車両用操舵装置
【課題】ステアリングギア比を車速に応じて変化させる場合であっても、ドライバに対し、車速に関係なく適切な操舵量をイメージさせる。
【解決手段】車速Vに基づきステアリングギア比Gおよび転舵角δを算出し(ステップS1、S2)、さらに車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)と、フリクション成分Tfと、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和から操舵反力Tを演算し(ステップS3〜S8)、操舵反力成分T(V,θ)を、車速Vが大きいときほど小さな値となる特性とする。車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制されるため、ステアリングギア比を車速に応じてステアリングギア比が大きくなる特性とした場合でも、ステアリングホイール1に付与される操舵反力は車速に関係なくほぼ同等程度となる。そのためドライバは操舵量をイメージしやすくなり、的確な操舵を行うことができる。
【解決手段】車速Vに基づきステアリングギア比Gおよび転舵角δを算出し(ステップS1、S2)、さらに車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)と、フリクション成分Tfと、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和から操舵反力Tを演算し(ステップS3〜S8)、操舵反力成分T(V,θ)を、車速Vが大きいときほど小さな値となる特性とする。車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制されるため、ステアリングギア比を車速に応じてステアリングギア比が大きくなる特性とした場合でも、ステアリングホイール1に付与される操舵反力は車速に関係なくほぼ同等程度となる。そのためドライバは操舵量をイメージしやすくなり、的確な操舵を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵輪の転舵角に対するステアリング操作手段の操舵角の伝達比であるステアリングギア比を任意に変更可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置は、据え切り時や極低速域における操舵負担の軽減、低〜中速域における軽快なステアリングフィーリングおよび高速域における緩やかで安定感のあるステアリングフィーリングを図るために、停止時にステアリングギア比を最も小さくし、車速が高くなるにしたがって、ステアリングギア比を大きくしている。また、ステアリングギア比が所定値以下であるときには、ステアリングギア比が所定値を超えているときよりも操舵反力を大きくすることで、低速域でステアリングギア比が小さい状態におけるステアリングホイールの切り過ぎを防止するようにしたものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4069829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような車速に対してステアリングギア比が変化する操舵系は、同一カーブを走行する場合であっても、車速によって操舵角が異なる。そのため、同一カーブを走行する場合であっても、ドライバは適切な操舵角をイメージしにくくなり、ドライバに違和感を与える。
そこで、この発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、車速に関係なく安定した操舵を実現することの可能な車両用操舵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、車速が大きいときほどステアリング操作手段に与える操舵反力が小さくなるようにする。その結果、車速に応じてステアリングギア比が変化しても操舵反力の差を抑制することができるため、ドライバは操舵量をイメージしやすくなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車速が大きいときほど、ステアリング操作手段に与える操舵反力が小さくなるようにしたため、同一カーブを走行する場合などに車速に応じてステアリングギア比が変化しても操舵反力の差を小さくすることができる。そのため、ドライバに対して操舵量をイメージしやすくさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の車両用操舵装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】車両用操舵装置の制御ブロック図の一例である。
【図3】車速に対するステアリングギア比の特性の一例を示す特性図である。
【図4】制御装置で実行される操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】操舵角に対する操舵反力成分T(θ)の特性の一例を示す特性図である。
【図6】車速に対する操舵反力係数K1の特性の一例を示す特性図である。
【図7】操舵角速度に対する操舵反力成分T(θ′)の特性の一例を示す特性図である。
【図8】操舵角に対する操舵反力Tの特性の一例を示す特性図である。
【図9】第2の実施の形態における操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図10】車速に対するフリクション成分Tf(V)の特性の一例を示す特性図である。
【図11】第2の実施の形態における操舵角に対する操舵反力Tの特性の一例を示す特性図である。
【図12】第3の実施の形態における操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図13】車速に対する操舵反力係数K2の特性の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
(第1実施形態)
まず、第1の実施の形態を説明する。
(構成)
図1は、本発明の車両用操舵装置100の概略構成を示すブロック図の一例である。
図1に示すように、車両用操舵装置100は、ステアリングホイール1と、反力アクチュエータ2と、反力制御量検知センサ3と、操舵角センサ4と、操舵トルクセンサ5と、転舵輪6と、ステアリングギア7と、転舵アクチュエータ8と、転舵制御量検知センサ9と、転舵角センサ10と、制御装置11と、車速センサ12と、を備えている。
前記操舵トルクセンサ5は、ステアリングホイール1と反力アクチュエータ2との間に発生する操舵トルクを検出する。操舵角センサ4は、ステアリングホイール1の操舵角θを検出する。反力制御量検知センサ3は、反力アクチュエータ2の制御量を検出する。
【0009】
前記転舵制御量検知センサ9は、転舵アクチュエータ8の制御量を検出する。転舵角センサ10は、転舵輪6の転舵角δを検出する。車速センサ12は、車両の速度Vを検出する。これら各センサの出力は、制御装置11へ入力される。
前記制御装置11は、各センサの出力に基づいて、ステアリングホイール1に操舵反力を発生させる反力アクチュエータ2の制御量と、ステアリングギア7を駆動する転舵アクチュエータ8の制御量とを算出する。反力アクチュエータ2は、制御装置11から供給される制御量に応じてステアリングホイール1へ操舵反力を付与する。同様に、転舵アクチュエータ8は、制御装置11から供給される制御量に応じて、転舵輪6の転舵角δを変化させる。
以上の構成により、車両用操舵装置100では、ドライバの操舵入力に対して任意に転舵角の特性を変更することができ、操舵反力を車両運動、ギア比によらず任意に設定することのできる、いわゆるステアバイワイヤの機能を実現している。
【0010】
図2は、車両用操舵装置100の制御ブロック図である。
制御装置11は、反力算出部11aと、転舵角算出部11bと、反力ドライバ11cと、転舵ドライバ11dと、を備えている。反力算出部11aと反力ドライバ11cとで操舵反力制御手段を構成している。また、転舵角算出部11bと転舵ドライバ11dでステアリングギア比制御手段を構成している。
【0011】
操舵角センサ4および車速センサ12の出力は、反力算出部11aおよび転舵角算出部11bへ入力される。反力算出部11aの出力は反力ドライバ11cへ出力され、反力ドライバ11cは、反力アクチュエータ2を駆動するための、例えば電流値などの物理量を出力する。
前記反力制御量検知センサ3は、反力ドライバ11cが反力アクチュエータ2へ出力している、例えば電流値などの制御量を検出し、反力ドライバ11cへフィードバックする。操舵トルクセンサ5の出力は反力算出部11aへ入力される。
【0012】
前記転舵角算出部11bでは、ステアリングホイール1の操舵角θと車速Vとに応じて転舵角δの目標値を演算する。例えば、図3に示すように、車速Vに応じてステアリングギア比G(θ/δ)を変化させる特性を有する転舵角δを算出する。これにより、高速では直進安定性がよく、低速では車両の取り回し性に優れたステアリングギア比Gを実現している。
【0013】
なお、図3において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸はステアリングギア比Gである。車速Vがしきい値v11より小さいときにはステアリングギア比Gは比較的小さな値であるg1(例えば10程度)に設定され、車速Vがしきい値v11以上しきい値v12(v11>v12)以下のときには車速Vの増加に比例してステアリングギア比Gは直線的に増加し、しきい値v12より大きいときにはステアリングギア比Gは、比較的大きな値であるg2(例えば20程度)に設定される。
【0014】
前記転舵角算出部11bの出力は転舵ドライバ11dへ出力され、転舵ドライバ11dは、転舵アクチュエータ8を駆動するための、例えば電流値などの物理量を出力する。この転舵角算出部11bの出力は、反力算出部11aにも入力される。
前記転舵制御量検知センサ9は、転舵ドライバ11dが転舵アクチュエータ8へ出力している、例えば電流値などの制御量を検出し、転舵ドライバ11dへフィードバックする。転舵角センサ10の出力は、転舵角算出部11bに入力される。
反力算出部11aは、ステアリングホイール1をニュートラル方向に戻すように作用する操舵反力を算出する。反力算出部11aは、操舵角θと車速Vとに応じて操舵反力を算出し、転舵ドライバ11dを駆動するための、例えば電流値などの物理量を出力する。
