説明

車両用盗難防止装置

【課題】車両の乗員に乗車用ヘルメットの着用を促すことができる車両用盗難防止装置を提供する。
【解決手段】自動二輪車1に取り付けられる車体側イモビライザユニット50は、ヘルメット30に取り付けられるヘルメット側イモビライザユニット40から発信されるIDコードを含む信号を受信する。自動二輪車1のエンジン8を運転制御するエンジン制御部12は、IDコードが正しく照合されるとエンジンの始動を許可するように構成される。ヘルメット側イモビライザユニット40およびループアンテナ45はヘルメット30の帽体に内設される。また、ヘルメット30の収容位置の近傍に降車時用の車体側イモビライザユニットを備え、該ユニットとヘルメット側イモビライザユニット40との無線通信が行われてIDコードが正しく照合されると、エンジン8の始動を禁止するように構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用盗難防止装置に係り、特に、車両の乗員に乗車用ヘルメットの着用を促すことができる車両用盗難防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車や四輪車等のメインキーに、各車両に固有のIDコードを記憶させたチップ等を内設し、車体側のキーシリンダにキーを差し込んだ時にIDコードの照合を行い、正しく照合されなければエンジンの始動を電気的に禁止するようにしたイモビライザが知られている。このイモビライザによれば、各車両の正規のキーでなければエンジンが始動できないので、形状のみを複製した合鍵による第三者の使用等を防ぐことが可能となる。
【0003】
特許文献1には、メインキーに内設された通信装置から発信される応答信号を、車体側のキーシリンダのキー孔の周囲に配設されるアンテナで受信するようにしたイモビライザの構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、通信装置を内設するメインキーに物理的な鍵部を設けず、メインキーと車体側の通信装置との通信によるIDコードの照合のみでエンジンが始動可能状態となるようにしたイモビライザの構成が開示されている。
【特許文献1】特開2003−127833号公報
【特許文献2】特開2004−114838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2には、メインキーに内設される通信装置をメインキー以外の場所に配設することで、盗難防止効果以外の副次的効果を得ることに関しては、何らの開示および示唆もされていなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、車両の乗員に乗車用ヘルメットの着用を促すことができる車両用盗難防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明は、自動二輪車の車体に取り付けられる車体側通信装置と、乗車用ヘルメットに取り付けられるヘルメット側通信装置と、前記自動二輪車の動力源を運転制御する制御部とを具備し、前記車体側通信装置は、前記ヘルメット側通信装置から発信される前記自動二輪車に固有の識別コードを含む信号を受信し、前記制御部は、前記識別コードが正しく照合されることにより前記動力源の始動を許可するように構成されている点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記ヘルメット側通信装置は、前記乗車用ヘルメットの帽体に内設されている点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記乗車用ヘルメットの帽体に、前記ヘルメット側通信装置に接続されるループアンテナが内設されている点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記車体側通信装置とヘルメット側通信装置との通信可能範囲の外側に取り付けられる降車時用の車体側通信装置を具備し、前記制御部は、前記降車時用の車体側通信装置が前記ヘルメット側通信装置から発信される前記自動二輪車に固有の識別コードを含む信号を受信して前記識別コードが正しく照合されると、前記動力源の始動を禁止するように構成されている点に第4の特徴がある。
【0011】
さらに、前記車体側通信装置は、前記乗車用ヘルメットを着用した乗員が乗車した際に前記ヘルメット側通信装置と通信可能な位置に取り付けられ、
【0012】
前記降車時用の車体側通信装置は、前記車体に設けられる収容位置に前記乗車用ヘルメットを配設した際に前記ヘルメット側通信装置と通信可能な位置に取り付けられている点に第5の特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、車体側通信装置は、ヘルメット側通信装置から発信される自動二輪車に固有の識別コードを含む信号を受信し、制御部は、識別コードが正しく照合されることにより動力源の始動を許可するように構成されているので、エンジンの始動に乗車用ヘルメットが必要となり、これにより、自動二輪車の乗員に乗車用ヘルメットの着用を促すことが可能となる。また、乗車用ヘルメットを持って自動二輪車から降車した際には、エンジンの始動が許可されないので、自動二輪車の駐車時の盗難防止効果を得ることができるようになる。さらに、小型なキーに比して大型なヘルメットに通信装置が内設されているので、通信装置をうっかり紛失してしまう可能性を低減することが可能となる。
