説明

車両用制動装置

【課題】 簡単な構成により熱容量を変化させて、車両を適切に制動するとともに制動に伴って発生する熱エネルギーの回収を効率よく行う車両用制動装置を提供すること。
【解決手段】 ブレーキドラム11はディスク部11aおよび摩擦摺動部11bを備えている。摺動部11bの外方にはエアギャップ21eを介して同心状に熱容量増加リング21が設けられている。これにより、摺動部11bは、温度が低温であるときにはリング21とエアギャップ21eを介して離間することができ、温度が高温である場合には熱膨張してリング21と接続することができて、熱容量を変化させることができる。また、ディスク部11aと摺動部11bとの間には熱電変換部22が挟持されている。これにより、熱電変換部22は摺動部11bに接触する加熱面22aとディスク部11aに接触する冷却面22bとの温度差に応じて熱エネルギーを電気エネルギーとして回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用制動装置に関し、特に、車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の熱源から熱エネルギーを回収し、この回収した熱エネルギーを、例えば、電気エネルギーに変換して利用することが盛んに研究されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、回転部にブレーキパッドを圧着してブレーキをかけるブレーキキャリパと、ブレーキキャリパに接続するヒートパイプと、ヒートパイプの放熱側端に接続する熱電変換素子と、熱電変換素子の冷却側面に接続する放熱器と、熱電変換素子に接続する蓄電池とを備えた回生ブレーキ装置が示されている。この回生ブレーキ装置においては、制動によりブレーキキャリパのブレーキパッドに生じた摩擦熱がヒートパイプを介して熱電変換素子の加熱面に伝達される一方で熱電変換素子の冷却面が放熱器によって冷却されるため、熱電変換素子は加熱面側と冷却面側との間の温度差により電力を発生することができる。したがって、制動により運動エネルギーを熱エネルギー(摩擦熱)として回収して電気エネルギーに変換できるようになっている。
【0004】
また、下記特許文献2には、排気マニホールドの周囲に熱媒体を流通させて、排気マニホールドを通過する排気から熱媒体を介して排気熱を回収する排気熱回収装置が示されている。この排気熱回収装置においては、上流側排気浄化触媒の触媒温度に基づき、上流側排気浄化触媒が非活性状態であるときに、水などの流体状の熱触媒の流通を規制して排気マニホールドの熱容量を低下させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−220804号公報
【特許文献2】特開2009−228639号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記特許文献1に示された回生ブレーキ装置においては、ブレーキキャリパのブレーキパッドに生じた摩擦熱をヒートパイプを介して熱電変換素子の加熱面に伝達する。このため、熱電変換素子の発電効率が良好となる温度域で加熱面を加熱することが難しい。すなわち、通常、ブレーキ装置においては、適切な制動力を確保する観点から、構成部材の熱容量を大きくしておき、摩擦によって発生する熱による温度上昇を抑制するようになっている。このため、上記特許文献1に示された回生ブレーキ装置のように、一定の熱容量である場合には、例えば、良好な発電効率となる温度域までの温度上昇に時間がかかり、発電効率が上がらない場合がある。
【0007】
この点に関し、上記特許文献2に示された排気熱回収装置のように、構成部品の熱容量を可変することが考えられる。しかしながら、一般的にブレーキ装置(制動装置)においては、回転部(回転部材)を主要な構成部品とするものであるため、上記特許文献2に示された排気熱回収装置のような流体状の熱媒体を流通させたり、この熱媒体の流通を規制したりして熱容量を可変とすることは、無用に装置を複雑化させることになり現実的ではない。
【0008】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、簡単な構成により熱容量を変化させることができ、車両を適切に制動するとともに制動に伴って発生する熱エネルギーの回収を効率よく行う車両用制動装置を提供することにある。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、前記車輪と一体的に回転する回転部材とこの回転部材に対して押圧される摩擦部材とを設けて前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与する制動力付与手段と、前記摩擦によって前記回転部材に発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する熱電変換手段と、前記回転部材に設けられて、前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じて前記回転部材の熱容量を変化させる熱容量可変手段とを備えたことにある。
【0010】
この場合、前記熱容量可変手段を、前記回転部材の熱容量を増加させる熱容量増加部材と、前記回転部材と前記熱容量増加部材との間に設けられて、前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じた体積変化に伴って前記回転部材と前記熱容量増加部材とを熱的に接続または離間する接続手段とを含んで構成するとよい。この場合、前記接続手段は、前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じた体積変化が増加する変化であるときに前記回転部材と前記熱容量増加部材とを熱的に接続し、前記体積変化が減少する変化であるときに前記回転部材と前記熱容量増加部材とを熱的に離間させるようにするとよい。そして、これらの場合、前記接続手段は、例えば、前記回転部材と前記熱容量増加部材との間に形成されて、前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じた体積変化に伴って増減する隙間であるとよい。
【0011】
また、これらの場合、前記制動力付与手段は、例えば、前記車輪と一体的に回転するブレーキドラムとこのブレーキドラムに形成された摩擦摺動部に前記摩擦部材を押圧するブレーキシューとを備えて前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与するドラムブレーキユニットであり、前記熱容量可変手段を前記ブレーキドラムの摩擦摺動部に対して同心状に設けるようにするとよい。また、前記制動力付与手段は、例えば、前記車輪と一体的に回転するディスクロータとこのディスクロータに形成された摩擦摺動部に前記摩擦部材を押圧するブレーキキャリパとを備えて前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与するディスクブレーキユニットであり、前記熱容量可変手段を前記ディスクロータの摩擦摺動部に形成された収容空間内に収容するようにするとよい。
【0012】
さらに、これらの場合、前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを蓄電する蓄電手段を備えるとよい。
