説明

車両用トランスファ装置

【課題】フロント出力軸が回転しない状態で振動が入力されてもベアリングにフレッティング摩耗を発生させないようにする車両用トランスファ装置を提供すること。
【解決手段】ケーシング25に対して第2出力軸23を回転可能に軸受けするベアリング28を備え、ベアリング28は、ケーシング25に固定されたアウタレース42と、第2出力軸23の固定されたインナレース41と、アウタレース42とインナレース41との間に配された複数の転動体43と、転動体43を転動可能に保持する保持器44と、保持器44に揺動可能に取り付けられるとともに起き上がった状態から片側にのみ倒れこむことが可能な複数の羽部材45と、を備え、ケーシング25は、ベアリング28の回転方向から流体を羽部材45に向けて流す流路を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された回転動力を前輪と後輪とに分配して伝達する車両用トランスファ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用トランスファ装置は、通常、変速機から出力された回転動力が入力され、入力された回転動力を前輪と後輪とに分配して伝達する装置であり、2輪駆動と4輪駆動との間の切替を可能にする切替装置を備えるものがある。このような車両用トランスファ装置では、装置内の回転部材の軸受けや切替装置の摩耗、過熱などを防止するために、装置のケーシングに潤滑油が封入されており、潤滑油が循環されることにより、装置内の各部が潤滑されるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。2輪駆動と4輪駆動とを切替が可能な車両用トランスファ装置では、後輪2輪駆動の状態の場合、通常、前輪と車両用トランスファ装置との間の動力伝達経路に配されたフロントプロペラシャフトが停止しているため、これに伴いフロントプロペラシャフトに連結された車両用トランスファ装置内のフロント出力軸も回転しない状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−58294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、後輪2輪駆動の状態で車両用トランスファ装置内のフロント出力軸が断続装置によりフロントディファレンシャル装置から切り離されて回転しない状態のまま長距離を走行すると、エンジン、路面の凹凸等から車両用トランスファ装置へ振動が入力されることにより、フロント出力軸を回転可能に支持するベアリングにおいてフレッティング摩耗(微動摩耗)が生じて、寿命を縮めてしてしまうおそれがある。つまり、車両用トランスファ装置内のフロント出力軸が回転しない状態で振動が入力されると、ベアリングの転動体(コロ)が、フロント出力軸に連結されたインナレースの転動面における同じ位置にてフレッティング摩耗が発生してしまい、寿命を縮めてしてしまうおそれがある。
【0005】
本発明の主な課題は、フロント出力軸が回転しない状態で振動が入力されてもベアリングにフレッティング摩耗を発生させないようにすることができる車両用トランスファ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一視点においては、車両用トランスファ装置において、動力源からの回転動力が入力されるとともに第1車輪に向けて回転動力を出力する第1出力軸と、前記第1車輪とは異なる第2車輪に向けて回転動力を出力する第2出力軸と、前記第1出力軸の回転動力を前記第2出力軸に伝達したり遮断したりすることが可能な断続装置と、前記第1出力軸、前記第2出力軸、及び前記断続装置を収容するケーシングと、前記ケーシングに対して前記第2出力軸を回転可能に軸受けするベアリングと、を備え、前記ベアリングは、前記ケーシングに固定されたアウタレースと、前記第2出力軸の固定されたインナレースと、前記アウタレースと前記インナレースとの間に配された複数の転動体と、前記アウタレースと前記インナレースとの間にて前記転動体を転動可能に保持する保持器と、前記保持器に揺動可能に取り付けられるとともに起き上がった状態から片側にのみ倒れこむことが可能な複数の羽部材と、を備え、前記ケーシングは、前記ベアリングの回転方向から流体を前記羽部材に向けて流す流路を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の前記車両用トランスファ装置において、前記羽部材は、先端部にて折れ曲がって突出した突起部を有することが好ましい。
