説明

車両用空調システム

【課題】車両を電動駆動するための機器から周囲環境への放熱が抑制され、機器から吸収した熱の車室内空気への放出を効率的に行うことができる車両用空調システムの提供。
【解決手段】車両用空調システムは、冷媒40を圧縮する圧縮機1、および冷媒40と外気との熱交換を行う室外熱交換器2を有して車室内空気の温度調節を行う空調装置と、車両50を電動駆動するための機器であるモータ53,インバータ54と室内熱交換器7Bとの間で機器冷却媒体41Bを循環させて、モータ53,インバータ54から吸収した熱を室内熱交換器7Bにおいて車室内空気へと放出する機器冷却回路91Bと、を備え、さらに、モータ53,インバータ54から周囲環境への放熱を抑制する放熱抑制手段としての仕切り板60を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車において、車両に搭載されるモータやインバータ等の発熱体から発生する熱を空調に利用するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、車室内の暖房を行う際に、発熱体で暖められた冷却水を車室内空調用熱交換器に流入させて、サブの暖房用熱交換器として機能させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4285292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、モータやインバータ等の発熱体は金属の筐体で覆われていて、外気に対して放熱するような構成となっている。そのため、発熱体の熱が無駄に放熱されてしまって、車室内暖房に効率良く利用されていないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、第1の冷媒を圧縮する圧縮機、および第1の冷媒と外気との熱交換を行う第1の熱交換器を有して車室内空気の温度調節を行う空調装置と、車両を電動駆動するための機器と第2の熱交換器との間で第2の冷媒を循環させて、機器から吸収した熱を第2の熱交換器において車室内空気へと放出する機器冷却装置と、を備えた車両用空調システムであって、機器から周囲環境への放熱を抑制する放熱抑制手段を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、放熱抑制手段は、機器を覆う断熱部材であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、放熱抑制手段は、第1の熱交換器と機器との間に設けられ、第1の熱交換器を通過した外気から機器を遮蔽する遮蔽部材であることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項3に記載の車両用空調システムにおいて、遮蔽部材は第1の熱交換器を収納するダクトであって、ダクトは、第1の熱交換器を通過した外気を機器へ導くための第1の通路と、第1の熱交換器を通過した外気を車両外部へ排出するための第2の通路と、第1の熱交換器を通過した外気を第1および第2の通路のいずれか一方へ切り換えて配風する配風手段とを備えることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、車両を電動駆動するための機器は複数の機器から成り、放熱抑制手段として、発熱量のより大きな機器ほど第2の冷媒の流れに対してより下流とし、かつ、発熱量の最も大きな機器を第2の熱交換器の近傍に設ける配置構成を備えたことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用空調システムにおいて、第1の冷媒と第2の冷媒との間で熱交換する第3の熱交換器を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、機器から周囲環境への放熱が抑制され、機器から吸収した熱の車室内空気への放出を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による車両用空調システムの概略構成を示す図である。
