説明

車両用前照灯装置

【課題】前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させた場合に、運転者に違和感を与える可能性を低減する。
【解決手段】車両用前照灯装置は、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが段階的または連続的に高くなるような第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3を有する第1付加配光パターンRHi1〜RHi3を形成可能な灯具ユニットと、前方車両の存在に応じて、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3の形成を切り替え制御する照射制御部228Rと、を備える。第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3は、その傾斜角度が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯装置に関し、特に、自動車などに用いられる車両用前照灯装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯装置は、一般にロービームとハイビームとを切り替えることが可能である。ロービームは、対向車や先行車を含む前方車両にグレアを与えないように近方を所定の照度で照明するものであり、主に市街地を走行する場合に用いられている。一方、ハイビームは、前方の広範囲および遠方を比較的高い照度で照明するものであり、主に前方車両が少ない道路を高速走行する場合に用いられている。
【0003】
ハイビームは、ロービームと比較してより運転者による視認性に優れているが、他車両の運転者にグレアを与えてしまうという問題がある。したがって、特に都市部での夜間走行時にはロービームが用いられる場合が多く、ロービーム時にはハイビーム用の光源は使用されていない。また一方で、ロービーム時に運転者による道路の視認性を向上させたいという要求は常に存在している。
【0004】
これに対し、特許文献1には、板状の固定シェードと、固定シェードの隅部に回動可能に支持された三角形状の可動シェードを備え、車速とステアリング操舵角に応じて可動シェードを変位させるとともに前照灯装置をスイブルさせることで、自車線側の照射領域を変更させる車両用前照灯装置が開示されている。この車両用前照灯装置は、このような構造により、直線走行時および左右カーブ旋回走行時とも対向車線に対しては確実に遮光し、すれ違いビーム(ロービーム)に近い状態で走行できるとともに、走行車線(自車線)に対してはできるだけ遮光しない走行ビーム(ハイビーム)に近い状態を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−244934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の実施形態1では走行道路形状に応じた自車線側の視認性向上を図っているが、対向車線側についても運転者の視認性を向上させたいという要求がある。対向車線側の視認性を向上させるために対向車線側をハイビームに近い状態とする場合には、対向車にグレアを与えないように配慮する必要がある。これに対し、側通行時にハイビームの自車線側に遮光領域を有し、対向車線側のみハイビームで照射する、いわゆる右片ハイ用配光パターンを形成しながら、対向車の存在位置に応じて灯具をスイブルさせる方法が考えられる。この方法では、初期位置において自車線側にある遮光領域を、灯具をスイブルさせることで対向車の存在領域に重畳させている。これによれば、対向車へのグレアを防ぎながら対向車線側領域における運転者の視認性を向上させることができる。
【0007】
しかしながら、この方法では灯具をスイブルさせて自車線側にある遮光領域を対向車線側に変位させている。そのため、右片ハイ用配光パターンの遮光領域と照射領域との明暗境界が、直線走行時にほぼ中央に位置する運転者の視線集中領域を水平方向に移動することになる。その結果、運転者の視線集中領域における明暗変化が大きくなり、運転者に違和感を与えてしまうおそれがあった。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させた場合に、運転者に違和感を与える可能性を低減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用前照灯装置は、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが段階的または連続的に高くなるような傾斜カットオフラインを有する付加配光パターンであって、当該傾斜カットオフラインの形状が異なる複数の付加配光パターンを形成可能な灯具ユニットと、前方車両の存在に応じて、複数の付加配光パターンの形成を切り替え制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この態様によれば、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させた場合に、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【0011】
上記態様において、灯具ユニットは、車両前方へ光を照射可能な光源と、光源から照射された光の一部を遮蔽可能であり、回転駆動することにより回転位置に応じて複数の付加配光パターンのうちいずれか1つを形成可能な回転シェードと、を備えてもよい。これによれば、少ないスペースで複数の付加配光パターンを形成することができる。
【0012】
上記態様において、複数の付加配光パターンはそれぞれ、傾斜カットオフラインの傾斜角度が異なり、制御部は、複数の付加配光パターンの切り替えによって傾斜角度を段階的または連続的に変化させてもよい。これによっても、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させた場合に、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【0013】
上記態様において、複数の付加配光パターンはそれぞれ、傾斜カットオフラインの車幅方向中心側端部の車幅方向位置が異なり、制御部は、複数の付加配光パターンの切り替えによって車幅方向中心側端部の車幅方向位置を段階的または連続的に変化させてもよい。これによれば、運転者に与える違和感の低減を図りながら、前方車両に与えるグレアをより確実に防止することができる。
【0014】
また上記態様において、傾斜カットオフラインの鮮明度は、付加配光パターンの中心領域に位置する部分に対して外側領域に位置する部分が低くてもよい。これによれば、付加配光パターンの中心領域において前方車両に与えるグレアを防止することができるとともに、付加配光パターンの外側領域における運転者の違和感を低減することができる。
【0015】
上記態様において、上述の態様における傾斜カットオフラインを第1傾斜カットオフラインとし、付加配光パターンを第1付加配光パターンとし、灯具ユニットを第1灯具ユニットとした場合に、ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の自車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが段階的または連続的に高くなるような第2傾斜カットオフラインを有する第2付加配光パターンであって、当該第2傾斜カットオフラインの形状が異なる複数の第2付加配光パターンを形成可能な第2灯具ユニットを備え、制御部は、前方車両の存在に応じて、複数の第1付加配光パターンおよび第2付加配光パターンの形成を切り替え制御してもよい。これによれば、対向車および先行車に与えるグレアを防止しつつ、運転者の対向車線側および自車線側の領域における視認性を向上させることができるとともに、配光パターンを変化させた際に運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させた場合に、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係る車両用前照灯装置の内部構造を説明する概略鉛直断面図である。
【図2】回転シェードの概略斜視図である。
【図3】前照灯ユニットの照射制御部と車両側の車両制御部との動作連携を説明する機能ブロック図である。
【図4】図4(A)〜図4(E)は、左側の前照灯ユニットにより形成される配光パターンの形状を示す説明図であり、図4(F)〜図4(J)は、右側の前照灯ユニットにより形成される配光パターンの形状を示す説明図である。
【図5】図5(A)〜図5(E)は、前方車両と配光パターンとの関係を説明するための図である。
【図6】実施形態1に係る車両用前照灯装置における、配光パターン形成の制御フローチャートである。
【図7】図7(A)および図7(B)は、配光パターンの切り替えによる照射領域の変化を示す図である。
【図8】図8(A)および図8(B)は、実施形態2に係る車両用前照灯装置の回転シェードの概略斜視図である。
【図9】図9(A)〜図9(C)は、回転シェード位置と配光パターン形状との関係を示す説明図である。
