説明

車両用灯具の制御装置および車両用灯具システム

【課題】車両の低コスト化を図る技術を提供する。
【解決手段】車両用灯具の制御装置は、傾斜センサの出力値を受信するための受信部102と、傾斜センサの出力値から車両300の傾斜角度を演算する角度演算部1041と、得られた傾斜角度を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する調節指示部1042と、傾斜センサの出力値、傾斜角度、および傾斜角度の演算過程で生成される中間生成値の少なくとも1つを、車両300に搭載される他のシステムに送信する情報提供部1043と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具の制御装置および車両用灯具システムに関し、特に自動車などに用いられる車両用灯具の制御装置および車両用灯具システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の傾斜角度に応じて車両用前照灯の光軸位置を自動的に調節して照射方向を変化させるオートレベリング制御が知られている。一般にオートレベリング制御では、車両の傾斜角度を検出するための傾斜センサとして車高センサが用いられ、車高センサにより検出される車両のピッチ角度に基づいて前照灯の光軸位置が調節される。これに対し、特許文献1〜4には、傾斜センサとして加速度センサ(重力センサ)やジャイロセンサを用いてオートレベリング制御を実施する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−085459号公報
【特許文献2】特開2004−314856号公報
【特許文献3】特開2001−341578号公報
【特許文献4】特開2009−126268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の傾斜センサとして加速度センサ等を用いた場合、車高センサを用いた場合に比べてオートレベリングシステムをより安価にすることができ、また軽量化を図ることもできる。その結果、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。
【0005】
ところで、一般に車両には、オートレベリングシステムの他にも傾斜センサの出力値から得られる車両の傾斜角度に応じて制御を実施するシステムが搭載されている。このようなシステムとしては、例えばヒルスタートアシストシステムが知られている。ヒルスタートアシストシステムは、坂道上にある車両の発進時に、車両がずり下がることを防止するシステムであり、傾斜センサによって車両が坂道上にあることを推定している。
【0006】
従来、車両の傾斜角度に応じた制御を実施するシステムが複数搭載された車両では、システム毎に傾斜センサが設けられていた。そのため、車両全体で見た場合、車両の低コスト化を図る余地があった。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の低コスト化を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具の制御装置であり、当該制御装置は、傾斜センサの出力値を受信するための受信部と、出力値から車両の傾斜角度を演算する角度演算部と、傾斜角度を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する調節指示部と、出力値、傾斜角度、および傾斜角度の演算過程で生成される中間生成値の少なくとも1つを、車両に搭載される他のシステムに送信する情報提供部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この態様によれば、他のシステムに搭載される傾斜センサを省略することができるため、車両の低コスト化を図ることができる。
【0010】
上記態様において、出力値は、センサ軸座標系の値であり、角度演算部は、傾斜センサが車両に搭載された状態におけるセンサ軸と車両の姿勢を決める車両軸との位置関係情報を保持する位置関係情報保持部と、位置関係情報を用いてセンサ軸座標系の値を車両軸座標系の値に変換する変換部と、を備え、情報提供部が送信する中間生成値は、車両軸座標系の値を含んでもよい。この態様によれば、他のシステムの制御において車両に対する傾斜センサの軸ずれをキャンセルすることができるため、他のシステムが要求する精度を満たすことができる。また、他のシステムの使用に適した情報を提供することができる。
【0011】
また、上記態様において、車両軸座標系の値は、車両の上下軸、前後軸および左右軸を座標軸とする座標系であり、情報提供部が送信する車両軸座標系の値は、上下軸上の値、前後軸上の値および左右軸上の値の少なくとも1つを含んでもよい。この態様によっても、他のシステムの要求精度を満たすことができ、また、他のシステムの使用に適した情報を提供することができる。
【0012】
また、上記いずれかの態様において、傾斜センサは加速度センサであり、加速度センサから出力される加速度からは、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度と路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度とが含まれる、水平面に対する車両の傾斜角度である合計角度を算出可能であり、角度演算部は、路面角度の基準値および車両姿勢角度の基準値を保持し、出力値から算出した合計角度の車両停止中の変化を車両姿勢角度の変化として車両姿勢角度の基準値を更新し、合計角度の車両走行中の変化を路面角度の変化として路面角度の基準値を更新し、調節指示部は、車両姿勢角度の基準値を用いて制御信号を生成し、情報提供部が送信する傾斜角度は車両姿勢角度であり、情報提供部が送信する中間生成値は、合計角度および路面角度の少なくとも一方を含んでもよい。この態様によれば、合計角度から路面や車両の傾きを判断していた従来の他のシステムに対して路面角度や車両姿勢角度を送信することができるため、他のシステムの要求精度を満たすことができ、また、他のシステムの使用に適した情報を提供することができる。
【0013】
また、上記いずれかの態様において、傾斜センサは加速度センサであり、角度演算部は、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率から路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度を導出し、調節指示部は、車両姿勢角度を用いて制御信号を生成し、情報提供部が送信する傾斜角度は、車両姿勢角度であってもよい。この態様によれば、合計角度から車両の傾きを判断していた従来の他のシステムに対して車両姿勢角度を送信することができるため、他のシステムの要求精度を満たすことができ、また、他のシステムの使用に適した情報を提供することができる。
【0014】