【0013】
これらによれば、制動力付与手段における回転部材(具体的には、ブレーキドラムやディスクロータに形成された摩擦摺動部)の摩擦に伴う温度変化に応じて、熱容量可変手段は回転部材の熱容量を変化させることができる。これにより、制動力の付与が開始されて回転部材の温度が低温である場合には、熱容量可変手段は回転部材の熱容量を変化させないようにすることができ、回転部材の温度が高温である場合には、熱容量可変手段は回転部材の熱容量を変化させるようにすることができる。具体的には、熱容量可変手段を、回転部材の熱容量を増加させる熱容量増加部材と、回転部材と熱容量増加部材とを熱的に接続または離間する接続手段とを含んで構成し、回転部材の温度が低温である場合には接続手段が回転部材と熱容量増加部材とを互いに離間させて回転部材の熱容量を変化させず、回転部材の温度が高温である場合には接続手段が回転部材と熱容量増加部材とを互いに接続させて回転部材の熱容量を増加させることができる。
【0014】
これにより、回転部材の温度が低温である場合には、摩擦によって発生する熱エネルギーが小さくても、熱容量の小さな回転部材の温度を速やかに上昇させることができ、その結果、熱電変換手段の加熱面を速やかに加熱することができる。したがって、熱電変換手段は、摩擦による熱エネルギーの発生量が小さい状況であっても、効率よく発生した熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。そして、このように熱電変換手段によって変換された電気エネルギーは蓄電手段に蓄電されて、例えば、車両に搭載された他の機器により利用することができる。
【0015】
一方、回転部材の温度が高温である場合には、熱容量増加部材との接続によって熱容量の増加することにより、回転部材の過剰な温度上昇を抑制することができ、その結果、熱電変換手段の加熱面を発電効率の良い温度域で加熱することができる。したがって、熱電変換手段は、効率よく発生した熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができ、変換した電気エネルギーを蓄電手段に蓄電することができる。さらに、回転部材の温度上昇を抑制することができるため、高温時に摩擦係数が急減する所謂フェード現象の発生を抑制することもでき、適切な制動力を付与することができる。
【0016】
また、接続手段としては、回転部材と熱容量増加部材との間に形成されて、回転部材の温度変化に応じた体積変化に伴って増減する隙間を採用することができる。これにより、回転部材の温度が低温である場合には隙間を存在させて回転部材と熱容量増加部材とを離間させることができ、また、回転部材の温度が高温である場合には回転部材の体積変化(熱膨張)により回転部材と熱容量増加部材とを接続させることができる。したがって、別途複雑な機構を設ける必要がなく、極めて簡単な構造によって回転部材の熱容量を変化させることができる。
【0017】
さらに、制動力付与手段がドラムブレーキユニットである場合にはブレーキドラムの摩擦摺動部に対して熱容量可変手段(より具体的には、熱容量増加部材)を隙間を有して同心状に設けることができる。また、制動力付与手段がディスクブレーキユニットである場合にはディスクロータの摩擦摺動部に形成された収容空間内に熱容量可変手段(より具体的には、熱容量増加部材)を隙間を有して収容することができる。これらにより、車両に極めて容易に搭載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1の制動部および熱回収部の組み付け状態を示す一部断面構成図である
【図3】図1の制動部および熱回収部の構成を詳細に示す一部断面構成図である。
【図4】図2の熱回収部(熱容量増加リング)の低温時における作動を説明するための図である。
【図5】図2の熱回収部(熱容量増加リング)の高温時における作動を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図7】図6の制動部および熱回収部の構成を詳細に示す一部破断構成図である。
【図8】図7の熱回収部(熱容量増加リング)の低温時における作動を説明するための図である。
【図9】図7の熱回収部(熱容量増加リング)の制動に伴う高温時における作動を説明するための図である。
【図10】図7の熱回収部(熱容量増加リング)の制動後の高温時における作動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
a.第1実施形態
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用制動装置Sのシステム構成を概略的に示している。この車両用制動装置Sは、車両を制動することに加えて、制動に伴って運動エネルギーを熱エネルギーとして回収し、さらに、この回収した熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電するものである。
【0020】
このため、車両用制動装置Sは、図1に示すように、車輪Wに対して制動力を付与する制動部10と、この制動部10による制動に伴って発生する熱エネルギーを回収するとともに回収された熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電する熱回収部20とを備えている。なお、図1においては、1輪に車両用制動装置Sを設けた場合を図示するが、例えば、車両の左右前輪側に車両用制動装置Sを設けたり、車両の左右後輪側や全輪に車両用制動装置Sを設けて実施可能であることはいうまでもない。
【0021】
制動力付与手段としての制動部10は、ブレーキドラム11と2個一対のブレーキシュー12とを備えたドラムブレーキユニットである。ブレーキドラム11は、図示しないサスペンション装置を構成するナックルNに回転可能に支持されたハブHに対してナットにより組み付けられていて、車輪Wと一体的に回転する回転部材である。ブレーキドラム11は、図2および図3に示すように、ハブHに対して組み付けられる円盤状のディスク部11aと、ブレーキシュー12と摩擦摺動する円環状の摩擦摺動部11bとから形成されている。
【0022】
ディスク部11aは、図2および図3に詳細に示すように、外周部分に肉厚部11a1が周状に形成されている。そして、この肉厚部11a1には、摩擦摺動部11bおよび後述する熱回収部20を構成する熱容量増加リング21をディスク部11aに対して相対回転不能に同心状に組み付けるための嵌合溝11a2が複数形成されている。なお、嵌合溝11a2は、例えば、十字状となるように、互いに平行となることなく形成される。また、嵌合溝11a2には、図3に示すように、摩擦摺動部11bおよび熱容量増加リング21を一体的に固着するためのボルトを挿通するための挿通孔11a3が形成されている。なお、挿通孔11a3の内径はボルトの外径に比して大きな内径とされている。
【0023】