【0015】
(操舵反力算出方法)
次に、制御装置11で実行される操舵反力および転舵角を算出するための操舵反力算出制御処理を、図4を伴って説明する。図4は、操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
車両のイグニッションキースイッチのオンなどをトリガとして、制御装置11が起動されると、図4の操舵反力算出制御処理が起動される。
そして、まずステップS1で車速センサ12からの車速Vと操舵角センサ4からのステアリングホイール1の操舵角θとを読み込む。
次いで、ステップS2に移行し、車速Vに応じたステアリングギア比Gおよび転舵角δを演算する。ステアリングギア比Gは前記図3の特性図から車速Vに基づき算出する。転舵角δは、ステアリングギア比Gと操舵角θとから、ステアリングギア比Gを満足する転舵角δを演算する。
【0016】
次いで、ステップS3に移行し、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)を演算する。操舵反力成分T(θ)は、例えば図5に示す特性を有する値に演算される。すなわち、操舵角θが零のとき操舵反力成分T(θ)は零となり、操舵角θが大きいときほど操舵反力成分T(θ)は大きくなる。
なお、図5において横軸は操舵角θ〔deg〕、縦軸は操舵反力成分T(θ)である。また、図5において、操舵角θおよび操舵反力成分T(θ)の符号は、正値の場合は右に操舵が行われた場合を表し、負値の場合は左に操舵が行われた場合を表す。
【0017】
次いで、ステップS4に移行し、車速Vに応じた操舵反力係数K1を演算する。この操舵反力係数K1は、例えば、図6に示す特性を有する値に設定される。
図6において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸は操舵反力係数K1である。操舵反力係数K1は、車速Vがしきい値v21より小さいときには“1”より大きな値であるk11に設定される。また、車速Vがしきい値v21以上しきい値v22(v22>v21)以下であるときには車速Vが大きくなるほど操舵反力係数K1は車速Vの増加に反比例して減少し、車速Vがしきい値v22より大きいとき、操舵反力係数K1は“1”より小さな値であるk12に設定される。
【0018】
前記操舵反力係数K1の特性は、必ずしも図6に示す特性に限るものではなく、車速Vが低速であるときの操舵反力係数K1よりも高速であるときの操舵反力係数K1の方が小さくなる特性であればよい。また、前記しきい値v21および前記v22は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定される。なお、前記しきい値v21および前記v22は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と必ずしも同一である必要はなく任意に設定することができる。
【0019】
次いで、ステップS5に移行し、車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)を演算する。
この車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)は、ステップS3で演算した操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)に、ステップS4で算出した操舵反力係数K1を乗算することで算出する。
【0020】
次いで、ステップS6に移行し、転舵輪に操舵トルクを伝達する伝達系におけるフリクションを模擬したフリクション成分Tfを設定する。
このフリクション成分Tfは、ステアリングホイール1の操舵方向に対して反対方向に作用する力であって、車速Vに関係なく一定とする。
次いで、ステップS7に移行し、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)を演算する。この操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)は、ステアリングホイール1の操舵方向に対して反対方向に作用する力であって、図7に示す特性を有する値に演算される。
【0021】
図7において横軸は操舵角速度θ′(deg/s)、縦軸は操舵反力成分T(θ′)〔Nm〕である。図7に示すように、操舵角速度θ′が零のときには操舵反力成分T(θ′)は零となり、操舵角速度θ′が大きくなるとこれに比例して操舵反力成分T(θ′)も増加する一次関数で表される。なお、図7において、操舵角速度θ′および操舵反力成分T(θ′)の符号は、正値の場合は右に操舵が行われた場合を表し、負値の場合は左に操舵が行われた場合を表す。なお、操舵角速度θ′に対する操舵反力成分T(θ′)の特性は図7に限るものではなく任意に設定することができる。
【0022】
次いでステップS8に移行し操舵反力Tを演算する。具体的には、ステップS5で演算した車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)と、ステップS6で演算したフリクション成分Tfと、ステップS7で演算した操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和を操舵反力Tとする。
次いで、ステップS9に移行し、演算した操舵反力Tを反力ドライバ11cに出力する。また、ステップS2で演算した転舵角δを転舵ドライバ11dに出力する。
そして本制御を終了する。
【0023】
(動作)
次に、第1の実施の形態の動作を説明する。
操舵が行われると、車速Vに基づきステアリングギア比Gが検出され、ステアリングギア比Gと操舵角θとに基づき転舵角δが算出され(ステップS1、S2)、これに応じて転舵輪が制御される。車速Vが比較的小さいときには、ステアリングギア比は比較的小さな値に設定されるため、車両の取り回し性に優れたステアリング特性となり、逆に車速Vが比較的大きいときには、ステアリングギア比は比較的大きな値に設定されるため、直進安定性のよいステアリング特性となる。
【0024】
また、転舵角δの算出とともに、車速V、操舵角θに応じた操舵反力Tが演算され(ステップS3〜S8)、これに応じた操舵反力がステアリングホイール1に付与される。
このとき、操舵反力Tは、車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)と、フリクション成分Tfと、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和から求められ、操舵反力成分T(V,θ)は、車速Vおよび操舵角θに応じて演算される。そのため、操舵反力成分T(V,θ)は車速Vに応じて変化し、車速Vが大きいときほど操舵反力成分T(V,θ)は小さな値となる。つまり、操舵角θが一定であっても車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制され、結果的にステアリングホイール1に付与される操舵反力が抑制されることになる。
【0025】
図8は、ステップS8で算出した操舵反力Tの特性を表したものであって、横軸は操舵角θ〔deg〕、縦軸は操舵反力T〔Nm〕である。図8の(a)および(b)において、上側の特性は右操舵が行われるときの特性を表し下側の特性は左操舵が行われるときの特性を表す。また、図8(a)は低速時(例えば、30〔km/h〕程度)、図8(b)は高速時(例えば、70〔km/h〕程度)の操舵反力Tを表したものである。
【0026】
また、前述のように、ステアリングギア比Gは車速Vが大きいときほど大きな値に設定されるため、ある転舵角δだけ転舵するためには、高速であるときほどより大きく操舵する必要がある。
ここで、操舵角に比例した操舵反力を発生させる構成とした場合、あるカーブを走行する際の操舵角が車速によって異なると、車速によって操舵反力が異なることになるため、ドライバは操舵量をイメージしにくくなり、同一カーブを走行する場合であっても適切な操舵を行うことができない可能性がある。
【0027】
しかしながら、本実施形態では、上述のように単に操舵角θに応じて操舵反力を設定するのではなく、車速Vが比較的高速であってより大きく操舵する必要があるときには操舵反力を抑制し、逆に車速Vが比較的低速であって比較的少ない操舵でよいときには十分な操舵反力を発生させているため、結果的に、高速時と低速時とにおける操舵反力の差を抑制することができる。そのため、同一カーブを走行する場合、ドライバは、高速時および低速時に関係なく常に同等程度の操舵反力を感じることになり、操舵反力から感覚的に適切な操舵量をイメージすることができる。
【0028】
したがって、ドライバは車速に関係なく操舵量を比較的イメージしやすくなるため、転舵不足或いは転舵過多が生じることを抑制することができ、すなわち操舵に伴い車両挙動が不安定となることを抑制することができる。
ここで、ステアリングギア7および転舵アクチュエータ8が転舵機構およびステアリングギア比可変手段に対応し、車速センサ12が車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応し、転舵角算出部11bおよび転舵ドライバ11dがステアリングギア比制御手段に対応し、反力算出部11aおよび反力ドライバ11cが操舵反力制御手段に対応している。
【0029】
(効果)
(1)制御装置11では、高速となるほどステアリングギア比Gが大きくなるようにステアリングギア比を変化させるため、同一カーブなど同一曲率の道路を走行する場合であっても高速時と低速時とでは操舵角が異なる。
しかしながら、ステアリングホイール1に付与される操舵反力が、高速となるほどより小さくなるように操舵反力Tを設定するため、同一カーブを走行する際にステアリングホイール1に付与される操舵反力の、車速による差を小さくすることができる。そのため、同一カーブを走行する場合に車速が異なる場合であっても、ドライバが感じる操舵反力の差を抑制することができるため、ドライバは操舵量をイメージしやすくなり、的確な操舵を行うことができる。これにより安定走行を行うことができる。
【0030】
(2)また、操舵反力Tに含まれる成分の一つである操舵反力成分T(θ)を、車速が大きいときほど小さくなるように設定することによって、結果的に操舵反力Tの特性を変化させている。そのため、操舵反力Tの特性を容易に変更することができる。
