説明

車両用前照灯装置

【課題】前走車の運転者にグレアを与えることなく、車両前方の路面を十分に照射して道路の視認性を向上させる。
【解決手段】左側灯具30Lおよび右側灯具30Rは、それぞれロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方を含む領域を照射する。左右灯具に設けられるハイビーム形成用シェードは、灯具の光源から発せられる光の一部を遮蔽して、左側配光パターンおよび右側配光パターンを形成する。ハイビーム形成用シェードは、遮光領域の幅を変更可能に構成されている。車両位置検出部52は、前方の車両位置を検出する。カットオフライン変更部50は、左側配光パターンと右側配光パターンとを重ね合わせた全体配光パターンが、車両位置検出部52により検出される車両位置に合わせた遮光領域を構成するように、ハイビーム形成用シェードの遮光領域の幅を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに用いられる車両用前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯装置は、一般にロービームとハイビームとを切り替えることが可能である。ロービームは、近方を所定の照度で照明するものであって、対向車や先行車にグレアを与えないよう配光規定が定められており、主に市街地を走行する場合に用いられる。一方、ハイビームは、前方の広範囲および遠方を比較的高い照度で照明するものであり、主に対向車や先行車が少ない道路を高速走行する場合に用いられる。
【0003】
車両用前照灯装置では、車両曲進時にける車両前方路面の視認性を高めるため、左右方向または上下方向に回動可能に支持された灯具ユニットを車両走行状況に応じて回動制御するように構成されているものがある(例えば、特許文献1)。灯具ユニットから照射されるビームの向きを変化させることで、車両走行状況に即応した配光パターンでビーム照射を行うことができる。
【特許文献1】特開2003−123514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイビームはロービームと比較して運転者による視認性が優れているが、自車の前方を走行する車両(以下、「前走車」という)の運転者にグレアを与えてしまう。これを避けるために、上記特許文献1に記載されているような車両前照灯装置を用いて、前走車の位置を避けるように灯具ユニットから照射されるビームの向きを変えることが考えられる。しかし、このようにすると、車両前方の路面を十分に照射することができなくなり、視認性が低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、前走車の運転者にグレアを与えることなく、車両前方の路面を十分に照射して道路の視認性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、車両用前照灯装置である。この装置は、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方を含む領域を照射する第一灯具および第二灯具と、第一灯具の光源から発せられる光の一部を遮蔽して、鉛直線より少なくとも左側に遮光領域を有する第一配光パターンを形成するように第一灯具内に設けられ、遮光領域の幅を変更可能に構成された第一可変シェード手段と、第二灯具の光源から発せられる光の一部を遮蔽して、鉛直線より少なくとも右側に遮光領域を有する第二配光パターンを形成するように第二灯具内に設けられ、遮光領域の幅を変更可能に構成された第二可変シェード手段と、前方の車両位置を検出する車両位置検出手段と、第一配光パターンと第二配光パターンとを重ね合わせた全体配光パターンが、車両位置検出手段により検出される車両位置に合わせた遮光領域を構成するように、第一可変シェード手段と第二可変シェード手段の遮光領域の幅を制御する制御手段と、を備える。
【0007】
この態様によると、第一灯具および第二灯具から照射される二つの配光パターンを組み合わせて全体配光パターンを形成する前照灯装置において、各灯具内に設けられた可変シェード手段の遮光領域の幅を制御することで、車両位置検出手段で検出された前方の車両位置に合わせた遮光領域を形成する。こうすることで、前方車両の運転手にグレアを与えることなく、かつ遮光領域を最小限にすることができる。したがって、車両前方の路面の視認性が確保される。
