車両用自律神経機能診断装置、車両用自律神経機能診断方法
【課題】血管支配の自律神経機能を定量的に計測し、乗員の健康促進、維持等に優位な車両用自律神経機能診断装置及び車両用自律神経機能診断方法を提供すること。
【解決手段】車両の乗員の自律神経機能を診断して調整作用を提供する車両用自律神経機能診断装置100であって、血管動態を検出する血管動態検出手段11〜15と、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段22と、第1又は第2の血管動態に時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1又は第2の血管動態の時系列データの回帰直線を算出する回帰直線算出手段23と、回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化する血管反射システム評価手段24と、定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を提供する刺激提供手段25と、を有する。
【解決手段】車両の乗員の自律神経機能を診断して調整作用を提供する車両用自律神経機能診断装置100であって、血管動態を検出する血管動態検出手段11〜15と、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段22と、第1又は第2の血管動態に時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1又は第2の血管動態の時系列データの回帰直線を算出する回帰直線算出手段23と、回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化する血管反射システム評価手段24と、定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を提供する刺激提供手段25と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物の運転中に、運転者の自律神経機能を精密に定量診断することができる車両用自律神経機能診断装置及び車両用自律神経機能診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の自律神経機能が車両の運転中の乗員に影響を及ぼすことが知られている。従来、自律神経機能診断装置としては、ホルター心電図などを使った心電図RR間隔のゆらぎ計測による心拍変動から自律神経機能の診断を行う方法などが行われていた(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、周期性の揺らぎ解析を行う方法が開示されているが、人体に必ず存在する非線形成分の解析を行わないので全体論的な解析が不可能である。また、心拍以外の情報を検出できないので自律神経機能の総合的な判定が困難である。
【0003】
また、運転状況に応じた生体の診断システムを運転状況から判定する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、特許文献2に記載された方法は、ドライバモデルを介する方法であるため、自律神経機能を監視するには十分でない。
【0004】
また、例えば、自律神経機能を介した血圧反射機能に関して薬理学的に昇圧剤や降圧剤の心臓血管作動性の薬剤を静脈注射し、血圧の変動時における心拍の反応を定量的に解析することにより、逆算された回帰直線から血圧反射機能を推定する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、患者に注射して血圧の変動を人工的に惹起する人体に侵襲的な手法は普及しにくい。
【0005】
また、神経系を介した血圧反射機能に関してヘッドアップティルト装置により、強制的に体位変換させて、橈骨動脈にカニューレを挿入し、連続的に血圧を測定することにより血圧反射機能を計測する方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。しかし、この方法は、患者に注射して負担を与え、大掛かりな計測装置を必要とするもので、一般臨床病院へ普及するにいたらず、一部の大学病院などの研究施設で研究用途に応用されているだけである。
【0006】
また、脈波計測による血圧のモニターによって、間接的に自律神経機能を推定する方法も試みられている(例えば、非特許文献3参照。)。この方法は、血圧と心拍を持続的に計測し、血圧の変動時における心拍の反応を定量的に解析することにより、逆算された回帰直線から血圧反射機能を推定するものである。しかし、心臓支配の自律神経機能は診断できても、血管支配の自律神経機能は診断できない。
【0007】
一方、芳香の持つ自律神経の対する賦活作用は、昔から伝統的に知られており、例えば、ローズ様香料による鎮静作用、レモン様香料による興奮作用が、2つの刺激間の心拍数の比較から示されている(例えば、非特許文献4参照。)。
【0008】
また、覚醒度の低い乗員に芳香を放ち覚醒を促す技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)が、従来、これらの芳香を、人体の自律神経機能の状態に応じて、運転中に適切な方法で提供する技術は提案されていない。
【特許文献1】特開平10−57333号公報
【特許文献2】特開2007−272834号公報
【特許文献3】特開2004−149003号公報
【非特許文献1】McGarry K, Laher M, Fitzgerald D, Horgan J, O'Brien E, O'Malley K., ”Baroreflex function in elderly hypertensives”,Hypertension. 1983 Sep-Oct;5(5):763-6.
【非特許文献2】London GM, Levenson JA, Safar ME, Simon AC, Guerin AP, Payen D,”Hemodynamic effects of head-down tilt in normal subjects and sustained hypertensive patients”, Am J Physiol. 1983 Aug;245(2):H194-202.
【非特許文献3】Bigger JT Jr, La Rovere MT, Steinman RC, Fleiss JL, Rottman JN,Rolnitzky LM, Schwartz PJ, ”Comparison of baroreflex sensitivity and heart period variability after myocardial infarction”, J Am Coll Cardiol. 1989 Nov 15;14(6):1511-8.
【非特許文献4】Kikuchi, A., Tanida, M., Uenoyama, S., Abe, T. and Yamaguchi,H.(1991). Effect of odors on cardiac response patterns in a reaction time task. In Y. “Queinnec & F. Daniellou (eds.) Designing for Everyone,vol1”, London: Taylor & Francis,380-382.
【非特許文献5】山家智之、西條芳文、白石泰之、丸山満也、金野敏、仁田新一、山口済、中島博行、片平美明、柴田宗一、渡辺誠、三引義明、大沢上、佐藤尚、秋野能久、本多正久、”脈波の立ち上がりポイント測定の正確性に関する臨床研究”, エレクトロニクスの臨床76;23-34, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術は、乗り物の運転中に自律神経機能を定量診断するには、大掛かりな診断システムが必要であるという間題があった。また心臓支配の自律神経機能計測は可能でも、血管支配の自律神経計測は不可能であった。生体の自律神経支配には、地域性反応があり、一部だけの自律神経診断では全く不十分であることは、医学的によく知られている。また、自律神経機能を診断して、適切な芳香の放散、あるいはマッサージを提供して、自律神経を整える車両用装置、すなわち運転すると健康が管理でき、より運転能力が向上するような装置の報告は提案されていない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、血管支配の自律神経機能を定量的に計測し、乗員の健康促進、維持等に優位な車両用自律神経機能診断装置及び車両用自律神経機能診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明は、車両の乗員の自律神経機能を診断して調整作用を提供する車両用自律神経機能診断装置であって、血管動態を検出する血管動態検出手段と、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段と、第1又は第2の血管動態に時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1又は第2の血管動態の時系列データの回帰直線を算出する回帰直線算出手段と、回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化する血管反射システム評価手段と、定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を提供する刺激提供手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
