説明

車両用ヘッドアップディスプレイ装置

【課題】高信頼性のHUD装置の提供。
【解決手段】表示器20の表示像に対する反射鏡32の反射像をウインドシールド4へ投影して虚像表示させるHUD装置1において、反射鏡32を回転駆動して虚像表示位置を調整するステッピングモータ40への駆動信号を、調整指令に従って電気角が変化するように制御する。具体的にはまず、安定点θsの間隔より小さな設定角度Δθずつ電気角が変化するように駆動信号制御するマイクロステップ制御の調整指令につき有無が判定される。マイクロステップ制御の調整指令の有判定が下される間は、設定角度Δθずつ電気角が変化するように駆動信号のマイクロステップ制御が行なわれる。この後、マイクロステップ制御の調整指令の判定が有判定から無判定へ切り換わると、現在の電気角が安定点θsから外れている場合、電気角が安定点θsまで変化するように駆動信号は強制制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のヘッドアップディスプレイ装置(以下、「HUD装置」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表示器により発光像を表示させ、その表示像をウインドシールド等の投影部材へ投影することにより、車両関連情報の虚像を表示する車両用HUD装置が、知られている。こうしたHUD装置の一種として特許文献1には、表示器の表示像を凹面鏡等の反射鏡により反射して、その反射像を投影部材へ投影する装置が、開示されている。このように反射鏡を利用することによれば、車両においてHUD装置が占有する設置スペースを小さくすることが、可能となる。
【0003】
さて、特許文献1に開示のHUD装置では、虚像の表示位置を調整するために、外部からの調整指令に従う駆動信号をステッピングモータに印加して、回転可能に設けた反射鏡を当該ステッピングモータにより回転駆動する構成が、採用されている。このような構成によれば、車両乗員は調整指令をHUD装置へ与えることにより、車両関連情報の虚像を視認し易い状態にて表示させることが、可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示のHUD装置において、虚像の表示位置を車両乗員の嗜好に細かく対応させるには、当該表示位置を調整指令に従って滑らかに調整させることが、考えられる。ここで、虚像の表示位置を調整指令に従って滑らかに調整する方法としては、ステッピングモータにおいてディテントトルクに応じた所定電気角毎に現れる安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ電気角が変化するように、ステッピングモータの駆動信号をマイクロステップ制御する方法が、望まれている。なぜなら、かかるマイクロステップ制御は電気的処理にて対応できるため、ステッピングモータのステップ数の増大乃至は減速ギア機構によるモータ出力側の減速比(ギア比)の増大等といった機械的対応に比べ、大幅なコストアップが抑制され得るからである。
【0006】
しかし、上述の如きマイクロステップ制御の場合、調整指令の停止時に現在の電気角が安定点から外れていると、ディテントトルクによる回転保持作用が低下して、外力作用や振動等による衝撃力に起因した脱調を招くおそれがある。脱調したステッピングモータにおいては、反射鏡の回転角度に対応する機械角と、電気角とのずれを惹起することになるので、虚像の表示位置調整に対する信頼性が低下してしまうのである。
【0007】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両関連情報の虚像の表示位置を調整指令に従って滑らかに調整し且つ当該表示位置調整に対する信頼性を高める車両用HUD装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、発光像を表示する表示器と、回転可能に設けられて表示器の表示像を反射する反射鏡を有し、当該反射鏡の反射像を投影部材へ投影することにより、車両関連情報の虚像を表示させる光学系と、電気角に応じた振幅の駆動信号が印加されることにより、反射鏡を回転駆動して虚像の表示位置を調整するステッピングモータであって、ディテントトルクに応じた所定の電気角毎に安定点が現れるステッピングモータと、外部からの調整指令に従って電気角が変化するように駆動信号を制御する制御系と、を備えた車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