説明

車両用運転状態検出装置、車両用運転状態検出方法および自動車

【課題】運転者の運転状態をより適切に検出すること。
【解決手段】自動車1Aは、車両用運転状態検出装置1を備え、車両走行状態(車線内横位置L)の分布を取得する。そして、取得した分布について複数の統計指標を算出し、これらの組み合わせを基に、車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを判定する。自動車1Aは、車両走行状態(車線内横位置L)の分布において歪みを検出した場合、運転者が漫然運転を行っていると判定し、音および表示によって、運転者が漫然運転を行っていることに対する報知を行う。したがって、運転者の運転状態をより適切に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の運転状態を検出する車両用運転状態検出装置、車両用運転状態検出方法および自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の運転状態を検出する装置として、特許文献1に記載された運転支援装置が知られている。
特許文献1に記載された運転支援装置においては、運転者が行った運転操作に関する情報を検出し、検出された情報の分布を運転者の挙動情報として算出している。そして、走行状況毎に設定された判定基準となる分布と、運転者の挙動情報とを比較することにより、運転者の運転状態を検出し、必要に応じて運転者に注意を促している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−343904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術においては、走行状況毎に判定基準を設定している。そのため、現在の走行状況に類似する走行状況の判定基準を選択して判定を行ったとしても、判定基準を設定する際に想定した走行状況と、実際の走行状況とが必ずしも一致しない場合がある。
そのため、従来の技術においては、運転者の運転状態を適切に検出できないことがあった。このような場合、運転者に対して無用に注意を促すこととなる。また、特に、漫然運転を行っている運転者に対して適切な注意を促すことが困難である。
本発明の課題は、運転者の運転状態をより適切に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用運転状態検出装置は、
車両走行状態検出手段が車両走行状態を検出し、運転状態検出手段が、車両走行状態の分布の歪みを基に、運転者が漫然運転の状態であるか否かを検出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両走行状態の分布の歪みから運転者の漫然運転状態を検出するため、運転者の運転状態をより適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態に係る車両用運転状態検出装置1を備えた自動車1Aの概略構成図である。
【図2】自動車1Aの制御系統を示すシステム構成図である。
【図3】運転状態検出処理を示すフローチャートである。
【図4】車線内横位置Lを用いた場合の車両走行状態の分布を示す図である。
【図5】歪度と尖度とを組み合わせて分布の歪みを検出する場合の検出基準を示すマップである。
【図6】車線到達予測時間TLCの概念を示す模式図である。
【図7】車線到達予測時間TLCを用いた場合の車両走行状態の分布を示す図である。
【図8】車線到達予測時間の逆数1/TLCを用いた場合の車両走行状態の分布を示す図である。
【図9】平均値と最頻値とを組み合わせて分布の歪みを検出する場合の検出基準を示すマップである。
【図10】平均値と中央値とを組み合わせて分布の歪みを検出する場合の検出基準を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用運転状態検出装置1を備えた自動車1Aの概略構成図である。
また、図2は、自動車1Aの制御系統を示すシステム構成図である。
図1および図2において、自動車1Aは、アクセルセンサ10と、ブレーキセンサ20と、車速センサ30FR,30FL,30RR,30RLと、舵角センサ40と、レーザレーダ50と、カメラ60と、ナビゲーションシステム70とを含んでいる。また、自動車1Aは、コントローラ80と、表示ユニット90と、スピーカ100とを含んでいる。
なお、これらのうち、車速センサ30FR,30FL,30RR,30RLと、舵角センサ40と、レーザレーダ50と、カメラ60と、コントローラ80と、表示ユニット90と、スピーカ100とは、車両用運転状態検出装置1を構成している。