【図2】冷房運転時の動作を説明する図である。
【図3】除霜運転時の動作を説明する図である。
【図4】放熱抑制構造の第1の例を示す図である。
【図5】放熱抑制構造の第2の例を示す図である。
【図6】放熱抑制構造の第3の例を示す図である。
【図7】放熱抑制構造の第4の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下では、本発明の車両用空調システムを電気自動車に適用した一実施の形態を説明する。なお、本発明は電気自動車に限定されず、ハイブリッド自動車、あるいは電気鉄道や建設車両などの電動車両に対しても適用することができる。また、この一実施の形態ではインバータにより駆動される交流モータを例に挙げて説明するが、本発明は交流モータに限定されず、例えばサイリスタレオナード装置などのコンバータにより駆動される直流モータ、あるいはチョッパ電源により駆動されるパルスモータなど、あらゆる種類の回転電機(モータ・ジェネレータ)に適用することができる。
【0009】
図1は本発明による車両用空調システムの概略構成を示す図である。図1に示す車両用空調システムは、冷媒40が流れる冷凍サイクル回路90と、室内熱交換器7Aと冷凍サイクル回路90を空調用冷却媒体41Aで接続する空調用回路91Aと、室内熱交換器7Bと発熱体9と冷凍サイクル回路90とを機器冷却媒体41Bで接続する機器冷却回路91Bとを備えている。
【0010】
冷凍サイクル回路90には、冷媒40を圧縮する圧縮機1、冷媒40と外気との熱交換を行う室外熱交換器2、液配管12、および空調用回路91A内の空調用冷却媒体41Aと熱交換を行う空調用熱交換器4Aが環状に接続されている。圧縮機1の吸込配管11と吐出配管10との間には、四方弁20が設けられている。四方弁20を切り換えることにより、吸込配管11および吐出配管10のいずれか一方を室外熱交換器2に接続し、他方を空調用熱交換器4Aに接続することができる。図1は,暖房運転時を示しており,四方弁20は,吐出配管10を空調用熱交換器4Aに接続し,吸込配管11を室外熱交換器2に接続している。
【0011】
冷凍サイクル回路90の冷媒40と機器冷却媒体41Bとの間で熱交換を行う冷却用熱交換器4Bは、一端が液配管12に接続されており、他端が三方弁21を介して圧縮機1の吐出配管10および吸込配管11のいずれか一方に切り換え可能に接続されている。液配管12には、レシーバ24が設けられている。液配管12上のレシーバ24と室外熱交換器2との間、空調用熱交換器4Aとレシーバ24との間、および冷却用熱交換器4Bとレシーバ24との間には、流量制御手段として作用する膨張弁23,22A,22Bが設けられている。また、室外熱交換器2には外気送風用の室外ファン3が備えられている。
【0012】
空調用回路91Aには、室内ファン8により車室内へ吹き出される空気との熱交換を行う室内熱交換器7A、空調用冷却媒体41Aを循環させる循環ポンプ5A、および空調用熱交換器4Aが、順に環状に接続されている。
【0013】
機器冷却回路91Bは、室内熱交換器7Aから流出された空気と熱交換する室内熱交換器7B、リザーバタンク6、機器冷却媒体41Bを循環させる循環ポンプ5B、冷却用熱交換器4B、およびモータ、インバータ、バッテリ等の発熱体9が順に環状に接続されている。また、機器冷却回路91Bには、室内熱交換器7Bの両端をバイパスするバイパス回路30が設けられている。バイパス回路30には二方弁25が設けられ、室内熱交換器7Bを通る主回路31には二方弁26が設けられている。これらの二方弁25,26の開閉動作により、機器冷却媒体41Bの流路を任意に構成することが可能となっている。
【0014】
(暖房運転)
本実施の形態では、暖房運転時に発熱体9の排熱を車室内暖房に利用する。この場合、暖房負荷が小さい時には、冷凍サイクル回路90を利用せずに発熱体9の排熱により暖房を行い、発熱体9の排熱だけでは暖房負荷に満たない場合には、冷凍サイクル回路90を併用する。
【0015】
発熱体9の排熱のみにより暖房を行う場合には、循環ポンプ5Bと室内ファン8を起動し、かつ二方弁26を開いて室内熱交換器7Bに機器冷却媒体41Bを導入する。機器冷却媒体41Bは発熱体9によって加熱されているので、室内熱交換器7Bにおいて室内吹出し空気へ放熱することによって、機器冷却媒体41Bは冷却され、室内吹出し空気が加熱される。
