説明

車両用ブレーキ制御装置

【課題】エンジンの回転に関する情報を取得せずに簡単な構成で車輪速度センサが異常であるか否かを判定する。
【解決手段】後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定する異常判定手段21Aは、取得した車輪速度V,Vが、所与の速度より低い状態であるときの時間を計測する計時部26と、エンストを生じてから停車するまでの時間より長い基準時間が予め設定された記憶部21aと、計時部26により計測された時間が基準時間を超えているか否かを判定し、超えた場合に後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定する判定部28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のブレーキ液圧を電気的に制御して制動時の車輪ロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を行う車両用ブレーキ制御装置が知れられている。
【0003】
このような車両用ブレーキ制御装置によるアンチロックブレーキ制御は、各車輪に設けられた車輪速度センサの検出値に基づいて制御が行われるようになっている。したがって、制御にあたっては、車輪速度センサが正常に機能して各車輪速度が正しく検出されることが前提となっており、車輪速度センサが正常に機能しているか否かによってブレーキ制御の状況が異なったものとなる。このため、車両用ブレーキ制御装置では、車輪速度センサが正常であるか否かの判定を行い、車輪速度センサが正常ではないと判定された場合に、制御システム等に異常があると診断していた。
【0004】
ところで、車両の走行中にエンストを生じた場合に、車輪がロックして車輪速度センサから検出信号が出力されなくなることがある。このような場合には、車輪速度センサに不具合があって検出信号が出力されないのか、エンストによって検出信号が出力されないのかを判断をすることが難しい。
【0005】
そこで、従来は、エンジンが回転しているか停止しているかを検出して、エンストしているか否かを判断し、エンストしていると判断された場合には、車輪速度センサが機能しないようにして、制御システム等に異常があるものと誤判定しないようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−349059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の車両用ブレーキ制御装置では、エンジンの回転を検出して制御システムの異常を判断するようになっていたので、エンジンの回転を検出することができない仕様の自動二輪車等においては、適用することができないという問題があった。仮に、そのような自動二輪車等に前記従来の車両用ブレーキ制御装置を適用しようとすると、構成が複雑になるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、エンジンの回転に関する情報を取得せずに簡単な構成で車輪速度センサが異常であるか否かを判定することができる車両用ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために創案された本発明は、車両の前輪および後輪のそれぞれについて車輪速度センサの検出信号に基づいて車輪速度を取得し、取得した車輪速度に基づいて制動力を制御する車両用ブレーキ制御装置であって、前記車輪速度センサの異常を判定する異常判定手段を有し、前記異常判定手段は、取得した車輪速度が、前記車輪速度センサが異常であると判定する基準となる異常判定基準速度以下の状態であるときの時間を計測する計時手段と、前記車両が走行中にエンストを生じてから停止するまでの時間よりも長く設定された基準時間が予め記憶された記憶手段と、前記計時手段により計測された時間が前記基準時間を超えているか否かを判定し、超えた場合に前記車輪速度センサが異常であると判定する判定部と、を具備したことを特徴とする。
【0009】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、車輪速度センサにより取得した車輪速度が車輪速度センサが異常であると判定する基準となる異常判定基準速度以下の状態であるときに、その状態であるときの時間が異常判定手段の計時手段により計測される。そして、この計測された時間が、記憶手段に予め記憶された基準時間、つまり、車両が走行中にエンストを生じてから停止するまでの時間よりも長く設定された基準時間を超えているか否かが判定部により判定される。そして、計測された時間が基準時間を超えた場合、すなわち、車輪速度センサにより取得した車輪速度が異常判定基準速度以下である状態が、基準時間よりも長く続く場合には、判定部により車輪速度センサが異常であると判定される。
したがって、従来の車両用ブレーキ制御装置のように、エンジンの回転に関する情報を取得することなく簡単な構成で車輪速度センサが異常であることを判定することができる。これにより、エンストに伴うシステム等の誤診断を生じることがない。ここで、「基準時間」は、例えば車両の車種毎に予め記憶しておくことができる。
【0010】
また、前記車両の制動時における車輪ロックを抑制するブレーキ制御手段を備え、前記異常判定手段が前記車輪速度センサの異常を判定した場合に、前記ブレーキ制御手段による制御を禁止する禁止手段を具備した構成とするのがよい。
【0011】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、車輪速度センサの異常であると判定されたときにブレーキ制御手段による制御、例えば、アンチロックブレーキ制御等が禁止されるので、車輪速度センサが正常であるときにのみブレーキ制御を行なうことができ、適切な制動作動を確保することができる。
【0012】
また、前記車両の推定車体速度を計算する車体速度計算手段を備え、前記基準時間は、前記異常判定基準速度以下の速度領域では前記推定車体速度が高速になるのに応じて長い時間が対応付けられる構成とするのがよい。
【0013】
かかる車両用ブレーキ制御装置によれば、車両が走行中にエンストを生じてから停止するまでの時間は、異常判定基準速度以下の速度領域では推定車体速度が高速になるのに応じて長くなる傾向にあるので、基準時間をこれに対応付けて長い時間とすることにより、エンストであるのか車輪速度センサの異常であるのかを好適に区別することができるようになり、車輪速度センサの異常の有無をより確実に判定することができるようになる。
【0014】
また、異常判定手段は、取得した従動輪の車輪速度に応じて前記記憶手段に記憶された基準時間で、駆動輪の前記車輪速度センサの異常を判定する構成とするのがよい。