摩擦摺動部11bは、例えば、FC150などの鋳鉄製であり、図2および図3に示すように、内周面にはフランジ部11b1が形成されている。そして、図3に示すように、このフランジ部11b1には、ディスク部11aに形成された嵌合溝11a2に嵌合する突部11b2が形成されている。さらに、突部11b2には、ネジ部11b3が形成されており、摩擦摺動部11bは、ボルトがネジ部11b3に螺着されることによって、ディスク部11aに対して一体的に組み付けられるようになっている。ここで、摩擦摺動部11bをディスク部11aに組み付ける際には、図2に示すように、ディスク部11a側に配置された滑りワッシャー11cを介してボルトがネジ部11b3に螺着される。これにより、後述するように発生する摩擦摺動部11bの体積変化、より詳しくは、熱膨張に伴う寸法変化が許容される。
【0024】
ブレーキシュー12は、図1に示すように、ブレーキドラム11内に収容されており、車体側に回転不能に固定されるバックプレートBPに対して組み付けられている。そして、ブレーキシュー12は、ホイールシリンダWSの作動により、摩擦部材をブレーキドラム11の摩擦摺動部11bに対して摩擦係合させるようになっている。なお、ドラムブレーキユニットの作動については、周知のドラムブレーキユニットと同様であり、また、本発明に直接関係しないため、その説明を省略する。
【0025】
このように構成された制動部10においては、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、ホイールシリンダWSにブレーキ液圧が供給される。これにより、ブレーキシュー12は、供給されるブレーキ液圧の増圧に伴って、摩擦部材をブレーキドラム11の摩擦摺動部11bに対して圧着させて摩擦係合させる。そして、車輪Wと一体的に回転するブレーキドラム11すなわち摩擦摺動部11bに対して摩擦部材を摩擦係合させることによって摩擦力が発生し、この摩擦力が車輪Wの回転を制動する制動力として付与される。
【0026】
このように、車輪Wの回転に対して制動力すなわち摩擦力を付与することに伴い、摩擦摺動部11bおよび摩擦部材には摩擦熱(熱エネルギー)が発生する。したがって、制動部10は、車両の制動に伴って運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギー(摩擦熱)に変換することにより、回転する車輪Wを制動することができる。
【0027】
次に、熱回収部20を説明する。熱回収部20は、図1および図2に示すように、ブレーキドラム11、より詳しくは、摩擦摺動部11bの径方向外側にて同心状に設けられた熱容量可変手段を構成する熱容量増加部材としての熱容量増加リング21を備えている。熱容量増加リング21は、例えば、FC150などの鋳鉄製であり、図2および図3に示すように、内周面上には摩擦摺動部11bの外周面に向けて突出する凸段部21aが形成されている。また、熱容量増加リング21の一側周面には、ブレーキドラム11を構成するディスク部11aに形成された嵌合溝11a2に嵌合する突部21bが形成されている。そして、突部21bには、ネジ部21cが形成されており、熱容量増加リング21は、図2に示すように、ボルトがネジ部21cに螺着されることによって、ディスク部11aに対して一体的に組み付けられるようになっている。ここで、熱容量増加リング21をディスク部11aに組み付ける際には、図2に示すように、嵌合溝11a2と突部21bとの間に配置された断熱ワッシャー21dを介してボルトがネジ部21cに螺着される。これにより、熱容量増加リング21からディスク部11aに向けての伝熱が抑制されるようになっている。
【0028】
また、図2に示すように、熱容量増加リング21に形成された凸段部21aの内周面と摩擦摺動部11bの外周面との間には、ブレーキドラム11の低温時において、熱容量可変手段を構成する接続手段としての隙間すなわちエアギャップ21eが形成されるようになっている。ここで、形成されるエアギャップ21eについて、詳細に説明する。
【0029】
エアギャップ21eは、摩擦摺動部11bの熱膨張の大きさに基づいて、その大きさすなわちエアギャップ量Gが決定される。具体的には、上述したように、制動部10においては、ブレーキドラム11の摩擦摺動部11bとブレーキシュー12との摩擦係合に伴って摩擦熱(熱エネルギー)が発生する。この場合、摩擦摺動部11bは、ディスク部11aの嵌合溝11a2に対して突部11a2が嵌合して組み付けられているため、発生した摩擦熱(熱エネルギー)によって熱膨張して半径方向外方、言い換えれば、熱容量増加リング21と接触する方向に向けて寸法変化が生じる。
【0030】
したがって、このような摩擦摺動部11bの熱膨張に伴う寸法変化を加味してエアギャップ21eのエアギャップ量Gを決定することにより、摩擦摺動部11bの温度に応じて、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とを接触させたり、離間させたりすることができる。これにより、ブレーキドラム11(より詳しくは、摩擦摺動部11b)の熱容量を温度に応じて変更することができ、摩擦熱(熱エネルギー)を適切に回収することができる。
【0031】
ところで、エアギャップ21eのエアギャップ量Gは、次のように決定することができる。今、理解を容易とするために、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とが同一の鋳鉄から形成されており、例えば、それぞれのリングの板厚を異ならせることにより、摩擦摺動部11bの熱容量に比して熱容量増加リング21の熱容量が大きい場合を想定する。そして、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とを互いに接触させる温度をそれぞれTmおよびTn(ただし、Tm>Tn)とし、熱膨張した摩擦摺動部11bが熱容量増加リング21と接触する直径をLmとする。このとき、摩擦摺動部11bの線膨張係数をKとすると、温度差Tm−Tnのときにおけるエアギャップ量Gは下記式1によって計算することができる。
G=Lm/2×K×(Tm−Tn) …式1
【0032】
すなわち、前記式1により計算されるエアギャップ量Gがブレーキドラム11の低温時に生じるように、摩擦摺動部11bの外径寸法または熱容量増加リング21の内径寸法を設定することにより、摩擦摺動部11bの温度がTmまで上昇したときに摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とを互いに接触させることができる。そして、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とが互いに接触することにより、摩擦摺動部11bに発生した摩擦熱(熱エネルギー)を熱容量増加リング21に伝熱させることができるため、熱容量増加リング21は伝熱した摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱することができる。したがって、発生した摩擦熱(熱エネルギー)による摩擦摺動部11bの温度に応じて、ブレーキドラム11の熱容量を変化させることができる。
【0033】
