説明

車両用変速機のシンクロ機構

【課題】伝達可能な駆動トルクの減少や、耐久性の低下を伴うことなく、シフト操作中に生じるシフトブロックを抑制できる車両用変速機のシンクロ機構を提供する。
【解決手段】シンクロスリーブの第2係合歯は、回転方向の両側部に、第1係合部と第4係合部とに係合する第1係合面が形成され、クラッチギヤ側の端部が、駆動力伝達歯の前記クラッチギヤ側の端部よりもシンクロハブ側に配置されている。シンクロリングの同期歯は、クラッチギヤ側の端部に、軸方向へスライド移動する駆動力伝達歯と係合する第2係合面が形成されている。シンクロリングの第2リング規制歯は、回転方向の両側部の少なくとも一方に、シンクロハブ側の端部が、第2係合面のシンクロハブ側の端部よりもシンクロハブ側に配置され、第1係合面に当接してシンクロリングの回転方向の位置を規制する第3係合面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機のシンクロ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用変速機のシンクロ機構として、シンクロスリーブの歯の一部を、クラッチギヤと係合するバックテーパ部が幅方向両側に形成された駆動力伝達用の歯とし、他の歯を、上記バックテーパ部が形成されていない、若しくは幅方向の片側にのみ形成されたシンクロリング移動規制用の歯としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。当該シンクロ機構では、シンクロスリーブの歯がシンクロスリーブの傾きを抑制することを本来の目的として設けられており、二次的にシンクロスリーブの歯が、シンクロリング移動規制をしているのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記シンクロ機構では、シンクロリングのコーン面とクラッチギヤのコーン面との同期操作完了後、シンクロスリーブのチャンファ部が、クラッチギヤを押し分ける際にシンクロスリーブのバックテーパ部とシンクロリングのチャンファ部とが係合することを防止でき、これらの係合によって生じる引掛り感(シフトブロック)を抑えることができる。しかしながら、当該シンクロ機構では、シンクロハブ、シンクロスリーブ、及びクラッチギヤを係合させる歯の数が、シンクロリング移動規制専用歯及び同期操作専用歯を設けたことにより減少している。このため、当該シンクロ機構では、シンクロスリーブ及びシンクロハブの一つの歯に加わる荷重が増大することにより伝達可能な駆動トルクが減少する。また、シンクロスリーブ及びシンクロハブの歯の磨耗が増大し耐久性も低下する。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、伝達可能な駆動トルクの減少や、耐久性の低下を伴うことなく、シフト操作中に生じるシフトブロックを抑制できる車両用変速機のシンクロ機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明に係る車両用変速機のシンクロ機構は、回転軸と一体的に回転し、外周に、前記回転軸の軸方向に延びる、前記回転軸の回転方向に配列された複数の第1係合歯を有するシンクロハブと、前記シンクロハブと同期回転すると共に前記軸方向にスライド移動可能であり、内周に、前記軸方向に延びる、前記回転方向に配列された複数の第2係合歯を有するシンクロスリーブと、前記回転軸に相対回転可能に支持された変速ギヤと一体的に回転し、外周に、前記軸方向に延びる、前記回転方向に配列された複数の第3係合歯を有するクラッチギヤと、前記シンクロスリーブと前記クラッチギヤとの相対回転を低減させる同期操作を行い、外周に、前記軸方向に延びる、前記回転方向に配列された複数の第4係合歯を有するシンクロリングとを備え、前記第2係合歯は、前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部に、前記軸方向における歯の先端側に向けて歯幅を狭くするように形成され前記軸方向における前記クラッチギヤ側にスライド移動する際に前記シンクロリング及び前記クラッチギヤを前記回転方向へ相対的に移動させる第1スプラインチャンファ面が形成されると共に、前記軸方向における歯の中央側に向けて歯幅を狭くするように形成される第1傾斜面が形成され、更に、前記第1係合歯と前記第3係合歯とに係合する駆動力伝達歯と、前記回転方向の両側部に、前記第1係合歯と前記第4係合歯とに係合する第1係合面が形成され、前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部が、前記駆動力伝達歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブ側に配置された第1リング規制歯とで構成されており、前記第3係合歯は、前記軸方向における前記シンクロスリーブ側の端部に、前記軸方向における歯の先端側に向けて歯幅を狭くするように形成され前記第1スプラインチャンファ面と当接する第2スプラインチャンファ面が形成されると共に、前記軸方向における歯の変速ギヤ側に向けて歯幅を狭くするように形成され、前記第1傾斜面と係合して前記シンクロスリーブと前記クラッチギヤとを係合状態に保持する保持手段を構成するする第2傾斜面が形成され、前記第4係合歯は、前記軸方向における前記シンクロスリーブ側の端部に、前記軸方向における歯の先端側に向けて歯幅を狭くするように形成され、前記軸方向へスライド移動する前記第1スプラインチャンファ面と当接する第3スプラインチャンファ面が形成され、前記軸方向における前記クラッチギヤ側に、前記軸方向へスライド移動する前記駆動力伝達歯と係合する第2係合面が形成された同期歯と、前記回転方向の両側部の少なくとも一方に、前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部が、前記第2係合面の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブ側に配置され、前記第1係合面に当接して前記シンクロリングの前記回転方向の位置を規制する第3係合面が形成された第2リング規制歯とで構成されている。
【0007】
上記車両用変速機のシンクロ機構は、前記第2リング規制歯と前記軸方向に対向する前記第1係合歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部が、前記同期歯と前記軸方向に対向する前記第1係合歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブ側に配置されていてもよい。