【0008】
本発明の前記車両用トランスファ装置において、前記ベアリングの一部は、前記ケーシング内に溜まった流体中に浸されていることが好ましい。
【0009】
本発明の前記車両用トランスファ装置において、前記第2出力軸の回転動力を前記第2車輪に向けて伝達したり遮断したりすることが可能な第2断続装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フロント出力軸が回転しない状態で振動が入力されても、潤滑油の流れを羽部材で受けることで、ベアリングの保持器を回転させて転動体の位置を移動させることができるので、ベアリングにおけるフレッティング摩耗を防ぐことができ、ベアリングの寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置を含む車両の構成を示した模式図である。
【図2】本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリング付近の構成を模式的に示した部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリングの構成を模式的に示した軸方向から見た平面図である。
【図4】本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリングの羽部材の動作を説明するための図3の矢視Aから見た部分拡大平面図である。
【図5】本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリングの羽部材の動作を説明するための図3の矢視Bから見た部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る車両用トランスファ装置では、動力源(図1の2)からの回転動力が入力されるとともに第1車輪(図1の11、12)に向けて回転動力を出力する第1出力軸(図1の20)と、前記第1車輪とは異なる第2車輪(図1の7、8)に向けて回転動力を出力する第2出力軸(図1の23)と、前記第1出力軸の回転動力を前記第2出力軸に伝達したり遮断したりすることが可能な断続装置(図1の31)と、前記第1出力軸、前記第2出力軸、及び前記断続装置を収容するケーシング(図1の25)と、前記ケーシングに対して前記第2出力軸を回転可能に軸受けするベアリング(図1の28)と、を備え、前記ベアリングは、前記ケーシングに固定されたアウタレース(図2の42)と、前記第2出力軸の固定されたインナレース(図2の41)と、前記アウタレースと前記インナレースとの間に配された複数の転動体(図2の43)と、前記アウタレースと前記インナレースとの間にて前記転動体を転動可能に保持する保持器(図2の44)と、前記保持器に揺動可能に取り付けられるとともに起き上がった状態から片側にのみ倒れこむことが可能な複数の羽部材(図2の45)と、を備え、前記ケーシングは、前記ベアリングの回転方向から流体を前記羽部材に向けて流す流路を有する。
【0013】
なお、本出願において図面参照符号を付している場合は、それらは、専ら理解を助けるためのものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置を含む車両の構成を示した模式図である。図2は、本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリング付近の構成を模式的に示した部分拡大断面図である。図3は、本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリングの構成を模式的に示した軸方向から見た平面図である。図4は、本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリングの羽部材の動作を説明するための図3の矢視Aから見た部分拡大平面図である。図5は、本発明の実施例1に係る車両用トランスファ装置におけるフロント出力軸のベアリングの羽部材の動作を説明するための図3の矢視Bから見た部分拡大平面図である。
【0015】