【図10】図10(A)〜図10(C)は、回転シェード位置と配光パターン形状との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る車両用前照灯装置の内部構造を説明する概略鉛直断面図である。本実施形態の車両用前照灯装置200は、車両の車幅方向の左側端部に配置された前照灯ユニット210Lと右側端部に配置された前照灯ユニット210Rとを備える(以下、適宜、前照灯ユニット210Lと前照灯ユニット210Rを総称して「前照灯ユニット210」という)。本実施形態の前照灯ユニット210L,210Rは、例えば1つの光源から照射されるビームの一部を遮ることによりロービーム用配光パターンや後述する付加配光パターンを形成し、遮らないときにハイビーム用配光パターンを形成する、いわゆる配光可変式前照灯である。前照灯ユニット210L,210Rの大部分は左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明し、左側の前照灯ユニットの説明は適宜省略する。なお、前照灯ユニット210Lの各部材について記載する場合には、説明の便宜上、各部材に対して前照灯ユニット210Rの対応する部材と同一の符号を付す。また、前照灯ユニット210R側の符号が末尾に「R」を含む場合には、末尾の「R」を「L」に置き換える。
【0020】
前照灯ユニット210Rは、ランプボディ212と透光カバー214を含む。ランプボディ212は、車両前方方向に開口部を有し、後方側にはバルブ14の交換時等に取り外す着脱カバー212aを有する。そして、ランプボディ212の前方の開口部には、透光カバー214が接続されて灯室216が形成される。灯室216には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218は、ランプボディ212の壁面に回転自在に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。したがって、灯具ユニット10はエイミング調整ネジ220の調整状態で定められた灯室216内の所定位置に傾動可能な状態で支持されることになる。
【0021】
また、灯具ユニット10の下面には、曲線道路走行時等に進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-lighing System:AFS)などを構成するためのスイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は車両側から提供される操舵量のデータやナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、対向車や先行車を含む前方車両と自車との相対位置の関係等に基づいて、灯具ユニット10を、ピボット機構218aを中心として進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、灯具ユニット10の照射領域が車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視認性が向上する。スイブルアクチュエータ222は、例えばステッピングモータで構成することができる。なお、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。
【0022】
スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は、例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット10が後傾姿勢になると、光軸を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット10が前傾姿勢になると、光軸を下方に向けるレベリング調整ができる。このような、レベリング調整をすることで車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用前照灯装置200による前方照射光の到達距離を最適な距離に調整することができる。
【0023】
このレベリング調整は、車両走行中の車両姿勢に応じて実行することもできる。例えば、車両が走行中に加速する場合は車両姿勢は後傾姿勢となり、逆に減速する場合は前傾姿勢となる。したがって、前照灯ユニット210の照射方向も車両の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで実行することで走行中でも前方照射の到達距離を最適に調整できる。これを「オートレベリング」と称することもある。
【0024】
灯具ユニット10下方位置の灯室216の内壁面には、灯具ユニット10の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する照射制御部228(制御部)が配置されている。図1の場合、前照灯ユニット210Rを制御するための照射制御部228Rが配置されている。この照射制御部228Rは、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226等の制御も実行する。なお、前照灯ユニット210Lは専用の照射制御部228Lを有していてもよいし、前照灯ユニット210Rに設けられた照射制御部228Rが前照灯ユニット210Rおよび前照灯ユニット210Lの各アクチュエータの制御や配光パターンの形成制御を一括して制御するようにしてもよい。
【0025】
灯具ユニット10はエイミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エイミング調整時の揺動中心となるエイミングピボット機構(図示せず)を配置する。また、ランプブラケット218には前述したエイミング調整ネジ220が車幅方向に間隔を空けて配置されている。例えば2本のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸が下方に調整される。同様に2本のエイミング調整ネジ220を時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸が上方に調整される。また、車幅方向左側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸が調整される。また、車幅方向右側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸が調整される。このエイミング調整は、車両出荷時や車検時、前照灯ユニット210の交換時に行われる。そして、前照灯ユニット210が設計上定められた姿勢に調整され、この姿勢を基準に本実施形態の配光パターンの形成制御が行われる。
【0026】
灯具ユニット10は、回転軸12aを有する回転シェード12(可変シェードという場合もある)を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、投影レンズ20を備える。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。
【0027】
リフレクタ16は、その少なくとも一部が楕円球面状であり、この楕円球面は、灯具ユニット10の光軸Oを含む断面形状が楕円形状の少なくとも一部となるように設定されている。リフレクタ16の楕円球面状部分は、バルブ14の略中央に第1焦点を有し、投影レンズ20の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面上に第2焦点を有する。バルブ14から放射された光は、直接あるいはリフレクタ16で反射して、その一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。
【0028】
図2は、回転シェードの概略斜視図である。回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒形状の部材である。また、回転シェード12は軸方向に一部が切り欠かれた切欠部22を有し、当該切欠部22以外の外周面12b上に板状のシェードプレート24を複数保持している。回転シェード12は、その回転角度に応じて光軸O上であって投影レンズ20の後方焦点面の位置に切欠部22またはシェードプレート24のいずれか1つを移動させることができる。シェードプレート24のいずれか1つを光軸O上に移動させた場合には、光軸O上のシェードプレート24によりバルブ14から照射された光の一部が遮光されて、ロービーム用配光パターンまたは一部にハイビーム用配光パターンの特徴を含む付加配光パターンが形成される。また、切欠部22を光軸O上に移動させた場合には、バルブ14から照射された光が非遮光状態となってハイビーム用配光パターンが形成される。なお、本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、前照灯ユニット210Lの灯具ユニット10(第2灯具ユニット)と前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10(第1灯具ユニット)とが互いに異なる形状のシェードプレート24を有し、異なる配光パターンを形成することができる。前照灯ユニット210により形成される配光パターンについては後に詳細に説明する。
【0029】
