説明

車両用衝突緩衝装置

低い設置コストで狭い設置スペース内に設置することができ、衝突した車両を緊急停止させ、且つ車両の受ける衝撃を効果的に緩和することができる車両用衝突緩衝装置であって、車両の衝突により変形して車両が受ける衝撃を軽減する緩衝体(10A)と、緩衝体(10A)を支持する支持体(20A)と、支持体(20A)を立設姿勢で設置領域(E)に保持する保持部(30A)とを備え、支持体(20A)に、所定の設定値以上の荷重が加えられると破壊し、支持体(20A)が立設姿勢で設置領域に保持された状態を解除する解除部として切り欠き(31A)を備え、支持体(20A)が、前記設定値よりも小さい荷重で塑性変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、車両の衝突が予測される路面又は路面周辺に設置され、衝突した車両を緊急停止させ、且つ車両の受ける衝撃を緩和する車両用衝突緩衝装置に関する。
【背景技術】
中央分離帯端部、分岐路や料金所の分岐点端部など、車両の衝突が予測される箇所には、二次的な事故の誘発を防ぎ、且つ乗員及び車両の被害を軽減するために、衝突した車両を緊急停止させ、且つ車両の受ける衝撃を緩和するための車両用衝突緩衝装置が設置されている。
このような車両用衝突緩衝装置として、まず鋼製のガードレールやガードロープ等のガードフェンス類が挙げられる。しかしながら、これらの装置では、衝突した車両の受ける衝撃が大きく、乗員及び車両への被害を効果的に抑制することができなかった。また、車両を大破させ易く、飛散した破片等のため二次的事故を誘発し易かった。
また、他の車両用衝突緩衝装置として、水を充填した容器タイプのものが挙げられる。しかしながら、該装置においても、衝突速度が大きい場合には車両の受ける衝撃が大きくなるなどの問題があった。また、跳ね飛ばされた容器が路面に飛散したり、容器を跳ね飛ばした後にも車両の勢いが収まらず、車両が容器の設置台を乗り越えて対向車線等に飛び出してしまうなど、二次的事故を誘発し得るという問題もあった。
このような課題に鑑み、本願発明者は、鋭意研究の結果、緩衝体と、それを支持するように地面に固定された支持体とを備えた車両用衝突緩衝装置であって、車両衝突時に設定以上の荷重が加えられると、上記支持体の地面への固定が解除されてスライド移動可能となる車両用衝突緩衝装置を、日本国公開特許公報特開2001−159107号公報(以下、特許文献1と記す)及び特開2003−64629号公報(以下、特許文献2と記す)に提案している。これにより、衝撃を効果的に吸収して車両を緊急停止させ、且つ設定値以上の荷重が車両に加わるのを防ぐことが可能となった。
しかしながら、車両用衝突緩衝装置は、中央分離帯端部等の面積が狭く限られた箇所に設置されるのが一般的であるので、円滑な交通のため又は設置可能な箇所を増やすために、装置自体を小型化すること、或いは設置スペース当たりの衝突荷重の吸収性能をより高めることが求められている。また、車両用衝突緩衝装置は、設置可能な箇所を増やすため、設置コストをより安価にすることが求められている。
【発明の開示】
本発明は、狭く限られた設置スペース内に設置することができ、衝突した車両を緊急停止させ、且つ車両の受ける衝撃を効果的に緩和することができる車両用衝突緩衝装置を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、設置コストを抑えることができる車両用衝突緩衝装置を提供することを第2の目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用衝突緩衝装置(1)は、車両の衝突により変形して該車両が受ける衝撃を軽減する緩衝体と、該緩衝体を支持する支持体と、該支持体を立設姿勢で設置領域に保持する保持部とを備え、所定の設定値以上の荷重が加えられると破壊し、前記支持体が立設姿勢で設置領域に保持された状態を解除する解除部を、前記支持体又は保持部に備え、前記支持体が、前記設定値よりも小さい荷重で塑性変形することを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(2)は、上記の車両用衝突緩衝装置(1)において、前記支持体が、パイプ状部材であり、前記保持部が、前記支持体の下部に固着されている連結部と、前記設置領域に植設されて前記連結部を前記設置領域に保持し、且つ前記解除部として機能するアンカーボルトとを備え、
前記アンカーボルトが、前記設定値以上の荷重が加えられると破壊することを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(3)は、上記の車両用衝突緩衝装置(1)において、前記保持部が、前記支持体の下部を収容する前記設置領域に形成された埋設穴を備え、前記支持体が、パイプ状部材又は棒状部材であり、前記埋設穴に収容された場合に前記設置領域の上方に位置する切り欠きを備え、前記切り欠きが、前記設定値以上の荷重が加えられると破壊の起点となり、前記解除部として機能することを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(4)は、上記の車両用衝突緩衝装置(3)において、前記支持体が、パイプ状部材であり、前記塑性変形が、前記パイプ状部材の扁平化として生じることを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(5)は、上記の車両用衝突緩衝装置(1)において、所定以上の荷重を受けて塑性変形するコイル体をさらに備え、
前記保持部が、前記支持体の下部を収容する前記設置領域に形成された埋設穴を備え、前記支持体が、パイプ状部材であり、前記設定値より小さい荷重で塑性変形し、前記コイル体の両端が、前記解除部を挟んで、前記車両の衝突により前記保持が解除される前記支持体の上部と、前記車両の衝突後にも前記保持が維持される前記支持体の下部若しくは前記保持部とに取り付けられることを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(6)は、上記の車両用衝突緩衝装置(5)において、前記コイル体が、各々の1巻きがほぼ円形の複数巻きの螺旋形状であり、中心径が110mm以上130mm以下、線径が30mm以上40mm以下、巻き数が3以上20以下であり、SS材で形成されていることを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(7)は、上記の車両用衝突緩衝装置(1)において、前記支持体が複数隣接して設置領域に保持され、前記緩衝体が、全ての前記支持体によって支持されることを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(8)は、上記の車両用衝突緩衝装置(3)、(4)又は(5)の何れかにおいて、前記保持部が、前記埋設穴に収容され、前記支持体の下部を嵌合によって保持する嵌合部材を備え、該嵌合部材が、前記解除部の破壊後もほぼ形状を維持し得る強度に形成されていることを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(9)は、上記の車両用衝突緩衝装置(2)、(4)又は(5)の何れかにおいて、前記解除部が破壊に至る前記設定値が、50kN以上900kN以下の値であり、前記支持体が扁平化の塑性変形を生じる降伏点荷重が25kN以上800kN以下の値であることを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(10)は、上記の車両用衝突緩衝装置(9)において、前記パイプ状部材が、鉄又はプラスチックを用いて形成され、外径が100mm以上800mm以下の値であり、肉厚が0.8mm以上100mm以下の値であることを特徴としている。
