説明

車両用自動変速機の油圧制御装置

【課題】油圧供給装置から油圧回路へ供給される作動油の油量を切り換えるための切換専用のソレノイド弁を必要とせず、油圧供給装置から油圧回路に供給される油量を切り換えることができる車両用自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】ポンプ駆動状態切換弁60は、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの油圧の出力によってクラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合位置にある場合に、ロックアップコントロールソレノイド弁82の油圧の出力によりクラッチ圧切換ソレノイド弁72の油圧の出力の有無に拘わらずクラッチ圧切換弁74の弁子74fが上記係合位置が保たれ、クラッチ圧切換ソレノイド72からの油圧の出力の有無を切り換えることによって、吐出ポート32aの連絡先をライン圧油路56または油路58に切り換え油圧供給装置32から油圧回路に供給される油量を切り換えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機の油圧制御装置に関し、特に、その油圧制御装置の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機の油圧制御装置には、例えば、特許文献1に示すような、独立した複数の吐出ポートを有する油圧供給装置が備えられ、その油圧供給装置の複数の吐出ポートのうち少なくとも1つの吐出ポートの連絡先をその吐出ポート以外の吐出ポートから吐出される油圧回路またはその油圧供給装置の吸入ポートに選択的に切り換えることによって、その油圧制御装置の油圧回路内に供給される油量が切り換えられるものがあり、特許文献1の油圧制御装置では、上記吐出ポートの連絡先が上記油圧供給装置に備えられた切換専用のソレノイド弁によって切り換えられている。
【特許文献1】特開平3−213773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述のような車両用自動変速機の油圧制御装置は、前記油圧供給装置から前記油圧回路に供給される油量が前記切換専用のソレノイド弁によって切り換えられるため、上記油圧制御装置を製造する際にその切換専用のソレノイド弁が必要となるという問題があった。
【0004】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、油圧供給装置から油圧回路へ供給される作動油の油量を切り換えるための切換専用のソレノイド弁を必要とせず、油圧供給装置から油圧回路に供給される油量を切り換えることができる車両用自動変速機の油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a1)独立した複数の吐出ポートを有する油圧供給装置と、(a2)その複数の吐出ポートのうち少なくとも1つの吐出ポートの連絡先をその吐出ポート以外の吐出ポートから吐出される油圧回路またはその油圧供給装置の吸入ポートに選択的に切り換えるポンプ駆動状態切換弁と、(a3)ロックアップクラッチの係合状態を変更するロックアップコントロールバルブと、(a4)そのロックアップコントロールバルブを制御するロックアップコントロールソレノイド弁と、(a5)クラッチ供給圧を、クラッチ圧調圧弁により調圧される係合過渡圧と、その係合過渡圧とは別系統で供給される係合圧とに切り換えるクラッチ圧切換弁と、(a6)そのクラッチ圧切換弁の弁子位置を前記係合過渡圧を供給するための係合過渡位置と前記係合圧を供給するための係合位置とに切り換えるための油圧を出力するクラッチ圧切換ソレノイド弁とを備える車両用自動変速機の油圧制御装置であって、(b) 前記クラッチ圧切換弁は、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁からの油圧の出力の有無により、前記係合位置または前記係合過渡位置に切り換えられ、(c) 前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換弁が前記係合過渡位置にある場合において、前記クラッチ圧切換弁を経由して供給された油圧により前記吐出ポートの連絡先が前記油圧回路となる位置にさせられ、(d) 前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換弁が係合位置にある場合において、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁から出力された油圧により前記吐出ポートの連絡先が前記油圧回路となる位置とされ、(e) 前記クラッチ圧切換弁は、そのクラッチ圧切換弁が係合位置にある場合において、前記ロックアップコントロールソレノイド弁からの油圧の出力が有る場合には、その油圧の出力により前記クラッチ圧切換ソレノイド弁の油圧の出力の有無に拘わらず前記係合位置に保たれ、(f) 前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁からの油圧の出力の有無によって、前記吐出ポートの連絡先を切り換えるものである。
【0006】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記クラッチ圧切換弁が前記係合過渡位置にある場合において、前記ロックアップコントロールソレノイド弁から油圧の出力の有無に拘わらず前記ロックアップクラッチを非係合状態に切り換える切換機構が備えられており、(b) 前記クラッチ圧切換弁には、その弁子の位置を前記係合過渡位置側へ常時付勢する付勢部材が備えられているものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、(b) 前記クラッチ圧切換弁は、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁からの油圧の出力の有無により、前記係合位置または前記係合過渡位置に切り換えられ、(c) 前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換弁が前記係合過渡位置にある場合において、前記クラッチ圧切換弁を経由して供給された油圧により前記吐出ポートの連絡先が前記油圧回路となる位置にさせられ、(d) 前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換弁が係合位置にある場合において、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁から出力された油圧により前記吐出ポートの連絡先が前記油圧回路となる位置とされ、(e) 前記クラッチ圧切換弁は、そのクラッチ圧切換弁が係合位置にある場合において、前記ロックアップコントロールソレノイド弁からの油圧の出力が有る場合には、その油圧の出力により前記クラッチ圧切換ソレノイド弁の油圧の出力の有無に拘わらず前記係合位置に保たれ、(f) 前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁からの油圧の出力の有無によって、前記吐出ポートの連絡先を切り換えるものであるため、ポンプ駆動状態切換弁は、前記ロックアップコントロールソレノイド弁からの油圧の出力によって前記クラッチ圧切換弁が前記係合位置にある場合において、その油圧の出力により前記クラッチ圧切換ソレノイドの油圧の出力の有無に拘わらず前記クラッチ圧切換弁が前記係合位置が保たれ、前記クラッチ圧切換ソレノイドからの油圧の出力の有無を切り換えることによって、前記吐出ポートの連絡先を切り換え前記油圧供給装置から前記油圧回路に供給される油量を切り換えることができる。そのため、油圧供給装置から油圧回路へ供給される作動油の油量を切り換えるための切換専用のソレノイド弁を必要とせず、油圧供給装置から油圧回路に供給される油量を切り換えることができる。
