説明

車両用内装材の製造方法

【課題】加飾材の端部の露出を抑制しつつ、基材に対する加飾材の位置ずれを抑制することができる車両用内装材の製造方法を目的とする。
【解決手段】プレス成形工程において、図示しない吸引手段を駆動し、加飾材セット部64の吸引孔52から第1成形面42Aと加飾材70との間の空気を吸引することにより、加飾材70を第1成形面42Aに密着させる。この状態で、図示しない昇降装置によって下型42を上昇させると共に、上型44を下降させ、下型42の凹部48,50内に上型44の凸部56,58をそれぞれ挿入すると共に、下型42の壁状部66を上型44の溝部68に挿入する。これにより、下型42の第1成形面42Aと上型44の第2成形面44Aとの間で基材30及び加飾材70がプレス成形されると共に、第2成形面44Aの溝部68に基材30及び加飾材70の外周部70Aが圧入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用内装材の製造方法として、架橋発泡シート材の両面に樹脂製の表皮シート材がそれぞれ積層された基材をプレス成形する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
一方、車両用内装材の表面に織物等で構成された加飾材(オーナメント)を取り付ける加飾材の取付方法が知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2に開示された技術では、成形型の凸部の上に加飾材及び基材を載置した状態で圧空真空成形する。この際、加飾材は、その外周部が凸部の縁から横方向へ延出された状態で凸部の上に載置される。これにより、圧空真空成形時に、加飾材の外周部の下面側(意匠面側)に基材が回り込み、回り込んだ基材によって加飾用シートの外周部が覆い隠されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−227129号公報
【特許文献2】昭63−233818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に開示された技術では、形成型の凸部の上に加飾材を載置するだけであるため、圧空真空成形時に基材に対して加飾材が位置ずれする可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、加飾材の端部の露出を抑制しつつ、基材に対する加飾材の位置ずれを抑制することができる車両用内装材の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車両用内装材の製造方法は、第1成形面から該第1成形面と対向する第2成形面へ向けて突出した壁状部の側面に沿ってシート状の加飾材の端部を屈曲させた状態で該加飾材を前記第1成形面に配置する加飾材セット工程と、架橋熱可塑性発泡樹脂製のコアシート材と該コアシート材の表面に重ねられた熱可塑性樹脂製の表側表皮シート材とを有すると共に加熱されて軟化した基材を前記第1成形面と前記第2成形面との間に配置して該基材を前記加飾材に対向させる基材セット工程と、前記加飾材と前記第1成形面との間の空気を吸引して前記加飾材を前記第1成形面に密着させながら、前記壁状部を前記第2成形面に形成された溝部に挿入して該溝部に前記基材及び前記加飾材の前記端部を圧入させると共に、前記第1成形面と前記第2成形面との間で前記基材及び前記加飾材をプレス形成するプレス成形工程と、を備えている。
【0007】
請求項1に係る車両用内装材の製造方法によれば、プレス成形工程において、第2成形面に形成された溝部に第1成形面から突出する壁状部を挿入し、当該溝部に基材及び加飾材の端部を圧入させる。これにより、溝部内で屈曲された基材の屈曲部によって加飾材の端部が覆い隠される。従って、加飾材の端部の露出が抑制されるため、車両用内装材の見栄えが向上する。
【0008】
また、加飾材と第1成形面との間の空気を吸引し、加飾材を第1成形面に密着させながら第2成形面の溝部に第1成形面の壁状部を挿入する。これにより、第2成形面の溝部に第1成形面の壁状部を挿入した際に、第1成形面及び壁状部に対する加飾材の位置ずれが抑制される。この結果、基材に対する加飾材の位置ずれが抑制されると共に、第2成形面の溝部に対する加飾材の端部の位置ずれが抑制される。従って、車両用内装材の見栄えが更に向上する。