上記車両用変速機のシンクロ機構は、前記第2リング規制歯の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部が、前記同期歯における前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブ側に配置されていてもよい。
【0008】
上記車両用変速機のシンクロ機構は、前記第1傾斜面の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部から前記第1リング規制歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部までの前記軸方向の距離が、前記第2係合面の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部から前記第3係合面の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部までの前記軸方向の距離以上に設定されていてもよい。
【0009】
上記車両用変速機のシンクロ機構は、前記シンクロハブには、前記同期操作時の前記シンクロリングの前記回転方向の位置を規定する位置規定用凹部が設けられ、前記シンクロリングには、前記位置規定用凹部に係合し、前記同期操作時の前記シンクロリングの前記回転方向の位置を規定する位置規定用凸部が設けられ、前記シンクロスリーブの前記第1リング規制歯と、前記シンクロリングの第2リング規制歯とは、前記位置規定用凸部及び前記位置規定用凹部と前記回転方向の位置が一致するように配設されていてもよい。
【0010】
上記車両用変速機のシンクロ機構は、前記第1リング規制歯と前記第2リング規制歯とを備える複数の規制部が、前記回転方向に互いに等間隔離れて配設されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両用変速機のシンクロ機構によれば、伝達可能な駆動トルクの減少や、耐久性の低下を伴うことなく、シフト操作中、つまり、シンクロリングとクラッチギヤとの同期操作完了後、シンクロスリーブがクラッチギヤを押し分けるときに生じるシフトブロックを抑制できる車両用変速機のシンクロ機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のシンクロ機構を示す側断面図である。
【図2】シンクロ機構を示す斜視図である。
【図3】シンクロ機構を示す斜視図である。
【図4】シンクロ機構を示す分解斜視図である。
【図5】シンクロ機構のスプライン構造を拡大して示す斜視図である。
【図6】シンクロ機構のスプライン構造を拡大して示す斜視図である。
【図7】シンクロ機構のスプライン構造を拡大して示す斜視図である。
【図8】シンクロ機構のスプライン構造を拡大して示す斜視図である。
【図9】シンクロ機構のスプライン構造を拡大して示す平面図である。
【図10】シンクロ機構のスプライン構造を拡大して示す斜視図である。
【図11】比較例に係るシンクロ機構のスプライン構造を拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、車両用変速機100に用いる本発明のシンクロ機構10を示す側断面図である。なお、以下の説明では、回転軸12の軸方向(図中矢印S方向)を単に軸方向と称し、回転軸12の回転方向(R方向)、周方向及び半径方向をそれぞれ単に回転方向、周方向、半径方向と称する。
【0014】
この図に示すように、車両用変速機100は、エンジンの駆動力により回転される回転軸12に相対回転可能に支持された一対の変速ギヤ14と、一対の変速ギヤ14の間に配設されたシンクロ機構10とを備えている。一対の変速ギヤ14の軸心には、他方の変速ギヤ14に向かって延びるボス15が形成されている。
シンクロ機構10は、回転軸12と一体的に回転するシンクロハブ20と、シンクロハブ20と同期回転するシンクロスリーブ30と、変速ギヤ14と一体的に回転する一対のクラッチギヤ40と、変速ギヤ14とシンクロハブ20との間に配設された一対のシンクロリング50とを備えている。シンクロリング50は、回転方向にシンクロハブ20に対して一定の回転自由度を持ちながらシンクロハブ20と一体的に回転する。シンクロリング50は、シンクロスリーブ30とクラッチギヤ40との回転を同期させる。
【0015】
シンクロハブ20は、スプライン係合されることにより回転軸12に固定され、回転方向及び軸方向に対して相対移動不能であり、回転軸12と一体で回転する部材である。このシンクロハブ20は、回転軸12にスプライン係合される円柱状のボス部21と、ボス部21から外周方向へ拡がる円盤状の円盤部22と、円盤部22の外周部から軸方向両側へ延びる円環状の外周部23(図3参照)とを備えている。
【0016】
また、シンクロスリーブ30は、シンクロハブ20の外周部23に対して軸方向へ相対移動可能に取り付けられた円環状の部材である。シンクロスリーブ30の内周側には複数(本実施形態では3個)のキー62が所定間隔(本実施形態では120°間隔)おきに配設されている。また、各キー62とシンクロハブ20との間にはシンクロスプリング64が配設されている。このシンクロスプリング64は、キー62をシンクロスリーブ30の内周面に圧接している。
【0017】
ここで、キー62は、シンクロスリーブ30に対して軸方向へ相対移動可能に構成される一方、シンクロスリーブ30に設けた溝部と係合及び離脱可能に構成されている。即ち、シンクロスリーブ30がキー62に対して係合した状態で軸方向へ相対移動した場合に、シンクロスリーブ30とキー62との係合が解除される。また、シンクロスリーブ30がキー62に対して係合を解除した状態で軸方向へ相対移動した場合に、シンクロスリーブ30とキー62とが係合する。
【0018】
また、一対のクラッチギヤ40は、シンクロハブ20を介して軸方向に対向して配設されており、各クラッチギヤ40は、溶接、あるいはスプライン係合されることにより変速ギヤ14のボス15に固定されている。尚、クラッチギヤ40と変速ギヤ14は一体成形されていても良い。各クラッチギヤ40は、変速ギヤ14側からシンクロハブ20側に向けて延びるコーン部41を有している。このコーン部41は、シンクロハブ20側から変速ギヤ14側へかけて拡径する円錐台形状の部位であり、シンクロハブ20側から変速ギヤ14側へかけて外周側へ傾斜する斜面であるコーン面42を有している。
【0019】
また、シンクロリング50は、シンクロハブ20の外周部23の内周面に対して軸方向及び回転方向へ相対移動可能に取り付けられた円環状の部材である。このシンクロリング50の内周面は、クラッチギヤ40のコーン面42と凹凸関係にあるコーン面52となっており、コーン面42とコーン面52とは、シンクロスリーブ30及びキー62の軸方向への移動により互いに摩擦係合される。