【0008】
請求項2に係る発明の車両用自動変速機の油圧制御装置によれば、(a) 前記クラッチ圧切換弁が前記係合過渡位置にある場合において、前記ロックアップコントロールソレノイド弁から油圧の出力の有無に拘わらず前記ロックアップクラッチを非係合状態に切り換える切換機構が備えられており、(b) 前記クラッチ圧切換弁には、その弁子の位置を前記係合過渡位置側へ常時付勢する付勢部材が備えられているため、前記ロックアップコントロールソレノイド弁が故障した場合たとえば油圧出力フェイルした場合、クラッチ圧切換弁は、そのロックアップコントロールソレノイド弁から出力される油圧によってロックアップクラッチが係合状態となり減速時または停車時にエンジンストールを発生させる。しかし、その後のエンジン起動操作時には、前記油圧回路内の圧が抜け前記付勢部材の付勢力により前記クラッチ圧切換弁の弁子の位置が前記係合過渡位置側に移動するとともに、前記切換機構によって前記ロックアップコントロールソレノイドから出力される油圧の出力の有無に拘わらず前記ロックアップクラッチが非係合状態に切り換えられるため、前記ロックアップコントロールソレノイド弁が故障たとえば油圧出力フェイルしてもエンジンが容易に起動させられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は簡略化されており、それら各部の寸法等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動源として用いられる内燃機関としてエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、トルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(自動変速機)18、減速歯車機構20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0011】
トルクコンバータ14は流体式伝動装置に相当し、エンジン12のクランク軸26に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸28を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ30が設けられ、それ等を一体的に連結して一体回転させることができるようになっている。上記ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ30を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ(油圧供給装置)32が設けられている。
【0012】
また、トルクコンバータ14はロックアップクラッチ30の係合側油室14aの油圧が高められ、ロックアップクラッチ30がトルクコンバータ14のフロントカバー14fに係合させられると、クランク軸26の回転がロックアップクラッチ30を介して直接タービン軸28に伝えられる。また、トルクコンバータ14はロックアップクラッチ30の解放側油室14bの油圧が高められるとロックアップクラッチ30がフロントカバー14fから離れ、ロックアップが解除される。
【0013】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸28はサンギヤ16sに連結され、無段変速機18の入力軸34はキャリア16cに連結されている。そして、キャリア16cとサンギヤ16sとの間に配設された前進用クラッチC1が係合させられると、前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸28が入力軸34に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。また、リングギヤ16rとハウジング36との間に配設された後進用ブレーキB1が係合させられるとともに上記前進用クラッチC1が開放されると、入力軸34はタービン軸28に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。
【0014】
無段変速機18は、自動変速機として機能するものであり、上記入力軸34と一体回転可能に設けられた有効径が可変のプライマリシーブ38と、出力軸40と一体回転可能に設けられた有効径が可変のセカンダリシーブ42と、それ等のプライマリシーブ38、セカンダリシーブ42に巻き掛けられた伝動ベルト44とを備えており、無段変速機18の入力軸34からプライマリシーブ38へ導入された動力を無段階に変速して、伝動ベルト44を介してセカンダリシーブ42から無段変速機18の出力軸40へ伝達する。
【0015】
プライマリシーブ38、セカンダリシーブ42はそれぞれV溝幅が可変で、油圧シリンダ38s、42sを備えて構成されており、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの油圧が変速比制御回路46(図2参照)によって制御されることにより、プライマリシーブ38、セカンダリシーブ42のV溝幅が変化して伝動ベルト44の掛かり径すなわち有効径が変更され、変速比γが連続的に変化させられる。
【0016】
図2は、上記無段変速機18の油圧制御装置48の全体構造を示すものであり、油圧制御装置48は、変速比制御回路46と、ポンプ駆動状態切換回路50と、クラッチ圧切換回路52と、ロックアップ制御回路54とにより構成されるものである。
【0017】
ポンプ駆動状態切換回路50は、図3に示すように、独立した複数(本実施例では2つ)の吐出ポート32aと吐出ポート32cとを有する3ギヤ配列型ギヤポンプであるオイルポンプ(油圧供給装置)32と、吐出ポート32aから吐出される作動油の連絡先をライン圧油路56(油圧供給系統)またはオイルポンプ32に備えられた吸入ポート32b,32dと連通する油路(油圧供給系統)58に切り換えるポンプ駆動状態切換弁60と、オイルポンプ32から汲み上げられたライン圧油路56内の作動油を第1ライン圧PL1に調圧するライン圧調圧弁62と、ライン圧制御用リニアソレノイドバルブSLSとを備え、構成されている。
【0018】
ライン圧調圧弁62は、リリーフ弁型の調圧弁であり、オイルポンプ32によって汲み上げられた作動油が供給される供給ポート62aと、その供給ポート62aに供給された作動油をリリーフするリリーフポート62bと、第1ライン圧PL1が供給されるフィードバックポート62cと、リニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSが供給されるパイロットポート62dとを備えており、図示されていない電子制御装置によりアクセル開度等に基づいて制御されるリニアソレノイドバルブSLSからの信号圧PSLSに応じて作動させられるスプール弁子63によってリリーフ量を調節して第1ライン圧PL1を調圧する。
【0019】
