車両用走行エネルギー演算システム
【課題】車両の走行エネルギーを精度良く演算することができる車両用走行エネルギー演算システムを提供する。
【解決手段】 車両用走行エネルギー演算システム1は、車両に搭載されたECU8及び車両DB9と、センターCに設置されたセンターDB12とを備えている。車両DB9には、車両パラメータ、各種センサの検出値、自車両の運転者の速度偏差値及び加速度偏差値等が格納される。センターDB12には、道路パラメータ、任意地点における複数の運転者の速度特性データ及び加速度特性データ等が格納される。ECU8は、自車両の運転者の速度偏差値及び加速度偏差値と複数の運転者の速度特性データ及び加速度特性データとに基づいて、自車両が走行経路上の任意地点を通るときの速度及び加速度を推測し、その推測結果に基づいて自車両の走行パワーを求める走行パワー演算部16を有している。
【解決手段】 車両用走行エネルギー演算システム1は、車両に搭載されたECU8及び車両DB9と、センターCに設置されたセンターDB12とを備えている。車両DB9には、車両パラメータ、各種センサの検出値、自車両の運転者の速度偏差値及び加速度偏差値等が格納される。センターDB12には、道路パラメータ、任意地点における複数の運転者の速度特性データ及び加速度特性データ等が格納される。ECU8は、自車両の運転者の速度偏差値及び加速度偏差値と複数の運転者の速度特性データ及び加速度特性データとに基づいて、自車両が走行経路上の任意地点を通るときの速度及び加速度を推測し、その推測結果に基づいて自車両の走行パワーを求める走行パワー演算部16を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行エネルギーを演算する車両用走行エネルギー演算システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行エネルギーを演算する従来技術としては、例えば特許文献1に記載されているように、車両の予定走行経路に関する情報を取得し、その予定走行経路を走行するのに必要な駆動エネルギー(走行エネルギー)を求めるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−287302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、運転者の運転行動特性(主に走行速度)が全く考慮されていない。このため、走行エネルギーを精度良く演算することができない虞がある。
【0005】
本発明の目的は、車両の走行エネルギーを精度良く演算することができる車両用走行エネルギー演算システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の走行エネルギーを演算する車両用走行エネルギー演算システムであって、車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する速度推定手段と、速度推定手段により推定された走行速度を用いて、車両が任意地点を走行するときの走行エネルギーを求める走行エネルギー算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
このように本発明の車両用走行エネルギー演算システムにおいては、車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する。このため、車両の運転者の運転行動特性(運転の癖)を考慮した走行速度が得られることになる。これにより、その走行速度を用いることで、運転者の運転行動特性を反映した精度の良い走行エネルギーを得ることができる。
【0008】
好ましくは、車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段と、車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段とを更に備える。
【0009】
このとき、好ましくは、第1記憶手段が車両に搭載され、第2記憶手段が車両の外部に設置されている。例えば車両の運転者が1人(例えば所有者のみ)である場合には、そのような構成とすることで、車両用走行エネルギー演算システムを最も簡単に実現することができる。
【0010】
また、車両の運転者を特定する運転者特定手段を更に備え、第1記憶手段及び第2記憶手段が車両の外部に設置されており、速度推定手段は、運転者特定手段により特定された運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定しても良い。この場合には、例えばレンタカーやカーシェア等のように1台の車両を運転する運転者が複数存在するときでも、運転者特定手段により車両の運転者を特定することで、運転者の運転行動特性を考慮した走行速度を得ることができる。
【0011】
また、好ましくは、走行エネルギー算出手段は、速度推定手段により推定された走行速度と車両に関するパラメータと車両が通る道路に関するパラメータとに基づいて、任意地点における勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗を計算して走行エネルギーを求める。走行エネルギーは、走行抵抗(勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗の合計)と走行速度とを掛け合わせることにより得られる。従って、走行速度と車両に関するパラメータと道路に関するパラメータを用いることで、走行エネルギーを簡単に求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両の運転者の運転行動特性を反映した高精度の走行エネルギーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの一実施形態の概略を示すブロック図である。
【図2】運転者が既に通ったことのある地点に対する運転者の速度偏差値及び加速度偏差値を求める概念を示す図である。
【図3】運転者が通ったことのない地点に対する運転者が運転する車両の速度及び加速度を推定する概念を示す図である。
【図4】図1に示した速度偏差値演算部により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図1に示した加速度偏差値演算部により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図6】図1に示した走行パワー演算部により実行される走行パワー演算処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】図6に示した走行速度を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図8】図6に示した勾配抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図9】図6に示した空気抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図10】図6に示した加速度及びギヤ段を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図11】ギヤ段特性データの分布の一例を示すグラフである。
【図12】図6に示した加速抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図13】ギヤ段と回転部分相当質量との関係を表したテーブルの一例を示す表である。
【図14】図6に示した転がり抵抗による必要パワーの推定に使用される転がり抵抗係数を求める処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図15】速度を横軸とし、転がり抵抗を縦軸とした一次関数の一例を示すグラフである。
【図16】図6に示した転がり抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図17】本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの他の実施形態の概略を示すブロック図である。
【図18】図17に示した速度偏差値演算部により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図19】図17に示した加速度偏差値演算部により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図20】図17に示した走行エネルギー演算部により走行速度を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図21】図17に示した走行エネルギー演算部により加速度及びギヤ段を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの一実施形態の概略を示すブロック図である。同図において、本実施形態の車両用走行エネルギー演算システム1は、車両に搭載されたナビゲーション2、車速センサ3、加速度センサ4、エンジントルクセンサ5、回転数センサ6、ギヤ段センサ7、ECU(Electronic Control Unit)8、車両データベース(車両DB)9及び通信機10と、センターCに設置されたコントローラ11、センターデータベース(センターDB)12及び通信機13とを備えている。