血管支配の自律神経機能を定量的に計測し、乗員の健康促進、維持等に優位な車両用自律神経機能診断装置及び車両用自律神経機能診断方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の車両用自律神経機能診断装置100の概略を説明する図の一例である。車両用自律神経機能診断装置(以下、診断装置100という)は、例えば、血管動態の測定を介して心臓支配及び血管支配(循環系)の自律神経機能を定量的に診断する。
【0014】
運転者には、脈圧計として指尖脈波計11が装着されており、血圧値、心拍数、一回拍出量がモニタリングされる。これらは直接測定されることが望ましいが、何らかのデータを加工することが実用的である。本実施形態の診断装置100では例えばPWTT(脈波伝播時間:血液の脈波が心臓を発してから指先に到達するまでの時間)を使用する。脈波から心電図のR波に対応する情報を演算することも不可能でないが、図1では心電図をモニターするための電極12,13がステアリングホイールに2箇所備えられている。脈波と心電図から、血圧値、PWTT、R波信号、心拍数、一回拍出量、を含む血行動態の時系列データが得られる。
【0015】
そして、診断装置100は2つの方法で、血圧反射感受性を定量化する。
A)よく知られているように、自律神経の血圧反射機能により、血圧が上がると心拍がゆっくりとなり、血管がゆるみ、心臓の収縮(一回拍出量)を減少させて血圧を下げるように作用する。したがって、心拍、血管のゆるみ、心臓の収縮が計測できれば自律神経の機能を計測できることになる。そこで、血圧反射機能が適切に作用しているか否かを、血圧反射感受性を定量化することで評価する。
【0016】
一例としては、血圧とPWTTの相互相関関数を計算し、相互相関関数が最大値となる遅れ時間において、両者の回帰直線を求める。上記の血圧反射感受性により、血圧が上がればPWTTは下がり、血圧が下がればPWTTは上がるはずなので、両者は正の相関を有すると考えられる。したがって、回帰直線の傾きから血圧反射感受性の程度を評価することができる。
【0017】
診断装置100は、血圧反射感受性の評価に応じて香りやマッサージ、メッセージを運転者を含む乗員に提供する。
【0018】
なお、同様の評価が血圧と心拍数、又は、血圧と心臓の収縮(一回拍出量)の関係からも可能である。心拍数は心電図又は脈波のいずれから(又は後述する心音図からでもよい)計測でき、心臓の収縮はインピーダンス法で計測できる。
【0019】
B)また、Mayer波(心拍数の時系列データ、血圧の時系列データなどに含まれる、約10秒を周期とするゆらぎ)を用いて血圧反射機能の定量化を提案する。この方法では、血圧と心拍数の時系列データそれぞれの低周波数成分を取り出し、両者の低周波数成分同士の相互相関係数の最大値(ρmax)を血圧反射感受性の指標とする。ρmaxは、血圧と心拍数の相関が低くなると低下するので、ρmaxから血圧反射感受性を評価できる。
【0020】
Mayer波を利用した方法は、A)よりも短時間で血圧反射感受性が得られるので、適切なタイミングで香りやマッサージを乗員に提供することが容易になる。
【0021】
〔診断装置100の概略〕
図2は、A)における診断装置100のブロック図の一例を示す。診断装置100は、制御部20により制御され、制御部20には指尖脈波計11、1対の電極12,13、香り提供部16、マッサージ部17及び表示装置18がCAN(Controller Area Network)やFlexRay等の車載LANを介して接続されている。制御部20は、例えばナビゲーション用の電子制御ユニット、ドアや室内照明を制御するボディ用電子制御ユニット、メータパネルの点灯や表示を制御するメータ用制御ユニットなどのコンピュータを実体とする。制御部20の各ブロックは、CPUがプログラムを実行するか又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア回路により実装される。
【0022】
血圧測定部14、心電図測定部15、脈波伝播時間測定部21により、血圧、心拍数、PWTT等の血管動態が得られ、これらから、遅れ時間算出部22がPWTTと血圧の相互相関関数が最大となる遅れ時間を求め、回帰直線算出部23は血圧と、最大となる遅れ時間を足したPWTTとの回帰直線を算出し、感受性評価部24は回帰直線の傾きから血圧反射感受性を評価する。乗員支援部25は、評価結果に応じて、香り提供部16、マッサージ部17、及び、表示装置18を用いて乗員の自律神経機能を調整する。
【0023】
〔 A)血圧反射感受性の検出〕
図3(a)は、診断装置100がA)の方法で血圧反射感受性を評価する手順を示すフローチャート図の一例である。以下、図3(a)に従い説明する。
【0024】
<S10>
指尖脈波計11は、例えば、ステアリングホイールの前方側のやや内側に、運転者の指先を監視できる位置、又は、アクセルペダルの指先側に配置されている。指尖脈波計11は、運転者の1以上の指先に所定の波長のLED光を照射し,その透過光(又は反射光)をフォトダイオードを用いて計測する。ヘモグロビンの流量は血流に比例すると考えられるので、ヘモグロビンに反射する波長のLED光を照射して得られる反射波から脈波が得られる。
【0025】
脈波のみから血圧を算出することもできるし、PWTTから血圧を算出することもできる。脈波のみから血圧を算出する方法がいくつか提案されているが、例えば加速度脈波を利用する。加速度脈波は、最大の振幅を示す最初の極大点を有する陽性波(a波)、a波に続く陰性波(b波)、以下、c波、d波、e波というように波形の極値を境に名称がある。例えば、このa波とe波の時間間隔を計算式に算入することで血圧値が得られる。なお、血圧は、上腕動脈、橈骨動脈などのトノメトリ法により測定してもよい。また、PWTTを用いる場合、PWTTは血圧が上昇すると短縮し、血圧が低下すると長くなることを利用して、所定の計算式を用いて血圧を算出する。なお、脈波から心拍数が測定される。
【0026】
1対の電極12、13は、例えば、ステアリングホイールに設けられ、中立状態で左右の掌が把持する部位にそれぞれ配置される。運転者の左右の掌が独立にそれぞれの電極12,13に触れると電位差が生じる。心電図測定部15はこの電位差を検出、増幅、成形することで心電図を得ることができ、心電図から例えばR波、RR間隔、心拍数等が検出できる。
【0027】
なお、脈波と心電図は時系列に取得されるが、測定ポイント間にインターバルが生じる。このため、血圧測定部14及び心電図測定部15は、時系列データに線形補間、スプライン補間を施して、それぞれ時間的に等間隔のデータに変換することが好ましい。なお、補間方法はどのような手法を用いてもよい。
【0028】
図4は、このようにして測定された心拍数(上段)、脈波(中断)、及び、PWTT(下段)の時系列データの一例を示す。脈波伝播時間測定部21は、例えば、心電図波形におけるR波の発生時刻から、対応する血圧波形の立ち上がり点の時刻との差を、PWTTとして測定する。R波の立ち上がり、脈波の立ち上がり点の時刻は、一拍分に対応する波形における最小値が得られた時刻、波形の一次微分、二次微分の立ち上がり点の時刻、高周波成分の発生時刻等から求めることができる。
【0029】
なお、R波の立ち上がりでなく心音からPWTTを検出してもよい。この場合、電極12,13の代わりに心音を集音するマイクを設ける。心音のII音の発生から末梢動脈における脈波の発生までの時間がPWTTとなる。
【0030】
また、PWTTでなく一回拍出量を用いる場合、一回拍出量は、一拍分の脈波を積分し所定の係数を乗じたり、例えば超音波心臓断層法、超音波ドプラ血流計測法、又はアドミッタンス法などにより算出することが可能である。
【0031】
<S20、S30>
遅れ時間算出部22は、血圧とPWTTの相互相関関数の値が最大となる遅れ時間を求める。図5は、血圧とPWTTの相互相関関数の一例を示す。相互相関関数の求め方はいくつかあるが例えば次式から算出される。
