説明

車両用表示装置

【課題】運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことが可能な車両用表示装置を提供すること。
【解決手段】ウインドシールドの少なくとも一部において、車室内から視認可能な表示を行なう車両用表示装置(1)であって、運転者の視点から見た車外の風景に重畳するように表示を行なうことを特徴とする、車両用表示装置。車外の表示対象物を認識する表示対象物認識手段として、車外カメラ(10)やレーダー装置(20)、通信装置(30)等を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚像投影装置や光透過性表示装置等を用いてウインドシールド上に表示を行なう車両用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントガラスに映像を投影することにより、車速やナビゲーション情報等の情報、或いは車両前方の歩行者等を表示する技術が、ヘッドアップディスプレイの名称で知られている(例えば、非特許文献1参照)。この装置では、表示される情報等が、あたかもフロントガラスの外側に映っているかのように運転者に視認される。
【0003】
また、この技術を応用した画像表示装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、車両の進行方向に設定される領域内で表示対象物が検出された場合には表示対象物の位置に応じた表示を行ない、当該領域外で表示対象物が検出された場合にはその表示対象物が存在することを示す情報を表示するものとしている。また、上記領域内に在る表示対象物については枠で囲んで示す等の強調表示を行なうことについての記述がなされている。
【特許文献1】特開2001−23091号公報
【非特許文献1】トヨタ自動車株式会社、「クラウンマジェスタ新型車解説書(品番7109100)」、トヨタ自動車株式会社サービス部、2004年7月5日発行、10.ボデー&エレクトリカル、p10−222〜10−229、p10−275〜10−277
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置を含めて、従来のヘッドアップディスプレイ装置は、フロントガラスの限られた表示領域に虚像投影するものであるため、運転車がこの表示領域を見る際の視線の向きと、運転者がフロントガラスを通して実際に表示対象物を見る際の視線と、が異なるものとなる。このため、頻繁に表示領域を見る習慣のない運転者には、折角表示対象物を強調表示しても見過ごされる可能性がある。また、前方風景に擬した画像を表示領域に表示するのであるが、あくまで風景に擬した画像であるため距離感や緊急性等を直感的に把握することができず、表示対象物に応じた適切な運転操作(回避操作等)が遅れる可能性もある。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことが可能な車両用表示装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、ウインドシールドの少なくとも一部において、車室内から視認可能な表示を行なう車両用表示装置であって、運転者の視点から見た車外の風景に重畳するように表示を行なうことを特徴とするものである。ここで、「運転者の視点」は、ステレオカメラや赤外線センサー等で検出してもよいし、また、通信機能を備えた眼鏡やサングラスから出力される電波により検出してもよい。また、標準的な頭部の位置等から推定してもよい。
【0007】
この本発明の一態様によれば、運転者の視点から見た車外の風景に重畳するように表示を行なうため、運転者が表示内容を直感的に把握することができ、また、表示に注視する際の注意負担が軽減される。従って、運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことができる。
【0008】
また、本発明の一態様は、例えば、車外の表示対象物を認識する表示対象物認識手段と、表示対象物認識手段により認識された表示対象物の位置を特定する位置特定手段と、を備え、位置特定手段により特定された表示対象物の位置に基づいて、運転者の視点から見た表示対象物に重畳するように、表示対象物の強調表示を行なうものである。この場合の具体例として、ウインドシールドに映像を投影する投影手段と、運転者の視点から見た表示対象物の位置に相当するウインドシールド上の位置を表示位置として算出する表示位置算出手段と、を備え、表示位置に映像を投影することにより、運転者の目に映る虚像が表示対象物に重畳するように投影手段を制御することが考えられる。
【0009】
また、本発明の一態様において、表示対象物は、例えば、車両、歩行者、信号、道路標識、及び緊急車両のいずれかを少なくとも含む。
【0010】
また、本発明の一態様において、自車両のブレーキ操作が必要な所定走行局面であるか否かを判定する所定走行局面判定手段を備え、表示対象物は、先行車両のブレーキランプを含み、所定走行局面判定手段により自車両のブレーキ操作が必要な所定走行局面であると判定された場合に表示位置算出手段により算出されたウインドシールド上の位置に先行車両のブレーキランプを強調表示すると、好適である。この場合、先行車両のブレーキランプの強調表示は、先行車両のブレーキランプが点灯したように擬した表示であると好適である。
【0011】
これらにより、運転者は先行車両がブレーキを踏んだように錯覚し、直感的に自車両においてもブレーキ操作が必要であることを認識することができる。従って、単に「ブレーキが必要です」或いは「前方注意」等のメッセージ表示を行なう表示装置に比して、より早い応答速度で運転者にブレーキ操作を行なわせることができる。更に、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。
【0012】
また、本発明の一態様において、自車両の進路変更が必要な所定走行局面であるか否かを判定する所定走行局面判定手段を備え、表示対象物は、先行車両の方向指示器を含み、所定走行局面判定手段により自車両の進路変更が必要な所定走行局面であると判定された場合に、表示位置算出手段により算出されたウインドシールド上の位置に先行車両の方向指示器を強調表示すると、好適である。
【0013】
これにより、運転者は先行車両がこれから進路変更をするものと判断し、直感的に自車両においても進路変更が必要であることを認識することができる。従って、単に「この先、左に(又は右に)進路変更が必要です」等のメッセージ表示を行なう表示装置に比して、運転車はより自然に車両の進路変更に備えて減速や前方注意等を行なうことができる。更に、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。
【0014】
また、本発明の一態様において、先行車両の減速度を特定する減速度特定手段と、先行車両のブレーキランプの点灯状態を検知する点灯状態検知手段と、を備え、減速度特定手段により所定減速度以上の減速度が特定され、且つ点灯状態検知手段により先行車両のブレーキランプが点灯していないことが検知されたことを含む所定条件を満たす場合に、先行車両のブレーキランプが点灯したように擬した表示をすることを特徴とするものとしてもよい。