また、熱回収部20は、図2に詳細に示すように、ディスク部11aの肉厚部11a1と摩擦摺動部11bのフランジ部11b1との間に挟持された熱電変換部22を備えている。熱電変換部22は、物質(具体的には、半導体金属)が有する周知のゼーベック効果を利用して、付与された熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。そして、この熱電変換部22は、図3に示すように、一面側22aが制動部10の発熱部分である摩擦摺動部11bのフランジ部11b1に接触し、他面側22bが外気と接触するディスク部11aの肉厚部11a1に接触するように組み付けられている。なお、図2に示すように、ディスク部11aの肉厚部11a1と摩擦摺動部11bのフランジ部11b1との間に熱電変換部22を配置することにより、ディスク部11aの嵌合溝11a2と摩擦摺動部11bの突部11b2とは互いに接触しないようになっている。これにより、摩擦摺動部11bからディスク部11aに向けて摩擦熱(熱エネルギー)が移動する際には、熱電変換部22を介して伝熱されるようになっている。
【0034】
このように、熱電変換部22が組み付けられることにより、熱電変換部22は、後述するように、周知のゼーベック効果によって一面側22a(以下、加熱面22aという)と他面側22b(以下、冷却面22bという)との間の温度差に応じた起電力(電気エネルギー)を発電することができる。なお、以下の説明においては、熱電変換部22によって発電された起電力を回生電力(電気エネルギー)という。
【0035】
さらに、熱回収部20は、図1に示すように、変圧回路23とバッテリ24とを備えている。変圧回路23は、例えば、DC−DCコンバータやコンデンサなどを主要構成部品として熱電変換部22とバッテリ24とを電気的に接続する電気回路である。そして、変圧回路23は、熱電変換部22によって発電された回生電力を変圧してバッテリ24に出力する。バッテリ24は、変圧回路23から出力された回生電力を蓄電するものである。なお、熱電変換部22と変圧回路23との電気的な接続に関しては、本発明に直接関係しないため、いかなる方法を採用してもよい。例えば、変圧回路23が非接触により電磁的に熱電変換部22から回生電力を集電したり、スリップリングなどを介して変圧回路23が接触により熱電変換部22から回生電力を集電したりするとよい。
【0036】
このように、構成された車両用制動装置Sにおいては、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、制動部10が車輪Wの回転に対して制動力を付与する。すなわち、制動部10においては、上述したように、ブレーキペダルの操作に応じたブレーキ液圧がホイールシリンダWSに供給される。そして、ホイールシリンダWSは、供給されたブレーキ液圧により、車輪Wと一体的に回転するブレーキドラム11の摩擦摺動部11bに対してブレーキシュー12の摩擦部材を圧着させて摩擦係合させる。これにより、摩擦摺動部11bと摩擦部材との間に摩擦力が発生し、この摩擦力が制動力として回転する車輪Wに付与される。
【0037】
一方、摩擦力による制動に伴ってブレーキドラム11の摩擦摺動部11bに発生した摩擦熱(熱エネルギー)は、熱回収部20によって回収される。以下、熱回収部20による摩擦熱(熱エネルギー)の回収について詳細に説明する。
【0038】
まず、制動力の付与が開始されて摩擦摺動部11bの温度が上述した温度Tm未満となる比較的低温の場合から説明する。この場合には、摩擦によって発生する摩擦熱(熱エネルギー)が小さく、摩擦摺動部11bの熱膨張は小さい。したがって、図4に示すように、摩擦摺動部11bの半径方向外方にて熱容量増加リング21との間に形成されたエアギャップ22eは、エアギャップ量Gを有して存在する。このため、このように摩擦摺動部11bの温度が比較的小さい状況においては、すなわち、熱容量増加リング21と接触しない状況においては、発生した摩擦熱(熱エネルギー)は摩擦摺動部11bによってのみ蓄熱される。この場合、摩擦摺動部11bの熱容量を小さくしておくことによって、摩擦摺動部11bが速やかに摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱する、言い換えれば、摩擦摺動部11bの温度を速やかに上昇させることができる。
【0039】
そして、摩擦摺動部11bに蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)は、フランジ部11b1に接触している熱電変換部22の加熱面22aに伝熱される。熱電変換部22においては、加熱面22aが摩擦摺動部11bに蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱されるとともに、例えば、走行風によって相対的に低温に保たれるディスク部11aに接触している冷却面22bが冷却される。
【0040】
したがって、熱電変換部22は、加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、回生電力を発電することができる。そして、このように発電された回生電力は、変圧回路23によって変圧され、バッテリ24に蓄電される。このように、バッテリ24に蓄電された回生電力は、車両に搭載された他の機器で利用することができるため、例えば、エンジンの負荷を低減して燃費を向上させることができる。
【0041】
次に、摩擦によって摩擦摺動部11bの温度が温度Tmまで上昇した場合を説明する。この場合には、摩擦摺動部11bの熱膨張が大きくなり、図5に示すように、前記式1により計算されるエアギャップ量Gが「0」となって、エアギャップ21eが存在しない。したがって、摩擦摺動部11bは、熱容量増加リング21に対して熱的に接触する。このように、摩擦摺動部11bが熱容量増加リング21に接触すると、摩擦摺動部11bにて発生した摩擦熱(熱エネルギー)は熱容量増加リング21に向けて伝熱し、熱容量増加リング21は伝熱した摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱する。すなわち、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とが互いに接触した状態においては、摩擦摺動部11bの熱容量と熱容量増加リング21の熱容量とを合計した熱容量により摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱することができる。
【0042】
そして、摩擦摺動部11bおよび熱容量増加リング21によって蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)は、低温時の場合と同様に、摩擦摺動部11bのフランジ部11b1を介して熱電変換部22の加熱面22aに伝熱される。これにより、熱電変換部22は、加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回生電力を発電することができる。そして、このように発電された回生電力は、変圧回路23によって変圧され、バッテリ24に蓄電される。
【0043】
ところで、摩擦摺動部11bの温度が温度Tmまで上昇した場合には、上述したように、摩擦熱(熱エネルギー)は、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とによって蓄熱される。この場合、熱容量増加リング21の熱容量を摩擦摺動部11bの熱容量に比して大きくしておくことによって、摩擦摺動部11bの温度上昇を抑制することができる。これにより、熱電変換部22の加熱面22aを発電効率が良好となる温度域で加熱することができる。さらに、摩擦摺動部11bの温度上昇を抑制することができるため、温度上昇に伴ってブレーキシュー12の摩擦部材との間の摩擦係数が急減する現象、所謂、フェード現象の発生を抑制することができる。