相互相関関数 =Σ{ a(t)×b(t+τ)/|a(t)||b(t+τ)|
a(t)は血圧、b(t)はPWTTであり、τは一拍分の周期を最大に所定の増大分を刻みながら変化する遅れ時間である。また、Σは測定点毎に加算する意味である。なお、ここでは相互相関関数を規格化した(規格化相互相関関数)。
【0032】
τを少しずつ変えながらそれぞれの相互相関関数を算出する。τに対し相互相関関数をプロットすると、図5のように、最も相互相関関数が大きくなるτmaxが「最大となる遅れ時間」である。すなわち、PWTTと血圧のいずれかを、最大となる遅れ時間ずらすことで、両者の相関が最もよくなる。
【0033】
上記のように、自律神経が正常に作用していると血圧とPWTTには相関があり、最もよく相関する遅れ時間における両者の相関性が血圧反射感受性の評価となる。
【0034】
<S40>
具体的には、回帰直線算出部23は、血圧と、最大となる遅れ時間τmaxを足したPWTTを散布図にプロットしその回帰直線を算出する。図6は、散布図と回帰直線の一例を示す。図6では血圧値を正規化している(平均値を0に標準偏差で割った)。図6の回帰直線は、次式のようになっている。
回帰直線 = 0.47×x+0.01
0.47が傾きとなる。傾きの数値自体には個人差があるが、傾きが大きくなれば血圧反射感受性が増大したこと、小さくなれば減少したことになるので、傾きの変化を監視すればその運転者の血圧反射感受性の変化を検出できる。傾きは、次述するB)の方法のゲインに相当する。
【0035】
また、回帰直線の算出で得られる相関係数R(−1〜1:−1だと完全な逆相関、0でだと相関なし、1だと完全な相関)により、血圧反射感受性を評価してもよい。すなわち、血圧反射機能が低下した状態では、血圧とPWTTとの相関が低下し相関係数が低下するからである。相関係数Rが大きくなれば血圧反射感受性が増大したこと、小さくなれば減少したことになるので、相関係数Rの変化を監視すればその運転者の血圧反射感受性の変化を検出できる。相関係数は、次述するB)の方法のコヒーレンスに相当する。
【0036】
<S50>
以上のような考えから、感受性評価部24は回帰直線の傾き又は相関係数Rの少なくとも一方から運転者の感受性を評価する。例えば、同じ運転者の過去の回帰直線の傾き及び相関係数Rを記録しておき、過去の最大値と最小値を基準に、現在の運転者の血圧反射感受性を評価する。感受性評価部24は、例えば3〜5段階程度の段階のうちいずれかの段階に血圧反射感受性を対応づけ、対応づけられた段階を評価値として乗員支援部25に出力する。評価値が大きいほど血圧反射感受性がよく、小さいほど悪い。
【0037】
<S60>
乗員支援部25は、評価値に基づき予め定めた方法で乗員を支援する。例えば、適切な香りを提供する、乗員をマッサージする、表示装置18に血圧反射感受性の評価結果や血圧、心拍数等を表示して運転中の健康管理に注意するよう喚起する。支援の詳細と効果については後に詳述する。
【0038】
〔 B)血圧反射感受性の検出〕
B)の方法による血圧反射感受性の定量化について説明する。図7は、B)における診断装置100のブロック図の一例を、図3(b)は血圧反射感受性を評価する手順を示すフローチャート図の一例である。なお、図7において図2と同一部には同一の符号を付しその説明は省略する。図7の診断装置100は、血圧、PWTTの低周波成分を抽出する低周波成分抽出部31、低周波成分同士の相互相関関数を算出する相互相関関数算出部32を有する。
【0039】
<S10、S120>
ステップS10は図3(a)と同様なので省略する。S10により血圧と心拍数の時系列データが計測されたら、ステップS120で低周波成分抽出部31は両者の低周波数成分を取り出す。
【0040】
図2のような血圧の時系列データ、心拍数の時系列データには様々な周波数成分が含まれているが、このうち低周波成分(例えば、0.04〜0.15Hz)は血圧変動由来であることが、高周波成分(例えば、0.15〜0.50Hz)は呼吸変動由来であることが知られている。したがって、低周波成分のみを取り出せば、血管反射システムの機能による成分を取り出せる。図8は、心拍数、血圧、PWTTの低周波成分(例えば、0.04〜0.15Hz)の一例を示す。
【0041】
ところで、血管運動には10秒前後のゆっくりとしたゆらぎの成分(Mayer波)があることが知られているが、このゆらぎも血圧反射感受性の機能の表れであると言われている。そこで、10秒前後の情報から血圧反射感受性を定量化することが考えられる。
【0042】
<S130>
具体的には、血圧の時系列データ、心拍数の時系列データの相互相関関数の最大値ρmaxを算出する。相互相関関数算出部32は、例えば次式から相互相関関数ρxy(τ)を算出する。なお、血圧の時系列データをx(t)、心拍数の時系列データをy(t)とした。そして、ある時刻の前後60秒(計120秒)に渡り相互相関関数ρxy(τ)を算出する。
【0043】
【数1】
相互相関関数ρxy(τ)はコヒーレンス(線形性)を示すもので0〜1の値を示すが、相互相関関数を算出するとゲインも得られる。ゲインは血圧と心拍数の振幅比であり、血圧反射感受性の強さに相当する。したがって、相互相関関数から相関の良否と血圧反射感受性の強さを定量化できることになる。相互相関関数の算出は非特許文献5に詳しい。
【0044】
<S140>
そして感受性評価部24は、τが正の領域において相互相関関数ρmax(τ)の最大値(相互相関係数ρmax)を血圧反射感受性の指標とする。すなわち、相互相関係数ρmaxが高いほど血圧反射感受性が高いことになる。
【0045】
【数2】
上記の回帰直線の傾き又は相関係数Rと同様に、相互相関係数ρmaxには個人差があるので、感受性評価部24は過去の最大値と最小値を基準に、現在の運転者の血圧反射感受性を評価する。感受性評価部24は、例えば3〜5段階程度の段階のうちいずれかの段階に血圧反射感受性を対応づけ、対応づけられた段階(数値が大きいほど血圧感受性が高い)を評価値として乗員支援部25に出力する。乗員支援の態様は、A)の方法と同様である。
【0046】
なお、相互相関関数の算出にあたり心拍数を用いたが、心拍数の代わりに一回拍出量の時系列データ、脈圧の揺らぎを用いても同様の評価(コヒーレンス、ゲイン)が可能である。
【0047】
〔血圧反射機能の線形性ρmax検出の変形例〕
ところで、脈波だけからRR間隔を算出し、血圧反射機能の線形性ρmaxを検出することもできる。これにより電極12,13や心電図測定部15を不要にすることができる。図9は、拍内積分値PWareaを用いたρmaxの検証例を示す図である。脈波の立ち上がり時点から心拍間隔を計算し、脈圧から血流量と血圧を推定する。また、心拍の時系列データと血圧の時系列データから、血圧反射機能の線形性を推定できる。
【0048】
〔乗員支援〕
乗員支援について説明する。香り提供部16は、例えばエアコンのダクトに設置された香りのタンク、香りのタンクを備えた空気砲などである。タンクには、レモンやローズ等の香り成分が封入されており、血圧反射感受性の評価値が低いような場合、レモンやローズの香り成分を放出する。
【0049】
より具体的には、評価値を5段階とした場合、交感神経が優位(評価値が例えば4以上:相関性、感受性が強い)であるため運転に支障をきたすような場合は、鎮静効果のある香り成分(ローズ、ペパーミント、ジャスミン、ブラックペッパー等)を吐出し、副交感神経が優位(評価値が例えば2以下:相関性、感受性が弱い)であるため運転に支障をきたすような場合は、覚醒効果のある香り成分(レモン、オレンジ、ラベンダー等)を吐出する。後述するようにこれらの芳香で交感・副交感神経のバンラスをコントロールでき、血圧や心拍を整え、自律神経バランスを改善することができる。本実施形態の診断装置100は、血圧反射感受性を数値で評価しているので、数値に応じて香り成分の強さを調整するなどしてもよい。
【0050】
また、マッサージ部17は、例えばシートに内蔵されたマッサージ装置である。もみ玉やバイブレータをシートバックやヘッドレストに内蔵して筋肉をほぐしたり、エアバックで脚部を加圧しながら包み込む等のマッサージを運転者を含む乗員に低供する。マッサージと血圧に関係性が強いのは経験的にも実験的にも知られており、評価値が例えば1以下の場合に運転者にマッサージを提供することで、血圧や心拍を整え、自律神経バランスを改善することができる。
【0051】
血圧反射機能の評価値から交感神経トーヌス(動脈血管壁の平滑筋を支配する神経系であり、交感神経トーヌスによる平滑筋の収縮が強くなると血圧が上昇し、弱くなると低下する)が活発で、疲れやすいと考えられる場合は、マッサージを提供することで鎮静効果が得られる。すなわち、評価値が例えば5以上の場合に運転者にマッサージを提供することで、自律神経の活動を和らげることができる。
