説明

車両用ブレーキ制御装置

【課題】 車両が加減速の頻度が高くなる走行状態であるときに、減速後における揺り戻し挙動を抑制する車両用ブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】 電子制御ユニット34は、スポーツモードスイッチ33がスポーツモードに切り替えられており、前後加速度センサ31によって検出された減速度Gが予め設定された所定減速度Go以上であるとき、ブレーキ液圧制御部20の作動を制御する。具体的に、ユニット34は、マスタシリンダ液圧センサ32によって検出されたマスタシリンダ液圧Pmの液圧変化量ΔPmが所定の短い時間間隔で負の値であるときに、ブレーキユニット11〜14におけるブレーキ液圧が予め設定された減圧量ΔPにより減圧するように目標ブレーキ液圧Ptを設定する。そして、ユニット34は、駆動回路35を介して、ブレーキ液圧制御部20の作動を制御し、ブレーキユニット11〜14におけるブレーキ液圧を緩やかに減圧させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用ブレーキ制御装置に関し、特に、車両の制動時における挙動変化を抑制する車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示す車両用ブレーキ装置は知られている。この車両用ブレーキ装置は、車両停止時において発生するピッチング挙動の反動である揺り戻し挙動を抑制するために、運転者がブレーキペダル緩めた(戻した)ときに制動力配分比率を後輪配分寄りにするようになっている。具体的に、この車両用ブレーキ装置においては、車両停止時にブレーキペダルが緩められた場合には、前輪側のブレーキ液圧を速やかに低下させて前輪が発生する制動力を減少させる一方で、後輪側のブレーキ液圧が前輪側のブレーキ液圧よりも大きくなるようにすることによって後輪が発生する制動力を大きくするようになっている。これにより、車両停止時において、車両後方を沈み込ませ、ピッチ角を抑制し、その反動である揺り戻しを低減するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−70875号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、車両走行中において、ブレーキペダルが操作されて制動力が付与されると、減速によりピッチング挙動が発生し、このピッチング挙動が発生しているときにブレーキペダルが戻し操作されて制動力の付与がなくなると、車両走行中であるために、車両停止時に比して大きな反動すなわち大きな揺り戻し挙動が発生する。特に、運転者が加減速の頻度が高くなるスポーツ走行している状況において、例えば、急減速後に雑な(素早く)ブレーキペダルの戻し操作を行うと、車両前後方向における荷重移動が大きくなってより大きな揺り戻し挙動が発生する可能性があり、その結果、車両の走行挙動が乱れたり、乗員に対して不快なショックを与える場合がある。
【0005】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両が加減速の頻度が高くなる走行状態であるときに、減速後における揺り戻し挙動を抑制する車両用ブレーキ制御装置を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両各輪に制動力を付与するためのブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生手段と、車両各輪位置に配置された各ホイールシリンダに対して前記ブレーキ液圧発生手段から供給されるブレーキ液圧を調整するブレーキ液圧調整手段と、前記ブレーキ液圧調整手段の作動を制御する制御手段とを備えた車両用ブレーキ制御装置において、前記ブレーキ液圧発生手段によるブレーキ液圧を検出する液圧検出手段と、運転者によって操作されて車両の運転モードを切り替える運転モード切替手段と、前記運転モード切替手段によって車両の加速および減速の頻度が増加する運転モードに切り替えられて車両が走行しており、かつ、前記液圧検出手段によって検出されたブレーキ液圧が増加から減少に転じたとき、前記各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を予め設定された減少量によって減少させる目標ブレーキ液圧を設定する目標ブレーキ液圧設定手段とを備え、前記制御手段が、前記目標ブレーキ液圧設定手段によって設定された目標ブレーキ液圧に従って前記ブレーキ液圧調整手段の作動を制御することにある。
【0007】
この場合、前記目標ブレーキ液圧設定手段は、例えば、前記液圧検出手段によって検出されたブレーキ液圧の変化量が所定の短い時間間隔により増加から減少に転じたときに前記目標ブレーキ液圧を設定するとよい。
【0008】
また、この場合、前記ブレーキ液圧発生手段によるブレーキ液圧の増加に伴って車両の前後方向に発生する減速度を検出する減速度検出手段を備え、前記目標ブレーキ液圧設定手段は、さらに、前記減速度検出手段によって検出された減速度の大きさが予め設定された所定の減速度以上であるときに、前記目標ブレーキ液圧を設定するとよい。
【0009】
さらに、この場合、前記ブレーキ液圧調整手段は、例えば、前記各ホイールシリンダから前記ブレーキ液圧発生手段に向けて流れるブレーキ液の流量を変更する流量変更手段を有しており、前記制御手段は、前記目標ブレーキ液圧設定手段によって設定された目標ブレーキ液圧に従って、前記流量変更手段におけるブレーキ液の流量を変更するとよい。
【0010】