【0015】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、従動輪の車輪速度に応じて記憶手段に記憶された基準時間で、駆動輪の車輪速度センサの異常を判定するので、従動輪側で確実に検出される車輪速度に基づいて車輪速度センサの異常を判定することができる。また、基準時間が従動輪の車輪速度に応じたものとなっているので、例えば、車輪速度によらずに基準時間を一律に設定した場合に比べて、走行状態に応じた的確な基準時間で車輪速度センサの異常を判定することができる。
【0016】
また、取得した前記車両の車輪速度に基づいて走行路面の路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段を備え、前記異常判定手段は、推定された路面摩擦係数に応じて前記基準時間を変更し、この変更した基準時間に基づいて、前記車輪速度センサの異常を判定する構成とするのがよい。
【0017】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、車両が走行中にエンストを生じてから停止するまでの時間は、走行路面の路面摩擦係数が小さくなるのに応じて長時間となる傾向にあるため、基準時間を路面摩擦係数に応じて変更することによって、路面摩擦係数が小さい走行路面における判定精度を高めることができる。
【0018】
さらに、前記車両に設けられた変速機のギアポジションの位置情報を取得するギアポジション情報取得手段を備え、前記異常判定手段は、取得したギアポジションの位置情報に基づいて、前記基準時間を、ギアポジションの位置が低い側より高い側で長い時間となるように変更して、前記車輪速度センサの異常を判定するように構成するのがよい。
【0019】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、走行中にエンストを生じてから停止するまでの時間は、ギアポジションが高くなるのに応じて長くなる傾向にあるため、取得したギアポジションの情報に基づいて、ギアポジションの低い側より高い側で基準時間が長い時間となるように変更することによって、より的確に、車輪速度センサの異常を判定することができるようになる。また、ギアポジションに応じて的確に基準時間を変更することができるので、より一層判定に係る負荷を軽減することができ、判定時間の無駄を省くことができる。
【0020】
また、前記計時手段は、取得した車輪速度が前記異常判定基準速度以下のときに計時のためのカウント値をカウントアップし、前記異常判定基準速度を超えているときにカウント値をカウントダウンするカウンタを備えているとともに、前記記憶手段は基準時間として予め設定された基準カウント値を記憶しており、前記異常判定手段は、前記カウンタによるカウント値が前記記憶手段に記憶された基準カウント値に達したときに前記車輪速度センサに異常が有ると判定する構成とするのがよい。
【0021】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、取得した車輪速度が異常判定基準速度以下のときにカウンタのカウント値がカウントアップされ、異常判定基準速度以下を超えているときにカウンタのカウント値がカウントダウンされるようになっているので、車輪速度の変化に追従させてカウント値を増減させることができる。そして、異常判定手段は、カウント値が記憶手段に記憶された基準カウント値に達したときに車輪速度センサに異常が有ると判定するようになっているので、車輪速度の変化に追従させつつ、より一層的確に、車輪速度センサの異常を判定することができるようになる。
【0022】
また、前記異常判定手段は、計算された推定車体速度が、判定実行の要否基準となる判定要否基準速度以上である場合に前記車輪速度センサの異常を判定し、前記判定要否基準速度未満である場合に前記判定を実行しない構成とするのがよい。
【0023】
かかる車両用ブレーキ制御装置によると、例えば、推定車体速度等の車両の基準速度となる車両基準速度が、判定実行の要否基準となる判定要否基準速度以上である場合に車輪速度センサの異常が判定され、判定要否基準速度未満である場合に判定が実行されないので、例えば、エンストが起こり易い速度の低い状態においては、後輪用車輪速度センサの異常の有無の判定が積極的に行われなくなり、その分、判定に係る負荷を軽減することがでる。したがって、判定時間の無駄を省くことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る車両用ブレーキ制御装置によると、エンジンの回転に関する情報を取得せずに簡単な構成で車輪速度センサが異常であるか否かを判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、説明において、同一の要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。以下においては、車両用ブレーキ制御装置を自動二輪車に適用した例について説明する。
(第1実施形態)
参照する図面において、図1は本発明の第1実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置が適用される車両の模式図、図2は同じく車両用ブレーキ制御装置の主要構成を示すブロック図である。
【0026】
車両用ブレーキ制御装置1は、自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)などバーハンドルタイプの車両に好適に用いられるものであり、車両Aの前輪Fおよび後輪Rに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するとともに、後輪用車輪速度センサ31の異常を判定することのできる機能を備えている。なお、図示はしないが、車両Aは、例えば公知の自動二輪車のようにクラッチレバーによって手動でクラッチ操作をして、エンジンと後輪Rとに繋がる駆動系の動力伝達を調整することができる構造となっている。
【0027】
図1に示すように、車両用ブレーキ制御装置1は、車両Aの前輪Fおよび後輪Rに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するための油路や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、この液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを主に備えている。制御部20には、車両Aの従動輪側となる前輪Fおよび駆動輪側となる後輪Rの車輪速度、詳細には前輪Fおよび後輪Rの回転速度(ω,ω)を取得するための前輪用車輪速度センサ30と後輪用車輪速度センサ31とが接続されている。
【0028】
