説明

車両用バッテリーケース

【課題】金属材料を基材として剛性を確保しながら、電波吸収性能が高く、電磁波遮蔽効果が高い車両用バッテリーケースを提供することを目的とする。
【解決手段】基材11は、導電性を有する金属系シート材からなり、基材11の外面に耐チッピング塗膜12が被覆されている。一方、基材11の内面には、合成樹脂製塗料14に、導電性粉末又は導電性繊維15がPWC(顔料重量濃度)として、2〜25%、磁性粉末16が2〜25%含まれた混合材13が被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料で形成される車両用バッテリーケースであって、内面からのバッテリーの電磁波を減衰・吸収すると共に外表面を補強した車両用バッテリーケースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量のバッテリーが搭載され、当該バッテリーの電力で駆動される駆動モータを動力源の1つとするハイブリッド車や電気自動車が実用化されてきている。
【0003】
このような車両に装着するバッテリーを格納するバッテリーケースは、例えば、合成樹脂で構成するものが知られている。バッテリーケースに樹脂材料を使用することで、軽量化できるが、バッテリー内部からの電磁波が透過したり輻射したりして、電波障害を引き起こす不具合を有している。そのために、電磁波の遮蔽及び電磁波の反射をするための種々の材料および方法が示されている。例えば、特許文献1では、電磁波を反射するための金網を合成樹脂内に介挿させるようになっている。
【0004】
また、上記のような大容量のバッテリーケースとしては、バッテリーを支える剛性を確保するために、スチール材及びアルミニウム材等の金属材料で形成されたバッテリーケースが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−186390号公報
【特許文献2】特開2001−294048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気自動車やハイブリッド車のような車両では、大容量で重量のかさむバッテリーを必要とするために、このバッテリーを保持する高い剛性が要求される。それと共に、内面は、バッテリー本体との絶縁性能、内部から発生する電磁波を外部に出さない遮断性能、内部から発生する電磁波を内部に反射しない吸収性能が、一方、外面は、外部から内部に侵入する電磁波を遮断する遮断性能がそれぞれ求められる。その上、軽量化も強く要求されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すような合成樹脂で構成されたバッテリーケースでは、剛性が不十分で、大容量のバッテリーケースとしては強度不足が発生するという問題がある。それと共に、遮断性能や吸収性能が不十分である。
【0008】
それに対して、特許文献2に示すような、金属材料製のバッテリーケースは、合成樹脂製に比較して強度及び靭性の点では優れている。しかし、電磁波の遮蔽性能や吸収性能が不十分であり、向上させる点に問題を含んでいる。その上、バッテリーを車両下回りに搭載する場合には耐チッピング性等の外部からの衝撃に対する性能や防錆性能等を考慮することが望まれている。
【0009】
本発明は、金属材料を基材として剛性を確保しながら、電波吸収性能が高く、電磁波遮蔽効果が高い車両用バッテリーケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両用バッテリーケースは、金属製材料からなる基材とし、内面に電磁波を反射する物質と導電性物質とを含む樹脂材料を被覆して形成されることを特徴とする。
【0011】
具体的には、請求項1の発明の車両用バッテリーケースは、
そのバッテリーケースの基材が、導電性を有する金属系シート材からなり、
該基材の外面には、耐チッピング塗膜が被覆され、
該基材の内面には、合成樹脂製塗料に、PWC(顔料重量濃度)として、2〜25%の導電性粉末又は導電性繊維と2〜25%の磁性粉末とが含まれた混合材が被覆されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明では、
請求項1記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該導電性粉末又は該導電性繊維と該磁性粉末とは、1:0.8〜1.2の重量割合であることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明では、
請求項1又は2記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該混合材の厚さが、50μm〜500μmであることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明では、