【0016】
一方、発熱体9からの排熱だけでは暖房負荷に満たない場合には、冷凍サイクル回路90を併用する。この場合、四方弁20が実線で示すように切り換えられ、圧縮機1の吐出配管10は空調用熱交換器4Aに接続され、吸込配管11は室外熱交換器2に接続される。すなわち、空調用熱交換器41Aを凝縮器、室外熱交換器2を蒸発器とするサイクルが形成される。
【0017】
圧縮機1で圧縮された冷媒40は、空調用熱交換器4Aで空調用冷却媒体41Aへ放熱することによって凝縮液化する。その後、膨張弁23で減圧された後、室外熱交換器2において室外空気との熱交換によって蒸発・ガス化して圧縮機1へと戻る。なお、膨張弁22Aは全開、膨張弁22Bは全閉となっており、冷却用熱交換器4Bは利用しない。
【0018】
循環ポンプ5Aを起動することにより、空調用熱交換器4Aで冷媒40の凝縮熱をもらって昇温された空調用冷却媒体41Aは室内熱交換器7Aへ流入し、室内熱交換器7Aにおいて室内吹出し空気へ放熱する。室内熱交換器7Aで加熱された空気は、空気の流れの下流側に配置された室内熱交換器7Bにおいて、発熱体9によって加熱された機器冷却媒体41Bから熱をもらい、さらに昇温されてから室内空間へ吹き出される。
【0019】
このように、室内吹出し空気は、冷凍サイクル回路90によって加熱された後に、発熱体9の排熱でさらに加熱される構成となっている。そのため、室内熱交換器7Aからの吹出し空気温度を、室内熱交換器7Bからの室内吹出し空気温度に対して低く保つことができる。すなわち、発熱体9からの排熱を暖房に利用することによって、エネルギー消費の少ない空調装置を構成することができる。
【0020】
(除霜運転)
ところで、室外熱交換器2を蒸発器として用いる運転を継続すると、熱交換器の表面に霜が成長する場合があるので、霜を融かす除霜運転を行う必要がある。除霜運転時には、四方弁20および三方弁21を図3の実線で示すように切換える。そして、膨張弁22Aを全閉とし、室外熱交換器2を凝縮器、冷却用熱交換器4Bを蒸発器とするサイクルを形成する。一方、二方弁26を閉じて主回路31への流れを遮断し、バイパス回路30へ機器冷却媒体41Bを流す。
【0021】
空調用熱交換器4Aを蒸発器として利用すると、車室内に吹き出される空気の温度が低下しやすくなる。そこで、発熱体9からの排熱を熱源として利用することで、車室内の温度低下を防止するようにした。また、車室内へ吹き出される空気を熱源とする場合には、熱量が不足して除霜時間が長くなる可能性があるが、発熱体9が接続されて温度が高く保たれている機器冷却媒体41Bを除霜用の熱源として利用できるので、除霜用の熱源を確保することができ、除霜時間を短縮できるメリットが得られる。なお、除霜運転中は室内ファン8の風量を抑制もしくは停止することで、吹出し温度の低下を抑制することができる。
【0022】
(冷房運転)
図2は、冷房運転時の動作を説明する図である。ここで冷房運転とは、室外熱交換器2を凝縮器、空調用熱交換器4Aと冷却用熱交換器4Bを蒸発器として用いて、空調用回路91Aと機器冷却回路91Bを共に冷却可能とした運転モードであり、四方弁20を実線で示す状態とする。
【0023】
圧縮機1で圧縮された冷媒40は、室外熱交換器2で放熱することによって液化した後、レシーバ24によって空調用熱交換器4Aへ流れる冷媒と冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒とに分岐される。空調用熱交換器4Aに流れる冷媒は、減圧手段22Aで減圧されて低温・低圧となり、空調用熱交換器4Aにおいて空調用回路91Aの空調用冷却媒体41Aから吸熱することによって蒸発し、四方弁20を通って圧縮機1へ戻る。一方、冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒は、減圧手段22Bで減圧されて低温・低圧となり、冷却用熱交換器4Bにおいて機器冷却回路91Bの機器冷却媒体41Bから吸熱することによって蒸発し、三方弁21を通って圧縮機1へと戻る。