【0044】
また、制動力の付与が解除された場合においては、摩擦摺動部11bにおける摩擦熱(熱エネルギー)の発生がなくなる。しかしながら、制動部10は、ドラムブレーキユニットであるため、発生した摩擦熱(熱エネルギー)は比較的長時間に渡りブレーキドラム11の内部に籠り、熱容量の小さな摩擦摺動部11bの温度は緩やかに低下する。さらには、一旦熱容量増加リング21と接触した摩擦摺動部11bの温度は、熱容量の大きな熱容量増加リング21によって維持される。これにより、摩擦摺動部11bの収縮(体積変化)がより緩やかになり、その結果、熱容量増加リング21と接触している状態が比較的長く継続する。
【0045】
このため、制動力の付与が解除された状態においても、熱容量増加リング21に蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)を摩擦摺動部11bに向けて伝熱させることができる。これにより、制動力の付与が解除された状態であっても、摩擦摺動部11bのフランジ部11b1を介して熱電変換部22の加熱面22aを引き続き加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回生電力を発電することができる。そして、このように発電された回生電力を、変圧回路23によって変圧して、バッテリ24に蓄電することができる。
【0046】
以上の説明からも理解できるように、この第1実施形態によれば、ブレーキドラム11の摩擦摺動部11bの摩擦に伴う温度変化に応じて、摩擦摺動部11bの熱容量を変化させることができる。具体的に、制動力の付与が開始されて摩擦摺動部11bの温度が比較的低温である場合には、エアギャップ21eのエアギャップ量Gを確保して摩擦摺動部11bに対して同心状に配置した熱容量増加リング21から離間させることによって、摩擦摺動部11bの熱容量を変化させない。これにより、摩擦摺動部11bの温度を速やかに上昇させることができ、その結果、熱電変換部22の加熱面22aを速やかに加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、摩擦熱(熱エネルギー)の発生量が小さい状況であっても、効率よく回生電力を発電することができる。
【0047】
一方、摩擦摺動部11bの温度が高温である場合には、摩擦摺動部11bの熱膨張(体積変化)によって、エアギャップ21eのエアギャップ量Gが0となり摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21とを熱的に接続することができる。これにより、発生した摩擦熱(熱エネルギー)を、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21の合計した熱容量によって蓄熱することができるため、摩擦摺動部11bの温度上昇を抑制して熱電変換部22の加熱面22aを発電効率の良い温度域で加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、効率よく回生電力を発電することができる。
【0048】
また、制動力の付与が解除された場合においては、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21との熱的な接続を維持することにより、熱容量増加リング21に蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)によって熱電変換部22の加熱面22aを加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、摩擦熱(熱エネルギー)が発生しない状況であっても、引き続き効率よく回生電力を発電することができる。
【0049】
さらに、摩擦摺動部11bと熱容量増加リング21との熱的な接続または離間は、摩擦摺動部11bにおける熱膨張によってエアギャップ21eのエアギャップ量Gが変化することによって実現することができる。したがって、極めて簡単な構造によって摩擦摺動部11bの熱容量を変化させることができるため、車両に極めて容易に搭載することができる。
【0050】
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、制動部10として、ブレーキドラム11とブレーキシュー12とを備えたドラムブレーキユニットを採用して実施した。そして、ブレーキドラム11を構成する摩擦摺動部11bの外周側にエアギャップ21eを確保して熱容量増加リング21を同心状に設け、温度に応じて摩擦摺動部11bにて発生した摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱する熱容量が変化するように実施した。
【0051】
この場合、制動部10として、図6に示すように、ディスクロータ13とブレーキキャリパ14とを備えたディスクブレーキユニットを採用して実施することも可能である。以下、この第2実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
ディスクロータ13は、図6に示すように、ハブHに対してナットにより組み付けられていて、車輪Wと一体的に回転する回転部材である。また、ディスクロータ13は、その外周部にて、後述するブレーキキャリパ14に組み付けられる摩擦部材としてのブレーキパッドと摩擦摺動する摩擦摺動部13aを備えている。そして、この摩擦摺動部13aには、図6および図7に示すように、熱回収部20の熱容量増加リング21を収容する収容空間13bが形成されている。また、ディスクロータ13は、ハブHに対して接触して固定されるハブ部13cを備えている。
【0053】
ブレーキキャリパ14は、2枚一対のブレーキパッドを収容しており、ブレーキパッドを回転するディスクロータ13の摩擦摺動部13aに対して押し付けて(圧着させて)摩擦力を発生するものである。なお、ディスクブレーキユニットの詳細な構造および作動については、周知のディスクブレーキユニットと同様であり、また、本発明に直接関係しないため、その説明を省略する。
【0054】
このように構成された第2実施形態の制動部10においては、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、ブレーキキャリパ14にブレーキ液圧が供給される。これにより、ブレーキキャリパ14は、供給されるブレーキ液圧の増加に伴ってブレーキパッドをディスクロータ13の摩擦摺動部13aに対して圧着させる。そして、車輪Wと一体的に回転するディスクロータ13の摩擦摺動部13aに対してブレーキパッドを圧着させて摩擦係合させることによって摩擦力が発生し、この摩擦力が車輪Wの回転を制動する制動力として付与される。したがって、この第2実施形態の制動部10も、車両の制動に伴って運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギー(摩擦熱)に変換することにより、回転する車輪Wを制動する。
【0055】