【0016】
ナビゲーション2は、GPS(全地球測位システム)を利用して自車両の現在位置を検出し、自車両の目的地への走行経路案内を行ったり、内蔵メモリに記憶された道路地図データベースの情報から車両が走行している道路線形情報等を取得する。
【0017】
車速センサ3は、自車両の車速(走行速度)を検出する。加速度センサ4は、自車両の加速度を検出する。エンジントルクセンサ5は、自車両のエンジントルクを検出する。回転数センサ6は、自車両のエンジン回転数を検出する。ギヤ段センサ7は、自車両の使用ギヤ段を検出する。
【0018】
車両DB9には、自車両に関する車両パラメータ(車両諸元や物理定数の静的情報)、車速センサ3、加速度センサ4、エンジントルクセンサ5、回転数センサ6及びギヤ段センサ7の時刻毎の検出値、任意地点における自車両の運転者の速度偏差値、加速度偏差値及びギヤ段偏差値、自車両の運転者の総合速度偏差値、総合加速度偏差値及び総合ギヤ段偏差値が格納される。車両パラメータとしては、車両質量m、重力加速度g、効力係数Cd、空気密度ρ、正面投影面積Aがある。
【0019】
ECU8は、ナビゲーション2の情報の入力、車速センサ3、加速度センサ4、エンジントルクセンサ5、回転数センサ6及びギヤ段センサ7の検出信号の入力、車両DB9に対するデータの書き込み・読み出し、通信機10を介したセンターCとの無線通信を行い、自車両が走行経路を走行するときの走行エネルギーを演算する。
【0020】
センターCのコントローラ11は、通信機13を介してECU8と無線通信を行うと共に、センターC全体を制御する。センターDB12には、車両が走行する道路に関する道路パラメータ、任意地点における複数の運転者の速度特性データ、加速度特性データ及びギヤ段特性データが格納される。道路パラメータとしては、道路の傾斜角θ、転がり抵抗係数μ,μ’がある。
【0021】
ECU8は、具体的には、速度偏差値演算部14と、加速度偏差値演算部15と、走行パワー演算部16とを有している。速度偏差値演算部14は、自車両の運転者の速度偏差値を求める。加速度偏差値演算部15は、自車両の運転者の加速度偏差値を求める。走行パワー演算部16は、自車両の運転者の速度偏差値及び加速度偏差値と複数の運転者の速度特性データ及び加速度特性データとに基づいて、自車両が走行経路上の任意地点を通るときの速度及び加速度を推測し、その推測結果に基づいて自車両の走行エネルギー(走行パワー)を求める。
【0022】
このような速度偏差値演算部14、加速度偏差値演算部15及び走行パワー演算部16の演算処理に関し、まず自車両の運転者が一度も通ったことのない道路を走行するときの速度及び加速度を推定し、走行パワーを推定する方法について簡単に説明する。
【0023】
図2は、運転者Aが既に通ったことのある地点Pに対する運転者Aの速度偏差値及び加速度偏差値を求める概念を示す図である。同図において、地点Pは当然他の運転者も通ったことのある道路であるため、地点Pにおける多くの運転者の速度情報及び加速度情報がセンターDB12に集約されている。
【0024】
まず、そのような多くの運転者の速度情報及び加速度情報と地点Pにおける運転者A自身の速度vAP及び加速度aAPとに基づいて、センターDB12に集まった全データを母集団とする中の運転者Aの速度偏差値及び加速度偏差値が計算される。そして、この速度偏差値及び加速度偏差値に、運転者Aによる他の道路の走行も含めた過去の偏差値情報を加味して、運転者Aの速度偏差値及び加速度偏差値の平均値(総合的な速度偏差値及び加速度偏差値)が計算される。ここでは、地点Pにおける今回の走行の速度偏差値及び加速度偏差値として61,64がそれぞれ算出され、これに過去の偏差値情報を加味した総合的な速度偏差値及び加速度偏差値として60,65がそれぞれ算出されたものとする。
【0025】
図3は、運転者Aが通ったことのない地点Qに対する運転者Aが運転する車両の速度及び加速度を推定する概念を示す図である。同図において、センターDB12には、走行特性データ(速度特性データ及び加速度特性データ)として多くの運転者の速度情報及び加速度情報が集約されており、速度及び加速度に関する母集団の数値分布が得られている。
【0026】
ここで、運転者Aの総合的な速度偏差値及び加速度偏差値は既に分かっているので、その値及び母集団の数値分布から、運転者Aの速度vAQ及び加速度aAQを推定する。そして、その運転者Aの速度及び加速度と車両DB9に登録された車両パラメータとセンターDB12に登録された道路パラメータとに基づいて、運転者Aの運転する車両が地点Qを走行するときの走行パワーを推測する。
【0027】
走行パワーは、走行抵抗Fに走行速度vを乗じることにより得られる。走行抵抗Fは、下記式で表される。
F=μmg+μ’mg・v+CdρA・v2/2+mgsinθ+(m+m*)a
ただし、μ:転がり抵抗係数(速度に比例しない分)
μ’:転がり抵抗係数(速度に比例する分)
m:車両質量[kg](乗員や積荷を含めた値)
g:重力加速度[9.8m/s2]
v:速度[m/s]
Cd:効力係数
ρ:空気密度[1.25kg/m3]
A:正面投影面積[m2]
θ:傾斜角[rad]
m*:回転部分相当質量[kg]
a:加速度[m/s2]
【0028】
図4は、速度偏差値演算部14により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。ここで、車両は、走行経路上の任意の地点(地点Rとする)を走行するが、その地点Rは、車両の運転者が初めて通る道でも良いし、何度か通ったことのある道でも良い。
【0029】
同図において、まず地点Rにおける車速センサ3の計測値(速度)vrを入力し、これを車両DB9に格納する(手順S101)。続いて、過去に地点Rを通った様々な運転者の走行速度に関する分布を形成するために、車速センサ3の計測値vrを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB12にアップする(手順S102)。続いて、地点Rにおける複数の運転者の速度特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S103)。速度特性データは、例えば図2の左側のグラフに示すような分布を形成している。続いて、速度特性データと車速センサ3で計測された速度vrとから、自車両の運転者に係わる速度偏差値Tvnを求める(手順S104)。そして、その速度偏差値Tvnを車両DB9に格納する(手順S105)。
【0030】
続いて、自車両の運転者に係わる過去の複数の速度偏差値を車両DB9から読み出す(手順S106)。このとき、速度偏差値を道路種別、天候、時間帯等といった幾つかの意味のあるカテゴリー毎に類別し、該当するカテゴリーの速度偏差値のみを読み出しても良い。例えば、国道かつ晴れのカテゴリーに格納された速度偏差値のみを読み出すようにすることで、晴れているときの広い道では速度が高めであるが、雨になると極端に速度が下がる、等の傾向に対応することが可能となる。
【0031】
続いて、下記式により複数の速度偏差値の平均値Tvaveを計算し、この値を総合速度偏差値とする(手順S107)。
Tvave=(Tv1+Tv2+…+Tvn)/n
【0032】
そして、総合速度偏差値Tvaveを車両DB9に格納する(手順S108)。このとき、手順S106においてカテゴリー別に速度偏差値を読み出す場合には、それに準じてカテゴリー別に総合速度偏差値Tvaveを格納する。
【0033】
図5は、加速度偏差値演算部15により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。ここでも、車両は、上述した任意の地点Rを走行するものとする。
【0034】
同図において、まず地点Rにおける加速度センサ4の計測値(加速度)arを入力し、これを車両DB9に格納する(手順S111)。続いて、過去に地点Rを通った様々な運転者の加速度に関する分布を形成するために、加速度センサ4の計測値arを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB12にアップする(手順S112)。続いて、地点Rにおける複数の運転者の加速度特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S113)。加速度特性データは、例えば図2の右側のグラフに示すような分布を形成している。続いて、加速度特性データと加速度センサ4で計測された加速度arとから、自車両の運転者に係わる加速度偏差値Tanを求める(手順S114)。そして、その加速度偏差値Tanを車両DB9に格納する(手順S115)。
【0035】
続いて、自車両の運転者に係わる過去の複数の加速度偏差値を車両DB9から読み出す(手順S116)。このとき、上記と同様に、加速度偏差値をカテゴリー毎に類別し、該当するカテゴリーの加速度偏差値のみを読み出しても良い。
【0036】
続いて、下記式により複数の加速度偏差値の平均値Taaveを計算し、この値を総合加速度偏差値とする(手順S117)。そして、その総合加速度偏差値Taaveを車両DB9に格納する(手順S118)。
Taave=(Ta1+Ta2+…+Tan)/n
【0037】