なお、「配光パターン」とは、光源前方の仮想鉛直スクリーン上に投影される照射光による像のことを言う。したがって、「パターン」は複数のものが織りなす模様などではなく、照射光による単一色による像であってもよい。
【0008】
制御手段は、車両位置検出手段で検出された車両の台数に応じた遮光領域が全体配光パターンに形成されるように第一可変シェード手段および第二可変シェード手段を制御してもよい。これによると、複数台の車両が前方を走行している場合でも、前方車両の運転手にグレアを与えることなく、かつ遮光領域を最小限にすることができる。
【0009】
第一可変シェード手段および第二可変シェード手段は、それぞれ第一灯具または第二灯具内で光軸を横切る方向に移動可能な可動シェードであってもよい。これによると、車両位置に追従させてきめ細かに遮光領域を変えることができる。
【0010】
第一可変シェード手段および第二可変シェード手段は、遮光領域の幅が相異なる複数のシェードを切り替えて使用可能な切替型シェードであってもよい。これによると、上記のように光軸を横切る方向に可変シェードを移動させる機構が不要となるので、比較的簡素な構成とすることができる。
【0011】
第一灯具および第二灯具は、光源から発せられる光の一部を遮蔽してロービーム用配光パターンを形成するロービーム形成用シェードをさらに備えてもよい。可変シェードに加えて各灯具にロービーム形成用シェードを備えることで、一つの灯具でロービーム用配光パターンと、遮光領域を可変とした配光パターンの両方を照射することができ、部品点数を削減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両位置検出手段で検出された前方の車両位置に合わせた遮光領域を有する配光パターンを形成するので、遮光領域を最小限にして路面の視認性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯装置10の概略垂直断面図である。車両用前照灯装置10は、車体先端の左寄りに設けられる左側灯具と、右寄りに設けられる右側灯具とを含むが、図1では左側灯具30Lを描いている。以下では左側灯具について説明するが、右側灯具も基本的に同様の構成を有している。
【0014】
車両用前照灯装置10は、ランプボディ12と、ランプボディ12の前端開口部に取り付けられた透光カバー14とで形成される灯室内に、左側灯具30Lが収容された構成となっている。左側灯具30Lは、図示しない支持部材によってランプボディ12に取り付けられている。
【0015】
左側灯具30Lは、プロジェクタ型と称される灯具であり、光源であるバルブ86、リフレクタ84、投影レンズ22、ロービーム形成用シェード24およびハイビーム形成用シェード26を備える。左側灯具30Lは、バルブ86から出射した光をリフレクタ84に反射させ、リフレクタ84から前方に向かう光の一部をロービーム形成用シェード24またはハイビーム形成用シェード26で遮蔽して、灯具前方に配置された仮想鉛直スクリーン上にカットオフラインを有する配光パターンを投影する。
【0016】
リフレクタ84は、車両前後方向に延びる光軸Axを中心軸とする略楕円球面状の反射面を有している。この反射面は、光軸Axを含む断面形状が楕円をなし、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。バルブ86は反射面の鉛直断面を構成する楕円の第1焦点に配置されており、これによって光源からの光が上記楕円の第2焦点に収束するようになっている。
【0017】
投影レンズ22は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであって、光軸Ax上に配置されている。投影レンズ22は、後側焦点がリフレクタ84の反射面の第2焦点に一致するように配置されており、後側焦点面上の像を鉛直仮想スクリーン上に反転像として投影するように構成されている。投影レンズ22は、その周縁部がホルダ36の前端環状溝部に保持されている。
【0018】
灯具の光源としては、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LED、ネオン管、レーザ光源などが使用可能であるが、本実施形態では、一例としてハロゲンランプで構成されるバルブ86を示している。バルブ86は、リフレクタ84の略中央に形成された開口部に勘合固定されると共に、ランプボディ12によって支持されている。
【0019】