また、本発明の他の態様は車両用灯具システムであり、当該車両用灯具システムは、光軸を調節可能な車両用灯具と、傾斜センサと、車両用灯具の光軸調節を制御するための制御装置と、を備え、制御装置は、傾斜センサの出力値を受信するための受信部と、出力値から車両の傾斜角度を演算する角度演算部と、傾斜角度を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する調節指示部と、出力値、傾斜角度、および傾斜角度の演算過程で生成される中間生成値の少なくとも1つを、車両に搭載される他のシステムに送信する情報提供部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この態様によっても、他のシステムに搭載される傾斜センサを省略することができるため、車両の低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両の低コスト化を図る技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係るレベリングECUの制御対象である灯具ユニットを含む前照灯ユニットの概略鉛直断面図である。
【図2】前照灯ユニット、車両制御ECU、他のシステムのECUおよびレベリングECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。
【図3】車両に生じる加速度ベクトルと、加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度を説明するための模式図である。
【図4】実施形態1に係るレベリングECUにより実行される制御フローチャートである。
【図5】実施形態2に係るレベリングECUにより実行される制御フローチャートである。
【図6】図6(A)および図6(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。
【図7】車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度との関係を表すグラフである。
【図8】実施形態3に係るレベリングECUにより実行される制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るレベリングECUの制御対象である灯具ユニットを含む前照灯ユニットの概略鉛直断面図である。この前照灯ユニット210は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットが車両の車幅方向の左右に1つずつ配置された構造である。左右に配置された前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明し、左側の前照灯ユニット210Lの説明は適宜省略する。
【0020】
前照灯ユニット210Rは、車両前方側に開口部を有するランプボディ212と、この開口部を覆う透光カバー214とを有する。ランプボディ212は、その車両後方側に取り外し可能な着脱カバー212aを有する。ランプボディ212と透光カバー214とによって灯室216が形成されている。灯室216には、光を車両前方に照射する灯具ユニット10(車両用灯具)が収納されている。
【0021】
灯具ユニット10には、当該灯具ユニット10の上下左右方向の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218は、ランプボディ212に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。また、灯具ユニット10の下面には、スイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。
【0022】
ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は、例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット10の前傾、後傾により、光軸Oのピッチ角度、すなわち、光軸Oの上下方向の角度を下方、上方に向けるレベリング調整ができる。
【0023】
灯具ユニット10は、エイミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エイミング調整時の揺動中心となるエイミングピボット機構(図示せず)が配置される。また、ランプブラケット218には前述したエイミング調整ネジ220が車幅方向に間隔を空けて配置される。そして、2本のエイミング調整ネジ220を回転させることで、灯具ユニット10をエイミングピボット機構を中心に上下左右に旋回させ、光軸Oを上下左右に調整することができる。
【0024】
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、および投影レンズ20を備える。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。リフレクタ16は、その少なくとも一部が楕円球面状であり、バルブ14から放射された光を反射する。リフレクタ16の楕円球面状部分は、バルブ14の略中央に第1焦点を有し、投影レンズ20の後方焦点面上に第2焦点を有する。バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、その一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。
【0025】
回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒部材であり、切欠部と複数のシェードプレート(図示せず)とを備える。切欠部またはシェードプレートのいずれかが光軸O上に移動されて、所定の配光パターンが形成される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。なお、灯具ユニット10の構成は特にこれに限定されず、投影レンズ20を持たない反射型の灯具ユニットなどであってもよい。
【0026】
図2は、前照灯ユニット、車両制御ECU、他のシステムのECUおよびレベリングECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、上述のように右側の前照灯ユニット210Rおよび左側の前照灯ユニット210Lの構成は基本的に同一であるため、図2では前照灯ユニット210Rおよび前照灯ユニット210Lをまとめて前照灯ユニット210としている。また、レベリングECU100は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図2ではそれらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0027】