【0009】
更に、プレス形成工程において、基材に対して加飾材を取り付けると共に、基材をプレス形成する。従って、基材に対する加飾材の取り付け工程と、基材のプレス形成工程とを別々に行う方法と比較して、製造コストを削減することができる。
【0010】
請求項2に記載の車両用内装材の製造方法は、請求項1に記載の車両用内装材の製造方法において、前記加飾材の裏面がホットメルト接着層で被覆され、前記加飾材セット工程において、前記ホットメルト接着層を前記第2成形面側に向けた状態で前記加飾材を前記第1成形面に配置し、前記プレス形成工程において、前記基材の熱によってホットメルト接着層を溶融させ、該基材に加飾材を接着する。
【0011】
請求項2に係る車両用内装材の製造方法によれば、プレス成形工程において、加飾材の裏面を被覆するホットメルト接着層を基材の熱によって溶融し、当該基材に加飾材を接着する。これにより、基材に加飾材がより確実に一体化される。更に、加飾材に接着剤を塗布する方法と比較して、より均一な接着層が形成されるため、基材と加飾材との接着斑が抑制される。
【0012】
請求項3に記載の車両用内装材の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の車両用内装材の製造方法において、前記加飾材が、該加飾材の表面を構成する装飾シート材と該装飾シート材に重ねられると共に弾性を有する弾性シート材とを有し、前記加飾材セット工程において、前記装飾シート材を前記第1成形面側に向けた状態で前記加飾材を前記第1成形面に配置し、前記プレス形成工程において、前記弾性シート材を圧縮させながら前記加飾材の前記端部を前記溝部に圧入し、前記壁状部から前記加飾材を外した後に前記弾性シート材を復元させる。
【0013】
請求項3に係る車両用内装材の製造方法によれば、プレス形成工程において、弾性シート材を圧縮させながら加飾材の端部を溝部に圧入し、第1成形面の壁状部から加飾材を外した後に弾性シート材を復元させる。これにより、基材の屈曲部に挿入されていた壁状部の隙間が、復元した弾性シート材によって埋められる。従って、車両用内装材の見栄えが向上する。
【0014】
請求項4に記載の車両用内装材の製造方法は、請求項3に記載の車両用内装材の製造方法において、前記装飾シート材が、繊維材料を有しており、前記プレス形成工程において、前記繊維材料が潰れないように前記第1成形面と前記第2成形面との間で前記基材及び前記加飾材をプレス成形する。
【0015】
請求項4に係る車両用内装材の製造方法によれば、加飾材の表面を構成する装飾シート材が繊維材料を有しており、この繊維材料が潰れないように、第1成形面と第2成形面との間で基材及び加飾材をプレス成形する。従って、車両用内装材の見栄えが向上する。
【0016】
請求項5に記載の車両用内装材の製造方法は、請求項1〜請求項4に記載の車両用内装材の製造方法において、前記基材が、前記コアシート材の裏面に重ねられた熱可塑性樹脂製の裏側表皮シート材を有する。
【0017】
請求項5に係る車両用内装材の製造方法によれば、コアシート材の裏面に裏側表皮シート材が重ねられており、プレス成形工程において、第1成形面と第2成形面との間でコアシート材、表側表皮シート材、及び裏側表皮シート材を一体にプレス成形する。これにより、コアシート材の両面に表側表皮シート材、裏側表皮シート材がそれぞれ積層された3層構造(サンドイッチ構造)の車両用内装材が形成される。従って、車両用内装材の見栄えを向上しつつ、車両用内装材の剛性を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係る車両用内装材の製造方法によれば、加飾材の端部の露出を抑制しつつ、基材に対する加飾材の位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用内装材の製造方法によって製造されたドアトリムを備えたフロントサイドドアを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるドアトリム及び加飾材を