車両用前照灯装置10は、それぞれ個別に駆動可能なロービーム形成用シェード24またはハイビーム形成用シェード26を備えることで、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンの両方を作り出すことができる切替型の前照灯である。ロービーム形成用シェード24は、ローシェード駆動モータ34Lと図示しない歯車機構と接続されている。ローシェード駆動モータ34Lを作動させることで、図中に矢印25で示すように、ロービーム形成用シェード24を前方に傾斜するように倒したり、または直立位置に戻したりできるように構成されている。
【0020】
ハイビーム形成用シェード26は、ハイシェード駆動モータ32Lと略L字形のアーム37で接続されている。アーム37の上端はハイビーム形成用シェード26の下端に固定され、アーム37の下端はハイシェード駆動モータ32Lの出力軸に取り付けられている。ハイシェード駆動モータ32Lが作動して図中の矢印35のように回転すると、ハイビーム形成用シェード26が出力軸を中心に旋回して、光軸Axを横切る方向に移動することができる。この移動の様子は、図3および図4を参照してさらに説明する。
【0021】
図2は、図1に示した矢印Bの方向からロービーム形成用シェード24およびハイビーム形成用シェード26を観察したときの概念図である。図2に示すように、ロービーム形成用シェード24は、ロービーム用配光パターンにいわゆるカットオフラインが形成されるように、車幅方向の右側で光軸を横切る水平線より下側に水平に延びる右側部分と、車幅方向の左側で右側部分よりやや上方の位置を水平に延びる左側部分とが、左上がりに傾斜した中央部分によって連結された形状を有している。中央部分の傾斜角度は、例えば45°である。
【0022】
ハイビーム形成用シェード26は、ロービーム形成用シェード24の背面、すなわち光源側に配置される。図3に示すように、ハイビーム形成用シェード26は、光軸を横切る水平線より下側に配置され、略長方形形状をなしている。シェード26の垂直部26aによって、ハイビーム用配光パターン内に垂直のカットオフラインが形成される。
【0023】
図3(a)、(b)は、ローシェード駆動モータ34Lによって、ロービーム形成用シェード24が紙面に対して手前側に傾斜されたときの様子を示す。ロービーム形成用シェード24が倒されることで、光軸の水平線より下側にリフレクタ84で反射された光線が通過できる空間が産まれ、ハイビーム用配光パターンを照射可能となる。
【0024】
ハイビーム形成用シェード26は、光軸Axを横切る方向に移動可能である。図3(a)に示すように、初期状態では、シェード26は垂直部26aがリフレクタ84の中心線よりも右側に位置するように配置されるが、図3(b)に示すように、垂直部26aがリフレクタ84の中心線よりも左側に来る位置まで移動可能に構成されている。ハイビーム形成用シェード26の垂直部26aは、光軸Axを横切る方向にリフレクタ84の左端から右端まで連続的に移動可能とされることが好ましい。
【0025】
なお、右側灯具30Rに備えられるロービーム形成用シェード24とハイビーム形成用シェード26は、左側灯具30Lのものと左右対称になっていることに注意する。すなわち、右側灯具30R内に設けられるハイビーム形成用シェード26は、初期状態において、垂直部26aがリフレクタ84の中心線よりも左側に位置するように配置される。
【0026】
図4(a)〜(c)は、灯具前方の所定位置、例えば灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるハイビーム用配光パターンを示す。
図4(a)は、右側灯具30Rで形成される右側配光パターンRPを示す。右側配光パターンRPは、全体として楕円形のうち第二象限部分が切り欠けた形状をしている。そして、H−H線より上の領域が、H−H線より下の領域よりも若干小さくなるような形状をしている。図中の3つの曲線は照度の違いを表しており、中心部ほど高い照度となる。
【0027】
図中の垂直線は、右側配光パターンRP内に形成されるカットオフラインRCを表す。図1で示したように、各ハイビーム形成用シェード26シェードの前方には平凸非球面レンズからなる投影レンズ22が配置されているので、ハイビーム照射領域により形成される投映像は仮想鉛直スクリーン上で上下逆さまになることに注意する。
【0028】