【0020】
図2、図3は、シンクロ機構10を示す斜視図であり、図4は、シンクロ機構10を示す分解斜視図である。これらの図に示すように、シンクロハブ20の外周部23には、外歯スプライン(以下、ハブ側外歯スプラインという)24が形成されている。ハブ側外歯スプライン24は、周方向に所定間隔おきに配列された多数の歯(第1係合歯)を有している。当該多数の歯の各々は、軸方向へ延びており、当該多数の歯の幅は一定である。また、外周部23には、所定間隔(例えば、図示するように120°間隔)おきに位置規制用凹部29が形成されている。各位置規制用凹部29は、ハブ側外歯スプライン24における欠歯部である。
【0021】
ハブ側外歯スプライン24は、複数対(本実施形態では3対6本)のシンクロリング50の回転位置規制用の歯(第1係合歯、以下、ハブ側駆動短歯という)25と、当該3対のハブ側駆動短歯25以外の歯である駆動トルク伝達用の歯(第1係合歯、以下、ハブ側駆動長歯という)26とを備えている。ハブ側駆動長歯26は、ハブ側外歯スプライン24の周方向に亘って広範囲に配設されている一方、3対のハブ側駆動短歯25は、等間隔(本実施形態では120°間隔)おきに配設されている。また、各対のハブ側駆動短歯25は、各位置規制用凹部29の周方向両側に配設されている。
【0022】
ハブ側駆動短歯25の軸方向の長さは、ハブ側駆動長歯26の軸方向の長さよりも短くなっている。つまり、ハブ側駆動短歯25の軸方向クラッチギヤ40側の端部は、ハブ側駆動長歯26のクラッチギヤ40側端部よりも軸方向におけるシンクロハブ20の中央側に配置されている。
また、シンクロスリーブ30の内周面には、内歯スプライン34が形成されている。内歯スプライン34は、周方向に所定間隔おきに配列された多数の歯(第2係合歯)を有している。当該多数の歯の各々は、軸方向へ延びている。
【0023】
ここで、ハブ側駆動長歯26と内歯スプライン34の歯とは、同一のピッチで形成されており、また、内歯スプライン34の歯の幅は、隣り合ったハブ側駆動長歯26の間隔より狭くなっている。即ち、ハブ側外歯スプライン24と内歯スプライン34とは、軸方向へ相対移動可能に係合している。
内歯スプライン34は、複数対(本実施形態では3対)のシンクロリング50の位置規制用の歯(第1リング規制歯、以下、スリーブ側規制歯という)35と、当該3対のスリーブ側規制歯35以外の歯である駆動トルク伝達用の歯(駆動力伝達歯、以下、スリーブ側駆動歯という)36とを備えている。スリーブ側駆動歯36は、内歯スプライン34の周方向に亘って広範囲に配設されている一方、3対のスリーブ側規制歯35は、等間隔(本実施形態では120°間隔)おきに配設されている。ここで、各対のスリーブ側規制歯35は、各対のハブ側駆動短歯25を周方向に挟むように配設されている。また、各1本のスリーブ側駆動歯36が、各位置規制用凹部29における周方向の中央部に配設され、多数のスリーブ側駆動歯36が、ハブ側駆動長歯26と周方向へかけて交互に配列されている。
【0024】
また、スリーブ側駆動歯36の軸方向両端部にはチャンファ部37(第1スプラインチャンファ面)が形成され、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37より軸方向中央側には、バックテーパ部38(第1傾斜面)が形成されている。チャンファ部37は、歯の軸方向中央側へかけて歯幅が広くなるように傾斜したチャンファ面を備えている。また、バックテーパ部38は、チャンファ部37から歯の軸方向中央側へかけて歯幅が狭くなるように歯の幅方向内側へ傾斜したテーパ面であり、スリーブ側駆動歯36の幅方向両側に形成されている。また、一対のスリーブ側規制歯35の歯幅方向両側には、軸方向へ直線状に延びるストレート部39が形成されている。
【0025】
なお、ここで説明するチャンファ部37は、歯幅方向中央から幅方向外側へ傾斜した一対のチャンファ面からなるものを例示するが、歯幅方向中央ではなく歯幅方向中央から一方向に偏心した位置から幅方向外側へ傾斜した二つのチャンファ面からなるもの、もしくは、歯幅方向一端から他端へ傾斜した一つのチャンファ面からなるものとしてもよい。
スリーブ側規制歯35の軸方向の長さは、スリーブ側駆動歯36の軸方向の長さよりも短くなっている。つまり、スリーブ側規制歯35の軸方向クラッチギヤ40側の端部は、スリーブ側駆動歯36の軸方向クラッチギヤ40側端部よりも軸方向におけるシンクロハブ20の中央側に配置され、スリーブ側規制歯35の軸方向シンクロハブ20側端部は、スリーブ側駆動歯36の軸方向シンクロハブ20側端部よりも変速ギヤ14側に配置されている。
【0026】
クラッチギヤ40の外周面には、外歯スプライン(以下、ギヤ側外歯スプラインという)44が形成されている。ギヤ側外歯スプライン44は、周方向に所定間隔おきに配列された多数の歯(第3係合歯)を有している。当該多数の歯は、ハブ側外歯スプライン24及び内歯スプライン34の歯と同一のピッチで形成されており、また、当該多数の歯の間隔は、内歯スプライン34の歯の幅より広く設定されている。ここで、シンクロスリーブ30は、軸方向でギヤ側外歯スプライン44と重なり合う位置まで移動可能であり、内歯スプライン34の歯は、ギヤ側外歯スプライン44の歯の間に進入可能である。
【0027】
ギヤ側外歯スプライン44は、周方向全域に亘って形成された多数の駆動トルク伝達用の歯(第3係合歯、以下、ギヤ側駆動歯という)46を備えている。ギヤ側駆動歯46の歯の軸方向シンクロハブ20側端にはチャンファ部47(第2スプラインチャンファ面)が形成され、チャンファ部47より歯の軸方向変速ギヤ14側には、バックテーパ部48(第2傾斜面)が形成されている。チャンファ部47は、歯の軸方向変速ギヤ14側へかけて歯幅が広くなるように傾斜したチャンファ面を備えている。また、バックテーパ部48は、チャンファ部47から歯の軸方向変速ギヤ14側へかけて歯幅が狭くなるように歯の幅方向内側へ傾斜したテーパ面であり、ギヤ側駆動歯46の幅方向両側に形成されている。
【0028】
なお、ここで説明するチャンファ部47も前述のチャンファ部37と同様に偏心させた二つのチャンファ面からなるもの、もしくは、幅方向一端から他端へ傾斜した一つのチャンファ面からなるものとしてもよく、対向するチャンファ部37に応じて設定してもよい。
ここで、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38と、ギヤ側駆動歯46のバックテーパ部48とは、凹凸関係にある。このため、内歯スプライン34をギヤ側外歯スプライン44側へ移動させることにより、バックテーパ部38とバックテーパ部48とを互いに当接させて係合させることで、シンクロスリーブ30とクラッチギヤ40とを係合状態に保持する保持手段を構成する。