図1を参照すると、車両用トランスファ装置4は、車両1に搭載されるとともに、変速機3からの回転動力を前輪7、8と後輪11、12とに分配して伝達する装置である。車両1は、後輪2輪駆動と4輪駆動とを切替可能な車両であり、主な構成部として、エンジン2と、変速機3と、車両用トランスファ装置4と、フロントプロペラシャフト5と、断続装置32と、シャフト33と、フロントディファレンシャル装置6と、前輪7、8と、リアプロペラシャフト9と、リアディファレンシャル装置10と、後輪11、12と、を有する。
【0016】
エンジン2は、例えば、燃料(例えば、ガソリン、軽油などの炭化水素系)の燃焼により、回転動力を出力する内燃機関である。エンジン2の回転動力は、変速機3に伝達される。エンジン2は、各種センサ(エンジン回転センサ等)、アクチュエータ(インジェクタ、スロットルバルブを駆動するアクチュエータ等)を有し、電子制御装置(図示せず)に通信可能に接続されており、電子制御装置(図示せず)によって制御される。なお、エンジン2を用いる代わりにモータ等の他の動力源であってもよい。
【0017】
変速機3は、エンジン2から出力された回転動力を変速して、変速された回転動力を車両用トランスファ装置4に向けて出力する機構である。変速機3は、例えば、エンジン2から出力された回転動力が、トルクコンバータを介して遊星歯車機構(複数の遊星歯車機構が組み合わさったもの)に入力され、当該遊星歯車機構で変速されて出力される。変速機3は、遊星歯車機構における所定の回転要素間を断接可能に係合させるクラッチや、所定の回転要素の回転を止めるブレーキを有し、当該クラッチや当該ブレーキを油圧操作する油圧回路を有し、当該油圧回路においてソレノイドを有する。変速機3は、電子制御装置(図示せず)に通信可能に接続されており、電子制御装置(図示せず)によって制御される。
【0018】
車両用トランスファ装置4は、変速機3からの回転動力をフロントプロペラシャフト5とリアプロペラシャフト9とに分配して伝達する装置である。車両用トランスファ装置4は、後輪2輪駆動と4輪駆動に切り替え可能な構成となっている。車両用トランスファ装置4は、主な構成として、リア出力軸20と、スプロケット部材21と、スリーブ22と、フロント出力軸23と、チェーン24と、ケーシング25と、ベアリング26、27、28、29と、を有する。
【0019】
リア出力軸20は、変速機3から出力された回転動力をリアプロペラシャフト9に向けて出力する軸である。リア出力軸20は、ベアリング26、27を介してケーシング25に回転可能に支持されている。リア出力軸20は、ベアリング26、27間の部位にてシンクロハブ部20aを有する。シンクロハブ部20aは、軸方向にスライド可能なスリーブ22と噛み合う断続装置31の一部である。リア出力軸20の回転動力は、スリーブ22、スプロケット部材21、チェーン24、及びスプロケット部23aを介してフロント出力軸23に伝達される。
【0020】
スプロケット部材21は、リア出力軸20の外周にてリア出力軸20に対して回転可能に配されたチェーン24と噛み合う部材である。スプロケット部材21は、シンクロハブ部20aと対向する部分にクラッチギヤ部21aを有する。クラッチギヤ部21aは、断続可能にスリーブ22と噛み合う断続装置31の一部である。スプロケット部材21には、スリーブ22がクラッチギヤ部21a及びシンクロハブ部20aと噛み合っているときに、リア出力軸20の回転動力が伝達される。スプロケット部材21には、スリーブ22がクラッチギヤ部21aに噛み合っていないときに、リア出力軸20の回転動力が伝達されない。
【0021】
スリーブ22は、リア出力軸20のシンクロハブ部20aと軸方向にスライド可能に噛み合う環状の部材であり、断続装置31の一部である。スリーブ22は、スプロケット部材21側にスライドし、スプロケット部材21のクラッチギヤ部21aと噛み合うことで、リア出力軸20の回転動力をスプロケット部材21に伝達する。スリーブ22は、フォークを介して手動又はアクチュエータによる操作によりスライドさせることが可能である。
【0022】