レベリングECU100(車両用灯具の制御装置)は、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリングシステムを制御するための装置であり、受信部102、制御部104、送信部106、メモリ108、加速度センサ110(傾斜センサ)および温度センサ112を備える。
【0028】
制御部104は、加速度センサ110の出力値から車両300の傾斜角度を演算する角度演算部1041と、灯具ユニット10の光軸調節を指示する制御信号を生成する調節指示部1042と、加速度センサ110の出力値、角度演算部1041で算出された車両300の傾斜角度、および傾斜角度の演算過程で生成される中間生成値の少なくとも1つを、後述する他のシステムに送信する情報提供部1043とを備える。角度演算部1041は、加速度センサ110が車両300に搭載された状態におけるセンサ軸と車両300の姿勢を決める車両軸との位置関係を示す情報(以下、適宜この情報を位置関係情報と称する)を保持する位置関係情報保持部と、この位置関係情報を用いてセンサ軸座標系の値を車両軸座標系の値に変換する変換部1041aとを備える。本実施形態では、メモリ108が位置関係情報保持部として機能している。各部の動作については後に詳細に説明する。
【0029】
レベリングECU100は、例えば車両300のダッシュボード付近に設置される。なお、レベリングECU100の設置位置は特に限定されず、例えば前照灯ユニット210内に設けられてもよい。また、加速度センサ110は、レベリングECU100の外に設けられていてもよい。レベリングECU100には、車両300に搭載された車両制御ECU302や、ライトスイッチ304等が接続されている。車両制御ECU302やライトスイッチ304から出力される信号は、受信部102によって受信される。また、受信部102は、加速度センサ110および温度センサ112の出力値を受信する。なお、制御部104は、加速度センサ110から定期的に加速度を受信し、所定期間分の加速度あるいはその加速度から得られた合計角度θを保持している。
【0030】
車両制御ECU302には、ステアリングセンサ310、車速センサ312、ナビゲーションシステム314等が接続されており、これらのセンサ等から各種情報を取得して、レベリングECU100等に送信することができる。例えば、車両制御ECU302は、車速センサ312の出力値をレベリングECU100に送信する。これにより、レベリングECU100は、車両300の走行状態を検知することができる。ライトスイッチ304は、運転者の操作内容に応じて、前照灯ユニット210の点消灯を指示する信号や、前照灯ユニット210によって形成すべき配光パターンを指示する信号等を、電源306や、車両制御ECU302、レベリングECU100等に送信する。
【0031】
受信部102が受信した信号は、制御部104に送信される。制御部104は、受信部102から送られてきた加速度センサ110の出力値と必要に応じてメモリ108に保持している情報をもとに車両300の傾斜角度を導出して、灯具ユニット10の光軸調節を指示する制御信号を生成する。制御部104は、生成した制御信号を送信部106からレベリングアクチュエータ226に出力する。レベリングアクチュエータ226は、受信した制御信号をもとに駆動されて、灯具ユニット10の光軸Oがピッチ角度方向について調整される。
【0032】
車両300には、レベリングECU100、車両制御ECU302および前照灯ユニット210に電力を供給する電源306が搭載されている。ライトスイッチ304の操作により前照灯ユニット210の点灯が指示されると、電源306から電源回路230を介してバルブ14に電力が供給される。
【0033】
また、車両300には、オートレベリングシステム以外の他のシステムが搭載されており、レベリングECU100には、これら他のシステムを制御するECUが接続されている。本実施形態では、他のシステムを制御するECUとして、緊急ブレーキシステムECU320、アダプティブフロントライティングシステムECU(以下適宜、このECUをAFS−ECUと称する)321、ヒルスタートアシストシステムECU322、エアバッグシステムECU323、ボディコントロールシステムECU324、アクティブサスペンションシステムECU325、イモビライザシステムECU326が車両300に搭載されている。
【0034】
続いて、上述の構成を備えたレベリングECU100の動作について詳細に説明する。図3は、車両に生じる加速度ベクトルと、加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度を説明するための模式図である。
【0035】
たとえば、車両後部の荷室に荷物が載せられたり後部座席に人等が乗車した場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。灯具ユニット10の照射方向も車両300の姿勢に対応して上下に変動し、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、レベリングECU100は、オートレベリング制御を実施し、加速度センサ110の出力値から車両のピッチ方向の傾斜角度の変化を導出し、レベリングアクチュエータ226を制御して光軸Oのピッチ角度を車両姿勢に応じた角度とする。これにより、車両姿勢が変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。
【0036】
ここで、加速度センサ110は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ110は、任意の姿勢で車両300に取り付けられ、車両300に生じる加速度ベクトルを検出する。走行中の車両300には、重力加速度と車両300の移動により生じる運動加速度とが生じる。そのため、加速度センサ110は、図3に示すように、重力加速度ベクトルGと運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出することができる。また、車両300の停止中、加速度センサ110は、重力加速度ベクトルGを検出することができる。
【0037】
加速度センサ110は、検出した加速度ベクトルの各軸成分の数値を出力する。加速度センサ110から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、制御部104によって車両300の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。すなわち、加速度センサ110の出力値は、レベリングECU100のX軸、Y軸、Z軸を座標軸とするセンサ軸座標系の値であり、制御部104によって、車両300の上下軸、前後軸および左右軸を座標軸とする車両軸座標系の値に変換される。
【0038】