【0029】
シンクロリング50の外周面には、外歯スプライン(以下、リング側外歯スプラインという)54が形成されている。リング側外歯スプライン54は、周方向に所定間隔おきに配列された多数の歯(第4係合歯)を有している。当該多数の歯は、ハブ側外歯スプライン24、内歯スプライン34及びギヤ側外歯スプライン44の歯と同一のピッチで形成されている。
【0030】
リング側外歯スプライン54は、複数(本実施形態では3組)のシンクロリング50の移動規制用の歯(第2リング規制歯、以下、リング側規制歯という)55と、当該3組のリング側規制歯55以外の歯である同期用の歯(以下、同期歯という)56とを備えている。同期歯56は、リング側外歯スプライン54の周方向に亘って広範囲に配設されている一方、3組のリング側規制歯55は、等間隔(本実施形態では120°間隔)おきに配設されている。シンクロリング50は、回転方向にシンクロハブ20に対して一定の回転自由度を持ちながらシンクロハブ20と一体的に回転するので、各リング側規制歯55は、一対のスリーブ側規制歯35の間に存するハブ側外歯スプライン24の歯部側駆動長歯26とに対応して配設されている。
【0031】
また、シンクロリング50の外周面には、同期操作時のシンクロリング回転方向の位置を規定する複数(本実施形態では3個)の位置規定用凸部53が形成されている。
当該3個の位置規定用凸部53は、リング側外歯スプライン54よりシンクロハブ20側に、同期操作時のシンクロリング回転方向の位置を規定する位置規定用凹部29に対応して配設されている。位置規定用凸部53の周方向の幅は、位置規定用凹部29の周方向の幅より狭く設定されており、位置規定用凸部53は、位置規定用凹部29の中に周方向へ相対移動可能に配設されている。即ち、シンクロリング50は、位置規定用凸部53の幅と位置規定用凹部29の幅との差分だけシンクロハブ20に対して相対回転可能で一定の回転自由度を持ち、シンクロリング50とシンクロハブ20との相対位置は、位置規定用凸部53と位置規定用凹部29とにより規定される。尚、位置規定用凸部53と位置規定用凹部29とで、位置規定手段を構成する。
【0032】
また、リング側規制歯55及び同期歯56の歯の軸方向シンクロハブ20側端にはチャンファ部57(第3スプラインチャンファ面)が形成されている。チャンファ部57は、歯の軸方向変速ギヤ14側へかけて歯幅が広くなるように傾斜したチャンファ面を備えている。
なお、ここで説明するチャンファ部57も前述のチャンファ部37と同様に偏心させた二つのチャンファ面からなるもの、もしくは、幅方向一端から他端へ傾斜した一つのチャンファ面からなるものとしてもよく、前述のチャンファ部47と同様に、対向するチャンファ部37に応じて設定してよい。
【0033】
また、リンク側規制歯55の軸方向シンクロハブ20側端に、同期歯56と同様のチャンファ部57を形成してもよい。
ここで、リング側規制歯55の軸方向の長さは、同期歯56の軸方向の長さよりも短くなっている。リング側規制歯55の軸方向シンクロハブ20側の端部は、同期歯56の軸方向シンクロハブ20の端部よりも軸方向シンクロハブ20側に配置されている。
【0034】
図5は、シンクロ機構10のスプラインの構造を拡大して示す斜視図である。この図に示すように、スリーブ側駆動歯36における幅方向両側には、隣り合ったハブ側外歯スプライン24のハブ側駆動長歯26の間隔より噛み合い公差の分だけ歯幅を狭めた係合面(第1係合面)33が形成されている。係合面33の軸方向両端部にはバックテーパ部38が設けられ、係合面33におけるバックテーパ部38より軸方向中央側には、軸方向へ直線状に延びるストレート部31が設けられている。また、スリーブ側規制歯35の幅方向両側には、係合面(第1係合面)32が形成されている。係合面32の全体は上述のストレート部39となっている。また、スリーブ側規制歯35及びスリーブ側駆動歯36は、外周側から内周側へかけて歯幅が狭くなるインボリュートスプライン形状となっている。
【0035】
ここで、スリーブ側規制歯35は、スリーブ側駆動歯36の長手方向一端部を回転方向に沿って直線状に切除した構成となっている。スリーブ側駆動歯36の軸方向の全長はL1であり、スリーブ側駆動歯36のストレート部31の軸方向端部からチャンファ部37の先端部までの軸方向の距離は、L2であり、スリーブ側規制歯35の軸方向の全長は(L1−2×L2)より短く設定されている。即ち、スリーブ側規制歯35は、スリーブ側駆動歯36におけるチャンファ部37及びバックテーパ部38を切除した構成になっている。
【0036】
また、リング側規制歯55及び同期歯56は、内周側から外周側へかけて歯幅が狭くなるインボリュートスプライン形状となっている。リング側規制歯55の軸方向変速ギヤ14側の端部と、同期歯56の軸方向変速ギヤ14側の端部とは、軸方向における同一位置に配置されている。
ここで、リング側規制歯55は、同期歯56を、軸方向シンクロハブ20側に延長した構成となっている。リング側規制歯55の軸方向の全長は、L3であり、同期歯56の軸方向の全長は、L4である。リング側規制歯55の全長L3は、リング側規制歯55及び同期歯56の軸方向変速ギヤ14側の端部からハブ側駆動短歯25までの軸方向距離より短く設定されており、リング側規制歯55とハブ側駆動短歯25との動作干渉が防止されている。
【0037】
上述したように、シンクロリング20は、位置規定用凸部53の幅と位置規定用凹部29の幅との差分だけ相対回転可能である。図示するように、変速ギヤがスリーブに対してR1方向(図中下方向)に速く回転している場合には、図中下側のスリーブ側規制歯35と図中下側のリング側規制歯55における図中下側のチャンファ面とが軸方向に対向する。また、この場合、スリーブ側駆動歯36の図中上側のチャンファ面と駆動歯56の図中下側のチャンファ面とが軸方向に対向する。
【0038】
一方で、変速ギヤがスリーブに対してR2方向(図中上方向)に速く回転している場合には、図中上側のスリーブ側規制歯35と図中上側のリング側規制歯55における図中上側のチャンファ面とが対向する。また、この場合、スリーブ側駆動歯36の図中下側のチャンファ面と同期歯56の図中上側のチャンファ面とが軸方向に対向する。
また、リング側規制歯55の歯幅方向両側の側面(第3係合面、以下、係合面という)55Aは、互いに平行に形成され、同期歯56の周方向両側の側面(第2係合面、以下、係合面という)56Aは、互いに平行に形成されている。係合面55Aの軸方向長さL5は、係合面56Aの軸方向長さL6より長く設定されており、係合面55Aの軸方向シンクロハブ20側の端部は、側面56Aの軸方向シンクロハブ20側の端部よりも軸方向シンクロハブ20側に配置されている。また、リング側規制歯55と同期歯56とのチャンファ部57は、同一形状及び同一寸法である。