【0009】
アクセルセンサ10は、アクセルペダルのストローク量を検出し、検出したストローク量を示す信号をコントローラ80に出力する。
ブレーキペダルセンサ20は、ブレーキペダルのストローク量を検出し、検出したストローク量を示す信号をコントローラ80に出力する。
車速センサ30FR,30FL,30RR,30RLは、自動車1Aの右前輪、左前輪、右後輪および左後輪にそれぞれ設置された車速パルスセンサであり、各車輪の回転速度を示す信号をコントローラ80に出力する。
舵角センサ40は、運転者がステアリングホイールに対して行った操舵操作の舵角を検出し、検出した舵角を示す信号をコントローラ80に出力する。
【0010】
レーザレーダ50は、車両の前方グリルやバンパ等に設置してあり、水平方向に赤外光パルスを照射して自車両の前方領域を走査する。レーザレーダ10は、前方にある複数の反射物(通常、先行車の後端)で反射した赤外光パルスの反射波を計測し、反射波の到達時間より、複数の障害物までの車間距離Dおよび相対速度Vrを検出する。そして、レーザレーダ50は、検出した車間距離Dおよび相対速度Vrを示す信号をコントローラ40に出力する。レーザレーダ10がスキャンする前方の領域は、自車正面に対して例えば±6deg程度であり、レーザレーダ10は、この範囲内に存在する前方物体を検出する。
【0011】
カメラ60は、フロントウィンドウ上部に取り付けた小型のCCD(Charge Coupled Devices)カメラ、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等の撮像装置であり、前方道路の状況を画像として検出する。なお、カメラ60による検知領域は車両の前後方向中心線に対して水平方向に±30deg程度であり、カメラ60は、この領域に含まれる前方道路風景を画像として取り込む。
ナビゲーションシステム70は、GPS(Global Positioning System)受信機、地図データベース、および表示モニタを有し、経路探索および経路案内等を行うシステムである。ナビゲーションシステム70は、GPS受信機によって取得した自車両の現在位置と地図データベースに格納された道路情報に基づいて、自車両が走行する道路の種別や道路幅員等の情報を取得することができる。
【0012】
コントローラ80は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等のCPU周辺部品とを含む電子制御ユニットであり、車両用運転状態検出装置1全体の制御を行う。
具体的には、コントローラ80は、車速センサ30FR,30FL,30RR,30RLからの信号を基に自車両の速度Vを算出する。
また、コントローラ80は、前方カメラ15からの画像信号に画像処理を施し、自車両前方領域に存在するレーンマーカ等を検出する。
【0013】
さらに、コントローラ80は、舵角センサ40、カメラ60、車速センサ30FR,30FL,30RR,30RL、ナビゲーションシステム70等から取得した信号に基づいて、後述する運転状態検出処理を実行することにより、運転者の運転状態を分析する。
表示ユニット90は、液晶ディスプレイあるいはLED(Light Emitting Diode)ランプといった表示装置を有し、コントローラ80からの指示信号に従って、運転者に対する各種情報の報知を行う。
スピーカ100は、コントローラ80からの指示信号に従って、ブザー音や音声により運転者に対する各種情報の報知を行う。
【0014】
(運転状態検出処理)
次に、コントローラ80が実行する運転状態検出処理について説明する。
図3は、運転状態検出処理を示すフローチャートである。
コントローラ80は、イグニションオンと共に運転状態検出処理を開始し、以後、一定時間(例えば数秒〜数十秒)毎に割込み処理として繰り返し実行する。
図3において、運転状態検出処理を開始すると、コントローラ80は、まず車両走行状態を取得する(ステップS10)。このとき、コントローラ80は、自車両の車速V、左右レーンマーカまでの距離R等を取得し、これらを基に、車両走行状態として、左右方向制御に関するパラメータを算出する。
【0015】
具体的には、コントローラ80は、車両走行状態として、例えば、以下のパラメータを算出して用いる。
・車線内の横位置データL
車線中央をゼロとし、車線幅Wとした場合、通常の走行時には、車線内の横位置データLは、ほぼ±W/2の範囲で分布する。即ち、通常の走行時において、運転者は、車線の端部に到達しないよう、車線内(±W/2)の範囲に留まるようにハンドル操作を行っていると考えられる。