これらによれば、運転者が運転モード切替手段を操作して車両の加速および減速の頻度が増加する運転モードすなわちスポーツモードを設定して走行しており、液圧発生手段によるブレーキ液圧が増加から減少に転じる状況、さらには、車両の減速度が所定の減速度よりも大きい状況では、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を予め設定された減少量によって緩やかに減少させることができる。したがって、ブレーキ液圧発生手段によるブレーキ液圧が急激に増加から減少に転じる場合、すなわち、運転者がブレーキペダルを雑に(素早く)戻し操作した場合であっても、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が急激に減少することがなく、その結果、車両各輪に付与される制動力を緩やかに減少させることができる。
【0011】
これにより、車両走行時における車両前後方向への荷重移動を抑制して揺り戻し挙動を効果的に抑制することができ、車両の走行挙動に対して揺り戻し挙動の発生が及ぼす影響を小さくすることができる。したがって、車両を安定させて走行させることができるとともに、乗員に対する不快なショックを和らげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1のブレーキ液圧制御部の構成を示す概略図である。
【図3】車両走行時に発生する揺り戻し挙動を説明するための図である。
【図4】図1の電子制御ユニットによって実行される揺り戻し抑制制御プログラムのフローチャートである。
【図5】図4の揺り戻し抑制制御プログラムを実行することによる揺り戻し挙動の抑制を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置Sのシステム構成を概略的に示している。
【0014】
車両用ブレーキ制御装置Sは、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の回転に対して制動力を付与するブレーキユニット11,12,13,14を備えている。ブレーキユニット11〜14は、それぞれ、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2と一体的に回転するブレーキディスクと、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrrを備えたキャリパとで構成されるディスクブレーキユニットである。なお、ディスクブレーキユニットの構造および作動については、従来から広く知られている構造および作動と同一である。このため、ディスクブレーキユニットの詳細な構造および作動に関する説明は省略する。
【0015】
そして、車両用ブレーキ制御装置Sは、ブレーキユニット11〜14(より詳しくは、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrr)に供給するブレーキ液圧を制御するためのブレーキ液圧制御部20を備えている。ブレーキ液圧制御部20は、図2に概略的な構成を示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部21と、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrrに供給されるブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24、RRブレーキ液圧調整部25とを備えている。
【0016】
ブレーキ液圧発生部21は、ブレーキペダルBPの操作に応じて作動するバキュームブースタVBと、このバキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示しないエンジンの吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し、助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。マスタシリンダMCは、第1ポートおよび第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧を第1ポートから発生するようになっている。また、マスタシリンダMCは、第1マスタシリンダ液圧と略同一の液圧である第2マスタシリンダ液圧を第2ポートから発生するようになっている。
【0017】
ここで、マスタシリンダMCの第1ポートは、FRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部のそれぞれと接続されており、FRブレーキ液圧調整部22およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部には第1マスタシリンダ液圧がそれぞれ供給されるようになっている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートは、FLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部のそれぞれと接続されており、FLブレーキ液圧調整部23およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部には第2マスタシリンダ液圧がそれぞれ供給されるようになっている。
【0018】
FRブレーキ液圧調整部22は、2ポート2位置切替型の常開電磁流量制御弁である流量変更手段としてのリニア制御弁PLfrと、2ポート2位置切替型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切替型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。リニア制御弁PLfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)と増圧弁PUfrとの間で流量を変更することなく連通してブレーキ液の流れを許容し、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、増圧弁PUfr側からFRブレーキ液圧調整部22の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)へのブレーキ液の流れのみを許容し、かつ、ブレーキ液の流量を変更して調整する。