(3)また、高速となるほどより大きくなるように設定されるステアリングギア比に対して、高速となるほどより小さくなるように操舵反力Tを設定しているため、ステアリングギア比の変化に対応して操舵反力Tの差が小さくなるように操舵反力Tを設定することができる。そのため、ドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
(4)特に、図6の操舵反力係数K1の特性図において、しきい値v21およびしきい値v22を、図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定している。このため、車速の変化に伴い、ステアリングギア比が変化した場合には、ステアリングギア比の変化と同時に操舵反力Tも変化することになる。そのため、より的確に車速に伴う操舵反力の差を抑制することができ、ドライバが操舵量をより的確にイメージしやすくすることができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、第2の実施の形態を説明する。
この第2の実施の形態における車両用操舵装置100は、操舵反力の算出方法が異なること以外は、上記第1の実施の形態と同様であるので同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
(操舵反力算出方法)
第2の実施の形態において、制御装置11で実行される操舵反力および転舵角を算出するための操舵反力算出制御処理を、図9を伴って説明する。
車両のイグニッションキースイッチのオンなどをトリガとして、制御装置11が起動されると、図9の操舵反力算出制御処理が起動される。
【0032】
図9において、ステップS11〜ステップS13の処理は、上記第1の実施の形態におけるステップS1〜ステップS3の処理と同様である。すなわち、車速センサ12からの車速Vと操舵角センサ4からのステアリングホイール1の操舵角θに基づき、車速Vに応じたステアリングギア比Gおよび転舵角δを演算し、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)を演算する。
次いで、ステップS14に移行し、車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)を演算する。この車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)は、図10の特性を有する。図10において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸は車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)〔Nm〕である。
【0033】
フリクション成分Tf(V)は、車速Vがしきい値v31より小さいときには比較的大きな値に維持され、車速Vがしきい値v31以上しきい値v32(v32>v31)以下であるときには車速Vの増加に対して単調減少し、車速Vがしきい値v32より大きいときには比較的小さな値に維持される。
【0034】
なお、フリクション成分Tf(V)は必ずしも図10に示す特性に限るものではなく、高速であるときのフリクション成分Tf(V)が、低速であるときのフリクション成分Tf(V)よりも小さくなる特性であればよい。また、前記しきい値v31および前記v32は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定される。なお、前記しきい値v31および前記v32は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v31およびv32と必ずしも同一である必要はなく任意に設定することができる。
【0035】
次いで、ステップS15に移行し、上記と同様の手順で操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)を演算する。
次いで、ステップS16に移行し、操舵反力Tを演算する。具体的には、ステップS13で演算した操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)と、ステップS14で演算した車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)と、ステップS15で演算した操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和を操舵反力Tとする。
【0036】
そして、ステップS17に移行し、演算した操舵反力Tを反力ドライバ11cに出力する。また、ステップS12で演算した転舵角δを転舵ドライバ11dに出力する。
そして本制御を終了する。
【0037】
(動作)
次に、第2の実施の形態の動作を説明する。
操舵が行われると、車速Vに基づきステアリングギア比Gが検出され、ステアリングギア比Gと操舵角θとに基づき転舵角δが算出され(ステップS11、S12)、これに応じて転舵輪が制御される。車速Vが比較的小さいときには、ステアリングギア比Gは比較的小さな値に設定されるため、車両の取り回し性に優れたステアリング特性となり、逆に車速Vが比較的大きいときには、ステアリングギア比Gは比較的大きな値に設定されるため、直進安定性のよいステアリング特性となる。
【0038】
また、転舵角δの算出とともに、車速V、操舵角θに応じた操舵反力Tが演算され、これに応じた操舵反力がステアリングホイール1に付与される。
このとき、操舵反力Tは、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)と、車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)と、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和から求められ、フリクション成分Tf(V)は車速Vに応じて演算される。そのため、フリクション成分Tf(V)は車速Vに応じて変化し、車速Vが大きいときほどフリクション成分Tf(V)は小さな値となる。
【0039】
その結果、操舵角θが一定であっても車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制され、結果的にステアリングホイール1に付与される操舵反力が抑制されることになる。
図11は、ステップS16で算出した操舵反力Tの特性を表したものであり、横軸は操舵角θ〔deg〕、縦軸は操舵反力〔Nm〕である。図11の(a)および(b)において、上側の特性は右操舵が行われたときの特性を表し下側の特性は左操舵が行われたときの特性を表す。図11(a)は低速時(例えば、30〔km/h〕程度)、図11(b)は高速時(例えば、70〔km/h〕程度)の操舵反力Tを表したものである。
【0040】
したがって、この第2の実施の形態においても、単に操舵角θに応じて操舵反力を設定するのではなく、比較的高速であってより大きく操舵する必要があるときには操舵反力を抑制し、逆に比較的低速であって比較的少ない操舵でよいときには十分な操舵反力を発生させている。そのため、結果的に、高速時と低速時とにおける操舵反力の差を抑制することができる。このため、同一カーブを走行する場合、ドライバは、高速時および低速時に関係なく常に同等程度の操舵反力を感じることになり、操舵反力から感覚的に適切な操舵量をイメージすることができる。
【0041】
したがって、旋回走行時に、転舵不足或いは転舵過多が生じることを抑制することができ、すなわち操舵に伴い車両挙動が不安定となることを抑制することができる。
また、図11(b)に示すように、高速時には、フリクション成分Tf(V)がより小さくなるため、切り増し時や切り戻し時の操舵反力差が、低速時に比較してより小さくなる。したがって、きびきびした操舵感を演出することができる。
【0042】
また、フリクション成分Tf(V)を車速に応じて変化する特性とし、カーブに進入してステアリングホイール1を切り込む際の静止状態から動状態へ移行する際のフリクションを調整することによって、低速時にはフリクションを大きくして切り過ぎを抑制し、高速時にはフリクションを小さくして操舵しやすくすることができる。
ここで、ステアリングギア7および転舵アクチュエータ8が転舵機構およびステアリングギア比可変手段に対応し、車速センサ12が車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応し、転舵角算出部11bおよび転舵ドライバ11dがステアリングギア比制御手段に対応し、反力算出部11aおよび反力ドライバ11cが操舵反力制御手段に対応している。
【0043】
(効果)
(1)フリクション成分Tf(V)を車速(V)が大きいときほど小さくなる特性とし、このフリクション成分Tf(V)に基づき操舵反力Tを演算しているため、結果的に操舵反力Tを車速Vが大きいときほど小さくなる特性とすることができる。したがって、この第2の実施の形態においても上記第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。
(2)特に、フリクション成分Tf(V)の特性を車速Vに応じて変化させる構成としているため、ステアリングホイール1を切り込む際に、静止状態から動状態へ移行する際のフリクションを調整することで、低速時にフクションを大きくして切り過ぎを抑制し、高速時にフリクションを小さくすることで操舵操作を行いやすくすることができる。
【0044】
(3)また、高速となるほどより大きくなるように設定されるステアリングギア比に対して、高速となるほどより小さくなるように操舵反力Tを設定しているため、ステアリングギア比の変化に対応して操舵反力Tの差が小さくなるように操舵反力Tを設定することができる。そのため、ドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
(4)特に、図10のフリクション成分Tf(V)の特性図において、しきい値v31およびしきい値v32を、図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定している。このため、車速の変化に伴い、ステアリングギア比が変化した場合には、ステアリングギア比の変化と同時に操舵反力Tも変化することになる。そのため、より的確に車速に伴う操舵反力の差を抑制することができ、ドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