変速比制御回路46は、図4に示すように、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sのプライマリシーブ圧Ppriを調圧するプライマリシーブ圧調圧弁64と、プライマリシーブ圧制御用リニアソレノイドバルブSLPと、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sのセカンダリシーブ圧Psecを調圧するセカンダリシーブ圧調圧弁66とによって構成されている。
【0020】
プライマリシーブ圧調圧弁64は、減圧弁型の調圧弁であり、ライン圧調圧弁62により調圧された第1ライン圧PL1が供給されるライン圧供給ポート64aと、そのライン圧供給ポート64aに供給された作動油をドレンするドレンポート64bと、プライマリシーブ圧Ppriが供給されるフィードバックポート64cと、リニアソレノイドバルブSLPの信号圧PSLPが供給されるパイロットポート64dとを備え、前記電子制御装置からの指令に従って目標とする変速比γになるように制御されるリニアソレノイドバルブSLPの信号圧PSLPに応じて作動させられるスプール弁子65によってプライマリシーブ圧Ppriを調圧し、そのプライマリシーブ圧Ppriを油圧シリンダ38sに供給する。
【0021】
セカンダリシーブ圧調圧弁66は、減圧弁型の調圧弁であり、ライン圧調圧弁62により調圧された第1ライン圧PL1が供給されるライン圧供給ポート66aと、そのライン圧供給ポート66aに供給された作動油をドレンするドレンポート66bと、セカンダリシーブ圧Psecが供給されるフィードバックポート66cと、リニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSが供給されるパイロットポート66dとを備え、前記電子制御装置によりプライマリシーブ38とセカンダリシーブ42との間の伝動ベルト44に滑りを生じない必要且つ充分な圧となるように、リニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSに応じて作動させられるスプール弁子67によってセカンダリシーブ圧Psecを調圧し、そのセカンダリシーブ圧Psecを油圧シリンダ42sに供給する。
【0022】
クラッチ圧切換回路52は、図5に示すように、図示しないシフトレバーのレバー位置に応じて切り換えられるマニュアル弁68と、略一定値に調圧された第1モジュレータ圧PM1を元圧とするリニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSによって調圧して係合過渡圧として出力するクラッチ圧調圧弁70と、クラッチ圧調圧弁70により調圧された係合過渡圧と係合圧すなわち第1モジュレータ圧PM1とを、クラッチ圧切換ソレノイド弁72によって選択してマニュアル弁68に供給するクラッチ圧切換弁74とによって構成されている。クラッチ圧切換ソレノイド弁72は、作動油を排出するドレンポート72aと、第2モジュレータ圧PM2が供給される供給ポート72bと、前記電子制御装置によりクラッチ圧切換ソレノイド弁72の弁子の位置を切り換えることにより上記ドレンポート72a或いは供給ポート72bに択一的に連通させられる出力ポート72cとを有する三方弁である。
【0023】
クラッチ圧切換弁74は、第1モジュレータ圧PM1すなわち係合圧が供給されるモジュレータ圧供給ポート74aと、油路76を介してポンプ駆動状態切換弁60の第1供給ポート60aおよび後述するロックアップコントロールバルブ78の強制ロックアップ解除ポート78aと連通する出力ポート74bと、前記電子制御装置によりクラッチ圧切換ソレノイド弁72から出力される第2モジュレータ圧PM2が供給される信号圧室74cと、クラッチ圧調圧弁70により調圧された係合過渡圧を供給する供給ポート74dと、クラッチ圧切換弁74から係合過渡圧または第1モジュレータ圧PM1である係合圧をマニュアル弁68の供給ポート68aに出力する出力ポート74eとを備えている。
【0024】
クラッチ圧切換ソレノイド弁72から信号圧室74cに第2モジュレータ圧PM2が供給されないつまりクラッチ圧切換ソレノイド弁72がOFF状態において、クラッチ圧切換弁74の弁子74fの位置は、スプリング(付勢部材)74gの付勢力に従ってスプリング74g側とは反対側に移動させられ係合過渡位置の状態すなわちクラッチ圧切換弁74の中心線より右側半分の状態に保持される。
【0025】
クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合過渡位置の場合、モジュレータ圧供給ポート74aと出力ポート74bとが連通させられ油路76を介して第1モジュレータ圧PM1がポンプ駆動状態切換弁60の第1供給ポート60aの制御圧室60iおよび前記ロックアップコントロールバルブ78の強制ロックアップ解除ポート78aに供給されるとともに、供給ポート74dと出力ポート74eとが連通させられ係合過渡圧がマニュアル弁68の供給ポート68aに供給される。
【0026】
クラッチ圧切換ソレノイド弁72から信号圧室74cに第2モジュレータ圧PM2が供給されるつまりクラッチ圧切換ソレノイド弁72がON状態の時には、クラッチ圧切換弁74の弁子74fの位置は、スプリング74gの付勢力に抗してスプリング74g側へ移動させられて係合位置の状態すなわちクラッチ圧切換弁74の中心線より左側半分の状態に保持される。クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合位置の場合、モジュレータ圧供給ポート74aと出力ポート74eとが連通し第1モジュレータ圧PM1すなわち係合圧がマニュアル弁68の供給ポート68aに供給される。
【0027】
クラッチ圧切換弁74の出力ポート74eから出力された前記係合圧または係合過渡圧は、マニュアル弁68の供給ポート68aに供給され、マニュアル弁68の位置によって後進用ブレーキB1または前進用クラッチC1に供給されるか或いは後進用ブレーキB1および前進用クラッチC1に供給されないようになっている。すなわち、シフトレバーの位置がL(ロー)ポジション、D(ドライブ)ポジションである場合は供給ポート68aに供給された作動油は前進用クラッチC1に供給され、シフトレバーの位置がR(リバース)ポジションである場合は供給ポート68aに供給された作動油は後進用ブレーキB1に供給される。また、シフトレバーの位置がN(ニュートラル)ポジション、P(パーキング)ポジションである場合は供給ポート68aに供給された作動油は前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1に供給されなくなっている。
【0028】
ロックアップ制御回路54は、図6に示すように、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁72と略同様のドレンポート82aと供給ポート82bと出力ポート82cとを有する三方弁であるロックアップコントロールソレノイド弁82と、そのロックアップコントロールソレノイド弁82がON/OFFされることに関連してトルクコンバータ14のロックアップクラッチ30をロックアップ係合状態またはロックアップ解除状態に切り換えるロックアップコントロールバルブ78と、トルクコンバータ14とによって構成されている。
【0029】