【0019】
増圧弁PUfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部とホイールシリンダWfrとを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断するようになっている。減圧弁PDfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、ホイールシリンダWfrとリザーバRS1との連通を遮断するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、ホイールシリンダWfrとリザーバRS1とを連通するようになっている。
【0020】
これにより、リニア制御弁PLfr、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrが全て図2に示す第1の位置にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)のブレーキ液がホイールシリンダWfr内に供給されることにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は増圧されるようになっている。また、例えば、リニア制御弁PLfrおよび減圧弁PDfrがともに第1の位置にあり、かつ、増圧弁PUfrが第2の位置にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)のブレーキ液圧の増圧にかかわらずホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は保持されるようになっている。また、例えば、リニア制御弁PLfrが第1の位置にあり、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrがともに第2の位置にあるとき、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRS1に還流されることにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は速やかに減圧されるようになっている。
【0021】
また、増圧弁PUfrには、チェック弁CV1が配設されている。チェック弁CV1は、ブレーキ液がホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部22への一方向のみに流通することを許容するようになっている。これにより、例えば、リニア制御弁PLfrおよび増圧弁PUfrが第2の位置にあり、減圧弁PDfrが第1の位置にあるとき、FRブレーキ液圧調整部22の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)のブレーキ液圧の減圧、言い換えれば、運転者によるブレーキペダルBPの戻し操作に伴い、リニア制御弁PLfrによってブレーキ液の流量が調整されてホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は緩やかに減圧されるようになっている。
【0022】
同様に、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部は、それぞれ、リニア制御弁PLfl、増圧弁PUflおよび減圧弁PDfl、リニア制御弁PLrl、増圧弁PUrlおよび減圧弁PDrl、リニア制御弁PLrr、増圧弁PUrrおよび減圧弁PDrrから構成されており、これらの各リニア制御弁、各増圧弁および各減圧弁の位置が上記のように制御されることにより、ホイールシリンダWfl、ホイールシリンダWrlおよびホイールシリンダWrrのブレーキ液圧はそれぞれ増圧、保持または減圧されるようになっている。また、増圧弁PUrl、PDrl、PDrrのそれぞれにも上記チェック弁CV1と同様の機能を有するチェック弁CV2、CV3、CV4がそれぞれ増圧弁に並列に配設されている。
【0023】
なお、ブレーキ液圧制御部20は、本発明に直接関係しないが、還流ブレーキ液供給部26を備えている。還流ブレーキ液供給部26は、直流モータMTとこのモータMTによって同時に駆動される2つの液圧ポンプHP1、HP2とを備えている。液圧ポンプHP1は、減圧弁PDfr、PDrlからそれぞれ還流されてきたリザーバRS1内のブレーキ液を汲み上げ、この汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV5、CV6を介してFRブレーキ液圧調整部22の上流部およびRLブレーキ液圧調整部24の上流部にそれぞれ供給するようになっている。同様に、液圧ポンプHP2は、減圧弁PDfl、PDrrからそれぞれ還流されてきたリザーバRS2内のブレーキ液を汲み上げ、この汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV7、CV8を介してFLブレーキ液圧調整部23の上流部およびRRブレーキ液圧調整部25の上流部にそれぞれ供給するようになっている。
【0024】
