説明

車両用前照灯

【課題】LEDで発生する熱を有効に外部へ放熱し、LEDの光を前面に効率的に引き出す車両用前照灯を提供する。
【解決手段】車両用前照灯1のハウジング2に、その先端開口部に位置し所定の間隔で配置された放熱フィン4を光透過材料6で覆うように一体的に形成した放熱部8を配設する。また、光源であるLED14、16の発光素子支持部22と放熱フィン4とをヒートパイプ26、28によって接続する。さらに、放熱フィン4の面をリフレクタ12の光軸40と平行な鏡面に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDなどの半導体発光素子を用いた車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用前照灯として白熱灯、ハロゲンランプ、高輝度放電灯などが用いられてきた。近年、上記光源以外に消費電力が少なく、寿命の点で優れる発光ダイオード(LED)を光源とした車両用前照灯が開発されつつある。
【0003】
一般に、車両用前照灯のハウジングは低コスト化を図るため樹脂で形成され、このハウジングと光透過性樹脂の前面カバーとによって形成される空間内で、LEDなどの光源は密閉された状態で用いられる。特に、車両用前照灯にLEDを用いる場合、密閉された空間内でLEDに大電流を流し高輝度を得る必要がある。そのため、LEDの、特にジャンクション部の発熱により温度が上昇し、LEDの輝度や寿命を劣化させるなどの課題が生じる。
【0004】
これらの課題を解決するためには、LEDからの熱を放熱させて、温度の上昇を抑制し動作温度の安定化を図ることが重要となる。
【0005】
そこで、従来から上記課題を解決するために、ヒートパイプを用いてLEDの熱を低減する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、特許文献1では、車両用前照灯の空間内に、縦方向に3列、横方向に5列の多数の小型前照灯ユニットが設けられる。そして、各小型前照灯ユニットは、LED、リフレクタ、レンズ系などが配設された光源支持ブロックを有している。さらに、複数の光源支持ブロックが階段状に形成されたヒートパイプ上に配置されている。このとき、ヒートパイプの放熱端は車両用前照灯の密閉された投光カバー下端近傍の前方空間に配置される。各LEDから発生する熱は各々の光源支持ブロックを介して階段状のヒートパイプに伝導され前方の空間内に放出される。この構成により、投光カバーの内面の曇り、外面に付着した霜や雪を解消させることが記載されている。また、階段状ヒートパイプの放熱端をハウジング下部外面に配設したヒートシンクと接続してハウジング外部に放熱することなどが提案されている。
【特許文献1】特開2004−311224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に示す車両用前照灯では、ヒートパイプの放熱端を車両用前照灯内部の空間に配設しているため、熱がこの空間内に閉じ込められ、LEDがほとんど冷却されない。また、ハウジング外部にヒートシンクを配設する場合、車両用前照灯の車体への取り付けや配置などの車両設計に制限が生じるなどの問題があった。さらに、複数のリフレクタ、レンズ系、光源支持ブロックなどを必要とするため、製造コストが増大するなどの問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、半導体発光素子の熱を効率よく放熱するとともに、半導体発光素子の光を有効に利用できる車両用前照灯を提供することを目的にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述したような目的を達成するために、本発明の車両用前照灯は、ハウジングと、ハウジングの先端開口部に位置し、所定の間隔で配置された放熱フィンを光透過材料で覆うように一体的に形成した放熱部と、ハウジングと放熱部が構成する空間内に配設された半導体発光素子と、半導体発光素子からの光を反射し集光させるリフレクタと、リフレクタからの反射光を略平行光に変換するレンズ系と、平行光の配光パターンを形成するシェード部と、半導体発光素子の熱を伝導し支持する発光素子支持部と、発光素子支持部と放熱フィンとを接続するヒートパイプとを具備し、半導体発光素子の熱を放熱部から外部へ放熱し、光透過材料を介して反射光を前方に照射する構成を有する。
【0009】
