説明

車両用液圧マスタシリンダ

【課題】第1環状シール溝に嵌着されるカップシールと第2環状シール溝に嵌着されるカップシールとを同一形状にし、コストの削減化と誤組の防止を図る。また、制動解除時にプランジャの外周面に付着した作動液が掻き出されて大気側に漏れることを防止する。
【解決手段】第1環状シール溝8に嵌着するカップシール7と第2環状シール溝9に嵌着するカップシール7とを、内周リップ部7bよりもシリンダ軸方向の寸法が短い外周リップ部7cを備えた同一形状に形成する。第1環状シール溝8のシリンダ孔底部側面8bを、カップシール7の内周リップ部7bの先端部が当接し、外周リップ部7cの先端部は当接しない平面状に形成し、第2環状シール溝9のシリンダ孔底部側面9bを、カップシール7の内周リップ部7bの先端部が当接する内周側面9fと、外周リップ部7cの先端部が当接する外周側面9eとを備えた段状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用液圧マスタシリンダに関し、詳しくは、シリンダ孔の底部側と開口部側とに設けたシール溝にそれぞれ嵌着したカップシールを介して、先端部に開口する凹部を有するプランジャをシリンダ孔に内挿したプランジャ型の車両用液圧マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プランジャ型の車両用液圧マスタシリンダでは、シリンダ本体に形成したシリンダ孔に、シリンダ孔底部側の第1環状シール溝と、シリンダ孔開口部側の第2環状シール溝とを形成すると共に、第1環状シール溝に第1カップシールを、第2環状シール溝に第2カップシールをそれぞれ嵌着し、第1カップシールと第2カップシールとを介して、プランジャをシリンダ孔に摺動可能に内挿したものがあった。
【0003】
双方のカップシールは、第1環状シール溝又は前記第2環状シール溝のシリンダ孔開口部側面に配置される基部と、該基部の内周側からシリンダ孔底部に向かって延設され、内周面がプランジャの外周面に摺動する内周リップ部と、基部の外周側から同じくシリンダ孔底部に向かって延設され、外周面が前記シール溝底面に当接する外周リップ部とをそれぞれ備えていた。また、第1カップシールは、第1環状シール溝内で外周リップ部の先端部が自由状態となっており、外周リップ部が適宜撓んでマスタシリンダの液圧室とリザーバとの間を作動液が流通可能な状態にしたり、外周リップ部の外周面が第1環状溝に密着して作動液の流通を遮断できる構造であり、一方、第2カップシールは、外周リップ部の先端部が第2環状シール溝に当接し、大気がシリンダ孔内に浸入したり、作動液が外部に漏れ出したりすることを常に防止できるような構造であり、第1カップシールの形状と第2カップシールの形状とは異なっていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−61849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献1のものでは、第1カップシールと第2カップシールの形状が異なることから、コストが嵩み、また、第1カップシールと第2カップシールとを誤組する虞があった。さらに、従来の第2カップシールとして、内周リップ部の内周面の略全面をプランジャの外周面に当接させるものがあったが、内周面の基端部側を広くプランジャに当接させると、制動解除時にプランジャの外周面に付着した作動液が掻き出されて大気側に漏れる虞があることが分かった。
【0006】
そこで本発明は、第1環状シール溝に嵌着されるカップシールと第2環状シール溝に嵌着されるカップシールとを同一形状にし、コストの削減化と誤組の防止を図ることができ、また、制動解除時にプランジャの外周面に付着した作動液が掻き出されて大気側に漏れることを防止できる車両用液圧マスタシリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用液圧マスタシリンダは、シリンダ本体に形成した有底のシリンダ孔と、該シリンダ孔に設けられたシリンダ孔底部側の第1環状シール溝と、シリンダ孔開口部側の第2環状シール溝と、前記第1環状シール溝と前記第2環状シール溝とにそれぞれ嵌着されるカップシールと、該カップシールを介して、シリンダ孔に摺動可能に内挿されると共に先端部に開口する凹部を有するプランジャとを備え、前記第1環状シール溝と前記第2環状シール溝とは、シリンダ孔周方向のシール溝底面と、シリンダ孔底部側面と、シリンダ孔開口部側面と、プランジャ側に開口したシール溝開口とをそれぞれ有し、前記カップシールは、前記第1環状シール溝又は前記第2環状シール溝のシリンダ孔開口部側面に配置される基部と、該基部の内周側からシリンダ孔底部に向かって延設され、内周面がプランジャの外周面に摺動する内周リップ部と、基部の外周側から同じくシリンダ孔底部に向かって延設され、外周面が前記シール溝底面に当接する外周リップ部とをそれぞれ備えた車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記第1環状シール溝に嵌着されるカップシールと前記第2環状シール溝に嵌着されるカップシールとは、前記内周リップ部よりもシリンダ軸方向の寸法が短い前記外周リップ部を備えた同一形状に形成されると共に、前記第1環状シール溝の前記シリンダ孔底部側面は、前記カップシールの前記内周リップ部の先端部が当接し、前記外周リップ部の先端部は当接しない平面状に形成され、前記第2環状シール溝の前記シリンダ孔底部側面は、前記カップシールの前記内周リップ部の先端部が当接する内周側面と、前記外周リップ部の先端部が当接する外周側面とを備えた段状に形成されることを特徴としている。
【0008】
また、前記第2環状シール溝のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法を、前記第1環状シール溝のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法よりも短く、前記第2環状シール溝のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法を、前記第1環状シール溝のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法よりも短く形成すると良く、さらに、前記第2環状シール溝は、前記シリンダ孔開口部側面が、前記シール溝開口から前記シール溝底面に向けて前記シリンダ孔底部側に漸次傾斜した円錐面に形成されると共に、前記シール溝底面は、シリンダ孔開口側からシリンダ孔底部側に向けてシリンダ中心軸方向に漸次傾斜した円錐面に形成されていると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用液圧マスタシリンダによれば、第1環状シール溝に嵌着されるカップシールと第2環状シール溝に嵌着されるカップシールとを、同一形状に形成し、コストの削減を図りながら、第1環状シール溝に嵌着されたカップシールは、外周リップ部の先端部が第1環状シール溝のシリンダ孔底部側面と当接していない自由状態であることから、制動解除時に、外周リップ部が撓んで作動液をリザーバ側から液圧室に良好に流通させることができ、一方、第2環状シール溝に嵌着されたカップシールは、外周リップ部の先端部が第2環状シール溝のシリンダ孔底部側面の外周側面に当接していることから、作動液充填時にシリンダ孔内を真空引きする際に、シリンダ孔内への外気の吸い込みを防止することができ、それぞれの機能を好適に果たすことができる。さらに、第1環状シール溝に嵌着されるカップシールと第2環状シール溝に嵌着されるカップシールとが同一形状であることから、誤組の虞がない。
【0010】
また、第2環状シール溝のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法とシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法を、第1環状シール溝のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法とシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法よりもそれぞれ短く形成し、第2カップシールの第2環状シール溝への締め代を強くすることにより、外周リップ部が内周リップ部側に撓んだ状態となると共に、第2カップシール全体がシリンダ孔底部側に傾いた状態となり、作動液充填時にシリンダ孔内を真空引きする際に、外周リップ部の先端部がシリンダ孔底部側面の外周側面に良好に当接し、シリンダ孔内への外気の吸い込みを確実に防止することができる。さらに、第2環状シール溝に嵌着したカップシールの内周リップ部の内周面基部側とプランジャの外周面との間に隙間が形成され、内周リップ部の内周面先端側とプランジャの外周面とが高い面圧で当接することから、制動解除時に作動液が掻き出されて大気側に漏れることを抑制することができる。
【0011】