ロックアップコントロールバルブ78は、前述したクラッチ圧切換弁74の出力ポート74bと油路76を介して連通する強制ロックアップ解除ポート78aと、第2ライン圧調圧弁80から出力された第2ライン圧PL2が供給される第1供給ポート78bおよび第2供給ポート78cと、ロックアップコントロールソレノイド弁82から出力された第2モジュレータ圧PM2が供給される信号圧室78dと、クラッチ圧切換弁74の入力ポート74hと油路84を介して連通する出力ポート78eと、トルクコンバータ14の解放側油室14bと第1油路86を介して連通する第1出力ポート78fと、その解放側油室14bの作動油を第1油路86を介してドレンするドレンポート78gと、トルクコンバータ14の係合側油室14aと第2油路88を介して連通する第2出力ポート78hとを備えている。
【0030】
ロックアップコントロールソレノイド弁82から信号圧室78dに第2モジュレータ圧PM2が供給されない状態つまりロックアップコントロールソレノイド弁82がOFF状態において、ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iは、スプリング78jの付勢力に従ってスプリング78j側とは反対側に移動させられロックアップOFF位置の状態すなわちロックアップコントロールバルブ78の中心線より左側半分に示す状態に保持される。
【0031】
ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iがロックアップOFF位置の場合、第1供給ポート78bと第1出力ポート78fとが連通し、第2ライン圧PL2が第1油路86を介して解放側油室14bに供給されるためロックアップクラッチ30はロックアップ解放状態となる。
【0032】
ロックアップコントロールソレノイド弁82から信号圧室78dに第2モジュレータ圧PM2が供給されるつまりロックアップコントロールソレノイド弁82がON状態において、ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iはスプリング78jの付勢力に抗してスプリング78j側に移動させられロックアップON位置の状態すなわちロックアップコントロールバルブ78の中心線より右側半分に示す状態に保持される。
【0033】
ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iがロックアップON位置の場合、ドレンポート78gと第1出力ポート78fとが連通し、解放側油室14bの作動油が第1油路86を介してドレンされるとともに、第2供給ポート78cと第2出力ポート78hとが連通し、第2ライン圧PL2が第2油路88を介して係合側油室14aに供給されるため、ロックアップクラッチ30はロックアップ係合状態となる。また、この状態では、信号圧室78dと出力ポート78eとが連通し、油路84を介してクラッチ圧切換弁74の入力ポート74hに第2モジュレータ圧PM2が供給されるため、クラッチ圧切換弁74の弁子74fは、クラッチ圧切換ソレノイド弁72から第2モジュレータ圧PM2が信号圧室74cに供給されなくても、係合位置のままである。すなわち、クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合位置にある場合において、ロックアップコントロールソレノイド弁82から第2モジュレータ圧PM2の出力が有る場合には、その第2モジュレータ圧PM2が油路84を介してクラッチ圧切換弁74の入力ポート74hに出力されることによりクラッチ圧切換ソレノイド弁72からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらず、クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合位置に保たれる。
【0034】
また、切換機構78kによって、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらず、クラッチ切換弁74の弁子74fが係合過渡位置にある場合、ロックアップクラッチ30がロックアップ解放状態すなわち非係合状態に切り換えられるようになっている。すなわち、クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合過渡位置の場合、第1モジュレータ圧PM1がクラッチ圧切換弁74のモジュレータ圧供給ポート74aおよび出力ポート74bを通り油路76を介して強制ロックアップ解除ポート78aに供給させられることによって、ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iがロックアップコントロールソレノイド弁82から出力される第2モジュレータPM2の出力に有無に拘わらず優先的にロックアップOFF位置に切り換えられる。切換機構78kは、ロックアップコントロールバルブ78に備えられた強制ロックアップ解除ポート78aおよびそれに連通してスプリング78jを収容する油室78lから構成されている。
【0035】
ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iには、図6に示すように、信号圧室78d内の弁子78iの油圧作用面積をS1、強制ロックアップ解除ポート78a内の弁子78iの油圧作用面積をS2、スプリング78jの付勢力をFsとした場合、以下の式(1)の力が作用する。そのため、ロックアップコントロールバルブ78の強制ロックアップ解除ポート78aに第1モジュレータ圧PM1が出力され、信号圧室78dに第2モジュレータ圧PM2が供給されるとロックアップコントロールバルブ78の弁子78iは、ロックアップOFF位置に移動させられる。
【0036】
S1×PM2+(S2−S1)×PL2<(S2×PM1)+Fs・・・(1)
【0037】
図3に戻り、ポンプ駆動状態切換回路50のポンプ駆動状態切換弁60は、オイルポンプ32の吐出ポート32aから吐出される作動油を供給する供給ポート60bと、その供給ポート60bに供給された作動油をライン圧油路56に出力する第1出力ポート60cと、供給ポート60bに供給された作動油を油路58に出力する第2出力ポート60dと、前記クラッチ圧切換弁74の出力ポート74bから油路76を介して連通する第1供給ポート60aと、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁72から出力されたモジュレータ圧PM2を油路90を介して供給する第2供給ポート60eと、スプール弁子60fと、そのスプール弁子60fを1ポート駆動状態に向かって付勢するスプリング60gが配設されたばね室60jとを備えている。
【0038】
ポンプ駆動状態切換弁60は、そのポンプ駆動状態切換弁60の中心線より右側半分に示すようにスプール弁子60fがスプリング60gの付勢力に従ってスプリング60g側とは反対側に移動し保持される。この1ポート駆動状態、つまり、クラッチ圧切換ソレノイド弁72から第2モジュレータ圧PM2が供給されなくOFF状態であり、且つ、ロックアップコントロールソレノイド弁82から第2モジュレータ圧PM2が油路84を介してクラッチ圧切換弁74の入力ポート74hに供給されクラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合位置であり油路76を介して第1モジュレータ圧PM1が第1供給ポート60aの制御圧室60iに供給されない状態の場合、供給ポート60bと第2出力ポート60dとが連通するとともに油路58を介して吐出ポート32aから吐出された作動油が吸入ポート32b,32dに供給され、オイルポンプ32から油圧回路内に供給される油量が少なくなる。
【0039】