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該磁性粉末がフェライトからなることを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明では、
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該導電性粉末が炭素粉末または炭素繊維からなることを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明では、
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該合成樹脂製塗料がポリ塩化ビニル系樹脂からなることを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明では、
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該基材が、メッキ鋼板、アルミニウム合金製板、ステンレス鋼板から選ばれた素材からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明の車両用バッテリーケースによれば、導電性粉末又は導電性繊維、及び磁性粉末を有する合成樹脂塗料を基材の内面に被覆することによって、電界及び磁界遮断性と高絶縁性を発揮できる。また、外面には耐チッピング塗膜を設けることで、耐チッピング性を確保できる。
【0019】
請求項2の発明によれば、導電性粉末又は導電性繊維と、磁性粉末とが、1:0.8〜1.2の重量割合であり、導電性と電磁波遮断性を同時にバランス良く有する。
【0020】
請求項3の発明によれば、混合材が、50μm〜500μmであり、電磁波遮断性と電波吸収性を効果的に発揮できる。
【0021】
請求項4の発明によれば、内部から発生する電磁波を外部に出さない遮断性能、内部から発生する電磁波を内部に反射しない吸収性能を強く発揮できる。
【0022】
請求項5の発明によれば、内部から発生する電磁波を外部に出さない遮断性能、内部から発生する電磁波を内部に反射しない吸収性能を更に強く発揮できる。
【0023】
請求項6の発明によれば、バッテリー本体との絶縁性能を有効に発揮できる。
【0024】
請求項7の発明によれば、基材が高い剛性を有すると共に、電磁波透過を低減する効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用バッテリーケースの概略断面図である。
【図2】図1の車両用バッテリーケースの部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施例と比較例との実験設備の概略図である。
【図4】本発明の実施例と比較例との電磁波遮断性を示す図である。
【図5】本発明の実施例1,2の導電率及び抵抗率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0027】
本実施形態に係るバッテリーケース10を図1及び図2に基づいて説明する。バッテリーケース10は、金属系シート材からなる基材11を備え、その外面側に耐チッピング塗膜12が設けられ、内面側には電磁波シールド性を有する混合材13が設けられている。
【0028】
基材11は、メッキ鋼板、アルミニウム合金製板、ステンレス鋼板等の導電性を有する金属材料が好ましい。特に、メッキ鋼板としては、防錆性能の観点からは、錫亜鉛メッキ鋼板、ニッケル亜鉛メッキ鋼板などの合金化メッキ鋼板が好ましい。ステンレス鋼板としては、材料価格と深絞りプレス品に好適なものとして、オーステナイト系よりもフェライト系が好ましい。アルミニウム合金は、剛性を確保する観点から6000系以上とすることが好ましい。
【0029】
耐チッピング塗膜12は、ポリ塩化ビニル系塗膜であり、塗布して形成されている。このポリ塩化ビニル系塗膜12は耐チッピング性能及び防錆性能にも優れる。
【0030】
一方、基材11の内面側の混合材13は、ポリ塩化ビニル系塗料やエポキシ系塗料等の合成樹脂製塗料14に、炭素粉末等の導電性粉末15とフェライト等の磁性粉末16とを含有するもので構成され、基材11の内面に塗布して形成されている。なお、図2において、耐チッピング塗膜12と混合材13は、説明のために、実際よりも厚くして図示した。また、混合材13中の導電性粉末15と磁性粉末16も、解り易くするために模式的に粉末を拡大して図示した。なお、本発明では、導電性粉末でも導電性繊維でも良く、或いはこれらの混合体でも良いので、導電性粉末又は導電性繊維と称して述べる。
【0031】
混合材13の導電性粉末又は導電性繊維15は、少なすぎると要求される導電性が得られず、多すぎると導通して遮断性が悪くなるので、2〜25%が好ましい。なお、本発明では、割合を重量%でなく、PWC(顔料重量濃度)で示した。平均粒子径は、薄膜を形成する上で5μm以下とすることが好ましい。