示す図1の拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるプレス成形装置において、ドアトリムを構成する基材を加熱器によって加熱した状態を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるプレス成形装置において、下型に加飾材をセットした状態を示す図3の拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるプレス成形装置において、第1成形面に加飾材が密着した状態を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるプレス成形装置において、ドアトリムを構成する基材及び加飾材を下型と上型との間でプレス成形した状態を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態における下型の壁状部、及び上型の溝部を示す説明図であり、(A)は壁状部が溝部に挿入された状態を示し、(B)は壁状部が溝部から抜き出された状態を示している。
【図8】本発明の変形例におけるプレス成形装置において、ドアトリムを構成する基材及び加飾材を第1成形面と第2成形面との間でプレス成形した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る車両用内装材の製造方法について説明する。なお、図1及び図2に示される矢印UPは車両上下方向上側を示し、矢印INは車両幅方向内側(車室内側)を示している。
【0021】
図1には、一例として、本実施形態に係る車両用内装材の製造方法によって製造されたドアトリム12を備えたフロントサイドドア10が示されている。
【0022】
フロントサイドドア10は、ドアアウタパネル14と、ドアアウタパネル14の車両幅方向内側に配置されるドアインナパネル16を備えている。ドアアウタパネル14とドアインナパネル16とは車両幅方向に対向すると共に、車両上下方向下側の端部でヘミング加工により結合されている。また、ドアアウタパネル14及びドアインナパネル16における車両上下方向上側の端部間には、図示しないドアガラスが昇降するための隙間18が設けられている。更に、ドアアウタパネル14の車両上下方向上側の端部における車両幅方向内側には、ドアアウタリインホースメント20が接合されており、これにより、ドアアウタパネル14の車両上下方向上側の端部が補強されている。これと同様に、ドアインナパネル16の車両上下方向上側の端部における車両幅方向外側には、ドアインナリインホースメント22が接合されており、これにより、ドアインナパネル16の車両上下方向上側の端部が補強されている。
【0023】
ドアインナパネル16に車両幅方向内側には、車両用内装材としてのドアトリム12が取り付けられている。ドアトリム12は、車両幅方向から見て略矩形形状に形成されており、その長手方向を車両前後方向(図1における紙面奥行き方向)にして配置されると共に、ドアインナパネル16と車両幅方向に対向している。ドアトリム12の車両上下方向上側の端部には、トリム本体部12Aから車両幅方向内側へ凸状に突出した突出部24が設けられている。また、ドアトリム12の車両上下方向の中央部には、トリム本体部12Aから車両幅方向内側へ凸状に突出されたドアアームレスト部26が設けられている。
【0024】
更に、突出部24とドアアームレスト部26との間のトリム本体部12Aには、環状の加飾材取付部28が設けられている。この加飾材取付部28は、トリム本体部12Aが車両幅方向外側へ凸状(U字状)に屈曲された屈曲部とされており、その内部に車両幅方向内側へ開口する環状の取付用溝部28Aを有している。この取付用溝部28Aに加飾材70(オーナメント)の外周部70Aが嵌め込まれることにより、ドアトリム12に加飾材70が取り付けられている。
【0025】
ここで、図2に示されるように、ドアトリム12を構成する基材30は、中層を構成するコアシート材32の両面に、表層を構成する表側表皮シート材34、裏側表皮シート材36をそれぞれ積層した3層構造(サンドイッチ構造)の積層シートで構成されている。コアシート材32は、架橋構造を有する熱可塑性発泡樹脂(架橋熱可塑性発泡樹脂)製で、例えば、ポリプロピレン系樹脂を主成分とした樹脂に対し、架橋補助剤、発泡剤を添加して溶融混合したものをシート状に成形し、得られたシート材に電解性放射線等を照射して架橋したものである。