回転シェード12は、例えばモータ駆動により回転可能であり、モータの回転量を制御することで所望の配光パターンを形成するためのシェードプレート24または切欠部22を光軸O上に移動させることができる。なお、回転シェード12の外周面12bの切欠部22を省略して、回転シェード12に遮光機能だけを持たせてもよい。そして、ハイビーム用配光パターンを形成する場合は、例えばソレノイド等を駆動して回転シェード12を光軸Oの位置から退避させるようにする。この場合、回転シェード12は切欠部22を持たないので、例えば、回転シェード12を回転させるモータがフェールしてもロービーム用配光パターンまたはそれに類似する配光パターンで固定される。つまり、回転シェード12がハイビーム用配光パターンの形成姿勢で固定されてしまうことを確実に回避してフェールセーフ機能を実現できる。
【0030】
投影レンズ20は車両前後方向に延びる光軸O上に配置され、バルブ14は投影レンズ20の後方焦点面よりも後方側に配置される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として車両用前照灯装置200前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
【0031】
図3は、上述のように構成された前照灯ユニットの照射制御部と車両側の車両制御部との動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、上述のように右側の前照灯ユニット210Rおよび左側の前照灯ユニット210Lの構成は基本的に同一であるため、前照灯ユニット210R側のみの説明を行い前照灯ユニット210L側の説明は省略する。
【0032】
前照灯ユニット210Rの照射制御部228Rは、車両300に搭載された車両制御部302から得られた情報に基づいて電源回路230の制御を行いバルブ14の点灯制御を実行する。また、照射制御部228Rは車両制御部302から得られた情報に基づいて可変シェード制御部232、スイブル制御部234、レベリング制御部236を制御する。可変シェード制御部232は、回転シェード12の回転軸12aにギア機構を介して接続されたモータ238を回転制御して、所望のシェードプレート24または切欠部22を光軸O上に移動させる。なお、可変シェード制御部232には、モータ238や回転シェード12に備えられたエンコーダ等の検出センサから回転シェード12の回転状態を示す回転情報が提供されてフィードバック制御により正確な回転制御が実現される。
【0033】
スイブル制御部234は、スイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸を車幅方向について調整する。例えば、曲路走行や右左折走行などの旋回時に灯具ユニット10の光軸をこれから進行する方向に向ける。また、レベリング制御部236は、レベリングアクチュエータ226を制御して、灯具ユニット10の光軸を車両上下方向について調整する。例えば、加減速時における車両姿勢の前傾、後傾に応じて灯具ユニット10の姿勢を調整して前方照射光の到達距離を最適な距離に調整する。車両制御部302は、前照灯ユニット210Lに対しても同様の情報を提供し、前照灯ユニット210Lに設けられた照射制御部228L(制御部)が、照射制御部228Rと同様の制御を実行する。
【0034】
本実施形態の場合、前照灯ユニット210L,210Rによって形成される配光パターンは、運転者によるライトスイッチ304の操作内容に応じて切り替え可能である。この場合、ライトスイッチ304の操作に応じて、照射制御部228L,228Rが可変シェード制御部232を介してモータ238の駆動により所望の配光パターンを形成する。
【0035】
また、本実施形態の前照灯ユニット210L,210Rは、ライトスイッチ304の操作によらず、各種センサで検出された車両周囲状況に応じた最適な配光パターンを形成するように自動制御することもできる。例えば、自車の前方に先行車や対向車、歩行者等が存在することが検出できた場合には、照射制御部228L,228Rは車両制御部302から得られた情報に基づいてグレアを防止するべきであると判定し、ロービーム用配光パターンを形成することができる。また、自車の前方に先行車や対向車、歩行者等が存在しないことが検出できた場合には、照射制御部228L,228Rは運転者の視認性を向上させるべきであると判定して回転シェード12による遮光を伴わないハイビーム用配光パターンを形成することができる。また、ロービーム用配光パターンおよびハイビーム用配光パターンに加えて、後述する付加配光パターンを形成可能な場合には、前方車両の存在状態に応じて前方車両を考慮した最適な配光パターンを形成してもよい。このような制御モードをADB(Adaptive Driving Beam)モードという場合がある。
【0036】
このように先行車や対向車などの対象物を検出するために、車両制御部302には対象物の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ306が接続されている。カメラ306で撮影された画像フレームデータは、画像処理部308で対象物認識処理など所定の画像処理が施されて車両制御部302に提供され、車両制御部302で少なくとも自車に対する前方車両の検出処理が実行される。そして、車両制御部302は、前方車両の検出処理の結果を照射制御部228L,228Rに提供する。照射制御部228L,228Rは、車両制御部302で検出された前方車両に関するデータに基づき、その前方車両を考慮した最適な配光パターンを形成するように各制御部に情報を提供する。
【0037】
また、車両制御部302は、車両300に通常搭載されているステアリングセンサ310、車速センサ312などからの情報も取得可能であり、これにより照射制御部228L,228Rは車両300の走行状態や走行姿勢に応じて、形成する配光パターンを選択したり光軸の方向を変化させて、簡易的に配光パターンを変化させたりすることができる。例えば、車両制御部302がステアリングセンサ310からの情報に基づき車両が旋回していると判定した場合、車両制御部302から情報を受け取った照射制御部228L,228Rは回転シェード12を回転制御して旋回方向の視界を向上させるような配光パターンを形成するシェードプレート24を選択することができる。また、回転シェード12の回転状態は変化させずに、スイブル制御部234によりスイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸を旋回方向に向けて視界を向上させてもよい。このような制御モードを旋回感応モードという場合がある。
【0038】
また、夜間に高速走行しているときには、対向車や先行車、道路標識やメッセージボードの認識をできるだけ早く行えるように自車前方を照明することが好ましい。そこで、車両制御部302が車速センサ312からの情報に基づき高速走行していると判定したときに、照射制御部228L,228Rは回転シェード12を回転制御してロービーム用配光パターンの一部の形状を変えたハイウェイモードのロービーム用配光パターンを形成するシェードプレート24を選択してもよい。同様の制御は、レベリング制御部236によりレベリングアクチュエータ226を制御して灯具ユニット10を後傾姿勢に変化させることでも実現できる。上述したレベリングアクチュエータ226による加減速時のオートレベリング制御は、照射距離を一定に維持するような制御である。この制御を利用して、積極的にカットオフラインの高さを制御すれば、回転シェード12を回転させて異なるカットオフラインを選択する制御と同等の制御ができる。このような制御モードを速度感応モードという場合がある。
【0039】
なお、灯具ユニット10の光軸調整は、スイブルアクチュエータ222やレベリングアクチュエータ226を用いずに実行することもできる。例えば、エイミング制御をリアルタイムで実行するようにして灯具ユニット10を旋回させたり前傾姿勢や後傾姿勢にして、所望する方向の視認性を向上させてもよい。
【0040】
この他、車両制御部302は、ナビゲーションシステム314から道路の形状情報や形態情報、道路標識の設置情報などを取得することもできる。これらの情報を事前に取得することにより、照射制御部228L,228Rはレベリングアクチュエータ226、スイブルアクチュエータ222、モータ238等を制御して、走行道路に適した配光パターンをスムーズに形成することもできる。このような制御モードをナビ感応モードという場合もある。
【0041】
このように、自車の走行状態や自車周囲の状況に応じて自車の配光パターンを自動的に変更することにより、先行車や対向車等の前方車両の運転者や同乗者に与えるグレアを抑制しつつ、自車運転者の視界向上が可能となる。以上説明した各種制御モードを含む配光パターンの自動形成制御は、例えばライトスイッチ304によってそれぞれの自動形成制御が指示された場合に実行される。
【0042】
次に、車両用前照灯装置200の各前照灯ユニット210L,210Rにより形成可能な配光パターンについて説明する。図4(A)〜図4(E)は、前照灯ユニット210Lにより形成される配光パターンの形状を示す説明図であり、図4(F)〜図4(J)は、前照灯ユニット210Rにより形成される配光パターンの形状を示す説明図である。図4(A)〜図4(J)では、灯具前方の所定位置、例えば灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成された配光パターンを示している。なお、図1に示すように、投影レンズ20は前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであるため、ハイビーム用配光パターンを除く他の配光パターンは、それぞれに対応するシェードプレート24によって遮光された部分を含む光源像が上下左右に反転した像となる。したがって、各配光パターンのカットオフライン形状と各シェードプレート24の稜線形状とが対応している。