、制御系は、安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ電気角が変化するように駆動信号を制御するマイクロステップ制御の調整指令につき、有無を判定する判定手段と、マイクロステップ制御の調整指令につき有判定が判定手段により下される間、設定角度ずつ電気角が変化するように駆動信号を制御するマイクロステップ制御手段と、マイクロステップ制御の調整指令につき判定手段により下される判定が有判定から無判定へ切り換わると、現在の電気角が安定点から外れている場合に、電気角が安定点まで変化するように駆動信号を強制制御する強制制御手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
こうした請求項1に記載の発明によると、ステッピングモータの駆動信号をその電気角が安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ変化するように制御するマイクロステップ制御の調整指令につき、有判定が下される間は、当該マイクロステップ制御が行なわれる。かかるマイクロステップ制御では、駆動信号を印加されたステッピングモータにより回転駆動される反射鏡の反射像を投影部材に投影してなる車両関連情報の虚像につき、その表示位置調整を、設定角度ずつの小さな電気角変化によって滑らかに行なうことができる。
【0010】
さらに請求項1に記載の発明では、マイクロステップ制御の調整指令につき有判定から無判定へ切り換わると、ディテントトルクに応じた所定電気角毎に現れる安定点から当該無判定時現在の電気角が外れていることが、想定される。しかし、現在の電気角が安定点から外れている場合には、電気角が安定点まで変化するように駆動信号が強制制御されるので、ディテントトルクによる回転保持作用が低下しててステッピングモータの脱調を招く事態が、回避され得る。これによりステッピングモータにおいては、反射鏡の回転角度に対応する機械角と、電気角とのずれが生じないので、虚像の表示位置調整に対する信頼性を高めることもできるのである。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、強制制御手段は、マイクロステップ制御手段による電気角の変化方向において現在の電気角よりも前側の安定点まで電気角が変化するように、駆動信号を強制制御する。これによれば、マイクロステップ制御の調整指令につき無判定時現在の電気角が安定点から外れている場合、マイクロステップ制御での電気角の変化方向において当該現在の電気角よりも前側の安定点に、駆動信号が強制制御されることになる。故に、ステッピングモータにおいてマイクロステップ制御直後の回転要素への慣性作用により、反射鏡の回転角度と対応の機械角が電気角からずれて脱調が生じることで、信頼性の低下を招く事態は、回避され得る。また、虚像の表示位置が調整指令の停止前とは反対方向へ変化することに起因して、車両乗員に違和感を与えて信頼性の低下を招く事態も、回避され得るのである。
【0012】
請求項3に記載の発明によると、強制制御手段は、マイクロステップ制御手段による電気角の変化方向前側において現在の電気角に直近の安定点まで電気角が変化するように、駆動信号を強制制御する。これによれば、マイクロステップ制御の調整指令につき無判定時現在の電気角が安定点から外れている場合、マイクロステップ制御での電気角の変化方向前側において当該現在の電気角に直近の安定点に、駆動信号が強制制御されることになる。故に、虚像の表示位置が調整指令の停止前とは反対方向へ大きく変化することで、信頼性の低下を招く事態につき、回避され得るのである。
【0013】
請求項4に記載の発明によると、制御系は、マイクロステップ制御の調整指令と、現在の安定点から次の安定点まで電気角が変化するように駆動信号を制御するフルステップ制御の調整指令とにつき、有無を判定する判定手段と、フルステップ制御の調整指令につき有判定が判定手段により下されると、現在の安定点から次の安定点まで電気角が変化するように駆動信号を制御するフルステップ制御手段と、を有する。これによれば、ステッピングモータの駆動信号をその電気角が現在の安定点から次の安定点まで変化するように制御するフルステップ制御の調整指令につき、有判定が下されると、当該フルステップ制御が有判定時現在の安定点から行なわれることになる。かかるフルステップ制御では、駆動信号を印加されたステッピングモータにより回転駆動される反射鏡の反射像を投影部材に投影してなる車両関連情報の虚像につき、その表示位置調整を、安定点間での大きな電気角変化によって迅速に行なうことができる。また一方、フルステップ制御の調整指令の代わりに、マイクロステップ制御の調整指令が与えられる場合には、虚像の表示位置調整を、上述の如く滑らかに行なうことができる。このように、異なる態様の表示位置調整が調整指令の種類に応じて可能となるので、車両乗員の嗜好の多様化に対応して信頼性を向上させ得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による車両用HUD装置の概略的構成を示す構成図である。
