説明

車両用フード構造

【課題】部品点数の増加無しに、フードの剛性を確保しつつ、衝突体の衝撃を緩和する。
【解決手段】 フード12の前部には、フードインナパネル18とロックリインフォースメント24によってフロント側ビード28が車幅方向に沿って形成されており、ロックリインフォースメント24の車体後方側取付部であるフランジ24Dが接合されたフードインナパネル18の後側取付部18Bが車体下方側へ膨らんだ膨出部18Bとなっている。また、フードインナパネル18に形成した膨出部18Bの後傾斜部18Eに車体上方に屈曲した段差部50が車幅方向に沿って形成されており、衝突体Sが、フード12におけるフードインナパネル18の膨出部18Bより車体後方近傍の一般部18Fの上方に衝突した場合には、一般部18Fとロックリインフォースメント24の上方の部位との間にある段差部50が局所変形するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用フード構造に関し、特に、自動車等の車両に適用される車両用フード構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両に適用される車両用フード構造においては、ロックリインフォースメントを配設したフードインナパネルの部位に、前斜板と天板と後斜板とで富士山形状に折曲げた補強板を取付けると共に、天板をスリットにより前天板と後天板とに分割し、これらの前天板、後天板に、それぞれの縁を補強する縁補強材を取付けることで、フードの剛性を確保しつつ、衝突体の衝撃を緩和する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ロックリインフォースメントの上方となるフードアウタパネルの裏面側の部位に補強板を貼り付けることで、衝突時における安全性を向上する構成が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−321714号公報
【特許文献2】特開2002−37129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の車両用フード構造では、補強板が必要になり部品点数の増加になる。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、部品点数の増加無しに、フードの剛性を確保しつつ、衝突体の衝撃を緩和できる車両用フード構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の車両用フード構造は、フードインナパネルの下面側に前記フードインナパネルと所定の間隔を開けて配設され、前記フードインナパネルとで閉断面構造を形成するロックリインフォースメントと、前記フードインナパネルに形成され、前記ロックリインフォースメントの車体後方側取付部が固定された後側取付部と、を有し、前記フードインナパネルの後側取付部が前記フードインナパネルの他の部位よりも車体下方側へ膨らんだ膨出部となっていると共に前記膨出部は前記フードインナパネルの他の部位よりも前記フードアウタパネルから離間しており、且つ前記フードインナパネルの膨出部に段差部が形成されたことを特徴とする。
【0006】
従って、フードインナパネルとロックリインフォースメントによって形成された閉断面構造によって、フードの剛性を確保できる。また、ロックリインフォースメントの車体後方側取付部が固定されたフードインナパネルの後側取付部がフードインナパネルの他の部位よりも車体下方側へ膨らんだ膨出部となっていると共に前記膨出部はフードインナパネルの他の部位よりもフードアウタパネルから離間しているため、ロックリインフォースメントの上方となるフードアウタパネルの部位に衝突体が衝突した場合には、フードアウタパネルがロックリインフォースメントと干渉せず車体下方側へ大きく変形する。この結果、衝突初期に過大な反力を発生することなくフードが変形し、衝突体の衝撃を緩和することができる。更に、別途補強板等を使用しないため、部品点数の増加無しに、フードの剛性を確保しつつ、衝突体の衝撃を緩和することができる。また、フードインナパネルの膨出部に形成した段差部によって、フードインナパネルの膨出部よりフード中央側となるフードアウタパネルの部位に衝突体が衝突した際に、フードアウタパネルとともにフードインナパネルの膨出部の段差部が局所変形する。この結果、衝突体が衝突したフードの部位が変形する際に、ロックリインフォースメントの影響を緩和できるため、衝突体の衝撃緩和性能が更に向上する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の本発明の車両用フード構造は、フードインナパネルの下面側にフードインナパネルと所定の間隔を開けて配設され、フードインナパネルとで閉断面構造を形成するロックリインフォースメントと、フードインナパネルに形成され、ロックリインフォースメントの車体後方側取付部が固定された後側取付部と、を有し、フードインナパネルの後側取付部がフードインナパネルの他の部位よりも車体下方側へ膨らんだ膨出部となっていると共に膨出部はフードインナパネルの他の部位よりもフードアウタパネルから離間しており、且つフードインナパネルの膨出部に段差部が形成されたため、部品点数の増加無しに、フードの剛性を確保しつつ、衝突体の衝撃を緩和することができるという優れた効果を有する。