クラッチ圧切換ソレノイド弁72から油路90を介して第2モジュレータ圧PM2がポンプ駆動状態切換弁60の第2供給ポート60eの制御圧室60hに供給されるか、或いは、ロックアップコントロールソレノイド弁82から第2モジュレータ圧PM2が油路84を介してクラッチ圧切換弁74の入力ポート74hに供給されず第1モジュレータ圧PM1がクラッチ圧切換弁74を介してポンプ駆動状態切換弁60の第1供給ポート60aの制御圧室60iに供給される場合は、スプール弁子60fが制御圧である第1モジュレータ圧PM1または第2モジュレータ圧PM2によってスプリング60gの付勢力に抗してスプリング60g側に移動し2ポート駆動状態すなわちポンプ駆動状態切換弁60の中心線より左側に示す状態に保持される。それにより、ポンプ駆動状態切換弁60では、供給ポート60bと第1出力ポート60cとが連通しオイルポンプ32の吐出ポート32aから吐出された作動油はライン圧油路56を介してオイルポンプ32の吐出ポート32cから吐出される作動油と合わされ、オイルポンプ32から1ポート駆動状態の時よりも多くの油量が油圧回路内のライン圧油路56に供給される。
【0040】
図7は、シフトレバー位置がN(ニュートラル)ポジションからD(ドライブ)ポジションへの切換、無段変速機18のロックアップオン走行、無段変速機18のロックアップオフ走行、ロックアップコントロールソレノイド弁82が油圧出力フェイル(ONフェイル)における油圧制御装置48内のロックアップコントロールソレノイド弁82およびクラッチ圧切換ソレノイド弁72の油圧出力状態をそれぞれ示すものであり、さらに、その状態に関連するロックアップコントロールバルブ78、クラッチ圧切換弁74、ポンプ駆動状態切換弁60の作動状態も示すものである。
【0041】
シフトレバー位置がN(ニュートラル)ポジションからD(ドライブ)ポジション又はR(リバース)ポジションへの切換において、クラッチ圧切換ソレノイド弁72は、当初は出力ポート72cから第2モジュレータ圧PM2が出力されないOFF状態である。このため、クラッチ圧切換弁74の弁子74fは係合過渡位置であり、第1モジュレーター圧PM1がクラッチ圧切換弁74のモジュレータ圧供給ポート74aおよび出力ポート74bを通り油路76を介してポンプ駆動状態切換弁60の第1供給ポート60aに出力されるため、ポンプ駆動状態切換弁60は2ポート駆動状態に切り換えられる。同時に、上記出力ポート74bから出力された第1モジュレータ圧PM1は、油路76を介して強制ロックアップ解除ポート78aに第1モジュレータ圧PM1が供給されるため、ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iは、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらず、ロックアップOFF位置に強制的に維持される。また、上記クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合過渡位置とされている間は、リニアソレノイドバルブSLSから出力される信号圧PSLSに基づいてクラッチ圧調圧弁70から出力される係合過渡圧が供給ポート74dおよび出力ポート74eとマニュアル弁68を経て前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1へ所定期間供給される。この所定期間が経過するとクラッチ圧ソレノイド弁72がON状態へ切り換えられるとともに、クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合位置へ切り換えられるので、係合後の前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1のクラッチ供給圧が係合圧である第1モジュレータ圧PM1へ切り換えられると同時に、ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iのロックアップOFF位置の強制維持が解除される。
【0042】
上記のようにクラッチ圧切換ソレノイド弁72が出力ポート72cから第2モジュレータ圧PM2が出力されるON状態とされると、クラッチ圧切換弁74の弁子74fは係合位置へ切り換えられ、第2モジュレーター圧PM2が油路90を介してポンプ駆動状態切換弁60の第2供給ポート60eに出力されてポンプ駆動状態切換弁60は2ポート駆動状態とされる。たとえば、車両の所定車速以上ではロックアップオン走行となり、ロックアップコントロールソレノイド弁82は、出力ポート82cから第2モジュレータ圧PM2が出力されるON状態とされると、すでに、クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合位置であるため第1モジュレータ圧PM1が強制ロックアップ解除ポート78aに供給されないので、そのロックアップコントロールソレノイド弁82から出力される第2モジュレータ圧PM2によってロックアップコントロールバルブ78の弁子78iはロックアップON位置とされる。このとき、ロックアップコントロールソレノイド弁82から第2モジュレータ圧PM2がロックアップコントロールバルブ78の信号圧室78dおよび出力ポート78eと油路84を介してクラッチ圧切換弁74の入力ポート74hに供給されるので、クラッチ圧切換ソレノイド弁72から出力される第2モジュレータ圧PM2の有無に拘わらずクラッチ圧切換弁74の弁子74fは係合位置に維持される。このため、専用のソレノイド弁を設けることなく、クラッチ圧切換ソレノイド弁72から出力される第2モジュレータ圧PM2の出力の切換によってポンプ駆動状態切換弁60を2ポート駆動状態または1ポート駆動状態に切り換え制御可能となる。
【0043】
所定の車速以下でのロックアップオフ走行においては、クラッチ圧切換ソレノイド弁72は、出力ポート72cから第2モジュレータ圧PM2が出力されるON状態とされている。そのため、クラッチ圧切換弁74の弁子74fは係合位置であり、第2モジュレーター圧PM2が油路90を介してポンプ駆動状態切換弁60の第2供給ポート60eに出力されポンプ駆動状態切換弁60は2ポート駆動状態である。この状態では、ロックアップコントロールソレノイド弁82は、出力ポート82aからモジュレータ圧PM2が出力されないOFF状態であり、ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iがスプリング78jの付勢力によってロックアップOFF位置になる。
【0044】
ここで、ロックアップコントロールソレノイド弁82が故障した場合すなわち走行中に油圧出力フェイル(ONフェイル)した場合は、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの第2モジュレータ圧PM2がロックアップコントロールバルブ78の信号圧室78dに出力されるのでロックアップコントロールバルブ78の弁子78iはロックアップON位置を保つため、車両減速時または停車時にエンジンストールを発生させる。
【0045】
上記エンジンストールによってオイルポンプ32の回転が止まり、吐出量がゼロとなるため、油圧制御装置48の油圧回路内の圧が急速に抜ける。そのため、エンジンストールするとすぐにクラッチ圧切換弁74の弁子74fは、スプリング(付勢部材)74gの付勢力によって係合過渡位置に移動させられ、その後のエンジン再始動操作時には、ロックアップコントロールソレノイド弁82が油圧出力フェイルによって第2モジュレータ圧PM2がロックアップコントロールバルブの信号圧室78d内に出力されたとしても、クラッチ圧切換弁74が係合過渡位置であるため油路76を介して第1モジュレータ圧PM1が強制ロックアップ解除ポート78aに出力されるので、ロックアップコントロールバルブ78の弁子78iがロックアップOFF位置のままでありロックアップクラッチ30を係合状態にさせないため、エンジン12を起動することができる。