加速度センサ110の出力値からは、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを導出することができる。すなわち、加速度センサ110から出力される加速度からは、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度θrと路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度θvとが含まれる、水平面に対する車両の傾斜角度である合計角度θを算出可能である。なお、路面角度θr、車両姿勢角度θvおよび合計角度θは、それぞれ車両300の前後軸の上下方向の角度、言い換えれば車両300のピッチ方向の角度である。
【0039】
上述したオートレベリング制御は、車両の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。そのため、加速度センサ110を用いたオートレベリング制御では、合計角度θあるいは合計角度θの変化から、車両姿勢角度θvあるいは車両姿勢角度θvの変化を抽出する必要がある。
【0040】
これに対し、本実施形態に係るレベリングECU100の制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定し、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定して、合計角度θから車両姿勢角度θvを導出する。車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。また、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。
【0041】
例えば、まずレベリングECU100の製造出荷時に、予め位置関係情報が位置関係情報保持部としてのメモリ108に記録される。この位置関係情報は、例えば、車両設計図等から得られる加速度センサ110の車両300への取付姿勢設計値に基づいて導出される、加速度センサ110の軸位置と車両300の軸位置とを対応付けた変換テーブルである。
【0042】
次いで、車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、加速度センサ110を含むレベリングECU100が取り付けられた車両300が水平面に置かれて基準状態とされる。基準状態において、車両300は、例えば運転席に1名乗車した状態とされる。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作やCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、制御部104に初期化信号が送信される。制御部104は、初期化信号を受信すると初期化処理を開始する。
【0043】
初期化処理において、初期エイミング調整が実施されて灯具ユニット10の光軸Oが初期設定位置に合わせられる。また、角度演算部1041の変換部1041aは、現在の加速度センサ110の出力値を、メモリ108に記録された位置関係情報をもとに車両300の3軸成分(X,Y,Z)に変換する。そして、角度演算部1041は、変換部1041aによって生成された車両軸座標系の値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ108に記録することで、これらの基準値を保持する。
【0044】
車両300が実際に使用される状況において、角度演算部1041は、車両走行中の合計角度θの変化に対して光軸調節を回避する。そして、角度演算部1041は、車両停止時に現在の加速度センサ110の出力値を車両軸座標系の値に変換し、現在(車両停止時)の合計角度θを演算する。次いで、角度演算部1041は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して、路面角度θrを導出する。そして、導出した路面角度θrを新たな基準値として、メモリ108に記録されている路面角度θrの基準値を更新する。これにより、路面角度θrの変化と推定される車両走行中の合計角度θの変化が、路面角度θrの基準値に取り込まれる。前記「車両走行中」は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときから、車速センサ312の検出値が0となるまでの間である。また、前記「車両停止時」は、例えば車速センサ312の検出値が0となった後、加速度センサ110の検出値が安定したときである。前記「車両走行中」および「車両停止時」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0045】
車両停止中、角度演算部1041は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを導出する。そして、導出した車両姿勢角度θvを新たな基準値として、メモリ108に記録されている車両姿勢角度θvの基準値を更新する。調節指示部1042は、更新された車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸調節を指示する制御信号を生成し、送信部106から出力する。前記「車両停止中」は、例えば加速度センサ110の検出値が安定したときから車速センサ312の検出値が0を越えたときである。前記「車両停止中」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0046】
なお、位置関係情報は、例えば次のようにして生成されてもよい。すなわち、上述した初期化処理において、基準状態での加速度センサ110の出力値を第1基準出力値としてメモリ108に記録する。その後、車両300が基準状態からピッチ角度のみを変化させた第2基準状態とされ、角度演算部1041は、第2基準状態にあるときの加速度センサ110の出力値を第2基準出力値としてメモリ108に記録する。そして、角度演算部1041は、第1および第2基準出力値を用いて加速度センサ110のX軸およびZ軸と車両300の前後軸および上下軸との位置関係を把握する。その結果、加速度センサ110の各軸と車両300の各軸の位置関係が把握される。そして、角度演算部1041は、把握した位置関係から位置関係情報を生成してメモリ108に記録する。あるいは、車両300が基準状態からロール角度のみを変化させた第3基準状態とされ、角度演算部1041は、第3基準状態にあるときの加速度センサ110の出力値を第3基準出力値としてメモリ108に記録する。そして、角度演算部1041は、第1および第3基準出力値を用いて加速度センサ110のY軸およびZ軸と車両300の左右軸および上下軸との位置関係を把握する。これによっても、加速度センサ110の各軸と車両300の各軸の位置関係を把握することができる。
【0047】