さらに、第2環状シール溝のシリンダ孔開口部側面を、シール溝開口からシール溝底面に向けてシリンダ孔底部側に漸次傾斜した円錐面に形成すると共に、シール溝底面を、シリンダ孔開口側からシリンダ孔底部側に向けてシリンダ中心軸方向に漸次傾斜した円錐面に形成することにより、第2カップシール全体がシリンダ孔底部側に傾くことから、外周リップ部の先端側が内周リップ部側に撓みやすくなり、作動液充填時にシリンダ孔内を真空引きする際に、外周リップ部の先端部がシリンダ孔底部側面の外周側面に良好に当接し、シリンダ孔内への外気の吸い込みを確実に防止することができる。さらに、内周リップ部の内周面の基部側とプランジャの外周面との間に隙間が形成され、内周リップ部の内周面の先端側とプランジャの外周面とが高い面圧で当接することから、制動解除時に作動液が掻き出されて大気側に漏れることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一形態例を示す車両用液圧マスタシリンダの断面図である。
【図2】同じく作動液充填作業中の第2環状シール溝とカップシールの説明図である。
【図3】同じく制動時の第1環状シール溝とカップシールの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の車両用液圧マスタシリンダの一形態例を示す図である。この液圧マスタシリンダ1は、シリンダ本体2に有底のシリンダ孔2aが形成され、シリンダ孔2aの底部2bにはユニオン孔2cが形成されている。シリンダ本体2の上部には、シリンダ孔2aに連通する液通孔2dを備えたボス部2eが突設され、該ボス部2eには、シール部材3を介してリザーバ(図示せず)に連結されるコネクタ4が取り付けられる。さらに、シリンダ本体2の下部には、車体取付用の取付ブラケット2f,2fが突設されると共に、シリンダ孔開口側には、プッシュロッド5の先端側が挿入される大径孔2gを備えた大径筒部2hが連設されている。
【0014】
シリンダ孔2aには、プランジャ6が2つのカップシール7,7を介して摺動可能に内挿され、一方のカップシール7は、前記液通孔2dよりもシリンダ孔底部側のシリンダ孔2aの内周面に形成される第1環状シール溝8に、他方のカップシール7は、液通孔2dよりもシリンダ孔開口側のシリンダ孔2aの内周面に形成される第2環状シール溝9にそれぞれ嵌着されている。また、第1環状シール溝8と第2環状シール溝9との間のシリンダ孔2aの内周面には、前記液通孔2dに連続する補給油室2iが形成されている。
【0015】
プランジャ6は、シリンダ孔底部側に開口する凹部6aを有する有底筒状に形成され、前記凹部6aとシリンダ孔2aの底部2bとの間に液圧室10が画成されている。また、凹部6aの底面とシリンダ孔2aの底面との間には、非作動状態のプランジャ6を予め設定された所定の初期位置に復帰させるリターンスプリング11が配置され、該リターンスプリング11の一端が凹部6aの底面に、他端がシリンダ孔2aの底面にそれぞれ着座している。また、プランジャ6のシリンダ孔開口側の外面には、プランジャ6を押動させる前記プッシュロッド5が当接する球状凹部6bが形成されている。さらに、凹部6aの周壁には、該周壁の内外を貫通し、非作動状態の初期位置で、液圧室10と補給油室2iとを連通する小径の連通ポート6cが周方向に複数形成されている。プッシュロッド5は、前記球状凹部6bに当接する半球状の大径頭部5aが、前記大径孔2gからシリンダ孔2a内へ差し込まれ、大径孔2gの内周に形成した係着溝に係着した止め輪12とリテーナ13とで抜け止めされている。
【0016】
シリンダ孔底部側の第1環状シール溝8は、シリンダ孔周方向のシール溝底面8aと、シリンダ孔底部側面8bと、シリンダ孔開口部側面8cと、プランジャ側に開口したシール溝開口8dとを有し、シリンダ孔底部側面8bは、シール溝底面側からシール溝開口側に向けてシリンダ孔底部側に漸次傾斜した円錐面に形成されている。
【0017】
シリンダ孔開口側の第2環状シール溝9は、シリンダ孔周方向のシール溝底面9aと、シリンダ孔底部側面9bと、シリンダ孔開口部側面9cと、プランジャ側に開口したシール溝開口9dとを有し、前記シリンダ孔底部側面9bは、外周側面9eが内
周側面9fよりもシリンダ孔開口部側に突出した段状に形成されている。
【0018】