この構成により、LEDの光をリフレクタおよびレンズ系によって略平行光に変換し、その光を放熱フィン間の光透過材料を介して車両用前照灯の前方に効率よく照射できる。また、LEDで発生する熱は発光素子支持部とヒートパイプを介して放熱部の放熱フィンに伝導され外部へ放熱される。特に、車両の走行中には強い空気の流れを受けるため放熱部が効率的に冷却され、大きな放熱効果を得ることができる。さらに、光が透過する放熱部に熱を集中できるため、内面の曇り、外面に付着した霜や雪を解消させることができる。また前照灯のハウジングの外部に付属する部品がないため、取り付けや配置などの車両設計やデザイン上の制限が少ないなどの利点がある。
【0010】
さらに、放熱フィンの前面形状が格子状で、かつ放熱フィンの面がリフレクタの光軸と平行に配置されている構成であってもよい。
【0011】
さらに、放熱フィンの前面形状が同心円状で、かつ放熱フィンの面がリフレクタの光軸と平行に配置されている構成であってもよい。
【0012】
これらの構成により、LEDのリフレクタの光軸と平行方向から外れた光を、光軸と平行に配置された放熱フィンの面で反射させて車両用前照灯の前方に有効に引き出し、輝度を大幅に増大できる。
【0013】
さらに、放熱フィンの面の長さが、放熱フィンの前面形状の間隔より長くてもよい。
【0014】
これにより、LEDのリフレクタの光軸と平行方向から外れた光を、より平行な光とすることができるため、さらに高輝度を実現できる。
【0015】
さらに、放熱フィンが銅、銅合金またはアルミニウムの金属材料から構成され、その面が鏡面状に形成されている構成であってもよい。
【0016】
これにより、LEDで発生する熱を、熱伝導性に優れた金属材料で構成した放熱フィンにより、車両の外部へさらに有効に放熱できる。また、LEDの光を放熱フィンの鏡面に形成された面で反射させ、車両用前照灯の前方にさらに有効に引き出すことができる。
【0017】
さらに、リフレクタの反射面形状が回転楕円体の一部をなし、半導体発光素子がその第1焦点近傍に配設されている構成であってもよい。
【0018】
この構成により、LEDのリフレクタによる反射光を概ね回転楕円体の第2焦点近傍に集光でき、さらにレンズ系によって略平行光に変換することができる。それによりLEDの光を、光透過材料を介して放熱フィンの所定の間隔から前方へ照射できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用前照灯によれば、LEDから発生する熱を車両前方から受ける空気流によって車両外部へ有効に放熱するとともに内面の曇り、外面に付着した霜や雪を解消させることができる。さらに、LEDの光を有効に前方に引き出し輝度を向上させることができる。また、コストの増大や、取り付けや配置などの車両設計上の制限が生じない車両用前照灯を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施の形態)
以下に、本発明の実施の形態における車両用前照灯の構成について、図1と図2を用いて説明する。
【0021】
図1(a)は本発明の実施の形態における車両用前照灯を前面から見た正面図で、図1(b)は図1(a)のA−A線側面断面図である。図2は、本発明の実施の形態における車両用前照灯の放熱フィンの構成を示す斜視図である。なお、図2の放熱フィンにおいては、構成を分かりやすくするために、図1(a)より放熱フィンの実際の数よりも省略して描いてある。
【0022】
図1(b)に示すように、車両用前照灯1は、例えばポリカーボネートなどの樹脂製のハウジング2と、所定の間隔で形成した格子状の放熱フィン4を、例えばポリカーボネートやポリプロピレン、エポキシなどの光透過性樹脂6を用いて埋設し一体的に形成した放熱部8とで構成されている。ここで、放熱フィン4は、下記に説明するリフレクタ12の光軸40と平行な鏡面状の平面を有し、例えば銅、銅合金やアルミニウムなどの熱伝導性に優れる金属材料で構成される。
【0023】
そして、ハウジング2と放熱部8とで構成される空間10は、雨などが浸入しないように密閉した空間を形成し、この空間10内に反射面が回転楕円体の一部からなるリフレクタ12とこのリフレクタ12の第1焦点F1近傍に複数のLEDなどの半導体発光素子(以下では、「LED」と記す場合もある)14、16が配設されている。なお、半導体発光素子としては、主として青色LEDを用い、その青色光と黄色の蛍光体を透過した青色光との混色、あるいは紫外線を発するLEDをRGBの蛍光体を透過させ混色させて白色の発光色を得ている。なお、LED14、16は、複数個は配置することが好ましいが、充分な光量や耐熱性が高い場合には、1つでもよい。
【0024】