フロント出力軸23は、リア出力軸20から断続装置31(シンクロハブ部20a、スリーブ22、クラッチギヤ部21a)、スプロケット部材21、及びチェーン24を介して伝達された回転動力をフロントプロペラシャフト5に向けて出力する軸である。フロント出力軸23は、ベアリング28、29を介してケーシング25に回転可能に支持されている。フロント出力軸23は、ベアリング28、29間の部位におけるスプロケット部材21と並列な位置にスプロケット部23aを有する。スプロケット部23aは、チェーン24と噛み合っている。フロント出力軸23には、リア出力軸20の回転動力がスリーブ22、スプロケット部材21、チェーン24、及びスプロケット部23aを介して伝達される。
【0023】
チェーン24は、スプロケット部材21とフロント出力軸23のスプロケット部23aとに懸架されたローラーチェーンである。チェーン24は、スプロケット部材21、及びスプロケット部23aと噛み合っており、スプロケット部材21の回転動力をフロント出力軸23に伝達する。チェーン24は、ケーシング25内に収容されている。
【0024】
ケーシング25は、リア出力軸20、スプロケット部材21、スリーブ22、フロント出力軸23、及びチェーン24を収容する部材である。ケーシング25は、ベアリング26、27を介してリア出力軸20を回転可能に支持する。ケーシング25は、ベアリング28、29を介してフロント出力軸23を回転可能に支持する。ケーシング25内には、潤滑油が入っており、潤滑油を羽部材45に向けて流す油路が形成されている。ケーシング25は、リア出力軸20、フロント出力軸23との隙間がシール(フロント出力軸23については図2のシール部材30を参照)されている。
【0025】
ベアリング26、27は、ケーシング25に対してリア出力軸20を回転可能に支持するための軸受けである。
【0026】
ベアリング28、29は、ケーシング25に対してフロント出力軸23を回転可能に支持するための軸受けである。ベアリング28、29は、車両1が後輪2輪駆動の状態で、フロント出力軸23が回転しない状態になったときに、フレッティング摩耗(微動摩耗)を防止する構成となっている。ベアリング28、29の一部は、ケーシング25内に溜まった潤滑油の油浴51中に浸されている(図3参照)。ベアリング28、29は、ケーシング25内を循環する潤滑油の流れ52を斜め上から受けている(図3参照)。ベアリング28、29は、インナレース41と、アウタレース42と、転動体43と、保持器44と、羽部材45と、を有する(図2参照)。
【0027】
インナレース41は、アウタレース42よりも内周に配された内輪である。インナレース41は、内周面にてフロント出力軸23が固定されている。インナレース41は、外周面にて転動体43に転動可能に接している。
【0028】
アウタレース42は、インナレース41よりも外周に配された外輪である。アウタレース42は、外周面にてケーシング25に固定されている。アウタレース42は、内周面にて転動体43に転動可能に接している。
【0029】
転動体43は、インナレース41とアウタレース42との間の隙間に転動可能に配されたコロである。転動体43は、環状の保持器44に形成された複数の窓部にて転動可能に収容されている。
【0030】
保持器44は、インナレース41とアウタレース42との間の隙間にて転動体43を転動可能に保持する環状の部材である。保持器44は、等間隔に形成された複数の窓部を有し、各窓部内に転動体43が転動可能に収容されている。保持器44は、軸方向の片側の端面から突出した複数のヒンジ部44aを有する。ヒンジ部44aには、羽部材45が揺動可能に連結されている。
【0031】
羽部材45は、潤滑油の流れ52を受けて起き上がり(図4参照)、油浴中の流れ55を受けて倒れる(図5参照)ように保持器44のヒンジ部44aに揺動可能に連結された部材である。羽部材45は、潤滑油の流れ52を受けて起き上がったときに、反対側に倒れこまないように保持器44のヒンジ部44aによって揺動が規制されている(図4参照)。羽部材45は、先端部にて折れ曲がって突出した突起部45aを有する。突起部45aは、羽部材45が倒れこんでいるときに、ケーシング25内を循環する潤滑油の流れ52を斜め上から受けて羽部材45を起き上がらせるきっかけを作る(図4参照)。
【0032】
断続装置31は、リア出力軸20の回転動力をスプロケット部材21に伝達したり遮断したりすることが可能な装置である。断続装置31は、リア出力軸20のシンクロハブ部20aに噛み合うとともにスライド可能なスリーブ22がスプロケット部材21のクラッチギヤ部21aに噛み合うことでリア出力軸20の回転動力をスプロケット部材21に伝達し、スリーブ22とクラッチギヤ部21aとの噛み合いが解除されることでリア出力軸20の回転動力をスプロケット部材21に伝達しない。