図6は、走行パワー演算部16により実行される走行パワー演算処理の手順を示すフローチャートである。
【0038】
同図において、最初に自車両の走行速度を推定する(手順S121)。この手順S121の詳細を図7に示す。
【0039】
図7において、まずナビゲーション2の情報に基づいて、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路(地点)を走行するのかどうかを判断する(手順S131)。自車両の運転者が過去に通ったことのある道路を走行すると判断されたときは、自車両が通る地点における自車両の速度データが車両DB9に蓄積されているため、その速度データを車両DB9から読み込み、その値を今回の自車両の速度vRとする(手順S132)。なお、自車両が通る地点における自車両の速度データが車両DB9に複数格納されている場合は、それらの速度の平均値を今回の自車両の速度vRとしても良い。このとき、自車両の速度vRは、例えば図2に示すvAPとなる。
【0040】
一方、自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveを車両DB9から取得する(手順S133)。続いて、自車両が通る地点における複数の運転者の速度特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S134)。そして、自車両の運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveと複数の運転者の速度特性データとに基づいて、当該地点における自車両の速度vRを求める(手順S135)。このとき、自車両の速度vRは、例えば図3に示すvAQとなる。
【0041】
なお、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路の場合でも、上記手順S133〜S135の方法で自車両の速度vRを推定しても良い。
【0042】
図6に戻り、上記の手順S121の処理を実行した後、勾配抵抗による必要パワーを推定する(手順S122)。この手順S122の詳細を図8に示す。
【0043】
図8において、まず車両質量m、重力加速度gのデータを車両DB9から取得する(手順S141)。また、自車両が通る地点の傾斜角θRのデータをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S142)。そして、下記式を用いて勾配抵抗による必要パワーP1を算出する(手順S143)。
P1=mgsinθR・vR
【0044】
図6に戻り、上記の手順S122の処理を実行した後、空気抵抗による必要パワーを推定する(手順S123)。この手順S123の詳細を図9に示す。
【0045】
図9において、まず効力係数Cd、正面投影面積A、空気密度ρのデータを車両DB9から取得する(手順S151)。そして、下記式を用いて空気抵抗による必要パワーP2を算出する(手順S152)。このとき、その時の気象情報(風向き及び風速等)から空気抵抗を補正しても良い。
P2=CdρAvR3/2
【0046】
図6に戻り、上記の手順S123の処理を実行した後、自車両の加速度及びギヤ段を推定する(手順S124)。この手順S124の詳細を図10に示す。
【0047】
図10において、まずナビゲーション2の情報に基づいて、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路(地点)を走行するのかどうかを判断する(手順S161)。自車両の運転者が過去に通ったことのある道路を走行すると判断されたときは、その地点における自車両の加速度データが車両DB9に蓄積されているため、その加速度データを車両DB9から読み込み、その値を今回の自車両の加速度aRとする(手順S162)。このとき、自車両の速度aRは、例えば図2に示すaAPとなる。また、当該地点における自車両のギヤ段データも車両DB9に蓄積されているため、そのギヤ段データを車両DB9から読み込み、これを今回の自車両のギヤ段gRとする(手順S163)。
【0048】
一方、自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合加速度偏差値Taave及び総合ギヤ段偏差値(ギヤ段偏差値の平均値)Tgaveを車両DB9から取得する(手順S164)。続いて、自車両が通る地点における複数の運転者の加速度特性データ及びギヤ段特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S165)。ギヤ段特性データは、図11に示すような分布となっている。
【0049】
そして、自車両の運転者に係わる総合加速度偏差値Taaveと複数の運転者の加速度特性データとに基づいて、当該地点における自車両の加速度aRを求める(手順S166)。このとき、自車両の速度aRは、例えば図3に示すaAQとなる。また、自車両の運転者に係わる総合ギヤ段偏差値Tgaveと複数の運転者のギヤ段特性データとに基づいて、当該地点における自車両のギヤ段gR(図11参照)を求める(手順S167)。
【0050】
なお、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路の場合でも、上記手順S164〜S167の方法で自車両の加速度aR及びギヤ段gRを推定しても良い。
【0051】
図6に戻り、上記の手順S124の処理を実行した後、加速抵抗による必要パワーを推定する(手順S125)。この手順S125の詳細を図12に示す。
【0052】
図12において、まず車両質量mのデータを車両DB9から取得する(手順S171)。続いて、上記手順124で得られた自車両のギヤ段gRから、自車両の回転部分相当質量m*を特定する(手順S172)。回転部分相当質量m*は、ギヤ段により変化する値である。ここでは、ギヤ段と回転部分相当質量m*との関係を表すテーブル(図13参照)を用いて、回転部分相当質量m*の値を確定させる。そして、下記式により加速抵抗による必要パワーP3を算出する(手順S173)。
P3=(m+m*)aR・vR
【0053】
図6に戻り、上記の手順S125の処理を実行した後、転がり抵抗による必要パワーを推定する(手順S126)。ここで、転がり抵抗による必要パワーを推定する処理手順に先立ち、図14を用いて転がり抵抗係数μ,μ’を求める処理手順について説明する。
【0054】
図14において、まず下記式により出力Pを計算する(手順S181)。なお、Tは、エンジントルクセンサ5により計測されるエンジントルクであり、ωは、回転数センサ6により計測されるエンジン回転数である。
P=T・ω
【0055】
続いて、下記式により全走行抵抗Fallを計算する(手順S182)。なお、vは、車速センサ3により計測される速度である。
Fall=P/v
【0056】
続いて、効力係数Cd、正面投影面積A、空気密度ρ、速度vを用いて空気抵抗(CdρAv2/2)を計算する(手順S183)。また、車両質量m、重力加速度g、傾斜角θを用いて勾配抵抗(mgsinθ)を計算する(手順S184)。さらに、車両質量m、回転部分相当質量m*、加速度センサ4により計測される加速度aを用いて加速抵抗((m+m*)a)を計算する(手順S185)。そして、上記の全走行抵抗Fall、空気抵抗、勾配抵抗及び加速抵抗から、下記式により転がり抵抗Frollを計算する(手順S186)。
【数1】
【0057】
続いて、図15に示すように、速度vを横軸とし、転がり抵抗Frollを縦軸とした一次関数をグラフ化し、その一次関数(一次近似式)の傾き及び切片から転がり抵抗係数μ,μ’を求める(手順S187)。そして、その転がり抵抗係数μ,μ’を通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB12にアップし、地点の情報と紐付けて記録する(手順S188)。このとき、転がり抵抗係数μ,μ’と天候等の路面状況との紐付けも合わせて行っても良い。
【0058】
このような転がり抵抗係数μ,μ’は、その地点を既に通過した多くの車両から統計的な処理を行って推定されたものであり、センターDB12に格納されている既知の値である。従って、その値を用いることにより、自車両が一度も走ったことのない道においても転がり抵抗を推定することが可能となる。
【0059】
図16は、転がり抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。同図において、まず転がり抵抗係数μ,μ’のデータをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S191)。また、車両質量m、重力加速度gのデータを車両DB9から取得する(手順S192)。そして、下記式により転がり抵抗による必要パワーP4を算出する(手順S193)。
P4=(μmg+μ’mgvR)vR
【0060】
図6に戻り、上記の手順S126の処理を実行した後、勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗による各必要パワーP1〜P4を加算することにより、自車両が該当する地点を通るときの走行パワーを推定する(手順S127)。
【0061】
以上の計算処理を自車両の走行予定経路上の全ての分割地点について行うことにより、走行予定経路上の走行パワーが得られることとなる。