【0045】
(第1および第2の実施の変形例)
上記第1の実施の形態および第2の実施の形態では、操舵角θに対する操舵反力成分T(θ)またはフリクション成分を車速Vに応じて変化する特性とすることにより、結果的に操舵反力Tの特性を車速Vに応じて変化させるようにした場合について説明したがこれに限るものではない。
例えば、これら第1の実施の形態および第2の実施の形態を組み合わせ、操舵反力Tに含まれる、操舵角θに対する操舵反力成分T(θ)と、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)と、フリクション成分Tfとのうちの1または複数の成分を、車速Vに応じて変化する特性とすることによって、結果的に操舵反力Tを、車速Vに応じて変化する特性とするようにしてもよい。
【0046】
(第3実施形態)
次に、第3の実施の形態を説明する。
この第3の実施の形態における車両用操舵装置100は、操舵反力の算出方法が異なること以外は、上記第1の実施の形態と同様であるので同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
【0047】
(操舵反力算出方法)
第3の実施の形態において、制御装置11で実行される操舵反力および転舵角を算出するための操舵反力算出制御処理を、図12を伴って説明する。
車両のイグニッションキースイッチのオンなどをトリガとして、制御装置11が起動されると、図12の操舵反力算出制御処理が起動される。
図12において、ステップS21およびS22の処理は上記第1の実施の形態における図4のステップS1およびステップS2の処理と同様であって、車速センサ12からの車速Vと操舵角センサ4からのステアリングホイール1の操舵角θとに基づき、車速Vに応じたステアリングギア比Gおよび転舵角δを演算する。
【0048】
次いで、ステップS23に移行し操舵反力Tを演算する。この操舵反力Tは操舵角θと車速Vとに応じた操舵反力であって、操舵角θに、操舵反力係数K2を乗算することにより算出される。操舵反力係数K2は図13の特性を有する。
図13において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸は操舵反力係数K2である。操舵反力係数K2は、“1”より小さい値であって、車速Vがしきい値v41より小さいときには比較的大きな値であるk21(例えば、0.15程度)に設定される。また、車速Vがしきい値v41以上しきい値v42(v42>v41)以下であるときには車速Vの増加に伴い車速Vに反比例して減少し、車速Vがしきい値v42より大きいときには、比較的小さい値であるk22(例えば、0.075程度)に設定される。
【0049】
なお、操舵反力係数K2の特性は、図13に示す特性に限るものではなく、高速時における操舵反力係数K2が低速時における操舵反力係数K2よりも小さくなる特性であればよい。また、前記しきい値v41および前記v42は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定される。なお、前記しきい値v41および前記v42は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と必ずしも同一である必要はなく任意に設定することができる。
次いで、ステップS24に移行し、演算した操舵反力Tを反力ドライバ11cに出力する。また、ステップS22で演算した転舵角δを転舵ドライバ11dに出力する。
そして本制御を終了する。
【0050】
(動作)
次に、第3の実施の形態の動作を説明する。
操舵が行われると、車速Vに基づきステアリングギア比Gが検出され、ステアリングギア比Gと操舵角θとに基づき転舵角δが算出され(ステップS21、S22)、これに応じて転舵輪が制御される。
車速Vが比較的小さいときには、ステアリングギア比Gは比較的小さな値に設定されるため、車両の取り回し性に優れたステアリング特性となり、逆に車速Vが比較的大きいときには、ステアリングギア比Gは比較的大きな値に設定されるため、直進安定性のよいステアリング特性となる。
【0051】
また、転舵角δの算出とともに、車速V、操舵角θに応じた操舵反力Tが演算され(ステップS23)、これに応じた操舵反力がステアリングホイール1に付与される。
このとき、操舵反力Tは、操舵角θと操舵反力係数K2との乗算値から演算され、操舵反力係数K2は、車速Vに応じて演算される。そのため、操舵反力Tは車速Vに応じて変化し、車速Vが大きいときほど操舵反力Tは小さな値となる。そのため、操舵角θが一定であっても車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制され、結果的にステアリングホイール1に付与される操舵反力が抑制されることになる。
【0052】
したがって、この第3の実施の形態においても、単に操舵角θに応じて操舵反力を設定するのではなく、比較的高速であってより大きく操舵する必要があるときには操舵反力を抑制し、逆に比較的低速であって比較的少ない操舵でよいときには十分な操舵反力を発生させている。そのため、結果的に、高速時と低速時とにおける操舵反力の差を抑制することができる。これにより、同一カーブを走行する場合、ドライバは、高速時および低速時に関係なく常に同等程度の操舵反力を感じることになり、操舵反力から感覚的に適切な操舵量をイメージすることができる。
【0053】
したがって、旋回走行時に、転舵不足或いは転舵過多が生じることを抑制することができ、すなわち操舵に伴い車両挙動が不安定となることを抑制することができる。
また、操舵反力係数K2は、図13に示すように車速Vに対して反比例するように設定される。また、ステアリングギア比は図3に示すように車速Vに対して比例するように設定される。つまり、操舵角に対する操舵反力とステアリングギア比とは反比例となる関係にある。このように、操舵角に対する操舵反力とステアリングギア比とが反比例となる関係であると、操舵角と転舵角とが線形関係となり、すべりが小さく且つカーブ曲率が同じであれば、車速に依存せずに同じ操舵反力で操舵を行うことができる。そのため、ドライバは操舵量をよりイメージしやすくなる。
【0054】
ここで、ステアリングギア7および転舵アクチュエータ8が転舵機構およびステアリングギア比可変手段に対応し、車速センサ12が車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応し、転舵角算出部11bおよび転舵ドライバ11dがステアリングギア比制御手段に対応し、反力算出部11aおよび反力ドライバ11cが操舵反力制御手段に対応している。
【0055】
(効果)
(1)操舵反力係数K2を車速(V)が大きいときほど小さくなる特性とし、この操舵反力係数K2に操舵角θを乗算して操舵反力Tを演算しているため、結果的に操舵反力Tを車速Vが大きいときほど小さくなる特性とすることができる。したがって、この第3の実施の形態においても上記第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。
(2)また、高速となるほどより小さくなり且つ車速に対して反比例するように、操舵反力Tを設定しており、すなわち、高速となるほどより大きくなるように設定されるステアリングギア比と、操舵反力Tとが反比例の関係となるように操舵反力Tを設定しているため、ステアリングギア比の変化に対応して操舵反力Tを変化させることができ、車速に依存せずに同じ操舵反力で操舵を行うことができる。そのためドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
【0056】
(変形例)
上記第3の実施の形態においては、操舵反力Tを、操舵角θと操舵反力係数K2とに基づき演算しており、すなわち、操舵角に応じた操舵反力成分のみに基づいて演算しているが、これに限るものではない。上記第1の実施の形態や第2の実施の形態と同様に、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)や、フリクション成分Tfも考慮し、操舵角θおよび操舵反力係数K2に応じた操舵反力成分と操舵反力成分T(θ′)とフリクション成分Tfとの和を操舵反力Tとして演算するようにしてもよい。
また、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)、フリクション成分Tf、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)として車速Vに応じて変化しない特性を有するこれら成分を算出し、これらの成分の総和を演算し、演算した総和に、車速Vに応じて設定される操舵反力係数K2を乗算して、これを操舵反力Tとするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 ステアリングホイール
2 反力アクチュエータ
3 反力制御量検知センサ
4 操舵角センサ
6 転舵輪
7 ステアリングギア
8 転舵アクチュエータ
9 転舵制御量検知センサ
10 転舵角センサ
11 制御装置
11a 反力算出部
11b 転舵角算出部
11c 反力ドライバ
11d 転舵ドライバ
12 車速センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵輪の転舵角に対するステアリング操作手段の操舵角の伝達比であるステアリングギア比を任意に変更可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置は、据え切り時や極低速域における操舵負担の軽減、低〜中速域における軽快なステアリングフィーリングおよび高速域における緩やかで安定感のあるステアリングフィーリングを図るために、停止時にステアリングギア比を最も小さくし、車速が高くなるにしたがって、ステアリングギア比を大きくしている。また、ステアリングギア比が所定値以下であるときには、ステアリングギア比が所定値を超えているときよりも操舵反力を大きくすることで、低速域でステアリングギア比が小さい状態におけるステアリングホイールの切り過ぎを防止するようにしたものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4069829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような車速に対してステアリングギア比が変化する操舵系は、同一カーブを走行する場合であっても、車速によって操舵角が異なる。そのため、同一カーブを走行する場合であっても、ドライバは適切な操舵角をイメージしにくくなり、ドライバに違和感を与える。