また、図2(a)及び図3に示すように、第2環状シール溝9のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法L1(シリンダ孔底部側面9bのシール溝開口側の端部Aから、シリンダ孔開口部側面9cのシール溝開口側の端部Bまでのシリンダ軸方向の寸法)は、第1環状シール溝8のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法L3(シリンダ孔底部側面8bのシール溝開口側の端部Dから、シリンダ孔開口部側面8cのシール溝開口側の端部Eまでのシリンダ軸方向の寸法)よりも短く形成され、第2環状シール溝9のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法L2(シリンダ孔底部側面9bのシール溝開口側の端部Aから、シール溝底面9aのシリンダ孔底部側の端部Cまでのシリンダ径方向の寸法)は、第1環状シール溝8のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法L4(シリンダ孔底部側面8bのシール溝開口側の端部Dから、シール溝底面8aのシリンダ孔底部側の端部Fまでのシリンダ径方向の寸法)よりも短く形成される。さらに、第2環状シール溝9のシリンダ孔開口部側面9cは、シール溝開口9dからシール溝底面9aに向けてシリンダ孔底部側に漸次傾斜した円錐面に形成されると共に、シール溝底面9aは、シリンダ孔開口側からシリンダ孔底部側に向けてシリンダ中心軸方向に漸次傾斜した円錐面に形成され、さらに、シリンダ孔底部側面9bの内周側面9fは、シール溝底面側からシール溝開口側に向けてシリンダ孔底部側に漸次傾斜した円錐面に形成されている。
【0019】
カップシール7は、各シール溝8,9のシリンダ孔開口部側に配置される基部7aと、該基部7aの内周側からシリンダ孔底部に向かって延設され、内周面がプランジャ6の外周面に摺動する内周リップ部7bと、基部7aの外周側から同じくシリンダ孔底部に向かって延設され、前記内周リップ部7bのシリンダ軸方向の寸法よりも、シリンダ軸方向の寸法が短い外周リップ部7cとを備え、前記内周リップ部7bの先端側には、周方向に一定の間隔を開けて等間隔でシリンダ孔底部に向かって突設される複数の弾性突片7dが形成されている。また、内周リップ部7bの径方向の寸法(肉厚)は、外周リップ部7cの径方向の寸法(肉厚)よりも厚肉に形成され、さらに、基部7aの外側面は、径方向中間部が外側に突出して形成され、この突出部が、シリンダ孔開口側面8c,9cとの当接部7eとなる。
【0020】
図3に示されるように、第1環状シール溝8に嵌着されたカップシール7は、基部7aの当接部7eが第1環状シール溝8のシリンダ孔開口側面8cに、内周リップ部7bの内周面の基端側略2/3がプランジャ6の外周面に、外周リップ部7cの外周面が第1環状シール溝8のシール溝底面8aにそれぞれ当接すると共に、弾性突片7dの先端部7fがプランジャ側に僅かに撓んだ状態で第1環状シール溝8のシリンダ孔底部側面8bに当接し、外周リップ部7cの先端部7gは、自由状態となっている。
【0021】
図2(a)に示されるように、第2環状シール溝9に嵌着されたカップシール7は、第2環状シール溝9のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法L1が、第1環状シール溝8のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法L3よりも短く、また、第2環状シール溝9のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法L2が、第1環状シール溝8のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法L4よりも短く形成されていることから、第1環状シール溝8に嵌着されたカップシール7よりも締め代が強くなる。さらに、第2環状シール溝9のシリンダ孔開口部側面9cに沿って、基部7aがシリンダ孔底部側に傾いた状態となると共に、第2環状シール溝9のシール溝底面9aに沿って、外周リップ部7cが内周リップ部側に撓んだ状態となることから、カップシール7全体がシリンダ孔底部側に傾いた状態となる。そして、基部7aの当接部7eが第2環状シール溝9のシリンダ孔開口側面9cに、内周リップ部7bの内周面のシリンダ軸方向中央部分がプランジャ6の外周面に、外周リップ部7cの外周面の先端側7hが第2環状シール溝9のシール溝底面9aにそれぞれ当接すると共に、外周リップ部7cの先端部7gが第2環状シール溝9のシリンダ孔底部側面9bの外周側面9eに当接し、弾性突片7dの先端部7fがプランジャ側に撓んだ状態で第2環状シール溝9のシリンダ孔底部側面9bの内周側面9fに強く当接している。また、内周リップ部7bの基部側の内周面と、プランジャ6の外周面との間には隙間E1が形成されると共に、内周リップ部7bの内周面のシリンダ軸方向中央部先端側7iとプランジャ6の外周面とが高い面圧で当接する。