【0062】
以上において、車両DB9は、車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段を構成する。センターDB12は、車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段を構成する。ECU8の走行パワー演算部16における上記手順S121(図6参照)は、車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する速度推定手段を構成する。同走行パワー演算部16における上記手順S122〜S127(図6参照)は、速度推定手段により推定された走行速度を用いて、車両が任意地点を走行するときの走行エネルギーを求める走行エネルギー算出手段を構成する。
【0063】
以上のように本実施形態にあっては、自車両の運転者の速度偏差値を車両DB9に格納し、任意の地点における複数の運転者の速度特性データをセンターDB12に格納しておき、自車両の運転者の速度偏差値及び複数の運転者の速度特性データに基づいて、自車両が任意の地点を走行するときの速度を推定し、この速度と車両パラメータ及び道路パラメータとから走行パワーを求める。これにより、自車両の運転者が通ったことのない道路を走行する場合でも、運転者の運転の癖(運転特性)を反映した走行パワーを得ることができる。その結果、自車両の走行パワーを精度良く演算することが可能となる。
【0064】
図17は、本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの他の実施形態の概略を示すブロック図である。図中、上述した実施形態と同一または同等の要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
同図において、本実施形態の車両用走行エネルギー演算システム1は、上述した実施形態の構成に加えて、車両の運転者を特定するための運転者情報入力器17を更に備えている。運転者情報入力器17としては、例えば生体認証等を行うセンサでも良いし、運転者の名前を選択入力するスイッチやボタン等でも良いし、個人パスワードを入力する手段であっても良い。
【0066】
また、車両用走行エネルギー演算システム1は、上述した実施形態におけるセンターDB12に代えて、センターDB18を備えている。センターDB18には、上記のセンターDB12に格納される情報に加えて、複数の運転者に係わる総合速度偏差値、総合加速度偏差値及び総合ギヤ段偏差値が格納されている。
【0067】
図18は、本実施形態において速度偏差値演算部14により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートであり、図4に相当するものである。同図において、手順S107において自車両の運転者に係わる複数の速度偏差値の平均値(総合速度偏差値)Tvaveが求められると、その総合速度偏差値Tvaveを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB18に格納する(手順S108A)。
【0068】
図19は、本実施形態において加速度偏差値演算部15により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートであり、図5に相当するものである。同図において、手順S117において自車両の運転者に係わる複数の加速度偏差値の平均値(総合加速度偏差値)Taaveが求められると、その総合加速度偏差値Taaveを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB18に格納する(手順S118A)。
【0069】
図20は、本実施形態において走行パワー演算部16により自車両の走行速度を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートであり、図7に相当するものである。同図において、まず運転者情報入力器17により運転者の情報が入力されたかどうかを判断し(手順S138)、運転者の情報が入力されたときは、その運転者の情報をセンターCのコントローラ11に通知する(手順S139)。
【0070】
その後、手順S131において自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveをコントローラ11及び通信機13,10を介して車両DB18から取得する(手順S133A)。このとき、走行パワー演算部16は、まずコントローラ11に対してデータ要求信号を送出する。コントローラ11は、データ要求信号を受けると、手順S139で通知された運転者情報に対応する運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveを車両DB18から読み出して走行パワー演算部16に送出する。そして、上記の手順S134,S135を実行する。
【0071】
図21は、本実施形態において走行パワー演算部16により自車両の加速度及びギヤ段を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートであり、図10に相当するものである。同図において、まず運転者情報入力器17により運転者の情報が入力されたかどうかを判断し(手順S168)、運転者の情報が入力されたときは、その運転者の情報をセンターCのコントローラ11に通知する(手順S169)。
【0072】
その後、手順S161において自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合加速度偏差値Tvave及び総合ギヤ段偏差値Tgaveをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB18から取得する(手順S164A)。このとき、総合加速度偏差値Tvave及び総合ギヤ段偏差値Tgaveの取得方法は、上述した総合速度偏差値Tvaveの取得方法と同様である。そして、上記の手順S165〜S167を実行する。
【0073】
以上において、センターDB18は、車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段と、車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段とを構成する。運転者情報入力器17は、車両の運転者を特定する運転者特定手段を構成する。
【0074】
本実施形態においては、運転者の総合速度偏差値等を車両DB9ではなくセンターDB18に格納するので、レンタカーやカーシェア等のように1台の車両に対して運転者が複数変わるような場合でも、運転者の本人確認ができれば、その運転者の総合速度偏差値を取得して、当該運転者の運転する車両が任意の地点を走行するときの速度を推定し、当該運転者の運転特性を反映した走行パワーを得ることができる。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗による各必要パワーを求め、これらの必要パワーを加算することで、車両の走行パワーを推定するようにしたが、特にその手法に限られず、勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗を加算して全走行抵抗を求め、この全走行抵抗に車両の走行速度を乗じることで、車両の走行パワーを推定しても良い。
【符号の説明】
【0076】
1…車両用走行エネルギー演算システム、8…ECU、9…車両データベース(第1記憶手段)、12…センターデータベース(第2記憶手段)、16…走行パワー演算部(速度推定手段、走行エネルギー算出手段)、17…運転者情報入力器(運転者特定手段)、18…センターデータベース(第1記憶手段、第2記憶手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行エネルギーを演算する車両用走行エネルギー演算システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行エネルギーを演算する従来技術としては、例えば特許文献1に記載されているように、車両の予定走行経路に関する情報を取得し、その予定走行経路を走行するのに必要な駆動エネルギー(走行エネルギー)を求めるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−287302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、運転者の運転行動特性(主に走行速度)が全く考慮されていない。このため、走行エネルギーを精度良く演算することができない虞がある。
【0005】
本発明の目的は、車両の走行エネルギーを精度良く演算することができる車両用走行エネルギー演算システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の走行エネルギーを演算する車両用走行エネルギー演算システムであって、車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する速度推定手段と、速度推定手段により推定された走行速度を用いて、車両が任意地点を走行するときの走行エネルギーを求める走行エネルギー算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