【0052】
香り成分とマッサージは、いずれかを提供してもよいし、両方を提供してもよい。血圧反射感受性の評価値が低い状態では、香りと共にマッサージを提供することで相乗効果が期待できる。なお、マッサージは車両が信号待ち、駐車中等、車両が停止しており運転に支障がない状態で提供することが好ましい。
【0053】
また、表示装置18は、例えばナビゲーション用のディスプレイ、メータパネルの液晶ディスプレイ等であり、血圧反射感受性の評価値から診断される運転者の体調を文字又はアイコン等の少なくとも一方で提示する。音声メッセージにより提供してもよい。例えば、交感神経が優位な場合は「いらいらしていませんか? リラックスした運転を心がけましょう」と表示し、副交感神経が優位の場合は「疲労がたまっていませんか?少し休憩を取りましょう」と表示する。運転者や同乗者はこのような表示を見て、安全運転を心がけることができ、更に健康も管理できる。なお、このようなメッセージと共に香りやマッサージを提供してもよいし、運転者にこれらを提供するか否かを選択させてもよい。
【0054】
〔香りと血行動態の関係〕
香りと血行動態の関係についていくつかの実験結果を説明する。図10は、香りの放出による血行動態の変化の一例を示す。図10では上段から、心拍(HR)、一回拍出量(SV)、収縮期血圧(BP)、脈波伝播時間(PWTT)、総末梢血管抵抗(TPR)である。図示する矢印のタイミングで香り(例えば、覚醒作用のあるレモン)を提供すると、一回拍出量、収縮期血圧、PWTT、末梢血管抵抗に影響があることが認められる。したがって、運転中に香りを提供することで、血行動態とそれを支配する自律神経に治療効果があることになる。
【0055】
図11(a)は、レモンとローズの香りが心拍数に与える影響を示す図の一例である。それぞれの香りを与える直前を基準に、レモンとローズの香りにより影響された心拍数の増減を示した。心拍数はレモンの香りにより1.8増加し、ローズの香りにより10.6減少している。したがって、血圧反射感受性の評価値が低い場合には、レモンの香りを提供することで覚醒作用が得られ、血圧反射感受性の評価値が高い場合には、ローズの香りを提供することで鎮静作用が得られる。
【0056】
図11(b)は、レモンとローズの香りが収縮期血圧に与える影響を示す図の一例である。それぞれの香りを与える直前を基準に、レモンとローズの香りにより影響された収縮期血圧の増減を示した。収縮期血圧はレモンの香りにより1.0減少し、ローズの香りにより2.0増加している。血圧が下がると(上がる)と自律神経は心拍数を(上げる)(下げる)ため、レモンの香りとローズの香りのいずれにおいても、図11(a)と整合性ある結果が得られている。
【0057】
図11(c)は、レモンとローズの香りが血圧反射機能の感受性に与える影響を示す図の一例である。レモンとローズの香りにより回帰直線の傾き又はゲインに変化が現れるので、それぞれの香りを与える直前を基準に血圧反射機能の感受性の増減を示すことができる。レモンの香りにより血圧反射機能の感受性を下げることが、ローズの香りにより血圧反射機能の感受性を上げることができることが確認できる。
【0058】
したがって、上述したように、いらいらしている場合(交感神経が優位)にはレモンの香りでいらいら感を抑制でき、眠気が強いような場合(副交感神経が優位)にはローズの香りで覚醒させることができるなど、適切な香りを提供することで、運転者の自律神経機能を調整・治療することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の診断装置100は、車両操作の制約を最小限に抑制して運転者の血管動態を測定し、血管支配の自律神経機能を定量的に診断することで、運転者への適切な支援が可能となり、自律神経機能を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】車両用自律神経機能診断装置の概略を説明する図の一例である。
【図2】診断装置のブロック図の一例である。
【図3】血圧反射感受性を検出する手順を示すフローチャート図の一例である。
【図4】心拍数(上段)、脈波(中断)、及び、PWTT(下段)の時系列データの一例である。
【図5】脈波伝播時間と血圧の相互相関関数の一例を示す図である。
【図6】血圧と、最大となる遅れ時間τmaxを足した脈波伝播時間との回帰直線の一例である。
【図7】診断装置のブロック図の一例である。
【図8】心拍数、血圧、PWTTの低周波成分の一例である。
【図9】拍内積分値を用いたρmaxの検証例を示す図である。
【図10】香りの放出による血行動態の変化の一例である。
【図11】レモンとローズの香りが心拍数に与える影響を示す図の一例である。
【符号の説明】
【0061】
11 指尖脈波計
12、13 電極
14 血圧測定部
15 心電図測定部
16 香り提供部
17 マッサージ部
18 表示装置
100 車両用自律神経機能診断装置(診断装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物の運転中に、運転者の自律神経機能を精密に定量診断することができる車両用自律神経機能診断装置及び車両用自律神経機能診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の自律神経機能が車両の運転中の乗員に影響を及ぼすことが知られている。従来、自律神経機能診断装置としては、ホルター心電図などを使った心電図RR間隔のゆらぎ計測による心拍変動から自律神経機能の診断を行う方法などが行われていた(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、周期性の揺らぎ解析を行う方法が開示されているが、人体に必ず存在する非線形成分の解析を行わないので全体論的な解析が不可能である。また、心拍以外の情報を検出できないので自律神経機能の総合的な判定が困難である。
【0003】
また、運転状況に応じた生体の診断システムを運転状況から判定する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、特許文献2に記載された方法は、ドライバモデルを介する方法であるため、自律神経機能を監視するには十分でない。
【0004】
また、例えば、自律神経機能を介した血圧反射機能に関して薬理学的に昇圧剤や降圧剤の心臓血管作動性の薬剤を静脈注射し、血圧の変動時における心拍の反応を定量的に解析することにより、逆算された回帰直線から血圧反射機能を推定する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、患者に注射して血圧の変動を人工的に惹起する人体に侵襲的な手法は普及しにくい。
【0005】
また、神経系を介した血圧反射機能に関してヘッドアップティルト装置により、強制的に体位変換させて、橈骨動脈にカニューレを挿入し、連続的に血圧を測定することにより血圧反射機能を計測する方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。しかし、この方法は、患者に注射して負担を与え、大掛かりな計測装置を必要とするもので、一般臨床病院へ普及するにいたらず、一部の大学病院などの研究施設で研究用途に応用されているだけである。
【0006】
また、脈波計測による血圧のモニターによって、間接的に自律神経機能を推定する方法も試みられている(例えば、非特許文献3参照。)。この方法は、血圧と心拍を持続的に計測し、血圧の変動時における心拍の反応を定量的に解析することにより、逆算された回帰直線から血圧反射機能を推定するものである。しかし、心臓支配の自律神経機能は診断できても、血管支配の自律神経機能は診断できない。
【0007】
一方、芳香の持つ自律神経の対する賦活作用は、昔から伝統的に知られており、例えば、ローズ様香料による鎮静作用、レモン様香料による興奮作用が、2つの刺激間の心拍数の比較から示されている(例えば、非特許文献4参照。)。
【0008】
また、覚醒度の低い乗員に芳香を放ち覚醒を促す技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)が、従来、これらの芳香を、人体の自律神経機能の状態に応じて、運転中に適切な方法で提供する技術は提案されていない。
【特許文献1】特開平10−57333号公報
【特許文献2】特開2007−272834号公報
【特許文献3】特開2004−149003号公報
【非特許文献1】McGarry K, Laher M, Fitzgerald D, Horgan J, O'Brien E, O'Malley K., ”Baroreflex function in elderly hypertensives”,Hypertension. 1983 Sep-Oct;5(5):763-6.