カットオフラインRCは、図中に矢印で示すように、光軸Axを横切る水平方向に移動させることができる。カットオフラインRCは、初期状態ではV−V線よりも右側に位置する。カットオフラインRCの移動範囲は、ハイビーム形成用シェード26の移動可能範囲によって決まる。図4(a)では、第一象限内でのみ移動するように描かれているが、楕円長軸の大部分にわたってカットオフラインRCを移動できるようにすることが好ましい。
【0029】
図4(b)は、左側灯具30Lで形成される左側配光パターンLPを示す。左側配光パターンLPも、右側配光パターンRPと同様、全体として楕円形のうち第一象限部分が切り欠けており、H−H線より上の領域がH−H線より下の領域よりも若干小さくなるような形状をしている。垂直のカットオフラインLCは、初期状態ではV−V線よりも左側に位置する。その他の構成は、カットオフラインRCと同様である。
【0030】
図4(c)は、右側配光パターンRPと左側配光パターンLPとを重ね合わせた全体配光パターンを示す。右側配光パターンRPと左側配光パターンLPとは、同じ大きさの楕円を作るように構成されている。したがって、両者が重ね合わせられた全体配光パターンでは、H−H線より下側は単独のときと比べて二倍の照度となり、H−H線より上側では単独のときと同じ照度となる。それぞれの配光パターンのカットオフラインRC、LCの位置に応じて、全体配光パターンのH−H線より上側には、凹字状の遮光領域Sが形成される。カットオフラインの位置を変えることで、この凹字状の遮光領域を楕円の長軸に沿って水平方向に移動させることができる。これについては、図7以降で詳述する。
【0031】
図5は、車両用前照灯装置10の全体構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置、電気回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0032】
前照灯装置制御部40は、左側灯具30Lおよび右側灯具30Rの消点灯および灯具内に設けられた各シェードの動作を制御する。前照灯装置制御部40は、運転手による図示しない前照灯スイッチの操作に応じて電源回路42に指令を出し、左側灯具30Lおよび右側灯具30Rを点灯または消灯する。
運転者が前照灯スイッチでロービームを指示した場合には、シェード駆動部44に対してロービーム形成用シェード24を直立位置に移動するよう指示し、シェード駆動部44は、ローシェード駆動モータ34Lおよび34Rを作動させる。これにより、ロービーム用配光パターンで照射が行われる。運転者がハイビームを指示した場合には、シェード駆動部44に対してロービーム形成用シェード24を傾斜させるよう指示し、シェード駆動部44は、ローシェード駆動モータ34Lおよび34Rを作動させる。これにより、ロービーム形成用シェード24が前方に倒されて、ハイビーム用配光パターンで照射が行われる。
【0033】
カットオフライン変更部50は、車両位置検出部52、カットオフライン位置決定部54、シェード移動量指示部56を含む。
【0034】
車両位置検出部52は、車両前方を撮像するよう車両に据え付けられたCCD(Charge Coupled Device)カメラ90で取得された画像に基づき、配光パターン内で前走車が占める位置を検出する。具体的には、車両位置検出部52は、カメラ90で取得された車両前方の画像内で、車両の前照灯または尾灯に相当する部分を既知のアルゴリズムにしたがってって検出し、配光パターン内のH−H線およびV−V線と照らし合わせて車両位置を決定する。車両位置データは、カットオフライン位置決定部54に出力される。このようなカメラの撮像画像内から前走車を検出する手法は周知であるから、ここでは詳細な説明を省略する。なお、カメラ90の代わりに、ミリ波レーダや赤外線レーダなどの他の検出手段を用いて前走車の位置を検出してもよい。
【0035】
カットオフライン位置決定部54は、運転者によりハイビームが指示されている場合に、車両位置検出部52で検出された車両位置に合わせた遮光領域が形成されるように、右側配光パターンRPと左側配光パターンLPにおけるそれぞれのカットオフラインRC、LCの水平方向位置を決定する。つまり、右側配光パターンRPと左側配光パターンLPとを組み合わせた全体配光パターン内に、前走車にグレアを与えないような適切な遮光領域が形成されるようにカットオフライン位置を決定する。カットオフラインは、検出された前走車の両端からそれぞれ若干量外側に、カットオフラインとH−H線との交点が来るように配置することが好ましい。
【0036】