このように本発明の車両用走行エネルギー演算システムにおいては、車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する。このため、車両の運転者の運転行動特性(運転の癖)を考慮した走行速度が得られることになる。これにより、その走行速度を用いることで、運転者の運転行動特性を反映した精度の良い走行エネルギーを得ることができる。
【0008】
好ましくは、車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段と、車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段とを更に備える。
【0009】
このとき、好ましくは、第1記憶手段が車両に搭載され、第2記憶手段が車両の外部に設置されている。例えば車両の運転者が1人(例えば所有者のみ)である場合には、そのような構成とすることで、車両用走行エネルギー演算システムを最も簡単に実現することができる。
【0010】
また、車両の運転者を特定する運転者特定手段を更に備え、第1記憶手段及び第2記憶手段が車両の外部に設置されており、速度推定手段は、運転者特定手段により特定された運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定しても良い。この場合には、例えばレンタカーやカーシェア等のように1台の車両を運転する運転者が複数存在するときでも、運転者特定手段により車両の運転者を特定することで、運転者の運転行動特性を考慮した走行速度を得ることができる。
【0011】
また、好ましくは、走行エネルギー算出手段は、速度推定手段により推定された走行速度と車両に関するパラメータと車両が通る道路に関するパラメータとに基づいて、任意地点における勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗を計算して走行エネルギーを求める。走行エネルギーは、走行抵抗(勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗の合計)と走行速度とを掛け合わせることにより得られる。従って、走行速度と車両に関するパラメータと道路に関するパラメータを用いることで、走行エネルギーを簡単に求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両の運転者の運転行動特性を反映した高精度の走行エネルギーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの一実施形態の概略を示すブロック図である。
【図2】運転者が既に通ったことのある地点に対する運転者の速度偏差値及び加速度偏差値を求める概念を示す図である。
【図3】運転者が通ったことのない地点に対する運転者が運転する車両の速度及び加速度を推定する概念を示す図である。
【図4】図1に示した速度偏差値演算部により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図1に示した加速度偏差値演算部により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図6】図1に示した走行パワー演算部により実行される走行パワー演算処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】図6に示した走行速度を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図8】図6に示した勾配抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図9】図6に示した空気抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図10】図6に示した加速度及びギヤ段を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図11】ギヤ段特性データの分布の一例を示すグラフである。
【図12】図6に示した加速抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図13】ギヤ段と回転部分相当質量との関係を表したテーブルの一例を示す表である。
【図14】図6に示した転がり抵抗による必要パワーの推定に使用される転がり抵抗係数を求める処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図15】速度を横軸とし、転がり抵抗を縦軸とした一次関数の一例を示すグラフである。
【図16】図6に示した転がり抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図17】本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの他の実施形態の概略を示すブロック図である。
【図18】図17に示した速度偏差値演算部により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図19】図17に示した加速度偏差値演算部により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
【図20】図17に示した走行エネルギー演算部により走行速度を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図21】図17に示した走行エネルギー演算部により加速度及びギヤ段を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの一実施形態の概略を示すブロック図である。同図において、本実施形態の車両用走行エネルギー演算システム1は、車両に搭載されたナビゲーション2、車速センサ3、加速度センサ4、エンジントルクセンサ5、回転数センサ6、ギヤ段センサ7、ECU(Electronic Control Unit)8、車両データベース(車両DB)9及び通信機10と、センターCに設置されたコントローラ11、センターデータベース(センターDB)12及び通信機13とを備えている。
【0016】
ナビゲーション2は、GPS(全地球測位システム)を利用して自車両の現在位置を検出し、自車両の目的地への走行経路案内を行ったり、内蔵メモリに記憶された道路地図データベースの情報から車両が走行している道路線形情報等を取得する。
【0017】
車速センサ3は、自車両の車速(走行速度)を検出する。加速度センサ4は、自車両の加速度を検出する。エンジントルクセンサ5は、自車両のエンジントルクを検出する。回転数センサ6は、自車両のエンジン回転数を検出する。ギヤ段センサ7は、自車両の使用ギヤ段を検出する。
【0018】
車両DB9には、自車両に関する車両パラメータ(車両諸元や物理定数の静的情報)、車速センサ3、加速度センサ4、エンジントルクセンサ5、回転数センサ6及びギヤ段センサ7の時刻毎の検出値、任意地点における自車両の運転者の速度偏差値、加速度偏差値及びギヤ段偏差値、自車両の運転者の総合速度偏差値、総合加速度偏差値及び総合ギヤ段偏差値が格納される。車両パラメータとしては、車両質量m、重力加速度g、効力係数Cd、空気密度ρ、正面投影面積Aがある。
【0019】
ECU8は、ナビゲーション2の情報の入力、車速センサ3、加速度センサ4、エンジントルクセンサ5、回転数センサ6及びギヤ段センサ7の検出信号の入力、車両DB9に対するデータの書き込み・読み出し、通信機10を介したセンターCとの無線通信を行い、自車両が走行経路を走行するときの走行エネルギーを演算する。
【0020】
センターCのコントローラ11は、通信機13を介してECU8と無線通信を行うと共に、センターC全体を制御する。センターDB12には、車両が走行する道路に関する道路パラメータ、任意地点における複数の運転者の速度特性データ、加速度特性データ及びギヤ段特性データが格納される。道路パラメータとしては、道路の傾斜角θ、転がり抵抗係数μ,μ’がある。
【0021】
ECU8は、具体的には、速度偏差値演算部14と、加速度偏差値演算部15と、走行パワー演算部16とを有している。速度偏差値演算部14は、自車両の運転者の速度偏差値を求める。加速度偏差値演算部15は、自車両の運転者の加速度偏差値を求める。走行パワー演算部16は、自車両の運転者の速度偏差値及び加速度偏差値と複数の運転者の速度特性データ及び加速度特性データとに基づいて、自車両が走行経路上の任意地点を通るときの速度及び加速度を推測し、その推測結果に基づいて自車両の走行エネルギー(走行パワー)を求める。
【0022】
このような速度偏差値演算部14、加速度偏差値演算部15及び走行パワー演算部16の演算処理に関し、まず自車両の運転者が一度も通ったことのない道路を走行するときの速度及び加速度を推定し、走行パワーを推定する方法について簡単に説明する。
【0023】
図2は、運転者Aが既に通ったことのある地点Pに対する運転者Aの速度偏差値及び加速度偏差値を求める概念を示す図である。同図において、地点Pは当然他の運転者も通ったことのある道路であるため、地点Pにおける多くの運転者の速度情報及び加速度情報がセンターDB12に集約されている。