【0046】
上記のエンジン始動時、クラッチ圧切換弁74はスプリング74gの付勢力により係合過渡状態とされ、且つ、クラッチ圧切換ソレノイド弁72がOFF状態で出力ポート72cとドレインポート72aとが連通している。そして、エンジン始動によりオイルポンプ32から油圧が立ち上がり、第1モジュレータ圧PM1も立ち上がる。そのため、第1モジュレータ圧PM1は、クラッチ圧切換弁74を介してポンプ駆動状態切換弁60の第1供給ポート60aの制御圧室60iに供給され、スプール弁子60fがスプリング60g側に移動させられるので、第2供給ポート60eに連通する制御圧室60hの容積が増加してそれに連通する油路90内に負圧が発生してしまいクラッチ圧切換ソレノイド弁72のドレインポート72aから異物を含んだオイルが吸い込まれる可能性がある。
【0047】
しかし、油圧制御装置48内には、ポンプ駆動状態切換弁60のスプール弁子60fの移動に関連する制御圧室60hの容積増加により油路90内に負圧が発生しようとするときにその油路90に作動油を一時的に補完してその油路90内において負圧の発生を抑制する容積補完装置92が備えられている。
【0048】
上述のように、本実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置48によれば、(b) クラッチ圧切換弁74の弁子74fは、クラッチ圧切換ソレノイド弁72からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無により、係合位置または係合過渡位置に切り換えられ、(c) ポンプ駆動状態切換弁60は、クラッチ圧切換弁74の弁子74fが上記係合過渡位置にある場合において、クラッチ圧切換弁74を経由して供給された第1モジュレータ圧PM1により吐出ポート32aの連絡先がライン圧油路56となる位置にさせられ、(d) ポンプ駆動状態切換弁60は、クラッチ圧切換弁74の弁子74fが上記係合位置にある場合において、クラッチ圧切換ソレノイド弁72から出力された第2モジュレータ圧PM2により吐出ポート32aの連絡先がライン圧油路56となる位置とされ、(e) クラッチ圧切換弁74の弁子74fは、そのクラッチ圧切換弁74の弁子74fが上記係合位置にある場合において、ロックアップコントロールソレノイド弁82から第2モジュレータ圧PM2が出力が有る場合には、その第2モジュレータ圧PM2の出力によりクラッチ圧切換ソレノイド弁72の第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらず上記係合位置に保たれ、(f) ポンプ駆動状態切換弁60は、クラッチ圧切換ソレノイド弁72からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無によって、吐出ポート32aの連絡先をライン圧油路56または油路58に切り換えるものであるため、ポンプ駆動状態切換弁60は、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの第2モジュレータ圧PM2の出力によってクラッチ圧切換弁74の弁子74fが上記係合位置にある場合において、そのロックアップコントロールソレノイド弁82の第2モジュレータ圧PM2の出力によりクラッチ圧切換ソレノイド弁72の第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらずクラッチ圧切換弁74の弁子74fが上記係合位置が保たれ、クラッチ圧切換ソレノイド72からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無を切り換えることによって、吐出ポート32aの連絡先をライン圧油路56または油路58に切り換え油圧供給装置32から油圧回路に供給される油量を切り換えることができる。そのため、油圧供給装置から油圧回路へ供給される作動油の油量を切り換えるための切換専用のソレノイド弁を必要とせず、油圧供給装置32から油圧回路に供給される油量を切り換えることができる。
【0049】
また、本実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置48によれば、ロックアップコントロールバルブ78には、(a) クラッチ圧切換弁74の弁子74fが係合過渡位置にある場合において、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらずロックアップクラッチ30を非係合状態に切り換える切換機構78kが備えられており、(b) クラッチ圧切換弁74には、その弁子74fの位置を上記係合過渡位置側へ常時付勢するスプリング(付勢部材)74gが備えられているため、ロックアップコントロールソレノイド弁82が故障した場合たとえば油圧出力フェイルした場合は、クラッチ圧切換弁74の弁子74fは、そのロックアップコントロールソレノイド弁82から出力される第2モジュレータ圧PM2によってロックアップクラッチ30が係合状態となり減速時または停車時にエンジンストールを発生させる。しかし、その後のエンジン起動操作時には、油圧回路内の圧が抜けスプリング74gの付勢力によりクラッチ圧切換弁74の弁子74fの位置が上記係合過渡位置側に移動するとともに、前記切換機構78kにより、ロックアップコントロールソレノイド弁82から出力される第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらずロックアップクラッチ30が非係合状態に切り換えられるため、ロックアップコントロールソレノイド弁82が故障たとえば油圧出力フェイルしてもエンジン12が容易に起動させられる。
【0050】
また、本実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置48によれば、特に、無段変速機18を制御するための電子制御装置は、車速がゼロであると判定し無段変速機18の変速比を最大値すなわちプライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの油圧をプライマリシーブ圧調圧弁64を介して急速にドレンさせるため、エンジンストール後のエンジン起動操作時には、油圧回路内の圧が急速に抜けスプリング74gの付勢力によりクラッチ圧切換弁74の弁子74fの位置が上記係合過渡位置側に移動するとともに、前記切換機構78kにより、ロックアップコントロールソレノイド弁82から出力される第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらずロックアップクラッチ30が非係合状態に切り換えられるため、ロックアップコントロールソレノイド弁82が故障たとえば油圧出力フェイルしてもエンジン12が一層容易に起動させられる。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述した実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
本実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置98は、前述の実施例のクラッチ圧切換弁74とロックアップコントロールバルブ78とに換え、クラッチ圧切換弁100とロックアップコントロールバルブ102とを用いる以外は前述の実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置48と略同様であり、図8乃至10は、そのクラッチ圧切換弁100とロックアップコントロールバルブ102とを説明する図である。