このように構成したブレーキ液圧制御部20によれば、それぞれの電磁弁の位置を切り替えることにより、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧をそれぞれ独立して制御できるようになっている。これにより、ブレーキ液圧制御部20は、例えば、周知の走行挙動安定化制御に従って、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧をそれぞれ所定量だけ減圧、保持または増圧できるようにもなっている。
【0025】
また、車両用ブレーキ制御装置Sは、後述するプログラムを実行することにより、ブレーキ液圧制御部20の作動、より詳しくは、FRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25のそれぞれの電磁弁を切替制御するための電気制御装置30を備えている。
【0026】
電気制御装置30は、図1に示すように、減速度検出手段としての前後加速度センサ31と、液圧検出手段としてのマスタシリンダ液圧センサ32と、運転モード切替手段としてのスポーツモードスイッチ33とを備えている。前後加速度センサ31は、車体に組み付けられて、車両の前後方向における加速度G(減速度G)を検出し、この検出した加速度G(減速度G)を表す信号を出力する。なお、前後加速度センサ31は、車両前方に向けて加速しているときに加速度Gを正の値(減速度Gを負の値)として検出し、車両後方に向けて加速すなわち減速しているときに加速度Gを負の値(減速度Gを正の値)として検出する。
【0027】
マスタシリンダ液圧センサ32は、図2に具体的に示すように、ブレーキ液圧制御部20のマスタシリンダMCに組み付けられて、運転者によるブレーキペダルBPの操作力に応じてマスタシリンダMCが発生したマスタシリンダ液圧Pmを表す信号を出力する。ここで、上述したように、マスタシリンダMCが発生する第1マスタシリンダ液圧および第2マスタシリンダ液圧は略同一であるため、マスタシリンダ液圧センサ32は、例えば、第1ポートおよび第2ポートのうちの少なくとも一方の近傍に組み付けられていてもよい。
【0028】
スポーツモードスイッチ33は、運転席近傍に配置されており、運転モードとしてノーマルモードとスポーツモードとを切り替えるスイッチである。ここで、運転者がスポーツモードスイッチ33を切替操作して運転モードをノーマルモードからスポーツモードに切り替えることにより、車両の変速特性やサスペンション特性が変更され、車両の運動特性が通常時のノーマルモードよりもスポーティになる。そして、スポーツモードスイッチ33は、運転者によってスポーツモードに切り替えられると、スポーツモードに設定されたことを表す設定信号Hを出力する。
【0029】
これらの前後加速度センサ31、マスタシリンダ液圧センサ32およびスポーツモードスイッチ33は、図1に示すように、電子制御ユニット34に接続されている。電子制御ユニット34は、CPU、ROM、RAMなどを主要構成部品とするものであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行することにより、ブレーキ液圧制御部20(より具体的には、FRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25)の作動を制御する。このため、電子制御ユニット34の出力側には、上述したブレーキ液圧制御部20の切替作動を制御するための駆動回路35が接続されている。
【0030】
次に、上記のように構成した車両用ブレーキ制御装置Sの作動を説明する。一般的に、車両走行時において、図3に示すように、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作して各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を増圧させて車両を減速するときには、ブレーキユニット11〜14による制動力付与に伴う減速度Gの大きさに応じた車両前方への荷重移動が発生し、車両(車体)前方側が沈み込むピッチ挙動が生じる。この場合、ピッチ挙動に伴う車両(車体)のピッチ量は、図3に示すように、マスタシリンダ液圧Pmの増圧すなわち各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧の増圧に伴って大きくなる。そして、車両を減速させた後に運転者がブレーキペダルBPを戻し操作してマスタシリンダ液圧Pmを減圧させると、すなわち、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を減圧させると、車両後方への荷重移動が発生し車両(車体)前方側の沈み込みが解消されるもののその反動によって車両(車体)に周期的な前後方向における振動、所謂、揺り戻し挙動が発生する。
【0031】
ここで、このように発生する揺り戻し挙動は、車両の走行挙動に対して影響を及ぼす可能性がある。例えば、車両を走行させているとき、進行方向前方にカーブが存在すると、運転者はカーブ開始手前でブレーキペダルBPの踏み込んで減速してカーブに進入し、カーブ終了手前までにブレーキペダルBPを戻すとともに加速してカーブから脱出する。このため、車両がカーブを通過するときには、減速に伴って車両(車体)にピッチ挙動が発生し、ブレーキペダルBPの戻し操作により車両(車体)に揺り戻し挙動が発生する。そして、このように発生した揺り戻し挙動は、車両の旋回姿勢を変化させるため、カーブ走行時における車両の走行挙動に影響を及ぼすとともに乗員に対して不快なショックを与える可能性がある。
【0032】
このように、揺り戻し挙動の発生は、ブレーキペダルBPの戻し操作、言い換えれば、マスタシリンダ液圧Pmを減圧させてブレーキユニット11〜14による制動力を減少させることに起因して発生するものであり、例えば、運転者がブレーキペダルBPの戻し操作を雑に(素早く)行った場合には、発生する揺り戻し挙動が大きくなる。特に、このような揺り戻し挙動は、運転者がスポーツモードに切り替え、加速と減速の頻度が増加するスポーツ走行時において車両を急減速させたときに大きくなり、その結果、例えば、カーブ走行時における車両の走行挙動に対して大きく影響を及ぼす可能性がある。