【図2】図1のHUD装置による虚像の表示状態を示す模式図である。
【図3】図1のステッピングモータ及び減速ギア機構を示す断面図である。
【図4】図1のステッピングモータ及び制御系の接続状態を示す電気ブロック図である。
【図5】図1のステッピングモータのコイルへ印加される駆動信号の例を示す特性図である。
【図6】図1の表示制御回路が実施する駆動信号制御のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態による車両用HUD装置1の概略的構成を示している。
【0016】
(基本構成)
まず、車両用HUD装置1の基本構成を説明する。車両に搭載されるHUD装置1は、ハウジング10、表示器20、光学系30、ステッピングモータ40、減速ギア機構50、調整スイッチ60及び制御系70を備えている。
【0017】
ハウジング10は、HUD装置1の他の要素20,30,40,50等を収容する中空形状に形成され、車両のインストルメントパネル2に設置される。ハウジング10は、車両の運転席前方に固定された「投影部材」としてのウインドシールド4と上下方向に対向する箇所に、透光性の出射窓14を有している。
【0018】
表示器20は、本実施形態では透過照明式の液晶パネルであり、画像を表示する画面22を有している。表示器20は、内蔵のバックライト(図示しない)により画面22が透過照明されることで、当該画面22の表示像を発光させる。このようにして表示器20に表示される発光像は、車両運転乃至は車両状態に関連した車両関連情報を報知するものであり、本実施形態では、例えば車両進行方向等のナビゲーション情報(図2参照)を報知する。但し、表示器20の表示像については、ナビゲーション情報以外にも、車速、燃料残量、冷却水温度等の物理量情報や、交通状況、安全状況等の車外状況情報を報知するものであってもよい。
【0019】
光学系30は、反射鏡32を含む複数の光学部材(反射鏡32以外は図示しない)からなり、表示器20の表示像を出射窓14へ出射する。ここで反射鏡32は、本実施形態では凹面鏡からなり、滑らかな曲面状に凹んだ反射面34を有している。反射鏡32は、表示器20から反射面34へ直接的乃至は間接的に入射される光学像としての表示像を、拡大して出射窓14側へと反射する。かかる反射鏡32の反射像は、出射窓14を通過してウインドシールド4へ投射されることにより、当該シールド4の前方にて結像される。その結果、表示器20の表示像により指示される車両関連情報は、虚像36(図2参照)として車両内の運転席側に表示されることとなる。
【0020】
反射鏡32は、ハウジング10に回転自在に支持された回転軸38を、有している。反射鏡32は、回転軸38が回転駆動されることにより、図2に示す如き虚像36の表示位置をウインドシールド4に対して上下方向に変化させる。ここで、光学系30及びウインドシールド4の光学特性に起因して本実施形態では、図2に実線で示す虚像36の下限表示位置Dlと、図2に破線で示す虚像36の上限表示位置Duとの間において、虚像36の表示が実現されるようになっている。
【0021】
図3に示すようにステッピングモータ40は、本実施形態ではクローポール構造の永久磁石型であり、回転子41及び固定子44を有している。ここで回転子41は、後述のギアケース51により回転自在に支持されるモータ軸42の外周側に、ロータ磁石43を組み付けてなる。ギアケース51に固定される固定子44は、図3,4に示す如く、A相を形成するクローポールヨーク45a及び一対のコイル46aと、B相を形成するクローポールヨーク45b及び一対のコイル46bとを組み合わせてなり、それらヨーク45a,45bのクローポールが機械角で1/2ピッチずらして配置されてなる。
【0022】