【0024】
空調用回路91Aに設けられた循環ポンプ5Aを駆動すると、空調用熱交換器4Aで冷却された空調用冷却媒体41Aが室内熱交換器7Aに供給される。そして、室内ファン8を駆動すると、室内熱交換器7Aで熱交換して冷却された空気が車室内へ吹き出される。また、機器冷却回路91Bに設けられた循環ポンプ5Bを駆動すると、発熱体9によって加熱された機器冷却媒体41Bが、冷却用熱交換器4Bにおける熱交換によって冷却される。なお、冷房運転時には主回路31の二方弁26は閉じられ、温度の高い機器冷却媒体41Bはバイパス回路30を流れる。
【0025】
このように、空調用熱交換器4Aおよび冷却用熱交換器4Bの両方を蒸発器として利用できるので、車室内の冷房と発熱体9の冷却とを同時に実現することができる。さらに、空調用熱交換器4Aと冷却用熱交換器4Bとを圧縮機1の吸込配管11に対して並列に接続し、それぞれの冷媒回路に膨張弁22A,22Bを設けているので、空調用熱交換器4Aおよび冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒流量を、それぞれ任意に変えることができる。その結果、機器冷却媒体41Bの温度と空調用冷却媒体41Aの温度とを、それぞれ任意の所望の温度に制御することができる。したがって、冷房を行うために空調用冷却媒体41Aの温度を十分下げた場合であっても、冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒流量を抑制することで、発熱体9が接続された機器冷却媒体41Bの温度を高く保つことができる。
【0026】
ところで、図1に示した機器回路91Bにおいて、発熱体9の排熱を効率よく利用するためには、温度の高い発熱体9から周囲へ逃げる熱、および発熱体9から室内熱交換器7Bまでの冷媒用配管から周囲へ逃げる熱を極力抑える必要がある。そこで、以下では、発熱体9および冷媒用配管から周囲への放熱を抑制するための構造について説明する。
【0027】
[第1の放熱抑制構造]
図4は、放熱抑制構造の第1の例を示す図であり、電気自動車に適用した場合を示す。図4は車両50のフロント部に駆動用のモータ53を搭載する場合の、各機器の配置を模式的に示したものである。車両50の空間51Aは、従来のエンジン自動車のエンジンルームに相当する空間である。以下では、この空間51Aのことをモータ収容室と称し、空間51Bを車室と称することにする。
【0028】
図1に示した各機器において、室内熱交換器7A,7Bおよび室内ファン8を除く他の機器は図2のモータ収容室51A内に配置される。図4では、それらの主要機器であるモータ53、モータ53を駆動制御するためのインバータ54、冷却ユニット52、室外熱交換器2、室外ファン3を図示した。冷却ユニット52には、図1に示した冷凍サイクル回路90に設けられた機器(圧縮機1、熱交換器4A,4B、弁20,21など)や、回路91A,91Bに設けられたポンプ5A,5Bなども含まれる。図1に示した室内熱交換器7A,7Bおよび室内ファン8は車室51B内に配置される。なお、図4では、室内熱交換器7Aおよび室内ファン8の図示を省略した。図4では、モータ53およびインバータ54が図1の発熱体9に対応している。
【0029】
図4に示すように、室外熱交換器2および室外ファン3は、外気との熱交換が効率良く行えるようにモータ収容室51Aの最前部(図示左側)に配置される。そして、冷却ユニット52やモータ53、インバータ54等は、室外熱交換器2および室外ファン3の後方に配置される。そのため、車両走行や室外ファン3による風61は、室外熱交換器2を通過した後、その後方に配置された冷却ユニット52、モータ53、インバータ54、配管55等に吹き付けられることになる。
【0030】
一般的に、モータ53やインバータ54は、温度が高くなるのを防止するために、金属製の筐体から周囲の空気に放熱するような構造となっている。そのため、機器冷却媒体41Bで冷却する構造を採用していても、筐体から直接接触している周囲空気に熱が放熱されることになる。また、温度の高い機器冷却媒体41Bが流れる配管55からも、放熱によって周囲空気に熱が無駄に逃げてしまっている。