【0033】
このため、電子制御ユニット34は、図4に示す揺り戻し抑制制御プログラムを実行し、特に、スポーツモードにより車両が走行しているときの揺り戻し挙動を効果的に抑制する。以下、この揺り戻し抑制制御プログラムを詳細に説明する。
【0034】
運転者によって図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、電子制御ユニット34は、図4に示す揺り戻し抑制制御プログラムの実行をステップS10にて開始し、ステップS11以降の各ステップ処理を短い時間間隔により実行する。すなわち、電子制御ユニット34は、ステップS11において、現在、運転者により、運転モードがスポーツモードに設定されているか否かを判定する。
【0035】
具体的に説明すると、電子制御ユニット34は、ステップS11にて、スポーツモードスイッチ33から運転者によってスポーツモードに設定されたことを表す設定信号Hを入力しているか否かを判定し、スポーツモードスイッチ33から設定信号Hを入力するまで「No」と判定し続ける。そして、電子制御ユニット34は、設定信号Hを入力すると、運転者によってスポーツモードが設定されているため、「Yes」と判定してステップS12に進む。ここで、運転モードがスポーツモードに設定されていない、言い換えれば、運転モードとしてノーマルモードが設定されている場合には、運転者によるブレーキペダルBPの戻し操作に応じて、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧は上述したように速やかに減圧されるようになっている。
【0036】
ステップS12においては、電子制御ユニット34は、前後加速度センサ31から入力した加速度G、より具体的には、車両の減速に伴う減速度Gの大きさが予め設定された所定減速度Goの大きさ以上であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット34は、ステップS12にて、前後加速度センサ31から入力した減速度Gの大きさが所定減速度Goの大きさ以上となるまで「No」と判定し続け、入力した減速度Gの大きさが所定減速度Goの大きさ以上となると「Yes」と判定してステップS13に進む。ここで、予め設定された所定減速度Goの大きさとしては、例えば、0.6G程度に設定されるとよい。
【0037】
ステップS13においては、電子制御ユニット34は、後述するステップS14〜ステップS17の各ステップ処理の処理内容に応じて、ブレーキ液圧制御部20、より具体的には、FRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25の作動を制御する。したがって、ステップS13の具体的な処理内容については、ステップS14〜ステップS17の各ステップ処理を説明した後に詳細に説明する。なお、電子制御ユニット34は、FRブレーキ液圧調整部22、FLブレーキ液圧調整部23、RLブレーキ液圧調整部24およびRRブレーキ液圧調整部25の作動を同様に制御するため、以下の説明においては、例えば、FRブレーキ液圧調整部22を代表的に例示して説明する。
【0038】
ステップS14においては、電子制御ユニット34は、マスタシリンダ液圧センサ32から入力したマスタシリンダ液圧Pmに基づき、所定の短い時間間隔(例えば、100ms程度)におけるマスタシリンダ液圧Pmの液圧変化量ΔPmが正の値または「0」、言い換えれば、運転者によるブレーキペダルBPの踏み込み操作によってマスタシリンダ液圧Pmが増圧しているまたは保持されているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット34は、液圧変化量ΔPmが正の値または「0」であれば、「Yes」と判定してステップS15に進む。一方、電子制御ユニット34は、液圧変化量ΔPmが負の値であれば、言い換えれば、運転者によるブレーキペダルBPの戻し操作によってマスタシリンダ液圧Pmが減圧していれば、「No」と判定してステップS16に進む。
【0039】
ステップS15においては、電子制御ユニット34は、ホイールシリンダWfl内の目標ブレーキ液圧Ptをマスタシリンダ液圧Pmに設定する。この場合には、運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じて、すなわち、マスタシリンダ液圧Pmの増圧または保持と一致するように、ホイールシリンダWfl内の目標ブレーキ液圧Ptが設定される。そして、電子制御ユニット34は、目標ブレーキ液圧Ptを設定すると、ステップS17に進む。
【0040】
一方、ステップS16においては、電子制御ユニット34は、ホイールシリンダWfl内のブレーキ液圧が緩やかに減少するように目標ブレーキ液圧Ptを設定する。具体的に説明すると、電子制御ユニット34は、前回の揺り戻し抑制制御プログラムの実行時に決定した目標ブレーキ圧Pt(n-1)から予め設定された減圧量ΔPを減算して、今回の目標ブレーキ液圧Ptを設定する。すなわち、この場合には、運転者によるブレーキペダルBPの戻し操作状態(具体的には、雑な戻し操作)にかかわらず、緩やかに減圧されるように、ホイールシリンダWfl内の目標ブレーキ液圧Ptが設定される。なお、予め設定される減圧量ΔPとしては、例えば、6Mpa/sec程度に設定されるとよい。そして、電子制御ユニット34は、目標ブレーキ液圧Ptを設定すると、ステップS17に進む。
【0041】
