材の外周に樹脂部材を固着した複合ローラとされ、軸受(図示省略)を介して支持軸5aに取り付けられている。
【0023】
前記ガイドローラ6bは樹脂で形成された樹脂ローラとされ、図2に示すように、第3ブラケット4のブラケット面4bに立設された支持軸5bに僅かの径方向隙間を開けて外嵌され、その支持軸基端側の端面8が、合成樹脂製のスラストワッシャ7でブラケット面4bに受けられて、ガイドローラ6bとブラケット面4bとの間の軸方向隙間がスラストワッシャ7で殺されている。したがって、ガイドローラ6bが支持された支持軸5bを加締めて第3ブラケット4に立設するときに、支持軸5bがガイドローラ6bの軸方向隙間によって傾くことはない。
【0024】
前記合成樹脂製のスラストワッシャ7は、図3(a)、(b)に示すように、皿ばね状とされ、フッ素樹脂としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に、繊維状補強材としてのガラス繊維を25質量%配合したものとされている。したがって、ガイドローラ6bとブラケット面4b間の軸方向隙間が確実に殺されるとともに、樹脂ローラとしたガイドローラ6bの支持軸基端側の端面8とスラストワッシャ7との摺接摩擦抵抗が非常に小さくなり、ガイドローラ6bの回転トルクが低減される。
【実施例】
【0025】
上記スライドドアヒンジを取り付けたスライドドア1を電着塗装し、塗装後のガイドローラ6bの支持軸5bを取り外して、その外径面を観察した。この結果、支持軸5bの外径面には塗料が全く付着していないことが確認された。したがって、支持軸5bの外径面への塗料の付着によって、ガイドローラ6bの回転トルクが増大する恐れもない。
【0026】
上述した実施形態では、ガイドローラの支持軸にのみ合成樹脂製のスラストワッシャを装着したが、ロードローラの支持軸に同様のスラストワッシャを装着することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車両用スライドドア支持装置の実施形態を示す外観斜視図
【図2】図1のガイドローラの取り付け部を拡大して示す縦断面図
【図3】aは図2のスラストワッシャを示す平面図、bはaの縦断面図
【符号の説明】
【0028】
1 スライドドア
2、3、4 ブラケット
4a、4b ブラケット面
5a、5b 支持軸
6a ロードローラ
6b ガイドローラ
7 スラストワッシャ
8 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラケットに立設した各支持軸にロードローラとガイドローラを回転自在に支持したスライドドアヒンジをスライドドアに取り付け、このスライドドアヒンジのロードローラとガイドローラを車両ボデーに設けたガイドレールに転接させて、スライドドアを車両ボデーに開閉可能に支持する車両用スライドドア支持装置において、前記ロードローラおよびガイドローラの少なくとも一方のローラを支持する前記支持軸に、このローラの支持軸基端側の端面を、支持軸を立設した前記ブラケットの面に受ける合成樹脂製のスラストワッシャを装着したことを特徴とする車両用スライドドア支持装置。
【請求項2】
前記スラストワッシャを皿ばね状のものとした請求項1に記載の車両用スライドドア支持装置。
【請求項3】
前記スラストワッシャを形成する合成樹脂をフッ素樹脂とした請求項1または2に記載の車両用スライドドア支持装置。
【請求項4】
前記合成樹脂が、前記フッ素樹脂に繊維状補強材を配合したものである請求項3に記載の車両用スライドドア支持装置。
【請求項5】
前記スラストワッシャを前記ガイドローラを支持する支持軸に装着した請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用スライドドア支持装置。
【請求項6】
前記スライドドアおよび前記スライドドアヒンジが電気塗装されるものである請求項1乃至5のいずれかに記載の車両用スライドドア支持装置。
【請求項7】
前記電気塗装が電着塗装または静電塗装である請求項6に記載の車両用スライドドア支持装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の車両用スライドドア支持装置の前記ローラの支持軸に装着される合成樹脂製スラストワッシャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−83278(P2010−83278A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253364(P2008−253364)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】