こうした構成のステッピングモータ40は、A,B各相のコイル46a,46bが駆動信号を受けて励磁することによりロータ磁石43を回転駆動させて、モータ軸42にモータトルクを発生させることとなる。さらにステッピングモータ40は、全てのコイル46a,46bへ駆動信号が印加されない消磁状態にあっても、それらコイル46a,46bとロータ磁石43との相互作用により、ディテントトルクをモータ軸42に発生させるようになっている。
【0023】
減速ギア機構50は、ステッピングモータ40を収容する中空形状のギアケース51内にて、複数のギア52〜59を直列に噛合させてなる。ここで、初段のギア52はモータ軸42に形成され、最終段のギア59は反射鏡32の回転軸38に形成されている。したがって、ステッピングモータ40がモータ軸42の回転によって発生するモータトルクは、各ギア52〜59間の減速比(ギア比)に応じて増幅されて回転軸38へと伝達されることにより、反射鏡32を回転駆動するトルクとなる。ここで、ステッピングモータ40が正回転するときは、虚像36の表示位置が上方へ移動するように反射鏡32も正回転し、ステッピングモータ40が逆回転するときは、虚像36の表示位置が下方へ移動するように反射鏡32も逆回転するようになっている。
【0024】
図1,4に示す調整スイッチ60は、車両内の運転席上の乗員により押し操作可能に設置されている。調整スイッチ60は、虚像36の表示位置を上方向に移動させるためのアップ調整指令と、虚像36の表示位置を下方向に移動させるためのダウン調整指令との二種類を乗員により選択的に入力可能に、例えばプッシュ式の二つの操作部材を有している。調整スイッチ60は、その押し操作により入力される調整指令に応じた指令信号を、出力する。
【0025】
制御系70は、表示制御回路72及び複数のスイッチング素子74を組み合わせてなり、ハウジング10の内部乃至は外部に配置されている。表示制御回路72は、本実施形態ではマイクロコンピュータを主体に構成された電気回路であり、表示器20及び調整スイッチ60に電気接続されている。図4に示すように各スイッチング素子74は、本実施形態ではコレクタがいずれかのコイル46a,46bに接続されるトランジスタであり、エミッタ及びベースがそれぞれアース(図示しない)及び表示制御回路72に接続されている。各スイッチング素子74は、表示制御回路72から入力されるゲート信号に従って、A,B各相のコイル46a,46bへ印加する駆動信号の振幅を変化させる。そこで以下では、表示制御回路72によりスイッチング素子74へのゲート信号を制御することを、コイル46a,46bへの駆動信号を制御することとして、説明する。
【0026】
こうした構成の制御系70において表示制御回路72は、表示器20による画像の表示を制御する。それと共に表示制御回路72は、調整スイッチ60から入力される指令信号に応じて、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号を制御する。具体的には、アップ調整指令に応じて表示制御回路72は、ステッピングモータ40と共に反射鏡32を正回転駆動するように、各相のコイル46a,46bへの駆動信号の電気角を制御して、虚像36の表示位置を上方へ変化させる。また一方、ダウン調整指令に応じて表示制御回路72は、ステッピングモータ40と共に反射鏡32を逆回転駆動するように、各相コイル46a,46bへの駆動信号の電気角を制御して、虚像36の表示位置を下方へ変化させるのである。
【0027】
(特徴部分)
次に、車両用HUD装置1の特徴部分を説明する。HUD装置1においてA,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号は、固定子44を二相励磁するようにして、図5に例示する如くステッピングモータ40の電気角に応じた振幅(本実施形態では電圧振幅)に、制御される。これにより各相コイル46a,46bへの駆動信号は、上述のディテントトルクが実質90度の電気角毎に最大となる安定点θsにて、図5に例示の如き最大振幅(Vmax)又は最小振幅(0)に、制御されるのである。尚、図5の各分図(a),(b),(c)は、A相コイル46aの一方への駆動信号につき、後に詳述するフルステップ制御、マイクロステップ制御及び強制制御を行なった場合の特性を、それぞれ例示している。
【0028】
ここで特に本実施形態では、各相コイル46a,46bへの駆動信号の制御方式を適宜切り換えることにより、消磁状態におけるステッピングモータ40の電気角を、いずれかの安定点θsにセットする。そこで以下では、表示制御回路72がコンピュータプログラムの実行により実施する駆動信号制御のフローについて、図6を参照しつつ詳細に説明する。尚、図6の駆動信号制御フローは、車両のエンジンスイッチがオン状態となるのに応じて開始され、当該エンジンスイッチがオフ状態となるのに応じて終了する。