【0022】
このように形成された液圧マスタシリンダ1は、作動液充填時にシリンダ孔内を真空引きする際に、シリンダ孔底部側とシリンダ孔開口部側との圧力差により、図2(b)に示されるように、第2環状シール溝9に嵌着されたカップシール7は、基部7aの当接部7eが第2環状シール溝9のシリンダ孔開口面9cに、内周リップ部7bがプランジャ6の外周面に、弾性突片7dの先端部7fが第2環状シール溝9のシリンダ孔底部側面9bの内周側面9fにそれぞれ当接すると共に、外周リップ部7cの先端部7gが内周リップ部側に撓み、第2環状シール溝9のシリンダ孔底部側面9fの外周側面側に押し付けられ、外周側面9eに強く当接する。さらに、内周リップ部7bがシリンダ孔開口面9c側に変形し、内周リップ部7b内周面と、プランジャ6の外周面との間の隙間E1が埋められ、内周面の広い面積がプランジャの外周面に当接する。これにより、作動液充填時にシリンダ孔内を真空引きする際に、シリンダ孔内への外気の吸い込みを防止することができる。
【0023】
図1に示されるように、作動液を充填した上述の液圧マスタシリンダ1は、非作動時には、リターンスプリング11の弾発力によって、プランジャ6の連通ポート6cが第1カップシール7よりもシリンダ孔開口側に位置する初期位置に保持され、連通ポート6cを介して液圧室10と補給油室2iとが連通し、リザーバと液圧室10との間を、液通孔2d,補給油室2i及び複数の連通ポート6cを介して作動液が流通可能な状態となっている。
【0024】
制動時に、プッシュロッド5がプランジャ6をシリンダ孔底部側に押動すると、プランジャ6がリターンスプリング11を圧縮しながらシリンダ孔2a内をシリンダ孔底部方向へ前進し、連通ポート6cが第1カップシール7を通過し、液圧室10と補給油室2iとの連通状態が遮断された時点から液圧室10に液圧が発生し始め、昇圧された作動液は、ユニオン孔2cを通ってブレーキ系統へ供給される。また、制動を解除すると、リターンスプリング11の弾発力により、プランジャ6が初期位置まで復帰する。
【0025】
制動時における第1環状シール溝8に嵌着されたカップシール7は、液圧室10側から液圧を受けることによって基部7aがシリンダ孔開口側に変形し、外周リップ部7cがシール溝底面8aに、内周リップ部7bがプランジャ6の外周面に密着することにより、液圧室10と補給油室2iとの連通状態を遮断する。また、制動解除時に、プランジャ6がシリンダ孔開口側に移動する際に、プランジャ6がシリンダ孔開口側に移動して連通ポート6cがカップシール7を通過すると、液圧室10と補給油室2iとが連通状態になり、さらに、第1環状シール溝8に嵌着されたカップシール7の外周リップ部7cが内周リップ部側に撓むことによって作動液が補給油室2i側から液圧室10に流通可能となることから、液圧室10が負圧となることを抑制でき、プランジャ6を円滑かつ確実に初期位置に復帰させることができる。
【0026】
また、第2環状シール溝9に嵌着されたカップシール7は、内周リップ部7bの内周面の先端側がプランジャ6の外周面に高い面圧で当接すると共に、内周リップ部7bの基部側の内周面と、プランジャ6の外周面との間に隙間E1が形成され、プランジャ6と内周リップ部7bの内周面との接触面積が減少していることから、制動解除時に作動液が掻き出されて大気側に漏れることを抑制できる。
【0027】
以上のように、本形態例では、第1環状シール溝8に嵌着されるカップシール7と第2環状シール溝9に嵌着されるカップシール7とを、同一形状に形成し、コストの削減を図りながら、それぞれのカップシール7,7の機能を好適に果たすことができる。さらに、第1環状シール溝8に嵌着されるカップシール7と第2環状シール溝9に嵌着されるカップシール7とが同一形状であることから、誤組の虞がない。
【0028】
尚、本発明は上述の各形態例に限るものではなく、2つのプランジャを備えたタンデム型の液圧マスタシリンダのシリンダ孔開口部側に配置されるシール溝及びカップシールにも適用することができる。また、第2環状シール溝は、シール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法とシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法が第1環状シール溝と同一であっても良く、第2環状シール溝のシリンダ孔開口部側面やシール溝底面が円錐面でなくても良い。