【0015】
こうすれば、運転者は先行車両がブレーキを踏んだように錯覚し、直感的に自車両においてもブレーキ操作が必要であることを認識することができる。従って、単に「ブレーキが必要です」或いは「前方注意」等のメッセージ表示を行なう表示装置に比して、より早い応答速度で運転者にブレーキ操作を行なわせることができる。更に、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。また、より必要な場面に限定した表示を行うことができる。
【0016】
また、本発明の一態様において、先行車両と自車両の相対関係を特定する相対関係特定手段と、相対関係特定手段により特定された先行車両と自車両の相対関係に基づいて警告が必要か否かを決定する警告要否判定手段と、先行車両のブレーキランプの点灯状態を検知する点灯状態検知手段と、を備え、警告要否判定手段により警告が必要と判定され、且つ点灯状態検知手段により先行車両のブレーキランプが点灯していないことが検知されたことを含む所定条件を満たす場合に、先行車両のブレーキランプが点灯したように擬した表示をすることを特徴とするものとしてもよい。ここで、「相対関係」とは、例えば、相対速度及び車間距離の双方、又はいずれか一方である。また、相対速度と車間距離の双方により求められる車間時間であってもよい。
【0017】
こうすれば、運転者は先行車両がブレーキを踏んだように錯覚し、直感的に自車両においてもブレーキ操作が必要であることを認識することができる。従って、単に「ブレーキが必要です」或いは「前方注意」等のメッセージ表示を行なう表示装置に比して、より早い応答速度で運転者にブレーキ操作を行なわせることができる。更に、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。また、より必要な場面に限定した表示を行うことができる。
【0018】
また、本発明の一態様のうち、点灯状態検知手段により先行車両のブレーキランプが点灯していないことが検知されたことを含む所定条件下で表示を行うものにおいて、自車両の運転者の減速意思を検知する減速意思検知手段を備え、所定条件は、減速意思検知手段により自車両の運転者の減速意思が検知されなかったことを更に含むものとしてもよい。
【0019】
また、本発明の一態様のうち警告要否判定手段を備えるものにおいて、運転者の減速傾向を学習する減速傾向学習手段を備え、警告要否判定手段は、減速傾向学習手段により学習された運転者の減速傾向に基づいて警告が必要か否かを決定する手段であるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことが可能な車両用表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0022】
[第1実施例]
以下、本発明の第1実施例に係る車両用表示装置1について説明する。車両用表示装置1は、ヘッドアップディスプレイ装置や光透過性表示装置等を用いて、運転者から見た車外の風景に重畳するようにウインドシールド上に表示を行なう装置である。
【0023】
図1は、車両用表示装置1の全体構成の一例を示す図である。車両用表示装置1は、表示対象物を認識すると共にその位置を検出する手段としての車外カメラ10、レーダー装置20、及び通信装置30と、フロントウインドシールド40に虚像投影するHUDユニット50と、運転者の視点を認識するための車室内カメラ60A、60Bと、装置全体を制御する表示装置用ECU(Electronic Control Unit)70と、を備える。なお、本図において、情報通信の流れは破線矢印で示しており、当該車内通信は、CAN(Controller Area Network)やBEAN、AVC−LAN等の適切な通信プロトコルを用いて行なわれる。
【0024】
車外カメラ10は、例えば、ウインドシールド40の内側上部に配設されたCCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を利用したカメラであり、車両前方を撮像する。車外カメラ10の撮像画像は、例えばNTSC(National Television Standards Committee)等のインターレース方式により生成される画像信号として表示装置用ECU70に送信される。
【0025】
レーダー装置20は、例えば、フロントグリル裏に配設されたミリ波レーダー装置であり、ミリ波の反射波が帰ってくるまでの時間、反射波の角度、及び周波数変化を利用して物体の距離、方位、速度を検出する。レーダー装置20は、このような検出を定期的に行なって、検出した物体に関する情報を表示装置用ECU70に送信する。なお、物体の距離等を検出する手段としては、ミリ波レーダー装置の他に、レーザーレーダーや赤外線レーダー、ソナー、ステレオカメラ装置等が考えられる。
【0026】
通信装置30は、民間情報サービスを提供するための施設である情報センターから携帯電話等の無線ネットワークを介して送信されるサービス情報を受信するための受信機や、ビーコン受信機、FM/AM放送受信機、DSRC(Dedicated Short Range Communication)用受信機等を含む。なお、DSRCとは、既にETC(Electronic Toll Collection System;自動料金収受システム)において実用化されている通信技術であり、専用狭域通信を意味する。通信装置30は、このような種々の通信態様により車外の各種情報を受信して表示装置用ECU70に送信する。なお、通信装置30は常時情報を受信可能な状態で作動していてもよいし、表示装置用ECU70からの指示により作動する(受信可能な状態となる)ものであってもよい。また、通信装置30は、自車両の現在位置を特定するための、GPS受信機、及びDGPS(Diffrential GPS;相対測位方式)やRTK-GPS(Real Time Kinematic GPS;干渉測位方式)に用いられる基準局からの電波を受信する基準局電波受信機を含んでよい。
【0027】
フロントウインドシールド40は、例えば、ガラス等の光透過性素材により形成され、車外と車室内を遮断すると共に、運転者を含む乗員が車外の風景を視認可能にしている。
【0028】
図2は、HUDユニット50の構成を示す断面図である。HUDユニット50は、ウインドシールド40上の表示位置に映像を投影することにより、あたかも運転者の視点から当該表示位置を見た延長線上の位置(車外の位置)に存在するかのような虚像として、映像の内容を表示する。
【0029】