【0029】
まず、S101では、アップ調整指令及びダウン調整指令の有無を、調整スイッチ60からの指令信号に基づき判定する。その結果、双方の調整指令の無判定が下される間は、A,B各相のコイル46a,46bのいずれに対しても駆動信号の印加を停止したまま、S101を繰り返すのに対し、いずれか一方の調整指令につき有判定が下された場合には、S102へと移行する。
【0030】
S101においてアップ調整指令又はダウン調整指令の有判定が下された場合に移行するS102では、当該有判定対象の調整指令が設定時間T以上の継続状態にあるか否かを、調整スイッチ60からの指令信号に基づき判定する。即ち本実施形態では、アップ調整指令又はダウン調整指令を入力するための調整スイッチ60の操作が開始されてから、設定時間T以上が経過したか否かを、判定する。尚、設定時間Tについては、調整スイッチ60の操作の開始から虚像36の表示位置が変化するまでの時間に起因して車両乗員に違和感やストレスを感じさせることがないように、例えば0.5秒程度とされるが、他の値を勿論採用してもよい。
【0031】
調整スイッチ60が短押しされて調整指令が設定時間T内に停止されることで、S102により否定判定が下された場合には、当該調整指令がフルステップ制御を指令するものとして、S103へ移行する。このS103では、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号をフルステップ制御する。ここでフルステップ制御とは、図5(a)に例示するように、調整指令の種類に応じた方向において現在の安定点θsから、それに隣接する次の安定点θsまで駆動信号を変化させる制御である。本実施形態では、かかるフルステップ制御を1回だけ実施する(即ち、電気角を90度変化させる)が、フルステップ制御を複数回繰り返して実施する(即ち、例えば4回繰り返す場合には、電気角を360度変化させる)ようにしてもよい。
【0032】
これに対し、調整スイッチ60が長押しされて調整指令が設定時間T以上継続されることで、図6のS102により肯定判定が下された場合には、当該調整指令がマイクロステップ制御を指令するものとして、S104へ移行する。このS104では、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号をマイクロステップ制御する。ここでマイクロステップ制御とは、図5(b)に例示するように、調整指令の種類に従う方向において現在の電気角から、安定点θsの間隔(即ち、実質90度)よりも小さな設定角度Δθ離れた次の電気角まで、駆動信号を変化させる制御である。尚、設定角度Δθについては、虚像36の表示位置調整が滑らかとなるように、例えば図5の如く18度とされるが、他の値を採用しても勿論よい。
【0033】
図6のS104により駆動信号の電気角を設定角度Δθ変化させた後に移行するS105では、直近のS101による有判定対象の調整指令につき、停止されたか否かを判定する。即ち、調整指令につき、有判定から無判定へ切り換わったか否かを判定する。かかるS105により否定判定が下される間は、S104,S105が繰り返し実行されることで、駆動信号のマイクロステップ制御が調整指令に従って設定角度Δθずつ継続されることとなる。
【0034】
一方、S105により肯定判定が下されると、調整スイッチ60が長押しが解除されて調整指令が停止されたものとして、S106へと移行し、現在の電気角は安定点θsであるか否かを判定する。その結果、現在の電気角が安定点θsから外れていることにより否定判定が下された場合には、S107へ移行して、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号を強制制御する。ここで強制制御とは、図5(c)に例示するように、直近のS104によるマイクロステップ制御での電気角の変化方向において現在の電気角から、前側且つ直近の安定点θsまで、駆動信号を変化させる制御である。
【0035】
図6のS107により強制制御が終了した後の他、S103によりフルステップ制御が終了した後と、S106により肯定判定が下された場合とにおいては、S108へ移行することにより、A,B各相のコイル46a,46bのいずれに対しても駆動信号の印加を停止する。尚、この後においてはS101へ戻ることから、エンジンスイッチがオフ状態となるまではS101〜S108が繰り返されるのである。
【0036】