【0043】
まず、前照灯ユニット210Lおよび前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10は、図4(A)、図4(F)に示すように、ロービーム用配光パターンLoを形成することができる。このロービーム用配光パターンLoは、左側通行時に前方車両や歩行者にグレアを与えないように配慮された配光パターンである。ロービーム用配光パターンLoは、V−V線よりも右側(対向車線側)に、水平ラインであるH−H線と平行に延びる対向車線側カットオフラインを、またV−V線よりも左側(自車線側)に、対向車線側カットオフラインよりも高い位置でH−H線と平行に延びる自車線側カットオフラインを、そして対向車線側カットオフラインと自車線側カットオフラインとの間に、両者をつなぐ斜めカットオフラインをそれぞれ有する。対向車線側カットオフラインは、その外側領域部分が中心領域部分よりも高く自車線側カットオフラインよりも低い位置で水平に延びている。斜めカットオフラインは、対向車線側カットオフラインとV−V線との交点から左斜め上方へ45°の傾斜角で延びている。
【0044】
また、前照灯ユニット210Lおよび前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10は、図4(E)、図4(J)に示すように、ハイビーム用配光パターンHiを形成することができる。このハイビーム用配光パターンHiは、前方の広範囲および遠方を照明する配光パターンであり、例えば、前方車両や歩行者へのグレアを配慮する必要のない場合に形成される。
【0045】
また、上述のように、本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、前照灯ユニット210Rおよび前照灯ユニット210Lの灯具ユニット10が互いに異なる形状のシェードプレート24を有し、したがって異なる配光パターンを形成可能である。
【0046】
具体的には、前照灯ユニット210Lの灯具ユニット10は、図4(B)〜図4(D)に示すように、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の自車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが段階的または連続的に高くなるような第2傾斜カットオフラインを有する第2付加配光パターンLHi1,LHi2,LHi3を形成することができる。本実施形態では、第2付加配光パターンLHi1〜LHi3は、車幅方向外側にいくにつれて、すなわち、V−V線から離れるにつれて照射領域の高さが連続的に高くなる第2傾斜カットオフラインLCL1,LCL2,LCL3を有する。したがって、第2付加配光パターンLHi1〜LHi3は、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の自車線側の領域に、略扇形状の照射領域を有する。
【0047】
第2付加配光パターンLHi1〜LHi3は、左側通行時にハイビーム用配光パターンHiの対向車線側を遮光し、自車線側の一部をハイビーム領域で照射する特殊ハイビーム用配光パターンである。第2付加配光パターンLHi1〜LHi3は、自車線に存在する先行車や歩行者へのグレアを考慮しながら、自車線側領域における運転者の視認性を高めることができる。
【0048】
第2付加配光パターンLHi1〜LHi3は、それぞれの第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3の形状が異なり、具体的には、第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3の傾斜角度が異なる。それぞれの傾斜角度は、第2傾斜カットオフラインLCL1、第2傾斜カットオフラインLCL2、第2傾斜カットオフラインLCL3の順に段階的に大きくなっている。ここで、第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3の傾斜角度は、例えば、各第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3の両端を結ぶ仮想直線と水平ラインであるH−H線とのなす角度である。各第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3の端部のうち、車幅方向中心側の端部、言い換えれば、付加配光パターンの中心領域側の端部は、例えば、ロービーム用配光パターンLoの斜めカットオフラインと第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3との交点である。あるいは、車幅方向中心側の端部は、ロービーム用配光パターンLoの自車線側カットオフラインと斜めカットオフラインとの交点であってもよい。各第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3の端部のうち、車幅方向外側の端部、言い換えれば、付加配光パターンの外側領域側の端部は、例えば、付加配光パターンの外周の輪郭線と第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3との交点である。
【0049】
ロービーム用配光パターンLoおよび第2付加配光パターンLHi1〜LHi3のそれぞれを形成するシェードプレート24は、例えば、ロービーム用配光パターンLo用、第2付加配光パターンLHi1用、第2付加配光パターンLHi2用、第2付加配光パターンLHi3用の順で、回転シェード12の外周面12bに設けられている。これにより、照射制御部228Lは、ロービーム用配光パターンLoおよび第2付加配光パターンLHi1〜LHi3の切り替えによって、第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3の傾斜角度を段階的に変化させることができる。
【0050】
一方、前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10は、図4(G)〜図4(I)に示すように、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが段階的または連続的に高くなるような第1傾斜カットオフライン(傾斜カットオフライン)を有する第1付加配光パターンRHi1,RHi2,RHi3(付加配光パターン)を形成することができる。本実施形態では、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3は、車幅方向外側にいくにつれて、すなわち、V−V線から離れるにつれて照射領域の高さが連続的に高くなる第1傾斜カットオフラインRCL1,RCL2,RCL3を有する。したがって、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3は、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に、略扇形状の照射領域を有する。
【0051】
第1付加配光パターンRHi1〜RHi3は、左側通行時にハイビーム用配光パターンHiの自車線側を遮光し、対向車線側の一部をハイビーム領域で照射する特殊ハイビーム用配光パターンである。第1付加配光パターンRHi1〜RHi3は、対向車線に存在する対向車や歩行者へのグレアを考慮しながら、対向車線側領域における運転者の視認性を高めることができる。
【0052】
第1付加配光パターンRHi1〜RHi3は、それぞれの第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の形状が異なり、具体的には、第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の傾斜角度が異なる。それぞれの傾斜角度は、第1傾斜カットオフラインRCL1、第1傾斜カットオフラインRCL2、第1傾斜カットオフラインRCL3の順に段階的に大きくなっている。ここで、第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の傾斜角度は、例えば、各第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の両端を結ぶ仮想直線と水平ラインであるH−H線とのなす角度である。各第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の端部のうち、付加配光パターンの中心領域側の端部は、例えば、V−V線と第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3との交点であるか、あるいは、V−V線とロービーム用配光パターンLoの対向車線側カットオフラインとの交点である。また、付加配光パターンの外側領域側の端部は、例えば、付加配光パターンの外周の輪郭線と第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3との交点である。
【0053】