ステップS17においては、電子制御ユニット34は、前記ステップS15または前記ステップS16にて設定した目標ブレーキ液圧Ptが「0」ではないか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット34は、目標ブレーキ液圧Ptが「0」でなければ、「Yes」と判定してステップS13に戻る。一方、目標ブレーキ液圧Ptが「0」であれば「No」と判定し、電子制御ユニット34はステップS18にて目標ブレーキ液圧Ptをnull値に設定してステップS11に戻る。そして、この場合には、電子制御ユニット34は、ふたたび、上述したようにステップS11以降の各ステップ処理を実行する。
【0042】
前記ステップS17のステップ処理において「Yes」と判定すると、電子制御ユニット34は、ステップS13に戻り、前記ステップS15または前記ステップS16にて設定された目標ブレーキ液圧Ptに従ってFRブレーキ液圧調整部22の作動を制御する。具体的に説明すると、電子制御ユニット34は、前記ステップS15のステップ処理により、目標ブレーキ液圧Ptをマスタシリンダ液圧Pmに設定すると、駆動回路35を介して、FRブレーキ液圧調整部22のリニア制御弁PLfr、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrを全て前記第1の位置に切り替える(または維持する)。これにより、マスタシリンダMCとホイールシリンダWfrとが連通した状態となるため、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(すなわち目標ブレーキ液圧Pt)をマスタシリンダ液圧Pmと等しくすることができる。したがって、運転者によるブレーキペダルBPの踏み込み操作に合わせて、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧を増圧または保持することができ、その結果、ブレーキユニット11は制動力を増加(または保持)させて付与することができる。
【0043】
一方、電子制御ユニット34は、前記ステップS16のステップ処理により、目標ブレーキ液圧Ptを目標ブレーキ圧Pt(n-1)から減圧量ΔPだけ減圧して設定すると、駆動回路35を介して、FRブレーキ液圧調整部22のリニア制御弁PLfrおよび増圧弁PUfrを第2の位置に切り替えるとともに、減圧弁PDfrを第1の位置に切り替える(または維持する)。これにより、ブレーキペダルBPの戻し操作、言い換えれば、マスタシリンダ液圧Pmの減圧に伴うホイールシリンダWfrからマスタシリンダMCに向けたブレーキ液の流量がリニア制御弁PLfrによって制御される。ここで、電子制御ユニット34は、リニア制御弁PLfrによって制御される流量を減圧量ΔPに対応するように変更する。これにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(すなわち目標ブレーキ液圧Pt)は減圧量ΔPにより緩やかに減圧される。したがって、運転者がブレーキペダルBPを雑に(素早く)戻し操作した場合であっても、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が急激に減圧されることがなく、その結果、ブレーキユニット11は緩やかに制動力を減少させて付与することができる。
【0044】
このように、電子制御ユニット34が揺り戻し抑制制御プログラムを実行することにより、スポーツ走行時に運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作するときには、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を増圧することができる。したがって、適切な制動力により左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2を制動することができて、車両を適切に減速することができる。
【0045】
また、スポーツ走行時に運転者がブレーキペダルBPを戻し操作するときには、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を緩やかに減圧することができる。したがって、緩やかに減少する制動力により左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2を制動することができて、揺り戻し挙動を抑制することができる。すなわち、図5に概略的に示すように、例えば、運転者が雑に(素早く)ブレーキペダルBPを戻し操作した場合であっても、マスタシリンダ液圧Pmの減圧に比して各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を緩やかに減圧することができる。その結果、ピッチ挙動において、車両後方への荷重移動を緩やかにすることができ、車両(車体)前方側の沈み込みが解消された後の反動による車両(車体)の周期的な揺り戻し挙動の発生を効果的に抑制することができる。これにより、例えば、スポーツモードにより車両がカーブを通過する場合において、運転者が車両を急減速させても、揺り戻し挙動の発生に伴う走行挙動の悪化を抑制することができるとともに、乗員に対する不快なショックを和らげることができる。
【0046】
以上の説明からも理解できるように、特に、運転モードとしてスポーツモードが設定されており、車両の加速および減速の頻度が高い場合であっても、ブレーキペダルBPを戻し操作したときに発生する揺り戻し挙動を効果的に抑制することができる。これにより、車両の走行挙動に対して揺り戻し挙動の発生が及ぼす影響を小さくすることができ、車両を安定させて走行させることができる。また、スポーツモードが設定されているときにブレーキ液圧制御部20の各電磁弁を制御することにより、各電磁弁の作動頻度を小さくすることができ、耐久性を良好に確保することができる。