以上説明したHUD装置1によると、ステッピングモータ40の駆動信号をその電気角が安定点θsの間隔よりも小さな設定角度Δθずつ変化するように制御するマイクロステップ制御の調整指令につき、有判定が下される間は、当該マイクロステップ制御が行なわれる。かかるマイクロステップ制御では、駆動信号を印加されたステッピングモータ40の回転により駆動される反射鏡32の反射像を投影してなる虚像36につき、その表示位置調整を設定角度Δθずつの小さな電気角変化によって滑らかに行ない得る。
【0037】
さらにHUD装置1によると、マイクロステップ制御の調整指令につき有判定から無判定へ切り換わったときには、ディテントトルクに応じて現れる安定点θsから電気角が外れていることが、想定される。しかし、電気角が安定点θsから外れている場合には、電気角が安定点θsまで変化するように駆動信号が強制制御されるので、ディテントトルクによる回転保持作用が低下してステッピングモータ40の脱調を招く事態を、回避し得る。また特に強制制御先の安定点θsは、直前のマイクロステップ制御による電気角の変化方向において強制制御元の電気角よりも前側の電気角となるので、マイクロステップ制御直後の回転子41への慣性作用によりステッピングモータ40の脱調を招く事態も、回避し得る。これらによりステッピングモータ40においては、反射鏡32の回転角度に対応する機械角と、電気角とのずれが生じ難くなるので、虚像36の表示位置調整に対する信頼性を高めることができるのである。
【0038】
しかも、HUD装置1による強制制御では、直前のマイクロステップ制御による電気角の変化方向前側において、強制制御元の電気角に直近となる安定点θsまで、駆動信号の電気角が強制制御される。これによれば、虚像36の表示位置が調整指令の停止前とは反対方向へ大きく変化することに起因して車両乗員に違和感を与えることで、信頼性の低下を招く事態をも、回避し得るのである。
【0039】
加えてHUD装置1によると、ステッピングモータ40の駆動信号をその電気角が現在の安定点θsから次の安定点θsまで電気角が変化するように制御するフルステップ制御の調整指令につき、有判定が下されると、当該フルステップ制御が行なわれる。かかるフルステップ制御では、駆動信号を印加されたステッピングモータ40の回転により駆動される反射鏡32の反射像を投影してなる虚像36につき、その表示位置調整を安定点θs間での大きな電気角変化によって迅速に行ない得る。また一方、フルステップ制御の調整指令の代わりに、マイクロステップ制御の調整指令が与えられる場合には、虚像36の表示位置調整を、上述の如く滑らかに行ない得る。このように、異なる態様の表示位置調整が調整指令の種類に応じて可能となるので、車両乗員の嗜好の多様化に対応して信頼性の向上に貢献することができるのである。
【0040】
尚、以上の実施形態では、S101,S102を実行する表示制御回路72が特許請求の範囲に記載の「判定手段」に相当し、S103を実行する表示制御回路72が特許請求の範囲に記載の「フルステップ制御手段」に相当し、S104,S105を実行する表示制御回路72が特許請求の範囲に記載の「マイクロステップ制御手段」に相当し、S106,S107を実行する表示制御回路72が特許請求の範囲に記載の「強制制御手段」に相当している。
【0041】
(他の実施形態)
さて、ここまで本発明の一実施形態を説明してきたが、本発明は当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0042】
具体的に、駆動信号制御フローのS107では、直近のS104によるマイクロステップ制御での電気角の変化方向において現在の電気角から、直近の安定点θsよりも前側の安定点θsまで駆動信号を変化させる強制制御を、行なってもよい。またあるいはS107では、直近のS104によるマイクロステップ制御での電気角の変化方向とは反対方向において現在の電気角から、前側且つ望ましくは直近の安定点θsまで駆動信号を変化させる強制制御を、行なってもよい。さらに駆動信号制御フローでは、S101により調整指令の有判定が下された後において、フルステップ制御に関連するS102,S103をスキップして、S104以降のマイクロステップ制御のみを行なうようにしてもよい。
【0043】