HUDユニット50は、例えばインストルメントパネル42の上面に形成された凹部42Aにその全体が収納される。そして、コンビネーションメータ44の裏側に配設され、車両の進行方向に向けて発光表示を行なう液晶ディスプレイ52と、液晶ディスプレイ52が発する光を反射してウインドシールド40に投影する反射鏡54と、を備える。反射鏡54は、例えば複数のモーターとギヤ機構等を有する駆動装置56により回転駆動及び前後駆動され、ウインドシールド40上の表示位置を所望の位置に設定可能にしている。また、液晶ディスプレイ52と反射鏡54との間には、焦点調節機構58が配設されており、運転者の目に映る虚像の遠近感を調節可能となっている。液晶ディスプレイ52の表示内容の決定や、駆動装置56及び焦点調節機構58の駆動制御は、表示装置用ECU70によって行なわれる。なお、液晶ディスプレイ52及び反射鏡54は、車両幅方向に十分な長さを有するものとする。
【0030】
車室内カメラ60A、60Bは、例えば、ルームミラー及びフロントボデーピラー(運転者側)にそれぞれ配設され、運転者の頭部を撮像する。車室内カメラを複数備えるのは、立体画像認識により運転者の視点を特定するためである。車室内カメラ60A、60Bの撮像画像は、車外カメラ10の撮像画像と同様に表示装置用ECU70に送信される。
【0031】
表示装置用ECU70は、例えば、CPUを中心としてROMやRAM等がバスを介して相互に接続されたコンピューターユニットであり、その他、I/Oポートやタイマー、カウンター等を備える。なお、ROMには、CPUが実行するプログラムやデータが格納されている。
【0032】
図3は、表示装置用ECU70のCPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに展開(ロード)して実行することにより実現される主要な機能ブロックと、情報通信の流れを示す図である。表示装置用ECU70は、表示対象物認識部72と、位置特定部74と、視点位置算出部76と、HUD制御部78と、を備える。
【0033】
表示対象物認識部72は、運転者が運転上注意を要する車外の表示対象物を認識する。本実施例では、表示対象物は、信号、道路標識、及び緊急車両である。なお、「信号」とは信号機全体を指すものであってもよいし、運転上注意を要するもの、すなわち、赤信号、又は赤信号及び黄信号に限定してもよい。また、信号の表示部分に限定して強調表示するものであってよい。道路標識についても、運転上注意を要する道路標識(例えば速度制限標識や一旦停止、一方通行等)に限定してもよい。
【0034】
表示対象物の認識は、例えば、車外カメラ10の撮像画像解析や、通信装置30により受信された情報に基づいて行なうことができる。具体的には、車外カメラ10の撮像画像において特徴点抽出処理やパターンマッチング処理を行なって信号や道路標識を認識したり、色彩及び輝度に基づいて信号を認識したりすることができる。また、信号や道路標識、緊急車両から専用狭域通信による電波が発信されている場合はこれを受信して表示対象物を認識してもよいし、前述した情報センターから送信されるサービス情報に信号や道路標識、緊急車両に関する情報が含まれている場合はこれを受信して表示対象物を認識してもよい。
【0035】
位置特定部74は、表示対象物認識部72が認識した表示対象物の位置を特定する。表示対象物の位置は、例えば車両の特定の箇所(例えばレーダー装置20の配設位置等)を基準位置とし、基準位置を原点とする三次元直交座標系上の座標として表現される(三次元極座標系上の座標として表現されてもよい)。表示対象物の位置特定についての具体的手法は、例えば、レーダー装置20により表示対象物の距離及び方位を検出し、これを三次元直交座標系上の座標に変換する。また、信号や道路標識、緊急車両から専用狭域通信による電波が発信されている場合はこれを受信して表示対象物の位置を特定してもよいし、前述した情報センターから送信されるサービス情報に信号や道路標識、緊急車両に関する情報が含まれている場合はこれを受信して表示対象物の位置を特定してもよい。この場合、表示対象物の位置が地球上の絶対座標(緯度、経度、高度)により表現されているものとすれば、前述したGPS受信機や基準局電波受信機を用いて特定される自車両の現在位置を基準として表示対象物の位置を算出すればよい。
【0036】
なお、以上説明した如く、表示対象物を認識してその位置を特定するための手法としては、種々のものが存在する。本実施例においては、画像解析、レーダーによる位置検出、及び通信により認識及び位置特定を行なうものとして例示したが、必ずしもこれらの全てを備える必要がある訳ではないし、更に他の手法により認識及び位置特定を行なうものとしてもよい。
【0037】
視点位置算出部76は、車室内カメラ60A、60Bの撮像画像に対して立体画像認識を行ない、運転者の視点の位置(目の位置;より具体的には、両目の中間の位置等)を算出する。立体画像認識の具体的手法については、既に種々の手法が公知となっているため、詳細な説明を省略する。なお、運転者の視点の位置は、例えば前述した基準位置を原点とする三次元直交座標系上の座標として表現される。
【0038】
HUD制御部78は、このように認識及び位置が特定された表示対象物の強調表示を行なうように、液晶ディスプレイ52の表示内容を決定すると共に、駆動装置56や焦点調節機構58の駆動制御を行なう。以下、順を追って説明する。
【0039】
まず、表示対象物の位置と運転者の視点の位置とを結ぶ仮想直線の式を算出する。そして、この仮想直線とフロントウインドシールド40の交点を求め、これを表示位置とする。なお、表示装置用ECU70のROMにはフロントウインドシールド40の三次元形状モデルが予め記憶されており、この三次元形状モデルを用いて表示位置を求めるものとする。
【0040】
そして、表示位置に映像を投射することにより光が運転者の目に届くように、液晶ディスプレイ52の表示内容を決定し、駆動装置56を駆動制御する。すなわち、HUDユニット50から表示位置に向けて投影する光がフロントウインドシールド40で反射されて運転者の視点に至るように、液晶ディスプレイ52上の表示位置(発光位置)や反射鏡54の位置を調節するのである。また、表示対象物と表示位置との距離、及び表示位置と運転者の視点との距離に応じた遠近感をもって虚像が視認されるように、焦点調節機構58を駆動制御する。
【0041】
こうすることにより、運転者により視認される虚像が表示対象物に重畳することとなる。なお、強調表示は、例えば表示対象物の輪郭を印象の強い色で枠線表示するものあってもよいし、表示対象物全体が発光しているように擬した表示を行なうものであってもよい。従って、液晶ディスプレイ52では、表示対象物の輪郭表示や発光表示等を適切な形状及び表示サイズで行なう必要がある。形状については、車外カメラ10の撮像画像における表示対象物の輪郭(表示対象物認識部72の処理において把握されていることが想定される)を用いることとすればよい。また、表示サイズについては、例えば車外カメラ10の撮像画像における表示対象物のサイズに、表示対象物と表示位置との距離に応じて減少する傾向の所定の乗数を乗じる等の手法により、求めることができる。
【0042】