【0026】
なお、コアシート材32を構成する樹脂は、熱可塑性を有し、かつ架橋可能であれば良く、ポリプロピレン系樹脂に限らない。また、架橋補助剤及び発泡剤は、従来周知のものを適宜用いることができる。また、コアシート材32のゲル分率は、60%以上であることが好ましい。なお、ここでいうゲル分率とは、次のものをいう。即ち、コアシート材片を所定温度(例えば、100℃)のキシレンに浸けて溶解させたものを濾過し、不溶解物を採取する。この不溶解物の重量をコアシート材片の重量で除した値を百分率(%)で表したものである。また、コアシート材32の目付(目付け量)は、150g/m2〜500g/m2が好ましい。
【0027】
コアシート材32の表面(意匠面側の面)には表側表皮シート材34が重ねられ、コアシート材32の裏面には裏側表皮シート材36が重ねられている。これらの表側表皮シート材34及び裏側表皮シート材36は、例えば、ポリプロピレン系樹脂を主成分する熱可塑性樹脂製のシート材で、プレス成形によってコアシート材32と一体化されている。また、表側表皮シート材34及び裏側表皮シート材36は、コアシート材32よりも板厚が薄くなっている。なお、本実施形態では、例えば、コアシート材32の板厚が3mm〜5mmとされ、表側表皮シート材34及び裏側表皮シート材36の板厚が100μm〜300μmとされている。
【0028】
一方、加飾材70は、弾性シート材72と、弾性シート材72の表面(意匠面側の面)側に重ねられた装飾シート材74とを有している。弾性シート材72は、例えば、ポリウレタン系フォーム、オレフィン系フォーム等の弾性を有する発泡シート材で構成されている。この弾性シート材72によって触感が付与されると共に、加飾材取付部28の取付用溝部28Aの隙間が埋められるようになっている。装飾シート材74は天然繊維又は人工繊維等の繊維材料を有して構成されたシート状の織物、編物、又は不織布で構成され、弾性シート材72の表面に接着剤等によって貼付されている。
【0029】
また、弾性シート材72の裏面は、その全面に渡ってホットメルトフィルム76によって被覆されている。ホットメルト接着層としてのホットメルトフィルム76は、例えば、オレフィン系、ナイロン系等の樹脂を主成分としたフィルム状のホットメルト接着剤で、加熱されて溶融又は半溶融することにより接着対象物に付着し、冷却されて固化することにより接着対象物に接着するものである。
【0030】
次に、本実施形態に係る車両用内装材の製造方法に用いられるプレス成形装置について説明する。
【0031】
図3に示されるように、プレス成形装置40は、下型42と、上型44と、一対の加熱器46A,46Bを備えている。下型42は、図示しない昇降装置によって上下方向(矢印Z方向)に移動可能に支持されている。下型42の上面は、ドアトリム12の車両幅方向内側の面(以下、「内面」という)を形成する第1成形面42Aとされている。この第1成形面42Aの一端側(図3において、左側)には、ドアトリム12の突出部24を形成する凹部48が設けられ、第1成形面42Aの略中央部には、ドアアームレスト部26を成形する凹部50が設けられている。
【0032】
また、凹部48と凹部50との間の第1成形面42Aは平坦面とされており、この平坦面に環状に延びる壁状部66が設けられている。壁状部66は第1成形面42Aから後述する上型44の第2成形面44Aに向けて壁状に突出している。この壁状部66によって加飾材70がセット(配置)される加飾材セット部64が形成されており、壁状部66で囲まれた領域内に加飾材70がセットされるようになっている。また、加飾材セット部64内の第1成形面42Aには、複数の吸引孔52が形成されている。これらの吸引孔52は壁状部66寄りに形成されると共に、壁状部66に沿って所定の間隔を空けて形成されている。また、各吸引孔52は、第1成形面42Aから下方へ延び、下型42の下部に設けられた吸引管54を介して図示しない真空ポンプ等の吸引手段に接続されている。この吸引手段を駆動し、吸引孔52から空気を吸引することにより、加飾材70の外周部70Aが第1成形面42Aに密着されるようになっている。即ち、吸引手段による真空引きによって、加飾材70の外周部70Aが第1成形面42Aに吸着されるようになっている。なお、吸引孔52の数や配置は適宜変更可能である。