加えて、ステッピングモータ40としては、ディテントトルクに応じた安定点が現れるものであれば、上記実施形態の永久磁石型以外にも、例えばハイブリッド型等を採用してもよい。また加えて、表示器20としては、上記実施形態の液晶パネル以外にも、例えばEL(Electro-Luminescence)パネルやインジケータ等により発光像を表示するものを、採用してもよい。さらに加えて、反射鏡の反射像を投影させる「投影部材」としては、上記実施形態の如く車両に固定されたウインドシールド4以外にも、例えばHUD装置1に専用に設けられるコンバイナ等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 車両用HUD(ヘッドアップディスプレイ)装置 2 インストルメントパネル、4 ウインドシールド(投影部材)、10 ハウジング、14 出射窓、20 表示器、22 画面、30 光学系、32 反射鏡、34 反射面、36 虚像、38 回転軸、40 ステッピングモータ、41 回転子、42 モータ軸、43 ロータ磁石、44 固定子、45a,45b クローポールヨーク、46a,46b コイル、50 減速ギア機構、51 ギアケース、60 調整スイッチ、70 制御系、72 表示制御回路、74 スイッチング素子、T 設定時間、Δθ 設定角度、θs 安定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光像を表示する表示器と、
回転可能に設けられて前記表示器の表示像を反射する反射鏡を有し、当該反射鏡の反射像を投影部材へ投影することにより、車両関連情報の虚像を表示させる光学系と、
電気角に応じた振幅の駆動信号が印加されることにより、前記反射鏡を回転駆動して前記虚像の表示位置を調整するステッピングモータであって、ディテントトルクに応じた所定の前記電気角毎に安定点が現れるステッピングモータと、
外部からの調整指令に従って前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御する制御系と、
を備えた車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、
前記制御系は、
前記安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御するマイクロステップ制御の前記調整指令につき、有無を判定する判定手段と、
前記マイクロステップ制御の前記調整指令につき有判定が前記判定手段により下される間、前記設定角度ずつ前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御するマイクロステップ制御手段と、
前記マイクロステップ制御の前記調整指令につき前記判定手段により下される判定が前記有判定から無判定へ切り換わると、現在の前記電気角が前記安定点から外れている場合に、前記電気角が前記安定点まで変化するように前記駆動信号を強制制御する強制制御手段と、
を有することを特徴とする車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記強制制御手段は、前記マイクロステップ制御手段による前記電気角の変化方向において現在の前記電気角よりも前側の前記安定点まで前記電気角が変化するように、前記駆動信号を強制制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記強制制御手段は、前記マイクロステップ制御手段による前記電気角の変化方向前側において現在の前記電気角に直近の前記安定点まで前記電気角が変化するように、前記駆動信号を強制制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記制御系は、
前記マイクロステップ制御の前記調整指令と、現在の前記安定点から次の前記安定点まで前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御するフルステップ制御の前記調整指令とにつき、有無を判定する前記判定手段と、
前記フルステップ制御の前記調整指令につき有判定が前記判定手段により下されると、現在の前記安定点から次の前記安定点まで前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御するフルステップ制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207431(P2011−207431A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79098(P2010−79098)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】