【0014】
第2の発明によれば、ヘルメット側通信装置が乗車用ヘルメットの帽体に内設されているので、帽体の外側等に取り付けられる構成に比して、ヘルメット側通信装置に第三者がアクセスする可能性を大幅に低減することが可能となる。
【0015】
第3の発明によれば、乗車用ヘルメットの帽体に、ヘルメット側通信装置に接続されるループアンテナが内設されているので、帽体の形状を利用して通信アンテナの送受信強度を高めることができるようになる。これにより、車体側通信装置との無線通信の信頼性をより高めることが可能となる。
【0016】
第4の発明によれば、車体側通信装置とヘルメット側通信装置との通信可能範囲の外側に取り付けられる降車時用の車体側通信装置を具備し、制御部は、降車時用の車体側通信装置がヘルメット側通信装置から発信される自動二輪車に固有の識別コードを含む信号を受信して前記識別コードが正しく照合されると、動力源の始動を禁止するように構成されているので、降車時用の車体側通信装置の通信範囲内に乗車用ヘルメットを配設することにより、乗車用ヘルメットを車体に残して降車した際にも自動二輪車の盗難防止効果を得ることが可能となる。
【0017】
第5の発明によれば、車体側通信装置は、乗車用ヘルメットを着用した乗員が乗車した際にヘルメット側通信装置と通信可能な位置に取り付けられ、降車時用の車体側通信装置は、車体に設けられる収容位置に乗車用ヘルメットを配設した際にヘルメット側通信装置と通信可能な位置に取り付けられているので、乗車時にはヘルメットの着用を促すことができると共に、ヘルメットホルダやラゲッジボックスのような収容位置に乗車用ヘルメットを収容して降車する際にも、自動二輪車の盗難防止効果を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両用盗難防止装置を適用した自動二輪車1の側面図である。自動二輪車1の車体フレーム2の前方には、前輪WFが回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク3が、ハンドル4によって操舵可能に軸支されている。ハンドル4の前方には、メータユニット6が取り付けられた風防装置としてのフロントカウル5が配設されている。車体フレーム2には、自動二輪車1の動力源としてのエンジン8が載置され、その上方に燃料タンク7が配設されている。この燃料タンク7の後方には、乗員100が着座するシート10が取り付けられ、該シート10の下部にはリヤカウル11が配設されている。また、前記車体フレーム2の車体後方側には、駆動輪である後輪WRを回転自在に軸支するスイングアーム9が揺動自在に取り付けられている。
【0019】
本発明に係る車両用盗難防止装置は、乗員100が乗車時に着用するヘルメット30に内設されるヘルメット側通信装置としてのヘルメット側イモビライザユニット40と、ハンドル4の上部に取り付けられる車体側通信装置としての車体側イモビライザユニット50と、エンジン8の運転制御を行うエンジン制御部(図3参照)とから構成されている。本実施形態に係る車両用盗難防止装置では、乗員100がエンジン8を始動するために主電源としてのメインスイッチ(不図示)を操作すると、車体側イモビライザユニット50から通信電波が発信され、この通信電波を受信したヘルメット側イモビライザユニット40から応答信号が発信されるように構成されている。なお、車体側イモビライザユニット50は、車体側に設けられるキーシリンダと一体的に構成したり、フロントカウル5やメータユニット6の内部等に配設することができる。
【0020】
図2は、前記ヘルメット30の斜視図である。フルフェイス型のヘルメット30は、乗員100の頭部および顎部を覆う帽体31と、帽体31に開閉自在に取り付けられた無色または有色透明のシールド32とから構成されている。そして、帽体31の額部分には、前記自動二輪車1に固有の識別コードを記憶すると共に、前記車体側イモビライザユニット50に前記識別コードを含む応答信号を発信するヘルメット側イモビライザユニット40が内設されており、その周囲に通信用アンテナとしてのループアンテナ45が配設されている。なお、通信用アンテナは、ループアンテナ46のように帽体31の外周面に沿って巻回させる形状として、送受信強度をさらに高めるようにしてもよい。
【0021】
また、ヘルメットの帽体は、通常、樹脂等で形成される薄い外殻としてのシェルと、発泡スチロール等で形成される緩衝部材と、繊維等で形成される内装部材とから構成されており、ヘルメット側イモビライザユニット40およびループアンテナ45は、シェルや緩衝部材に埋設するように取り付けることができる。この構成によれば、ヘルメット側イモビライザユニット40に第三者がアクセスする可能性を大幅に低減することが可能となる。なお、ヘルメット側イモビライザユニット40には、充電池等による通信用の電源が備えられてもよい。