【0033】
フロントプロペラシャフト5は、車両用トランスファ装置4におけるフロント出力軸23の回転動力を断続装置32に伝達するシャフトである。フロントプロペラシャフト5は、角度が自由に変化することが可能な継手を有する。フロントプロペラシャフト5は、断続装置32内にてシンクロハブ部5aを有する。シンクロハブ部5aは、軸方向にスライド可能なスリーブ34と噛み合う断続装置32の一部である。フロントプロペラシャフト5の回転動力は、スリーブ34を介してシャフト33に伝達される。
【0034】
断続装置32は、フロントプロペラシャフト5の回転動力をシャフト33に伝達したり遮断したりすることが可能な装置である。断続装置32は、フロントプロペラシャフト5のシンクロハブ部5aに噛み合うとともにスライド可能なスリーブ34がシャフト33のクラッチギヤ部33aに噛み合うことでフロントプロペラシャフト5の回転動力をシャフト33に伝達し、スリーブ34がクラッチギヤ部33aとの噛み合いが解除されることでフロントプロペラシャフト5の回転動力をシャフト33に伝達しない。
【0035】
シャフト33は、断続装置32からの回転動力をフロントディファレンシャル装置6に伝達するシャフトである。シャフト33は、シンクロハブ部5aと対向する部分にクラッチギヤ部33aを有する。クラッチギヤ部33aは、断続可能にスリーブ34と噛み合う断続装置32の一部である。シャフト33には、スリーブ34がクラッチギヤ部33a及びシンクロハブ部5aと噛み合っているときに、フロントプロペラシャフト5の回転動力が伝達される。シャフト33には、スリーブ34がクラッチギヤ部33aに噛み合っていないときに、フロントプロペラシャフト5の回転動力が伝達されない。シャフト33は、角度が自由に変化することが可能な継手を有する。
【0036】
スリーブ34は、フロントプロペラシャフト5のシンクロハブ部5aと軸方向にスライド可能に噛み合う環状の部材であり、断続装置32の一部である。スリーブ34は、シャフト33側にスライドし、シャフト33のクラッチギヤ部33aと噛み合うことで、フロントプロペラシャフト5の回転動力をシャフト33に伝達する。スリーブ34は、フォークを介して手動又はアクチュエータによる操作によりスライドさせることが可能である。
【0037】
フロントディファレンシャル装置6は、シャフト33からの回転動力を前輪7、8に回転差をつけて振り分けて伝達することが可能な差動歯車装置である。
【0038】
前輪7、8は、車両1の進行方向の前方の左右に配された車輪である。各前輪7、8には、フロントディファレンシャル装置6で振り分けられた回転動力が伝達される。
【0039】
リアプロペラシャフト9は、車両用トランスファ装置4におけるリア出力軸20の回転動力をリアディファレンシャル装置10に伝達するシャフトである。リアプロペラシャフト9は、角度が自由に変化することが可能な継手を有する。
【0040】
リアディファレンシャル装置10は、リアプロペラシャフト9からの回転動力を後輪11、12に回転差をつけて振り分けて伝達することが可能な差動歯車装置である。
【0041】
後輪11、12は、車両1の進行方向の後方の左右に配された車輪である。各後輪11、12には、リアディファレンシャル装置10で振り分けられた回転動力が伝達される。
【0042】
次に、本発明の実施例1に係るに係る車両用トランスファ装置におけるベアリング(図2の28)の羽部材45の動作について説明する。
【0043】
車両1が後輪2輪駆動の状態で車両用トランスファ装置4内のフロント出力軸23が回転しない状態にあるとき(断続装置31、32がともに断状態にあるとき)、フロント出力軸23のベアリング28の保持器44に揺動可能に取り付けられた羽部材45は、先端部の突起部45aにて車両用トランスファ装置4のケーシング25内を循環する潤滑油の流れ(図3、図4の52)をベアリング28の回転方向から受けると起き上がる。なお、羽部材45は、起き上がってから反対側に倒れこまないので、ベアリング28の回転方向からの潤滑油の流れ(図3、図4の52)を最大限受けることが可能となる。1つの羽部材45の位置が移動して潤滑油の流れ(図3、図4の52)を受けなくなると、次の羽部材45が潤滑油の流れ(図3、図4の52)を受けることになる。これにより、保持器44を回転させて転動体43の位置を常時移動させることができ、フレッティング摩耗を防ぐことができる。