さらに、LED14、16は、熱伝導性の基板18、20上にそれぞれ形成され、例えば銅、銅合金やアルミニウムなどの金属材料からなる発光素子支持部22上に接着されている。この発光素子支持部22は、上記リフレクタ12上の光軸を中心に、発光素子支持部22を貫通する孔が開設されており、リフレクタ12を貫通した位置で、発光素子支持部22、リフレクタ12および台座24が、例えば溶接などにより固定されている。なお、台座24の材料としては、発光素子支持部22と同じ金属材料で構成することが望ましい。また、この固定方法としては、溶接による方法以外に、双方にねじを切った台座24と発光素子支持部22によりリフレクタ12を挟み込むように締め付け固定してもよい。
【0025】
また、台座24にはヒートパイプ26、28の吸熱端(図示せず)を接続固定し、図2に示すように放熱端66、68を放熱フィン4のそれぞれ上部面62および下部面64に接続する。ここで、ヒートパイプ26、28は、一般にウイックと呼ばれる水やエタノールなどの作動液が通る液体流路と、その蒸気が通る気体流路が、例えば銅製のパイプなどの熱伝導性の高い密閉空間に設けられた構成を有している。
【0026】
なお、放熱フィン4をヒートパイプ26、28に接続する位置は光の通過を妨げない位置であればどの位置でもよく、特に限定されるものではない。また、上記では、2本のヒートパイプ26、28を用いた例で説明したが、特に本数が限定されるものではない。
【0027】
そして、台座24はハウジング2の後部面29から、ねじ30によってねじ止めされている。また、ヒートパイプ26、28は、ハウジング2に対して、例えば樹脂製のバンド32、34、36、38で固定されている。
【0028】
この構成により、LED14、16の発光に伴って生じる熱は、熱伝導性の基板18、20を介して発光素子支持部22に伝導される。さらに、発光素子支持部22と連結した台座24と接続されたヒートパイプ26、28の吸熱端から放熱部8の放熱フィン4に伝導される。このとき、ヒートパイプ26、28の中では、ヒートパイプ26、28の一部が加熱されると、加熱部(吸熱端)において蒸発潜熱を吸収し作動液が蒸発して低温部(放熱端)に蒸気が移動する。そして、低温部で、蒸気が凝縮して蒸発熱を放出し、凝縮した液体がウイックを通じて毛細管作用によって加熱部に還流する。このようにして、液体−気体の相変化が繰り返され、また減圧下で行われるため極めて速い速度で熱の授受が可能である。
【0029】
また、放熱部8は、車両用前照灯1の先端部(車両の先端部)に配設されているため、特に、走行中は前方から受ける風(空気の流れ)によって急激に冷却される。その結果、LEDで発生した熱が効率的に放熱され、LEDが有効に冷却されるものである。
【0030】
一方、LEDに電流を流すと発光し、LEDを回転楕円体状のリフレクタ12の第1焦点F1近傍に配設しているため、その反射光はリフレクタ12の光軸40上の第2焦点F2近傍に集光される。そして、第2焦点F2を通過したLEDの光は、ハウジング2のレンズ支持部47、49で固定された凸レンズ42によって矢印44、46、48、50、52で示すようにほぼ平行な光に変換される。その後、その平行な光は、リフレクタ12の光軸40に平行に設けられた放熱フィン4の面間(光透過性樹脂6)を通過して前方に照射される。このとき、空間内に設けられたシェード部60を調節することにより、前方に照射される所望の配光パターンの光を得ることができる。
【0031】
一般に大きな光量を得るために、複数のLEDが用いられる。そのため、複数のLEDを一点上には配置できないため、LEDの光はばらつきを持って第2焦点F2近傍に集光され、凸レンズ42を介しても平行な光にならない成分の光が発生する。
【0032】
しかし、光軸40と平行な方向から外れた矢印54、56で示す光は、放熱フィン4の鏡面状の平面上で反射され、有効に車両用前照灯1の前方へ引き出すことができる。なお、放熱部8と一体化する光透過性樹脂6の形成面58は、平行光を反射させないようにリフレクタ12の光軸40と垂直方向に形成することが望ましい。
【0033】
なお、本実施の形態では、格子状の放熱フィンを用いた例で説明したが、これに限られない。例えば、図3に放熱フィンの別の例を正面図で示したように、同心円状の放熱フィン70や蜂の巣状でもよく、ヒートパイプと接続でき、効率よく放熱できるものであれば任意の形状が可能で、特に制限されない。この場合、同心円状の放熱フィン70は、それと直交する支持部材72によって固定し、光透過性樹脂6で一体的に形成する。そして、格子状の放熱フィン4と同様に、同心円状の放熱フィン70も、リフレクタ12の光軸と平行な面を備え、同心円状の放熱フィン70と支持部材72を熱伝導性に優れた金属材料から構成することが望ましい。また、支持部材72を同心円状の放熱フィン70と直交する放射状の放熱フィンとしてもよい。これにより、車両設計において、重要な要素であるデザイン性に優れた車両用前照灯を実現できる。
【0034】