そして、このように発生する摩擦熱(熱エネルギー)は、熱回収部20によって回収される。この第2実施形態においては、図7に示すように、熱回収部20の熱容量増加リング21がディスクロータ13の摩擦摺動部13aに形成された収容空間13b内に収容される。このため、この第2実施形態における熱容量増加リング21は、上記第1実施形態の場合に比して凸段部21a、突部21b、ネジ部21cおよび断熱ワッシャー21dが省略される。一方、この第2実施形態の熱容量増加リング21は、図7に示すように、固定ピン21fにより、収容空間13b内にてディスクロータ13の回転方向に対して変位不能に固定されるようになっている。さらに、この第2実施形態の熱容量増加リング21においては、図7および図8に示すように、収容空間13bを形成する壁面13b1,13b2(すなわち、摩擦摺動部13aに対応する壁面)との間にて伝熱を抑制するための断熱板21gが設けられている。
【0056】
また、この第2実施形態では、図8に示すように、ディスクロータ13の低温時において、熱容量増加リング21の内周面21hと収容空間13bを形成する内周面13b3との間にてエアギャップ21e1が形成され、熱容量増加リング21の外周面21iと収容空間13bを形成する外周面13b4との間にてエアギャップ21e2が形成されるようになっている。すなわち、この第2実施形態の熱容量増加リング21は、ディスクロータ13の低温時において、収容空間13bを形成する内周面13b3と外周面13b4と接触しない状態とされている。
【0057】
ここで、この第2実施形態におけるエアギャップ21e1およびエアギャップ21e2について説明する。これらのエアギャップ21e1およびエアギャップ21e2のエアギャップ量G1およびエアギャップ量G2も、上記第1実施形態のエアギャップ21eのエアギャップ量Gと同様に決定されるものである。具体的に、エアギャップ21e1は、収容空間13bを形成する内周面13b3の熱膨張の大きさに基づいて決定される。すなわち、上述したように、制動部10においては、ディスクロータ13の摩擦摺動部13aとブレーキキャリパ14のブレーキパッドとの摩擦係合に伴って摩擦熱(熱エネルギー)が発生する。この場合、発生した摩擦熱(熱エネルギー)により、内周面13b3および外周面13b4には、熱膨張に伴う半径方向外方に向けての寸法変化が生じる。より詳しくは、内周面13b3は収容空間13b内に固定された熱容量増加リング21の内周面21hと接触する方向に向けて熱膨張し、外周面13b4は熱容量増加リング21の外周面21iから離間する方向に熱膨張する。したがって、エアギャップ21e1のエアギャップ量G1は、例えば、上記第1実施形態で説明した式1に従い、内周面13b3の熱膨張の大きさに基づいて計算することができる。
【0058】
これにより、エアギャップ量G1がディスクロータ13の低温時に生じるように、熱容量増加リング21の内径寸法を確保することにより、例えば、摩擦摺動部13aの温度がTmまで上昇したときには、図9に示すように、内周面13b3と熱容量増加リング21の内周面21hとを互いに接触させることができる。そして、内周面13b3と熱容量増加リング21の内周面21hとが互いに接触することにより、摩擦摺動部13aに発生した摩擦熱(熱エネルギー)を熱容量増加リング21に伝熱させることができるため、熱容量増加リング21は伝熱した摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱することができる。したがって、発生した摩擦熱(熱エネルギー)による摩擦摺動部13aの温度に応じて、ディスクロータ13の熱容量を変化させることができる。
【0059】
一方、エアギャップ21e2は、熱容量増加リング21の熱膨張の大きさに基づいて決定される。すなわち、上述したように、熱容量増加リング21に摩擦熱(熱エネルギー)が伝熱すると、熱容量増加リング21にも熱膨張に伴う半径方向外方に向けての寸法変化が生じる。より詳しくは、熱容量増加リング21の外周面21iは、外周面13b4と接触する方向に向けて熱膨張する。したがって、エアギャップ21e2のエアギャップ量G2も、例えば、上記第1実施形態で説明した式1に従い計算することができる。
【0060】
ここで、ディスクロータ13(より詳しくは、摩擦摺動部13a)の熱容量に比して熱容量増加リング21の熱容量が大きい場合、同一の温度においては、熱容量増加リング21の熱膨張量は外周面13b4の熱膨張量よりも小さくなる。したがって、例えば、摩擦摺動部13aにて摩擦熱(熱エネルギー)が発生している状況においては、図9に示したように、内周面13b3と熱容量増加リング21とが接触するものの、外周面13b4と熱容量増加リング21とは接触しない。ところが、摩擦摺動部13aにて摩擦熱(熱エネルギー)が発生していない状況においては、ディスクロータ13が走行風などによって冷却されるため、熱容量の小さい内周面13b3および外周面13b4は収縮(体積変化)する。
【0061】
これにより、エアギャップ量G2が低温時に生じるように、熱容量増加リング21の外径寸法を確保することにより、摩擦摺動部13a(より詳しくは、外周面13b4)の温度が低下したときに、図10に示すように、外周面13b4と熱容量増加リング21の外周面21iとを互いに接触させることができる。そして、外周面13b4と熱容量増加リング21の外周面21iとが互いに接触することにより、熱容量増加リング21に蓄熱した摩擦熱(熱エネルギー)をディスクロータ13の摩擦摺動部13aに伝熱させることができる。言い換えれば、熱容量増加リング21は、蓄熱した摩擦熱(熱エネルギー)を放熱することができる。なお、熱容量増加リング21の熱膨張量は、内周面13b3および外周面13b4の熱膨張量に比して小さいため、エアギャップ21e2はエアギャップ21e1よりも小さく設定されることが好ましい。
【0062】
また、この第2実施形態においては、熱回収部20を構成する熱電変換部22は、図6および図7に示すように、摩擦摺動部13aとハブ部13cとの間に挟持される。これにより、この第2実施形態における熱電変換部22は、加熱面22aが制動部10の発熱部分である摩擦摺動部13aに接触し、冷却面22bが外気と接触するハブ部13cに接触するように組み付けられている。したがって、熱電変換部22は、周知のゼーベック効果によって加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じた回生電力(電気エネルギー)を発電することができる。
【0063】
このように構成された第2実施形態における車両用制動装置Sにおいても、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、制動部10が車輪Wの回転に対して摩擦による制動力を付与する。そして、制動に伴ってディスクロータ13の摩擦摺動部13aに発生した摩擦熱(熱エネルギー)は、熱回収部20によって回収される。以下、この第2実施形態における熱回収部20による摩擦熱(熱エネルギー)の回収について詳細に説明する。
【0064】