制御部104の情報提供部1043は、所定のタイミングで、加速度センサ110の出力値(すなわち加速度)、角度演算部1041により演算された車両300の傾斜角度、および傾斜角度の演算過程で生成される中間生成値の少なくとも1つを、他のシステムに送信する。本実施形態では、情報提供部1043が送信する中間生成値は、変換部1041aによって生成される車両軸座標系の値を含む。また、この車両軸座標系の値には、車両300の上下軸上の値、前後軸上の値および左右軸上の値の少なくとも1つが含まれる。また、情報提供部1043が送信する車両300の傾斜角度は車両姿勢角度θvであり、中間生成値は合計角度θおよび路面角度θrの少なくとも一方を含む。
【0048】
たとえば、車両300には、緊急ブレーキシステムが搭載されている。緊急ブレーキシステムは、車両300の減速時に、車両前後方向の加速度に応じてブレーキランプを点滅あるいは明度調整し、後続車両に車両300の急停車を報知するシステムである。そこで、情報提供部1043は、緊急ブレーキシステムECU320に対して、たとえば車両軸座標系の加速度値のうち前後軸の値を送信部106から送信する。なお、センサ軸座標系と車両軸座標系とのずれが緊急ブレーキシステムの制御に支障をきたさない範囲である場合は、情報提供部1043はセンサ軸座標系の値を緊急ブレーキシステムECU320に送信してもよい。
【0049】
また、車両300には、アダプティブフロントライティングシステム(AFS)が搭載されている。AFSは、車両300のコーナリング時に、スイブルアクチュエータ222によって灯具ユニット10の光軸Oを曲線道路のカーブの先に向けて、運転者の前方視認性を向上させるシステムである。そこで、情報提供部1043は、AFS−ECU321に対して、たとえば車両軸座標系の各加速度値を送信部106から送信する。AFS−ECU321は、レベリングECU100から受信した加速度値と、ステアリングセンサ310の出力値とを用いてAFS制御を実施する。なお、センサ軸座標系と車両軸座標系とのずれがAFSの制御に支障をきたさない範囲である場合は、情報提供部1043はセンサ軸座標系の値をAFS−ECU321に送信してもよい。
【0050】
また、車両300には、ヒルスタートアシストシステムが搭載されている。ヒルスタートアシストシステムは、坂道上にある車両の発進時に、所定時間車両を停止状態に維持することで、運転者の足がブレーキペダルからアクセルペダルに踏み換えられる際に車両がずり下がることを防止するシステムである。そこで、情報提供部1043は、ヒルスタートアシストシステムECU322に対して、たとえば路面角度θrを送信部106から送信する。
【0051】
また、車両300には、エアバッグシステムが搭載されている。エアバッグシステムは、車両300の加速度に基づいて車両300の衝突を検知してエアバッグを作動させるシステムである。そこで、情報提供部1043は、エアバッグシステムECU323に対して、たとえば車両前後軸の加速度値を送信部106から送信する。なお、センサ軸座標系と車両軸座標系とのずれがエアバッグシステムの制御に支障をきたさない範囲である場合は、情報提供部1043はセンサ軸座標系の値をエアバッグシステムECU323に送信してもよい。
【0052】
また、車両300には、ボディコントロールシステムが搭載されている。ボディーコントロールシステムは、車両300の加速度に基づいて車両300の走行状態を検知し、車両300の横滑り等を防止するシステムである。そこで、情報提供部1043は、ボディコントロールシステムECU324に対して、たとえば車両軸座標系の各加速度値を送信部106から送信する。なお、センサ軸座標系と車両軸座標系とのずれがボディコントロールシステムの制御に支障をきたさない範囲である場合は、情報提供部1043はセンサ軸座標系の値をボディコントロールシステムECU324に送信してもよい。
【0053】
また、車両300には、アクティブサスペンションシステムが搭載されている。アクティブサスペンションシステムは、車両姿勢から車両の荷重状態を推定し、荷重状態に応じてサスペンション特性を変化させるシステムである。そこで、情報提供部1043は、アクティブサスペンションシステムECU325に対して、たとえば車両姿勢角度θvを送信部106から送信する。
【0054】
また、車両300には、イモビライザシステムが搭載されている。イモビライザシステムは、駐車中の車両の不正な振動を検知し、警報器あるいは通報装置を作動させることで車上荒らしや盗難等を防ぐためのシステムである。そこで、情報提供部1043は、イモビライザシステムECU326に対して、たとえばセンサ軸座標系の各加速度値、車両軸座標系の各加速度値、合計角度θあるいは車両姿勢角度θvを送信部106から送信する。
【0055】
このように、レベリングECU100の加速度センサ110を他のシステムの制御に利用することで、他のシステムに搭載される加速度センサや他の傾斜センサを省略することができる。
【0056】
図4は、実施形態1に係るレベリングECUにより実行される制御フローチャートである。図4のフローチャートではステップを意味するS(Stepの頭文字)と数字との組み合わせによって各部の処理手順を表示する。このフローは、イグニッションがオンにされた場合に制御部104により所定のタイミングで繰り返し実行され、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
【0057】
まず、制御部104は、車両走行中であるか判断する(S101)。車両走行中である場合(S101のY)、制御部104は、加速度センサ110の出力値であるセンサ軸座標系の加速度値を車両軸座標系の加速度値に変換し、センサ軸座標系の加速度値および/または車両軸座標系の加速度値を、他のシステムへ送信する(S102)。なお、制御部104は、車両走行中であってもレベリングECU100の出力値を受信するたびに合計角度θを算出してもよく、その場合には、合計角度θも他のシステムへの送信対象に含むことができる。そして、制御部104は、灯具ユニット10の光軸調節を実施することなく本ルーチンを終了する。
【0058】
車両走行中でない場合(S101のN)、制御部104は、車両停止時であるか判断する(S103)。車両停止時である場合(S103のY)、制御部104は、加速度センサ110の出力値から合計角度θを算出し、この合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを算出する(S104)。そして、制御部104は、路面角度θrの基準値を更新する(S105)。続いて、制御部104は、合計角度θを算出した際のセンサ軸座標系の加速度値、車両軸座標系の加速度値、得られた合計角度θおよび路面角度θrの少なくとも1つを他のシステムへ送信する(S106)。そして、制御部104は、灯具ユニット10の光軸調節を実施することなく本ルーチンを終了する。
【0059】