液圧ユニット10から出力されるブレーキ液圧は、配管を介して前輪Fおよび後輪Rに設けられたホイールシリンダH1,H2にそれぞれ供給されるようになっており、前輪Fおよび後輪Rに設けられた車輪ブレーキFB,RBにブレーキ液圧が付与されるようになっている。
また、制御部20は、例えば、図示しないCPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、前輪用車輪速度センサ30,後輪用車輪速度センサ31からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種演算処理を行うことによって、制御を実行する。また、ホイールシリンダH1,H2は、マスタシリンダM1,M2および車両用ブレーキ制御装置1により発生されたブレーキ液圧を前輪Fおよび後輪Rに設けられた車輪ブレーキFB,RBの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ制御装置1の液圧ユニット10に接続されている。
【0029】
前輪用車輪速度センサ30は前輪Fの車輪速度を検出するセンサであり、後輪用車輪速度センサ31は、後輪Rの車輪速度を検出するセンサである。前輪用車輪速度センサ30および後輪用車輪速度センサ31は、前記のように制御部20に接続されており、これにより制御部20が前輪Fおよび後輪Rの車輪速度を取得することが可能となっている。
【0030】
図2は実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の要部のブロック構成図である。図2に示すように、制御部20は、機能部として、後輪用車輪速度センサ31が異常であるか否かを判定する異常判定手段21Aと、アンチロックブレーキ制御等を行うブレーキ制御手段21Bとを備えている。
【0031】
異常判定手段21Aは、図3に示すように、車輪速度計算部22と、車輪加・減速度計算部23と、車体速度計算部(車体速度計算手段)24と、車体速度判定部25と、計時部(計時手段)26と、基準カウント値取得部27と、判定部(判定手段)28と、を備えている。
【0032】
車輪速度計算部22は、前輪用車輪速度センサ30および後輪用車輪速度センサ31の検出信号(回転速度)ω,ωを受けて、前輪Fの車輪速度Vおよび後輪Rの車輪速度Vを計算するものである。計算された車輪速度Vおよび車輪速度Vは、車輪加・減速度計算部23と、車体速度計算部24とに出力される。また、車輪速度Vは、計時部26にも出力される。
【0033】
車輪加・減速度計算部23は、車輪速度計算部22で得られた車輪速度Vおよび車輪速度Vを時間微分して、前輪Fの車輪加・減速度VSおよび後輪Rの車輪加・減速度VSを計算するものである。得られたこれらの車輪加・減速度VS,VSは、車体速度計算部24に出力される。
【0034】
車体速度計算部24は、車輪速度計算部22で得られた車輪速度Vおよび車輪速度Vを入力するとともに、車輪加・減速度計算部23で得られた車輪加・減速度VS,VSを入力して、前輪Fに基づく推定車体速度VAおよび後輪Rに基づく推定車体速度VAを計算するものである。得られた前輪Fに基づく推定車体速度VAおよび後輪Rに基づく推定車体速度VAは、車体速度判定部25に出力される。
なお、推定車体速度VAを車輪毎に計算せずに、車輪速度V,Vから一つの推定車体速度を算出する構成としてもよい。また例えば、加速度センサなどその他のセンサで取得される情報に基づいて走行路面に対する速度(対地速度)を取得し、これを推定車体速度の代わりとする構成としてもよい。その場合には、推定車体速度VAを計算する車体速度計算部24を、対地速度を取得する手段に適宜置き換えることで構成することができる。
【0035】
車体速度判定部25は、車両Aが停止状態(停車状態)であるか否かを判定する機能を有する。本実施形態では、車両Aが停止状態(停車状態)であるか否かを判定する目安として、車体速度計算部24で得られた推定車体速度VAおよび推定車体速度VAのうち、前輪Fに基づく推定車体速度VAが10km以上であるか否かを判定するようになっている。そして、この推定車体速度VAが10km以上であって走行中であると判定した場合に、その判定結果を計時部26に出力するとともに、推定車体速度VAを基準カウント値取得部27に出力する。また、前輪Fに基づく推定車体速度VAが10kmに達せず、車両Aが停止していると判定した場合には、その判定結果を判定部28に出力する。なお、この例では、前輪Fに基づく推定車体速度VAが10km以上であるか否かについて判定したが、推定車体速度VAおよび推定車体速度VAがともに10km以上であるか否かを判定するように構成してもよい。
【0036】
計時部26は、車体速度判定部25の判定結果(推定車体速度VAが10km以上ではない)を受けて、車輪速度計算部22で得られた後輪Rの車輪速度Vを入力し、後輪Rの車輪速度Vが、予め設定された異常判定基準速度SP2よりも低い状態であるときの時間を計測するようになっている。なお、異常判定基準速度SP2は、車輪速度センサ30,31の出力値から、当該センサ30,31の出力が異常であることを判定するための基準である。例えば、検出される回転速度(ω,ω)=0(ゼロ)や、車輪速度センサ30,31の脱落や接触不良、一部欠損などによる検出値の異常低下と判断することができる境界値(閾値)が適宜設定される。
そして、計時部26は、計時のための手段として、カウンタを備えている。このカウンタは、後輪Rの車輪速度Vが異常判定基準速度SP2以下のときに、カウント値CTを加算(カウントアップ)し、また、逆に後輪Rの車輪速度Vが異常判定基準速度SP2を超えているときに、カウント値CTを減算(カウントダウン)するようになっている。ここで、カウント値CTの加算は、後輪用車輪速度センサ31が異常であるとされる方向(後記する判定部28による判定)に近づくことであり、また、これとは逆に、カウント値CTの減算は、後輪用車輪速度センサ31が異常ではないとされる方向に近づくことである。カウントされたカウント値CTは、判定部28に出力される。なお、本実施形態では、カウント値CTの最小値は「0(ゼロ)」である。
【0037】
基準カウント値取得部27は、車体速度判定部25で推定車体速度VAが10km以上ではないと判定された場合に、車体速度判定部25から前輪Fに基づく推定車体速度VAを入力して、その推定車体速度VAに応じた後記する基準カウント値を記憶部(記憶手段)21aから取得する。記憶部21aには、車両Aが走行している状態からエンストを生じて停止するまでに要する時間よりも長く設定された基準時間が基準カウント値として記憶されている。本実施形態では、車両Aの仕様や想定される使用条件に応じて、制動時にエンストが発生し易くなる閾値速度SP3が別途設定されており、推定車体速度VAがこの閾値速度SP3(例えば、20km/h)以上であるときの基準カウント値D1と、閾値速度SP3(例えば、20km/h)未満であるときの基準カウント値D2とが予め設定されて記憶されている。ここで、基準カウント値D2は、基準カウント値D1よりも大きな値に設定されており、これにより、推定車体速度VAが20km/h未満であるときには、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定するための時間が長く設定されることとなる。