【0039】
ここで、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38のクラッチギヤ40側の端部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7は、係合面55Aのシンクロハブ20側の端部から係合面56Aのシンクロハブ20側の端部までの軸方向距離(L5−L6)よりも長く設定されている。
また、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38のクラッチギヤ40側の端部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7は、リング側規制歯55のシンクロハブ20側の端部から同期歯56のシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L3−L4)よりも長く設定されている。
【0040】
また、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38のクラッチギヤ40側の端部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7は、同期歯56のシンクロハブ20側の端部から同期歯56の係合面56Aのシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L4−L6)よりも長く設定されている。
次に、シンクロ機構10の同期操作について説明する。
【0041】
図6に示すように、シンクロスリーブ30が軸方向変速ギヤ14側へ移動すると、内歯スプライン34のスリーブ側規制歯35及びスリーブ側駆動歯36が軸方向変速ギヤ14側へ移動する。ここで、シンクロスリーブ30の軸方向変速ギヤ14側への移動が開始される前は、回転軸12と変速ギヤ14との回転速度は異なる。シンクロスリーブ30の軸方向変速ギヤ14側への移動によりキー62が軸方向変速ギヤ14側へ移動し、シンクロリング50のコーン面52をクラッチギヤ40のコーン面42に圧接させる。これにより、シンクロ機構10は、シンクロリング50及びシンクロスリーブ30とクラッチギヤ40との相対回転(差回転)を低減させる同期操作の準備状態に遷移する。なお、シンクロリング50及びシンクロスリーブ30とクラッチギヤ40は図中矢印R1方向へ回転し、クラッチギヤ40と一体の変速ギヤ14は、シンクロリング50及びシンクロスリーブ30に対し図中矢印R1方向へ相対的に速く回転している。
【0042】
当該同期動作の準備状態では、シンクロリング50とクラッチギヤ40のコーン面52、42における摩擦力によりクラッチギヤ40のコーン面42にコーントルクがR1方向に発生する。そして、シンクロリング50は、当該コーントルクにより、位置規定用凸部53と位置規定用凹部29との隙間の分だけR1方向に回転する。これにより、スリーブ側規制歯35及びスリーブ側駆動歯36のチャンファ部37における図中上側のチャンファ面と、同期歯56のチャンファ部57における図中下側のチャンファ面とが軸方向に対向する。
【0043】
そして、シンクロスリーブ30がキー62を内周側へシンクロスプリング64の付勢力に抗して押下げながら、さらに軸方向変速ギヤ14側へ移動すると、チャンファ部37の図中上側のチャンファ面が、チャンファ部57の図中下側のチャンファ面に当接する。ここで、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38のクラッチギヤ40側の端部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7は、リング側規制歯55のシンクロハブ20側の端部から同期歯56のシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L3−L4)よりも長く設定されている。このため、チャンファ部37の図中上側のチャンファ面がチャンファ部57の図中下側のチャンファ面に当接した時点で、スリーブ側規制歯35は、リング側規制歯55に対して非接触である。
【0044】
なお、スリーブ側規制歯35がリング側規制歯55に対して非接触に設定されていればよく、必ずしもL7>(L3−L4)と設定する必要はない。
この際、シンクロスリーブ30が、シンクロリング50のコーン面52をクラッチギヤ40のコーン面42により一層強い力で押圧させ、より一層大きいコーントルクを発生させる。当該状態において、シンクロリング50及びシンクロスリーブ30とクラッチギヤ40とは、同期操作を行う。そして、シンクロリング50及びシンクロスリーブ30とクラッチギヤ40との同期操作が完了してこれらの差回転が生じなくなると、コーントルクが消滅する。
【0045】
図7に示すように、同期操作が完了してコーントルクが生じない状態になると、スリーブ側駆動歯36は、チャンファ部37の図中上側のチャンファ面からチャンファ部57の図中下側のチャンファ面に対して矢印R2方向の荷重を与えてシンクロリング50を矢印R2方向に回転させる。ここで、スリーブ側規制歯35とリング側規制歯55とは依然として非接触である。
【0046】
そして、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37が同期歯56のチャンファ部57から離れた後は、シンクロ機構10に矢印R1方向の回転力が作用していることから、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37における歯幅方向外側の角部と、同期歯56の係合面56Aとが当接する。ここで、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37の幅方向外側の角部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7は、係合面55Aのシンクロハブ20側の端部から係合面56Aのシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L5−L6)よりも長く設定されている。このため、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37における幅方向外側の角部と、同期歯56の係合面56Aのハブ側端部とが当接した時点では、スリーブ側規制歯35とリング側規制歯55とは依然として非接触である。
【0047】