【0033】
下型42の上方に設けられた上型44は、図示しない昇降装置によって上下方向(矢印Z方向)に移動可能に支持されている。上型44の下面は、ドアトリム12の車両幅方向外側の面(以下、「外面」という)を形成する第2成形面44Aとされている。この第2成形面44Aにおける下型42の凹部48,50と対向する部位には、ドアトリム12の突出部24を形成する凸部56、ドアアームレスト部26を成形する凸部58がそれぞれ設けられている。また、第2成形面44Aにおける下型42の壁状部66と対向する部位には溝部68が形成されている。この溝部68は環状に延びており、壁状部66が挿入されると共に、壁状部66によって押圧された基材30及び加飾材70の外周部70Aが圧入されるようになっている。
【0034】
下型42及び上型44の左右両側には、基材30の端部を挟持する上下一対の固定クランプ60がそれぞれ設けられている。これらの固定クランプ60によって、基材30が表側表皮シート材34を下型42の第1成形面42A側に向けた状態で下型42と上型44の間で保持されるようになっている。
【0035】
一対の加熱器46A,46Bは、略水平に配置されたハロゲンヒータ等で構成されている。各加熱器46A,46Bは、固定クランプ60で保持された基材30の上下方向両側に配置され、図示しない移動装置によって水平方向(矢印X方向)に移動可能に支持されている。各加熱器46A,46Bには温度制御手段62が接続されており、この温度制御手段62によって各加熱器46A,46Bの加熱温度が制御可能になっている。なお、本実施形態では、加熱器46A,46Bの加熱温度が約140℃〜約190℃に制御可能になっている。これらの加熱器46A,46Bによって基材30の内面及び外面を加熱可能になっている。
【0036】
次に、本実施形態に係るドアトリムの製造方法の一例について説明する。
【0037】
先ず、加飾材セット工程について説明する。図3に示されるように、下型42の加飾材セット部64に、装飾シート材74を第1成形面42A側に向けると共にホットメルトフィルム76を第2成形面44A側に向けた状態で加飾材70をセット(配置)する。この際、図4に示されるように、加飾材70の外周部70Aを壁状部66の内側面66Aに沿って上方へL字状に屈曲させ、壁状部66で囲まれた第1成形面42Aに加飾材70を載置する。また、加飾材70の外周端を壁状部66の先端に合わせる。
【0038】
次に、基材セット工程について説明する。図3に示されるように、表側表皮シート材34を下型42の第1成形面42A側に向けた状態で基材30を上型44と下型42との間に略水平に配置し、固定クランプ60で保持する。次に、図示しない移動装置によって各加熱器46A,46Bを水平方向(矢印X方向)にそれぞれ移動し、加熱器46Aを基材30と上型44との間に配置すると共に、加熱器46Bを基材30と下型42の間に配置する。次に、加熱器46A,46Bによって基材30の内面及び外面を加熱(約140℃〜約190℃)し、基材30を軟化させる。次に、図示しない移動装置によって各加熱器46A,46Bを水平方向(矢印X方向)に移動し、基材30と上型44の間、及び基材30と下型42との間から退避させる。
【0039】
次に、プレス成形工程について説明する。図5に示されるように、図示しない吸引手段を駆動し、加飾材セット部64の吸引孔52から第1成形面42Aと加飾材70の装飾シート材74(図7(A)参照)との間の空気を吸引(真空引き)することにより、加飾材70を第1成形面42Aに密着させる。この状態で、図示しない昇降装置によって下型42を上昇(矢印Z方向)させると共に、上型44を下降(矢印Z方向)させ、図6に示されるように下型42の凹部48,50内に上型44の凸部56,58をそれぞれ挿入すると共に、下型42の壁状部66を上型44の溝部68に挿入する。これにより、下型42の第1成形面42Aと上型44の第2成形面44Aとの間で基材30及び加飾材70がプレス成形される。この際、第1成形面42Aと第2成形面44Aとのプレス圧は、加飾材70の装飾シート材74を構成する繊維材料が潰れないように制御される。