【0053】
図8、9に示すように、クラッチ圧切換弁100は、第1モジュレータ圧PM1すなわち係合圧が供給されるモジュレータ圧供給ポート100aと、油路94を介してポンプ駆動状態切換弁60の第1供給ポート60aと連通する出力ポート100bと、図示されていない電子制御装置によりクラッチ圧切換ソレノイド弁72から出力される第2モジュレータ圧PM2が供給される信号圧室100cと、クラッチ圧調圧弁70により調圧された係合過渡圧を供給する供給ポート100dと、クラッチ圧切換弁100から係合過渡圧または第1モジュレータ圧PM1である係合圧をマニュアル弁68の供給ポート68aに出力する出力ポート100eと、ロックアップコントロールバルブ102の信号圧室102aと油路96を介して連通する出力ポート100fと、ロックアップコントロールソレノイド弁82から出力された第2モジュレータ圧PM2が供給される供給ポート100jと、を備えている。
【0054】
クラッチ圧切換ソレノイド弁72から信号圧室100cに第2モジュレータ圧PM2が供給されないつまりクラッチ圧切換ソレノイド弁72がOFF状態において、クラッチ圧切換弁100の弁子100hの位置は、スプリング(付勢部材)100iの付勢力に従ってスプリング100i側とは反対側に移動させられ係合過渡位置の状態すなわちクラッチ圧切換弁100の中心線より右側半分の状態に保持される。
【0055】
クラッチ圧切換弁100の弁子100hが係合過渡位置の場合、モジュレータ圧供給ポート100aと出力ポート100bとが連通させられ油路94を介して第1モジュレータ圧PM1がポンプ駆動状態切換弁60の第1供給ポート60aの制御圧室60iに供給されるとともに、供給ポート100dと出力ポート100eとが連通させられ係合過渡圧がマニュアル弁68の供給ポート68aに供給される。
【0056】
クラッチ圧切換ソレノイド弁72から信号圧室100cに第2モジュレータ圧PM2が供給されるつまりクラッチ圧切換ソレノイド弁72がON状態の時には、クラッチ圧切換弁100の弁子100hの位置は、スプリング100iの付勢力に抗してスプリング100i側へ移動させられて係合位置の状態すなわちクラッチ圧切換弁100の中心線より左側半分の状態に保持される。クラッチ圧切換弁100の弁子100hが係合位置の場合、モジュレータ圧供給ポート100aと出力ポート100eとが連通し第1モジュレータ圧PM1すなわち係合圧がマニュアル弁68の供給ポート68aに供給される。
【0057】
また、クラッチ圧切換弁100の弁子100hが係合位置であり、且つ、ロックアップコントロールソレノイド弁82から第2モジュレータ圧PM2が出力される場合は、その第2モジュレータ圧PM2が油路104、供給ポート100j、出力ポート100lを介して入力ポート100mに供給されるため、クラッチ圧切換弁100の弁子100hは、クラッチ圧切換ソレノイド弁72から第2モジュレータ圧PM2が信号圧室100cに供給されなくても、係合位置のままである。すなわち、クラッチ圧切換弁100の弁子100hは、そのクラッチ圧切換弁100の弁子100hが係合位置にある場合において、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの第2モジュレータ圧PM2の出力が有る場合には、その第2モジュレータ圧PM2がクラッチ圧切換弁100の入力ポート100mに出力されることにより、クラッチ圧切換ソレノイド弁72からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらずクラッチ圧切換弁100の弁子100hは係合位置に保たれるものである。
【0058】
図8、10に示すように、ロックアップコントロールバルブ102は、前述したクラッチ圧切換弁100の出力ポート100fと油路96を介して連通する信号圧室102a、第2ライン圧調圧弁80から出力された第2ライン圧PL2が供給される第1供給ポート102bおよび第2供給ポート102cと、トルクコンバータ14の解放側油室14bと第1油路86を介して連通する第1出力ポート102dと、その解放側油室14bの作動油を第1油路86を介してドレンするドレンポート102eと、トルクコンバータ14の係合側油室14aと第2油路88を介して連通する第2出力ポート102fとを備えている。
【0059】
ロックアップコントロールソレノイド弁82からクラッチ圧切換弁100を介して信号圧室102aに第2モジュレータ圧PM2が供給されないつまりロックアップコントロールソレノイド弁82がOFF状態において、ロックアップコントロールバルブ102の弁子102gは、スプリング102hの付勢力に従ってスプリング102h側とは反対側に移動させられロックアップOFF位置の状態すなわちロックアップコントロールバルブ102の中心線より左側半分に示す状態に保持される。
【0060】
ロックアップコントロールバルブ102の弁子102gがロックアップOFF位置の場合、第1供給ポート102bと第1出力ポート102dとが連通し、第2ライン圧PL2が第1油路86を介して解放側油室14bに供給されるためロックアップクラッチ30はロックアップ解放状態となる。
【0061】
ロックアップコントロールソレノイド弁82からクラッチ圧切換弁100を介して信号圧室102aに第2モジュレータ圧PM2が供給されるつまりロックアップコントロールソレノイド弁82がON状態において、ロックアップコントロールバルブ102の弁子102gはスプリング102hの付勢力に抗してスプリング102h側に移動させられロックアップON位置の状態すなわちロックアップコントロールバルブ102の中心線より右側半分に示す状態に保持される。
【0062】
ロックアップコントロールバルブ102の弁子102gがロックアップON位置の場合、ドレンポート102eと第1出力ポート102dとが連通し、解放側油室14bの作動油が第1油路86を介してドレンされるとともに、第2供給ポート102cと第2出力ポート102fとが連通し、第2ライン圧PL2が第2油路88を介して係合側油室14aに供給されるため、ロックアップクラッチ30はロックアップ係合状態となる。
【0063】
また、クラッチ圧切換弁100の弁子100hが係合過渡位置の場合、そのクラッチ圧切換弁100の弁子100hによって、供給ポート100jと出力ポート100fとが遮断されるため、ロックアップコントロールソレノイド弁82から出力される第2モジュレータ圧PM2がロックアップコントロールバルブ102の信号圧室102aに出力されずロックアップコントロールバルブ102の弁子102gはスプリング102hの付勢力によってロックアップOFF位置に移動される。すなわち、クラッチ圧切換弁100には、クラッチ圧切換弁100の弁子100hが係合過渡位置にある場合において、ロックアップコントロールソレノイド弁82からの第2モジュレータ圧PM2の出力の有無に拘わらずロックアップコントロールバルブ102の弁子102gをロックアップOFF位置にし、ロックアップクラッチ30がロックアップ解放状態すなわち非係合状態に切り換える切換機構100kが備えられいる。また、切換機構100kは、クラッチ圧切換弁100に備えられた、油路104を介してロックアップコントロールソレノイド弁82の出力ポート82cと連通する供給ポート100jと、油路96を介してロックアップコントロールバルブ102の信号圧室102aと連通する出力ポート100fと、クラッチ圧切換弁100の弁子100hが係合過渡位置に切り換えられることによってその供給ポート100jと出力ポート100fとを遮断する弁子100hとによって構成されている。