ロービーム用配光パターンLoおよび第1付加配光パターンRHi1〜RHi3のそれぞれを形成するシェードプレート24は、例えば、ロービーム用配光パターンLo用、第1付加配光パターンRHi1用、第1付加配光パターンRHi2用、第1付加配光パターンRHi3用の順で、回転シェード12の外周面12bに設けられている。これにより、照射制御部228Rは、ロービーム用配光パターンLoおよび第1付加配光パターンRHi1〜RHi3の切り替えによって、第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の傾斜角度を段階的に変化させることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る車両用前照灯装置200は、いわゆるスプリット配光パターンを形成することができる。このスプリット配光パターンは、水平ラインよりも上方の中央部に遮光領域を有し、遮光領域の水平方向両側にハイビーム領域を有する特殊ハイビーム用配光パターンである。スプリット配光パターンは、前照灯ユニット210Lで形成した第2付加配光パターンLHi1〜LHi3のいずれか一つと、前照灯ユニット210Rで形成した第1付加配光パターンRHi1〜RHi3のいずれか一つとを組み合わせることで形成することができる。第2付加配光パターンLHi1〜LHi3と第1付加配光パターンRHi1〜RHi3とが重畳されて形成される遮光領域は、第2付加配光パターンLHi1〜LHi3および第1付加配光パターンRHi1〜RHi3の組み合わせを変更することで、水平方向にその範囲を変化させることができる。
【0055】
なお、各前照灯ユニット210L,210Rは、交通法規が右側通行である地域で利用する、いわゆる「ドーバーロービーム」と称される右通行ロービーム用配光パターンに対応したシェードプレート24を有していてもよい。
【0056】
続いて、上述の構成を備えた本実施形態の車両用前照灯装置200による配光パターンの形成制御の一例を説明する。図5(A)〜図5(E)は、前方車両と配光パターンとの関係を説明するための図である。
【0057】
本実施形態では、少なくとも照射制御部228Rが、前方車両の存在に応じて前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10により、ロービーム用配光パターンLo、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3、ハイビーム用配光パターンHiを形成するADBモードを実行することができる。具体的には、ライトスイッチ304によってADBモードの指示がなされている状態で、カメラ306から得られた情報によって車両制御部302が前方車両の存在を検知すると、車両制御部302から情報を受け取った照射制御部228Rは、前方車両の存在に応じてロービーム用配光パターンLo、および第1付加配光パターンRHi1〜RHi3を切り替え制御する。
【0058】
例えば、図5(A)に示すように、前方車両が検知されない場合には、照射制御部228Rはハイビーム用配光パターンHiを形成する。そして、図5(B)に示すように、前方車両400(対向車)が遠方に存在する場合には、照射制御部228Rは第1傾斜カットオフラインRCL3を有する第1付加配光パターンRHi3を形成する。図5(C)に示すように、前方車両400が自車両に接近すると、照射制御部228Rは第1付加配光パターンRHi3から、第1傾斜カットオフラインRCL3よりも傾斜角度の小さい第1傾斜カットオフラインRCL2を有する第1付加配光パターンRHi2に切り替える。また、図5(D)に示すように、前方車両400がさらに自車両に接近すると、照射制御部228Rは第1付加配光パターンRHi2から、第1傾斜カットオフラインRCL2よりも傾斜角度の小さい第1傾斜カットオフラインRCL1を有する第1付加配光パターンRHi1に切り替える。そして、図5(E)に示すように、前方車両400がさらに自車両に接近すると、照射制御部228Rはロービーム用配光パターンLoを形成する。
【0059】
このように、照射制御部228Rは、前方車両400の存在に応じて第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の傾斜角度を段階的に変化させる。これにより、前方車両400の位置が変化しても、前方車両400の存在領域(例えば、前方車両400の運転者の頭部存在領域)と第1付加配光パターンRHi1〜RHi3の照射領域が重なるのを回避することができる。そのため、対向車へのグレアを防ぎながら、対向車線側の領域、特に対向車線側の路肩領域における運転者の視認性を向上させることができる。なお、照射制御部228Lは、前方車両400が検知されない場合には、ハイビーム用配光パターンHiを形成し、前方車両400が検知された場合には、ロービーム用配光パターンLoを形成する。
【0060】
照射制御部228Rは、例えば各配光パターンの形状情報、すなわち各配光パターンにおける照射領域情報を図示しない記憶部に格納している。そのため、照射制御部228RはADBモードにおいて、この情報と車両制御部302から得られる前方車両400の位置情報とを比較することで、前方車両400の存在位置が照射領域に含まれないような配光パターンを選択することができる。
【0061】
図6は、実施形態1に係る車両用前照灯装置における、配光パターン形成の制御フローチャートである。このフローは、照射制御部228Rが所定のタイミングで繰り返し実行する。
【0062】
まず、照射制御部228Rは、車両制御部302から得られた情報に基づいて、ADBモードの実行指示がなされているか判断する(ステップ101:以下S101と略記する。他のステップも同様)。ADBモードの実行指示がなされていない場合(S101_No)、本ルーチンを終了する。ADBモードの実行指示がなされていた場合(S101_Yes)、照射制御部228RはADBモードを実施して、前方車両が検知されたか判断する(S102)。
【0063】
前方車両が検知されなかった場合(S102_No)、照射制御部228Rは、ハイビーム用配光パターンHiを形成し(S110)、本ルーチンを終了する。前方車両が検知された場合(S102_Yes)、照射制御部228Rは、前方車両が第1付加配光パターンRHi3の照射領域に含まれるか判断する(S103)。前方車両が第1付加配光パターンRHi3に含まれない場合(S103_No)、照射制御部228Rは、第1付加配光パターンRHi3を形成し(S109)、本ルーチンを終了する。前方車両が第1付加配光パターンRHi3に含まれる場合(S103_Yes)、照射制御部228Rは、前方車両が第1付加配光パターンRHi2の照射領域に含まれるか判断する(S104)。
【0064】
前方車両が第1付加配光パターンRHi2に含まれない場合(S104_No)、照射制御部228Rは、第1付加配光パターンRHi2を形成し(S108)、本ルーチンを終了する。前方車両が第1付加配光パターンRHi2に含まれる場合(S104_Yes)、照射制御部228Rは、前方車両が第1付加配光パターンRHi1の照射領域に含まれるか判断する(S105)。前方車両が第1付加配光パターンRHi1に含まれない場合(S105_No)、照射制御部228Rは、第1付加配光パターンRHi1を形成し(S107)、本ルーチンを終了する。前方車両が第1付加配光パターンRHi1に含まれる場合(S105_Yes)、照射制御部228Rは、ロービーム用配光パターンLoを形成し(S106)、本ルーチンを終了する。
【0065】
ここで、図7を用いて、配光パターンの変化あるいは変位と、それにより運転者が受ける視覚的な違和感との関係について説明する。図7(A)および図7(B)は、配光パターンの切り替えによる照射領域の変化を示す図である。図7(A)は、従来の配光パターン切り替えを示し、図7(B)は本実施形態の配光パターン切り替えを示す。
【0066】
一般に車両前方の中央領域は、車両を運転する運転者の視線が集中する傾向にある視線集中領域となっている。図7(A)、図7(B)に示す領域Aが運転者の視線集中領域である。この視線集中領域Aは、運転者の視線が集中する領域であるが故に、運転者が照度の変化を認識しやすい領域である。したがって、この視線集中領域Aにおいて照度が変化した場合、運転者は視覚的な違和感や煩わしさを感じやすい。
【0067】
図7(A)に示すように、従来のいわゆる右片ハイ用配光パターンRHiXは、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に照射領域を有し、自車線側に遮光領域を有する。そして、この照射領域と遮光領域とは略鉛直な鉛直カットオフラインXCLで区切られている。そして、従来の車両用前照灯装置では、灯具ユニットをスイブルさせて右片ハイ用配光パターンRHiXを対向車線側に移動させることで、前方車両の存在に応じて遮光領域を変化させていた。したがって、従来の車両用前照灯装置では、右片ハイ用配光パターンRHiXを移動させた場合、鉛直カットオフラインXCLが視線集中領域Aを水平方向に移動していた。
【0068】
これに対し、図7(B)に示すように、本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3を切り替えて第1傾斜カットオフラインの傾斜角度を変化させることで、すなわち第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3を切り替えることで、前方車両に応じて遮光領域を変化させている。すなわち、従来の車両用前照灯装置では鉛直なカットオフラインを水平方向に移動させて遮光領域を変化させているが、本実施形態の車両用前照灯装置200では傾斜したカットオフラインを回転移動させて遮光領域を変化させている。傾斜したカットオフラインを回転移動させた場合は、鉛直なカットオフラインを水平方向に移動させた場合と比べて、視線集中領域Aと照射領域とが重なる部分の面積変化量を小さくすることができる。そのため、本実施形態の車両用前照灯装置200によれば、前方車両に応じて配光パターンを変化させた場合に、視線集中領域Aにおける照度変化部分を従来の車両用前照灯装置と比べて小さくすることができる。したがって、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【0069】