また、ここで、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37の歯幅方向外側の角部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7は、リング側規制歯55のシンクロハブ20側の端部から同期歯56の係合面56Aのシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L4−L6)よりも長く設定されている。そして、規制歯36が、さらに軸方向変速ギヤ14側へ移動した際、チャンファ部37の歯幅方向外側の角部が係合面56Aに当接している間に、スリーブ側規制歯35の係合面32とリング側規制歯55の係合面55Aとが互いに当接する。これにより、シンクロリング50とシンクロスリーブ30の回転方向の相対位置が決まる。
【0048】
図8及び図9に示すように、図中下側のスリーブ側規制歯35は、図中上側の係合面32をリング側規制歯55の係合面55Aに当接させた状態で、軸方向変速ギヤ14側へ移動する。この際、スリーブ側駆動歯36は、バックテーパ部38を同期歯56に接触させずに軸方向変速ギヤ14側へ移動し、その後、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37の図中上側のチャンファ面が、ギヤ側駆動歯46のチャンファ部47における図中下側のチャンファ面に当接する場合がある。このケースについて説明する。なお、逆側が当接する場合は、向きが逆になる。
【0049】
この状態で、シンクロリング50とシンクロスリーブ30との周方向の相対位置は一定となっている。従って、同期歯56の角部が、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38の溝部に嵌まり込むことを防止できる。
そして、スリーブ側駆動歯36は、チャンファ部37の図中上側のチャンファ面からチャンファ部47の図中下側のチャンファ面に対して矢印R2方向の力を与えてクラッチギヤ40を矢印R2方向へ回転させながら、軸方向変速ギヤ14側へ移動する。この際、スリーブ側規制歯35は、係合面32をリング側規制歯55の係合面55Aに当接させた状態で軸方向変速ギヤ14側へ移動する。
【0050】
図10に示すように、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37が、ギヤ側駆動歯46のチャンファ部47より軸方向変速ギヤ14側まで移動すると、スリーブ側駆動歯36とギヤ側駆動歯46とが噛み合う。
ここで、図11には、シンクロ機構の一般的な構成として、シンクロスリーブ30の内歯スプライン34の歯を全てスリーブ側駆動歯36とし、シンクロリング50のリング側外歯スプライン54の歯を全て同期歯56とした比較例を示している。この図に示すように、当該比較例では、同期操作完了後、シンクロスリーブ30がシンクロリング50を押し分け、クラッチギヤ40と当接するまでの間で、回転方向がフリー(回転の自由度を持つ)となっているシンクロリング50が、引きずり抵抗や攪拌抵抗などのドラグトルク等で、シンクロスリーブ30に対し相対的にR2方向へ回転してしまうと、同期歯56がスリーブ側駆動歯36に当接する。この際、同期歯56の幅方向外側の角部が、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38の溝部に嵌まり込む。
【0051】
この状態において、クラッチギヤ40は、シンクロスリーブ30によって矢印R2方向へ付勢される一方、シンクロリング50は、シンクロスリーブ30によって矢印R1方向へ付勢される。この際、スリーブ側駆動歯36のバックテーパ部38の溝部から同期歯56の角部に作用する力Fによって、シンクロリング50のコーン面52がクラッチギヤ40のコーン面42に押圧される。これによって、再び、矢印R1方向へのコーントルクが、クラッチギヤ40に働き、矢印R2方向へのコーントルクが、シンクロリング50に働く。再度発生したコーントルクは、シフト操作の阻害要因となり、引掛り感(所謂シフトブロック)を生じさせる。
【0052】
これに対し、本実施形態では、スリーブ側規制歯35、リング側規制歯55の作用により、同期歯56の角部が駆動歯36のバックテーパ部38の溝部に嵌まり込むことを防止できる。従って、クラッチギヤ40の矢印R2方向への回転を阻害するコーントルクの発生を防止でき、シフトブロックの発生を防止できる。
また、本実施形態では、シンクロスリーブ30の一部の歯(本実施形態では3対6本の歯)の長さをそれ以外の歯よりも短くすることによりスリーブ側規制歯35を構成している。また、シンクロリング50の一部の歯(本実施形態では3対6本の歯)の長さをそれ以外の歯よりも長くすることによりリング側規制歯55を構成している。これにより、シンクロハブ20の外歯スプライン24の同一ピッチで配列された同一幅の歯を、位置規定用凹部29を除く全域に亘って配列することができる。また、シンクロスリーブ30の内歯スプライン34の同一ピッチで配列された同一幅の歯を、外歯スプライン24を設ける領域全体に外歯スプライン24の歯と交互に配列することができる。
【0053】
そして、位置規定用凹部29を除く全域に亘って配列されたシンクロハブ20及びシンクロスリーブ30の歯を、一部の歯(本実施形態では3対6本の歯)を除いて、互いに係合するハブ側駆動長歯26、スリーブ側駆動歯36とすることができる。従って、シンクロハブ20、シンクロスリーブ30及びクラッチギヤ40の互いに噛み合う歯数を増加させることができ、以って、シンクロ機構10における伝達許容トルクを増大させることができる。
【0054】
また、シンクロハブ20、シンクロスリーブ30及びクラッチギヤ40の伝達トルクを負担する歯の数を増加させることができ、以って、一本一本の歯が負担するトルクを低減して、シンクロハブ20、シンクロスリーブ30及びクラッチギヤ40の歯の耐久性を向上させることができる。
また、シンクロスリーブ30及びシンクロリング50の互いに当接する歯数を増加させることができる。従って、シンクロスリーブ30及びシンクロリング50の同期作用に寄与するチャンファ部の数を増加させることができ、以って、1個1個のチャンファ部に作用する衝撃を低減して当該チャンファ部の耐久性を向上させることができる。
【0055】
また、スリーブ側規制歯35は、シンクロスリーブ30の内周面にスプライン成形により同一幅のスリーブ側駆動歯36を同一ピッチで形成し、その後、スリーブ側駆動歯36の軸方向両端部を切除するという方法で成形できる。従って、シンクロスリーブ30の製造を複雑化させることなく、上記効果を得ることができるシンクロ機構10を得ることができる。また、上記比較例で説明したシンクロスリーブを用いて本実施形態に係るシンクロスリーブ30を得ることができるので、部品の流用による部品コストの低減が可能である。併せて、従来の一般的なシンクロ機構を持つ既存の車両用変速機に対しても、シンクロハブとシンクロスリーブとシンクロリングを交換するだけで、他の設計変更をしないで対応可能である。