【0064】
本実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置98は、上記切換機構100kがクラッチ圧切換弁100に備えられている点で前述のロックアップコントロールバルブ78に備えられた切換機構78kと異なるが、その他の部分は、前述の実施例の構成と略同様である。すなわち、本実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置98のクラッチ圧切換弁100およびロックアップコントロールバルブ102は、前述の図7の車両動作条件下において、クラッチ圧切換弁74およびロックアップコントロールバルブ78と同様に作動状態が切り換えられるものであるため、本実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置98は、前述の実施例の車両用無段変速機18の油圧制御装置48と同様の効果を備えるものである。
【0065】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0066】
たとえば、本発明の車両用無段変速機18の油圧制御装置48において、オイルポンプ(油圧供給装置)32の吐出ポート32a,32cは、駆動ギヤを1つ、非駆動ギヤを2つ備える外接タイプの3ギヤ配列型ギヤポンプの2つの吐出ポートが使用されたが、必ずしも本発明の複数の吐出ポートは、一つのオイルポンプに備えられる必要はなく、複数のオイルポンプを備える油圧供給装置が用いられてもよい。また、本実施例の外接タイプの3ギヤ配列型ギヤポンプに換えて2つの内接タイプのギヤポンプやベーンポンプが使用されてもよい。
【0067】
また、本実施例では、無段変速機18が使用されたが、無段変速機18に替えて、油圧式クラッチおよびブレーキが選択的に作動させられることによって自動変速される遊星歯車式多段変速機や、シフトアクチュエータおよびセレクトアクチュエータによって自動変速される平行軸式多段変速機等の自動変速機が使用されてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用無段変速機の油圧制御装置を示す回路図である。
【図3】ポンプ駆動状態切換回路を説明するために図2のポンプ駆動状態切換回路を拡大した拡大図である。
【図4】変速比制御回路を説明するために図2の変速比制御回路を拡大した拡大図である。
【図5】クラッチ圧切換回路を説明するために図2のクラッチ圧切換回路を拡大した拡大図である。
【図6】ロックアップ制御回路を説明するために図2のロックアップ制御回路を拡大した拡大図である。
【図7】シフトレバー位置NポジションからDポジションへの切換、無段変速機の定常走行、無段変速機のアップ/ダウン変速走行、ロックアップコントロールソレノイド弁が油圧出力フェイルの車両動作条件下における、油圧制御装置内のロックアップコントロールソレノイド弁、クラッチ圧切換ソレノイド弁、ロックアップコントロールバルブ、クラッチ圧切換弁、ポンプ駆動状態切換弁の作動状態を示す図である。
【図8】本発明の他の実施例の油圧制御装置の回路図を示す図であり、図2に対応するものである。
【図9】図8の油圧制御装置のクラッチ圧切換弁を説明する図であり、図5に対応するものである。
【図10】図8の油圧制御装置のロックアップコントロールバルブを説明する図であり、図6に対応するものである。
【符号の説明】
【0070】
18:無段変速機(自動変速機)
30:ロックアップクラッチ
32:オイルポンプ(油圧供給装置)
32a,32c:吐出ポート
32b,32d:吸入ポート
48:油圧制御装置
60:ポンプ駆動状態切換弁
70:クラッチ圧調圧弁
72:クラッチ圧切換ソレノイド弁
74:クラッチ圧切換弁
74g:スプリング(付勢部材)
78:ロックアップコントロールバルブ
78k:切換機構
82:ロックアップコントロールソレノイド弁
100:クラッチ圧切換弁
100i:スプリング(付勢部材)
100k:切換機構
102:ロックアップコントロールバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立した複数の吐出ポートを有する油圧供給装置と、該複数の吐出ポートのうち少なくとも1つの吐出ポートの連絡先を該吐出ポート以外の吐出ポートから吐出される油圧回路または該油圧供給装置の吸入ポートに選択的に切り換えるポンプ駆動状態切換弁と、ロックアップクラッチの係合状態を変更するロックアップコントロールバルブと、該ロックアップコントロールバルブを制御するロックアップコントロールソレノイド弁と、クラッチ供給圧を、クラッチ圧調圧弁により調圧される係合過渡圧と、該係合過渡圧とは別系統で供給される係合圧とに切り換えるクラッチ圧切換弁と、該クラッチ圧切換弁の弁子位置を前記係合過渡圧を供給するための係合過渡位置と前記係合圧を供給するための係合位置とに切り換えるための油圧を出力するクラッチ圧切換ソレノイド弁とを備える車両用自動変速機の油圧制御装置であって、
前記クラッチ圧切換弁は、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁からの油圧の出力の有無により、前記係合位置または前記係合過渡位置に切り換えられ、
前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換弁が前記係合過渡位置にある場合において、前記クラッチ圧切換弁を経由して供給された油圧により前記吐出ポートの連絡先が前記油圧回路となる位置にさせられ、
前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換弁が係合位置にある場合において、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁から出力された油圧により前記吐出ポートの連絡先が前記油圧回路となる位置とされ、
前記クラッチ圧切換弁は、そのクラッチ圧切換弁が係合位置にある場合において、前記ロックアップコントロールソレノイド弁からの油圧の出力が有る場合には、その油圧の出力により前記クラッチ圧切換ソレノイド弁の油圧の出力の有無に拘わらず前記係合位置に保たれ、
前記ポンプ駆動状態切換弁は、前記クラッチ圧切換ソレノイド弁からの油圧の出力の有無によって、前記吐出ポートの連絡先を切り換えることを特徴とする車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記クラッチ圧切換弁が前記係合過渡位置にある場合において、前記ロックアップコントロールソレノイド弁から油圧の出力の有無に拘わらず前記ロックアップクラッチを非係合状態に切り換える切換機構が備えられており、
前記クラッチ圧切換弁には、その弁子の位置を前記係合過渡位置側へ常時付勢する付勢部材が備えられているものである請求項1の車両用自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−115116(P2009−115116A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285372(P2007−285372)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】