また、一般に灯具ユニットは、形成した配光パターンの中心領域の照度が外側領域の照度よりも高くなるように設計されている。そのため、灯具ユニットをスイブルさせて右片ハイ用配光パターンRHiXを移動させる従来の車両用前照灯装置では、視線集中領域Aと高照度領域とが重なる部分の面積変化量が大きかった。これに対し、本実施形態に係る車両用前照灯装置200は、第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3を切り替えることで、灯具ユニット10をスイブルさせずに照射領域を変化させている。この場合、視線集中領域Aと高照度領域とが重なる部分の面積変化量を小さくすることができるため、視線集中領域Aにおける照度変化部分を小さくすることができる。したがって、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【0070】
さらに、運転者は一般に鉛直方向の明暗変化よりも水平方向の明暗変化に対して強い違和感を抱く傾向にある。そのため、鉛直カットオフラインXCLが視線集中領域Aに重なる従来の右片ハイ用配光パターンRHiXに比べて、第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3が視線集中領域Aに重なる本実施形態の第1付加配光パターンRHi1〜RHi3の方が、運転者に与える違和感を低減することができる。
【0071】
車両用前照灯装置200は、照射制御部228Rによる対向車線側の前方車両の存在に応じた配光パターンの切り替え制御に加えて、照射制御部228Lによる自車線側の前方車両に応じた配光パターンの切り替え制御を実施してもよい。この場合には、上述のスプリット配光パターンが形成される。具体的には、照射制御部228Lは、前方車両の存在に応じてロービーム用配光パターンLo、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3、およびハイビーム用配光パターンHiを切り替え制御し、照射制御部228Lは、前方車両の存在に応じてロービーム用配光パターンLo、第2付加配光パターンLHi1〜LHi3、およびハイビーム用配光パターンHiを切り替え制御する。これにより、照射制御部228L、228Rは、前方車両を遮光領域に含むようなスプリット配光パターンを形成する。また、照射制御部228L,228Rは、前方車両の存在位置に応じて配光パターンを切り替えることで、移動する前方車両の位置に合わせて遮光領域を変形させる。このような制御により、前方車両に与えるグレアを防ぎながら、他の領域、特に左右の路肩領域における運転者の視認性を向上させることができる。
【0072】
なお、車両用前照灯装置200は、照射制御部228Lによる自車線側の前方車両に応じた配光パターンの切り替え制御のみを実施することもできる。この場合には、前方車両に与えるグレアを防ぎながら、他の領域、特に左の路肩領域における運転者の視認性を向上させることができる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用前照灯装置200では、前照灯ユニット210Rが、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが連続的に高くなるような第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3を有する第1付加配光パターンRHi1〜RHi3を形成可能である。そして、照射制御部228Rが、前方車両の存在に応じて、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3の形成を切り替え制御する。具体的には、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3は、それぞれの第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL3の傾斜角度が異なり、照射制御部228Rが、第1付加配光パターンRHi1〜RHi3の切り替えによって傾斜角度を段階的に変化させている。このように、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させることで、対向車に与えるグレアを防止しつつ、運転者の対向車線側の領域における視認性を向上させることができる。また、対向車線側の領域に斜めに延びるカットオフラインを有する第1付加配光パターンRHi1〜RHi3を切り替えているため、鉛直なカットオフラインを有する右片ハイ用配光パターンRHiXをスイブルさせる従来の構成と比べて、視線集中領域Aにおける照度変化領域を小さくすることができる。また、配光パターンの高照度領域全体が視線集中領域Aからずれることがない。そのため、視線集中領域Aにおける照度変化領域を小さくすることができる。したがって、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させた場合に、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【0074】
また、本実施形態の車両用前照灯装置200は、回転シェード12を備えている。そのため、少ないスペースで第1付加配光パターンRHi1〜RHi3、ロービーム用配光パターンLo、およびハイビーム用配光パターンHiを含む複数の配光パターンを形成することができる。また、回転シェード12とした場合には、傾斜カットオフラインの形状を連続的に変化させることもできる。
【0075】
さらに、本実施形態の車両用前照灯装置200では、前照灯ユニット210Lが、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の自車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが連続的に高くなるような第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3を有する第2付加配光パターンLHi1〜LHi3を形成可能である。そして、照射制御部228L,228Rが、前方車両の存在に応じて、第2付加配光パターンLHi1〜LHi3、および第1付加配光パターンRHi1〜RHi3を切り替え制御する。そのため、対向車および先行車に与えるグレアを防止しつつ、運転者の対向車線側および自車線側の領域における視認性を向上させることができる。また、自車線側についても、斜めに延びる第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3を有する第2付加配光パターンLHi1〜LHi3を切り替えているため、鉛直なカットオフラインを有する左片ハイ用配光パターンをスイブルさせる従来の構成と比べて、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。なお、左片ハイ用配光パターンは、右片ハイ用配光パターンRHiXと略左右対称の構造である。
【0076】
(実施形態2)
実施形態2に係る車両用前照灯装置は、傾斜カットオフラインの車幅方向中心側端部の車幅方向位置が異なる複数の付加配光パターンを形成可能であり、照射制御部がこれらの付加配光パターンを切り替えて、車幅方向中心側端部を段階的または連続的に変化させるものである。以下、本実施形態について説明する。なお、車両用前照灯装置の主な構成等は実施形態1と同様であるため、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
【0077】
図8(A)および図8(B)は、実施形態2に係る車両用前照灯装置の回転シェードの概略斜視図である。図8(A)および図8(B)は、前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10に搭載された回転シェードを示している。また、図8(B)は、図8(A)に示す回転シェードを回転軸周りに所定角度だけ回転させた状態を示している。
【0078】
図8(A)、図8(B)に示すように、本実施形態に係る車両用前照灯装置200が備える回転シェード112は、回転軸112aを中心に回転可能な円筒形状の部材である。回転シェード112は、回転軸周りの一部分に、軸方向に切り欠かれた切欠部122を有する。また、回転シェード112は、回転軸周りの一部分に、軸方向に延びるロービーム用シェード部123を有する。また、当該切欠部122とロービーム用シェード部123以外の外周面112bには、軸方向の一部が切り欠かれた部分切欠部124が設けられている。この部分切欠部124によって、外周面112bは配光パターンのカットオフライン形状に対応した形状となっている。すなわち、本実施形態の灯具ユニット10により形成することができる配光パターンは、投影レンズ20の後方焦点面で切断した断面に現れる外周面112bの形状に対応したカットオフラインを有する。部分切欠部124は、外周面112bの切り欠かれていない部分との境界が階段状になっており、各段の角部によって傾斜カット稜線124a〜124dが形成されている。