図4は、本実施例の車両用表示装置1が表示を行なった結果、運転者の目に映る風景の一例を示す図である。図示する如く、信号機、及びその手前の停止線(道路標識に含まれる概念である)が強調表示されている。これを見た運転者は、信号機に注意が引き付けられるため、信号機を見過ごすような事態を抑制することができる。また、停止線を強調表示することにより停止位置の認識・発見が容易となるため、運転負荷を軽減することができる。その他の道路標識や緊急車両についても、図4と同様に強調表示されるため、道路標識を見過ごすような事態を抑制することができ、また、車外でサイレン音が鳴った際に緊急車両を目で探す労力等を軽減することができる。更に、車外の風景に重畳表示することにより、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。従って、安全運転に寄与すると共に運転者の運転負荷を軽減することができる。
【0043】
こうした効果は、表示領域を独立した風景として表現する従来のヘッドアップディスプレイ装置と比較して顕著なものである。図5は、従来のヘッドアップディスプレイ装置において信号機や停止線を強調表示した場合の、運転者の目に映る風景を示す図である。このような風景において例えば信号機が強調表示されていることに運転者が気付くためには、表示領域を注視している必要がある。ところが、車両を運転している運転者は、通常、あらゆる方向に気を配っているものであり、頻繁に表示領域を見る習慣のない運転者の場合、折角表示対象物を強調表示しても見過ごされる可能性がある。また、停止線を強調表示したとしても、表示領域の中での距離感と実際の風景の中での距離感は異なるものであるため、停止位置までの距離感等を直感的に認識することができない。
【0044】
この点、本実施例の車両用表示装置1は、運転者が通常気を配っている車外の風景に重畳して強調表示を行なうため、表示対象物を見過ごす可能性は低くなる。また、表示対象物までの距離感等を直感的に認識することができる。従って、運転上注意を要する表示対象物に関して、より適切な注意喚起を行なうことができる。
【0045】
なお、フロントウインドシールド40の角度や曲率によっては表示位置の設定可能領域が制限される可能性もあるが、(1)液晶ディスプレイ52自体を可動にする、(2)液晶ディスプレイ52を十分大きいものとする、(3)映像投影装置をインストルメントパネル42の上面以外の箇所にも配設してHUDユニット50が投影不可能な領域をカバーする、(4)インストルメントパネル42の上面に液晶ディスプレイを上向きに配設して映像を直接投影する(この場合、遠近感の調節は比較的困難であるが)、等の手法により、フロントウインドシールド40の略全域に映像を投影して運転者の目に虚像が映るようにすることは可能である。
【0046】
また、信号や道路標識が運転者の目から見てフロントウインドシールドの左上側に出現する可能性が高いことを考慮すれば、フロントウインドシールドの左上側に投影用領域を設けて、運転者から投影用領域を通して見える表示対象物のみを強調表示の対象とし、投影用領域の全域に映像投影可能なHUDユニットを備えるものとしてもよい。
【0047】
以上説明した本実施例の車両用表示装置1によれば、運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことができる。
【0048】
[第2実施例]
以下、本発明の第2実施例に係る車両用表示装置2について説明する。なお、第1実施例の車両用表示装置1と第2実施例の車両用表示装置2とは排他的又は択一的な関係にあるものではなく、双方の機能を有する装置も実現可能である。
【0049】
車両用表示装置2は、車両用表示装置1と同様のハードウエア構成を有するが、表示装置用ECU70の処理において相違する。従って、ハードウエア構成については図1を参照することとし、各構成要素について同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
また、本実施例において、表示対象物は、先行車両のブレーキランプ及び方向指示器である。また、本実施例の表示装置用ECU70は、第1実施例と比較すると、所定走行局面判定部77を更に備え(図6参照)、第1実施例と共通する機能ブロックについても、視点位置算出部76を除き、異なる機能を有する。従って、これらの相違点を中心に説明する。
【0051】
表示対象物認識部72は、先行車両のブレーキランプ及び方向指示器を認識する前段階として、まず先行車両自体を認識する。ここで、先行車両とは、自車両の直前を自車両と同一方向に走行している車両をいう。先行車両の認識は、車外カメラ10の撮像画像解析やレーダー装置20による自車両と同一方向に移動している物体の認識、通信装置30により受信された情報に基づいて行なう。そして、先行車両を撮像した撮像画像に基づいて、ブレーキランプ及び方向指示器を認識する。
【0052】
位置特定部74は、まず、第1実施例と同様にレーダー装置20又は通信装置30により先行車両における代表点(例えば、バンパー後端部等)の位置を特定する。そして、代表点を基準とするブレーキランプ及び方向指示器の方位角を、車外カメラ10の撮像画像と先行車両までの距離に基づいて算出し、(自車両と代表点との距離、代表点の方位角+代表点を基準とするブレーキランプの方位角)及び(自車両と代表点との距離、代表点の方位角+代表点を基準とする方向指示器の方位角)で表現される極座標系上の座標を三次元直交座標系上の座標に変換して、ブレーキランプ及び方向指示器の位置を特定する。
【0053】
所定走行局面判定部77は、自車両のブレーキ操作が必要な第1の所定走行局面であるか否か、及び自車両の進路変更が必要な第2の所定走行局面であるか否かを判定する。第1の所定走行局面であるか否かの判定は、種々の手法により行なうことができる。例えば、(A)車外カメラ10の撮像画像により先行車両のブレーキランプが点灯したことや、赤信号等(黄信号、赤又は黄色の点滅信号等を含んでよい)を認識した場合、(B)レーダー装置20により先行車両との距離が急速に(或いは所定距離以内に)縮まった場合、(C)車載ナビゲーション装置又は通信装置30により、前方に一時停止位置や踏み切り、急カーブ、急な下り勾配、スクールゾーン、赤信号等(黄信号、赤又は黄色の点滅信号等を含んでよい)、等が存在する旨の情報を取得した場合、(D)先行車両が制駆動力に関する何らかの自動制御を行なっており、これから制動力の出力を行なう旨を先行車両が周辺車両に対して通信により通知するものと仮定し、当該通知を通信装置30により受信した場合、等において第1の所定走行局面であると判定することができる。
【0054】
第2の所定走行局面であるか否かの判定は、例えば、(α)先行車両から前方の障害物に関する情報を受信した場合、(β)車載ナビゲーション装置から前方に急カーブや車線減少等が存在する旨の情報を取得した場合、等において第2の所定走行局面であると判定することができる。
【0055】
HUD制御部78は、所定走行局面判定部77により第1又は第2の所定走行局面であると判定された場合に、表示対象物の位置と運転者の視点の位置とに基づき表示位置を求め、表示位置に映像を投射することにより虚像が表示対象物に重畳するように、液晶ディスプレイ52、駆動装置56、及び焦点調節機構58を制御する。
【0056】