ステップS10に続いて、コントローラ80は、今回取得された車両走行状態をROMに保存する(ステップS20)。コントローラ80は、過去の設定時間(例えば5分間)における車両走行状態をROMに保存し、以降の処理で用いている。
【0016】
次に、コントローラ80は、ステップS20において保存した車両走行状態を基に、車両走行状態の分布を算出する(ステップS30)。
次いで、コントローラ80は、ステップS30で算出した車両走行状態の分布から、分布が歪んでいることを検出するための統計指標を算出する(ステップS40)。
具体的には、コントローラ80は、車両走行状態量を示すパラメータをXiとしたときに、下記のような統計指標を算出する。
・歪度(Skewness)
歪度は、分布の対称性の違いを表しており、分布特性において右の裾野が広い場合は正、左の裾野が広い場合は負の値となる。
歪度Skは、次式によって算出できる。
【0017】
【数1】

【0018】
・尖度(Kurtosis)
尖度は、正規分布と比較した場合の分布の尖り度合いを表す。即ち、分布の中心が先にとがり裾野をもつ分布であれば尖度は大きい値となり、分布の中心がなだらかで全体として扁平な分布であれば尖度は小さい値となる。
尖度Kuは、次式によって算出できる。
【0019】
【数2】

【0020】
ステップS40に続き、コントローラ80は、ステップS40で算出した統計指標から、総合的に車両走行状態の分布の歪みを検出する(ステップS50)。すなわち、コントローラ80は、ステップS40で算出した統計指標を組み合わせて、車両走行状態の分布が歪んでいる状態を検出する。
ここで、分布の歪みの形態は、車両走行状態として用いるパラメータの種類によって異なるものとなるが、例えば、車両走行状態の左右方向制御のパラメータとして、車線内横位置Lを用いた場合の分布は、図4のように例示できる。
【0021】
図4は、車線内横位置Lを用いた場合の車両走行状態の分布を示す図である。
図4において、破線は分布が歪んでいない状態を示し、実線は分布が歪んだ状態を示している(以下の図において同様である。)。
即ち、図4において、破線は運転者が比較的高い注意力をもって運転を行っている状態の分布を示し、実線は運転者が漫然運転を行っている状態(注意力が低下した運転状態)の分布を示している。
漫然運転を行っている状態の分布には、図4(a)に示すように、左右いずれかに分布が偏る場合(パターン1)と、図4(b)に示すように、左右の両端に分布が偏る場合(パターン2)の概して2つのパターンがある。
また、上記ステップS50においては、図4に例示するような分布の歪みを検出するために、歪度と尖度との組み合わせを用いる。
【0022】
図5は、歪度と尖度とを組み合わせて分布の歪みを検出する場合の検出基準を示すマップである。
図5に示すように、歪度を横軸、尖度を縦軸としたマップにおいて、コントローラ80は、ステップS40で算出した歪度と尖度とが、いずれの領域に属するかを基に、分布が歪んでいる状態を検出する。具体的には、コントローラ80は、歪度と尖度の合計が設定した閾値よりも大きい場合に分布が歪んでいると判定する。なお、車両走行状態の分布をとったとき、歪度は概して−1から3の範囲に分布し、尖度は概して−5から+5の範囲に分布する。また、正規分布の場合、尖度の値は+3となる。
【0023】
上記ステップS50に続き、コントローラ80は、運転者の運転状態が漫然運転の状態であるか否かを判定する(ステップS60)。具体的には、コントローラ80は、ステップS50において、分布の歪みを検出している場合に、運転者が漫然運転の状態であるものと判定する。
ここで、車両走行状態の分布の歪みは、運転者が適正であると感じる範囲から逸脱しそうになった場合に、積極的な回避行動を取ることによって生じるものである。
【0024】
そのため、車両走行状態の分布の歪みを検出することは、即ち、運転者が通常の運転状態(適正であると感じる運転状態)とは異なる運転状態であることを検出することに相当する。さらに、車両走行状態として、車両の左右方向制御に関するパラメータの分布の歪みを検出することは、運転者の車線内における走行位置がふらついている状態を検出することから、漫然運転を行っている状態を検出することとなる。
【0025】
そして、コントローラ80は、ステップS60において、運転者が漫然運転を行っている状態を検出したと判定した場合、スピーカ100から音を発することにより、運転者が漫然運転を行っていることを報知する(ステップS70)。
さらに、コントローラ80は、表示ユニット90によって漫然運転を行っていることを報知する表示を行う(ステップS80)。
一方、ステップS60において、運転者が漫然運転を行っている状態を検出していないと判定した場合、コントローラ80は、運転状態検出処理を終了する。
【0026】
(動作)
次に、動作を説明する。