【0032】
磁性粉末16は、少なすぎると電磁波吸特性を発揮できず、多過ぎると皮膜密着性、加工性等の要求特性が悪くなるので、2〜25%が好ましい。平均粒子径は、薄膜を形成する上で5μm以下とすることが好ましい。
【0033】
導電性粉末又は導電性繊維15と磁性粉末16とは、電磁波遮断性と電磁波吸収性を両立させるためには、1:0.8〜1.2の重量割合であること、特に同等量にすることが好ましい。
【0034】
混合材13の膜厚は、薄いと要求される性能が得られず、厚いと加工性や密着性が悪くなると共に高コストになる。従って、混合材13の厚さは、50μm〜500μmが好ましく、特に200μm〜400μmが好ましい。
【0035】
樹脂製塗料14には、混合材13以外に可塑剤、付着付与樹脂、顔料(体質、着色他)、軽量骨材(バルーン材)添加剤、希釈溶剤を加えても良い。
【0036】
本実施形態では、金属製基材11の内面に導電性粉末又は導電性繊維15と磁性粉末16とを混在させたので、電磁波シールド性と電磁波吸収性とを両立させることができ、特に、内部で発生する電磁波を吸収して減衰すると共に電磁波のシールド性を高めることができる。
【0037】
その上、外面でも耐チッピング塗膜12を設けているので、耐チッピング性や防錆性能も十分有していると共に、内部に伝わる電磁波を低減できるので、車両用バッテリーケースとしての有用性に優れる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例及び比較例について、実験して比較した結果を説明する。
【0039】
(実施例1)
基材
錫亜鉛メッキ鋼板:SPC1SZ-30/30 縦:200mm 横:300mm 厚さ:0.6mm
外面塗料(耐チッピング塗膜)
ポリ塩化ビニル樹脂 膜厚:300μm
内面塗料(合成樹脂製塗料)
ポリ塩化ビニル樹脂 膜厚:300μm
磁性粉末:フェライト
圧縮密度:3.17g/cm、平均粒子径:1.13μm、比表面積:2.43m/g、残留磁束密度:1490G、保持力:2580Oe
導電性粉末:炭素粉末
メディアン径:39.0μ、充填密度:0.44g/ml、体積固有抵抗率:0.04Ω・cm
混合材
上記合成樹脂製塗料に、上記磁性粉末と導電性粉末とをPWC(顔料重量濃度)で2.5%ずつ混入した混合材を基材の内側に塗布した。その膜厚は300μmとした。
【0040】
また、外側にはポリ塩化ビニル樹脂の塗料を塗布して耐チッピング塗膜を形成した。膜厚は、300μmとした。
【0041】
(実施例2)
実施例1と異なる点は、上記磁性粉末と導電性粉末とを15%ずつ混入した混合材とした点である。その他は実施例1と同じである。
【0042】
(比較例1)
実施例1の基材に対し、外面にはポリ塩化ビニル樹脂の塗料を塗布し、内面側には何も塗布してない例である。
【0043】
(比較例2)
実施例1の基材に対し、外面にポリ塩化ビニル樹脂の塗料を塗布し、内面側に塗布する混合材は、ポリ塩化ビニル樹脂の塗料に上記磁性粉末を5%混入した混合材とした例である。
【0044】
(比較例3)
実施例1の基材に対し、外面にポリ塩化ビニル樹脂の塗料を塗布し、内面側の混合材は、ポリ塩化ビニル樹脂の塗料に上記導電性粉末を5%混入した混合材とした例である。
【0045】
(比較例4)
実施例1の基材に対し、外面にポリ塩化ビニル樹脂の塗料を塗布し、内面側の混合材は、ポリ塩化ビニル樹脂の塗料に上記磁性粉末を30%混入した混合材とした例である。
【0046】
(比較例5)
実施例1の基材に対し、外面にポリ塩化ビニル樹脂の塗料を塗布し、内面側の混合材は、ポリ塩化ビニル樹脂の塗料に上記導電性粉末を30%混入した混合材とした例である。
【0047】
実験方法
図3に示すように、実施例1及び2、比較例1〜5の各サンプル21をそれぞれ測定カバー22,23間に挟んだ状態で該測定カバー22,23を圧縮して閉じる。信号発生器24の信号を測定カバー22内のアンテナ25に送ってアンテナ25から発信させ、サンプル21の反対面に伝わった電磁波を、測定カバー23内の受信部26で受けて受信機27に送り、アナライザ28で測定結果を表示する。なお、上記測定装置及び測定方法はKEC法(関西電子工業振興センターの開発した電磁波シールド効果の測定方法)に準じて測定した。
【0048】
実験結果
実施例1及び2、比較例1〜5をそれぞれ5個ずつサンプルを作製して測定して、それぞれ平均値を出した。図4に示すように、実施例1及び2では、低周波領域から高周波領域まで、高い電磁波遮断性が得られた。また、周波数の増減に対して大きな変動はなく、安定した電磁波シールド性が得られた。
【0049】
特に、磁性粉末だけの場合や導電性粉末だけの場合で5%含む場合よりも、それぞれを2.5%で合わせて5%にしたもののほうが、電磁波シールド性が優れていることが判った。30%の場合でも、磁性粉末だけの場合や導電性粉末だけの場合で30%含む場合よりも、それぞれを15%で合わせて30%にしたもののほうが、電磁波シールド性が優れていることが判った。