また、本実施の形態では、放熱フィンの格子状の間隔と光軸と平行な面の長さを等しい例で説明したが、これに限られない。例えば、図4の車両用前照灯の側面断面図に示すように、放熱フィン4の格子状の間隔よりも光軸と平行な面の長さを長くしてもよい。このとき、平行な面の長さを位置によって変えてもよく、同じであってもよい。これにより、光軸からずれた平行でない光を、さらに効率的に略平行光とすることができ、輝度を向上させることできる。
【0035】
また、本実施の形態では、放熱フィンの全体を光透過性樹脂に埋設した例で説明したが、これに限られない。例えば、放熱フィンの前面側だけを薄い光透過性樹脂に埋め込んでもよい。これにより、車両用前照灯の軽量化を図ることができる。
【0036】
以上、本実施の形態によれば、LEDから発生する熱を車両の前方方向からの空気流を用いて有効に放熱できるとともに、放熱フィンにより、LEDの光を効率的に利用し輝度を向上させることができる。また、無効な光を低減できるため、LEDの駆動電流を低減し、さらなる長寿命や信頼性に優れた車両用前照灯を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る車両用前照灯は、LEDを効率的に冷却し高輝度で省電力、長寿命の車両用前照灯として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)は本発明の実施の形態における車両用前照灯を前面から見た正面図(b)図1(a)のA−A線側面断面図
【図2】本発明の実施の形態における車両用前照灯の放熱フィンの構成を示す斜視図
【図3】本発明の実施の形態において放熱フィンの別の例を示した車両用前照灯の正面図
【図4】本発明の実施の形態において放熱フィンのさらに別の例を示した車両用前照灯の側面断面図
【符号の説明】
【0039】
1 車両用前照灯
2 ハウジング
4 放熱フィン
6 光透過性樹脂(光透過材料)
8 放熱部
10 空間
12 リフレクタ
14,16 半導体発光素子(LED)
18,20 基板
22 発光素子支持部
24 台座
26,28 ヒートパイプ
29 後部面
30 ねじ
32,34,36,38 バンド
40 光軸
42 凸レンズ(レンズ系)
44,46,48,50,52,54,56 矢印
47,49 レンズ支持部
58 形成面
60 シェード部
62 上部面
64 下部面
66,68 放熱端
70 同心円状の放熱フィン
72 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの先端開口部に位置し、所定の間隔で配置された放熱フィンを光透過材料で覆うように一体的に形成した放熱部と、
前記ハウジングと前記放熱部が構成する空間内に配設された半導体発光素子と、
前記半導体発光素子からの光を反射し集光させるリフレクタと、
前記リフレクタからの反射光を略平行光に変換するレンズ系と、
前記平行光の配光パターンを形成するシェード部と、
前記半導体発光素子の熱を伝導し支持する発光素子支持部と、
前記発光素子支持部と前記放熱フィンとを接続するヒートパイプとを具備し、
前記半導体発光素子の熱を前記放熱部から外部へ放熱し、前記光透過材料を介して前記反射光を前方に照射することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記放熱フィンの前面形状が格子状で、かつ前記放熱フィンの面が前記リフレクタの光軸と平行に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記放熱フィンの前面形状が同心円状で、かつ前記放熱フィンの面が前記リフレクタの光軸と平行に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記放熱フィンの前記面の長さが、前記放熱フィンの前面形状の間隔より長いことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用前照灯。
【請求項5】
前記放熱フィンが銅、銅合金またはアルミニウムの金属材料から構成され、その面が鏡面状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項6】
前記リフレクタの反射面形状が回転楕円体の一部を構成し、前記半導体発光素子がその第1焦点近傍に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−135260(P2008−135260A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319839(P2006−319839)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】