自動車1Aは、イグニションオンと共に、コントローラ80によって図3に示す運転状態検出処理を繰り返し実行し、車両走行状態の分布およびそのときの分布についての統計指標を算出している(図3のステップS10〜S40)。
自動車1Aの運転者は、通常、車両走行状態がある適正な範囲内に留まるように、車両の制御操作を行っている。
このとき、図4(a),(b)における破線で示したように、車線内横位置Lの分布は、車線中央を示すゼロを中心として、制御誤差による多少のばらつきを含む分布となり、この範囲内において正規分布に近い分布となる。
【0027】
このような場合、自動車1Aは、運転状態検出処理のステップS50において、車両走行状態の分布が歪んでいないと判定し、運転者に漫然さがない適正な運転時のデータとして、取得した車線内横位置LをROMに記憶していく。
一方、運転者が漫然運転を行っている状況では、図4(a),(b)における実線で示す車両走行状態(車線内横位置L)の分布となる。
自動車1Aは、運転状態検出処理において、車両走行状態の分布における図4(a),(b)の実線で示すような歪みを検出し(ステップS50)、歪みが検出された場合には、運転者が漫然運転を行っている状態と推定できるため、運転者に対して表示あるいは音により、漫然運転を行っていることを報知する。
【0028】
以上のように、本実施形態に係る自動車1Aは、車両用運転状態検出装置1を備え、車両走行状態(車線内横位置L)の分布を取得する。そして、取得した分布について複数の統計指標を算出し、これらの組み合わせを基に、車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを判定する。
自動車1Aは、車両走行状態(車線内横位置L)の分布において歪みを検出した場合、運転者が漫然運転を行っていると判定し、音および表示によって、運転者が漫然運転を行っていることに対する報知を行う。
したがって、運転者の運転状態をより適切に検出することができる。
また、これにより、運転者に対する報知をより適切に行うことができる。
【0029】
なお、本実施形態において、車速センサ30FR,30FL,30RR,30RL、レーザレーダ50、カメラ60およびコントローラ80が車両走行状態検出手段に対応し、運転状態検出処理を実行するコントローラ80が運転状態検出手段に対応する。また、運転状態検出処理のステップS40を実行するコントローラ80が統計指標算出手段に対応し、運転状態検出処理のステップS50を実行するコントローラ80が歪み検出手段に対応する。また、運転状態検出処理のステップS60を実行するコントローラ80が運転状態判定手段に対応する。また、運転状態検出処理のステップS70,80を実行するコントローラ80が報知手段に対応する。
【0030】
(第1実施形態の効果)
(1)車両走行状態検出手段が車両走行状態を検出し、運転状態検出手段が、車両走行状態の分布の歪みを基に、運転者が漫然運転の状態であるか否かを検出する。
したがって、車両走行状態の分布の歪みから運転者の漫然運転状態を検出するため、運転者の運転状態をより適切に検出することができる。
【0031】
(2)統計指標算出手段が、車両走行状態の分布を基に、分布の統計指標を算出し、歪み検出手段が、算出した統計指標に基づいて、車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを検出する。また、運転状態判定手段が、歪み検出手段による車両走行状態の分布における歪みの検出結果に基づいて、運転者が漫然運転の状態であるか否かを判定する。
したがって、統計指標によって、分布に歪みがあるか否かを容易に検出できる。また、歪みを検出したときの車両走行状態に基づいて漫然運転の状態であるか否かを判定できるため、より正確に運転者の漫然運転を検出することができる。
【0032】
(3)統計指標算出手段が、車両走行状態の分布を基に、複数の統計指標を算出し、歪み検出手段が、複数の統計指標について設定した判定基準を基に、車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを検出する。
したがって、複数の統計指標によって多面的な判定基準で分布の歪みを検出できるため、より正確に運転者の漫然運転を検出することができる。
(4)車両走行状態として、車両の操舵制御操作に関するパラメータを取得するため、漫然運転の場合に表れる車両のふらつきを基に、運転者の漫然運転を検出することができる。
【0033】
(5)車両走行状態として、走行車線内の横方向位置を取得するため、漫然運転の場合に表れる車両のふらつきを基に、運転者の漫然運転を検出することができる。