そこで、この発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、車速に関係なく安定した操舵を実現することの可能な車両用操舵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、車速が大きいときほどステアリング操作手段に与える操舵反力が小さくなるようにする。その結果、車速に応じてステアリングギア比が変化しても操舵反力の差を抑制することができるため、ドライバは操舵量をイメージしやすくなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車速が大きいときほど、ステアリング操作手段に与える操舵反力が小さくなるようにしたため、同一カーブを走行する場合などに車速に応じてステアリングギア比が変化しても操舵反力の差を小さくすることができる。そのため、ドライバに対して操舵量をイメージしやすくさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の車両用操舵装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】車両用操舵装置の制御ブロック図の一例である。
【図3】車速に対するステアリングギア比の特性の一例を示す特性図である。
【図4】制御装置で実行される操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】操舵角に対する操舵反力成分T(θ)の特性の一例を示す特性図である。
【図6】車速に対する操舵反力係数K1の特性の一例を示す特性図である。
【図7】操舵角速度に対する操舵反力成分T(θ′)の特性の一例を示す特性図である。
【図8】操舵角に対する操舵反力Tの特性の一例を示す特性図である。
【図9】第2の実施の形態における操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図10】車速に対するフリクション成分Tf(V)の特性の一例を示す特性図である。
【図11】第2の実施の形態における操舵角に対する操舵反力Tの特性の一例を示す特性図である。
【図12】第3の実施の形態における操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図13】車速に対する操舵反力係数K2の特性の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
(第1実施形態)
まず、第1の実施の形態を説明する。
(構成)
図1は、本発明の車両用操舵装置100の概略構成を示すブロック図の一例である。
図1に示すように、車両用操舵装置100は、ステアリングホイール1と、反力アクチュエータ2と、反力制御量検知センサ3と、操舵角センサ4と、操舵トルクセンサ5と、転舵輪6と、ステアリングギア7と、転舵アクチュエータ8と、転舵制御量検知センサ9と、転舵角センサ10と、制御装置11と、車速センサ12と、を備えている。
前記操舵トルクセンサ5は、ステアリングホイール1と反力アクチュエータ2との間に発生する操舵トルクを検出する。操舵角センサ4は、ステアリングホイール1の操舵角θを検出する。反力制御量検知センサ3は、反力アクチュエータ2の制御量を検出する。
【0009】
前記転舵制御量検知センサ9は、転舵アクチュエータ8の制御量を検出する。転舵角センサ10は、転舵輪6の転舵角δを検出する。車速センサ12は、車両の速度Vを検出する。これら各センサの出力は、制御装置11へ入力される。
前記制御装置11は、各センサの出力に基づいて、ステアリングホイール1に操舵反力を発生させる反力アクチュエータ2の制御量と、ステアリングギア7を駆動する転舵アクチュエータ8の制御量とを算出する。反力アクチュエータ2は、制御装置11から供給される制御量に応じてステアリングホイール1へ操舵反力を付与する。同様に、転舵アクチュエータ8は、制御装置11から供給される制御量に応じて、転舵輪6の転舵角δを変化させる。
以上の構成により、車両用操舵装置100では、ドライバの操舵入力に対して任意に転舵角の特性を変更することができ、操舵反力を車両運動、ギア比によらず任意に設定することのできる、いわゆるステアバイワイヤの機能を実現している。
【0010】
図2は、車両用操舵装置100の制御ブロック図である。
制御装置11は、反力算出部11aと、転舵角算出部11bと、反力ドライバ11cと、転舵ドライバ11dと、を備えている。反力算出部11aと反力ドライバ11cとで操舵反力制御手段を構成している。また、転舵角算出部11bと転舵ドライバ11dでステアリングギア比制御手段を構成している。
【0011】
操舵角センサ4および車速センサ12の出力は、反力算出部11aおよび転舵角算出部11bへ入力される。反力算出部11aの出力は反力ドライバ11cへ出力され、反力ドライバ11cは、反力アクチュエータ2を駆動するための、例えば電流値などの物理量を出力する。
前記反力制御量検知センサ3は、反力ドライバ11cが反力アクチュエータ2へ出力している、例えば電流値などの制御量を検出し、反力ドライバ11cへフィードバックする。操舵トルクセンサ5の出力は反力算出部11aへ入力される。
【0012】
前記転舵角算出部11bでは、ステアリングホイール1の操舵角θと車速Vとに応じて転舵角δの目標値を演算する。例えば、図3に示すように、車速Vに応じてステアリングギア比G(θ/δ)を変化させる特性を有する転舵角δを算出する。これにより、高速では直進安定性がよく、低速では車両の取り回し性に優れたステアリングギア比Gを実現している。
【0013】
なお、図3において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸はステアリングギア比Gである。車速Vがしきい値v11より小さいときにはステアリングギア比Gは比較的小さな値であるg1(例えば10程度)に設定され、車速Vがしきい値v11以上しきい値v12(v11>v12)以下のときには車速Vの増加に比例してステアリングギア比Gは直線的に増加し、しきい値v12より大きいときにはステアリングギア比Gは、比較的大きな値であるg2(例えば20程度)に設定される。
【0014】
前記転舵角算出部11bの出力は転舵ドライバ11dへ出力され、転舵ドライバ11dは、転舵アクチュエータ8を駆動するための、例えば電流値などの物理量を出力する。この転舵角算出部11bの出力は、反力算出部11aにも入力される。
前記転舵制御量検知センサ9は、転舵ドライバ11dが転舵アクチュエータ8へ出力している、例えば電流値などの制御量を検出し、転舵ドライバ11dへフィードバックする。転舵角センサ10の出力は、転舵角算出部11bに入力される。
反力算出部11aは、ステアリングホイール1をニュートラル方向に戻すように作用する操舵反力を算出する。反力算出部11aは、操舵角θと車速Vとに応じて操舵反力を算出し、転舵ドライバ11dを駆動するための、例えば電流値などの物理量を出力する。
【0015】
(操舵反力算出方法)
次に、制御装置11で実行される操舵反力および転舵角を算出するための操舵反力算出制御処理を、図4を伴って説明する。図4は、操舵反力算出制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
車両のイグニッションキースイッチのオンなどをトリガとして、制御装置11が起動されると、図4の操舵反力算出制御処理が起動される。
そして、まずステップS1で車速センサ12からの車速Vと操舵角センサ4からのステアリングホイール1の操舵角θとを読み込む。
次いで、ステップS2に移行し、車速Vに応じたステアリングギア比Gおよび転舵角δを演算する。ステアリングギア比Gは前記図3の特性図から車速Vに基づき算出する。転舵角δは、ステアリングギア比Gと操舵角θとから、ステアリングギア比Gを満足する転舵角δを演算する。
【0016】
次いで、ステップS3に移行し、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)を演算する。操舵反力成分T(θ)は、例えば図5に示す特性を有する値に演算される。すなわち、操舵角θが零のとき操舵反力成分T(θ)は零となり、操舵角θが大きいときほど操舵反力成分T(θ)は大きくなる。
なお、図5において横軸は操舵角θ〔deg〕、縦軸は操舵反力成分T(θ)である。また、図5において、操舵角θおよび操舵反力成分T(θ)の符号は、正値の場合は右に操舵が行われた場合を表し、負値の場合は左に操舵が行われた場合を表す。
【0017】
次いで、ステップS4に移行し、車速Vに応じた操舵反力係数K1を演算する。この操舵反力係数K1は、例えば、図6に示す特性を有する値に設定される。
図6において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸は操舵反力係数K1である。操舵反力係数K1は、車速Vがしきい値v21より小さいときには“1”より大きな値であるk11に設定される。また、車速Vがしきい値v21以上しきい値v22(v22>v21)以下であるときには車速Vが大きくなるほど操舵反力係数K1は車速Vの増加に反比例して減少し、車速Vがしきい値v22より大きいとき、操舵反力係数K1は“1”より小さな値であるk12に設定される。
【0018】
前記操舵反力係数K1の特性は、必ずしも図6に示す特性に限るものではなく、車速Vが低速であるときの操舵反力係数K1よりも高速であるときの操舵反力係数K1の方が小さくなる特性であればよい。また、前記しきい値v21および前記v22は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定される。なお、前記しきい値v21および前記v22は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と必ずしも同一である必要はなく任意に設定することができる。