【0024】
まず、そのような多くの運転者の速度情報及び加速度情報と地点Pにおける運転者A自身の速度vAP及び加速度aAPとに基づいて、センターDB12に集まった全データを母集団とする中の運転者Aの速度偏差値及び加速度偏差値が計算される。そして、この速度偏差値及び加速度偏差値に、運転者Aによる他の道路の走行も含めた過去の偏差値情報を加味して、運転者Aの速度偏差値及び加速度偏差値の平均値(総合的な速度偏差値及び加速度偏差値)が計算される。ここでは、地点Pにおける今回の走行の速度偏差値及び加速度偏差値として61,64がそれぞれ算出され、これに過去の偏差値情報を加味した総合的な速度偏差値及び加速度偏差値として60,65がそれぞれ算出されたものとする。
【0025】
図3は、運転者Aが通ったことのない地点Qに対する運転者Aが運転する車両の速度及び加速度を推定する概念を示す図である。同図において、センターDB12には、走行特性データ(速度特性データ及び加速度特性データ)として多くの運転者の速度情報及び加速度情報が集約されており、速度及び加速度に関する母集団の数値分布が得られている。
【0026】
ここで、運転者Aの総合的な速度偏差値及び加速度偏差値は既に分かっているので、その値及び母集団の数値分布から、運転者Aの速度vAQ及び加速度aAQを推定する。そして、その運転者Aの速度及び加速度と車両DB9に登録された車両パラメータとセンターDB12に登録された道路パラメータとに基づいて、運転者Aの運転する車両が地点Qを走行するときの走行パワーを推測する。
【0027】
走行パワーは、走行抵抗Fに走行速度vを乗じることにより得られる。走行抵抗Fは、下記式で表される。
F=μmg+μ’mg・v+CdρA・v2/2+mgsinθ+(m+m*)a
ただし、μ:転がり抵抗係数(速度に比例しない分)
μ’:転がり抵抗係数(速度に比例する分)
m:車両質量[kg](乗員や積荷を含めた値)
g:重力加速度[9.8m/s2]
v:速度[m/s]
Cd:効力係数
ρ:空気密度[1.25kg/m3]
A:正面投影面積[m2]
θ:傾斜角[rad]
m*:回転部分相当質量[kg]
a:加速度[m/s2]
【0028】
図4は、速度偏差値演算部14により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。ここで、車両は、走行経路上の任意の地点(地点Rとする)を走行するが、その地点Rは、車両の運転者が初めて通る道でも良いし、何度か通ったことのある道でも良い。
【0029】
同図において、まず地点Rにおける車速センサ3の計測値(速度)vrを入力し、これを車両DB9に格納する(手順S101)。続いて、過去に地点Rを通った様々な運転者の走行速度に関する分布を形成するために、車速センサ3の計測値vrを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB12にアップする(手順S102)。続いて、地点Rにおける複数の運転者の速度特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S103)。速度特性データは、例えば図2の左側のグラフに示すような分布を形成している。続いて、速度特性データと車速センサ3で計測された速度vrとから、自車両の運転者に係わる速度偏差値Tvnを求める(手順S104)。そして、その速度偏差値Tvnを車両DB9に格納する(手順S105)。
【0030】
続いて、自車両の運転者に係わる過去の複数の速度偏差値を車両DB9から読み出す(手順S106)。このとき、速度偏差値を道路種別、天候、時間帯等といった幾つかの意味のあるカテゴリー毎に類別し、該当するカテゴリーの速度偏差値のみを読み出しても良い。例えば、国道かつ晴れのカテゴリーに格納された速度偏差値のみを読み出すようにすることで、晴れているときの広い道では速度が高めであるが、雨になると極端に速度が下がる、等の傾向に対応することが可能となる。
【0031】
続いて、下記式により複数の速度偏差値の平均値Tvaveを計算し、この値を総合速度偏差値とする(手順S107)。
Tvave=(Tv1+Tv2+…+Tvn)/n
【0032】
そして、総合速度偏差値Tvaveを車両DB9に格納する(手順S108)。このとき、手順S106においてカテゴリー別に速度偏差値を読み出す場合には、それに準じてカテゴリー別に総合速度偏差値Tvaveを格納する。
【0033】
図5は、加速度偏差値演算部15により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートである。ここでも、車両は、上述した任意の地点Rを走行するものとする。
【0034】
同図において、まず地点Rにおける加速度センサ4の計測値(加速度)arを入力し、これを車両DB9に格納する(手順S111)。続いて、過去に地点Rを通った様々な運転者の加速度に関する分布を形成するために、加速度センサ4の計測値arを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB12にアップする(手順S112)。続いて、地点Rにおける複数の運転者の加速度特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S113)。加速度特性データは、例えば図2の右側のグラフに示すような分布を形成している。続いて、加速度特性データと加速度センサ4で計測された加速度arとから、自車両の運転者に係わる加速度偏差値Tanを求める(手順S114)。そして、その加速度偏差値Tanを車両DB9に格納する(手順S115)。
【0035】
続いて、自車両の運転者に係わる過去の複数の加速度偏差値を車両DB9から読み出す(手順S116)。このとき、上記と同様に、加速度偏差値をカテゴリー毎に類別し、該当するカテゴリーの加速度偏差値のみを読み出しても良い。
【0036】
続いて、下記式により複数の加速度偏差値の平均値Taaveを計算し、この値を総合加速度偏差値とする(手順S117)。そして、その総合加速度偏差値Taaveを車両DB9に格納する(手順S118)。
Taave=(Ta1+Ta2+…+Tan)/n
【0037】
図6は、走行パワー演算部16により実行される走行パワー演算処理の手順を示すフローチャートである。
【0038】
同図において、最初に自車両の走行速度を推定する(手順S121)。この手順S121の詳細を図7に示す。
【0039】
図7において、まずナビゲーション2の情報に基づいて、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路(地点)を走行するのかどうかを判断する(手順S131)。自車両の運転者が過去に通ったことのある道路を走行すると判断されたときは、自車両が通る地点における自車両の速度データが車両DB9に蓄積されているため、その速度データを車両DB9から読み込み、その値を今回の自車両の速度vRとする(手順S132)。なお、自車両が通る地点における自車両の速度データが車両DB9に複数格納されている場合は、それらの速度の平均値を今回の自車両の速度vRとしても良い。このとき、自車両の速度vRは、例えば図2に示すvAPとなる。
【0040】
一方、自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveを車両DB9から取得する(手順S133)。続いて、自車両が通る地点における複数の運転者の速度特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S134)。そして、自車両の運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveと複数の運転者の速度特性データとに基づいて、当該地点における自車両の速度vRを求める(手順S135)。このとき、自車両の速度vRは、例えば図3に示すvAQとなる。
【0041】
なお、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路の場合でも、上記手順S133〜S135の方法で自車両の速度vRを推定しても良い。
【0042】
図6に戻り、上記の手順S121の処理を実行した後、勾配抵抗による必要パワーを推定する(手順S122)。この手順S122の詳細を図8に示す。
【0043】
図8において、まず車両質量m、重力加速度gのデータを車両DB9から取得する(手順S141)。また、自車両が通る地点の傾斜角θRのデータをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S142)。そして、下記式を用いて勾配抵抗による必要パワーP1を算出する(手順S143)。
P1=mgsinθR・vR
【0044】
図6に戻り、上記の手順S122の処理を実行した後、空気抵抗による必要パワーを推定する(手順S123)。この手順S123の詳細を図9に示す。
【0045】
図9において、まず効力係数Cd、正面投影面積A、空気密度ρのデータを車両DB9から取得する(手順S151)。そして、下記式を用いて空気抵抗による必要パワーP2を算出する(手順S152)。このとき、その時の気象情報(風向き及び風速等)から空気抵抗を補正しても良い。
P2=CdρAvR3/2
【0046】