本発明に係る車両用衝突緩衝装置(11)は、上記の車両用衝突緩衝装置(2)、(4)又は(5)の何れかにおいて、前記パイプ状部材の内側に内部緩衝材が装填されていることを特徴としている。
上記した車両用衝突緩衝装置(1)によれば、車両が衝突すると、まず緩衝体の変形により衝撃を吸収し、次いで支持体の塑性変形により衝撃を吸収し、さらに解除部の破壊に至るまでの過程で衝撃を吸収する。そして、荷重が設定値を超える場合には、解除部が破壊されて支持体の保持が解除されるので、車両の受ける衝撃を所定の大きさまでに限定することができる。このように緩衝体及び解除部の緩衝作用に加え、支持体の塑性変形によっても衝撃を吸収することができるので、緩衝体の柔軟性に加えて、支持体の塑性変形の寄与分だけ高い衝突荷重の吸収性能を得ることができる。この際、車両用衝突緩衝装置自体の体積を拡大する必要がないので、従来のものよりも設置スペース当たりの衝突荷重の吸収性能を高くすることができる。したがって、狭く限られた設置スペース内に設置することができ、車両の受ける衝撃を効果的に緩和することができ、衝突した車両を緊急停止させることができる。特に、前記支持体の保持が解除された際に車両が次の車両用衝突緩衝装置に衝突するように、車両用衝突緩衝装置が複数個並設される場合、上記した車両用衝突緩衝装置(1)を使用すれば、並設する数を減らすこともでき、これにより設置スペースが大幅に縮小される。
車両用衝突緩衝装置(2)によれば、設定値以上の荷重が加えられると破壊するアンカーボルトを使用することにより、支持体の保持を解除する解除部を容易に実現することができる。
車両用衝突緩衝装置(3)によれば、支持体と保持部とを一本のパイプ状部材で構成することができ、支持体に形成した切り欠きを解除部として用いることにより、解除部の構成を簡単にすることができ、これらによって製造コストを抑えることができる。また、支持体の立設及び固定は、支持体の下部を設置領域に設けた埋設穴に挿入するだけでよいので、設置作業が簡単であり、設置コストを抑えることができる。また、設置に必要なスペースも狭くすることができる。さらに、切り欠きの形状によって、解除部の降伏点荷重が変化するので、破壊強度の設定を容易に最適化することができる。これにより、設置場所の状況に応じた破壊強度の解除部を有する車両用衝突緩衝装置を容易に提供することができる。
車両用衝突緩衝装置(4)によれば、パイプ状部材を支持体に用いるので、緩衝時の塑性変形としては、衝突方向に窪み、衝突方向に略垂直な方向に広がる扁平化が起こる。したがって、高さ方向の屈曲と相まって、衝突方向からの衝撃を柔軟に吸収することができる。また、扁平化は衝突方向に依存しないので緩衝作用が安定する。さらに、パイプ状部材には汎用品を利用することが可能なので、製造コストを抑えることができる。
車両用衝突緩衝装置(5)又は(6)によれば、車両の衝突によって支持体の上部が切り離された後にも、コイル体によって連続的に衝撃を吸収することができる。
車両用衝突緩衝装置(7)によれば、複数の支持体を使用しているので、支持体の塑性変形の寄与分が大きく、より高い衝突荷重の吸収性能を得ることができる。さらに衝突車両が受ける荷重が分散される。
車両用衝突緩衝装置(8)によれば、車両衝突時に設定値以上の荷重が加えられても、嵌合部材より強度の弱い切り欠きに衝撃が集中する。これにより、切り欠きをスムーズに破壊することができ、嵌合部材の損傷を効果的に抑えることができる。したがって、衝突事故の後処理の際、嵌合部材の内部及び周辺に残った残骸の除去により車両用衝突緩衝装置設置用の基礎部が回復されるので、撤去作業が簡単になる。また、嵌合部材を再利用して車両用衝突緩衝装置を再度設置することができるので、設置作業も簡単になる。したがって、設置コストだけでなく復旧コストを抑えることができ、さらに作業時間を短縮することも可能となる。
車両用衝突緩衝装置(9)によれば、設定値及び降伏点荷重を上記の範囲内の値とすることにより、上述した効果を顕著に得ることができる。
車両用衝突緩衝装置(10)によれば、パイプ状部材の降伏点荷重を上述した範囲内の値とすることができる。
車両用衝突緩衝装置(11)によれば、パイプ状部材の扁平化の際、衝撃の吸収に寄与する内部緩衝材を用いるので、内部緩衝材の形状や材質などの種類、或いは内部緩衝材の有無の選択により、パイプ状部材の衝撃吸収性能を容易に最適化することができる。これにより、設置場所の状況に応じた衝撃吸収性能を有する車両用衝突緩衝装置を容易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第一実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を示す斜視図である。
図2は、図1に示した車両用衝突緩衝装置が車両衝突の際に変形する様子を示す縦断面図である。
図3は、本発明の第二実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を示す斜視図である。
図4は、図3に示した車両用衝突緩衝装置が車両衝突の際に変形する様子を示す縦断面図である。
図5は、本発明の第三実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を示す斜視図である。
図6は、図5に示した車両用衝突緩衝装置が車両衝突の際に変形する様子を示す縦断面図である。
図7は、支持体の一例を示す横断面図である。
図8は、支持体の一部を示す図であり、(a)〜(c)は、切り欠きの形成された部分を示す斜視図であり、(d)は、切り欠きの形成された部分の縦断面図である。
図9は、嵌合部材の一例を示す縦断面図である。
図10は、本発明の第一実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を複数個併設したレイアウトの一例を示す平面図である。
図11は、本発明の第三実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を複数のポールで支持されたガードレールの端部後方に設置した様子を示す図であり、(a)及び(b)はそれぞれ斜視図及び平面図である。
図12は、本発明の第四実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を示す斜視図である。
図13は、図12に示した車両用衝突緩衝装置を複数個併設したレイアウトの一例を示す平面図である。
図14は、パイプ状部材における、加圧端の変位と荷重との関係を概略的に示す図であり、(a)は内部緩衝材を備えない場合、(b)は内部緩衝材を備えた場を示す。