(6)車両走行状態として、走行車線端部への到達予測時間である車線到達予測時間または該車線到達予測時間の逆数の少なくともいずれかを取得するため、漫然運転の場合に表れる車両のふらつきを基に、運転者の漫然運転を検出することができる。
(7)複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する歪度と尖度とを算出するため、分布の歪みを適切に検出することができる。
(8)複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する平均値と最頻値とを算出するため、分布の歪みを適切に検出することができる。
(9)複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する平均値と中央値とを算出するため、分布の歪みを適切に検出することができる。
【0034】
(10)複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する歪度と標準偏差とを算出するため、分布の歪みを適切に検出することができる。
(11)車両走行状態を検出する車両走行状態検出ステップと、車両走行状態検出ステップにおいて検出した車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを基に、運転者が漫然運転の状態であるか否かを検出する運転状態検出ステップとを含む車両用運転状態検出方法である。
したがって、車両走行状態の分布の歪みから運転者の漫然運転状態を検出するため、運転者の運転状態をより適切に検出することができる。
【0035】
(12)車両走行状態を検出する車両走行状態検出手段と、車両走行状態検出手段によって検出した車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを基に、運転者が漫然運転の状態であるか否かを検出する運転状態検出手段と、運転状態判定手段の検出結果に基づいて、運転者に対して運転状態の報知を行なう報知手段とを備える自動車である。
したがって、車両走行状態の分布の歪みから運転者の漫然運転状態を検出するため、運転者の運転状態をより適切に検出することができる。また、運転者が漫然運転を行っている場合に、適切な注意を促すことができる。
【0036】
(応用例1)
第1実施形態においては、車両走行状態として、車両左右方向の制御に関するパラメータである車線内横位置データLを用いることとして説明した。
これに対し、車両左右方向の制御に関するパラメータとして、以下のパラメータを用いることができる。
・車線到達予測時間TLC
車線到達予測時間TLCは、現在の車速Vと走行方向において、車線端部への到達が予測されるまでの残り時間を示すパラメータである。
【0037】
図6は、車線到達予測時間TLCの概念を示す模式図である。
図6に示す距離Rと車速Vとを用いて、車線到達予測時間TLCは、以下の式で求めることができる。
TLC=R/V (3)
車線到達予測時間TLCについては、検出された左右レーンマーカまでの距離の時間変化を求めることにより、その時間変化から左右レーンマーカまでの距離がゼロになると予測される予測時間を求めることで算出することも可能である。
車線到達予測時間TLCは、車線端部に到達しそうな場合における左右レーンマーカとの接近度合を示すと考えられ、車線端部に到達しそうな場合、車線到達予測時間TLCが小さくなりすぎないように運転者が修正操舵を行っていると考えられる。
【0038】
・車線到達予測時間の逆数1/TLC
上記車線到達予測時間TLCは、直線道路で道路中心を直進している時には、値を定義することができず、車線到達予測時間TLCの分布の形状を求めることが困難となる。また、左右いずれの方向への変位も同じものとして扱うため、変位の傾向が左右で異なる場合に、その差を検出することが困難となる。そこで、車線到達予測時間TLCの逆数を取り、左右方向の一方をプラス、他方をマイナスで定義することにより、より正確に統計的な処理を行うことが可能となる。
【0039】
また、車両走行状態を示すパラメータとして、これらを用いた場合、分布の歪みの形態は、以下のように例示できる。
即ち、車両走行状態の左右方向制御のパラメータとして、車線到達予測時間TLCを用いた場合の分布は、図7のように例示できる。
図7は、車線到達予測時間TLCを用いた場合の車両走行状態の分布を示す図である。
さらに、車両走行状態の左右方向制御のパラメータとして、車線到達予測時間の逆数1/TLCを用いた場合の分布は、図8のように例示できる。
【0040】
図8は、車線到達予測時間の逆数1/TLCを用いた場合の車両走行状態の分布を示す図である。