シェード移動量指示部56は、右側配光パターンRPと左側配光パターンLPのカットオフラインRC、LCが、カットオフライン位置決定部54で定められた水平方向位置に来るように、右側灯具30Rと左側灯具30L内のハイビーム形成用シェード26の移動量を算出し、シェード駆動部44に指示する。
シェード駆動部44は、シェード移動量指示部56から指示された移動量が実現されるように、ハイシェード駆動モータ32Lおよび32Rに駆動信号を送る。
【0037】
図6は、本実施形態における車両位置に応じた遮光制御の流れを示すフローチャートである。車両に搭載されたカメラ90が、車両前方の画像を撮影する(S10)。車両位置検出部52は、撮影された画像に基づき、前走車がハイビーム用配光パターン内で占める位置を検出する(S12)。カットオフライン位置決定部54は、検出された車両位置に基づき、車両部分を遮光領域とした全体配光パターンが形成されるように、右側配光パターンRPと左側配光パターンLPにおけるカットオフライン位置を決定する(S14)。シェード移動量指示部56は、決定されたカットオフライン位置に応じて、左側灯具30Lおよび右側灯具30R内のハイビーム形成用シェード26の移動量を決定する(S16)。シェード駆動部44は、シェード移動量に応じた制御信号を、ハイシェード駆動モータ32Rおよび32Lに送信する(S18)。
【0038】
以上の構成による本実施形態の動作は以下の通りである。前走車が検出されると、車両位置の右端にカットオフラインが位置する右側配光パターンと、車両の左端にカットオフラインが位置する左側配光パターンが形成されるように、左右灯具内でハイビーム形成用シェードを移動させる。こうして作られた左右の配光パターンを重ね合わせた全体配光パターンを照射することで、前走車の運転者にグレアを与えない配光とすることができる。
【0039】
続いて、前走車の車両位置に応じた配光パターン内の遮光領域形状について、図7乃至12を参照して説明する。
【0040】
図7は、自車両が直線道路72を走行中に前走車70が観察された様子を示す。カットオフライン位置決定部54は、前走車70の右端にH−H線との交点が来るよう右側配光パターンのカットオフラインRCの位置を決定するとともに、前走車70の左端にH−H線との交点が来るよう左側配光パターンLPのカットオフラインLCの位置を決定する。
【0041】
図8は、位置決定部54で決定されたカットオフラインを有する右側配光パターンRPと左側配光パターンLPを重ね合わせた全体配光パターンの様子を示す。図示するように、前走車70の位置に合わせて、カットオフラインRCおよびLCで形成された凹型の遮光領域Sが全体配光パターン内に形成されている。これによって、前走車70の運転者にグレアを与えることなく、かつ遮光領域を最小限とした配光パターンで路面が照射される。
【0042】
図9は、自車両が曲線道路76を走行中に前走車70が観察された様子を示す。この図では、図7の場合と異なり、前走車70はV−V線から離れた左方に位置している。このような場合でも、車両位置に合わせて遮光領域を移動させることができる。
【0043】
カットオフライン位置決定部54は、前走車70の右端に合わせてカットオフラインRCとH−H線との交点を配置し、また前走車70の左端に合わせてカットオフラインLCとH−H線との交点を配置する。
【0044】
図10は、位置決定部54で決定されたカットオフラインを有する右側配光パターンRPと左側配光パターンLPを重ね合わせた全体配光パターンの様子を示す。図示するように、前走車の水平方向位置が左にずれた場合でも、車両位置に合わせた最小限の遮光領域Sを有する全体配光パターンを形成することができる。
【0045】
図11は、自車両が曲線道路78を走行中に先行車70aと対向車70bとが観察された様子を示す。今回のように撮影画像内に複数台の車両が捉えられた場合、カットオフライン位置決定部54は、最も右にある車両の右端に合わせてカットオフラインRCとH−H線との交点を配置するとともに、最も左にある車両の左端に合わせてカットオフラインLCとH−H線との交点を配置する。
【0046】