【非特許文献2】London GM, Levenson JA, Safar ME, Simon AC, Guerin AP, Payen D,”Hemodynamic effects of head-down tilt in normal subjects and sustained hypertensive patients”, Am J Physiol. 1983 Aug;245(2):H194-202.
【非特許文献3】Bigger JT Jr, La Rovere MT, Steinman RC, Fleiss JL, Rottman JN,Rolnitzky LM, Schwartz PJ, ”Comparison of baroreflex sensitivity and heart period variability after myocardial infarction”, J Am Coll Cardiol. 1989 Nov 15;14(6):1511-8.
【非特許文献4】Kikuchi, A., Tanida, M., Uenoyama, S., Abe, T. and Yamaguchi,H.(1991). Effect of odors on cardiac response patterns in a reaction time task. In Y. “Queinnec & F. Daniellou (eds.) Designing for Everyone,vol1”, London: Taylor & Francis,380-382.
【非特許文献5】山家智之、西條芳文、白石泰之、丸山満也、金野敏、仁田新一、山口済、中島博行、片平美明、柴田宗一、渡辺誠、三引義明、大沢上、佐藤尚、秋野能久、本多正久、”脈波の立ち上がりポイント測定の正確性に関する臨床研究”, エレクトロニクスの臨床76;23-34, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術は、乗り物の運転中に自律神経機能を定量診断するには、大掛かりな診断システムが必要であるという間題があった。また心臓支配の自律神経機能計測は可能でも、血管支配の自律神経計測は不可能であった。生体の自律神経支配には、地域性反応があり、一部だけの自律神経診断では全く不十分であることは、医学的によく知られている。また、自律神経機能を診断して、適切な芳香の放散、あるいはマッサージを提供して、自律神経を整える車両用装置、すなわち運転すると健康が管理でき、より運転能力が向上するような装置の報告は提案されていない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、血管支配の自律神経機能を定量的に計測し、乗員の健康促進、維持等に優位な車両用自律神経機能診断装置及び車両用自律神経機能診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明は、車両の乗員の自律神経機能を診断して調整作用を提供する車両用自律神経機能診断装置であって、血管動態を検出する血管動態検出手段と、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段と、第1又は第2の血管動態に時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1又は第2の血管動態の時系列データの回帰直線を算出する回帰直線算出手段と、回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化する血管反射システム評価手段と、定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を提供する刺激提供手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
血管支配の自律神経機能を定量的に計測し、乗員の健康促進、維持等に優位な車両用自律神経機能診断装置及び車両用自律神経機能診断方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の車両用自律神経機能診断装置100の概略を説明する図の一例である。車両用自律神経機能診断装置(以下、診断装置100という)は、例えば、血管動態の測定を介して心臓支配及び血管支配(循環系)の自律神経機能を定量的に診断する。
【0014】
運転者には、脈圧計として指尖脈波計11が装着されており、血圧値、心拍数、一回拍出量がモニタリングされる。これらは直接測定されることが望ましいが、何らかのデータを加工することが実用的である。本実施形態の診断装置100では例えばPWTT(脈波伝播時間:血液の脈波が心臓を発してから指先に到達するまでの時間)を使用する。脈波から心電図のR波に対応する情報を演算することも不可能でないが、図1では心電図をモニターするための電極12,13がステアリングホイールに2箇所備えられている。脈波と心電図から、血圧値、PWTT、R波信号、心拍数、一回拍出量、を含む血行動態の時系列データが得られる。
【0015】
そして、診断装置100は2つの方法で、血圧反射感受性を定量化する。
A)よく知られているように、自律神経の血圧反射機能により、血圧が上がると心拍がゆっくりとなり、血管がゆるみ、心臓の収縮(一回拍出量)を減少させて血圧を下げるように作用する。したがって、心拍、血管のゆるみ、心臓の収縮が計測できれば自律神経の機能を計測できることになる。そこで、血圧反射機能が適切に作用しているか否かを、血圧反射感受性を定量化することで評価する。
【0016】
一例としては、血圧とPWTTの相互相関関数を計算し、相互相関関数が最大値となる遅れ時間において、両者の回帰直線を求める。上記の血圧反射感受性により、血圧が上がればPWTTは下がり、血圧が下がればPWTTは上がるはずなので、両者は正の相関を有すると考えられる。したがって、回帰直線の傾きから血圧反射感受性の程度を評価することができる。
【0017】
診断装置100は、血圧反射感受性の評価に応じて香りやマッサージ、メッセージを運転者を含む乗員に提供する。
【0018】
なお、同様の評価が血圧と心拍数、又は、血圧と心臓の収縮(一回拍出量)の関係からも可能である。心拍数は心電図又は脈波のいずれから(又は後述する心音図からでもよい)計測でき、心臓の収縮はインピーダンス法で計測できる。
【0019】
B)また、Mayer波(心拍数の時系列データ、血圧の時系列データなどに含まれる、約10秒を周期とするゆらぎ)を用いて血圧反射機能の定量化を提案する。この方法では、血圧と心拍数の時系列データそれぞれの低周波数成分を取り出し、両者の低周波数成分同士の相互相関係数の最大値(ρmax)を血圧反射感受性の指標とする。ρmaxは、血圧と心拍数の相関が低くなると低下するので、ρmaxから血圧反射感受性を評価できる。
【0020】
Mayer波を利用した方法は、A)よりも短時間で血圧反射感受性が得られるので、適切なタイミングで香りやマッサージを乗員に提供することが容易になる。
【0021】
〔診断装置100の概略〕
図2は、A)における診断装置100のブロック図の一例を示す。診断装置100は、制御部20により制御され、制御部20には指尖脈波計11、1対の電極12,13、香り提供部16、マッサージ部17及び表示装置18がCAN(Controller Area Network)やFlexRay等の車載LANを介して接続されている。制御部20は、例えばナビゲーション用の電子制御ユニット、ドアや室内照明を制御するボディ用電子制御ユニット、メータパネルの点灯や表示を制御するメータ用制御ユニットなどのコンピュータを実体とする。制御部20の各ブロックは、CPUがプログラムを実行するか又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア回路により実装される。
【0022】
血圧測定部14、心電図測定部15、脈波伝播時間測定部21により、血圧、心拍数、PWTT等の血管動態が得られ、これらから、遅れ時間算出部22がPWTTと血圧の相互相関関数が最大となる遅れ時間を求め、回帰直線算出部23は血圧と、最大となる遅れ時間を足したPWTTとの回帰直線を算出し、感受性評価部24は回帰直線の傾きから血圧反射感受性を評価する。乗員支援部25は、評価結果に応じて、香り提供部16、マッサージ部17、及び、表示装置18を用いて乗員の自律神経機能を調整する。
【0023】
〔 A)血圧反射感受性の検出〕
図3(a)は、診断装置100がA)の方法で血圧反射感受性を評価する手順を示すフローチャート図の一例である。以下、図3(a)に従い説明する。