【0019】
次いで、ステップS5に移行し、車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)を演算する。
この車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)は、ステップS3で演算した操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)に、ステップS4で算出した操舵反力係数K1を乗算することで算出する。
【0020】
次いで、ステップS6に移行し、転舵輪に操舵トルクを伝達する伝達系におけるフリクションを模擬したフリクション成分Tfを設定する。
このフリクション成分Tfは、ステアリングホイール1の操舵方向に対して反対方向に作用する力であって、車速Vに関係なく一定とする。
次いで、ステップS7に移行し、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)を演算する。この操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)は、ステアリングホイール1の操舵方向に対して反対方向に作用する力であって、図7に示す特性を有する値に演算される。
【0021】
図7において横軸は操舵角速度θ′(deg/s)、縦軸は操舵反力成分T(θ′)〔Nm〕である。図7に示すように、操舵角速度θ′が零のときには操舵反力成分T(θ′)は零となり、操舵角速度θ′が大きくなるとこれに比例して操舵反力成分T(θ′)も増加する一次関数で表される。なお、図7において、操舵角速度θ′および操舵反力成分T(θ′)の符号は、正値の場合は右に操舵が行われた場合を表し、負値の場合は左に操舵が行われた場合を表す。なお、操舵角速度θ′に対する操舵反力成分T(θ′)の特性は図7に限るものではなく任意に設定することができる。
【0022】
次いでステップS8に移行し操舵反力Tを演算する。具体的には、ステップS5で演算した車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)と、ステップS6で演算したフリクション成分Tfと、ステップS7で演算した操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和を操舵反力Tとする。
次いで、ステップS9に移行し、演算した操舵反力Tを反力ドライバ11cに出力する。また、ステップS2で演算した転舵角δを転舵ドライバ11dに出力する。
そして本制御を終了する。
【0023】
(動作)
次に、第1の実施の形態の動作を説明する。
操舵が行われると、車速Vに基づきステアリングギア比Gが検出され、ステアリングギア比Gと操舵角θとに基づき転舵角δが算出され(ステップS1、S2)、これに応じて転舵輪が制御される。車速Vが比較的小さいときには、ステアリングギア比は比較的小さな値に設定されるため、車両の取り回し性に優れたステアリング特性となり、逆に車速Vが比較的大きいときには、ステアリングギア比は比較的大きな値に設定されるため、直進安定性のよいステアリング特性となる。
【0024】
また、転舵角δの算出とともに、車速V、操舵角θに応じた操舵反力Tが演算され(ステップS3〜S8)、これに応じた操舵反力がステアリングホイール1に付与される。
このとき、操舵反力Tは、車速Vおよび操舵角θに応じた操舵反力成分T(V,θ)と、フリクション成分Tfと、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和から求められ、操舵反力成分T(V,θ)は、車速Vおよび操舵角θに応じて演算される。そのため、操舵反力成分T(V,θ)は車速Vに応じて変化し、車速Vが大きいときほど操舵反力成分T(V,θ)は小さな値となる。つまり、操舵角θが一定であっても車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制され、結果的にステアリングホイール1に付与される操舵反力が抑制されることになる。
【0025】
図8は、ステップS8で算出した操舵反力Tの特性を表したものであって、横軸は操舵角θ〔deg〕、縦軸は操舵反力T〔Nm〕である。図8の(a)および(b)において、上側の特性は右操舵が行われるときの特性を表し下側の特性は左操舵が行われるときの特性を表す。また、図8(a)は低速時(例えば、30〔km/h〕程度)、図8(b)は高速時(例えば、70〔km/h〕程度)の操舵反力Tを表したものである。
【0026】
また、前述のように、ステアリングギア比Gは車速Vが大きいときほど大きな値に設定されるため、ある転舵角δだけ転舵するためには、高速であるときほどより大きく操舵する必要がある。
ここで、操舵角に比例した操舵反力を発生させる構成とした場合、あるカーブを走行する際の操舵角が車速によって異なると、車速によって操舵反力が異なることになるため、ドライバは操舵量をイメージしにくくなり、同一カーブを走行する場合であっても適切な操舵を行うことができない可能性がある。
【0027】
しかしながら、本実施形態では、上述のように単に操舵角θに応じて操舵反力を設定するのではなく、車速Vが比較的高速であってより大きく操舵する必要があるときには操舵反力を抑制し、逆に車速Vが比較的低速であって比較的少ない操舵でよいときには十分な操舵反力を発生させているため、結果的に、高速時と低速時とにおける操舵反力の差を抑制することができる。そのため、同一カーブを走行する場合、ドライバは、高速時および低速時に関係なく常に同等程度の操舵反力を感じることになり、操舵反力から感覚的に適切な操舵量をイメージすることができる。
【0028】
したがって、ドライバは車速に関係なく操舵量を比較的イメージしやすくなるため、転舵不足或いは転舵過多が生じることを抑制することができ、すなわち操舵に伴い車両挙動が不安定となることを抑制することができる。
ここで、ステアリングギア7および転舵アクチュエータ8が転舵機構およびステアリングギア比可変手段に対応し、車速センサ12が車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応し、転舵角算出部11bおよび転舵ドライバ11dがステアリングギア比制御手段に対応し、反力算出部11aおよび反力ドライバ11cが操舵反力制御手段に対応している。
【0029】
(効果)
(1)制御装置11では、高速となるほどステアリングギア比Gが大きくなるようにステアリングギア比を変化させるため、同一カーブなど同一曲率の道路を走行する場合であっても高速時と低速時とでは操舵角が異なる。
しかしながら、ステアリングホイール1に付与される操舵反力が、高速となるほどより小さくなるように操舵反力Tを設定するため、同一カーブを走行する際にステアリングホイール1に付与される操舵反力の、車速による差を小さくすることができる。そのため、同一カーブを走行する場合に車速が異なる場合であっても、ドライバが感じる操舵反力の差を抑制することができるため、ドライバは操舵量をイメージしやすくなり、的確な操舵を行うことができる。これにより安定走行を行うことができる。
【0030】
(2)また、操舵反力Tに含まれる成分の一つである操舵反力成分T(θ)を、車速が大きいときほど小さくなるように設定することによって、結果的に操舵反力Tの特性を変化させている。そのため、操舵反力Tの特性を容易に変更することができる。
(3)また、高速となるほどより大きくなるように設定されるステアリングギア比に対して、高速となるほどより小さくなるように操舵反力Tを設定しているため、ステアリングギア比の変化に対応して操舵反力Tの差が小さくなるように操舵反力Tを設定することができる。そのため、ドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
(4)特に、図6の操舵反力係数K1の特性図において、しきい値v21およびしきい値v22を、図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定している。このため、車速の変化に伴い、ステアリングギア比が変化した場合には、ステアリングギア比の変化と同時に操舵反力Tも変化することになる。そのため、より的確に車速に伴う操舵反力の差を抑制することができ、ドライバが操舵量をより的確にイメージしやすくすることができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、第2の実施の形態を説明する。
この第2の実施の形態における車両用操舵装置100は、操舵反力の算出方法が異なること以外は、上記第1の実施の形態と同様であるので同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
(操舵反力算出方法)
第2の実施の形態において、制御装置11で実行される操舵反力および転舵角を算出するための操舵反力算出制御処理を、図9を伴って説明する。
車両のイグニッションキースイッチのオンなどをトリガとして、制御装置11が起動されると、図9の操舵反力算出制御処理が起動される。
【0032】
図9において、ステップS11〜ステップS13の処理は、上記第1の実施の形態におけるステップS1〜ステップS3の処理と同様である。すなわち、車速センサ12からの車速Vと操舵角センサ4からのステアリングホイール1の操舵角θに基づき、車速Vに応じたステアリングギア比Gおよび転舵角δを演算し、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)を演算する。
次いで、ステップS14に移行し、車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)を演算する。この車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)は、図10の特性を有する。図10において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸は車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)〔Nm〕である。
【0033】