図12は、位置決定部54で決定されたカットオフラインを有する右側配光パターンRPと左側配光パターンLPを重ね合わせた全体配光パターンの様子を示す。図示するように、前走車が複数台ある場合、遮光領域Sは横長の長方形状となる。しかし、このときも、いずれの前走車の運転者にもグレアを与えることなく、かつ遮光領域を最小限とした配光パターンで路面を照射することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、右側配光パターンと左側配光パターンとの重ね合わせによりハイビーム用の配光パターンを作成する前照灯装置において、右側灯具および左側灯具内でハイビーム形成用シェードを駆動することで、配光パターン内でカットオフライン位置を水平方向に移動できるようにした。これにより、左右のカットオフラインの組合せによって遮光領域を水平方向に自在に移動させることが可能になり、したがって、前走車位置のみを遮光領域とした全体配光パターンを作り出すことができる。シェードが連続的に移動できるように構成すれば、カットオフライン位置も配光パターン内で連続的に移動するので、前走車の水平方向位置、大きさ、および車両の数に応じて、遮光領域の範囲を最適に設定することができる。したがって、前走車の運転者にグレアを与えることなく、遮光範囲を最低限として路面の照度を確保することができる。
【0048】
本実施形態のように、ハイビーム用配光パターン内でカットオフラインを移動させて遮光領域を形成させると、以下のような利点もある。すなわち、前走車にグレアを与えないために、ハイビームからロービームに切り替えたりすると、前走車の両側を照射することができなくなり、結果として前方視認性を低下させることになるが、本実施形態では、前方視認性をほとんど損なうことがない。
また、前走車を避けるように灯具をスイブルさせた場合、遮光領域が必要以上に大きくなったり、道路の両側を不必要に広い範囲で照らしてしまうことになり、自車両の左右を走行する車両や歩行者にグレアを与えてしまう可能性がある。これに対して、本実施形態では、灯具から発射される光線の方向は不変であるから、そのような恐れはない。
また、灯具をスイブルさせると、路面の配光が大きく変化するため、運転者に煩わしさを与える恐れがあるが、本実施形態では、前走車の有無やその位置にかかわらず、少なくともH−H線より下側の領域では照度が変わることがないので、自然なフィーリングで遮光制御することができる。
【0049】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態同士の任意の組合せ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組合せなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0050】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【0051】
例えば、各実施形態における灯具30はいわゆる反射タイプのものであるが、灯具30は、バルブ86から投影レンズ22に直接光照射される直射タイプであってもよい。
【0052】
右側配光パターンおよび左側配光パターン内に形成されるカットオフラインは、曲線や傾斜した線であってもよい。これにより、U字状やV字状の遮光領域を全体配光パターン内に形成することができる。
【0053】
実施の形態では、右側灯具が右側配光パターンを、左側灯具が左側配光パターンを形成することを述べたが、この関係は逆でもよい。すなわち、右側灯具が左側配光パターンを、左側灯具が右側配光パターンを形成してもよい。
【0054】
実施の形態では、右側灯具および左側灯具を、ロービームとハイビームを切り替え可能なものとして説明したが、これらはハイビーム専用の灯具であってもよい。すなわち、ハイビーム形成用シェードのみを灯具内に備えた構成であってもよい。
【0055】
実施の形態では、ハイビーム形成用シェードを光軸を横切る方向に駆動することで、配光パターン内のカットオフラインを移動させることを述べた。しかし、この構成の代わりに、それぞれ遮蔽面積の異なる複数のハイビーム形成用シェードを回転軸の円周側面に間隔を空けて取り付けたいわゆるロータリーシェードを灯具内に設け、軸を回転させていずれかのシェードをリフレクタの焦点に合わせることで、配光パターン内のカットオフラインを移動させるようにしてもよい。
【0056】
また、実施の形態に係るハイビーム形成用シェードを移動可能な構成を有する灯具を、周知のスイブル機構と組み合わせて使用してもよい。これにより、前走車の運転手へのグレアを防止しつつ、車両の曲進に応じた照射制御をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯装置の概略垂直断面図である。
【図2】図1に示した矢印Bからロービーム形成用シェードおよびハイビーム形成用シェードを観察したときの概念図である。