【0038】
ここで、基準カウント値D1,D2の取得に前輪Fに基づく推定車体速度VAを用いているのは、前輪Fが従動輪でありエンストによりロック状態となることがないからである。また、基準カウント値D1,D2が車輪速度Vに応じた推定車体速度VAに基づいているので、例えば、基準カウント値を一律に設定した場合に比べて、走行状態に応じて的確に後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定することができる。
好適には、基準カウント値D1として、通常のアンチロックブレーキ制御(ABS制御)の作動によって発生する最大の車輪ロック時間を経験的あるいは設計的に予め求め、これに適当な余分時間を加算した時間に対応したカウント値を設定する。つまり、比較的高速で車両Aが走行している場合、ブレーキ開始から比較的短時間でエンストに至る前にアンチロックブレーキ制御が作動することが多い場合を考慮して、通常であればアンチロックブレーキ制御が作動し、制動力が低減され車輪ロックが解除される時間を超えてなおロック状態に相当する車輪速度Vしか検出されない場合には、車輪速度センサ31が異常であると判定することができる。これによって、速やかなブレーキ制御が要求される走行条件下において不要に車輪速度センサ31の異常判定に要する時間が長くなるのを防いでいる。
【0039】
なお、前記例では、2種類の基準カウント値D1,D2を設定したが、これに限られることはなく、推定車体速度VAと、エンストを生じてから車両Aが停止するまでの基準時間と、の予め定められた関係を示す図示しないマップ、または関数に基づいて設定し、これを基準カウント値取得部27が取得するように構成することもできる。
【0040】
さらに、基準カウント値D2としては、前輪Fの車輪速度Vや推定車体速度VAが低速になるのに応じて小さい値が設定される構成、つまり、より短い時間が対応付けられる構成とすることができる。
かかる構成によると、エンストが発生し易い前記閾値速度SP3以下の速度領域において、エンスト時の車両Aの一般的な走行特性、つまり、車輪速度Vが低速になるのに応じて、エンストに至って後輪Rがロックして車両Aが停車するまでの所要時間が短くなる(逆説的に、高速であるほど所要時間が長くなる)特性を、基準カウント値D2に反映させることができる。車輪速度Vが低速になるのに応じて基準カウント値D2としてより小さい値が対応付けられることにより、後輪用車輪速度センサ31により取得した車輪速度Vが異常判定基準速度SP2よりも低くなる状態がエンストに伴う後輪Rのロックによって発生しているのか、後輪用車輪速度センサ31の異常であるのかの区別を、より好適に精度よく行うことができる。これにより、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無をより確実に判定することができる。
【0041】
判定部28は、計時部26によるカウント値CTと、基準カウント値取得部27で取得した基準カウント値D1または基準カウント値D2とを入力し、カウント値CTが基準カウント値D1または基準カウント値D2以上であるか否かを比較(判定)する。そして、判定部28は、カウント値CTが基準カウント値D1または基準カウント値D2以上であると認識したときに、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定するようなっている。すなわち、車両Aが停止状態ではないにもかかわらず、「0(ゼロ)」に近い車輪速度Vしか検出されない状態が、エンストに伴って後輪Rがロックして停車するのに要する時間(走行速度に応じて適当な時間)よりも長く続く場合には、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判断したことになる。そして、この判定部28による判定結果は、ブレーキ制御手段21B(図2参照)に出力される。
【0042】
ブレーキ制御手段21Bは、図2に示すように、液圧ユニット10を制御することでホイールシリンダH1,H2の制動力を独立あるいは連動して制御し、前輪F、後輪Rのロック傾向を解消するアンチロックブレーキ制御を行う制御機能を備えている。また、ブレーキ制御手段21Bは、アンチロックブレーキ制御を禁止する禁止部(禁止手段)21bを備えている。本実施形態では、前記した異常判定手段21A(図3参照)の判定部28によって、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定された場合に、禁止部21bによりアンチロックブレーキ制御が禁止されるようになっている。つまり、判定部28によって、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定されると、前輪Fおよび後輪Rがロック状態に陥りそうになってもアンチロックブレーキ制御が開始あるいは継続されることがない。なお、禁止部21bによるこのようなアンチロックブレーキ制御の禁止は、例えば、図示しないイグニッションスイッチがオフにされるまで継続されるように構成することもできる。
【0043】
以上のように構成された車両用ブレーキ制御装置1は、図示せぬイグニッションスイッチをオンにしたときに、制御プログラムが実行されるように設定されていて、アンチロックブレーキ制御が可能になるとともに、所定の条件を満足したときに後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定するようになっている。なお、アンチロックブレーキ制御については、公知の技術が適宜利用できるので、ここでの説明は省略する。
【0044】
図2、図3に示すブロック構成図と、図4に示す本実施形態における車輪速度センサ31の異常判定処理の流れについて説明するためのフローチャートとを参照して車両用ブレーキ制御装置1の動作をより詳細に説明する。本実施形態における異常処理判定の処理の流れとしては、まず、ステップS1に示すように、前輪用車輪速度センサ30および後輪用車輪速度センサ31から検出信号ω,ωが取得され、車輪速度計算部22により、これらの検出信号ω,ωに基づいて車輪速度V,Vが計算される(ステップS2)。そして、ステップS3に進み、車輪加・減速度計算部23により、車輪速度V,Vに基づいて前輪Fおよび後輪Rの車輪加・減速度VS,VSが計算される。そして、ステップS4に進み、車体速度計算部24により、車輪速度V,Vおよび車輪加・減速度VS,VSに基づいて推定車体速度VA,VAが計算される。