図15は、本発明の第五実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を示す斜視図である。
図16は、図15に示した車両用衝突緩衝装置が車両衝突の際に変形する様子を示す縦断面図である。
図17は、図15に示した車両用衝突緩衝装置に関する加圧端の変位と荷重との関係を概略的に示す図である。
図18は、図15に示した車両用衝突緩衝装置に使用される衝突荷重を吸収するコイル体に関する測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施形態に関して、添付図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る車両用衝突緩衝装置の斜視図であり、図2の(a)〜(d)は、図1に示した車両用衝突緩衝装置が車両衝突の際に変形する様子を示す縦断面図である。
図1に示したように、本発明の第一実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100は、車両衝突により変形して車両の受ける衝撃を緩和する緩衝体10と、緩衝体10を支持する支持体20と、設置面Eに固定され、設置面Eに支持体20を立設させて保持する保持部30とを備えている。そして、保持部30は、設定値以上の荷重が加えられると破壊して支持体20の保持を解除するように破壊強度が設定されている解除部を備えている。さらに、支持体20は、設定値より小さい荷重で塑性変形するように変形強度が設定されている。
保持部30は、支持体20を立設姿勢に保持するように支持体20の下部に固着されている連結部31と、連結部31に設けられた係合孔32に通され、設置面Eに植設されるアンカーボルト33とを備えている。アンカーボルト33が解除部に該当し、設定値以上の荷重が加えられると破壊して、支持体20の保持を解除する。
ここで、車両用衝突緩衝装置100が設置される「設置面」Eは、路面又は路面近傍の地面、或いは該地面上に設けられたコンクリートなどの基礎部の上面を意味する。また、「解除」とは、支持体20が設置面E上の固定場所から離脱した状態や、支持体20が倒壊した状態など、支持体20が、緩衝体10をその緩衝作用が有効に働くように支持できなくなった状態を意味する。これらの用語は、同じ意味で本明細書全体において用いられる。
緩衝体10は、発泡性ポリスチレン(EPS:expandable polystyrene)、発泡ポリエチレン、発泡ポリフロピレン、発泡ポリウレタンなどのプラスチック緩衝材で形成されていることが望ましいが、紙系緩衝材やエアー緩衝材など他の緩衝材を適用することもできる。また本実施形態では、緩衝体10は、中央に支持体20を嵌入するための穴が設けられたドーナツ状の形状に形成されているが、車両衝突時に支持体20によって支持され得る他の形状とすることもできる。
支持体20は、パイプ形状の部材(例えば円筒形の鋼管)であり、上記塑性変形はパイプ状の支持体20の扁平化として生じるようになっている。本実施形態では、パイプ状の支持体20は鉄で形成されているが、他の金属、或いは曲げ強さの強いプラスチックなど、塑性変形により車両衝突時の衝撃を有効に吸収し得る他の素材を使用することもできる。
また本実施形態では、パイプ状の支持体20は、内部に内部緩衝材23が装填されており、雨除けの蓋部22で封じられている。内部緩衝材23としては、上記プラスチック緩衝材や紙系緩衝材、エアー緩衝材など種々の緩衝材を使用することができる。また内部緩衝材23の形状及び大きさに関しても、粒状、小石大のものから、パイプ状の支持体20内に挿入される一体型の筒状のものまで、様々な形状及び大きさのものが適用可能である。尚、このような内部緩衝材23を省略することもできる。
このように構成された本発明の第一実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100は、車両Cが衝突すると、まず図2の(b)に示すように緩衝体10の変形により衝撃を吸収し、次いで図2の(c)に示すように支持体20の塑性変形により衝撃を吸収し、さらに保持部30の破壊に至るまでの過程で衝撃を吸収する。そして、荷重が設定値を超える場合には、図2の(d)に示すように保持部30のアンカーボルト33が破壊され、支持体20の保持が解除されるので、車両Cの受ける衝撃を所定の大きさまでに限定することができる。尚、解除後、緩衝体10及び支持体20は、上述した特許文献1又は2に記載されたキャスターやガイドレールのような誘導手段(図示せず)によって略立設姿勢のままスライドされることが望ましい。
このように本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100によれば、緩衝体10及び保持部30による緩衝作用に加え、支持体20の塑性変形によっても衝撃を吸収することができるので、緩衝体10の柔軟性に加えて、塑性変形の寄与分だけ高い衝突荷重の吸収性能を得ることができる。この際、車両用衝突緩衝装置100自体の体積を拡大する必要がないので、従来のものより設置スペース当たりの衝突荷重の吸収性能を高くすることができる。したがって、狭く限られた設置スペース内に設置することができ、衝突した車両Cを緊急停止させ、且つ車両Cの受ける衝撃を効果的に緩和することができる。
本実施形態では、パイプ形状の部材、例えば円筒形の鋼管を支持体20に用いるので、衝突緩衝時の塑性変形としては、衝突方向に窪み、衝突方向に略垂直な方向に広がる扁平化が起こる。したがって、高さ方向の屈曲と相まって、衝突方向からの衝撃を柔軟に吸収することができる。
また、扁平化は衝突方向に依存しないので緩衝作用が安定する。本実施形態のように緩衝体10をドーナツ形の形状とし、支持体20に円筒形のパイプ状部材を用いた場合、全体が軸対称であるので、車両Cの衝突方向によらず緩衝体10及び支持体20、双方の緩衝作用を効果的に発揮させることができる。また、パイプ状の支持体20に汎用品を利用すれば、コストを抑えることができる。
また本実施形態では、パイプ状の支持体20の扁平化の際、衝撃の吸収に寄与する内部緩衝材23を用いるので、内部緩衝材23の形状や材質などの種類、或いは内部緩衝材23の有無の選択により、パイプ状の支持体20の衝撃吸収性能を容易に最適化することができる。これにより、設置場所の状況に応じた衝撃吸収性能を有する車両用衝突緩衝装置100を容易に実現することができる。
また、アンカーボルト33を使用することにより、設定値以上の荷重が加えられると破壊して支持体20の保持を解除する解除部を容易に実現することができる。
上述した解除部(アンカーボルト33)の破壊に至る設定値、パイプ状の支持体20の扁平化を生じる降伏点荷重、パイプ状の支持体20の材質、外径、肉厚、及び内部緩衝材23の有無又はその種類などの設定は、設置場所の状況に応じて最適化することができる。