【0031】
そのため、モータ53、インバータ54および配管55からの放熱量が大きくなり、発熱体であるモータ53およびインバータ54から発生する熱の車室内暖房への効率的な利用が阻害される。特に、暖房運転時には室外熱交換器2は蒸発器として機能するため、外気は室外熱交換器2によって冷却され、外気よりも温度の低い風がモータ53、インバータ54および配管55に吹き付けられることになる。
【0032】
そこで、第1の放熱抑制構造においては、図4に示すように冷却ユニット52と室外ファン8との間に仕切り板60を配置して、室外熱交換器2を通過した風61が冷却ユニット52,モータ53、インバータ54、配管55に吹き付けられないような構造とした。室外熱交換器2を通過した風61は、仕切り板60に沿って斜め右下に流れ、モータ収容室51Aの底面部分から車両外部へと排出される。その結果、モータ53、インバータ54および配管55からの放熱量が抑制され、排熱の利用効率の向上を図ることができるので、冷凍サイクルによる暖房の消費電力を低減することができる。
【0033】
[第2の放熱抑制構造]
図5は、放熱抑制構造の第2の例を示す図である。上述した第1の放熱抑制構造では、室外熱交換器2を通過した風61の流れを仕切り板60で変えることにより、風61が発熱体であるモータ53、インバータ54や配管55に吹き付けられるのを防止するようにした。一方、図5に示す放熱抑制構造では、モータ収容空間51Aに室外熱交換器2と室外ファン3とを収納するダクト70を設けて、風61が発熱体であるモータ53、インバータ54や配管55に吹き付けられるのを防止するようにした。
【0034】
ダクト70には、室外熱交換器2を通過した風を発熱体であるモータ53やインバータ54や駆動用バッテリ(不図示)に導く冷却用ダクト70aと、車外に排出する排出用ダクト70bが設けられている。各ダクト70a,70bには、風量調整用の扉であるダンパ71,72が備えられている。なお、図5における構成では、室外ファン73としてプロペラファンの代わりに多翼ファン(シロッコファン)が用いられている。円筒状の多翼ファンを用いることでダクト70の奥行き寸法(車両前後方向寸法)を小さく抑えることができる。
【0035】
暖房運転時には、冷却用ダクト70aのダンパ71を閉じ、排出用ダクト70bのダンパ72を開く。その結果、室外熱交換器2を通過した風61は排出用ダクト70bを通って車外に排出され、モータ53、インバータ54および配管55に吹き付けられることはない。したがって、モータ53およびインバータ54からの放熱が抑制され、それらの排熱を効率よく利用することができる。
【0036】
なお、夏季のように外気温が高い場合には、発熱体の温度が上がりすぎないようにさらなる冷却が必要となる。このような場合には、図5に示すようにダンパ72を閉じると共にダンパ71を開き、室外ファン73からの風を発熱体に吹き付けて、それらの放熱を向上させる。前述したように、冷房運転時には、発熱体を冷却するための機器冷却媒体41Bは、冷却用熱交換機4Bにおいて冷凍サイクル回路90の冷媒40によって冷却される。そのため、図5のように室外ファン73からの風により発熱体を冷却するようにすれば、冷凍サイクル回路90における冷却負荷を抑制することができ、消費電力の低減を図ることができる。
【0037】
また、前述した除霜運転時に室外熱交換器2に風61が流れると、室外熱交換器2の温度が上がり難くなって霜が溶け難くなる。そこで、除霜運転時には、室外ファン73を停止するとともにダンパ71,72を閉じて、風61が流れ難くなるようにする。
【0038】
[第3の放熱抑制構造]
図6は、放熱抑制構造の第3の例を示す図である。上述した第1および2の放熱抑制構造では、仕切り板60やダクト70を設けることにより、室外熱交換器2を通過した風61が発熱体であるモータ53、インバータ54および配管55に吹き付けられるのを防止して、それらからの放熱量を低減するようにした。
【0039】