【0045】
続いて、ステップS5へ進み、車体速度判定部25により、推定車体速度VAが10km/hに達しているか否が判定される。ステップS5で推定車体速度VAが10km/h以上(Yes)であると判定されると、ステップS6に進んで、以下、後輪用車輪速度センサ31の異常判定が行われる。また、ステップS5で推定車体速度VAが10km/hに達していない(No)と判定されると、ステップS7に進んで計時部26のカウンタがクリアされる。つまり、後輪用車輪速度センサ31の異常判定が中止される。
【0046】
次に、ステップS6に示すように、計時部26により、後輪Rの車輪速度Vが予め設定された異常判定基準速度SP2以下であるか否かが判定され、異常判定基準速度SP2以下である(Yes)と判定された場合、すなわち、後輪用車輪速度センサ31の異常もしくは後輪Rのロックのいずれかの状態にあると判断された場合に、ステップS8に進み、カウント値CTが加算(+1)される。また、ステップS6で後輪Rの車輪速度Vが異常判定基準速度SP2よりも大きい(No)と判定された場合には、ステップS9に進み、カウント値CTが減算(−1)される。なお、カウント値CTが「0(ゼロ)」の場合、更なる減算はしない。
本実施形態では、例えば、異常判定基準速度SP2を5.0km/hに設定してあり、この異常判定基準速度SP2以下であるときに、カウント値CTが加算(+1)される。つまり、前記ステップS5で判定されたように、推定車体速度VAが10km以上であるにもかかわらず、後輪Rの車輪速度Vが5.0km/h以下であるという非常に遅い速度である場合に、後輪用車輪速度センサ31の異常と、エンストによる後輪Rのロック(または、それに類似する状態)による検出速度の低下とが誤認される可能性が高いとして、カウント値CTが加算(+1)されることとなる。
【0047】
次に、ステップS10に進み、基準カウント値取得部27により、前輪Fの推定車体速度VAが閾値速度SP3以上であるか否かが判定され、閾値速度SP3以上である(Yes)と判定された場合に、ステップS11に進んで基準カウント値D1が記憶部21aから取得される。その後、ステップS13に進み、カウント値CTが、取得された基準カウント値D1以上であるか否かが判定され、基準カウント値D1以上である(Yes)と判定された場合に、ステップS14に進んで、判定部28により後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定される。また、ステップS13でカウント値CTが基準カウント値D1未満である(No)と判定された場合には、ステップS1に戻り以下のステップが繰り返される。
【0048】
一方、ステップS10で基準カウント値取得部27により、前輪Fを基準とした推定車体速度VAが閾値速度SP3未満である(No)と判定された場合には、ステップS12に進み、基準カウント値D2が記憶部21aから取得される。そして、ステップS16に進んで、カウント値CTが、取得された基準カウント値D2以上であるか否かが判定され、基準カウント値D2以上である(Yes)と判定された場合に、ステップS14に進んで、判定部28により後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定される。また、ステップS16でカウント値CTが基準カウント値D2未満である(No)と判定された場合には、ステップS1に戻り以下のステップが繰り返される。ここで、基準カウント値D1および基準カウント値D2は、D1<D2の関係にあり、ステップS10で推定車体速度VAが閾値速度SP3未満である場合に、判定のためのカウント値が短く設定されるようになっている。
本実施形態では、例えば、閾値速度SP3を20.0km/hに設定してある。
【0049】
ステップS14で後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定されると、ステップS15に進んで、ブレーキ制御手段21Bの禁止部21bにより、アンチロックブレーキ制御が禁止される。つまり、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定されたときには、ブレーキ制御手段21Bによる制御が積極的に禁止される。
【0050】
次に、図5に示すタイムチャートを参照して、本実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置1の動作の一例について説明する。なお、適宜、各図を参照する。
図5に示すように、前輪Fを基準とした推定車体速度VAが10km以上(ステップS5:Yes)で、後輪Rの車輪速度Vが5km/h以下の状態(ステップS6:Yes)になる(時刻t1)と、計時部26のカウンタによりカウント値CTが加算(+1)され始める(ステップS8)。
その後、時刻t2において、後輪Rの車輪速度Vが5km/hを超える状態になると、カウント値CTが減算(−1)される方向に転じ、この状態は、車輪速度Vが5km/h以下の状態になる時刻t3まで継続される。
【0051】
その後、時刻t3から時刻t4までの間は、車輪速度Vが5km/h以下の状態であるので、カウント値CTが、加算(+1)されることとなり、また、時刻t4から時刻t5までの間は、再び後輪Rの車輪速度Vが5km/hを超える状態になるので、カウント値CTが減算(−1)されることとなる。
【0052】
時刻t5以降は、車輪速度Vが5km/h以下の状態であるので、カウント値CTの加算(+1)が継続される。
このようなカウント値CTの加算や減算を経る過程で、前輪Fの推定車体速度VAに基づいて、基準カウント値D1または基準カウント値D2が記憶部21aから取得される。
【0053】
ここで、判定のための時間が基準カウント値D1に設定された場合(ステップS10:Yes、前輪Fの推定車体速度VAが速度線VA−1で示すように、20km/h以上である場合)には、時刻t6においてカウント値CTが基準カウント値D1に達するので、この時点で、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定され(ステップS14)、アンチロックブレーキ制御が禁止される(ステップS15)。
【0054】
また、判定のための時間が基準カウント値D2に設定された場合(ステップS10:No、前輪Fを基準とした推定車体速度VAが速度線VA−2で示すように、20km/h未満である場合)には、時刻t7においてカウント値CTが基準カウント値D2に達するので、この時点で後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定され(ステップS14)、アンチロックブレーキ制御が禁止される(ステップS15)こととなる。すなわち、基準カウント値D2に設定された場合には、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定されるまでの時間が長くなる。