【0024】
<S10>
指尖脈波計11は、例えば、ステアリングホイールの前方側のやや内側に、運転者の指先を監視できる位置、又は、アクセルペダルの指先側に配置されている。指尖脈波計11は、運転者の1以上の指先に所定の波長のLED光を照射し,その透過光(又は反射光)をフォトダイオードを用いて計測する。ヘモグロビンの流量は血流に比例すると考えられるので、ヘモグロビンに反射する波長のLED光を照射して得られる反射波から脈波が得られる。
【0025】
脈波のみから血圧を算出することもできるし、PWTTから血圧を算出することもできる。脈波のみから血圧を算出する方法がいくつか提案されているが、例えば加速度脈波を利用する。加速度脈波は、最大の振幅を示す最初の極大点を有する陽性波(a波)、a波に続く陰性波(b波)、以下、c波、d波、e波というように波形の極値を境に名称がある。例えば、このa波とe波の時間間隔を計算式に算入することで血圧値が得られる。なお、血圧は、上腕動脈、橈骨動脈などのトノメトリ法により測定してもよい。また、PWTTを用いる場合、PWTTは血圧が上昇すると短縮し、血圧が低下すると長くなることを利用して、所定の計算式を用いて血圧を算出する。なお、脈波から心拍数が測定される。
【0026】
1対の電極12、13は、例えば、ステアリングホイールに設けられ、中立状態で左右の掌が把持する部位にそれぞれ配置される。運転者の左右の掌が独立にそれぞれの電極12,13に触れると電位差が生じる。心電図測定部15はこの電位差を検出、増幅、成形することで心電図を得ることができ、心電図から例えばR波、RR間隔、心拍数等が検出できる。
【0027】
なお、脈波と心電図は時系列に取得されるが、測定ポイント間にインターバルが生じる。このため、血圧測定部14及び心電図測定部15は、時系列データに線形補間、スプライン補間を施して、それぞれ時間的に等間隔のデータに変換することが好ましい。なお、補間方法はどのような手法を用いてもよい。
【0028】
図4は、このようにして測定された心拍数(上段)、脈波(中断)、及び、PWTT(下段)の時系列データの一例を示す。脈波伝播時間測定部21は、例えば、心電図波形におけるR波の発生時刻から、対応する血圧波形の立ち上がり点の時刻との差を、PWTTとして測定する。R波の立ち上がり、脈波の立ち上がり点の時刻は、一拍分に対応する波形における最小値が得られた時刻、波形の一次微分、二次微分の立ち上がり点の時刻、高周波成分の発生時刻等から求めることができる。
【0029】
なお、R波の立ち上がりでなく心音からPWTTを検出してもよい。この場合、電極12,13の代わりに心音を集音するマイクを設ける。心音のII音の発生から末梢動脈における脈波の発生までの時間がPWTTとなる。
【0030】
また、PWTTでなく一回拍出量を用いる場合、一回拍出量は、一拍分の脈波を積分し所定の係数を乗じたり、例えば超音波心臓断層法、超音波ドプラ血流計測法、又はアドミッタンス法などにより算出することが可能である。
【0031】
<S20、S30>
遅れ時間算出部22は、血圧とPWTTの相互相関関数の値が最大となる遅れ時間を求める。図5は、血圧とPWTTの相互相関関数の一例を示す。相互相関関数の求め方はいくつかあるが例えば次式から算出される。
相互相関関数 =Σ{ a(t)×b(t+τ)/|a(t)||b(t+τ)|
a(t)は血圧、b(t)はPWTTであり、τは一拍分の周期を最大に所定の増大分を刻みながら変化する遅れ時間である。また、Σは測定点毎に加算する意味である。なお、ここでは相互相関関数を規格化した(規格化相互相関関数)。
【0032】
τを少しずつ変えながらそれぞれの相互相関関数を算出する。τに対し相互相関関数をプロットすると、図5のように、最も相互相関関数が大きくなるτmaxが「最大となる遅れ時間」である。すなわち、PWTTと血圧のいずれかを、最大となる遅れ時間ずらすことで、両者の相関が最もよくなる。
【0033】
上記のように、自律神経が正常に作用していると血圧とPWTTには相関があり、最もよく相関する遅れ時間における両者の相関性が血圧反射感受性の評価となる。
【0034】
<S40>
具体的には、回帰直線算出部23は、血圧と、最大となる遅れ時間τmaxを足したPWTTを散布図にプロットしその回帰直線を算出する。図6は、散布図と回帰直線の一例を示す。図6では血圧値を正規化している(平均値を0に標準偏差で割った)。図6の回帰直線は、次式のようになっている。
回帰直線 = 0.47×x+0.01
0.47が傾きとなる。傾きの数値自体には個人差があるが、傾きが大きくなれば血圧反射感受性が増大したこと、小さくなれば減少したことになるので、傾きの変化を監視すればその運転者の血圧反射感受性の変化を検出できる。傾きは、次述するB)の方法のゲインに相当する。
【0035】
また、回帰直線の算出で得られる相関係数R(−1〜1:−1だと完全な逆相関、0でだと相関なし、1だと完全な相関)により、血圧反射感受性を評価してもよい。すなわち、血圧反射機能が低下した状態では、血圧とPWTTとの相関が低下し相関係数が低下するからである。相関係数Rが大きくなれば血圧反射感受性が増大したこと、小さくなれば減少したことになるので、相関係数Rの変化を監視すればその運転者の血圧反射感受性の変化を検出できる。相関係数は、次述するB)の方法のコヒーレンスに相当する。
【0036】
<S50>
以上のような考えから、感受性評価部24は回帰直線の傾き又は相関係数Rの少なくとも一方から運転者の感受性を評価する。例えば、同じ運転者の過去の回帰直線の傾き及び相関係数Rを記録しておき、過去の最大値と最小値を基準に、現在の運転者の血圧反射感受性を評価する。感受性評価部24は、例えば3〜5段階程度の段階のうちいずれかの段階に血圧反射感受性を対応づけ、対応づけられた段階を評価値として乗員支援部25に出力する。評価値が大きいほど血圧反射感受性がよく、小さいほど悪い。
【0037】
<S60>
乗員支援部25は、評価値に基づき予め定めた方法で乗員を支援する。例えば、適切な香りを提供する、乗員をマッサージする、表示装置18に血圧反射感受性の評価結果や血圧、心拍数等を表示して運転中の健康管理に注意するよう喚起する。支援の詳細と効果については後に詳述する。
【0038】
〔 B)血圧反射感受性の検出〕
B)の方法による血圧反射感受性の定量化について説明する。図7は、B)における診断装置100のブロック図の一例を、図3(b)は血圧反射感受性を評価する手順を示すフローチャート図の一例である。なお、図7において図2と同一部には同一の符号を付しその説明は省略する。図7の診断装置100は、血圧、PWTTの低周波成分を抽出する低周波成分抽出部31、低周波成分同士の相互相関関数を算出する相互相関関数算出部32を有する。
【0039】
<S10、S120>
ステップS10は図3(a)と同様なので省略する。S10により血圧と心拍数の時系列データが計測されたら、ステップS120で低周波成分抽出部31は両者の低周波数成分を取り出す。
【0040】
図2のような血圧の時系列データ、心拍数の時系列データには様々な周波数成分が含まれているが、このうち低周波成分(例えば、0.04〜0.15Hz)は血圧変動由来であることが、高周波成分(例えば、0.15〜0.50Hz)は呼吸変動由来であることが知られている。したがって、低周波成分のみを取り出せば、血管反射システムの機能による成分を取り出せる。図8は、心拍数、血圧、PWTTの低周波成分(例えば、0.04〜0.15Hz)の一例を示す。
【0041】
ところで、血管運動には10秒前後のゆっくりとしたゆらぎの成分(Mayer波)があることが知られているが、このゆらぎも血圧反射感受性の機能の表れであると言われている。そこで、10秒前後の情報から血圧反射感受性を定量化することが考えられる。
【0042】
<S130>
具体的には、血圧の時系列データ、心拍数の時系列データの相互相関関数の最大値ρmaxを算出する。相互相関関数算出部32は、例えば次式から相互相関関数ρxy(τ)を算出する。なお、血圧の時系列データをx(t)、心拍数の時系列データをy(t)とした。そして、ある時刻の前後60秒(計120秒)に渡り相互相関関数ρxy(τ)を算出する。
【0043】
【数1】
相互相関関数ρxy(τ)はコヒーレンス(線形性)を示すもので0〜1の値を示すが、相互相関関数を算出するとゲインも得られる。ゲインは血圧と心拍数の振幅比であり、血圧反射感受性の強さに相当する。したがって、相互相関関数から相関の良否と血圧反射感受性の強さを定量化できることになる。相互相関関数の算出は非特許文献5に詳しい。
【0044】
<S140>