【0056】
また、本実施形態では、ハブ側駆動短歯25を、ハブ側駆動長歯26の軸方向両端部を切除した構成とすることにより、ハブ側駆動短歯25とリング側規制歯55及びキー53との干渉を防止している。即ち、ハブ側駆動歯25とスリーブ側駆動歯35との係合長を、上記比較例と同等の長さとしたうえで、ハブ側駆動短歯25とリング側規制歯55及びキー53との干渉を防止することができる。従って、シンクロ機構10における伝達許容トルクをほとんど減少させることなく、ハブ側駆動短歯25とリング側規制歯55との干渉を防止することができる。
【0057】
また、本実施形態では、スリーブ側駆動歯36の幅方向両側に、クラッチギヤ40の反対側へかけて歯幅が狭くなるバックテーパ部38が設けられ、ギヤ側駆動歯46の歯幅方向両側に、シンクロスリーブ30の反対側へかけて歯幅が狭くなるバックテーパ部47が設けられている。このバックテーパ部38とバックテーパ部48とを係合させた状態で、駆動トルクが入力されると、バックテーパ部48からバックテーパ部38に対して、シフト時のシンクロスリーブ30が進行する側へ力が作用する。これにより、スリーブ側駆動歯36のギヤ側駆動歯46からの抜け出しを防止でき、以って、シンクロスリーブ30とクラッチギヤ40との係合を保持することができる。
【0058】
また、本実施形態では、一対のスリーブ側規制歯35と一対のリング側規制歯55とを組み合わせて構成した3組の規制部を、回転軸12の回転方向に沿って等間隔(120°)おきに配設している。これにより、シンクロ機構10における周方向にかけての伝達トルクの偏りを抑制できる。
また、本実施形態では、スリーブ側駆動歯36のクラッチギヤ40側の端部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7が、リング側規制歯55のシンクロハブ20側の端部から同期歯56のシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L3−L4)よりも長く設定されている。これにより、スリーブ側駆動歯36が同期歯56に当接した時点で、スリーブ側規制歯35とリング側規制歯55とが非接触となる。即ち、スリーブ側駆動歯36と同期歯56との同期動作が、スリーブ側規制歯35とリング側規制歯55とが当接するのに先行して実施される。また、スリーブ側駆動歯36のチャンファ部37の幅方向外側の角部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7は、係合面55Aのシンクロハブ20側の端部から係合面56Aのシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L5−L6)よりも長く設定されている。これにより、スリーブ側駆動歯36のチャンファ面の歯幅方向外側の角部が、同期歯56の係合面56Aに当接する時点まで、スリーブ側規制歯35とリング側規制歯55とは依然として非接触となる。従って、スリーブ側駆動歯36が同期歯56を図中矢印R2方向へ回転させる動作が、スリーブ側規制歯35、リング側規制歯55により阻害されることを防止できる。
【0059】
また、スリーブ側駆動歯36のクラッチギヤ40側の端部からスリーブ側規制歯35のクラッチギヤ40側の端部までの軸方向の距離L7が、リング側規制歯55のシンクロハブ20側の端部から同期歯56の係合面56Aのシンクロハブ20側の端部までの軸方向の距離(L4−L6)よりも長く設定されている。そして、スリーブ側規制歯36が、チャンファ部37の歯幅方向外側の角部を係合面56Aに当接させて移動している間に、スリーブ側規制歯35の係合面32とリング側規制歯55の係合面55Aとを互いに当接させることができる。これにより、チャンファ部37の幅方向外側の角部が、同期歯56の間を通過した後に、スリーブ側規制歯35の係合面32とリング側規制歯55の係合面55Aとを互いに当接させることができ、以って、バックテーパ部38の溝部が同期歯56の歯幅方向外側の角部に嵌まり込むことを防止できる。
【0060】
また、本実施形態では、リング側規制歯55を位置規制用凸部53に設けている。ここで、位置規制用凸部53は、シンクロリング50の外周部においてリング側外歯スプライン54から軸方向へ突出した部位であることにより、シンクロリング50にリング側規制歯55を設けるにあたってのシンクロリング50の軸方向寸法の拡大を防止できる。従って、シンクロ機構10全体の軸方向寸法の拡大を防止できる。
【0061】
また、トルク伝達に寄与しないスリーブ側規制歯35を、シンクロスリーブ20の外歯スプライン24の欠歯部分でありトルク伝達に寄与しない位置規制用凸部53の両側に設けたことにより、シンクロ機構10におけるトルク伝達が行われない領域を位置規制用凸部53の位置に集約できる。従って、シンクロ機構10における周方向にかけての伝達トルクの偏りを抑制できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、本実施形態では、シンクロハブ20の回転軸方向両側に変速ギヤ14を配置した両側シンクロ機構を示したが、シンクロハブ20の回転軸方向一側のみに変速ギヤ14を配置した片側シンクロ機構に本発明を用いてもよい。
【0063】
また、スリーブ側規制歯35とリング側規制歯55とを、位置規定用凸部53及び位置規定用凹部29と周方向位置が一致するように配設することは必須ではなく、スリーブ側規制歯35やリング側規制歯55は、それぞれの全周のどの位置に設定してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 シンクロ機構
12 回転軸
14 変速ギヤ
15 ボス
20 シンクロハブ
21 ボス部
22 円盤部
23 外周部
24 ハブ側外歯スプライン(第1係合歯)
25 ハブ側駆動短歯(第1係合歯)
26 ハブ側駆動長歯(第1係合歯)
29 位置規制用凹部
30 シンクロスリーブ
31 ストレート部
32 係合面(第1係合面)
33 係合面
34 内歯スプライン(第2係合歯)
35 スリーブ側規制歯(第1リング規制歯)
36 スリーブ側駆動歯(駆動力伝達歯)
37 チャンファ部(第1スプラインチャンファ面)
38 バックテーパ部(第1傾斜面)
39 ストレート部
40 クラッチギヤ
41 コーン部
42 コーン面
44 ギヤ側外歯スプライン(第3係合歯)
46 ギヤ側駆動歯