まず、制動力の付与が開始されて摩擦摺動部13aの温度が、例えば、上述した温度Tm未満となる比較的低温の場合から説明する。この場合には、摩擦摺動部13aにて発生する摩擦熱(熱エネルギー)が小さく、収容空間13bを形成する内周面13b3および外周面13b4の熱膨張は小さい。したがって、内周面13b3および外周面13b4と熱容量増加リング21の内周面21hおよび外周面21iとの間に形成されたエアギャップ22e1およびエアギャップ21e2は、図8に示したように、エアギャップ量G1およびエアギャップ量G2を有して存在する。このため、摩擦摺動部13aの温度が比較的小さい状況においては、すなわち、熱容量増加リング21と接触しない状況においては、発生した摩擦熱(熱エネルギー)は摩擦摺動部13aによってのみ蓄熱される。この場合、摩擦摺動部13aの熱容量を小さくしておくことによって、摩擦摺動部13aが速やかに摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱する、言い換えれば、摩擦摺動部13aの温度を速やかに上昇させることができる。なお、この場合、収容空間13b内に収容された熱容量増加リング21は、断熱板21gによって断熱されている。したがって、摩擦摺動部13aにて発生した摩擦熱(熱エネルギー)が壁面13b1,13b2を介して熱容量増加リング21に向けて伝熱することが抑制される。
【0065】
そして、摩擦摺動部13aに蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)は、熱電変換部22の加熱面22aに伝熱される。熱電変換部22においては、加熱面22aが摩擦摺動部13aに蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱されるとともに、例えば、走行風によって相対的に低温に保たれるハブ部13cに接触している冷却面22bが冷却される。
【0066】
したがって、熱電変換部22は、加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、回生電力を発電することができる。そして、このように発電された回生電力は、変圧回路23によって変圧され、バッテリ24に蓄電される。このように、バッテリ24に蓄電された回生電力は、車両に搭載された他の機器で利用することができるため、例えば、エンジンの負荷を低減して燃費を向上させることができる。
【0067】
次に、摩擦によって摩擦摺動部13aの温度が、例えば、上述した温度Tmまで上昇した場合を説明する。この場合には、収容空間13bを形成する内周面13b3および外周面13b4の熱膨張が大きくなり、図9に示したように、内周面13b3と熱容量増加リング21の内周面21hとが接触してエアギャップ量G1が「0」となってエアギャップ21e1が存在しない。このように、内周面13b3が熱容量増加リング21の内周面21hに接触すると、摩擦摺動部13aにて発生した摩擦熱(熱エネルギー)は熱容量増加リング21に向けて伝熱し、熱容量増加リング21は伝熱した摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱する。すなわち、内周面13b3と熱容量増加リング21の内周面21hとが互いに接触した状態においては、摩擦摺動部13aの熱容量と熱容量増加リング21の熱容量とを合計した熱容量により摩擦熱(熱エネルギー)を蓄熱することができる。
【0068】
そして、摩擦摺動部13aおよび熱容量増加リング21によって蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)は、低温時の場合と同様に、摩擦摺動部13aを介して熱電変換部22の加熱面22aに伝熱される。これにより、熱電変換部22は、加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回生電力を発電することができる。そして、このように発電された回生電力は、変圧回路23によって変圧され、バッテリ24に蓄電される。
【0069】
ところで、この第2実施形態においても、摩擦摺動部13aの温度が、例えば、温度Tmまで上昇した場合には、摩擦熱(熱エネルギー)は、摩擦摺動部13aと熱容量増加リング21とによって蓄熱される。この場合、熱容量増加リング21の熱容量を摩擦摺動部13aの熱容量に比して大きくしておくことによって、摩擦摺動部13aの温度上昇を抑制することができる。これにより、熱電変換部22の加熱面22aを発電効率が良好となる温度域で加熱することができるとともに、制動部10においてはフェード現象の発生を抑制することができる。
【0070】
また、制動力の付与が解除された場合においては、摩擦摺動部13aにおける摩擦熱(熱エネルギー)の発生がなくなる。さらに、走行風などによってディスクロータ13の摩擦摺動部13aが冷却される。これにより、収容空間13bを形成する内周面13b3および外周面13b4はともに半径方向内方に向けて収縮する。しかしながら、熱容量増加リング21は、収容空間13b内に収容されているため、発生した摩擦熱(熱エネルギー)を比較的長時間に渡り蓄熱することができ、熱膨張した状態を維持することができる。このため、図10に示したように、収縮する外周面13b4と熱容量増加リング21の外周面21iとが接触してエアギャップ量G2が「0」となる。このように、外周面13b4が熱容量増加リング21の外周面21iに接触することによって、熱容量増加リング21に蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)を摩擦摺動部13aに向けて伝熱させることができる。
【0071】
これにより、制動力の付与が解除された状態であっても、摩擦摺動部13aを介して熱電変換部22の加熱面22aを引き続き加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、加熱面22aと冷却面22bとの間の温度差に応じて、周知のゼーベック効果により、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回生電力を発電することができる。そして、このように発電された回生電力を、変圧回路23によって変圧して、バッテリ24に蓄電することができる。
【0072】
以上の説明からも理解できるように、この第2実施形態においては、ディスクロータ13の摩擦摺動部13aの摩擦に伴う温度変化に応じて、摩擦摺動部13aの熱容量を変化させることができる。具体的に、制動力の付与が開始されて摩擦摺動部13aの温度が比較的低温である場合には、エアギャップ21e1のエアギャップ量G1およびエアギャップ21e2のエアギャップ量G2を確保して収容空間13b内に収容した熱容量増加リング21から離間させることによって、摩擦摺動部13aの熱容量を変化させない。これにより、摩擦摺動部13aの温度を速やかに上昇させることができ、その結果、熱電変換部22の加熱面22aを速やかに加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、摩擦熱(熱エネルギー)の発生量が小さい状況であっても、効率よく回生電力を発電することができる。
【0073】
一方、摩擦摺動部13aの温度が高温である場合には、摩擦摺動部13aの熱膨張(体積変化)によって、エアギャップ21e1のエアギャップ量G1が0となり摩擦摺動部13aと熱容量増加リング21とを熱的に接続することができる。これにより、発生した摩擦熱(熱エネルギー)を、摩擦摺動部13aと熱容量増加リング21の合計した熱容量によって蓄熱することができるため、摩擦摺動部13aの温度上昇を抑制して熱電変換部22の加熱面22aを発電効率の良い温度域で加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、効率よく回生電力を発電することができる。