また、本実施例における強調表示は、第1の所定走行局面においては、先行車両のブレーキランプに重畳する赤色の光を表示する(図7(A)参照)。こうすることにより、運転者は先行車両がブレーキを踏んだように錯覚し、直感的に自車両においてもブレーキ操作が必要であることを認識することができる。従って、単に「ブレーキが必要です」或いは「前方注意」等のメッセージ表示を行なう表示装置に比して、より早い応答速度で運転者にブレーキ操作を行なわせることができる。普段の運転局面において、先行車両のブレーキランプが点灯した場合に自車両のブレーキ操作を意識する習慣は、通常の経験を有する運転者であれば自然と身に付いているものだからである。更に、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。
【0057】
更に、所定走行局面判定部77の判定局面における上記(A)〜(D)のそれぞれの場合に生ずる特有の効果について説明する。(A)の場合、実際にも先行車両のブレーキランプが点灯している(或いはその可能性が高い)のであるが、実際にも先行車両のブレーキランプが点灯している場合は、先行車両のブレーキランプの点灯を強調してより明確にすることができる。また、実際に先行車両のブレーキランプが点灯していない場合は、先行車両のブレーキランプの点灯に先立って運転者にブレーキ操作の必要性を認識させることができる。(B)の場合、特にエンジンブレーキ等によりブレーキランプの点灯を伴わずに先行車両が減速した際に、これを運転者に認識させることができる。また、(C)及び、(D)の場合、先行車両のブレーキランプの点灯に先立って運転者にブレーキ操作の必要性を認識させることができる。従って、いずれの場合にも、より早い応答速度で運転者にブレーキ操作を行なわせることができる。更に、車外の風景に重畳表示することにより、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。
【0058】
一方、第2の所定走行局面における強調表示は、先行車両の方向指示器に重畳する黄色ないしオレンジ色の光を点滅表示する(図7(B)参照)。こうすることにより、運転者は先行車両がこれから進路変更をするものと判断し、直感的に自車両においても進路変更が必要であることを認識することができる。従って、単に「この先、左に(又は右に)進路変更が必要です」等のメッセージ表示を行なう表示装置に比して、運転車はより自然に車両の進路変更に備えて減速や前方注意等を行なうことができる。更に、車外の風景に重畳表示することにより、運転者が表示に注視する際の注意負担も軽減される。
【0059】
以上説明した本実施例の車両用表示装置2によれば、安全運転に寄与すると共に運転者の運転負荷を軽減することができる。また、運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことができる。
【0060】
[第3実施例]
以下、本発明の第3実施例に係る車両用表示装置3について説明する。なお、第1実施例の車両用表示装置1、第2実施例の車両用表示装置2、及び第3実施例の車両用表示装置3は、排他的又は択一的な関係にあるものではなく、夫々の機能を兼ね備える装置も実現可能である。
【0061】
車両用表示装置3は、車両用表示装置1と同様のハードウエア構成を有するが、表示装置用ECU70の処理において相違する。従って、ハードウエア構成については図1を参照することとし、各構成要素について同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
本実施例において、表示対象物は、先行車両のブレーキランプである。本実施例の表示装置用ECU70は、第1実施例と比較すると、点灯状態検知部79を更に備え(図8参照)、第1実施例と共通する機能ブロックについても、視点位置算出部76を除き、異なる機能を有する。従って、これらの相違点を中心に説明する。
【0063】
表示対象物認識部72は、先行車両のブレーキランプを認識する前段階として、まず先行車両自体を認識する。ここで、先行車両とは、自車両の直前を自車両と同一方向に走行している車両をいう。先行車両の認識は、車外カメラ10の撮像画像解析やレーダー装置20による自車両と同一方向に移動している物体の認識、通信装置30により受信された情報に基づいて行なう。そして、先行車両を撮像した撮像画像に基づいて、ブレーキランプを認識する。
【0064】
位置特定部74の機能については、第2実施例と同様である。
【0065】
点灯状態検知部79は、車外カメラ10の撮像画像を解析して、先行車両のブレーキランプが点灯しているか否かを検知する。例えば、車外カメラ10の撮像画像のうち先行車両のブレーキランプに相当する部分に対して、輝度に関する閾値を設定してブレーキランプ点灯の有無を判定する。なお、点灯状態検知部79は、表示対象物認識部72等に包含される機能ブロックであってもよい。また、通信装置30により先行車両からブレーキランプの点灯状態に関する情報を取得してもよい。
【0066】
そして、HUD制御部78は、先行車両の減速度が所定減速度以上であり、且つ点灯状態検知部79により先行車両のブレーキランプが点灯していないと判定された場合に、先行車両のブレーキランプの位置と運転者の視点の位置とに基づき表示位置を求め、表示位置にブレーキランプの点灯色(典型的には、赤色)の映像を投射するように液晶ディスプレイ52、駆動装置56、及び焦点調節機構58を制御する(以下、擬似表示と称する)。これにより、ブレーキランプの点灯色の虚像が先行車両のブレーキランプに重畳し、あたかも先行車両のブレーキランプが点灯したように運転者の目に映ることとなる。この場合に運転者の目に映る風景は、第2実施例において示した図7(A)と同様である。
【0067】
なお、先行車両の減速度は、その速度変化から導出される。先行車両の速度については、レーダー装置20により検出された相対速度から自車両の車速を差し引いて導出することができる。なお、第1実施例と同様、レーダー装置20は、レーザーレーダーや赤外線レーダー、ソナー、ステレオカメラ装置等による置換が可能である。また、相対速度は、車外カメラ10の撮像画像における先行車両のサイズの変化に基づいて導出することも可能であり、通信装置30により先行車両から減速度に関する情報を取得してもよい。
【0068】
本実施例の場合、先行車両のブレーキランプが点灯していない場合、すなわち点灯に擬した表示の必要性が高い場合に限定して擬似表示を行うことしている。以下にその理由について述べる。
【0069】
先行車両の減速度が閾値以上である場合、通常は、先行車両の運転者がブレーキペダルを踏み込んでおり、先行車両のブレーキランプが点灯しているものと考えられる。自車両の運転者においては、先行車両のブレーキランプ点灯を視認することにより、先行車両との衝突を避けるべく減速動作を開始することが想定される。
【0070】
ところが、車両の減速はエンジンブレーキや空気抵抗、道路勾配等によっても起こり得るものであり、また、先行車両のブレーキランプが故障、電球切れ等の状態であることもあり得る。これらの場合、先行車両が減速しているにも拘らず先行車両のブレーキランプが点灯していないため、運転者が直感的に危険を察知することができない。
【0071】