フリクション成分Tf(V)は、車速Vがしきい値v31より小さいときには比較的大きな値に維持され、車速Vがしきい値v31以上しきい値v32(v32>v31)以下であるときには車速Vの増加に対して単調減少し、車速Vがしきい値v32より大きいときには比較的小さな値に維持される。
【0034】
なお、フリクション成分Tf(V)は必ずしも図10に示す特性に限るものではなく、高速であるときのフリクション成分Tf(V)が、低速であるときのフリクション成分Tf(V)よりも小さくなる特性であればよい。また、前記しきい値v31および前記v32は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定される。なお、前記しきい値v31および前記v32は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v31およびv32と必ずしも同一である必要はなく任意に設定することができる。
【0035】
次いで、ステップS15に移行し、上記と同様の手順で操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)を演算する。
次いで、ステップS16に移行し、操舵反力Tを演算する。具体的には、ステップS13で演算した操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)と、ステップS14で演算した車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)と、ステップS15で演算した操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和を操舵反力Tとする。
【0036】
そして、ステップS17に移行し、演算した操舵反力Tを反力ドライバ11cに出力する。また、ステップS12で演算した転舵角δを転舵ドライバ11dに出力する。
そして本制御を終了する。
【0037】
(動作)
次に、第2の実施の形態の動作を説明する。
操舵が行われると、車速Vに基づきステアリングギア比Gが検出され、ステアリングギア比Gと操舵角θとに基づき転舵角δが算出され(ステップS11、S12)、これに応じて転舵輪が制御される。車速Vが比較的小さいときには、ステアリングギア比Gは比較的小さな値に設定されるため、車両の取り回し性に優れたステアリング特性となり、逆に車速Vが比較的大きいときには、ステアリングギア比Gは比較的大きな値に設定されるため、直進安定性のよいステアリング特性となる。
【0038】
また、転舵角δの算出とともに、車速V、操舵角θに応じた操舵反力Tが演算され、これに応じた操舵反力がステアリングホイール1に付与される。
このとき、操舵反力Tは、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)と、車速Vに応じたフリクション成分Tf(V)と、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)との和から求められ、フリクション成分Tf(V)は車速Vに応じて演算される。そのため、フリクション成分Tf(V)は車速Vに応じて変化し、車速Vが大きいときほどフリクション成分Tf(V)は小さな値となる。
【0039】
その結果、操舵角θが一定であっても車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制され、結果的にステアリングホイール1に付与される操舵反力が抑制されることになる。
図11は、ステップS16で算出した操舵反力Tの特性を表したものであり、横軸は操舵角θ〔deg〕、縦軸は操舵反力〔Nm〕である。図11の(a)および(b)において、上側の特性は右操舵が行われたときの特性を表し下側の特性は左操舵が行われたときの特性を表す。図11(a)は低速時(例えば、30〔km/h〕程度)、図11(b)は高速時(例えば、70〔km/h〕程度)の操舵反力Tを表したものである。
【0040】
したがって、この第2の実施の形態においても、単に操舵角θに応じて操舵反力を設定するのではなく、比較的高速であってより大きく操舵する必要があるときには操舵反力を抑制し、逆に比較的低速であって比較的少ない操舵でよいときには十分な操舵反力を発生させている。そのため、結果的に、高速時と低速時とにおける操舵反力の差を抑制することができる。このため、同一カーブを走行する場合、ドライバは、高速時および低速時に関係なく常に同等程度の操舵反力を感じることになり、操舵反力から感覚的に適切な操舵量をイメージすることができる。
【0041】
したがって、旋回走行時に、転舵不足或いは転舵過多が生じることを抑制することができ、すなわち操舵に伴い車両挙動が不安定となることを抑制することができる。
また、図11(b)に示すように、高速時には、フリクション成分Tf(V)がより小さくなるため、切り増し時や切り戻し時の操舵反力差が、低速時に比較してより小さくなる。したがって、きびきびした操舵感を演出することができる。
【0042】
また、フリクション成分Tf(V)を車速に応じて変化する特性とし、カーブに進入してステアリングホイール1を切り込む際の静止状態から動状態へ移行する際のフリクションを調整することによって、低速時にはフリクションを大きくして切り過ぎを抑制し、高速時にはフリクションを小さくして操舵しやすくすることができる。
ここで、ステアリングギア7および転舵アクチュエータ8が転舵機構およびステアリングギア比可変手段に対応し、車速センサ12が車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応し、転舵角算出部11bおよび転舵ドライバ11dがステアリングギア比制御手段に対応し、反力算出部11aおよび反力ドライバ11cが操舵反力制御手段に対応している。
【0043】
(効果)
(1)フリクション成分Tf(V)を車速(V)が大きいときほど小さくなる特性とし、このフリクション成分Tf(V)に基づき操舵反力Tを演算しているため、結果的に操舵反力Tを車速Vが大きいときほど小さくなる特性とすることができる。したがって、この第2の実施の形態においても上記第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。
(2)特に、フリクション成分Tf(V)の特性を車速Vに応じて変化させる構成としているため、ステアリングホイール1を切り込む際に、静止状態から動状態へ移行する際のフリクションを調整することで、低速時にフクションを大きくして切り過ぎを抑制し、高速時にフリクションを小さくすることで操舵操作を行いやすくすることができる。
【0044】
(3)また、高速となるほどより大きくなるように設定されるステアリングギア比に対して、高速となるほどより小さくなるように操舵反力Tを設定しているため、ステアリングギア比の変化に対応して操舵反力Tの差が小さくなるように操舵反力Tを設定することができる。そのため、ドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
(4)特に、図10のフリクション成分Tf(V)の特性図において、しきい値v31およびしきい値v32を、図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定している。このため、車速の変化に伴い、ステアリングギア比が変化した場合には、ステアリングギア比の変化と同時に操舵反力Tも変化することになる。そのため、より的確に車速に伴う操舵反力の差を抑制することができ、ドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
【0045】
(第1および第2の実施の変形例)
上記第1の実施の形態および第2の実施の形態では、操舵角θに対する操舵反力成分T(θ)またはフリクション成分を車速Vに応じて変化する特性とすることにより、結果的に操舵反力Tの特性を車速Vに応じて変化させるようにした場合について説明したがこれに限るものではない。
例えば、これら第1の実施の形態および第2の実施の形態を組み合わせ、操舵反力Tに含まれる、操舵角θに対する操舵反力成分T(θ)と、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)と、フリクション成分Tfとのうちの1または複数の成分を、車速Vに応じて変化する特性とすることによって、結果的に操舵反力Tを、車速Vに応じて変化する特性とするようにしてもよい。
【0046】
(第3実施形態)
次に、第3の実施の形態を説明する。
この第3の実施の形態における車両用操舵装置100は、操舵反力の算出方法が異なること以外は、上記第1の実施の形態と同様であるので同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
【0047】
(操舵反力算出方法)
第3の実施の形態において、制御装置11で実行される操舵反力および転舵角を算出するための操舵反力算出制御処理を、図12を伴って説明する。
車両のイグニッションキースイッチのオンなどをトリガとして、制御装置11が起動されると、図12の操舵反力算出制御処理が起動される。
図12において、ステップS21およびS22の処理は上記第1の実施の形態における図4のステップS1およびステップS2の処理と同様であって、車速センサ12からの車速Vと操舵角センサ4からのステアリングホイール1の操舵角θとに基づき、車速Vに応じたステアリングギア比Gおよび転舵角δを演算する。
【0048】
次いで、ステップS23に移行し操舵反力Tを演算する。この操舵反力Tは操舵角θと車速Vとに応じた操舵反力であって、操舵角θに、操舵反力係数K2を乗算することにより算出される。操舵反力係数K2は図13の特性を有する。
図13において、横軸は車速V〔km/h〕、縦軸は操舵反力係数K2である。操舵反力係数K2は、“1”より小さい値であって、車速Vがしきい値v41より小さいときには比較的大きな値であるk21(例えば、0.15程度)に設定される。また、車速Vがしきい値v41以上しきい値v42(v42>v41)以下であるときには車速Vの増加に伴い車速Vに反比例して減少し、車速Vがしきい値v42より大きいときには、比較的小さい値であるk22(例えば、0.075程度)に設定される。
【0049】