【0040】
また、図7(A)に示されるように、上型44の溝部68に挿入された下型42の壁状部66によって、当該溝部68に基材30が屈曲された状態で圧入されて加飾材取付部28が形成されると共に、加飾材取付部28内に形成された取付用溝部28Aに壁状部66及び加飾材70の外周部70Aが圧入される。この際、加飾材70の外周部70Aは、その弾性シート材72が圧縮された状態で取付用溝部28Aに圧入される。また、基材30の表面に重ねられた加飾材70のホットメルトフィルム76が、基材30の熱によって溶融し、基材30の表面に付着する。
【0041】
次に、図7(B)に示されるように、図示しない昇降装置によって下型42を下降(矢印Z方向)させると共に、上型44を上昇(矢印Z方向)させ、プレス成形されたドアトリム12及び加飾材70を脱型して冷却する。この際、壁状部66から加飾材70を外して取付用溝部28Aから壁状部66を抜き出すと、圧縮されていた加飾材70の弾性シート材72がその弾性力によって復元(二点鎖線)し、壁状部66が挿入されていた取付用溝部28Aの隙間が埋められる。また、溶融したホットメルトフィルム76が固化し、ドアトリム12の表側表皮シート材34に加飾材70が接着される。
【0042】
なお、本実施形態では、加飾材セット工程の後に基材セット工程を実施したが、これららの工程は順不同である。即ち、基材セット工程の後に加飾材セット工程を実施しても良いし、基材セット工程と加飾材セット工程を並行して実施しても良い。
【0043】
次に、本実施形態に係る車両用内装材の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0044】
本実施形態では、前述したようにプレス成形工程において、上型44の第2成形面44Aに形成された溝部68に、下型42の第1成形面42Aから突出する壁状部66を挿入し、当該溝部68に基材30及び加飾材70の端部を圧入させる。これにより、基材30に形成された加飾材取付部28の取付用溝部28Aに加飾材70の外周部70Aが挿入され、加飾材取付部28によって加飾材70の外周部70A(外周端)が覆い隠される。従って、加飾材70の外周部70Aの見栄えが向上する。
【0045】
また、図示しない吸引手段によって下型42の第1成形面42Aと加飾材70の装飾シート材74との間の空気を吸引し、加飾材70を第1成形面42Aに密着させながら、第2成形面44Aの溝部68に第1成形面42Aの壁状部66を挿入する。これにより、溝部68に壁状部66を挿入した際に、第1成形面42A及び壁状部66に対する加飾材70の位置ずれが抑制される。この結果、基材30に対する加飾材70の位置ずれが抑制されると共に、溝部68に対する加飾材70の外周部70Aの位置ずれが抑制される。従って、加飾材70の外周部70Aが溝部68により確実に挿入される。
【0046】
更に、加飾材70の弾性シート材72を圧縮させながら加飾材70の外周部70Aを加飾材取付部28の取付用溝部28Aに圧入する。そして、取付用溝部28Aから壁状部66を抜き出した後に弾性シート材72を復元させる。これにより、復元した弾性シート材72によって、壁状部66が挿入されていた取付用溝部28Aの隙間が埋められる。従って、加飾材70の外周部70Aの見栄えが更に向上する。
【0047】
また、プレス成形工程において、加飾材70の裏面を被覆するホットメルトフィルム76を基材30の熱によって溶融させ、当該基材30の表側表皮シート材34に付着させる。これにより、基材30(ドアトリム12)に加飾材70がより確実に一体化される。更に、加飾材70に接着剤を塗布する方法と比較してより均一な接着層が形成されるため、基材30と加飾材70との接着斑が抑制される。
【0048】
更に、プレス形成工程において、基材30に対して加飾材70を取り付けると共に、基材30をプレス形成する。従って、基材30に対する加飾材70の取り付け工程と、基材30のプレス形成工程とを別々に行う方法と比較して、製造コストを削減することができる。
【0049】