【図3】(a)、(b)は、ロービーム形成用シェードが紙面に対して手前側に傾斜されたときの様子を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に形成されるハイビーム用配光パターンを示す図である。
【図5】車両用前照灯装置の全体構成を示す機能ブロック図である。
【図6】車両位置に応じた遮光制御の流れを示すフローチャートである。
【図7】直線道路を自車両が走行中に前走車が観察された様子を示す図である。
【図8】図7に示した右側配光パターンと左側配光パターンを照射したときの様子を示す図である。
【図9】曲線道路を自車両が走行中に前走車が観察された様子を示す図である。
【図10】図9に示した右側配光パターンと左側配光パターンを照射したときの様子を示す図である。
【図11】曲線道路を自車両が走行中に先行車と対向車とが観察された様子を示す図である。
【図12】図11に示した右側配光パターンと左側配光パターンを照射したときの様子を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10 車両用前照灯装置、 12 ランプボディ、 14 透光カバー、 22 投影レンズ、 24 ロービーム形成用シェード、 26 ハイビーム形成用シェード、 30L 左側灯具、 30R 右側灯具、 32 ハイシェード駆動モータ、 34 ローシェード駆動モータ、 36 ホルダ、 40 前照灯装置制御部、 42 電源回路、 44 シェード駆動部、 50 カットオフライン変更部、 52 車両位置検出部、 54 カットオフライン位置決定部、 56 シェード移動量指示部、 70 前走車、 84 リフレクタ、 86 バルブ、 90 カメラ、 Ax 光軸、 RC 右カットオフライン、 LC 左カットオフライン、 RP 右側配光パターン、 LP 左側配光パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方を含む領域を照射する第一灯具および第二灯具と、
第一灯具の光源から発せられる光の一部を遮蔽して、鉛直線より少なくとも左側に遮光領域を有する第一配光パターンを形成するように前記第一灯具内に設けられ、前記遮光領域の幅を変更可能に構成された第一可変シェード手段と、
第二灯具の光源から発せられる光の一部を遮蔽して、鉛直線より少なくとも右側に遮光領域を有する第二配光パターンを形成するように前記第二灯具内に設けられ、前記遮光領域の幅を変更可能に構成された第二可変シェード手段と、
前方の車両位置を検出する車両位置検出手段と、
前記第一配光パターンと前記第二配光パターンとを重ね合わせた全体配光パターンが、前記車両位置検出手段により検出される車両位置に合わせた遮光領域を構成するように、前記第一可変シェード手段と前記第二可変シェード手段の遮光領域の幅を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記車両位置検出手段で検出された車両の台数に応じた遮光領域が前記全体配光パターンに形成されるように前記第一可変シェード手段および前記第二可変シェード手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記第一可変シェード手段および前記第二可変シェード手段は、それぞれ第一灯具または第二灯具内で光軸を横切る方向に移動可能な可動シェードであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記第一可変シェード手段および前記第二可変シェード手段は、前記遮光領域の幅が相異なる複数のシェードを切り替えて使用可能な切替型シェードであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
前記第一灯具および前記第二灯具は、光源から発せられる光の一部を遮蔽してロービーム用配光パターンを形成するロービーム形成用シェードをさらに備えることを特徴とする請求項3または4に記載の車両用前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−227088(P2009−227088A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74442(P2008−74442)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】