【0044】
また、羽部材45は起き上がった状態から片側のみ倒れる構成となっているので、羽部材45がケーシング25内の潤滑油の油浴(図3の51)中に入ったときに油浴中の流れ(図5の55)を受けて起き上がった状態から倒れこむ。これにより、保持器44の回転抵抗を減少させることができる。
【0045】
実施例1によれば、フロント出力軸23が回転しない状態で振動が入力されても、潤滑油の流れを羽部材45で受けることで、ベアリング28、29の保持器44を回転させて転動体43の位置を移動させることができるので、ベアリング28、29におけるフレッティング摩耗を防ぐことができ、ベアリング28、29の寿命を長くすることができる。
【0046】
なお、本発明の全開示(請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 車両
2 エンジン(動力源)
3 変速機
4 車両用トランスファ装置
5 フロントプロペラシャフト
5a シンクロハブ部
6 フロントディファレンシャル装置
7、8 前輪(第2車輪)
9 リアプロペラシャフト
10 リアディファレンシャル装置
11、12 後輪(第1車輪)
20 リア出力軸(第1出力軸)
20a シンクロハブ部
21 スプロケット部材
21a クラッチギヤ部
22 スリーブ
23 フロント出力軸(第2出力軸)
23a スプロケット部
24 チェーン
25 ケーシング
26、27、28、29 ベアリング
30 シール部材
31 断続装置
32 断続装置(第2断続装置)
33 シャフト
33a クラッチギヤ部
34 スリーブ
41 インナレース
42 アウタレース
43 転動体
44 保持器
44a ヒンジ部
45 羽部材
45a 突起部
51 潤滑油の油浴
52 潤滑油の流れ
53 保持部の回転方向
54 羽部材の起き上がり方向
55 油浴中の流れ
56 羽部材の倒れ込み方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの回転動力が入力されるとともに第1車輪に向けて回転動力を出力する第1出力軸と、
前記第1車輪とは異なる第2車輪に向けて回転動力を出力する第2出力軸と、
前記第1出力軸の回転動力を前記第2出力軸に伝達したり遮断したりすることが可能な断続装置と、
前記第1出力軸、前記第2出力軸、及び前記断続装置を収容するケーシングと、
前記ケーシングに対して前記第2出力軸を回転可能に軸受けするベアリングと、
を備え、
前記ベアリングは、前記ケーシングに固定されたアウタレースと、前記第2出力軸の固定されたインナレースと、前記アウタレースと前記インナレースとの間に配された複数の転動体と、前記アウタレースと前記インナレースとの間にて前記転動体を転動可能に保持する保持器と、前記保持器に揺動可能に取り付けられるとともに起き上がった状態から片側にのみ倒れこむことが可能な複数の羽部材と、を備え、
前記ケーシングは、前記ベアリングの回転方向から流体を前記羽部材に向けて流す流路を有することを特徴とする車両用トランスファ装置。
【請求項2】
前記羽部材は、先端部にて折れ曲がって突出した突起部を有することを特徴とする請求項1記載の車両用トランスファ装置。
【請求項3】
前記ベアリングの一部は、前記ケーシング内に溜まった流体中に浸されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用トランスファ装置。
【請求項4】
前記第2出力軸の回転動力を前記第2車輪に向けて伝達したり遮断したりすることが可能な第2断続装置を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の車両用トランスファ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−171554(P2012−171554A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37540(P2011−37540)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】