車両停止時でない場合、(S103のN)、この場合は車両停止中であるため、制御部104は、加速度センサ110の出力値から合計角度θを算出し、この合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して車両姿勢角度θvを算出する(S107)。そして、制御部104は、車両姿勢角度θvの基準値を更新し(S108)、車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸調節を実施する(S109)。続いて、制御部104は、合計角度θを算出した際のセンサ軸座標系の加速度値、車両軸座標系の加速度値、得られた合計角度θおよび車両姿勢角度θvの少なくとも1つを他のシステムへ送信し(S110)、本ルーチンを終了する。
【0060】
以上説明したように、本実施形態に係るレベリングECU100は、加速度センサ110の出力値、加速度センサ110の出力値から演算される車両姿勢角度θv、および車両姿勢角度θvの演算過程で生成される、車両軸座標系の加速度値や合計角度θ、路面角度θr等の中間生成値の少なくとも1つを、他のシステムに送信している。そのため、他のシステムに搭載される加速度センサや傾斜センサを省略することができる。これにより、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。
【0061】
また、オートレベリング制御では、数%の角度範囲で光軸調節が実施される。そのため、加速度センサ110の角度検出分解能は、たとえば0.04°と非常に高精度である。よって、他のシステムは、従来に比べてより正確な加速度値、合計角度θ、車両姿勢角度θv、路面角度θr等を取得することができる。その結果、他のシステムが要求する精度を満たすことができ、また、場合によっては他のシステムの制御精度を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係るレベリングECU100は、センサ軸座標系の値を車両軸座標系の値に変換しており、車両軸座標系の値を他のシステムに送信可能である。車両軸座標系の値を他のシステムに送信することで、他のシステムの制御において車両に対するセンサの軸ずれをキャンセルすることができるため、他のシステムの要求精度を満たすことができる。また、レベリングECU100は、合計角度θから路面角度θrと車両姿勢角度θvとを演算している。そのため、合計角度θから路面や車両の傾きを判断していた従来の他のシステムに対して路面角度θrや車両姿勢角度θvを送信することができる。すなわち、他のシステムの使用に適した情報を提供することができる。
【0063】
(実施形態2)
実施形態2に係るレベリングECUは、オートレベリング制御の内容を除き、実施形態1に係るレベリングECU100の構成と共通する。以下、実施形態2に係るレベリングECU100について実施形態1と異なる構成を中心に説明する。
【0064】
本実施形態に係るレベリングECU100の制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定し、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定して、合計角度θから車両姿勢角度θvを導出する。具体的には、車両300が実際に使用される状況において、制御部104の角度演算部1041は、車両走行中の合計角度θの変化に対して光軸調節を回避する。そして、角度演算部1041は、車両停止時に走行前後での合計角度θの差分Δθ1を算出し、路面角度θrの基準値に得られた差分Δθ1を算入して新たな路面角度θrの基準値を算出し(新θr基準値=θr基準値+Δθ1)、路面角度θrの基準値を更新する。
【0065】
角度演算部1041は、たとえば次のようにして差分Δθ1を算出する。すなわち、角度演算部1041は、車両300の発進直後に、発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値としてメモリ108に記録する。そして、角度演算部1041は、車両停止時に、現在(車両停止時)の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ1を算出する。前記「発進直後」は、例えば車速センサ312の検出値が0を超えたときからの所定期間である。前記「発進直前」は、例えば車速センサ312の検出値が0を超えたときから所定時間前の時間である。前記「発進直後」および「発進直前」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0066】
車両停止中、角度演算部1041は、車両停止中に現在の合計角度θとメモリ108に記録されている合計角度θの基準値との差分Δθ2を算出する。このとき用いられる合計角度θの基準値は、例えば、車両300の停止後最初の差分Δθ2の算出では差分Δθ1の算出後に更新された基準値、すなわち車両停止時の合計角度θであり、2回目以降の場合は前回の差分Δθ2の算出後に更新された基準値である。そして、角度演算部1041は、車両姿勢角度θvの基準値に得られた差分Δθ2を算入して新たな車両姿勢角度θvの基準値を算出し(新θv基準値=θv基準値+Δθ2)、車両姿勢角度θvの基準値を更新する。調節指示部1042は、更新された車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸調節を指示する制御信号を生成する。
【0067】
図5は、実施形態2に係るレベリングECUにより実行される制御フローチャートである。このフローは、イグニッションがオンにされた場合に制御部104により所定のタイミングで繰り返し実行され、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
【0068】
まず、制御部104は、車両走行中であるか判断する(S201)。車両走行中である場合(S201のY)、制御部104は、車両300が発進直後であるか判断する(S202)。発進直後である場合(S202のY)、制御部104は、発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値としてメモリ108に記録(更新)する(S203)。そして、制御部104は、センサ軸座標系の加速度値、車両軸座標系の加速度値および合計角度θの少なくとも1つを、他のシステムへ送信する(S204)。その後、制御部104は、光軸調節を実施することなく本ルーチンを終了する。発進直後でない場合(S202のN)、制御部104は、合計角度θの基準値を更新することなくステップ204へ進む。
【0069】
車両走行中でない場合(S201のN)、制御部104は、車両停止時であるか判断する(S205)。車両停止時である場合(S205のY)、制御部104は、現在の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ1を計算する(S206)。そして、制御部104は、計算した差分Δθ1と路面角度θrの基準値とから新たな路面角度θrの基準値を計算し、路面角度θrの基準値を更新する(S207)。また、制御部104は、現在の合計角度θを新たな合計角度θの基準値としてメモリ108に記録する(S208)。続いて、制御部104は、差分Δθ1を計算した際のセンサ軸座標系の加速度値、車両軸座標系の加速度値、合計角度θおよび路面角度θrの少なくとも1つを他のシステムへ送信する(S209)。そして、制御部104は、灯具ユニット10の光軸調節を実施することなく本ルーチンを終了する。