通常の設置場所となる路面又は路面周辺では、衝突する車両重量として、0.5〜3トンの範囲内の値、衝突時の発生加速度として、100〜300m/sの範囲内の値を想定することができる。この場合、支持体20は、解除部(アンカーボルト33)の破壊に至る設定値が、50〜900kNであり、パイプ状の支持体20の扁平化を生じる降伏点荷重が25〜800kNであることが望ましい。より望ましくは、設定値が80〜400kN、降伏点荷重が50〜350kNであり、さらに望ましくは、設定値が120〜250kN、降伏点荷重が100〜200kNである。設定値及び降伏点荷重を上記の範囲内とすることにより、上述した効果を顕著に得ることができる。
また、パイプ状の支持体20を、鉄又はプラスチックで、外径100〜800mm、肉厚0.8〜100mmに形成することが望ましい。より望ましくは、外径130〜500mm、肉厚1.0〜20mmであり、さらに望ましくは、外径200〜320mm、肉厚1.6〜6mmである。これにより、パイプ状の支持体20の降伏点荷重を上述した範囲内とすることができる。
特に、プラスチック、例えば、ガラス繊維充填フェノール樹脂などの曲げ強さの強いプラスチックを適用する場合、パイプ状の支持体20を、外径100〜800mm、肉厚1.6〜100mmに形成することが望ましい。より望ましくは、外径130〜400mm、肉厚1.6〜40mmであり、さらに望ましくは、外径200〜350mm、肉厚3〜12mmである。
(第二実施形態)
図3は、本発明の第二実施形態に係る車両用衝突緩衝装置の斜視図であり、図4は、図3に示した車両用衝突緩衝装置が車両衝突の際に変形する様子を示した縦断面図である。
図示したように、本発明の第二実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Aは、車両衝突により変形して車両の受ける衝撃を緩和する緩衝体10Aと、緩衝体10Aを支持する支持体20Aとを備えている。支持体20Aは、第一実施形態の場合と同様に、パイプ形状の部材(例えば円筒形の鋼管)である。そして、支持体20Aの下部である連続部32Aは設置面Eの下方領域(以下、設置面E及びその下方領域を合わせて設置領域と記す)に埋設されており、これによって、支持体20Aが設置面Eに立設されて保持されている。さらに、支持体20Aは、設置面Eより僅かに上方の位置に切り欠き31Aを備えている。切り欠き31Aは、支持体20Aを貫通し、支持体20Aの長軸にほぼ垂直な面に沿った細長い開口として形成されている。連続部32と設置領域に形成された埋設穴とで保持部30Aを形成している。
支持体20Aの切り欠き31Aは、設定値以上の荷重による破壊の起点となる解除部である。即ち、支持体20Aの切り欠き31Aの周辺領域は、設定値以上の荷重が加えられると破壊して支持体20Aの保持が解除されるように破壊強度が設定されている。しかし、支持体20Aは、第一実施形態において説明したような塑性変形を起こすようには設計されていない。即ち、切り欠き31Aの周辺領域の破壊に至る設定値は、パイプ状の支持体20Aの扁平化を生じる降伏点荷重よりも小さく設定されている。
緩衝体10Aについては、第一実施形態のものと同様であるので説明を省略する。
このように構成された本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Aは、車両Cが衝突すると、図4の(b)に示すように緩衝体10Aの変形により衝撃を吸収する。そして、荷重が設定値を超える場合には、図4の(c)に示すように切り欠き31Aを起点としてその周辺部分が破壊されて支持体20Aの保持が解除されるので、車両Cの受ける衝撃を所定の大きさまでに限定することができる。
本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Aは、支持体20Aとして単純な一本のパイプ状部材を用い、その下部に切り欠き31Aを設けた簡単な構造であるので、製造工程が少なくて済み、製造コストを抑えることができる。
また、支持体20Aを設置するには、設置領域に埋設穴を設け、その穴に支持体20Aの下部(連続部32A)を、切り欠き31Aが設置面Eの上方に位置するように埋設すればよい。したがって、設置が容易且つ簡単であり、設置コストを抑えることができる。また、設置に必要なスペースを狭くすることができる。
(第三実施形態)
図5は、本発明の第三実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を示す斜視図であり、図6は、図5に示した車両用衝突緩衝装置が車両衝突の際に変形する様子を示した縦断面図である。
図示したように、本発明の第三実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Bは、車両衝突により変形して車両の受ける衝撃を緩和する緩衝体10Bと、緩衝体10Bを支持する支持体20Bと、設置面Eに固定され、設置面Eに支持体20Bを立設させて保持する保持部30Bとを備えている。保持部30Bは、支持体20Bの下部である連続部32Bと、設置面Eの下方に埋設され、連続部32Bを嵌合によって保持する嵌合部材34Bとから構成されている。これによって支持体20Bが立設状態に保持されている。また、第二実施形態と同様に、支持体20Bは、設置面Eより僅かに上方の位置に、解除部として、設定値以上の荷重による破壊の起点となる長い開口の切り欠き31Bを備えている。即ち、支持体20Bの切り欠き31Bの周辺領域は、設定値以上の荷重が加えられると破壊して支持体20Bの保持が解除されるように破壊強度が設定されている。さらに、第一実施形態と同様に、支持体20Bは、設定値よりも小さい荷重で塑性変形するように変形強度が設定されている。
緩衝体10Bについては、第一実施形態のものと同様であるので説明を省略する。
支持体20Bは、第一実施形態の場合と同様に、パイプ形状の部材(例えば円筒形の鋼管)であり、上記塑性変形はパイプ状の支持体20Bの扁平化として生じるようになっている。
さらに本実施形態では、嵌合部材34Bは、支持体20Bが切り欠き31Bの周辺部で破壊された後にも、略一定の形状を維持し得る強度に形成されている。このような嵌合部材34Bにおいては、降伏点荷重を80〜1500kNとすることが望ましい。本実施形態のように嵌合部材34Bを連続部32Bを収容できるように筒状に形成する場合には、嵌合部材34Bは、鉄などの金属製で、連続部32Bの外径よりも少し大きい、クリアランスが0〜30mmの範囲の値とし、肉厚3〜80mmに形成するとよい。
このように構成された本発明の第三実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Bは、車両Cが衝突すると、まず図6の(b)に示すように緩衝体10Bの変形により衝撃を吸収し、次いで図6の(c)に示すように支持体20Bの塑性変形により衝撃を吸収し、さらに切り欠き31Bの周辺の破壊に至るまでの過程で衝撃を吸収する。荷重が設定値を超える場合には、図6の(d)に示すように切り欠き31Bを起点としてその周辺部分が破壊されて支持体20Bの保持が解除されるので、車両Cの受ける衝撃を所定の大きさまでに限定することができる。
このように本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Bによれば、第一実施形態の場合と同様に、支持体20Bの塑性変形の寄与分だけ高い衝突荷重の吸収性能を得ることができ、設置スペース当たりの衝突荷重の吸収性能を高くすることができる。