そこで、このような場合には擬似表示を行うことにより、運転者に前方注意を促そうとするものである。擬似表示を行うこと自体の奏する効果は、第2実施例と同様である。
【0072】
また、先行車両のブレーキランプが実際には点灯していない場合に限定して擬似表示を行うことにより、電力消費の低減を図ることができ、また、測定誤差等により誤った位置に表示された場合の煩わしさを抑制することができる。
【0073】
図9は、本実施例の表示装置用ECU70が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、表示装置用ECU70により繰り返し実行される。
【0074】
まず、先行車両の減速度を導出し(S300)、先行車両の減速度が所定減速度以上であるか否かを判定する(S310)。先行車両の減速度が所定減速度未満であると判定された場合は、何も処理を行わずに本フローの1ルーチンを終了する。
【0075】
先行車両の減速度が所定減速度以上であると判定された場合は、先行車両のブレーキランプが点灯しているか否かを判定する(S320)。先行車両のブレーキランプが点灯している場合は、何も処理を行わずに本フローの1ルーチンを終了する。
【0076】
先行車両の減速度が所定減速度以上であると判定され(S310のYes)、且つ先行車両のブレーキランプが点灯していないと判定された場合は(S320のNo)、擬似表示を行う(S330)。
【0077】
以上説明した本実施例の車両用表示装置3によれば、安全運転に寄与すると共に運転者の運転負荷を軽減することができる。また、運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことができる。更に、先行車両のブレーキランプが点灯していない場面に限定して擬似表示を行うため、電力消費の低減等を図ることができる。
【0078】
[第4実施例]
以下、本発明の第4実施例に係る車両用表示装置4について説明する。なお、第1実施例の車両用表示装置1、第2実施例の車両用表示装置2、第3実施例の車両用表示装置3、及び第4実施例の車両用表示装置4は、排他的又は択一的な関係にあるものではなく、夫々の機能を兼ね備える装置も実現可能である。
【0079】
図10は、車両用表示装置4の全体構成の一例を示す図である。図示する如く、車両用表示装置4は、車両用表示装置1と比較すると、減速意思検知用センサー90を更に備えるハードウエア構成となっている。その他の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0080】
本実施例において、表示対象物は、先行車両のブレーキランプである。本実施例の表示装置用ECU70は、第3実施例の車両用表示装置3が有する機能ブロックに加え、警告要否判定部80を更に備える(図11参照)。
【0081】
警告要否判定部80は、先行車両と自車両の相対関係に基づいて、運転者に対する警告が必要か否かを判定する。ここで、相対関係とは、相対速度及び車間距離の双方、又はいずれか一方である。また、相対速度と車間距離の双方により求められる車間時間であってもよい。以下では相対速度と車間距離の双方を勘案して警告要否を決定するものとして説明する。また、先行車両と自車両との相対速度(以下、自車両を基準とした先行車両の速度をいうものとする)、及び車間距離は、レーダー装置20により検出された情報を参照して用いる。警告要否判定部80は、相対速度が所定速度(負の値)以下であり、車間距離が所定距離未満であり、且つ、自車両の運転者の減速意思を検知しなかった場合に、運転者に対する警告が必要であると判定する。すなわち、自車両が先行車両にある程度以上接近しているにも拘らず運転者の減速意思を検知しなかった場合に、運転者に対する警告が必要であると判定する。
【0082】
運転者の減速意思は、減速意思検知用センサー90の出力を参照して行なう。減速意思検知用センサー90としては、例えば車速センサーやGセンサー、ブレーキペダルセンサー、アクセル開度センサー等が考えられる。そして、運転者の減速意思は、車速の低下、減速Gの発生、ブレーキペダルが踏み込まれたこと、或いはアクセルペダルが戻されたこと(エンジンブレーキの作用が推認される)等をもって検知する。なお、採用される検知手法に応じて、適切な閾値等が設定される。
【0083】
点灯状態検知部79の機能については、第3実施例と同様である。
【0084】
そして、HUD制御部78は、警告要否判定部80により運転者に対する警告が必要であると判定され、且つ点灯状態検知部79により先行車両のブレーキランプが点灯していないと判定された場合に、先行車両のブレーキランプの位置と運転者の視点の位置とに基づき表示位置を求め、表示位置にブレーキランプの点灯色(典型的には、赤色)の映像を投射するように液晶ディスプレイ52、駆動装置56、及び焦点調節機構58を制御する(以下、擬似表示と称する)。これにより、ブレーキランプの点灯色の虚像が先行車両のブレーキランプに重畳し、あたかも先行車両のブレーキランプが点灯したように運転者の目に映ることとなる。この場合に運転者の目に映る風景は、第2実施例において示した図7(A)と同様である。
【0085】
本実施例の場合も、第3実施例と同様、先行車両のブレーキランプが点灯していない場合、すなわち擬似表示の必要性が高い場合に限定して表示を行うこととしている。
【0086】
自車両が先行車両に接近している場合、先行車両が減速しており、従って先行車両の運転者がブレーキペダルを踏み込んでいるため、先行車両のブレーキランプが点灯している可能性が高い。自車両の運転者においては、先行車両のブレーキランプ点灯を視認することにより、先行車両との衝突を避けるべく減速動作を開始することが想定される。
【0087】
ところが、車両の減速はエンジンブレーキや空気抵抗、道路勾配等によっても起こり得るものであり、また、先行車両のブレーキランプが故障、電球切れ等の状態であることもあり得る。これらの場合、先行車両が減速しているにも拘らず先行車両のブレーキランプが点灯していないため、運転者が直感的に危険を察知することができない。
【0088】
そこで、このような場合には擬似表示を行うことにより、運転者に前方注意を促そうとするものである。擬似表示を行うこと自体の奏する効果は、第2実施例及び第3実施例と同様である。
【0089】
また、先行車両のブレーキランプが実際には点灯していない場合に限定して擬似表示を行うことにより、電力消費の低減を図ることができ、また、測定誤差等により誤った位置に表示された場合の煩わしさを抑制することができる。
【0090】
また、運転者の減速意思を検知した場合に表示を行わないため、更に擬似表示を行う場面を限定することができる。この結果、電力消費の低減を更に図ることができ、また、測定誤差等により誤った位置に表示された場合の煩わしさをより抑制することができる。
【0091】
図12は、本実施例の表示装置用ECU70が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、表示装置用ECU70により繰り返し実行される。
【0092】