【0022】
図3は、本実施形態に係る車両用盗難防止装置の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。ヘルメット側イモビライザユニット40は、個々の車両を認識する識別コードしてのIDコードが収納されるIDコード記憶部41と、IDコードを含む応答信号をループアンテナ45を介して発信する送受信部42を含む。また、車体側イモビライザユニット50は、通信アンテナ53を介してヘルメット側イモビライザユニット40との無線通信を行う送受信部52と、受信信号に含まれるIDコードの照合を行って正規のIDコードであるか否かを判定するIDコード認証部51を含む。そして、このIDコード認証部51による照合結果が、エンジン8の運転制御を行うエンジン制御部12に伝達されることとなる。なお、車体側イモビライザユニット50は、エンジン制御部12と一体的に構成することも可能である。
【0023】
前記したように、本実施形態に係る車両用盗難防止装置では、乗員100が自動二輪車1のエンジン8を始動するために主電源としてのメインスイッチを操作すると、車体側イモビライザユニット50から通信電波が発信され、この通信電波を受信したヘルメット側イモビライザユニット40から、IDコードを含む応答信号が発信されるように構成されている。そして、前記IDコード認証部51において応答信号に含まれるIDコードが正規のIDコードであることが判定されると、前記エンジン制御部12に始動許可信号が発信されて、エンジン8の始動が可能な状態となる。また、前記IDコードの照合が正しく行われない場合には、エンジン制御部12が、主電源をオンに切り替えなかったり、点火装置や燃料噴射装置を駆動しないことで、エンジン8の始動が禁止されることとなる。
【0024】
また、ヘルメット側イモビライザユニット40と車体側イモビライザユニット50との通信可能範囲は、所定の範囲(例えば、半径2m)に設定されているので、ヘルメット30が前記所定の範囲内に存在しない場合は、エンジン8を始動できないこととなる。したがって、ヘルメット30を持って自動二輪車1から降車することで、乗員以外の第三者によるエンジン8の始動が防止されると共に、乗車時には乗員100にヘルメット30の着用を促すことが可能となる。また、小型なキーに比して大型なヘルメットに通信装置が内設されているので、通信装置をうっかり紛失してしまう可能性を低減することが可能となる。なお、IDコード記憶部41に収納されるIDコードの設定には、施錠または開錠されるたびに異なるIDコードを使用することで、第三者によるIDコードの解読を防止するローリングコード方式を適用することができる。
【0025】
図4は、本発明の第2実施形態に係る車両用盗難防止装置を適用した自動二輪車1の斜視図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。本実施形態では、ハンドル4の近傍に取り付けられる車体側イモビライザユニット50のほかに、降車時用の車体側イモビライザユニット60が設けられている点に特徴がある。本実施形態に係る降車時用の車体側イモビライザユニット60は、シート10の下部に配設されており、ヘルメットホルダ13を使用することでヘルメット30が所定の収容位置に配設されると、ヘルメット30内のヘルメット側イモビライザユニット(不図示)との通信が可能となる。そして、降車時用の車体側イモビライザユニット60は、ヘルメット30からの応答信号に含まれるIDコードが正しく照合されると、前記エンジン制御部12(図3参照)にエンジン8の始動を禁止する信号を伝達するように構成されている。
【0026】
上記したような構成により、乗員がヘルメット30を着用して乗車する際には、車体側イモビライザユニット50の通信可能範囲50aにヘルメット30が存在することでエンジン8の始動が可能になると共に、ヘルメット30を車体に固定して降車する際には、降車時用の車体側イモビライザユニット60の通信可能範囲60aにヘルメット30が存在することでエンジン8の始動が禁止されることとなる。すなわち、ヘルメット30を車体に固定して降車した場合でも、エンジンの始動が禁止されて高い盗難防止効果を得ることが可能となる。なお、通信可能範囲50a,60aは、互いに干渉しない範囲で任意に設定できる。
【0027】
図5は、本発明の第2実施形態の変形例に係る車両用盗難防止装置を適用した自動二輪車70の側面図である。スクータ型の自動二輪車70には、車両前方側を軸として開閉可能なシート71の下部に、ヘルメット38,39等の荷物を収容可能なラゲッジスペース72が形成されている。そして、前記した降車時用の車体側イモビライザユニット60を車体内部に配設することにより、自動二輪車1からの降車時にヘルメット38やヘルメット39を図示するような所定の収容位置に収容した際には、ヘルメット側イモビライザユニット(不図示)との無線通信が行われて、エンジンの始動を禁止することが可能となる。