また、本実施形態では、装飾シート材74が繊維材料を有しており、この繊維材料が潰れないように、下型42の第1成形面42Aと上型44の第1成形面42Aとの間で基材30及び加飾材70をプレス成形する。ここで、例えば、射出成形によりドアトリムを製造する方法において、成形型内に加飾材を予め配置しておき、この成形型内に溶融樹脂を充填する方法が考えられる。しかしながら、射出成形では成形型内が高圧及び高温になるため、加飾材が織物等で構成されている場合、織物を構成する繊維材料やパイルが潰れる可能性がある。これに対して本実施形態では、プレス形成によって基材30に加飾材70を取り付けるため、射出成形と比較して加飾材70に作用する圧力が小さくなると共に、加飾材70の加熱温度が低くなる。従って、加飾材70を構成する繊維材料やパイルの潰れが抑制される。従って、加飾材70の見栄えが向上する。
【0050】
更に、本実施形態では、コアシート材32が架橋された熱可塑性発泡樹脂で構成されている。従って、コアシート材32が架橋されていない熱可塑性発泡樹脂で構成された場合と比較して、コアシート材32の伸び率が大きくなるため、コアシート材32の偏伸びが抑制される。従って、ドアトリム12の板厚の均一化を図ることができる。
【0051】
しかも、コアシート材32の両面に表側表皮シート材34、裏側表皮シート材36をそれぞれ積層した3層構造(サンドイッチ構造)とすることにより、プレス成形されたドアトリム12の剛性が向上する。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用内装材の製造方法によれば、加飾材70の外周部70Aの露出を抑制しつつ、基材30に対する加飾材70の位置ずれを抑制することができる。従って、ドアトリム12及び加飾材70の見栄えが向上する。
【0053】
なお、上記実施形態では、下型42の加飾材セット部64にのみ吸引孔52を形成し、図示しない吸引手段によって加飾材70のみを真空引きしたが、例えば、図8に示されるように、下型42における加飾材取付部28以外の部位に吸引孔82を形成し、吸引手段によって基材30を真空引きしても良い。この場合、基材30を第1成形面42A側へ凸状に湾曲させた後に、第1成形面42Aと第2成形面44Aとの間で基材30をプレス成形することにより、基材30の偏伸びが抑制される。従って、ドアトリム12の板厚の均一化を図ることができる。
【0054】
また、上記実施形態では、加飾材70の装飾シート材74を織物等で構成したがこれに限らず、例えば、樹脂製のウッドパネル等で構成しても良い。また、加飾材70の弾性シート材72を省略し、装飾シート材74の裏面にホットメルトフィルム76を直接貼付しても良い。更に、ホットメルトフィルム76に替えて液状の接着剤を用いても良い。
【0055】
また、上記実施形態では、下型42の壁状部66を環状に形成したがこれに限らない。壁状部66の形状は、加飾材70の形状、大きさに応じて適宜変更可能である。この際、上型44の溝部68の形状は、壁状部66の形状に応じて変更すれば良い。
【0056】
また、上記実施形態では、基材30を3層構造の積層シートで構成したが、例えば、裏側表皮シート材36を省略して2層構造にしても良い。
【0057】
また、上記実施形態に係る車両用内装材の製造方法は、フロントサイドドア10のドアトリム12に限らず、例えば、リアサイドドアのドアトリム、クォータトリム、ピラーガーニッシュ等の車両用内装材にも適用可能である。
【0058】
次に、比較試験について説明する。
【0059】
本比較試験では、上記実施形態に係る車両用内装材の製造方法によって製造されたドアトリムと、比較例に係る製造方法によって製造されたドアトリムについて、ドアトリムに対する加飾材の位置ずれの有無を確認した。
【0060】
実施例におけるドアトリムは、図3に示されるプレス成形装置40において、一対の加熱器46A,46Bによって基材30を約150℃に加熱した後、図示しない吸引手段によって加飾材70を真空引きしながら、下型42の第1成形面42Aと上型44の第2成形面44Aとの間で基材30をプレス成形した。一方、比較例におけるドアトリムは、図3に示されるプレス成形装置40において、一対の加熱器46A,46Bによって基材30を約150℃に加熱した後、加飾材70の真空引きを行わずに、下型42の第1成形面42Aと上型44の第2成形面44Aとの間で基材30をプレス成形した。