【0055】
ここで、計時部26によるカウント値CTが、取得した基準カウント値D2以上にならないうちに、車体速度判定部25によって推定車体速度VAが10km以上ではない(ステップS5:No、車両Aがほとんど動いていない、すなわち停車中である)と判定されると、カウント値CTがクリアされ(ステップS7)、後輪用車輪速度センサ31が異常であるとの判定は行われない。つまり、後輪用車輪速度センサ31からの検出信号が、車輪速度が小さいままの状態で検出されるのは、エンストにより後輪Rがほとんど動いていない(すなわち停車中である)と認識される。
【0056】
この状態を前輪Fの車輪速度Vと後輪Rの車輪速度Vとの時間変化に基づいて説明すると図6に示すグラフのようになる。なお、この例では、後輪Rが単独でアンチロックブレーキ制御される過程でクラッチが切断されなかったことにより後輪Rがエンストしてロックし、後輪用車輪速度センサ31からの検出信号が検出されなくなった場合を示している。なお、後輪Rがロックする時刻T1において、前輪Fの車輪速度Vは20km/h未満であり、カウント値が基準カウント値D2に設定されるものとする。
【0057】
図6に示すように、後輪Rが単独でアンチロックブレーキ制御されて減速されている状態で、時刻T1において、後輪Rがロックすると、基準カウント値D2が取得され、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定されるまでの時間が長く設定される。
【0058】
ここで、基準カウント値D2は、エンストを生じてから車両Aが停止するまでの時間よりも長い時間となるように設定されており、エンストによる後輪Rのロックが生じているのであれば、基準カウント値D2のカウント終了よりも先に車両Aが停止することとなる。一方、基準カウント値D2にカウント値CTが達してなお車両Aが停止していない場合には、後輪用車輪速度センサ31が異常であるとの判定を行うことができる。
【0059】
ちなみに、図6に示した例では、後輪Rのロックがエンストに起因して生じているので、基準カウント値D2のカウント終了時刻T3よりも前となる時刻T2において、前輪Fの車輪速度Vがゼロになる。これにより、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定されることはなく、後輪Rの車輪速度Vが検出されなかったことがエンストによるものであると認識される。
【0060】
以上説明した本実施形態の車両用ブレーキ制御装置1によれば、前記のように、後輪Rの車輪速度Vが異常判定基準速度SP2以下であるときに、その状態が計時部26によりカウントされ、そのカウント値CTが、エンストを生じてから車両Aが停止するまでの時間よりも長い時間に相当する基準カウント値D1,D2を超えた場合に、後輪用車輪速度センサ31が異常であると判定される。
したがって、従来の車両用ブレーキ制御装置のように、エンジンの回転に関する情報を取得することなく簡単な構成で後輪用車輪速度センサ31が異常であるか否かを判定することができる。つまり、従来の車両用ブレーキ制御装置では、エンジンの回転に関する情報を取得しなければエンストによる後輪のロックで車輪速度が検出されなくなったのか、後輪用車輪速度センサの異常により車輪速度が検出されなくなったのかを特定することができなかったが、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置1によれば、前記のように推定車体速度VAに応じた基準カウント値D1,D2を取得してカウント値CTと比較することにより、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を簡単に特定することができる。これにより、エンジン回転に関する情報を取得せずとも、エンストに伴うシステム等の誤診断を生じることがない。
【0061】
また、計時部26は、カウンタを備え、後輪Rの車輪速度Vが異常判定基準速度SP2以下であるときに、カウント値CTを加算(カウントアップ)し、また、逆に後輪Rの車輪速度Vが異常判定基準速度SP2を超えるときに、カウント値CTを減算(カウントダウン)するので、車輪速度Vの変化に追従させてカウント値CTを増減させることができ、より確実性の高い後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定することができる。
【0062】
なお、記憶部21aに設定された基準カウント値D2は、前輪Fの車輪速度Vあるいは推定車体速度VAが低速になるのに応じて小さい値が対応付けられる構成とすることができる。具体的には、例えば、車輪速度Vあるいは推定車体速度VAに段階的に異なる基準カウント値D2が対応付けられたマップ情報や、車輪速度Vあるいは推定車体速度VAの関数を予め記憶部21aに記憶させておいて、基準カウント値取得部27が参照あるいは関数を基に算出する構成とすることができる。このように構成することにより、走行速度が高速になるのに応じて判定に係る時間が長く設定されるようになり、車両Aの低速状態における後輪用車輪速度センサ31の異常の有無をより確実に判定することができるようになる。
また、異常判定に要する時間が適切な長さとなり、車両Aの走行速度に対応した速やかな判定を実現することができる。
【0063】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の動作を示すフローチャートである。本実施形態が前記第1実施形態と異なるところは、計算された推定車体速度VA(車両Aの基準速度となる車両基準速度)が判定実行の要否基準となる判定要否基準速度としての閾値速度SP1以上である場合に、異常判定手段21Aが後輪用車輪速度センサ31の異常の判定を実行し、閾値速度SP1未満の場合に異常判定をスキップする(判定を実行しない)ように構成されている点にあり、その他の点は、基本的に同じである。
【0064】
具体的には、図7に示すように、車体速度判定部25が車体速度計算部24で得られた推定車体速度VAおよび推定車体速度VAを受け、これらの値うち、ハイセレクト値が閾値速度SP1以上であるか否かを判定するように構成してある。そして、ハイセレクト値が閾値速度SP1以上であると判定した場合に、その判定結果を計時部26に出力するとともに、車体速度計算部24で得られた推定車体速度VAを基準カウント値取得部27に出力する。本実施形態では、閾値速度SP1を、エンストが起こり難い高速域とエンストが発生しやすい低速域との境界速度として、車両Aの仕様や想定される使用条件に応じて予め設定してある。これにより、推定車体速度VAが遅く、エンストが起こり易い状態では、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無の判定が行われなくなる。これにより、常に異常判定を行うように構成されたものに比べて異常判定にかかる負荷が軽減されることとなる。