【0047】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態においては、電子制御ユニット34が、揺り戻し抑制制御プログラムのステップS12において、前後加速度センサ31から入力した減速度Gの大きさが所定減速度Goの大きさ以上であるか否かを判定し、減速度Gの大きさが所定減速度Goの大きさ以上であるときにステップS13以降の各ステップ処理を実行するようにした。しかしながら、揺り戻し抑制制御プログラムのステップS12を省略し、電子制御ユニット34が、ステップS11にてスポーツモードに設定されていると判定したときに、ステップS13以降の各ステップ処理を実行するように実施することも可能である。すなわち、この場合には、減速に伴う減速度Gの大きさにかかわらず、運転者によって揺り戻し挙動が大きくなる可能性の高いスポーツモードが設定されていれば、電子制御ユニット34はマスタシリンダ液圧Pmの液圧変化量ΔPmに応じてブレーキ液圧制御部20の作動を制御することができる。これにより、スポーツモードが設定された場合には、ノーマルモードが設定された場合に比して、ブレーキペダルBPの戻し操作に対して各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を緩やかに減圧することができ、常に、車両の走行挙動に対して揺り戻し挙動の発生が及ぼす影響を小さくすることができる。したがって、車両を安定させて走行させることができるとともに、乗員に対する不快なショックを和らげることができる。
【0049】
また、上記実施形態においては、ブレーキユニット11〜14としてディスクブレーキユニットを採用して実施した。しかしながら、この場合、ブレーキユニット11〜14としてブレーキドラムとブレーキシューとを備えたドラムブレーキユニットを採用して実施することも可能である。この場合であっても、運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じて、ブレーキシューを作動させるホイールシリンダに供給するブレーキ液圧を適切に変更することができるため、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0050】
11〜14…ブレーキユニット、20…ブレーキ液圧制御部、30…電気制御装置、31…前後加速度センサ、32…マスタシリンダ液圧センサ、33…スポーツモードスイッチ、34…電子制御ユニット、35…駆動回路、S…車両用ブレーキ制御装置、BP…ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両各輪に制動力を付与するためのブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生手段と、車両各輪位置に配置された各ホイールシリンダに対して前記ブレーキ液圧発生手段から供給されるブレーキ液圧を調整するブレーキ液圧調整手段と、前記ブレーキ液圧調整手段の作動を制御する制御手段とを備えた車両用ブレーキ制御装置において、
前記ブレーキ液圧発生手段によるブレーキ液圧を検出する液圧検出手段と、
運転者によって操作されて車両の運転モードを切り替える運転モード切替手段と、
前記運転モード切替手段によって車両の加速および減速の頻度が増加する運転モードに切り替えられて車両が走行しており、かつ、前記液圧検出手段によって検出されたブレーキ液圧が増加から減少に転じたとき、前記各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を予め設定された減少量によって減少させる目標ブレーキ液圧を設定する目標ブレーキ液圧設定手段とを備え、
前記制御手段が、
前記目標ブレーキ液圧設定手段によって設定された目標ブレーキ液圧に従って前記ブレーキ液圧調整手段の作動を制御することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用ブレーキ制御装置において、
前記目標ブレーキ液圧設定手段は、
前記液圧検出手段によって検出されたブレーキ液圧の変化量が所定の短い時間間隔により増加から減少に転じたときに前記目標ブレーキ液圧を設定することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載した車両用ブレーキ制御装置において、
前記ブレーキ液圧発生手段によるブレーキ液圧の増加に伴って車両の前後方向に発生する減速度を検出する減速度検出手段を備え、
前記目標ブレーキ液圧設定手段は、さらに、
前記減速度検出手段によって検出された減速度の大きさが予め設定された所定の減速度以上であるときに、前記目標ブレーキ液圧を設定することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載した車両用ブレーキ制御装置において、
前記ブレーキ液圧調整手段は、前記各ホイールシリンダから前記ブレーキ液圧発生手段に向けて流れるブレーキ液の流量を変更する流量変更手段を有しており、
前記制御手段は、
前記目標ブレーキ液圧設定手段によって設定された目標ブレーキ液圧に従って、前記流量変更手段におけるブレーキ液の流量を変更することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−116260(P2011−116260A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276036(P2009−276036)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】