まず、先行車両と自車両の相対速度、及び車間距離を取得し(S400)、これに基づいて警告が必要であるか否かを判定する(S410)。警告が不要であると判定された場合は、何も処理を行わずに本フローの1ルーチンを終了する。
【0093】
警告が必要であると判定された場合は、先行車両のブレーキランプが点灯しているか否かを判定する(S420)。先行車両のブレーキランプが点灯している場合は、何も処理を行わずに本フローの1ルーチンを終了する。
【0094】
警告が必要であると判定され(S410のYes)、且つ先行車両のブレーキランプが点灯していないと判定された場合は(S420のNo)、擬似表示を行う(S430)。
【0095】
以上説明した本実施例の車両用表示装置4によれば、安全運転に寄与すると共に運転者の運転負荷を軽減することができる。また、運転者に対して車外環境に関する適切な注意喚起を行なうことができる。更に、先行車両のブレーキランプが点灯していない場面に限定して擬似表示を行うため、電力消費の低減等を図ることができる。
【0096】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0097】
例えば、フロントウインドシールド40において表示を行うものとして説明したが、サイドウインドシールドやリアウインドシールドにもそれぞれ対応するHUDユニットを備え、運転者の周囲に表示を行なうものとしてもよい。
【0098】
また、HUDユニットを用いて表示するものに限られず、例えば光透過性表示装置をウインドシールドに重ねて配設してもよい。また、光透過性表示装置自体がウインドシールドを兼ねるものであってもよい。
【0099】
また、歩行者や他車両等を表示対象物として扱ってもよい。
【0100】
また、表示対象物を認識すると共にその位置を検出する手段として、近赤外線カメラ等の他の手段を備えてもよい。更に、車外の音を検知するためのマイクを備え、サイレン音により緊急車両の存在を認識するものとしてもよい。
【0101】
また、第3実施例において、減速意思検知用センサー90を備え、第4実施例の如く運転者の減速意思が検知されなかった場合に限定して擬似表示を行うものとしてもよい。
【0102】
また、第3実施例において、先行車両と自車両の相対速度及び車間距離の双方、又はいずれか一方を更に加味して擬似表示を行うものとしてもよい。一例を挙げると、先行車両の減速度が所定減速度以上であり、相対速度が所定減速度以上であり、車間距離が所定距離未満であり、且つ先行車両のブレーキランプが点灯していない場合に擬似表示を行う。
【0103】
また、第4実施例において、運転者の減速意思を、擬似表示を行うための条件としないものとしてもよい。この場合、減速意思検知用センサー90は不要となる。
【0104】
また、第4実施例において、先行車両と自車両の相対速度及び車間距離のいずれか一方を加味せずに警告が必要か否かを判定するものとしてもよい。
【0105】
また、減速意思検知用センサー90は、シフトレバーに配設されたタッチセンサー、ターンシグナルレバースイッチ等、実施例で例示したデバイス以外のものであってもよい。すなわち、シフトダウン操作がなされたことや、ターンシグナルレバーが倒されたことをもって運転者の減速意思を検知するのである。
【0106】
また、第3、第4実施例における擬似表示は、ブレーキランプ点灯ではなく、ハザードランプ点灯に擬した表示であってもよい。
【0107】
また、第4実施例において、運転者の減速傾向を学習し、学習結果に基づいて警告が必要か否かを決定してもよい。具体的には、図13に示す如く、擬似表示を行った後の運転者の減速行動をRAM等に記憶し(S440)、記憶された減速行動の履歴に基づいて警告要否判定部80が判定基準とする所定速度や所定距離を変更する。例えば、運転者が原則を開始した減速開始タイミングにおける相対速度や車間距離の平均を導出し、当該平均値に若干の付加値を加算又は減算して所定速度や所定距離を決定することとすればよい。こうすれば、より運転者の運転傾向に沿ったタイミングで擬似表示、すなわち警告が行われることとなる。
【0108】
また、第3、第4実施例で例示した如き手順により擬似表示が必要であると判定した場合に、自車両側の設備でフロントウインドシールド上に擬似表示を行うのではなく、通信により先行車両にブレーキランプ点灯を依頼する車両用通信制御装置5として構成されることも考えられる。この場合の必要な構成要素としては、図14に示す如く、先行車両のブレーキランプ点灯状態を検知するための車外カメラ110と、先行車両と自車両の相対速度等を検出するためのレーダー装置120と、通信装置130と、機能ブロックとして点灯状態検知部141や警告要否判定部142を備える通信制御装置用ECU140と、が挙げられる(夫々、実施例の車外カメラ10、レーダー装置20、通信装置30、点灯状態検知部79、警告要否判定部80と同様の機能を有するものとする)。通信制御装置用ECU140は、通信制御部143を更に備える。通信制御部143は、例えば、警告要否判定部142が、先行車両と自車両の相対速度が所定速度以下であること、及び車間距離が所定距離未満であることを条件として警告が必要と判定し、且つ点灯状態検知部141が、先行車両のブレーキランプが点灯していないと判定した場合に、ブレーキランプ点灯依頼信号を先行車両に送信する。これを受信した先行車両では、原則としてブレーキペダル操作と連動して行われるブレーキランプの点灯制御に対して、割り込み制御を行ってブレーキランプを点灯させる。これにより、上記実施例の如く擬似表示を行ったのと同様、運転者に直感的に危険を察知させて前方注意を促すことができる。また、自車両の運転者の減速意思を検知して擬似表示の必要性を判定する場合、実施例の減速意思検知用センサー90と同様のものを更に備えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】車両用表示装置1の全体構成の一例を示す図である。
【図2】HUDユニット50の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】第1実施例に係る表示装置用ECU70のCPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される主要な機能ブロックと、情報通信の流れを示す図である。
【図4】第1実施例に係る車両用表示装置1が表示を行なった結果、運転者の目に映る風景の一例を示す図である。
【図5】従来のヘッドアップディスプレイ装置において信号機や停止線を強調表示した場合の、運転者の目に映る風景を示す図である。
【図6】第2実施例に係る表示装置用ECU70のCPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される主要な機能ブロックと、情報通信の流れを示す図である。
【図7】第2実施例に係る車両用表示装置2、第3実施例に係る車両用表示装置3、又は第4実施例に係る車両用表示装置4が表示を行なった結果、運転者の目に映る風景の一例を示す図である。
【図8】第3実施例に係る表示装置用ECU70のCPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される主要な機能ブロックと、情報通信の流れを示す図である。