ところで、モータ53やインバータ54は、前述したように金属製の筐体から周囲空気に放熱するような構造となっているため、モータ53やインバータ54に室外熱交換器2を通過した風61が当たらないような構造であっても、周囲の空気に熱が逃げてしまっている。そこで、第3の放熱抑制構造においては、発熱体であるモータ53およびインバータ54と、温度の高い機器冷却媒体41Bが流れる配管55とを、放熱抑制用の筐体56内に収納し、発熱体からモータ収容室51A内の空気へ逃げる熱を低減するようにした。
【0040】
このような筐体56を設けることで、モータ53、インバータ54および配管55は室外熱交換器2を通過した風61に曝されることが無く、図2に示した仕切り板61の場合と同様の効果を奏することができる。さらに、モータ53、インバータ54および配管55の周囲の空気とモータ収容室51A内の空気とは筐体56によって仕切られているので、筐体56内の空気からモータ収容室51A内の空気への熱移動は、筐体56を介した熱伝導に限られる。そのため、図2のようにモータ収容室51A内に露出して配置される場合に比べ、モータ53、インバータ54および配管55からの放熱を低減することができる。
【0041】
筐体56の材料としては断熱材が好ましいが、金属であっても構わない。また、筐体56を二重壁とすることにより、金属材料であっても充分な断熱効果を得ることが可能となる。
【0042】
なお、図3では、モータ53、インバータ54および配管55の全体を一つの筐体56内に収納したが、個々の機器毎に断熱材の筐体で囲うようにしても良いし、断熱材で各機器の表面を覆うようにしても良い。また、筐体56のような筐体構造ではなく、断熱材(例えば樹脂等)を各機器の表面にコーティングし、断熱材による層をモータ53、インバータ54および配管55の表面に形成するようにしても良い。さらには、これらの断熱構造と、上述した仕切り板60等とを同時に採用してもよい。
【0043】
[第4の放熱抑制構造]
図7は、放熱抑制構造の第4の例を示す図である。第4の放熱抑制構造においては、機器冷却回路91Bに設けられている各機器の配置を工夫することにより、温度の高い機器冷却媒体41Bが流れる配管の長さを短くし、配管からの放熱を抑制するようにした。なお、図7では、ダクト70を設けて室外ファンからの風がモータ53等に当たらない構成としているが、ダクト70や仕切り板60を設けない構成であっても良い。
【0044】
図7に示すような各機器の配置は、以下のような指針に基づいて決定される。
(1)機器冷却媒体41Bの流れに沿って、循環ポンプ5B、冷却用熱交換器4B、発熱体、室内熱交換器7Bの順に接続する。
(2)機器冷却媒体41Bの出口が最も高い位置にある機器を、循環ポンプ5Bと室内熱交換器7Bとの間の最も下流側、すなわち、室内熱交換器7Bの近くに配置する。
(3)発熱量の最も大きい機器を、循環ポンプ5Bと室内熱交換器7Bとの間の最下流に配置する。
(4)循環ポンプ5Bを発熱体よりも車両前方側に配置する。
【0045】
指針(1)は次のような理由から決められたものである。リザーバタンク6の機能から考えると、リザーバタンク6は循環ポンプ5Bの吸い込み側に設けるのが好ましい。さらに、リザーバタンク6は、機器冷却回路91B内において最も高い位置に配置する必要があり、一方、機器冷却媒体41Bを循環させるための循環ポンプ5Bは、最も低い位置に設けるのが好ましい。車室51B内に設けられた室内熱交換器7Bへの配管を通す連通穴81は、モータ収容室51Aの比較的高い位置に設けられている。そこで、リザーバタンク6を室内熱交換器7Bの下流側に設けることで、リザーバタンク6が高い位置に配置されるとともに、配管を短くすることができる。
【0046】
例えば、リザーバタンク6を室内熱交換器7Bの下流側に配置せず、冷却用熱交換器4B、リザーバタンク6、循環ポンプ5Bの順に接続した場合を考える。この場合、比較的に重量が大きい冷却用熱交換器4Bは低い位置に設けるのが好ましいので、配管は低い位置の冷却用熱交換器4Bからいったん高位置のリザーバタンク6に引き回され、その後、再び低位置の循環ポンプ5Bに引き回されることになり、配管が長くなって配管からの放熱が大きくなってしまう。
【0047】