図6に戻り、上記の手順S123の処理を実行した後、自車両の加速度及びギヤ段を推定する(手順S124)。この手順S124の詳細を図10に示す。
【0047】
図10において、まずナビゲーション2の情報に基づいて、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路(地点)を走行するのかどうかを判断する(手順S161)。自車両の運転者が過去に通ったことのある道路を走行すると判断されたときは、その地点における自車両の加速度データが車両DB9に蓄積されているため、その加速度データを車両DB9から読み込み、その値を今回の自車両の加速度aRとする(手順S162)。このとき、自車両の速度aRは、例えば図2に示すaAPとなる。また、当該地点における自車両のギヤ段データも車両DB9に蓄積されているため、そのギヤ段データを車両DB9から読み込み、これを今回の自車両のギヤ段gRとする(手順S163)。
【0048】
一方、自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合加速度偏差値Taave及び総合ギヤ段偏差値(ギヤ段偏差値の平均値)Tgaveを車両DB9から取得する(手順S164)。続いて、自車両が通る地点における複数の運転者の加速度特性データ及びギヤ段特性データをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S165)。ギヤ段特性データは、図11に示すような分布となっている。
【0049】
そして、自車両の運転者に係わる総合加速度偏差値Taaveと複数の運転者の加速度特性データとに基づいて、当該地点における自車両の加速度aRを求める(手順S166)。このとき、自車両の速度aRは、例えば図3に示すaAQとなる。また、自車両の運転者に係わる総合ギヤ段偏差値Tgaveと複数の運転者のギヤ段特性データとに基づいて、当該地点における自車両のギヤ段gR(図11参照)を求める(手順S167)。
【0050】
なお、自車両の運転者が過去に通ったことのある道路の場合でも、上記手順S164〜S167の方法で自車両の加速度aR及びギヤ段gRを推定しても良い。
【0051】
図6に戻り、上記の手順S124の処理を実行した後、加速抵抗による必要パワーを推定する(手順S125)。この手順S125の詳細を図12に示す。
【0052】
図12において、まず車両質量mのデータを車両DB9から取得する(手順S171)。続いて、上記手順124で得られた自車両のギヤ段gRから、自車両の回転部分相当質量m*を特定する(手順S172)。回転部分相当質量m*は、ギヤ段により変化する値である。ここでは、ギヤ段と回転部分相当質量m*との関係を表すテーブル(図13参照)を用いて、回転部分相当質量m*の値を確定させる。そして、下記式により加速抵抗による必要パワーP3を算出する(手順S173)。
P3=(m+m*)aR・vR
【0053】
図6に戻り、上記の手順S125の処理を実行した後、転がり抵抗による必要パワーを推定する(手順S126)。ここで、転がり抵抗による必要パワーを推定する処理手順に先立ち、図14を用いて転がり抵抗係数μ,μ’を求める処理手順について説明する。
【0054】
図14において、まず下記式により出力Pを計算する(手順S181)。なお、Tは、エンジントルクセンサ5により計測されるエンジントルクであり、ωは、回転数センサ6により計測されるエンジン回転数である。
P=T・ω
【0055】
続いて、下記式により全走行抵抗Fallを計算する(手順S182)。なお、vは、車速センサ3により計測される速度である。
Fall=P/v
【0056】
続いて、効力係数Cd、正面投影面積A、空気密度ρ、速度vを用いて空気抵抗(CdρAv2/2)を計算する(手順S183)。また、車両質量m、重力加速度g、傾斜角θを用いて勾配抵抗(mgsinθ)を計算する(手順S184)。さらに、車両質量m、回転部分相当質量m*、加速度センサ4により計測される加速度aを用いて加速抵抗((m+m*)a)を計算する(手順S185)。そして、上記の全走行抵抗Fall、空気抵抗、勾配抵抗及び加速抵抗から、下記式により転がり抵抗Frollを計算する(手順S186)。
【数1】
【0057】
続いて、図15に示すように、速度vを横軸とし、転がり抵抗Frollを縦軸とした一次関数をグラフ化し、その一次関数(一次近似式)の傾き及び切片から転がり抵抗係数μ,μ’を求める(手順S187)。そして、その転がり抵抗係数μ,μ’を通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB12にアップし、地点の情報と紐付けて記録する(手順S188)。このとき、転がり抵抗係数μ,μ’と天候等の路面状況との紐付けも合わせて行っても良い。
【0058】
このような転がり抵抗係数μ,μ’は、その地点を既に通過した多くの車両から統計的な処理を行って推定されたものであり、センターDB12に格納されている既知の値である。従って、その値を用いることにより、自車両が一度も走ったことのない道においても転がり抵抗を推定することが可能となる。
【0059】
図16は、転がり抵抗による必要パワーを推定する処理手順の詳細を示すフローチャートである。同図において、まず転がり抵抗係数μ,μ’のデータをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB12から取得する(手順S191)。また、車両質量m、重力加速度gのデータを車両DB9から取得する(手順S192)。そして、下記式により転がり抵抗による必要パワーP4を算出する(手順S193)。
P4=(μmg+μ’mgvR)vR
【0060】
図6に戻り、上記の手順S126の処理を実行した後、勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗による各必要パワーP1〜P4を加算することにより、自車両が該当する地点を通るときの走行パワーを推定する(手順S127)。
【0061】
以上の計算処理を自車両の走行予定経路上の全ての分割地点について行うことにより、走行予定経路上の走行パワーが得られることとなる。
【0062】
以上において、車両DB9は、車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段を構成する。センターDB12は、車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段を構成する。ECU8の走行パワー演算部16における上記手順S121(図6参照)は、車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する速度推定手段を構成する。同走行パワー演算部16における上記手順S122〜S127(図6参照)は、速度推定手段により推定された走行速度を用いて、車両が任意地点を走行するときの走行エネルギーを求める走行エネルギー算出手段を構成する。
【0063】
以上のように本実施形態にあっては、自車両の運転者の速度偏差値を車両DB9に格納し、任意の地点における複数の運転者の速度特性データをセンターDB12に格納しておき、自車両の運転者の速度偏差値及び複数の運転者の速度特性データに基づいて、自車両が任意の地点を走行するときの速度を推定し、この速度と車両パラメータ及び道路パラメータとから走行パワーを求める。これにより、自車両の運転者が通ったことのない道路を走行する場合でも、運転者の運転の癖(運転特性)を反映した走行パワーを得ることができる。その結果、自車両の走行パワーを精度良く演算することが可能となる。
【0064】
図17は、本発明に係わる車両用走行エネルギー演算システムの他の実施形態の概略を示すブロック図である。図中、上述した実施形態と同一または同等の要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
同図において、本実施形態の車両用走行エネルギー演算システム1は、上述した実施形態の構成に加えて、車両の運転者を特定するための運転者情報入力器17を更に備えている。運転者情報入力器17としては、例えば生体認証等を行うセンサでも良いし、運転者の名前を選択入力するスイッチやボタン等でも良いし、個人パスワードを入力する手段であっても良い。
【0066】
また、車両用走行エネルギー演算システム1は、上述した実施形態におけるセンターDB12に代えて、センターDB18を備えている。センターDB18には、上記のセンターDB12に格納される情報に加えて、複数の運転者に係わる総合速度偏差値、総合加速度偏差値及び総合ギヤ段偏差値が格納されている。
【0067】
図18は、本実施形態において速度偏差値演算部14により実行される速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートであり、図4に相当するものである。同図において、手順S107において自車両の運転者に係わる複数の速度偏差値の平均値(総合速度偏差値)Tvaveが求められると、その総合速度偏差値Tvaveを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB18に格納する(手順S108A)。
【0068】