【0079】
回転シェード112は、その回転角度に応じて光軸O上であって投影レンズ20の後方焦点面の位置に、切欠部122、ロービーム用シェード部123、またはそれ以外の外周面112bの所定部分を移動させることができる。そのため、灯具ユニット10は、回転シェード112を回転させて各部分を光軸O上に移動させることで、異なる配光パターンを形成することができる。
【0080】
図9(A)〜図9(C)および図10(A)〜図10(C)は、回転シェード位置と配光パターン形状との関係を示す説明図である。図9(A)〜図9(C)および図10(A)〜図10(C)では、灯具前方の所定位置、例えば灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成された配光パターンを示している。また、各図に示される回転シェード112は、光軸後方から見た状態である。
【0081】
まず、前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10は、図10(C)に示すように、回転シェード112のロービーム用シェード部123を光軸O上に移動させた場合に、ロービーム用配光パターンLoを形成することができる。また、前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10は、図9(A)に示すように、切欠部122を光軸O上に移動させた場合に、ハイビーム用配光パターンHiを形成することができる。
【0082】
また、前照灯ユニット210Rの灯具ユニット10は、図9(B)、図9(C)、図10(A)、および図10(B)に示すように、外周面112bの所定部分を光軸O上に移動させた場合に、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7を有する第1付加配光パターンRHi4〜RHi7を形成することができる。第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7は、ロービーム用配光パターンLoのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが連続的に高くなるようなカットオフラインである。
【0083】
具体的には、図9(B)に示すように、外周面112bのうち部分切欠部124の傾斜カット稜線124aを含む部分を光軸O上に配置させた場合に、第1傾斜カットオフラインRCL4を有する第1付加配光パターンRHi4を形成することができる。傾斜カット稜線124aによって第1傾斜カットオフラインRCL4が形成される。なお、図9(B)に示すように、外周面112bの傾斜カット稜線124aが光軸O上に配置されて後方焦点面と重なった状態では、光軸方向に見て、後方焦点面からずれた位置にある傾斜カット稜線124bの一部を臨むことができる。すなわち、傾斜カット稜線124bの一部が、光軸方向に見て、後方焦点面で切断した回転シェード112の断面領域よりも外側に突出している。
【0084】
また、図9(C)に示すように、外周面112bのうち部分切欠部124の傾斜カット稜線124bを含む部分を光軸O上に配置させた場合に、第1傾斜カットオフラインRCL5を有する第1付加配光パターンRHi5を形成することができる。傾斜カット稜線124bによって第1傾斜カットオフラインRCL5が形成される。なお、図9(C)に示すように、外周面112bの傾斜カット稜線124bが光軸O上に配置されて後方焦点面と重なった状態では、光軸方向に見て、後方焦点面からずれた位置にある傾斜カット稜線124cの一部を臨むことができる。
【0085】
また、図10(A)に示すように、外周面112bのうち部分切欠部124の傾斜カット稜線124cを含む部分を光軸O上に配置させた場合に、第1傾斜カットオフラインRCL6を有する第1付加配光パターンRHi6を形成することができる。傾斜カット稜線124cによって第1傾斜カットオフラインRCL6が形成される。なお、図10(A)に示すように、外周面112bの傾斜カット稜線124cが光軸O上に配置されて後方焦点面と重なった状態では、光軸方向に見て、後方焦点面からずれた位置にある傾斜カット稜線124dの一部を臨むことができる。
【0086】
また、図10(B)に示すように、外周面112bのうち部分切欠部124の傾斜カット稜線124dを含む部分を光軸O上に配置させた場合に、第1傾斜カットオフラインRCL7を有する第1付加配光パターンRHi7を形成することができる。傾斜カット稜線124dによって第1傾斜カットオフラインRCL7が形成される。
【0087】
第1付加配光パターンRHi4〜RHi7は、それぞれの第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7の形状が異なり、具体的には、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7の傾斜角度と、車幅方向中心側端部RCL4a〜RCL7aの車幅方向位置が異なる。それぞれの傾斜角度は、第1傾斜カットオフラインRCL4、第1傾斜カットオフラインRCL5、第1傾斜カットオフラインRCL6、第1傾斜カットオフラインRCL7の順に段階的に大きくなっている。また、それぞれの車幅方向中心側端部RCL4a〜RCL7aの車幅方向位置は、第1傾斜カットオフラインRCL4、第1傾斜カットオフラインRCL5、第1傾斜カットオフラインRCL6、第1傾斜カットオフラインRCL7の順に段階的に外側(対向車線の路肩領域側)に位置している。ここで、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7の車幅方向中心側端部は、例えば、ロービーム用配光パターンLoの対向車線側カットオフラインと第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7との交点である。このような構成により、照射制御部228Rは、第1付加配光パターンRHi4〜RHi7の切り替えによって第1傾斜カットオフラインの傾斜角度と車幅方向中心側端部の車幅方向位置とを段階的に変化させることができる。
【0088】
このような構成において、照射制御部228Rは、図9(A)に示すように、前方車両が検知されない場合にはハイビーム用配光パターンHiを形成する。そして、照射制御部228Rは、図9(B)〜図10(C)に示すように、前方車両400が接近するにつれて、配光パターンを第1付加配光パターンRHi4〜RHi7、ロービーム用配光パターンLoの順に切り替える。このように、照射制御部228Rは、前方車両400の存在に応じて第1付加配光パターンRHi4〜RHi7を切り替えることで、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7の傾斜角度と、車幅方向中心側端部RCL4a〜RCL7aの車幅方向位置とを段階的に変化させる。これにより、前方車両400の位置が変化しても、前方車両400の存在領域と第1付加配光パターンRHi4〜RHi7の照射領域が重なるのを回避することができる。そのため、対向車へのグレアを防ぎながら、対向車線側の領域、特に対向車線側の路肩領域における運転者の視認性を向上させることができる。
【0089】
本実施形態の車両用前照灯装置200では、第1付加配光パターンRHi4〜RHi7を切り替えて第1傾斜カットオフラインの傾斜角度を変化させることで、前方車両に応じて遮光領域を変化させている。そのため、前方車両に応じて配光パターンを変化させた場合に照度が変化する視線集中領域Aの領域の面積を、従来の車両用前照灯装置と比べて小さくすることができる。したがって、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。また、本実施形態では、第1付加配光パターンRHi4〜RHi7の切り替えによって、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7の傾斜角度に加えて、車幅方向中心側端部RCL4a〜RCL7aの車幅方向位置を変化させている。そのため、前方車両400に与えるグレアをより確実に防止することができる。
【0090】
ここで、上述のように、外周面112bの傾斜カット稜線124a,124b,124cが光軸O上に配置されて後方焦点面と重なった状態では、光軸方向に見て、それぞれ後方焦点面からずれた位置にある傾斜カット稜線124b,124c,124dの一部を臨むことができる。図9(B)〜図10(A)に示すように、後方焦点面からずれた位置にある傾斜カット稜線124b〜124dの一部が突出する位置は、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL6の外側領域部分に対応する領域である。したがって、例えば、回転シェード112が図10(B)に示す状態で配光パターンを形成した場合には、傾斜カット稜線124aによってバルブ14からの光が遮られて第1傾斜カットオフラインRCL4が形成されるとともに、傾斜カット稜線124bの突出部分によってもバルブ14からの光が遮られて、第1傾斜カットオフラインRCL4の外側領域部分の輪郭が不鮮明になる。第1傾斜カットオフラインRCL5,RCL6についても同様に、それぞれ傾斜カット稜線124c,124dによって光が遮られて、外側領域部分の輪郭が不鮮明になる。
【0091】