そして感受性評価部24は、τが正の領域において相互相関関数ρmax(τ)の最大値(相互相関係数ρmax)を血圧反射感受性の指標とする。すなわち、相互相関係数ρmaxが高いほど血圧反射感受性が高いことになる。
【0045】
【数2】
上記の回帰直線の傾き又は相関係数Rと同様に、相互相関係数ρmaxには個人差があるので、感受性評価部24は過去の最大値と最小値を基準に、現在の運転者の血圧反射感受性を評価する。感受性評価部24は、例えば3〜5段階程度の段階のうちいずれかの段階に血圧反射感受性を対応づけ、対応づけられた段階(数値が大きいほど血圧感受性が高い)を評価値として乗員支援部25に出力する。乗員支援の態様は、A)の方法と同様である。
【0046】
なお、相互相関関数の算出にあたり心拍数を用いたが、心拍数の代わりに一回拍出量の時系列データ、脈圧の揺らぎを用いても同様の評価(コヒーレンス、ゲイン)が可能である。
【0047】
〔血圧反射機能の線形性ρmax検出の変形例〕
ところで、脈波だけからRR間隔を算出し、血圧反射機能の線形性ρmaxを検出することもできる。これにより電極12,13や心電図測定部15を不要にすることができる。図9は、拍内積分値PWareaを用いたρmaxの検証例を示す図である。脈波の立ち上がり時点から心拍間隔を計算し、脈圧から血流量と血圧を推定する。また、心拍の時系列データと血圧の時系列データから、血圧反射機能の線形性を推定できる。
【0048】
〔乗員支援〕
乗員支援について説明する。香り提供部16は、例えばエアコンのダクトに設置された香りのタンク、香りのタンクを備えた空気砲などである。タンクには、レモンやローズ等の香り成分が封入されており、血圧反射感受性の評価値が低いような場合、レモンやローズの香り成分を放出する。
【0049】
より具体的には、評価値を5段階とした場合、交感神経が優位(評価値が例えば4以上:相関性、感受性が強い)であるため運転に支障をきたすような場合は、鎮静効果のある香り成分(ローズ、ペパーミント、ジャスミン、ブラックペッパー等)を吐出し、副交感神経が優位(評価値が例えば2以下:相関性、感受性が弱い)であるため運転に支障をきたすような場合は、覚醒効果のある香り成分(レモン、オレンジ、ラベンダー等)を吐出する。後述するようにこれらの芳香で交感・副交感神経のバンラスをコントロールでき、血圧や心拍を整え、自律神経バランスを改善することができる。本実施形態の診断装置100は、血圧反射感受性を数値で評価しているので、数値に応じて香り成分の強さを調整するなどしてもよい。
【0050】
また、マッサージ部17は、例えばシートに内蔵されたマッサージ装置である。もみ玉やバイブレータをシートバックやヘッドレストに内蔵して筋肉をほぐしたり、エアバックで脚部を加圧しながら包み込む等のマッサージを運転者を含む乗員に低供する。マッサージと血圧に関係性が強いのは経験的にも実験的にも知られており、評価値が例えば1以下の場合に運転者にマッサージを提供することで、血圧や心拍を整え、自律神経バランスを改善することができる。
【0051】
血圧反射機能の評価値から交感神経トーヌス(動脈血管壁の平滑筋を支配する神経系であり、交感神経トーヌスによる平滑筋の収縮が強くなると血圧が上昇し、弱くなると低下する)が活発で、疲れやすいと考えられる場合は、マッサージを提供することで鎮静効果が得られる。すなわち、評価値が例えば5以上の場合に運転者にマッサージを提供することで、自律神経の活動を和らげることができる。
【0052】
香り成分とマッサージは、いずれかを提供してもよいし、両方を提供してもよい。血圧反射感受性の評価値が低い状態では、香りと共にマッサージを提供することで相乗効果が期待できる。なお、マッサージは車両が信号待ち、駐車中等、車両が停止しており運転に支障がない状態で提供することが好ましい。
【0053】
また、表示装置18は、例えばナビゲーション用のディスプレイ、メータパネルの液晶ディスプレイ等であり、血圧反射感受性の評価値から診断される運転者の体調を文字又はアイコン等の少なくとも一方で提示する。音声メッセージにより提供してもよい。例えば、交感神経が優位な場合は「いらいらしていませんか? リラックスした運転を心がけましょう」と表示し、副交感神経が優位の場合は「疲労がたまっていませんか?少し休憩を取りましょう」と表示する。運転者や同乗者はこのような表示を見て、安全運転を心がけることができ、更に健康も管理できる。なお、このようなメッセージと共に香りやマッサージを提供してもよいし、運転者にこれらを提供するか否かを選択させてもよい。
【0054】
〔香りと血行動態の関係〕
香りと血行動態の関係についていくつかの実験結果を説明する。図10は、香りの放出による血行動態の変化の一例を示す。図10では上段から、心拍(HR)、一回拍出量(SV)、収縮期血圧(BP)、脈波伝播時間(PWTT)、総末梢血管抵抗(TPR)である。図示する矢印のタイミングで香り(例えば、覚醒作用のあるレモン)を提供すると、一回拍出量、収縮期血圧、PWTT、末梢血管抵抗に影響があることが認められる。したがって、運転中に香りを提供することで、血行動態とそれを支配する自律神経に治療効果があることになる。
【0055】
図11(a)は、レモンとローズの香りが心拍数に与える影響を示す図の一例である。それぞれの香りを与える直前を基準に、レモンとローズの香りにより影響された心拍数の増減を示した。心拍数はレモンの香りにより1.8増加し、ローズの香りにより10.6減少している。したがって、血圧反射感受性の評価値が低い場合には、レモンの香りを提供することで覚醒作用が得られ、血圧反射感受性の評価値が高い場合には、ローズの香りを提供することで鎮静作用が得られる。
【0056】
図11(b)は、レモンとローズの香りが収縮期血圧に与える影響を示す図の一例である。それぞれの香りを与える直前を基準に、レモンとローズの香りにより影響された収縮期血圧の増減を示した。収縮期血圧はレモンの香りにより1.0減少し、ローズの香りにより2.0増加している。血圧が下がると(上がる)と自律神経は心拍数を(上げる)(下げる)ため、レモンの香りとローズの香りのいずれにおいても、図11(a)と整合性ある結果が得られている。
【0057】
図11(c)は、レモンとローズの香りが血圧反射機能の感受性に与える影響を示す図の一例である。レモンとローズの香りにより回帰直線の傾き又はゲインに変化が現れるので、それぞれの香りを与える直前を基準に血圧反射機能の感受性の増減を示すことができる。レモンの香りにより血圧反射機能の感受性を下げることが、ローズの香りにより血圧反射機能の感受性を上げることができることが確認できる。
【0058】
したがって、上述したように、いらいらしている場合(交感神経が優位)にはレモンの香りでいらいら感を抑制でき、眠気が強いような場合(副交感神経が優位)にはローズの香りで覚醒させることができるなど、適切な香りを提供することで、運転者の自律神経機能を調整・治療することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の診断装置100は、車両操作の制約を最小限に抑制して運転者の血管動態を測定し、血管支配の自律神経機能を定量的に診断することで、運転者への適切な支援が可能となり、自律神経機能を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】車両用自律神経機能診断装置の概略を説明する図の一例である。
【図2】診断装置のブロック図の一例である。
【図3】血圧反射感受性を検出する手順を示すフローチャート図の一例である。
【図4】心拍数(上段)、脈波(中断)、及び、PWTT(下段)の時系列データの一例である。
【図5】脈波伝播時間と血圧の相互相関関数の一例を示す図である。
【図6】血圧と、最大となる遅れ時間τmaxを足した脈波伝播時間との回帰直線の一例である。
【図7】診断装置のブロック図の一例である。
【図8】心拍数、血圧、PWTTの低周波成分の一例である。
【図9】拍内積分値を用いたρmaxの検証例を示す図である。
【図10】香りの放出による血行動態の変化の一例である。
【図11】レモンとローズの香りが心拍数に与える影響を示す図の一例である。
【符号の説明】
【0061】
11 指尖脈波計
12、13 電極
14 血圧測定部
15 心電図測定部
16 香り提供部
17 マッサージ部
18 表示装置
100 車両用自律神経機能診断装置(診断装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員の自律神経機能を診断し、診断結果に応じた刺激を提供する車両用自律神経機能診断装置であって、
血管動態を検出する血管動態検出手段と、