また、第二実施形態の場合と同様に、支持体20Bとして単純な一本のパイプ状部材を用い、その下部に切り欠き31Bを形成した単純な構成であるので、製造コスト、設置コストを抑えることができる。さらに、狭く限られた設置スペース内に設置することができ、衝突した車両Cを緊急停止させ、且つ車両Cの受ける衝撃を緩和することができる。
また本実施形態では、嵌合部材34Bを用いるので、車両衝突時に設定値以上の荷重が加えられても、嵌合部材34Bより強度の弱い切り欠き31Bに衝撃が集中する。これにより、切り欠き31Bをスムーズに破壊することができ、嵌合部材34Bの損傷を効果的に抑えることができる。
したがって、衝突事故の後処理の際、嵌合部材34Bの内部及び周辺に残った残骸(支持体20Bの下部である連続部32Bなど)さえ除去すれば、車両用衝突緩衝装置100Bの基礎部(嵌合部材34B)が利用可能になるので、撤去及び再設置作業が非常に容易である。したがって、設置コストだけでなく復旧コストを抑えることができ、さらにそれらの所要時間を短縮することも可能となる。
上述した第一〜三実施形態においては、支持体20、20A、20Bがパイプ状の部材(例えば円筒形)である場合について説明したが、支持体は、上記のパイプ形状以外にも種々の形状とすることができる。例えば、図7の(a)〜(c)に示したH型、コ字型、S字型の断面形状の棒状部材であってもよい。しかしながら、支持体は、一般に略水平方向に衝撃を受ける緩衝体10、10A、10Bを支持するために、保持部30、30A、30Bにより立設姿勢に保持されるパイプ状部材であることが望ましい。
また、上述した第二〜三実施形態においては、切り欠き31A,31Bが支持体20A、20Bのにおける設置面Eより僅かに上方の位置に、支持体20A、20Bを貫通し、支持体20A、20Bの長軸にほぼ垂直な面に沿った細長い開口として設けられる場合を示したが、切り欠き31A、31Bはこれと異なる形状でもよく、また、開囗でなくてもよい。
例えば、連続部に、図8の(a)〜(c)に示したような種々の形状の切り欠きを備えていてもよい。図8の(a)及び(b)では、円形状や長い矩形状など、種々の形状の切り欠きが、略円周方向に沿って略1列に複数個設けられている。また、図8の(c)では、複数の円形の切り欠きが、複数の列を形成するように配置されている。
また、図8の(d)(支持体の部分的な縦断面図)に示したように、支持体を貫通せず、支持体の長軸にほぼ垂直な面に沿った細長い切り欠き(切り込みとも記す)を備えていてもよい。このような切り欠きは、パイプ状などの中空の部材の他、中実の部材に対しても適用することができる。
支持体の切り欠き周辺部の降伏点荷重は、切り欠きの形状などによって変化するので、支持体の肉厚及び強度に応じて切り欠き(寸法、形状、数、配置)を設計することにより、切り欠き周辺部の破壊強度を容易に所望の値にすることができる。したがって、設置場所の状況に応じた適切な破壊強度を有する車両用衝突緩衝装置を容易に実現することができる。
また、単独で用いられる車両用衝突緩衝装置と、複数個配列した集合として用いられる車両用衝突緩衝装置とで、切り欠きの形態を変更することができる。単独で用いられる車両用衝突緩衝装置においては、支持体の飛散を抑え、二次的事故の誘発を防ぐために、切り欠きの破壊時に、支持体が根本で設置面に繋止されたまま引き倒された状態となることが望ましい。そのため、図8の(b)に示したように、連続部の外周部の一部に繋止部311が設けられていることが望ましい。この繋止部311が、突入する車両向かって後側に位置するように、車両用衝突緩衝装置を設置することにより、衝突の際、切り欠き部分が破壊しても、裏側の繋止部311によって、或る程度、支持体部分が設置面に繋止された状態を保つことができる。
一方、複数個配列した集合として用いられる車両用衝突緩衝装置の場合、前方の車両用衝突緩衝装置においては、切り欠きの破壊時に、支持体が設置面から切り離され、略立設姿勢のままスライドされるようになっていることが望ましい。切り離され易い切り欠きは、切り欠き数の増加又は切り欠き寸法の拡大等により切り欠きの専有面積を拡大すること、隣接する切り欠きの間を狭くすること、或いは図8の(d)に示した切り込み状の部分を深くすることなどによって、容易に実現することができる。これにより、切り欠き部分の破壊後に、次の車両用衝突緩衝装置の緩衝体及び支持体による衝撃吸収効果を引き続き得ることができる。尚、支持体は、適切な誘導手段、或いはロープなどによって、その飛散が防止されるようになっていることが望ましい。また、後方の車両用衝突緩衝装置においては、上記のように支持体が根本で設置面に繋止されたまま引き倒された状態となることが望ましい。
また、上述した第三実施形態においては筒状の嵌合部材を示したが、嵌合部材は、連続部と嵌合されて支持体を立設状態に保持し、解除部(切り欠き)の破壊後も略一定の形状を維持し得る強度に形成されていればよく、様々な形状とすることができる。
図9の(a)及び(b)は、上記とは別の嵌合部材及び連続部の一例を示した縦断面図である。
図9の(a)に示した嵌合部材34Cは、設置面に埋設される床盤状部材で構成されている。床盤状部材の上面には連続部32Cが挿入される挿入孔341Cが設けられており、これにより支持体を立設させて保持するようになっている。一方、図9(b)に示した嵌合部材34Dにおいては、連続部32Dに挿入される突起部342Dが床盤状部材の上面に設けられており、これにより支持体を立設させて保持するようになっている。尚、(b)の場合には、切り欠きの位置は、突起部342Dの上端部よりも僅かに上に位置するように、支持体に形成される。
上述した第一〜三実施形態においては車両用衝突緩衝装置が単独に設置される場合を示したが、速い衝突速度が予測される場所などでは、上記のような車両用衝突緩衝装置を複数並設する方が適切な場合も多い。このような場合、図9の(a)及び(b)に示した複数の挿入孔341C或いは突起部342Dを有する嵌合部材34C又は34Dを用いると、各車両用衝突緩衝装置間の位置を設置現場で測定する必要がないので、設置作業が容易となる。
図10の(a)〜(c)は、本発明の第一実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を複数個併設したレイアウトの一例を示した平面図である。図示のように、車両用衝突緩衝装置100は、中央分離帯端部Dにおける設置面Eに設置される。
このようなレイアウトにおいては、各車両用衝突緩衝装置100を、その緩衝体10が接触する程度に隣接させ、予測される車両の衝突方向、即ち衝突し得る車両の進行方向に配列することが望ましい。これにより、1つの車両用衝突緩衝装置100に加えられる衝撃が降伏点に達して支持体20の保持が解除されても、直ぐに次の車両用衝突緩衝装置100によって衝撃を吸収することができるので、衝突した車両を短い距離で緊急停止させ、且つ車両の受ける衝撃を効果的に緩和することができる。