【0065】
また、計時部26は、車体速度判定部25の判定結果(閾値速度SP1以上である)を受けて、車輪速度計算部22で得られた後輪Rの車輪速度Vを入力し、後輪Rの車輪速度Vが、予め設定された異常判定基準速度SP2よりも低い状態であるときの時間をカウンタにより計測するようになっている。
【0066】
さらに、基準カウント値取得部27は、車体速度判定部25で前記ハイセレクト値が閾値速度SP1以上であると判定された場合に、車体速度判定部25から推定車体速度VAを入力して、その推定車体速度VAに応じた後記する基準カウント値D1,D2を記憶部21aから取得する。
【0067】
第2実施形態の特徴的部分を図7に示すフローチャートにより説明すると、ステップS5’において、車体速度判定部25により、推定車体速度VA,VAの値うち、ハイセレクト値が閾値速度SP1以上であるか否が判定される。ステップS5’で車体速度判定部25がハイセレクト値を閾値速度SP1以上である(Yes)と判定すると、ステップS6に進んで、以下、後輪用車輪速度センサ31の異常判定が行われる。また、ステップS5で車体速度判定部25がハイセレクト値を閾値速度SP1未満である(No)と判定すると、ステップS7に進んで計時部26のカウンタがクリアされる。つまり、後輪用車輪速度センサ31の異常判定が中止される。
本実施形態では、例えば、閾値速度SP1を20.0km/hに設定してある。これは、閾値速度SP1が20.0km/h以上であれば、エンストが比較的起こり難いとされているためである。つまり、閾値速度SP1が20.0km/h未満で、エンストの比較的起こり易い速度であるときには、エンストにより後輪用車輪速度センサ31からの検出信号が出力されない、あるいは出力されても検出信号ωが低い値である可能性が高いので、この速度領域における後輪用車輪速度センサ31の異常の有無の判定を行わないようにしてある。このように、この速度領域における後輪用車輪速度センサ31の異常の有無の判定が行われなくなるので、その分、判定に係る車両用ブレーキ制御装置1の負荷が軽減されるようになる。したがって、判定時間の無駄を省くことができる。
【0068】
次に、本実施形態の特徴的部分を図8に示すタイムチャートを参照して説明する。
図8に示すように、前輪Fに基づく推定車体速度VA、後輪Rに基づく推定車体速度VAのうち、ハイセレクト値が20km/h以上(ステップS5’:Yes)であり、後輪Rの車輪速度Vが5km/h以下の状態(ステップS6:Yes)になる(時刻t1)と、計時部26のカウンタによりカウント値CTが加算(+1)される(ステップS8)。
【0069】
その後、前記実施形態で説明したものと同様に、後輪Rの車輪速度Vに追従して、カウント値CTが増減する。このような増減を繰り返すなかで、時刻t5’において、推定車体速度VA,VAのうち、ハイセレクト値が20km/h未満(ステップS5’:No)の状態になると、カウンタがクリアされ(ステップS7)、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無の判定が中止される。
【0070】
このことを図9のグラフを参照して説明すると次のようになる。図9は前輪Fの車輪速度Vと後輪Rの車輪速度Vとの時間変化を示すグラフであり、前記実施形態と同様に、後輪Rが単独でアンチロックブレーキ制御され、後輪Rがエンストによりロックして、後輪用車輪速度センサ31からの検出信号が検出されなくなった場合を示している。
図9に示すように、後輪Rが単独でアンチロックブレーキ制御されて減速されている状態で、時刻t5’において、推定車体速度VA,VAのハイセレクト値が20km/h未満になると、計時部26のカウンタがクリアされ、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無の判定が中止される。つまり、時刻T1でエンストにより後輪Rのロックが発生する前の段階で、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無の判定が中止されることとなる。なお、この判定が中止される状態は、図示しないタイマ等により、所定時間継続されるように構成することができる。
【0071】
このような車両用ブレーキ制御装置1によれば、推定車体速度VA,VAのハイセレクト値が20km/h以上である場合にのみ、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定するようになっているので、エンストが起こり易い速度の低い状態においては、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無の判定が積極的に行われなくなり、その分、判定に係る負荷を軽減することがでる。したがって、判定時間の無駄を省くことができる。
なお、本実施形態では、閾値速度SP1を第1実施形態の閾値速度SP3と同じ値に設定しているので、図7のステップS10の判定処理、ならびにステップS11,S13を省略する構成としてもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することが可能である。
例えば、異常判定手段21Aに、車輪速度V,Vに基づいて走行路面の路面摩擦係数を推定する公知の技術を用いて路面摩擦係数推定手段を設け、この推定された路面摩擦係数に応じて前記した基準カウント値D1,D2に変更を加え、この変更した基準カウント値D1,D2に基づいて、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定するように構成してもよい。一般的に、エンストを生じてから車両Aが停止するまでの時間は、走行路面の路面摩擦係数が小さくなるのに応じて長時間となる傾向にあるため、このように、基準カウント値D1,D2を、路面摩擦係数に基づいて変更することによって、路面摩擦係数が小さい走行路面における判定精度を高めることができる。
【0073】
また、この場合、推定された路面摩擦係数が所与の値を下回っているとき、すなわち、エンストから停車(車両Aが停止)に至るまでの時間が極端に長くなり、制御上不適当とされる場合には、異常判定手段21Aが後輪用車輪速度センサ31の異常の判定をスキップするように構成することもできる。このように構成することで、より一層判定に係る負荷を軽減することができるようになり、判定時間の無駄を省くことができる。
【0074】