また、衝撃緩和性能が更に向上するという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に含まれない参考例としての車両用フード構造の第1実施形態を図1〜3に従って説明する。なお、本発明に含まれない2つの参考例(第1実施形態及び第2実施形態)を説明した後に、本発明の実施形態(第3実施形態及び第4実施形態)について説明する。
【0009】
なお、図中矢印UPは車体上方方向を示し、図中矢印FRは車体前方方向を示している。
【0010】
図2に示される如く、本実施形態では、自動車車体10のフード12における前端縁部の車幅方向中央部12Aに、周知のフードロック機構14が配設されている。
【0011】
図1に示される如く、フード12はフード12の車体外側面を構成するフードアウタパネル16と、フードアウタパネル16の内側(裏面側)に配設されたフードインナパネル18とで構成されている。
【0012】
フードインナパネル18には、前端部18Aから車体後方へ所定距離離れた位置に、車体下方側へ膨らんだ膨出部18Bが形成されている。膨出部18Bは車幅方向に沿って形成されている。膨出部18Bは、側面視において車体上方に開口したコ字状となっており、底部18Cの前方が前傾斜部18D、底部18Cの後方が後傾斜部18Eとなっている。
【0013】
フードロック機構14のストライカ本体20は、ベースプレート22を介してロックリインフォースメント24の下壁部24Aに固定されている。また、ロックリインフォースメント24の前端縁部24Bは、フードアウタパネル16の前端縁部16Aに接合されており、ロックリインフォースメント24の下壁部24Aの後方側には、車体後方上側に向かって延設された傾斜壁24Cが形成されている。傾斜壁24Cの後端縁部には、車体後方へ向かってフランジ24Dが形成されており、フランジ24Dがフードインナパネル18の膨出部18Bにおける底部18Cの下面に接合されている。
【0014】
即ち、ロックリインフォースメント24の開口部をフードインナパネル18が閉塞しており、ロックリインフォースメント24とフードインナパネル18とで車幅方向に延びる閉断面構造となったフロント側ビード28が形成されている。
【0015】
従って、フードインナパネル18の膨出部18Bは、ロックリインフォースメント24の後側取付部となっており、ロックリインフォースメント24のフランジ24Dは、車体上下方向においてフードアウタパネル16から大きく離間している(離間距離H3)。
【0016】
また、ロックリインフォースメント24の後側取付部となっている膨出部18Bの前傾斜部18Dには、車幅方向に所定幅とされた切起し30が車幅方向に所定の間隔で形成されており、切起し30の頂部30Aがフードアウタパネル16に接着剤32によって接着されている。
【0017】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0018】
本実施形態では、フードインナパネル18とロックリインフォースメント24によってフード12の前端部に形成されたフロント側ビード28により、フード12の剛性を確保できる。このため、図4に示される比較例のように、フード100の前端部に配設したロックリインフォースメント102の上部開口を閉塞する補強板104を別途使用する必要がない。
【0019】
また、本実施形態では、ロックリインフォースメント24の車体後方側取付部であるフランジ24Dが接合されたフードインナパネル18の後側取付部が車体下方側へ膨らんだ膨出部18Bとなっており、ロックリインフォースメント24のフランジ24Dは、車体上下方向においてフードアウタパネル16から大きく離間している(離間距離H3)ため、図1に示される如く、ロックリインフォースメント24の車体後方側取付け部の上方に衝突体が衝突した場合には、フードアウタパネル16と膨出部18Bの底部18Cとの隙間19によって、フードアウタパネル16が容易に変形し、衝突初期に過大な反力を発生することがない。
【0020】
このため、図3に示される如く、本実施形態における衝突体Sの形ストロークに対する加速度G1の変化は、図4の比較例における衝突体Sのストロークに対する加速度G2の変化に比べて、衝突初期の立ち上がりがなだらかになり、衝突体Sの衝撃を緩和することができる。
【0021】
従って、本実施形態では、部品点数の増加無しに、フードの剛性を確保しつつ、衝突体の衝撃を緩和することができる。
【0022】
また、本実施形態では、ロックリインフォースメント24の後側取付部となっている膨出部18Bの前傾斜部18Dに、車幅方向に所定幅とされた切起し30が形成されており、切起し30の頂部30Aがフードアウタパネル16に接着剤32によって固定されている。このため、フードインナパネル18とフードアウタパネル16との接合点を増やすことができ、フード12の張り剛性を向上できる。