指針(2)に関しては、上述したように室内熱交換器7Bに関する連通孔81は比較的高い位置に設けられているので、冷媒出口が高い位置にある機器を最も下流側、すなわち室内熱交換器7Bの上流側に接続すると、その機器と室内熱交換器7Bとの間の配管を短くすることができる。本実施の形態の場合、サイズの大きなモータ53が室内熱交換器7Bの上流側に接続されることになる。室内熱交換器7Bの上流側の配管には温度の高い機器冷却媒体41Bが流れるので、この配管を短くすることで、放熱量の低減を図ることができる。
【0048】
指針(3)は次のような理由による。機器から流出する機器冷却媒体41Bの温度は、機器の発熱量が大きいほど高くなる。そのため、発熱量が最も大きい機器を最下流に配置することで、最も高温の機器冷却媒体41Bが流れる配管の長さを短くすることができる。このような配置とした場合、その機器の上流側の配管が長くなるが、機器上流側においては冷媒温度を比較的低く保つことができるので、配管からの放熱をトータルで低減することができる。
【0049】
また、指針(3)に加えて指針(4)も考慮すると、低位置に配置される循環ポンプ5Bから高位置の室内熱交換器7Bまでの間に、発熱体が直列に並ぶように配置されることになる。すなわち、配管が車両前後方向に逆戻りするのを避けることができ、温度の高い機器冷却媒体41Bが流れる配管の長さを全体的に短くすることができる。なお、このような配置とした場合、リザーバタンク6から循環ポンプ5Bまでの配管長さが比較的長くなるが、この配管中には室内熱交換器7Bで放熱した後の機器冷却媒体41Bが流れるので、冷媒温度が比較的低く熱損失への影響が小さい。
【0050】
図7における各コンポーネントの配置は上述した指針(1)〜(4)に従って構成されたものであり、貫通孔81に近い最も高い位置に配置されたリザーバタンク6から、機器冷却回路91Bの最も車両前方側に配置された循環ポンプ5Bへと配管が接続されている。循環ポンプ5Bの下流側には冷却用熱交換器4Bが接続されている。冷却用熱交換器4Bは循環ポンプ5Bと同様に低い位置に配置されており、その冷却用熱交換器4Bから高位置の室内熱交換器7Bまでの間に、複数の発熱体が発熱量の小さなものから順に配置されている。
【0051】
なお、上述した実施の形態では発熱体としての駆動用バッテリ80の図示を省略したが、図7に示す例では、発熱体としてモータ53およびインバータ54に加えて駆動用バッテリ80が設けられている。駆動用バッテリ80とインバータ54との間には二方弁V1が設けられ、さらに二方弁V2が設けられたバイパス回路82が駆動用バッテリ80と並列に設けられている。通常は二方弁V1を閉じると共に二方弁V2を開いて、駆動用バッテリ80をバイパスするように機器冷却媒体41Bを流す。充電時には駆動用バッテリ80の温度が上昇するので、二方弁V1を開くと共に二方弁V2を閉じて、機器冷却媒体41Bにより駆動用バッテリ80を冷却し、その熱を車室暖房に利用する。もちろん充電時以外であっても、バッテリ温度が駆動用バッテリ80の許容温度を越えそうな場合には冷却を行う。
【0052】
ところで、図7に示した駆動用バッテリ80は、バッテリ温度が50〜60℃のときに最も効率よく動作する。一方、特に冬季のように外気温が著しく低い場合には、車両起動してからもバッテリ温度が低い状態がある程度続き、駆動用バッテリ80の能力を最大限に引き出せない場合がある。そこで、機器冷却回路91Bにヒータを設けて、冷却機器冷却媒体41Bの温度が低すぎる場合に、そのヒータで冷却機器冷却媒体41Bを加熱して最適な温度に上昇させるようにしても良い。その場合、リザーバタンク6にヒータを設けるのが、最も簡便で望ましい。ヒータを作動させることで、冷却機器冷却媒体41Bを最適温度まで素早く上昇させることで、起動直後から駆動用バッテリ80の能力を最大限利用することができる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の車両用空調システムは、冷媒40を圧縮する圧縮機1、および冷媒40と外気との熱交換を行う室外熱交換器2を有して車室内空気の温度調節を行う冷凍サイクル回路90および空調用回路91と、車両を電動駆動するための機器であるモータ53、インバータ54等と室内熱交換器7Bとの間で機器冷却媒体41Bを循環させて、機器から吸収した熱を室内熱交換器7Bにおいて車室内空気へと放出する機器冷却回路91Bと、を備える。