【0070】
車両停止時でない場合(S205のN)、この場合は車両停止中であるため、制御部104は、現在の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ2を計算する(S210)。制御部104は、計算した差分Δθ2と車両姿勢角度θvの基準値とから新たな車両姿勢角度θvの基準値を計算し、車両姿勢角度θvの基準値を更新する(S211)。そして、制御部104は、更新した車両姿勢角度θvの基準値に応じて光軸調節を実施する(S212)。また、制御部104は、現在の合計角度θを新たな合計角度θの基準値としてメモリ108に記録する(S213)。続いて、制御部104は、差分Δ2を計算した際のセンサ軸座標系の加速度値、車両軸座標系の加速度値、合計角度θおよび車両姿勢角度θvの少なくとも1つを他のシステムへ送信し(S214)、本ルーチンを終了する。
【0071】
本実施形態のレベリングECUによれば、実施形態1と同様な効果を得ることができる。
【0072】
(実施形態3)
実施形態3に係るレベリングECUは、オートレベリング制御の内容を除き、実施形態1に係るレベリングECU100の構成と共通する。以下、実施形態3に係るレベリングECU100について実施形態1と異なる構成を中心に説明する。図6(A)および図6(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。図6(A)は、車両姿勢角度θvが変化していない状態を示し、図6(B)は、車両姿勢角度θvが変化している状態を示している。また、図6(A)および図6(B)において、車両300が加速したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを実線矢印で示し、車両300が減速したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを破線矢印で示している。図7は、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度との関係を表すグラフである。
【0073】
通常、車両300は路面に対して平行に移動する。よって、運動加速度ベクトルαは、車両姿勢によらず路面に対して平行なベクトルとなる。また、図6(A)に示すように、車両姿勢が路面に対して平行であり、車両姿勢角度θvが0°である場合、車両300の前後軸Lは路面に対して平行となるため、運動加速度ベクトルαは前後軸Lに対して平行なベクトルとなる。よって、車両300の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際の合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、車両300の前後軸Lに対して平行な直線となる。
【0074】
一方、図6(B)に示すように、車両姿勢が路面に対して傾いており、車両姿勢角度θvが0°でない場合、車両300の前後軸Lは路面に対して斜めにずれるため、運動加速度ベクトルαは、前後軸Lに対して斜めに延びるベクトルとなる。よって、車両の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際の合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、前後軸Lに対して傾いた直線となる。
【0075】
そこで、本実施形態に係るレベリングECU100の制御部104は、加速度センサ110が検出する加速度から得られる、車両300の前後方向の加速度および上下方向の加速度を用いて、次のように車両姿勢角度θvを導出する。すなわち、例えば、まず車両300が上述した基準状態とされ、その状態で加速または減速させられる。制御部104の角度演算部1041は、初期化処理として加速度センサ110の出力値から車両前後方向および車両上下方向の加速度を取得し、車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率を算出する。そして、角度演算部1041は、得られた比率を基準値としてメモリ108に記録する。
【0076】
車両300が実際に使用されている状況において、角度演算部1041は、車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率を算出する。そして、角度演算部1041は、初期化処理によって予め記録された比率の基準値と現在の車両における比率とから車両姿勢角度θvを導出する。
【0077】
例えば、角度演算部1041は、図7に示すように車両前後方向の加速度を第1軸(x軸)に設定し、車両上下方向の加速度を第2軸(z軸)に設定した座標に、基準状態にある車両300が加速または減速したときの加速度センサ110の出力値から変換された車両軸座標系の加速度値を経時的にプロットする。点tA1〜tAnは、車両300が基準状態にあるときの時間t〜tにおける加速度値である。そして、角度演算部1041は、少なくとも2点から得られる直線またはベクトルの傾きを比率の基準値とする。本実施形態では、角度演算部1041は、プロットされた複数点tA1〜tAnに対して最小二乗法などにより直線近似式Aを求め、この直線近似式Aの傾きを比率の基準値とする。
【0078】
また、角度演算部1041は、実際の使用状況下で車両300が加減または減速したとき、たとえば車両300の発進時あるいは停止時の加速度値を、上述の座標に経時的にプロットする。点tB1〜tBnは、実際の使用状況下、例えば図6(B)に示すように車両300が車両姿勢角度θvだけ傾いた状態での時間t〜tにおける加速度センサ110の検出値である。角度演算部1041は、プロットされた複数点tB1〜tBnに対して同様にして直線近似式Bを求め、この直線近似式Bの傾きを使用状況下における現在の比率とする。
【0079】
車両300が路面に対して所定角度だけ傾いた状態で得られる直線近似式Bは、基準状態で得られる直線近似式Aに対して、車両300の路面に対する傾きと同じ角度だけ傾く。すなわち、直線近似式Aと直線近似式Bとがなす角度(図7におけるθAB)が、車両姿勢角度θvとなる。よって、角度演算部1041は、2つの直線近似式の傾きから車両姿勢角度θvを取得することができる。調節指示部1042は、得られた車両姿勢角度θvを用いて光軸調節を指示する制御信号を生成する。
【0080】
図8は、実施形態3に係るレベリングECUにより実行される制御フローチャートである。このフローは、イグニッションがオンにされた場合に制御部104により所定のタイミングで繰り返し実行され、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