【0028】
図6は、本発明の第3実施形態に係る車両用盗難防止装置に使用されるヘルメットの斜視図である。ヘルメット側イモビライザユニット40は、前記したフルフェイス型のほか、ジェット型やハーフ型ヘルメットに内設してもよい。本実施形態では、ジェット型とされるヘルメット35の帽体の後頭部部分に、施錠可能な開閉式リッド36を有する収納スペース37が設けられており、ここにヘルメット側イモビライザユニット40が着脱可能に収納されている。このような構成によれば、新調等でヘルメットを取り替える場合にも、ヘルメット側イモビライザユニット40を移設することで同様のイモビライザ機能が得られるようになる。なお、収納スペース37は、ヘルメット側イモビライザユニット40をヘルメット35の内装部材側から着脱できるように形成してもよい。
【0029】
なお、上記したような車両用盗難防止装置は、鞍乗り型車両であるATVや、動力源をモータとする電気自動車等の種々の車両に適用可能である。また、ヘルメット側および車体側イモビライザユニットの配設位置は、ヘルメットおよび車両の形態に合わせて種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用盗難防止装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図2】本実施形態に係る車両用盗難防止装置を適用したヘルメットの斜視図である。
【図3】本実施形態に係る車両用盗難防止装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る車両用盗難防止装置を適用した自動二輪車の斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態の変形例に係る車両用盗難防止装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る車両用盗難防止装置を適用したヘルメットの斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1…自動二輪車、8…エンジン(動力源)、12…エンジン制御部(制御部)、30…ヘルメット、40…ヘルメット側イモビライザユニット(ヘルメット側通信装置)、41…IDコード記憶部、42…送受信部、45…ループアンテナ(通信アンテナ)、50…車体側イモビライザユニット(車体側通信装置)、51…IDコード認証部、52…送受信部、53…通信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車の車体に取り付けられる車体側通信装置と、
乗車用ヘルメットに取り付けられるヘルメット側通信装置と、
前記自動二輪車の動力源を運転制御する制御部とを具備し、
前記車体側通信装置は、前記ヘルメット側通信装置から発信される前記自動二輪車に固有の識別コードを含む信号を受信し、
前記制御部は、前記識別コードが正しく照合されることにより前記動力源の始動を許可するように構成されていることを特徴とする車両用盗難防止装置。
【請求項2】
前記ヘルメット側通信装置は、前記乗車用ヘルメットの帽体に内設されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用盗難防止装置。
【請求項3】
前記乗車用ヘルメットの帽体に、前記ヘルメット側通信装置に接続されるループアンテナが内設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用盗難防止装置。
【請求項4】
前記車体側通信装置とヘルメット側通信装置との通信可能範囲の外側に取り付けられる降車時用の車体側通信装置を具備し、
前記制御部は、前記降車時用の車体側通信装置が前記ヘルメット側通信装置から発信される前記自動二輪車に固有の識別コードを含む信号を受信して前記識別コードが正しく照合されると、前記動力源の始動を禁止するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用盗難防止装置。
【請求項5】
前記車体側通信装置は、前記乗車用ヘルメットを着用した乗員が乗車した際に前記ヘルメット側通信装置と通信可能な位置に取り付けられ、
前記降車時用の車体側通信装置は、前記車体に設けられる収容位置に前記乗車用ヘルメットを配設した際に前記ヘルメット側通信装置と通信可能な位置に取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載の車両用盗難防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−179274(P2008−179274A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14939(P2007−14939)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】