図19は、本実施形態において加速度偏差値演算部15により実行される加速度偏差値演算処理の手順の詳細を示すフローチャートであり、図5に相当するものである。同図において、手順S117において自車両の運転者に係わる複数の加速度偏差値の平均値(総合加速度偏差値)Taaveが求められると、その総合加速度偏差値Taaveを通信機10,13及びコントローラ11を介してセンターDB18に格納する(手順S118A)。
【0069】
図20は、本実施形態において走行パワー演算部16により自車両の走行速度を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートであり、図7に相当するものである。同図において、まず運転者情報入力器17により運転者の情報が入力されたかどうかを判断し(手順S138)、運転者の情報が入力されたときは、その運転者の情報をセンターCのコントローラ11に通知する(手順S139)。
【0070】
その後、手順S131において自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveをコントローラ11及び通信機13,10を介して車両DB18から取得する(手順S133A)。このとき、走行パワー演算部16は、まずコントローラ11に対してデータ要求信号を送出する。コントローラ11は、データ要求信号を受けると、手順S139で通知された運転者情報に対応する運転者に係わる総合速度偏差値Tvaveを車両DB18から読み出して走行パワー演算部16に送出する。そして、上記の手順S134,S135を実行する。
【0071】
図21は、本実施形態において走行パワー演算部16により自車両の加速度及びギヤ段を推定する処理手順の詳細を示すフローチャートであり、図10に相当するものである。同図において、まず運転者情報入力器17により運転者の情報が入力されたかどうかを判断し(手順S168)、運転者の情報が入力されたときは、その運転者の情報をセンターCのコントローラ11に通知する(手順S169)。
【0072】
その後、手順S161において自車両の運転者が過去に通ったことのない道路(地点)を走行すると判断されたときは、自車両の運転者に係わる総合加速度偏差値Tvave及び総合ギヤ段偏差値Tgaveをコントローラ11及び通信機13,10を介してセンターDB18から取得する(手順S164A)。このとき、総合加速度偏差値Tvave及び総合ギヤ段偏差値Tgaveの取得方法は、上述した総合速度偏差値Tvaveの取得方法と同様である。そして、上記の手順S165〜S167を実行する。
【0073】
以上において、センターDB18は、車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段と、車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段とを構成する。運転者情報入力器17は、車両の運転者を特定する運転者特定手段を構成する。
【0074】
本実施形態においては、運転者の総合速度偏差値等を車両DB9ではなくセンターDB18に格納するので、レンタカーやカーシェア等のように1台の車両に対して運転者が複数変わるような場合でも、運転者の本人確認ができれば、その運転者の総合速度偏差値を取得して、当該運転者の運転する車両が任意の地点を走行するときの速度を推定し、当該運転者の運転特性を反映した走行パワーを得ることができる。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗による各必要パワーを求め、これらの必要パワーを加算することで、車両の走行パワーを推定するようにしたが、特にその手法に限られず、勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗を加算して全走行抵抗を求め、この全走行抵抗に車両の走行速度を乗じることで、車両の走行パワーを推定しても良い。
【符号の説明】
【0076】
1…車両用走行エネルギー演算システム、8…ECU、9…車両データベース(第1記憶手段)、12…センターデータベース(第2記憶手段)、16…走行パワー演算部(速度推定手段、走行エネルギー算出手段)、17…運転者情報入力器(運転者特定手段)、18…センターデータベース(第1記憶手段、第2記憶手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行エネルギーを演算する車両用走行エネルギー演算システムであって、
前記車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、前記車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する速度推定手段と、
前記速度推定手段により推定された走行速度を用いて、前記車両が前記任意地点を走行するときの走行エネルギーを求める走行エネルギー算出手段とを備えることを特徴とする車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項2】
前記車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段と、
前記車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段とを更に備えることを特徴とする請求項1記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項3】
前記第1記憶手段が前記車両に搭載され、
前記第2記憶手段が前記車両の外部に設置されていることを特徴とする請求項2記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項4】
前記車両の運転者を特定する運転者特定手段を更に備え、
前記第1記憶手段及び前記第2記憶手段が前記車両の外部に設置されており、
前記速度推定手段は、前記運転者特定手段により特定された運転者の速度偏差値と前記複数の運転者の速度特性データとに基づいて、前記車両が前記任意地点を走行するときの走行速度を推定することを特徴とする請求項2記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項5】
前記走行エネルギー算出手段は、前記速度推定手段により推定された走行速度と前記車両に関するパラメータと前記車両が通る道路に関するパラメータとに基づいて、前記任意地点における勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗を計算して前記走行エネルギーを求めることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項1】
車両の走行エネルギーを演算する車両用走行エネルギー演算システムであって、
前記車両の運転者の速度偏差値と複数の運転者の速度特性データとに基づいて、前記車両が任意地点を走行するときの走行速度を推定する速度推定手段と、
前記速度推定手段により推定された走行速度を用いて、前記車両が前記任意地点を走行するときの走行エネルギーを求める走行エネルギー算出手段とを備えることを特徴とする車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項2】
前記車両の運転者の速度偏差値を記憶する第1記憶手段と、
前記車両の走行経路上の任意地点における複数の運転者の速度特性データを記憶する第2記憶手段とを更に備えることを特徴とする請求項1記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項3】
前記第1記憶手段が前記車両に搭載され、
前記第2記憶手段が前記車両の外部に設置されていることを特徴とする請求項2記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項4】
前記車両の運転者を特定する運転者特定手段を更に備え、
前記第1記憶手段及び前記第2記憶手段が前記車両の外部に設置されており、
前記速度推定手段は、前記運転者特定手段により特定された運転者の速度偏差値と前記複数の運転者の速度特性データとに基づいて、前記車両が前記任意地点を走行するときの走行速度を推定することを特徴とする請求項2記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【請求項5】
前記走行エネルギー算出手段は、前記速度推定手段により推定された走行速度と前記車両に関するパラメータと前記車両が通る道路に関するパラメータとに基づいて、前記任意地点における勾配抵抗、空気抵抗、加速抵抗及び転がり抵抗を計算して前記走行エネルギーを求めることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の車両用走行エネルギー演算システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−16465(P2011−16465A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163041(P2009−163041)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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