図8において、破線は運転者が比較的高い注意力をもって運転を行っている状態の分布を示し、実線は運転者が漫然運転を行っている状態の分布を示している。
漫然運転を行っている状態の分布には、図8(a)に示すように、左右いずれかに分布が偏る場合(パターン1)と、図8(b)に示すように、左右の両端に分布が偏る場合(パターン2)の概して2つのパターンがある。
これらのパラメータを車両走行状態を示すパラメータとして用いた場合にも、第1実施形態と同様に、分布の歪みを検出することができる。
【0041】
(応用例2)
第1実施形態において、車両走行状態の分布の歪みを検出するための統計指標として、歪度と尖度を算出し、これらを組み合わせて用いる場合を例に挙げて説明したが、以下に示す他の統計指標を用いることができる。
・平均値(Mean)
平均値は、分布の中心的な位置を表しており、全てのデータを常に1つの値で予測するときに、その予測が外れている度合いの2乗和を最小にする定数である。
平均値Xは、次式によって算出できる。
【0042】
【数3】

【0043】
・標準偏差
標準偏差は、平均値によってすべてのデータの値を予測するときの予測の外れ度を示す。
標準偏差sは、次式によって算出できる。
【0044】
【数4】

【0045】
・中央値(Median)
中央値は、データを大きさ順に並べた時に、データが分布する大きさの範囲の中央に当たる値を示すものである。
・最頻値(Mode)
最頻値は、区分毎に分けてデータの度数を計数したときに、最も高い度数を示す区分の値である。
車両走行状態の分布の歪みを検出する場合、これらの統計指標を組み合わせて用いることができる。組み合わせの態様としては、第1実施形態で示した歪度と尖度のパターンの他、以下のパターンを例示できる。
【0046】
(1)平均値と最頻値との組み合わせ
図9は、平均値と最頻値とを組み合わせて分布の歪みを検出する場合の検出基準を示すマップである。
図9に示すように、平均値を横軸、最頻値を縦軸としたマップにおいて、コントローラ80は、ステップS40で算出した平均値と最頻値とが、いずれの領域に属するかを基に、分布が歪んでいる状態を検出する。具体的には、コントローラ80は、平均値と最頻値との差が設定した閾値よりも大きい場合に分布が歪んでいると判定する。
【0047】
(2)平均値と中央値との組み合わせ
図10は、平均値と中央値とを組み合わせて分布の歪みを検出する場合の検出基準を示すマップである。
図10に示すように、平均値を横軸、中央値を縦軸としたマップにおいて、コントローラ80は、ステップS40で算出した平均値と中央値とが、いずれの領域に属するかを基に、分布が歪んでいる状態を検出する。具体的には、コントローラ80は、平均値と中央値との差が設定した閾値よりも大きい場合に分布が歪んでいると判定する。
【0048】
(3)歪度と標準偏差との組み合わせ
標準偏差は、尖度に代用可能な特性を有すると考えられ、第1実施形態において、尖度に代えて標準偏差を用いることができる。
また、標準偏差は、分布の一様性を示す指標と捉えることができるため、標準偏差が設定した閾値より大きい場合には、その車両走行状態の分布は、歪みを検出することが適切でないものと判定できる。
【0049】
(応用例3)
上述のように、標準偏差は、分布の一様性を示す指標として用いることができ、車両走行状態の分布が歪みの検出に適するものかどうかを判定することができる。
そこで、運転状態検出処理のステップS40において、統計指標として標準偏差を用いない場合であっても、コントローラ80によって標準偏差を算出し、車両走行状態の分布が歪みの検出に適するものかどうかを判定することができる。
コントローラ80は、算出した標準偏差が閾値より大きいと判定した場合には、その処理ルーチンに限り、車両走行状態の分布について歪みを検出する処理をスキップする。
【0050】
車両走行状態の計測期間によっては、一般道路と高速道路のように道路特性が異なる2つの道路における検出値を含むことがある。この場合に、2つの道路における車両走行状態の正規分布が重なり、分布が歪んだ状態と類似する分布形態となる可能性がある。
上述のように、標準偏差を用いて、閾値との判定を行うことにより、このような分布形態を分布の歪みと判定する事態を軽減することが可能となる。
【0051】
(応用例4)
第1実施形態において、車両走行状態の分布を示す統計指標として、歪度と尖度の2つの指標を用いる場合を例に挙げて説明したが、3つ以上の統計指標を組み合わせて歪みの検出を行うことができる。
例えば、歪度と歪度に加え、平均値を加味した判定基準を設定し、その判定基準に基づいて、車両走行状態の分布が歪んでいるか否かを判定することができる。