図10に示したような中央分離帯端部Dでは、車両用衝突緩衝装置が一般に40〜100cm程度の狭い幅に収まることが求められ、従来の緩衝装置の設置は困難である。しかしながら、本発明の第一実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100であれば、設置スペース当たりの衝突荷重の吸収性能を高くすることができるので、十分な車両停止能力及び衝撃緩和能力を保ったまま、中央分離帯端部Dのような狭い場所にも設置することができる。また場合によっては、並設する車両用衝突緩衝装置100の数を減らすことも可能となり、その場合には設置スペースが大幅に縮小される。
上記では、車両用衝突緩衝装置が中央分離帯端部に設置される場合を示したが、上述したような車両用衝突緩衝装置は、分岐路や料金所の分岐点端部など、車両の衝突が予測される様々な箇所に適用可能である。
図11の(a)は、本発明の第三実施形態に係る車両用衝突緩衝装置を複数のポールPで支持されたガードレールGの端部後方に設置した様子を示す斜視図であり、図11の(b)はその平面図である。図示のように、車両用衝突緩衝装置100Bは、ガードレールの端部後方における設置面Eに設置されている。
ガードレールGは、それに防護された領域内への車両の進入を阻止するために通常鋼製で強固に形成されている。しかしながら、ガードレールGを支持するガードレールGのポールPより外側の端部では、車両衝突時に大きく折れ曲がってしまい、十分に車両の進入を阻止することができず、防護されるべき領域が危険に晒されるという欠点があった。
図示のように、車両用衝突緩衝装置100Bは、上述のように狭く限られた設置スペース内に設置することができるので、ガードレールの端部後方における設置面Eに設置することにより、衝突した車両を緊急停止させ、且つ車両の受ける衝撃を効果的に緩和することができる。
(第四実施形態)
図12は、本発明の第四実施形態に係る車両用衝突緩衝装置の斜視図であり、図13の(a)及び(b)は、図12に示した車両用衝突緩衝装置を複数併設したレイアウトの一例を示した平面図である。尚、これは、断面形状が8字型のパイプ状の支持体を使用したものと解することができる(図7参照)。
図12に示したように、本発明の第四実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Cは、車両衝突により変形して車両の受ける衝撃を緩和する緩衝体10Cと、緩衝体10Cを支持する2つの支持体20Cと、設置面Eに固定され、設置面Eに2つの支持体20Cを立設させて保持する保持部30Cとを備えている。ここで、支持体20C及び保持部30Cは、第二又は第三の実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100A、100Bの支持体20A、20B及び保持部30A、30Bと同様の構造をしている。
車両用衝突緩衝装置100Cにおいては、第二又は第三の実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100A、100Bと異なり、切り欠き31C及び連続部32Cを有する支持体20Cと、保持部30Cとが2つ併設されており、緩衝体10Cが、2本のパイプ状の支持体20Cを囲む略楕円状の筒形となっている。また、緩衝体10Cが、直接設置面Eに接触している。これらの点で、車両用衝突緩衝装置100Cは、上記本発明の第三実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Bと相違するが、その他の構成については、第三実施形態のものと同様であるので説明を省略する。ただし、切り欠き31Cの破壊に至る設定値、及び各パイプ状の支持体20Cの扁平化を生じる降伏点荷重については、2つの支持体20Cに関するそれぞれの合計値が、上述した第一実施形態で説明した範囲内にあることが望ましい。
このように構成された本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Cによれば、第三実施形態の場合と同様に、支持体20Cの塑性変形の寄与分だけ高い衝突荷重の吸収性能を得ることができ、設置スペース当たりの衝突荷重の吸収性能を高くすることができる。特に、本実施形態では、2本のパイプ状の支持体20Cが併設されているので、支持体20Cの塑性変形の寄与分が大きく、より高い衝突荷重の吸収性能を得ることができる。さらに衝突車両が受ける荷重が分散される。
このような車両用衝突緩衝装置を複数並設する場合、図13の(a)及び(b)に示したように2本のパイプ状の支持体20Cの並び方向に垂直な方向に、複数の車両用衝突緩衝装置100Cを配列することが望ましい。また、上述のように、切り欠きの設計を変更し内部緩衝材の種類を選択することにより、配列順に複数の車両用衝突緩衝装置100Cの支持体20Cの破壊に至る設定値や扁平化を生じる降伏点荷重などを変更することができる。例えば、前方の車両用衝突緩衝装置100Cにおいては、切り欠きが上記のように略円周方向に沿った列状に複数設けられ、これにより破断し易くなっており、後方の車両用衝突緩衝装置100Cにおいては、支持体20C一部に上述したような繋止部が設けられ、これにより切り欠きの破壊時に、支持体20Cが設置面に繋止された状態を保ち得るようになっていることが望ましい。
【実施例1】
上記第一、第三又は第四実施形態に示した、パイプ状部材の扁平化により衝突荷重を吸収する車両用衝突緩衝装置において、車両質量として1トン、発生加速度として100〜300m/s、車両が衝突する部位として地面より高さ50cmの位置を想定し、好適なパイプ状の支持体の外径及び厚みの範囲を検討した。尚、外径は、JIS G3444に準拠したものを選択した。また、パイプ状の支持体としては、鋳鉄で構成された、破断応力400MPaのものを用いた。また、上記第一又は第三実施形態のように、1本のパイプ状の支持体を備えた車両用衝突緩衝装置の他、上記第四実施形態のように、2本のパイプ状の支持体を備えた車両用衝突緩衝装置、さらには3本のパイプ状の支持体を備えた車両用衝突緩衝装置を用いた。表1は、その結果を示したものである。
表中の「屈曲」及び「扁平化」の欄には、パイプ状部材の屈曲によって吸収される荷重、扁平化によって吸収される荷重をそれぞれ示した。上記想定から、上記両荷重の合計が100〜300kN以上となることが求められる。また、表中の「調整」の欄における「内部緩衝材」の記載は、パイプ状部材に内部緩衝材を装填することが望ましいことを示している。
測定は、固定された両端部までの距離がそれぞれ50cmのパイプ状部材の中央部に加圧装置の加圧端を押し当て、該加圧端の変位と荷重とを計測して行った。図14の(a)は、内部緩衝材を装填していない支持体、(b)は、内部緩衝材を装填した支持体における、加圧端の変位と荷重との関係を概略的に示したグラフである。図14の(b)に示したように、内部緩衝材を装填することにより、図14の(a)に示したグラフF1よりも領域Rの分だけ高い衝突荷重の吸収性能を示すグラフF2が得られている。