【0050】
即ち、本発明では、磁性粉末と導電性粉末とをバランス良く含むので、電磁波シールド性が、比較例に対して優れる結果となった。特に磁性粉末や導電性粉末を単独で塗料に入れただけでは、いくら量を増やしても電磁波シールド性は良くならず、粉末のトータル量を同量とするのであれば、磁性粉末と導線性粉末とを半分ずつにした方が良い結果となった。このことは、磁性粉末と導線性粉末とが、相乗的に作用して良い結果を示していると予測される。
【0051】
また、比較例1では1MHz以上の周波数でのシールド性能に、また比較例2、4及び5では、3KHz以上の周波数でのシールド性能にそれぞればらつきがあり、安定性に欠ける。比較例3は、0.1〜0.4KHzの低周波領域での電磁波シールド性が悪い。
【0052】
また、図5に示すように、実施例1では、導電率が3.87E−16(即ち3.87−16)で、抵抗率は2.58E+15(即ち2.5815)であり、導電粉末を加えているが、電気絶縁性を有している。これは磁性粉末を一緒に入れているためだと思われる。それに対して、導電粉末だけを入れた場合には、導通性が出る結果となり、電気絶縁性は不十分であった。
【0053】
実施例2についても、上記と同様なことが言える結果であった。
【0054】
なお、上記実験では、導電性粉末の例だけで、導電性繊維については行っていないが、導電性繊維でも同様な導電結果が得られることは同様といえ、当該実験では省略している。また、導電性粉末や磁性粉末の割合としては、それぞれ2.5%、15%の数値結果としたが、下限及び上限の範囲としては、それぞれ2%、25%でも本発明の範囲として適用可能であり、本発明では、上記の範囲とした。
【0055】
更に、磁性粉末は上記実験で利用した程度の磁性を有しておればよく、磁性金属を充填または担持したCNT(カーボンナノチューブ)材に置き換えることでも同様な効果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、金属材料で形成される車両用バッテリーケースに適用できる。
【符号の説明】
【0057】
10 バッテリーケース
11 基材
12 耐チッピング塗膜
13 混合材
14 合成樹脂製塗料
15 導電性粉末
16 磁性粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材が、導電性を有する金属系シート材からなり、
該基材の外面には、耐チッピング塗膜が被覆され、
該基材の内面には、合成樹脂製塗料にPWC(顔料重量濃度)として、2〜25%の導電性粉末又は導電性繊維と2〜25%の磁性粉末とが含まれた混合材が被覆されていることを特徴とする車両用バッテリーケース。
【請求項2】
請求項1記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該導電性粉末又は該導電性繊維と該磁性粉末とは、1:0.8〜1.2の重量割合であることを特徴とする車両用バッテリーケース。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該混合材の厚さが、50μm〜500μmであることを特徴とする車両用バッテリーケース。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該磁性粉末がフェライトからなることを特徴とする車両用バッテリーケース。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該導電性粉末が炭素粉末または炭素繊維からなることを特徴とする車両用バッテリーケース。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該合成樹脂製塗料がポリ塩化ビニル系樹脂からなることを特徴とする車両用バッテリーケース。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両用バッテリーケースにおいて、
該基材が、メッキ鋼板、アルミニウム合金製板、ステンレス鋼板から選ばれた素材からなることを特徴とする車両用バッテリーケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−97883(P2013−97883A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236906(P2011−236906)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(590000721)株式会社キーレックス (20)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【Fターム(参考)】