【0023】
また、ロックリインフォースメント24の上方となるフードインナパネル18の前傾斜部18Dに穴、スリット、ビード、段差等を形成することにより、前傾斜部18Dの変形荷重をコントロールした構成としても良い。また、フードインナパネル18における膨出部18Bの底部18Cより前方側の部位を後方側の部位に比べて板厚の薄い別パネルとして両者を接合しても良く、または、素材結合(テイラードブランク)によって、フードインナパネル18における膨出部18Bの底部18Cより前方側の部位の板厚を後方側の部位の板厚に比べて薄くしても良い。
【0024】
次に、本発明に含まれない参考例としての車両用フード構造の第2実施形態を図5に従って説明する。
【0025】
なお、第1実施形態と同一部材に付いては、同一符号を付してその説明を省略する。
【0026】
図5に示される如く、本実施形態では、第1実施形態の構成において、ロックリインフォースメント24とフードインナパネル18とで形成されるフロント側ビード28を車体後方へ延設している。このため、フードロック機構14のストライカ本体20の前後方向中央部と、膨出部18Bとフランジ24Dとの溶接点Pと、の前後方向の距離Lが150mm以上に設定されており(L≧150mm)、フードインナパネル18とストライカ本体20との上下方向の最大距離H2に対して、距離Lが2倍以上になっている(L≧2H2)。
【0027】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0028】
本実施形態では、第1実施形態の作用効果に加えて、フードロック機構14のストライカ本体20の前後方向中央部と、膨出部18Bとフランジ24Dとの溶接点Pと、の前後方向の距離Lが150mm以上に設定しており(L≧150mm)、フードインナパネル18とストライカ本体20との上下方向の最大距離H2に対して、距離Lが2倍以上になっている(L≧2H2)。この結果、衝突体Sがストライカ本体20の上方に当接した場合には、ストライカ本体20を中心とした回転モーメント長Lが長くなる。このため、衝突体Sが衝突したフード12の部位が、溶接点Pを起点にして下方へ容易に回転する。よって、衝撃緩和性能が更に向上する。
【0029】
次に、本発明である車両用フード構造の第3実施形態を図6〜図8に従って説明する。
【0030】
なお、第1実施形態と同一部材に付いては、同一符号を付してその説明を省略する。
【0031】
図6に示される如く、本実施形態では、フードインナパネル18に形成した膨出部18Bの後傾斜部18Eに車体上方に屈曲した段差部50が車幅方向に沿って形成されている。
【0032】
従って、衝突体Sが、フード12におけるフードインナパネル18の膨出部18Bより車体後方近傍の一般部18Fの上方においてフードアウタパネル16に衝突した場合には、一般部18Fとロックリインフォースメント24の上方の部位との間にある段差部50が局所変形するようになっている。
【0033】
なお、図7に示される如く、本実施形態のフードインナパネル18は、所謂、2重構造タイプとなっており、フードインナパネル18の一般部18Fには、車体上方へ膨らんだ凸部18Gが車体前後方向に沿って形成されている。
【0034】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0035】
本実施形態では、第1実施形態の作用効果に加えて、フードインナパネル18に形成した膨出部18Bの後傾斜部18Eに車体上方に屈曲した段差部50が車幅方向に沿って形成されているため、衝突体Sが、フード12におけるフードインナパネル18の膨出部18Bより車体後方近傍の一般部18Fの上方においてフードアウタパネル16に衝突した場合には、フードインナパネル18の一般部18Fとロックリインフォースメント24の上方の部位との間にある段差部50が局所変形する。この結果、衝突体Sが衝突したフード12の部位が変形する際に、ロックリインフォースメント24の影響を緩和できる。
【0036】
なお、本実施形態では、図7に示される如く、フードインナパネル18を、所謂、2重構造タイプとしたが、図8に示される如く、フードインナパネル18を、車体前後方向に沿って複数の切欠52が形成され、隣接する切欠52の間にビーム54が形成された、所謂、ビームタイプとしても良い。
【0037】
次に、本発明である車両用フード構造の第4実施形態図9に従って説明する。
【0038】
なお、第1実施形態と同一部材に付いては、同一符号を付してその説明を省略する。
【0039】
本実施形態は、フード12のフードインナパネル18における後端部に車体下方に向かって膨らんだ膨出部18Lが形成されており、膨出部18Lとフードアウタパネル16の後端部によって車幅方向に延びるリヤ側ビーム60が形成されている。なお、リヤ側ビーム60は、カウルシールのためにフード12の後端縁部に設けられている。