表1に示したように、外径216.3mmの場合、1本のパイプ状の支持体では、検討した3つの厚み3.5mm、7.5mm、12mmで、両荷重の合計を100〜300kN以上とすることができた。厚み3.5mm、7.5mmでは内部緩衝材を用いて調整することにより、300kN以上の荷重が求められる場合に対応することができる。したがって、この場合、少なくとも3.5〜12mmの範囲の厚みが適用可能であることが確認された。同様に、2本のパイプ状の支持体では、少なくとも1.7〜6mmの範囲の厚みが適用可能であった。
同様に、外径318.5mmの場合、同様に1本のパイプ状の支持体では、少なくとも1.6〜5mmの範囲、2本のパイプ状の支持体では、少なくとも1.6〜2.4mmの範囲、外径139.8mmの場合、同様に2本のパイプ状の支持体では、少なくとも4.5〜20mmの範囲、3本のパイプ状の支持体では、少なくとも2.9〜10mmの範囲、外径114.3mmの場合、同様に2本のパイプ状の支持体では、少なくとも4.5〜20mmの範囲、3本のパイプ状の支持体では、少なくとも2.9〜10mmの範囲の厚みが適用可能であることが分かった。
尚、表1の「緩衝体」とは、複数配列した車両用衝突緩衝装置の集合として荷重を調整することを意味する。このような集合の主に前方の車両用衝突緩衝装置では、上記のように切り離され易い切り欠きが設けられていることが望ましい。一例を示すと、外径216.3mmのパイプ状の支持体の円周方向に沿って、直径5mmの円形開口を72個一列に設けるとよい。この場合、空隙率(穴径×個数/ポール円周分)が約50%となるので破壊時に切り離され易くなる。このように支持体が切り離されることが望ましい車両用衝突緩衝装置では、パイプ状の支持体の空隙率が40〜90%となっていることが望ましい。
(第五実施形態)
図15は、本発明の第五実施形態に係る車両用衝突緩衝装置の斜視図である。本車両用衝突緩衝装置100Eは、図5に示した本車両用衝突緩衝装置100Bと同様に、緩衝体10E、支持体20E、保持部30E、及び切り欠き31Eを備え、さらに、支持体20E内部に螺旋形状のコイル体50を備えている。図5に示した本車両用衝突緩衝装置100Bと同様に、支持体20Eは、設定値より小さい荷重で塑性変形するように変形強度が設定されており、切り欠き31Eは、解除部として機能するように、所定以上の荷重を受けた場合に破壊の基点となり、支持体20Eの保持を解除するように破壊強度が設定されている。
コイル体50は、各ターン(巻回)が略同心円の円形コイルである。コイル体50は、鉄などの金属で形成されているが、弾性体ではなく、所定以上の荷重を受けて塑性変形する材料で形成されている。例えば、コイル体50の材料として、SS材などの軟鋼を使用することができる。
コイル体50は、両端にフックを備えている。支持体20Eは、その内部に、切り欠き31Eを挟んで配置された、穴を有する2つの第1及び第2の固定具51、52を備えている。コイル体50のフックは、それぞれ第1及び第2の固定具51、52の穴に掛けられている。
このように構成された本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Eが、車両Cに衝突された場合の変形の様子を図16に示す。図16の(a)の状態から、車両Cが車両用衝突緩衝装置100Eに衝突すると、まず(b)に示すように緩衝体10Eの変形及び支持体20Eの塑性変形により衝撃を吸収する。次に、(c)に示したように、切り欠き31Eを破壊の起点として支持体20Eが2つに分割されるまでの間で衝撃を吸収する。さらに、(d)に示したように、支持体20Eの上部が下部と完全に切り離された後にも車両Cが運動エネルギーを残している場合、車両Cによって支持体20Eの上部が移送される過程で、即ち、車両Cによる力を受けてコイル体50が塑性変形する間に、車両の運動エネルギーが吸収される。
本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Eは、(d)に示したコイル体50による衝撃吸収過程では、第五実施形態とは異なり、衝撃が略連続的に吸収されるので、より望ましい。図17は、図14と同様に、本実施形態に係る車両用衝突緩衝装置に関する加圧端の変位と荷重との関係を概略的に示した図である。図17にF3で示したように、図14に示したのと同様の衝撃吸収が終了した後にも、コイル体により連続的に衝撃が吸収される。図17において、グラフはコイル体50が伸張される限り右側に連続する。
通常のばね鋼などの弾性の大きいばねを用いた場合には、車両衝突エネルギーを連続的に吸収することは可能であるが、変形後の復元力が大きいために2次災害の可能性が想定される。これに対して、本実施の形態では、弾性が小さく、塑性変形に所定以上の荷重を要する材料を用いているので、復元エネルギーが極めて小さく、コイル体50が2次災害を引き起こす可能性は格段に低くなると考えられる。
上記では、コイル体50が、円形コイルである場合を説明したが、これに限定されない。塑性変形する材料であり、伸張させるのに所定以上の荷重を要し、支持体20E内部に収容された線状部材であればよい。例えば、各ターンが楕円形や多角形(等辺、不等辺)などを含む任意曲線であったり、各ターンが種々の大きさであったり、さらには、折り畳まれた線状部材であってもよい。
コイル体50の両端を支持体20Eに取り付ける手段及び取り付ける位置は、上記に限定されない。コイル体50の両端が、切り欠き31Eを上下に挟んで支持体20Eに取り付けられていればよく、例えば、コイル体50の本体部分が支持体の切り欠き31Eよりも下側の空間に収容されていてもよい。その場合には、支持体20Eの切り欠き31Eより上側の空間には、緩衝材を装填してもよい。また、コイル体50が支持体20Eの外部に取り付けられていてもよい。その場合、車両用衝突緩衝装置100Eを設置する場合には、予想される突入車両に向かって、コイル体50が後方に位置するように設置するのが望ましい。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記した第一〜第五実施形態に制限されるものではなく種々の追加や変更が可能である。例えば、上述の車両用衝突緩衝装置とともに、適宜反射シールやライト(図示せず)など、視覚的に衝突を回避させる効果のあるものを装備することもできる。
【実施例2】
図18は、第五実施形態に係る車両用衝突緩衝装置100Eで使用されるコイル体50に関する実験結果を示す図である。実験に使用したコイル体は、素材がSS材であり、各ターンの中心径Dが約62mm、線径dが約12mm、巻き数Naが3である。
図18の(a)は、上記条件のコイル体の両端に、変形速度を約200mm/分として連続的に、破断するまで力を加え、コイル体を変形させた結果を示している。(a)に示したグラフは、縦軸が荷重、横軸が変形量である。グラフから、荷重が5kN〜10kNの範囲でほぼ横ばいになっており、エネルギーが効率的に吸収されていることが分かる。
一方、日本工業規格JIS B 2704より、
τ=8DP/(πd) ・・・・(式1)
τ=κτ ・・・・(式2)
である。ここで、τはねじり応力、τはねじり修正応力、Pは荷重、κは応力修正係数である。
式1及び式2から、
P=(πdτ)/(8Dκ) ・・・・(式3)
となる。ここで、κ=(4c−1)/(4c−4)+0.615/c、c=D/dである。