そして、機器から周囲環境への放熱を抑制する放熱抑制手段として、機器を覆う断熱材で形成された筐体56を設けたり、室外熱交換器2を通過した風61から機器を遮蔽する遮蔽部材としての仕切り板60やダクト70を設けたり、図7に示すように、複数の機器(モータ53,インバータ54,駆動用バッテリ80)を、発熱量のより大きな機器ほど機器冷却媒体41Bの流れに対してより下流とし、かつ、発熱量の最も大きな機器を室内熱交換器7Bの近傍に設ける配置構成を備えるようにした。
【0054】
そのような放熱抑制手段を設けたことにより、発熱体(モータ53、インバータ54、駆動用バッテリ80)からの排熱を車室内空調に効率的に利用することができる。
【0055】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
1:圧縮機、2:室外熱交換器、3,73:室外ファン、4A:空調用熱交換器、4B:冷却用熱交換器、5A,5B:循環ポンプ、6:リザーバタンク、7A,7B:室内熱交換器、9:発熱体、40:冷媒、41A:空調用冷却媒体、41B:機器冷却媒体、50:車両、51B:車室、52:冷却ユニット、53:モータ、54:インバータ、55:配管、56:筐体、60:仕切り板、70,70a,70b:ダクト、71,72:ダンパ、90:冷凍サイクル回路、91A:空調用回路、91B:機器冷却回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の冷媒を圧縮する圧縮機、および前記第1の冷媒と外気との熱交換を行う第1の熱交換器を有して車室内空気の温度調節を行う空調装置と、
車両を電動駆動するための機器と第2の熱交換器との間で第2の冷媒を循環させて、前記機器から吸収した熱を前記第2の熱交換器において車室内空気へと放出する機器冷却装置と、を備えた車両用空調システムであって、
前記機器から周囲環境への放熱を抑制する放熱抑制手段を備えたことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、
前記放熱抑制手段は、前記機器を覆う断熱部材であることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、
前記放熱抑制手段は、前記第1の熱交換器と前記機器との間に設けられ、前記第1の熱交換器を通過した外気から前記機器を遮蔽する遮蔽部材であることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用空調システムにおいて、
前記遮蔽部材は前記第1の熱交換器を収納するダクトであって、
前記ダクトは、前記第1の熱交換器を通過した外気を前記機器へ導くための第1の通路と、前記第1の熱交換器を通過した外気を車両外部へ排出するための第2の通路と、前記第1の熱交換器を通過した外気を前記第1および第2の通路のいずれか一方へ切り換えて配風する配風手段とを備えることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、
前記車両を電動駆動するための機器は複数の機器から成り、
前記放熱抑制手段として、発熱量のより大きな機器ほど前記第2の冷媒の流れに対してより下流とし、かつ、発熱量の最も大きな機器を前記第2の熱交換器の近傍に設ける配置構成を備えたことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用空調システムにおいて、
前記第1の冷媒と前記第2の冷媒との間で熱交換する第3の熱交換器を備えたことを特徴とする車両用空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−105151(P2011−105151A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262529(P2009−262529)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】