したがって、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL6の鮮明度は、第1付加配光パターンRHi4〜RHi6の中心領域に位置する部分に対して外側領域に位置する部分が低い。すなわち、第1付加配光パターンRHi4〜RHi6において、対向車線側の領域にある照射領域と遮光領域との境界、すなわち、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL6が、運転者から見て第1付加配光パターンRHi4〜RHi6の中心領域側で明瞭に視認され、外側領域側で不明瞭に視認されるような形状となっている。このように、傾斜カットオフラインの鮮明度を、付加配光パターンの中心領域に位置する部分に対して外側領域に位置する部分が低くなるように設定することで、付加配光パターンの中心領域において前方車両に与えるグレアを防止することができるとともに、付加配光パターンの外側領域における運転者の違和感を低減することができる。
【0092】
なお、図10(B)に示すように、第1傾斜カットオフラインRCL7は、ほぼ全体が前方車両400と重なっている。そのため、第1傾斜カットオフラインRCL7は、前方車両400に与えるグレアを考慮して、外側領域側を不鮮明な形状としていない。前方車両400に与えるグレアを考慮した上で第1傾斜カットオフラインRCL7の外側領域部分を不鮮明にする場合には、例えば、傾斜カット稜線124dが光軸O上に配置されて後方焦点面と重なった状態で、光軸方向に見て一部が突出するようなダミー稜線を部分切欠部124に設けることで実現することができる。
【0093】
前照灯ユニット210Lは、前照灯ユニット210Rの回転シェード112と外周面112bの形状のみが異なる回転シェード112を有し、第2傾斜カットオフラインの傾斜角度と、車幅方向中心側端部の車幅方向位置とが異なる複数の第2付加配光パターンを形成することができる。
【0094】
以上説明した本実施形態の構成によっても、前方車両の存在に応じて配光パターンを変化させる場合に、前方車両にグレアを与える可能性を低減することができる。また、本実施形態では、第1付加配光パターンRHi4〜RHi7の切り替えによって、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL7の傾斜角度に加えて、車幅方向中心側端部RCL4a〜RCL7aの車幅方向位置を変化させている。そのため、前方車両400に与えるグレアをより確実に防止することができる。
【0095】
さらに、本実施形態では、第1傾斜カットオフラインRCL4〜RCL6の鮮明度を、第1付加配光パターンRHi4〜RHi6の中心領域に位置する部分に対して外側領域に位置する部分が低くしている。これにより、第1付加配光パターンRHi4〜RHi6の中心領域において前方車両に与えるグレアを防止することができるとともに、第1付加配光パターンRHi4〜RHi6の外側領域における運転者の違和感を低減することができる。
【0096】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、各実施形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。上述の各実施形態同士、および上述の各実施形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0097】
例えば、実施形態1および2では、それぞれ3つあるいは4つの第1付加配光パターンおよび第2付加配光パターンを形成しているが、その数は特に限定されない。しかしながら、第1付加配光パターンおよび第2付加配光パターンの数が多い方が前方車両の存在位置に応じた配光パターンの変化をより高精度に実現することができるため好ましい。また、第1傾斜カットオフラインRCL1〜RCL7、および第2傾斜カットオフラインLCL1〜LCL3は、照射領域の高さが段階的に変化するような形状であってもよく、また、曲線形状などであってもよい。
【0098】
また、実施形態2では、部分切欠部124と外周面112bの切り欠かれていない部分との境界を階段状としているが、これを傾斜面としてもよい。この場合には、第1傾斜カットオフラインおよび第2傾斜カットオフラインの傾斜角度および車幅方向中心側端部の車幅方向位置を連続的に変化させることができる。また、実施形態1の回転シェード12についても、実施形態2と同様に、回転シェード12の外周面12bにシェードプレート24を設けず、外周面12b自体の形状を配光パターンのカットオフラインに対応する形状にしてもよい。この場合には、第1傾斜カットオフラインおよび第2傾斜カットオフラインの傾斜角度を連続的に変化させることができる。
【0099】
さらに、実施形態1の回転シェード12についても、光軸方向から見て、光軸O上に配置されたシェードプレート24における傾斜カットオフラインの外側領域部分に対応するプレート部分から、隣接するシェードプレート24の一部が臨まれるように、各シェードプレート24を配置してもよい。この場合には、傾斜カットオフラインの外側領域部分の鮮明度を中心領域部分よりも低くすることができる。
【0100】
また、上述の各実施形態では、照射制御部228L,228Rが、前方車両の存在状態等を判断しているが、車両制御部302がこれらの判断を実行するようにしてもよく、上述した各実施形態と同様の効果を得ることができる。この場合、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302からの指示に基づいてバルブ14の点消灯や、スイブルアクチュエータ222およびモータ238の駆動等を制御する。
【符号の説明】
【0101】
LCL1,LCL2,LCL3 第2傾斜カットオフライン、 LHi1,LHi2,LHi3 第2付加配光パターン、 Lo ロービーム用配光パターン、 RCL1,RCL2,RCL3,RCL4,RCL5,RCL6,RCL7 第1傾斜カットオフライン、 RHi1,RHi2,RHi3,RHi4,RHi5,RHi6,RHi7 第1付加配光パターン、 RCL4a,RCL5a,RCL6a,RCL7a 車幅方向中心側端部、 10 灯具ユニット、 12,112 回転シェード、 200 車両用前照灯装置、 228,228L,228R 照射制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の対向車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが段階的または連続的に高くなるような傾斜カットオフラインを有する付加配光パターンであって、当該傾斜カットオフラインの形状が異なる複数の付加配光パターンを形成可能な灯具ユニットと、
前方車両の存在に応じて、前記複数の付加配光パターンの形成を切り替え制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記灯具ユニットは、
車両前方へ光を照射可能な光源と、
前記光源から照射された光の一部を遮蔽可能であり、回転駆動することにより回転位置に応じて前記複数の付加配光パターンのうちいずれか1つを形成可能な回転シェードと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記複数の付加配光パターンはそれぞれ、傾斜カットオフラインの傾斜角度が異なり、
前記制御部は、前記複数の付加配光パターンの切り替えによって前記傾斜角度を段階的または連続的に変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記複数の付加配光パターンはそれぞれ、傾斜カットオフラインの車幅方向中心側端部の車幅方向位置が異なり、
前記制御部は、前記複数の付加配光パターンの切り替えによって前記車幅方向中心側端部の車幅方向位置を段階的または連続的に変化させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
前記傾斜カットオフラインの鮮明度は、付加配光パターンの中心領域に位置する部分に対して外側領域に位置する部分が低いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項6】
請求項1における傾斜カットオフラインを第1傾斜カットオフラインとし、付加配光パターンを第1付加配光パターンとし、灯具ユニットを第1灯具ユニットとした場合に、
ロービーム用配光パターンのカットオフラインから上方の自車線側の領域に、車幅方向外側にいくにつれて照射領域の高さが段階的または連続的に高くなるような第2傾斜カットオフラインを有する第2付加配光パターンであって、当該第2傾斜カットオフラインの形状が異なる複数の第2付加配光パターンを形成可能な第2灯具ユニットを備え、
前記制御部は、前方車両の存在に応じて、複数の第1付加配光パターンおよび第2付加配光パターンの形成を切り替え制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両用前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−63070(P2011−63070A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213586(P2009−213586)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】