なお、操舵反力係数K2の特性は、図13に示す特性に限るものではなく、高速時における操舵反力係数K2が低速時における操舵反力係数K2よりも小さくなる特性であればよい。また、前記しきい値v41および前記v42は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と同一または同等程度に設定される。なお、前記しきい値v41および前記v42は、前記図3のステアリングギア比Gの特性図におけるしきい値v11およびv12と必ずしも同一である必要はなく任意に設定することができる。
次いで、ステップS24に移行し、演算した操舵反力Tを反力ドライバ11cに出力する。また、ステップS22で演算した転舵角δを転舵ドライバ11dに出力する。
そして本制御を終了する。
【0050】
(動作)
次に、第3の実施の形態の動作を説明する。
操舵が行われると、車速Vに基づきステアリングギア比Gが検出され、ステアリングギア比Gと操舵角θとに基づき転舵角δが算出され(ステップS21、S22)、これに応じて転舵輪が制御される。
車速Vが比較的小さいときには、ステアリングギア比Gは比較的小さな値に設定されるため、車両の取り回し性に優れたステアリング特性となり、逆に車速Vが比較的大きいときには、ステアリングギア比Gは比較的大きな値に設定されるため、直進安定性のよいステアリング特性となる。
【0051】
また、転舵角δの算出とともに、車速V、操舵角θに応じた操舵反力Tが演算され(ステップS23)、これに応じた操舵反力がステアリングホイール1に付与される。
このとき、操舵反力Tは、操舵角θと操舵反力係数K2との乗算値から演算され、操舵反力係数K2は、車速Vに応じて演算される。そのため、操舵反力Tは車速Vに応じて変化し、車速Vが大きいときほど操舵反力Tは小さな値となる。そのため、操舵角θが一定であっても車速Vが大きいときほど操舵反力Tは抑制され、結果的にステアリングホイール1に付与される操舵反力が抑制されることになる。
【0052】
したがって、この第3の実施の形態においても、単に操舵角θに応じて操舵反力を設定するのではなく、比較的高速であってより大きく操舵する必要があるときには操舵反力を抑制し、逆に比較的低速であって比較的少ない操舵でよいときには十分な操舵反力を発生させている。そのため、結果的に、高速時と低速時とにおける操舵反力の差を抑制することができる。これにより、同一カーブを走行する場合、ドライバは、高速時および低速時に関係なく常に同等程度の操舵反力を感じることになり、操舵反力から感覚的に適切な操舵量をイメージすることができる。
【0053】
したがって、旋回走行時に、転舵不足或いは転舵過多が生じることを抑制することができ、すなわち操舵に伴い車両挙動が不安定となることを抑制することができる。
また、操舵反力係数K2は、図13に示すように車速Vに対して反比例するように設定される。また、ステアリングギア比は図3に示すように車速Vに対して比例するように設定される。つまり、操舵角に対する操舵反力とステアリングギア比とは反比例となる関係にある。このように、操舵角に対する操舵反力とステアリングギア比とが反比例となる関係であると、操舵角と転舵角とが線形関係となり、すべりが小さく且つカーブ曲率が同じであれば、車速に依存せずに同じ操舵反力で操舵を行うことができる。そのため、ドライバは操舵量をよりイメージしやすくなる。
【0054】
ここで、ステアリングギア7および転舵アクチュエータ8が転舵機構およびステアリングギア比可変手段に対応し、車速センサ12が車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応し、転舵角算出部11bおよび転舵ドライバ11dがステアリングギア比制御手段に対応し、反力算出部11aおよび反力ドライバ11cが操舵反力制御手段に対応している。
【0055】
(効果)
(1)操舵反力係数K2を車速(V)が大きいときほど小さくなる特性とし、この操舵反力係数K2に操舵角θを乗算して操舵反力Tを演算しているため、結果的に操舵反力Tを車速Vが大きいときほど小さくなる特性とすることができる。したがって、この第3の実施の形態においても上記第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。
(2)また、高速となるほどより小さくなり且つ車速に対して反比例するように、操舵反力Tを設定しており、すなわち、高速となるほどより大きくなるように設定されるステアリングギア比と、操舵反力Tとが反比例の関係となるように操舵反力Tを設定しているため、ステアリングギア比の変化に対応して操舵反力Tを変化させることができ、車速に依存せずに同じ操舵反力で操舵を行うことができる。そのためドライバが操舵量をよりイメージしやすくすることができる。
【0056】
(変形例)
上記第3の実施の形態においては、操舵反力Tを、操舵角θと操舵反力係数K2とに基づき演算しており、すなわち、操舵角に応じた操舵反力成分のみに基づいて演算しているが、これに限るものではない。上記第1の実施の形態や第2の実施の形態と同様に、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)や、フリクション成分Tfも考慮し、操舵角θおよび操舵反力係数K2に応じた操舵反力成分と操舵反力成分T(θ′)とフリクション成分Tfとの和を操舵反力Tとして演算するようにしてもよい。
また、操舵角θに応じた操舵反力成分T(θ)、フリクション成分Tf、操舵角速度θ′に応じた操舵反力成分T(θ′)として車速Vに応じて変化しない特性を有するこれら成分を算出し、これらの成分の総和を演算し、演算した総和に、車速Vに応じて設定される操舵反力係数K2を乗算して、これを操舵反力Tとするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 ステアリングホイール
2 反力アクチュエータ
3 反力制御量検知センサ
4 操舵角センサ
6 転舵輪
7 ステアリングギア
8 転舵アクチュエータ
9 転舵制御量検知センサ
10 転舵角センサ
11 制御装置
11a 反力算出部
11b 転舵角算出部
11c 反力ドライバ
11d 転舵ドライバ
12 車速センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング操作手段と転舵機構とが機械的に分離されてなるステアバイワイヤ式の車両用操舵装置において、
前記転舵輪の転舵角に対する前記ステアリング操作手段に加えた操舵角の比であるステアリングギア比を任意に変更可能なステアリングギア比可変手段と、
車速を検出する車速検出手段と、
前記ステアリング操作手段の操舵角を検出する操舵角検出手段と、
検出された車速および操舵角に基づき前記車速が大きいときほど前記ステアリングギア比が大きくなるように前記ステアリングギア比可変手段を制御するステアリングギア比制御手段と、
前記ステアリング操作手段に任意の操舵反力を与える反力アクチュエータと、
検出された車速および操舵角に基づき目標操舵反力を設定し、前記ステアリング操作手段に前記目標操舵反力相当の操舵反力を与えるように前記反力アクチュエータを制御する操舵反力制御手段と、
を備えた車両用操舵装置において、
前記操舵反力制御手段は、前記車速が大きいときほど前記操舵反力が小さくなるように前記反力アクチュエータを制御することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
前記操舵反力制御手段は、操舵角に応じた操舵反力成分と前記転舵輪に操舵トルクを伝達する伝達系におけるフリクションに応じたフリクション成分とを含んで前記目標操舵反力を設定し、
前記操舵反力成分および前記フリクション成分のいずれか一方を、前記車速が大きいときほど小さくなるように設定することを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記操舵反力制御手段は、前記目標操舵力と前記ステアリングギア比とが反比例の関係となるように前記目標操舵反力を設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両用操舵装置。
【請求項1】
ステアリング操作手段と転舵機構とが機械的に分離されてなるステアバイワイヤ式の車両用操舵装置において、
前記転舵輪の転舵角に対する前記ステアリング操作手段に加えた操舵角の比であるステアリングギア比を任意に変更可能なステアリングギア比可変手段と、
車速を検出する車速検出手段と、
前記ステアリング操作手段の操舵角を検出する操舵角検出手段と、
検出された車速および操舵角に基づき前記車速が大きいときほど前記ステアリングギア比が大きくなるように前記ステアリングギア比可変手段を制御するステアリングギア比制御手段と、
前記ステアリング操作手段に任意の操舵反力を与える反力アクチュエータと、
検出された車速および操舵角に基づき目標操舵反力を設定し、前記ステアリング操作手段に前記目標操舵反力相当の操舵反力を与えるように前記反力アクチュエータを制御する操舵反力制御手段と、
を備えた車両用操舵装置において、
前記操舵反力制御手段は、前記車速が大きいときほど前記操舵反力が小さくなるように前記反力アクチュエータを制御することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
前記操舵反力制御手段は、操舵角に応じた操舵反力成分と前記転舵輪に操舵トルクを伝達する伝達系におけるフリクションに応じたフリクション成分とを含んで前記目標操舵反力を設定し、
前記操舵反力成分および前記フリクション成分のいずれか一方を、前記車速が大きいときほど小さくなるように設定することを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記操舵反力制御手段は、前記目標操舵力と前記ステアリングギア比とが反比例の関係となるように前記目標操舵反力を設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両用操舵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−23145(P2013−23145A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162262(P2011−162262)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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