説明

車両用ハーネス導電路

【課題】パイプ内の放熱性を向上させつつも、低コスト化又は軽量化に寄与することが可能であり、更には、停車時においてもパイプ内の熱を効率的に放出することが可能な車両用ハーネス導電路を提供する。
【解決手段】機器間を所定の配索経路にて電気的に接続する車両用ハーネス導電路10において、少なくとも1本の電線13と、電線13を包囲する筒状のプロテクタ14と、を備え、プロテクタ14には、配索経路のうち最も高い位置に排気口15が形成されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータやバッテリなどの機器と機器とを電気的に接続する車両用ハーネス導電路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用の導電路として特許文献1に開示されたものがある。特許文献1の技術は、インバータやバッテリなどの機器と機器とを、電気的に接続する導電路であり、少なくとも1本の電線を包囲するための金属製のパイプからなるメインシールド部と、このメインシールド部よりも短く且つ変形可能なサブシールド部を備えて構成されるものである。
【0003】
ところで、特許文献1の技術は、パイプなどのプロテクタ内に電線を挿入した上で通電を行うと、熱が発生し、プロテクタ内に空気層が滞留するため、プロテクタを使用しない場合と比較して電線周囲の雰囲気温度が上昇する。また、このときに発生した熱がプロテクタ内で輻射することで、更に雰囲気温度の上昇を招く虞がある。
【0004】
この対策として、例えば、発熱における温度上昇を抑えるために導体の断面積を大きくする、又は絶縁体の耐熱グレードを上げることにより温度上昇に対応する方法がある。
【0005】
その他に、例えば、特許文献2の技術のように、電線と金属製のパイプとの間に樹脂を充填して樹脂層を形成するものがある。特許文献2の技術によれば、電線が発する熱を樹脂層を介して金属パイプを伝えて放出させることができるので、放熱特性を向上させることが可能である。
【0006】
更に、例えば、特許文献3の技術のように、金属製のパイプに、車両の車室内に連なって開口している吸気口と、車両の走行に伴って風が流れる空間に連なって開口している排気口とが設けられているものがある。特許文献3の技術によれば、車両の走行に伴って生じる風により排気口付近が負圧状態となることを利用して、吸気口を介してパイプ内に外気を取り込み、パイプ内に吸気口から排気口に向かう空気の流れを発生させることにより、パイプ内の熱をパイプ外に効率的に放出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3909763号公報
【特許文献2】特開2007−73413号公報
【特許文献3】特開2007−8423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発熱における温度上昇を抑えるために導体の断面積を大きくする、又は絶縁体の耐熱グレードを上げることにより温度上昇に対応する方法は、高コストであり、重量が重くなってしまうという問題があった。
【0009】
また、特許文献2の技術は、電線とパイプとの間に樹脂を充填するため、高コストであり、更には、樹脂の分だけ重量が重くなってしまうという問題があった。
【0010】
また、特許文献3の技術は、パイプに吸気口及び排気口を設けなければならないため、高コストであり、更には、パイプ内の熱の効率的な放出は走行時に限定され、走行後すぐの停車時の熱によりパイプ内の電線に悪影響を及ぼしてしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑み為されたものであり、パイプ内の放熱性を向上させつつも、低コスト化又は軽量化に寄与することが可能であり、更には、停車時においてもパイプ内の熱を効率的に放出することが可能な車両用ハーネス導電路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために創案された本発明は、機器間を所定の配索経路にて電気的に接続する車両用ハーネス導電路において、少なくとも1本の電線と、前記電線を包囲する筒状のプロテクタと、を備え、前記プロテクタには、前記配索経路のうち最も高い位置に排気口が形成される車両用ハーネス導電路である。
【0013】
前記プロテクタの内面には、外面よりも法線輻射率の高い塗装が施されると良い。
【0014】
前記プロテクタは、コの字状に形成されることで、前記配索経路のうち最も高い位置が形成されると良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、パイプ内の放熱性を向上させつつも、低コスト化又は軽量化に寄与することができ、更には、停車時においてもパイプ内の熱を効率的に放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車両用ハーネス導電路を機器間に配策した状態を示す概略側面図である。
【図2】図1の車両用ハーネス導電路を示す通気口部分の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0018】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係る車両用ハーネス導電路を機器間に配策した状態を示す概略側面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る車両用ハーネス導電路10は、例えば、電気自動車における走行用の動力装置を構成するインバータ11やバッテリ12(或いはインバータ11やモータなど)の機器間を所定の配索経路にて電気的に接続するものであり、少なくとも1本の電線13と、電線13を包囲する筒状のプロテクタ14とを備え、プロテクタ14には、配索経路のうち最も高い位置に排気口15が形成されることを特徴とする。
【0020】
電線13は、導体が金属製(例えば、アルミニウム合金や銅合金など)であり、1本の単芯線又は複数の素線を螺旋状に撚り合わせた撚り線からなる。電線13の両端部には、それぞれ端子が固着されており、この端子を機器であるインバータ11或いはバッテリ12に接続することで機器間を電気的に接続するようになっている。
【0021】