さらに、車両Aに、変速機のギアポジションの情報を取得するギア位置センサ(ギアポジション情報取得手段)を設け、異常判定手段21Aが、この取得したギアポジション情報に基づいて、基準カウント値D2を変更するように構成するようにしてもよい。
このように構成することにより、変速機のギアポジションの情報を加味して後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定することができる。
【0075】
この場合、ギアポジションの低い側より高い側で基準カウント値D2のカウント数が大きくなる(長時間になる)ように構成してもよい。一般的に、エンストを生じてから車両Aが停止するまでの基準時間は、ギアポジションが高くなるのに応じて長くなる傾向にあるため、取得したギアポジションの情報に基づいて、ギアポジションの低い側より高い側で基準カウント値D2のカウント数が大きくなる(長時間になる)ように変更することによって、より的確に、後輪用車輪速度センサ31の異常の有無を判定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置が適用される車両の模式図である。
【図2】制御装置の主要構成を示すブロック図である。
【図3】異常判定手段の構成を示すブロック図である。
【図4】動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の動作の一例を示すタイムチャートである。
【図6】前輪および後輪における車輪速度の時間変化を説明するためのグラフである。
【図7】第2実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】第2実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の動作の一例を示すタイムチャートである。
【図9】前輪および後輪における車輪速度の時間変化を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1 車両用ブレーキ制御装置
10 液圧ユニット
20 制御部
21A 異常判定手段
21a 記憶部(記憶手段)
21B ブレーキ制御手段
21b 禁止部
22 車輪速度計算部
24 車体速度計算部(車体速度計算手段)
25 車体速度判定部
26 計時部(計時手段)
27 基準カウント値取得部
28 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪および後輪のそれぞれについて車輪速度センサの検出信号に基づいて車輪速度を取得し、取得した車輪速度に基づいて制動力を制御する車両用ブレーキ制御装置であって、
前記車輪速度センサの異常を判定する異常判定手段を有し、
前記異常判定手段は、
取得した車輪速度が、前記車輪速度センサが異常であると判定する基準となる異常判定基準速度以下の状態であるときの時間を計測する計時手段と、
前記車両が走行中にエンストを生じてから停止するまでの時間よりも長く設定された基準時間が予め記憶された記憶手段と、
前記計時手段により計測された時間が前記基準時間を超えているか否かを判定し、超えた場合に前記車輪速度センサが異常であると判定する判定部と、
を具備したことを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記車両の制動時における車輪ロックを抑制するブレーキ制御手段を備え、
前記異常判定手段が前記車輪速度センサの異常を判定した場合に、前記ブレーキ制御手段による制御を禁止する禁止手段を具備したことを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記車両の推定車体速度を計算する車体速度計算手段を備え、
前記基準時間は、前記異常判定基準速度以下の速度領域では前記推定車体速度が高速になるのに応じて長い時間が対応付けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記異常判定手段は、取得した従動輪の車輪速度に応じて前記記憶手段に記憶された基準時間で、駆動輪の前記車輪速度センサの異常を判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項5】
取得した前記車両の車輪速度に基づいて走行路面の路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段を備え、
前記異常判定手段は、推定された路面摩擦係数に応じて前記基準時間を変更し、この変更した基準時間に基づいて、前記車輪速度センサの異常を判定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記車両に設けられた変速機のギアポジションの位置情報を取得するギアポジション情報取得手段を備え、
前記異常判定手段は、取得したギアポジションの位置情報に基づいて、前記基準時間を、ギアポジションの位置が低い側より高い側で長い時間となるように変更して、前記車輪速度センサの異常を判定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記計時手段は、取得した車輪速度が前記異常判定基準速度以下のときに計時のためのカウント値をカウントアップし、前記異常判定基準速度を超えているときにカウント値をカウントダウンするカウンタを備えているとともに、前記記憶手段は基準時間として予め設定された基準カウント値を記憶しており、
前記異常判定手段は、前記カウンタによるカウント値が前記記憶手段に記憶された基準カウント値に達したときに前記車輪速度センサに異常が有ると判定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記車両の推定車体速度を計算する車体速度計算手段を備え、
前記異常判定手段は、計算された推定車体速度が、判定実行の要否基準となる判定要否基準速度以上である場合に前記車輪速度センサの異常を判定し、前記判定要否基準速度未満である場合に前記判定を実行しないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項9】
前記異常判定手段は、計算された推定車体速度が、判定実行の要否基準となる判定要否基準速度以上である場合に前記車輪速度センサの異常を判定し、前記判定要否基準速度未満である場合に前記判定を実行しないことを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−261366(P2007−261366A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87558(P2006−87558)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】