47 チャンファ部(第2スプラインチャンファ面)
48 バックテーパ部(第2傾斜面)
50 シンクロリング
52 コーン面
53 位置規制用凸部
54 リング側外歯スプライン(第4係合歯)
55 リング側規制歯(第2リング規制歯)
55A 係合面(第3係合面)
56 同期歯
56A 係合面(第2係合面)
57 チャンファ部(第3スプラインチャンファ面)
62 キー
100 車両用変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体的に回転し、外周に、前記回転軸の軸方向に延びる、前記回転軸の回転方向に配列された複数の第1係合歯を有するシンクロハブと、
前記シンクロハブと同期回転すると共に前記軸方向にスライド移動可能であり、内周に、前記軸方向に延びる、前記回転方向に配列された複数の第2係合歯を有するシンクロスリーブと、
前記回転軸に相対回転可能に支持された変速ギヤと一体的に回転し、外周に、前記軸方向に延びる、前記回転方向に配列された複数の第3係合歯を有するクラッチギヤと、
前記シンクロスリーブと前記クラッチギヤとの相対回転を低減させる同期操作を行い、外周に、前記軸方向に延びる、前記回転方向に配列された複数の第4係合歯を有するシンクロリングとを備え、
前記第2係合歯は、
前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部に、前記軸方向における歯の先端側に向けて歯幅を狭くするように形成され前記軸方向における前記クラッチギヤ側にスライド移動する際に前記シンクロリング及び前記クラッチギヤを前記回転方向へ相対的に移動させる第1スプラインチャンファ面が形成されると共に、前記軸方向における歯の中央側に向けて歯幅を狭くするように形成される第1傾斜面が形成され、更に、前記第1係合歯と前記第3係合歯とに係合する駆動力伝達歯と、
前記回転方向の両側部に、前記第1係合歯と前記第4係合歯とに係合する第1係合面が形成され、前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部が、前記駆動力伝達歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブ側に配置された第1リング規制歯とで構成されており、
前記第3係合歯は、
前記軸方向における前記シンクロスリーブ側の端部に、前記軸方向における歯の先端側に向けて歯幅を狭くするように形成され前記第1スプラインチャンファ面と当接する第2スプラインチャンファ面が形成されると共に、前記軸方向における歯の変速ギヤ側に向けて歯幅を狭くするように形成され、前記第1傾斜面と係合して前記シンクロスリーブと前記クラッチギヤとを係合状態に保持する保持手段を構成するする第2傾斜面が形成され、
前記第4係合歯は、
前記軸方向における前記シンクロスリーブ側の端部に、前記軸方向における歯の先端側に向けて歯幅を狭くするように形成され、前記軸方向へスライド移動する前記第1スプラインチャンファ面と当接する第3スプラインチャンファ面が形成され、前記軸方向における前記クラッチギヤ側に、前記軸方向へスライド移動する前記駆動力伝達歯と係合する第2係合面が形成された同期歯と、
前記回転方向の両側部の少なくとも一方に、前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部が、前記第2係合面の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブ側に配置され、前記第1係合面に当接して前記シンクロリングの前記回転方向の位置を規制する第3係合面が形成された第2リング規制歯とで構成されている、車両用変速機のシンクロ機構。
【請求項2】
前記第2リング規制歯と前記軸方向に対向する前記第1係合歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部は、前記同期歯と前記軸方向に対向する前記第1係合歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブの中央側に配置されている請求項1に記載の車両用変速機のシンクロ機構。
【請求項3】
前記第2リング規制歯の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部が、前記同期歯における前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部よりも前記軸方向における前記シンクロハブ側に配置されている請求項1又は請求項2に記載の車両用変速機のシンクロ機構。
【請求項4】
(L5−L6)
前記第1傾斜面の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部から前記第1リング規制歯の前記軸方向における前記クラッチギヤ側の端部までの前記軸方向の距離が、前記第2係合面の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部から前記第3係合面の前記軸方向における前記シンクロハブ側の端部までの前記軸方向の距離以上に設定されている請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の車両用変速機のシンクロ機構。
【請求項5】
前記シンクロハブには、前記同期操作時の前記シンクロリングの前記回転方向の位置を規定する位置規定用凹部が設けられ、
前記シンクロリングには、前記位置規定用凹部に係合し、前記同期操作時の前記シンクロリングの前記回転方向の位置を規定する位置規定用凸部が設けられ、
前記シンクロスリーブの前記第1リング規制歯と、前記シンクロリングの第2リング規制歯とは、前記位置規定用凸部及び前記位置規定用凹部と前記回転方向の位置が一致するように配設されている請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の車両用変速機のシンクロ機構。
【請求項6】
前記第1リング規制歯と前記第2リング規制歯とを備える複数の規制部が、前記回転方向に互いに等間隔離れて配設されている請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の車両用変速機のシンクロ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−127733(P2011−127733A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289000(P2009−289000)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】