プロテクタ14は、例えば、電線13を包囲する円形断面を有する筒状のアルミニウムなどの金属パイプによって構成されている。アルミニウムなどの導電性の金属パイプを用いることで、プロテクタ14の熱伝導率を上げることができ、プロテクタ14を介した放熱が促進される。また、プロテクタ14は、飛び石等の外的干渉物から電線13を保護する機能を有する。さらに、プロテクタ14は、アルミニウムなどの金属パイプから構成されることにより、導体のみからなり、それ自体にシールド機能を有していない本実施の形態の電線13を電磁波から保護する機能も有する。
【0022】
また、図2に示すように、プロテクタ14の内面には、外面よりも法線輻射率の高い黒色又は黒の近似色の塗装16が施される。これにより、プロテクタ14の内面と外面との間で輻射率差が形成され、通電時に電線13から生じたプロテクタ14の内面の熱を、外部に効果的に輻射させることが可能となり、優れた放射性能を発揮する。なお、塗装16のための塗料には、プロテクタ14の熱伝導率を上げるため導電性のものを用いると良い。
【0023】
再び図1を参照し、プロテクタ14は、コの字状に形成されることで、配索経路のうち最も高い位置が形成され、この形成された配索経路のうち最も高い位置に、プロテクタ14内の空気層を除去するための排気口15が形成されている。
【0024】
配索経路のうち最も高い位置に排気口15が形成されていることにより、プロテクタ14の両端を通気口17となし、この通気口17と排気口15との高低差を利用して、図1の矢印に示すような通気口17から排気口15にかけて空気の流れを作り出すことができ、プロテクタ14内に滞留した高温の空気層を排気口15から排除することが可能となる。
【0025】
なお、プロテクタ14と電線13との間には、通気口17から排気口15への空気の流れを作り出すために、電線13が自由に動くことができる隙間を確保しておく必要がある。また、通気口17は空気を取り込むのに適した程度の隙間であり、望ましい範囲は、図2に示すように、電線13とプロテクタ14との距離Xが3mmから10mmである。
【0026】
このような構成の車両用ハーネス導電路10によれば、配索経路のうち最も高い位置に排気口15を形成する簡易で低コストな方法で、プロテクタ14の両端の通気口17から排気口15にかけて空気の流れを作り出すことができ、プロテクタ14内に滞留した空気層の排除が可能となる。
【0027】
また、車両用ハーネス導電路10によれば、特許文献1,2のように重量を重くすることなく、プロテクタ14内の放熱性を向上させることができる。
【0028】
更に、車両用ハーネス導電路10によれば、プロテクタ14の内面に、外面よりも法線輻射率の高い塗装16が施されていることにより、プロテクタ14の内面と外面とに輻射率差を与えることができ、プロテクタ14の内面から外面への放射性能を向上させることが可能となる。
【0029】
また、車両用ハーネス導電路10によれば、通気口17と排気口15との高低差を利用して、通気口17から排気口15にかけて空気の流れを作り出し、熱を上へ導くようにプロテクタ14を形成しているため、車両の停車時であっても空気の流れが生じ、プロテクタ14内に滞留した空気層の排除が可能となる。
【0030】
つまり、本発明によれば、パイプ(プロテクタ)内の放熱性を向上させつつも、低コスト化又は軽量化に寄与することが可能であり、更には、停車時においてもパイプ内の熱を効率的に放出することが可能な車両用ハーネス導電路を提供することができる。
【0031】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0032】
例えば、前記実施の形態では、プロテクタ14の形状をコの字に類似した形状に設定したが、プロテクタ14の両端部間の経路上に配索経路中の最高点を形成する形状であれば良い。
【0033】
また、前記実施の形態では、プロテクタ14に包囲される電線13の本数を1本としたが、電線13の本数は複数本であっても良く、例えば、三相交流を形成するために3本であっても良い。
【0034】
また、電線13は、導体の周囲に絶縁体からなるシース層を形成したものであっても良い。
【0035】
また、前記実施の形態では、塗装16のための塗料に、プロテクタ14の熱伝導率を上げるため導電性のものを使用したが、絶縁性の塗料であっても良い。
【0036】
また、前記実施の形態では、プロテクタ14を円形断面としたが、楕円形断面、長円形断面、角形断面などの形状にすることもできる。
【0037】
更に、前記実施の形態では、プロテクタ14を金属パイプにより構成したが、プロテクタ14の材質は金属に限らず、電線13を保護するプロテクト機能を備えていれば樹脂などの他の材質で構成しても良い。
【0038】
また、プロテクタ14の端部からインバータ11及びバッテリ12側に露出した電線13の外周を包囲するシールド部材が設けられていても良い。この場合、該シールド部材は、編組シールド等の可撓性を有するものであることが好ましい。
【符号の説明】
【0039】
10 車両用ハーネス導電路
11 インバータ
12 バッテリ
13 電線
14 プロテクタ
15 排気口
16 塗装
17 通気口
X 電線とプロテクタとの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器間を所定の配索経路にて電気的に接続する車両用ハーネス導電路において、
少なくとも1本の電線と、
前記電線を包囲する筒状のプロテクタと、
を備え、
前記プロテクタには、前記配索経路のうち最も高い位置に排気口が形成されることを特徴とする車両用ハーネス導電路。
【請求項2】
前記プロテクタの内面には、外面よりも法線輻射率の高い塗装が施される請求項1に記載の車両用ハーネス導電路。
【請求項3】
前記プロテクタは、コの字状に形成されることで、前記配索経路のうち最も高い位置が形成される請求項1又は2に記載の車両用ハーネス導電路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−111315(P2012−111315A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261042(P2010−261042)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】