【0074】
また、制動力の付与が解除された場合においては、エアギャップ21e2のエアギャップ量G2が0となり、摩擦摺動部13aと熱容量増加リング21との熱的な接続を維持することにより、熱容量増加リング21に蓄熱された摩擦熱(熱エネルギー)によって熱電変換部22の加熱面22aを加熱することができる。したがって、熱電変換部22は、摩擦熱(熱エネルギー)が発生しない状況であっても、効率よく回生電力を発電することができる。
【0075】
さらに、摩擦摺動部13aと熱容量増加リング21との熱的な接続または離間は、摩擦摺動部13aにおける熱膨張によってエアギャップ21e1のエアギャップ量G1およびエアギャップ21e2のエアギャップ量G2が変化することによって実現することができる。したがって、極めて簡単な構造によって摩擦摺動部13aの熱容量を変化させることができるため、車両に極めて容易に搭載することができる。
【0076】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0077】
例えば、上記各実施形態においては、摩擦熱(熱エネルギー)を回収して回生電力(電気エネルギー)に変換する熱電変換部22を設けて実施した。そして、熱容量増加リング21を設けることにより、摩擦摺動部11bおよび摩擦摺動部13aの温度を最適化することができるため、熱電変換部22が良好な発電効率によって回生電力を発電することができるようにした。
【0078】
このように、摩擦摺動部11bおよび摩擦摺動部13aの温度に応じて熱容量増加リング21が熱的に接続または離間することができるため、例えば、熱電変換部22を有していない通常の車両用制動装置に熱容量増加リング21を設けることも可能である。これにより、摩擦摺動部11bおよび摩擦摺動部13aの温度が上昇した場合には、熱容量増加リング21によって温度上昇が抑制されるため、通常の車両用制動装置においても発生するフェード現象を効果的に抑制することができる。したがって、この場合には、通常の車両用制動装置が適切な制動力を付与することができるという効果が得られる。
【0079】
また、上記各実施形態においては、熱電変換部22の冷却面22bがハブHとほぼ等しい温度に冷却されるように実施した。この場合、より熱電変換部22の発電効率を向上させるために、例えば、ハブHなどに放熱フィンを設けて実施することも可能である。この場合には、熱電変換部22の加熱面22aと冷却面22bとの温度差をより確実に確保することができるため、例えば、制動力の付与直後において摩擦摺動部11b,13aの温度が比較的低温である場合であっても、熱電変換部22は効率よく回生電力を発電することができる。
【符号の説明】
【0080】
10…制動部、11…ブレーキドラム、11a…ディスク部、11b…摩擦摺動部、11b1…フランジ部、12…ブレーキシュー、13…ディスクロータ、13a…摩擦摺動部、13b…収容空間、13c…ハブ部、14…ブレーキキャリパ、20…熱回収部、21…熱容量増加リング、21e,21e1,21e2…エアギャップ、22…熱電変換部、22a…加熱面、22b…冷却面、23…変圧回路、24…バッテリ、S…車両用制動装置、W…車輪、H…ハブ、N…ナックル、BP…バックプレート、WS…ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、
前記車輪と一体的に回転する回転部材とこの回転部材に対して押圧される摩擦部材とを設けて前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与する制動力付与手段と、
前記摩擦によって前記回転部材に発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する熱電変換手段と、
前記回転部材に設けられて、前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じて前記回転部材の熱容量を変化させる熱容量可変手段とを備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記熱容量可変手段を、
前記回転部材の熱容量を増加させる熱容量増加部材と、
前記回転部材と前記熱容量増加部材との間に設けられて、前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じた体積変化に伴って前記回転部材と前記熱容量増加部材とを熱的に接続または離間する接続手段とを含んで構成したことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両用制動装置において、
前記接続手段は、
前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じた体積変化が増加する変化であるときに前記回転部材と前記熱容量増加部材とを熱的に接続し、前記体積変化が減少する変化であるときに前記回転部材と前記熱容量増加部材とを熱的に離間させることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載した車両用制動装置において、
前記接続手段は、
前記回転部材と前記熱容量増加部材との間に形成されて、前記回転部材の前記摩擦による温度変化に応じた体積変化に伴って増減する隙間であることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか一つに記載した車両用制動装置において、
前記制動力付与手段は、
前記車輪と一体的に回転するブレーキドラムとこのブレーキドラムに形成された摩擦摺動部に前記摩擦部材を押圧するブレーキシューとを備えて前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与するドラムブレーキユニットであり、
前記熱容量可変手段を前記ブレーキドラムの摩擦摺動部に対して同心状に設けたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか一つに記載した車両用制動装置において、
前記制動力付与手段は、
前記車輪と一体的に回転するディスクロータとこのディスクロータに形成された摩擦摺動部に前記摩擦部材を押圧するブレーキキャリパとを備えて前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与するディスクブレーキユニットであり、
前記熱容量可変手段を前記ディスクロータの摩擦摺動部に形成された収容空間内に収容したことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか一つに記載した車両用制動装置において、
前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを蓄電する蓄電手段を備えたことを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−226530(P2011−226530A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95652(P2010−95652)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】