【0081】
まず、制御部104は、車両走行中であるか判断する(S301)。車両走行中である場合(S301のY)、制御部104は、加速度センサ110の複数の出力値から直線近似式を算出する(S302)。そして、制御部104は、予め記録された基準状態での直線近似式と算出された直線近似式とから車両姿勢角度θvを算出し(S303)、得られた車両姿勢角度θvを用いて光軸調節を実施する(S304)。続いて、制御部104は、直線近似式を算出した際のセンサ軸座標系の加速度値、車両軸座標系の出力値、車両姿勢角度θvの少なくとも1つを他のシステムへ送信し(S305)、本ルーチンを終了する。
【0082】
車両走行中でない場合(S301のN)、制御部104は、加速度センサ110の出力値であるセンサ軸座標系の加速度値を車両軸座標系の加速度値に変換し、センサ軸座標系の加速度値および/または車両軸座標系の加速度値を、他のシステムへ送信する(S306)。そして、制御部104は、光軸調節を実施することなく本ルーチンを終了する。
【0083】
なお、車両走行中である場合、一般に車両300が一定速度を維持する時間は短く、大部分の時間は加減速していると推定することができる。そのため、本実施形態では、車両300が加速または減速しているかの判断を省略している。なお、車両300の加減速を判断してから直線近似式の算出処理を実施する場合には、より高精度に車両姿勢角度θvを算出することができる。
【0084】
本実施形態のレベリングECUによれば、実施形態1と同様な効果を得ることができる。
【0085】
なお、上述した各実施形態に係るレベリングECU100と、灯具ユニット10と、加速度センサ110(上述した各実施形態ではレベリングECU100に加速度センサ110が含まれている)とにより、車両用灯具システムが構成される。
【0086】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0087】
上述の各実施形態では、傾斜センサとして加速度センサ110を用いているが、傾斜センサは、ジャイロセンサや地磁気センサ等の他のセンサであってもよい。
【符号の説明】
【0088】
O 光軸、 θ 合計角度、 θr 路面角度、 θv 車両姿勢角度、 10 灯具ユニット、 100 レベリングECU、 102 受信部、 110 加速度センサ、 300 車両、 1041 角度演算部、 1041a 変換部、 1042 調節指示部、 1043 情報提供部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜センサの出力値を受信するための受信部と、
前記出力値から車両の傾斜角度を演算する角度演算部と、
前記傾斜角度を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する調節指示部と、
前記出力値、前記傾斜角度、および前記傾斜角度の演算過程で生成される中間生成値の少なくとも1つを、車両に搭載される他のシステムに送信する情報提供部と、
を備えることを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記出力値は、センサ軸座標系の値であり、
前記角度演算部は、前記傾斜センサが車両に搭載された状態におけるセンサ軸と前記車両の姿勢を決める車両軸との位置関係情報を保持する位置関係情報保持部と、前記位置関係情報を用いて前記センサ軸座標系の値を車両軸座標系の値に変換する変換部と、を備え、 前記情報提供部が送信する前記中間生成値は、前記車両軸座標系の値を含む請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記車両軸座標系の値は、車両の上下軸、前後軸および左右軸を座標軸とする座標系であり、
前記情報提供部が送信する前記車両軸座標系の値は、前記上下軸上の値、前記前後軸上の値および前記左右軸上の値の少なくとも1つを含む請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記傾斜センサは加速度センサであり、加速度センサから出力される加速度からは、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度と路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度とが含まれる、水平面に対する車両の傾斜角度である合計角度を算出可能であり、
前記角度演算部は、前記路面角度の基準値および前記車両姿勢角度の基準値を保持し、前記出力値から算出した前記合計角度の車両停止中の変化を前記車両姿勢角度の変化として前記車両姿勢角度の基準値を更新し、前記合計角度の車両走行中の変化を前記路面角度の変化として前記路面角度の基準値を更新し、
前記調節指示部は、前記車両姿勢角度の基準値を用いて前記制御信号を生成し、
前記情報提供部が送信する前記傾斜角度は前記車両姿勢角度であり、前記情報提供部が送信する前記中間生成値は、前記合計角度および前記路面角度の少なくとも一方を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記傾斜センサは加速度センサであり、
前記角度演算部は、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率から路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度を導出し、
前記調節指示部は、前記車両姿勢角度を用いて前記制御信号を生成し、
前記情報提供部が送信する前記傾斜角度は、前記車両姿勢角度である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
光軸を調節可能な車両用灯具と、
傾斜センサと、
前記車両用灯具の光軸調節を制御するための制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記傾斜センサの出力値を受信するための受信部と、
前記出力値から車両の傾斜角度を演算する角度演算部と、
前記傾斜角度を用いて前記車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する調節指示部と、
前記出力値、前記傾斜角度、および前記傾斜角度の演算過程で生成される中間生成値の少なくとも1つを、車両に搭載される他のシステムに送信する情報提供部と、
を備えることを特徴とする車両用灯具システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35511(P2013−35511A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175312(P2011−175312)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】