【図9】第3実施例に係る表示装置用ECU70が実行するフローチャートの一例である。
【図10】車両用表示装置4の全体構成の一例を示す図である。
【図11】第4実施例に係る表示装置用ECU70のCPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される主要な機能ブロックと、情報通信の流れを示す図である。
【図12】第4実施例に係る表示装置用ECU70が実行するフローチャートの一例である。
【図13】第4実施例において運転者の減速傾向を学習した結果に基づいて警告が必要か否かを決定する場合のフローチャートの一例を示す図である。
【図14】車両用通信制御装置5の全体構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0111】
1、2、3、4 車両用表示装置
5 車両用通信制御装置
10、110 車外カメラ
20、120 レーダー装置
30、130 通信装置
40 フロントウインドシールド
50 HUDユニット
52 液晶ディスプレイ
54 反射鏡
56 駆動装置
58 焦点調節機構
60A、60B 車室内カメラ
70 表示装置用ECU
72 表示対象物認識部
74 位置特定部
76 視点位置算出部
77 所定走行局面判定部
78 HUD制御部
79、141 点灯状態検知部
80、142 警告要否判定部
90 減速意思検知用センサー
140 通信制御装置用ECU
143 通信制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインドシールドの少なくとも一部において、車室内から視認可能な表示を行なう車両用表示装置であって、
運転者の視点から見た車外の風景に重畳するように表示を行なうことを特徴とする、
車両用表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用表示装置であって、
車外の表示対象物を認識する表示対象物認識手段と、
該表示対象物認識手段により認識された表示対象物の位置を特定する位置特定手段と、を備え、
該位置特定手段により特定された表示対象物の位置に基づいて、運転者の視点から見た前記表示対象物に重畳するように、該表示対象物の強調表示を行なうことを特徴とする、
車両用表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用表示装置であって、
前記ウインドシールドに映像を投影する投影手段と、
運転者の視点から見た前記表示対象物の位置に相当する前記ウインドシールド上の位置を表示位置として算出する表示位置算出手段と、を備え、
該表示位置に映像を投影することにより、運転者の目に映る虚像が前記表示対象物に重畳するように前記投影手段を制御することを特徴とする、車両用表示装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の車両用表示装置であって、
前記表示対象物は、車両、歩行者、信号、道路標識、及び緊急車両のいずれかを少なくとも含む、車両用表示装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載の車両用表示装置であって、
自車両のブレーキ操作が必要な所定走行局面であるか否かを判定する所定走行局面判定手段を備え、
前記表示対象物は、先行車両のブレーキランプを含み、
前記所定走行局面判定手段により自車両のブレーキ操作が必要な所定走行局面であると判定された場合に前記表示位置算出手段により算出されたウインドシールド上の位置に前記先行車両のブレーキランプを強調表示することを特徴とする、車両用表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用表示装置であって、
前記先行車両のブレーキランプの強調表示は、先行車両のブレーキランプが点灯したように擬した表示であることを特徴とする、
車両用表示装置。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれかに記載の車両用表示装置であって、
自車両の進路変更が必要な所定走行局面であるか否かを判定する所定走行局面判定手段を備え、
前記表示対象物は、先行車両の方向指示器を含み、
前記所定走行局面判定手段により自車両の進路変更が必要な所定走行局面であると判定された場合に、前記表示位置算出手段により算出されたウインドシールド上の位置に前記先行車両の方向指示器を強調表示することを特徴とする、
車両用表示装置。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用表示装置であって、
先行車両の減速度を特定する減速度特定手段と、
前記先行車両のブレーキランプの点灯状態を検知する点灯状態検知手段と、を備え、
前記減速度特定手段により所定減速度以上の減速度が特定され且つ前記点灯状態検知手段により前記先行車両のブレーキランプが点灯していないことが検知されたこと、を含む所定条件を満たす場合に、前記先行車両のブレーキランプが点灯したように擬した表示をすることを特徴とする、
車両用表示装置。
【請求項9】
請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用表示装置であって、
先行車両と自車両の相対関係を特定する相対関係特定手段と、
該相対関係特定手段により特定された先行車両と自車両の相対関係に基づいて警告が必要か否かを決定する警告要否判定手段と、
前記先行車両のブレーキランプの点灯状態を検知する点灯状態検知手段と、を備え、
前記警告要否判定手段により警告が必要と判定され且つ前記点灯状態検知手段により前記先行車両のブレーキランプが点灯していないことが検知されたこと、を含む所定条件を満たす場合に、前記先行車両のブレーキランプが点灯したように擬した表示をすることを特徴とする、
車両用表示装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の車両用表示装置であって、
自車両の運転者の減速意思を検知する減速意思検知手段を備え、
前記所定条件は、前記減速意思検知手段により自車両の運転者の減速意思が検知されなかったことを更に含む、
車両用表示装置。
【請求項11】
請求項9、又は請求項9に係る請求項10に記載の車両用表示装置であって、
運転者の減速傾向を学習する減速傾向学習手段を備え、
前記警告要否判定手段は、前記減速傾向学習手段により学習された運転者の減速傾向に基づいて警告が必要か否かを決定する手段である、
車両用表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−94377(P2008−94377A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5122(P2007−5122)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】