【0061】
表1には、実施例及び比較例で用いた基材30及び加飾材70の構成が示されている。なお、実施例における基材30及び加飾材70の構成と、比較例における基材30及び加飾材70の構成は同じである。
【0062】
【表1】

【0063】
以上のようにして製造された実施例及び比較例におけるドアトリムにおいて、比較例におけるドアトリム12では外観上問題となる加飾材70の位置ずれが発生したのに対し、実施例におけるドアトリム12では外観上問題となる加飾材70の位置ずれが発生しなかった。この結果から実施例で用いた車両用内装材の製造方法の有用性が確認できた。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
12 ドアトリム(車両用内装材)
30 基材
32 コアシート材
34 表側表皮シート材
36 裏側表皮シート材
42A 第1成形面
44A 第2成形面
66 壁状部
68 溝部
70 加飾材
72 弾性シート材
74 装飾シート材
76 ホットメルトフィルム(ホットメルト接着層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成形面から該第1成形面と対向する第2成形面へ向けて突出した壁状部の側面に沿ってシート状の加飾材の端部を屈曲させた状態で該加飾材を前記第1成形面に配置する加飾材セット工程と、
架橋熱可塑性発泡樹脂製のコアシート材と該コアシート材の表面に重ねられた熱可塑性樹脂製の表側表皮シート材とを有すると共に加熱されて軟化した基材を前記第1成形面と前記第2成形面との間に配置して該基材を前記加飾材に対向させる基材セット工程と、
前記加飾材と前記第1成形面との間の空気を吸引して前記加飾材を前記第1成形面に密着させながら、前記壁状部を前記第2成形面に形成された溝部に挿入して該溝部に前記基材及び前記加飾材の前記端部を圧入させると共に、前記第1成形面と前記第2成形面との間で前記基材及び前記加飾材をプレス形成するプレス成形工程と、
を備える車両用内装材の製造方法。
【請求項2】
前記加飾材の裏面がホットメルト接着層で被覆され、
前記加飾材セット工程において、前記ホットメルト接着層を前記第2成形面側に向けた状態で前記加飾材を前記第1成形面に配置し、
前記プレス形成工程において、前記基材の熱によってホットメルト接着層を溶融させ、該基材に加飾材を接着する請求項1に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項3】
前記加飾材が、該加飾材の表面を構成する装飾シート材と該装飾シート材に重ねられると共に弾性を有する弾性シート材とを有し、
前記加飾材セット工程において、前記装飾シート材を前記第1成形面側に向けた状態で前記加飾材を前記第1成形面に配置し、
前記プレス形成工程において、前記弾性シート材を圧縮させながら前記加飾材の前記端部を前記溝部に圧入し、前記壁状部から前記加飾材を外した後に前記弾性シート材を復元させる請求項1又は請求項2に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項4】
前記装飾シート材が、繊維材料を有しており、
前記プレス形成工程において、前記繊維材料が潰れないように前記第1成形面と前記第2成形面との間で前記基材及び前記加飾材をプレス成形する請求項3に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項5】
前記基材が、前記コアシート材の裏面に重ねられた熱可塑性樹脂製の裏側表皮シート材を有する請求項1〜請求項4に記載の車両用内装材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−240308(P2012−240308A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112570(P2011−112570)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】