式3に、(a)の実験結果を代入して、横ばいとなるτの範囲を調べる。c=5.17、κ=1.3であるので、P=5(kN)の時、τ=(8DκP)/(πd)=594(N/mm)なり、P=10(kN)の時、τ=(8DκP)/(πd)=1180(N/mm)となる。よって、τ=60.5〜121(N/mm)の範囲で、効率的にエネルギーが吸収される。
また、1ton車が衝突時、約30〜150m/sの加速度が発生するので、上記とは逆の手順で、衝撃荷重Pが約30kN〜150kNとなるコイル体の中心径Dおよび線径dを決定すれば、理想的な強度でエネルギーを吸収することができる車両用衝突緩衝装置を実現できる。例えば、コイル体にSS材を使用する場合、衝撃荷重Pが約40kN〜80kNの範囲の値とするには、中心径D、線径dが、D=110〜130(mm)、d=30〜40(mm)であればよい。
これらの条件に加えて、巻き数Naが3以上であれば、車両のエネルギーを吸収することができる距離、即ちコイル体がほぼ完全に伸張するまでの距離を、実用的な値である約1m以上にすることができる。さらに、巻き数Naが20以下であれば、実用的な値である約600mmの高さの支持体内に、コイル体を収容することができる。
図18の(b)は、(a)と同じ寸法及び材料のコイル体を使用し、(a)と同じ変形速度で力を加えてコイル体を変形させた結果である。但し、(a)と異なり、変形の途中で、破断する前に4回(P〜Pで示した位置に対応)荷重を解放した。(b)に示したグラフは、縦軸を(a)のグラフよりも拡大して表示している。グラフ中、P〜Pで示した位置で荷重を0まで減少させているが、何れの場合にも20mm程度復元しているだけである。このことから、弾性が小さく、塑性変形に所定以上の荷重を要する材料(例えば、SS材を含む軟鋼など)を用いれば、材料の塑性によりエネルギーを連続的に吸収することができ、且つ復元エネルギーが極めて小さく、コイル体が2次災害を引き起こす可能性は格段に低くなると考えられる。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、設置コストを抑えることができ、衝突した車両を緊急停止させ、且つ車両の受ける衝撃を効果的に緩和することができる車両用衝突緩衝装置を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突により変形して該車両が受ける衝撃を軽減する緩衝体と、
該緩衝体を支持する支持体と、
該支持体を立設姿勢で設置領域に保持する保持部とを備え、
所定の設定値以上の荷重が加えられると破壊し、前記支持体が立設姿勢で設置領域に保持された状態を解除する解除部を、前記支持体又は保持部に備え、
前記支持体が、前記設定値よりも小さい荷重で塑性変形することを特徴とする車両用衝突緩衝装置。
【請求項2】
前記支持体が、パイプ状部材であり、
前記保持部が、前記支持体の下部に固着されている連結部と、前記設置領域に植設されて前記連結部を前記設置領域に保持し、且つ前記解除部として機能するアンカーボルトとを備え、
前記アンカーボルトが、前記設定値以上の荷重が加えられると破壊することを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項3】
前記保持部が、前記支持体の下部を収容する前記設置領域に形成された埋設穴を備え、
前記支持体が、パイプ状部材又は棒状部材であり、前記埋設穴に収容された場合に前記設置領域の上方に位置する切り欠きを備え、
前記切り欠きが、前記設定値以上の荷重が加えられると破壊の起点となり、前記解除部として機能することを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項4】
前記支持体が、パイプ状部材であり、
前記塑性変形が、前記パイプ状部材の扁平化として生じることを特徴とする請求項3に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項5】
所定以上の荷重を受けて塑性変形するコイル体をさらに備え、
前記保持部が、前記支持体の下部を収容する前記設置領域に形成された埋設穴を備え、
前記支持体が、パイプ状部材であり、前記設定値より小さい荷重で塑性変形し、
前記コイル体の両端が、前記解除部を挟んで、前記車両の衝突により前記保持が解除される前記支持体の上部と、前記車両の衝突後にも前記保持が維持される前記支持体の下部若しくは前記保持部とに取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項6】
前記コイル体が、
各々の1巻きがほぼ円形の複数巻きの螺旋形状であり、
中心径が110mm以上130mm以下、線径が30mm以上40mm以下、巻き数が3以上20以下であり、
SS材で形成されていることを特徴とする請求項5に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項7】
前記支持体が複数隣接して設置領域に保持され、
前記緩衝体が、全ての前記支持体によって支持されることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項8】
前記保持部が、前記埋設穴に収容され、前記支持体の下部を嵌合によって保持する嵌合部材を備え、
該嵌合部材が、前記解除部の破壊後もほぼ形状を維持し得る強度に形成されていることを特徴とする請求項3、4又は5の何れかの項に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項9】
前記解除部が破壊に至る前記設定値が、50kN以上900kN以下の値であり、
前記支持体が扁平化の塑性変形を生じる降伏点荷重が25kN以上800kN以下の値であることを特徴とする請求項2、4又は5の何れかの項に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項10】
前記パイプ状部材が、
鉄又はプラスチックを用いて形成され、
外径が100mm以上800mm以下の値であり、
肉厚が0.8mm以上100mm以下の値であることを特徴とする請求項9に記載の車両用衝突緩衝装置。
【請求項11】
前記パイプ状部材の内側に内部緩衝材が装填されていることを特徴とする請求項2、4又は5の何れかの項に記載の車両用衝突緩衝装置。

【国際公開番号】WO2005/035877
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514531(P2005−514531)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011214
【国際出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(501337317)エヌケイシー株式会社 (3)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(392028103)平岡金属工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】