第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段と、
第1又は第2の血管動態の時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの散布図から回帰直線を算出する回帰直線算出手段と、
回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化する血管反射システム評価手段と、
定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を運転者に提供する刺激提供手段と、
を有することを特徴とする車両用自律神経機能診断装置。
【請求項2】
第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データそれぞれから低周波成分を抽出する低周波成分抽出手段と、
第1の血管動態の低周波数成分と第2の血管動態の低周波数成分との相互相関関数の最大値を求める相互相関最大値算出手段と、を有し、
前記血管反射システム評価手段は、前期最大値から血圧反射感受性を定量化する、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項3】
第1の血管動態は血圧値、第2の血管動態は脈波伝播時間、心拍数又は一回拍出量のいずれかである、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項4】
第1の血管動態は血圧値、第2の血管動態は心拍数である、
ことを特徴とする請求項2記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項5】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性に基づき、交感神経が優位な場合は鎮静作用のある香りを放出し、副交感神経が優位な場合は覚醒作用のある香りを放出する、
ことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項6】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性の評価値が、第1の基準値以上の場合はローズの香りを運転者に提供し、第2の基準値以下の場合はレモンの香りを提供する、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項7】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性の評価値が、第3の基準値以上の場合はシート内臓のマッサージ手段により運転者をマッサージする、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項8】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性の評価値が、第4の基準値以下の場合はシート内臓のマッサージ手段により運転者をマッサージする、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項9】
車両の乗員の自律神経機能を診断して調整作用を提供する車両用自律神経機能診断方法であって、
血管動態を検出するステップと、
第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出するステップと、
第1又は第2の血管動態の時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの散布図から回帰直線を算出するステップと、
回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化するステップと、
定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を運転者に提供するステップと、
を有することを特徴とする車両用自律神経機能診断方法。
【請求項1】
車両の乗員の自律神経機能を診断し、診断結果に応じた刺激を提供する車両用自律神経機能診断装置であって、
血管動態を検出する血管動態検出手段と、
第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段と、
第1又は第2の血管動態の時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの散布図から回帰直線を算出する回帰直線算出手段と、
回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化する血管反射システム評価手段と、
定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を運転者に提供する刺激提供手段と、
を有することを特徴とする車両用自律神経機能診断装置。
【請求項2】
第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データそれぞれから低周波成分を抽出する低周波成分抽出手段と、
第1の血管動態の低周波数成分と第2の血管動態の低周波数成分との相互相関関数の最大値を求める相互相関最大値算出手段と、を有し、
前記血管反射システム評価手段は、前期最大値から血圧反射感受性を定量化する、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項3】
第1の血管動態は血圧値、第2の血管動態は脈波伝播時間、心拍数又は一回拍出量のいずれかである、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項4】
第1の血管動態は血圧値、第2の血管動態は心拍数である、
ことを特徴とする請求項2記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項5】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性に基づき、交感神経が優位な場合は鎮静作用のある香りを放出し、副交感神経が優位な場合は覚醒作用のある香りを放出する、
ことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項6】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性の評価値が、第1の基準値以上の場合はローズの香りを運転者に提供し、第2の基準値以下の場合はレモンの香りを提供する、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項7】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性の評価値が、第3の基準値以上の場合はシート内臓のマッサージ手段により運転者をマッサージする、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項8】
前記刺激提供手段は、定量化された血圧反射感受性の評価値が、第4の基準値以下の場合はシート内臓のマッサージ手段により運転者をマッサージする、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自律神経機能診断装置。
【請求項9】
車両の乗員の自律神経機能を診断して調整作用を提供する車両用自律神経機能診断方法であって、
血管動態を検出するステップと、
第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの相互相関関数が最大となる遅れ時間を検出するステップと、
第1又は第2の血管動態の時系列データに前記遅れ時間を加えて、第1の血管動態の時系列データと第2の血管動態の時系列データの散布図から回帰直線を算出するステップと、
回帰直線の傾きから血圧反射感受性を定量化するステップと、
定量化された血圧反射感受性に応じて、自律神経機能を調整する刺激を運転者に提供するステップと、
を有することを特徴とする車両用自律神経機能診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−142593(P2010−142593A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326215(P2008−326215)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]