【0040】
フードインナパネル18に形成した膨出部18Lの前傾斜部18Mには、車体上方に屈曲した段差部62が車幅方向に沿って形成されている。
【0041】
従って、衝突体Sが、フード12におけるリヤ側ビーム60より車体前方近傍の一般部18Nの上方においてフードアウタパネル16に衝突した場合には、一般部18Nとリヤ側ビーム60との間にある段差部62が局所変形するようになっている。
【0042】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0043】
本実施形態では、フードインナパネル18に形成した膨出部18Lの前傾斜部18Mに車体上方に屈曲した段差部62が車幅方向沿って形成されている。この結果、衝突体Sが、フード12におけるリヤ側ビーム60より車体前方近傍の一般部18Nの上方においてフードアウタパネル16に衝突した場合には、一般部18Nとリヤ側ビーム60との間にある段差部62が局所変形する。このため、衝突体Sが衝突したフード12の部位が変形する際に、リヤ側ビーム60の影響を緩和できる。
【0044】
従って、本実施形態では、部品点数の増加無しに、フード12の剛性を確保しつつ、車体が小さくフード12の位置が低い場合や、フード12の前後長が短い場合に、質量の軽い衝突体Sがフード12の後端部近傍に衝突した際の、衝突体Sの衝撃を緩和することができる。
【0045】
以上に於いては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に含まれない参考例としての第1実施形態に係る車両用フード構造を示す側断面図である。
【図2】本発明に含まれない参考例としての第1実施形態に係る車両用フード構造が適用された車体を示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図3】車両用フード構造における衝突体のストロークと加速度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明に含まれない参考例としての第1実施形態の比較例に係る車両用フード構造を示す図1に対応する断面図である。
【図5】本発明に含まれない参考例としての第2実施形態に係る車両用フード構造を示す図1に対応する断面図である。
【図6】本発明である第3実施形態に係る車両用フード構造を示す図1に対応する断面図である。
【図7】本発明である第3実施形態に係る車両用フード構造のフードインナパネルを示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図8】本発明である第3実施形態の変形例に係る車両用フード構造のフードインナパネルを示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図9】本発明である第4実施形態に係る車両用フード構造のフード後端部を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10 車体
12 フード
14 フードロック機構
16 フードアウタパネル
18 フードインナパネル
18B フードインナパネルの膨出部(ロックリインフォースメントの後側取付部)
18H フードインナパネルの凸部
18L フードインナパネルの膨出部
20 ストライカ本体(フードロックストライカ)
22 ベースプレート
24 ロックリインフォースメント
28 フロント側ビード(閉断面構造)
30 切起し
50 段差部
60 リヤ側ビーム
62 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードインナパネルの下面側に前記フードインナパネルと所定の間隔を開けて配設され、前記フードインナパネルとで閉断面構造を形成するロックリインフォースメントと、
前記フードインナパネルに形成され、前記ロックリインフォースメントの車体後方側取付部が固定された後側取付部と、
を有し、前記フードインナパネルの後側取付部が前記フードインナパネルの他の部位よりも車体下方側へ膨らんだ膨出部となっていると共に前記膨出部は前記フードインナパネルの他の部位よりも前記フードアウタパネルから離間しており、且つ前記フードインナパネルの膨出部に段差部が形成されたことを特徴とする車両用フード構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−247394(P2008−247394A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188315(P2008−188315)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【分割の表示】特願2003−308868(P2003−308868)の分割
【原出願日】平成15年9月1日(2003.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】