【符号の説明】
【0029】
1…液圧マスタシリンダ、2…シリンダ本体、2a…シリンダ孔、2b…底部、2c…ユニオン孔、2d…液通孔、2e…ボス部、2f…取付ブラケット、2g…大径孔、2h…大径筒部、3…シール材、4…コネクタ、5…プッシュロッド、5a…大径頭部、6…プランジャ、6a…凹部、6b…球状凹部、6c…連通ポート、7…カップシール、7a…基部、7b…内周リップ部、7c…外周リップ部、7d…弾性突片、7e…当接部、7f…弾性突片の先端部、7g…外周リップ部の先端部、8…第1環状シール溝、8a…シール溝底面、8b…シリンダ孔底部側面、8c…シリンダ孔開口部側面、8d…シール溝開口、9…第2環状シール溝、9a…シール溝底面、9b…シリンダ孔底部側面、9c…シリンダ孔開口部側面、9d…シール溝開口、9e…外周側面、9f…内周側面、10…液圧室、11…リターンスプリング、12…止め輪、13…リテーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ本体に形成した有底のシリンダ孔と、該シリンダ孔に設けられたシリンダ孔底部側の第1環状シール溝と、シリンダ孔開口部側の第2環状シール溝と、前記第1環状シール溝と前記第2環状シール溝とにそれぞれ嵌着されるカップシールと、該カップシールを介して、シリンダ孔に摺動可能に内挿されると共に先端部に開口する凹部を有するプランジャとを備え、前記第1環状シール溝と前記第2環状シール溝とは、シリンダ孔周方向のシール溝底面と、シリンダ孔底部側面と、シリンダ孔開口部側面と、プランジャ側に開口したシール溝開口とをそれぞれ有し、前記カップシールは、前記第1環状シール溝又は前記第2環状シール溝のシリンダ孔開口部側面に配置される基部と、該基部の内周側からシリンダ孔底部に向かって延設され、内周面がプランジャの外周面に摺動する内周リップ部と、基部の外周側から同じくシリンダ孔底部に向かって延設され、外周面が前記シール溝底面に当接する外周リップ部とをそれぞれ備えた車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記第1環状シール溝に嵌着されるカップシールと前記第2環状シール溝に嵌着されるカップシールとは、前記内周リップ部よりもシリンダ軸方向の寸法が短い前記外周リップ部を備えた同一形状に形成されると共に、前記第1環状シール溝の前記シリンダ孔底部側面は、前記カップシールの前記内周リップ部の先端部が当接し、前記外周リップ部の先端部は当接しない平面状に形成され、前記第2環状シール溝の前記シリンダ孔底部側面は、前記カップシールの前記内周リップ部の先端部が当接する内周側面と、前記外周リップ部の先端部が当接する外周側面とを備えた段状に形成されることを特徴とする車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記第2環状シール溝のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法は、前記第1環状シール溝のシール溝開口側のシリンダ軸方向の寸法よりも短く、前記第2環状シール溝のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法は、前記第1環状シール溝のシリンダ孔開口側のシリンダ径方向の寸法よりも短く形成されることを特徴とする請求項1記載の車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項3】
前記第2環状シール溝は、前記シリンダ孔開口部側面が、前記シール溝開口から前記シール溝底面に向けて前記シリンダ孔底部側に漸次傾斜した円錐面に形成されると共に、前記シール溝底面は、シリンダ孔開口側からシリンダ孔底部側に向けてシリンダ中心軸方向に漸次傾斜した円錐面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用液圧マスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−166728(P2012−166728A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30374(P2011−30374)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】