この場合、統計指標を2つ組み合わせて分布の歪みを検出する場合に比べ、多面的な条件を考慮することができるため、運転者の運転状態をより適切に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1A 自動車、1 車両用運転状態検出装置、10 アクセルセンサ、20 ブレーキセンサ、30FR,30FL,30RR,30RL 車速センサ、40 舵角センサ、50 レーザレーダ、60 カメラ、70 ナビゲーションシステム、80 コントローラ、90 表示ユニット、100 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行状態を検出する車両走行状態検出手段と、
前記車両走行状態検出手段によって検出した車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを基に、運転者が漫然運転の状態であるか否かを検出する運転状態検出手段と、
を備えることを特徴とする車両用運転状態検出装置。
【請求項2】
前記運転状態検出手段は、
前記車両走行状態検出手段によって検出した車両走行状態の分布を基に、該分布の統計指標を算出する統計指標算出手段と、
前記統計指標算出手段によって算出した統計指標に基づいて、車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを検出する歪み検出手段と、
前記歪み検出手段の検出結果に基づいて、運転者が漫然運転の状態であるか否かを判定する運転状態判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項3】
前記統計指標算出手段は、前記車両走行状態検出手段によって検出した車両走行状態の分布を基に、複数の統計指標を算出し、
前記歪み検出手段は、前記統計指標算出手段が算出した複数の統計指標について設定した判定基準を基に、車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを検出することを特徴とする請求項2記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項4】
前記車両走行状態検出手段は、前記車両走行状態として、車両の操舵制御操作に関するパラメータを取得することを特徴とする請求項1または2記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項5】
前記車両走行状態検出手段は、前記車両走行状態として、走行車線内の横方向位置を取得することを特徴とする請求項3記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項6】
前記車両走行状態検出手段は、前記車両走行状態として、走行車線端部への到達予測時間である車線到達予測時間または該車線到達予測時間の逆数の少なくともいずれかを取得することを特徴とする請求項3記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項7】
前記統計指標算出手段は、前記複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する歪度と尖度とを算出することを特徴とする請求項3記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項8】
前記統計指標算出手段は、前記複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する平均値と最頻値とを算出することを特徴とする請求項3記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項9】
前記統計指標算出手段は、前記複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する平均値と中央値とを算出することを特徴とする請求項3記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項10】
前記統計指標算出手段は、前記複数の統計指標として、車両走行状態の分布に関する歪度と標準偏差とを算出することを特徴とする請求項3記載の車両用運転状態検出装置。
【請求項11】
車両走行状態を検出する車両走行状態検出ステップと、
前記車両走行状態検出ステップにおいて検出した車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを基に、運転者が漫然運転の状態であるか否かを検出する運転状態検出ステップと、
を含むことを特徴とする車両用運転状態検出方法。
【請求項12】
車両走行状態を検出する車両走行状態検出手段と、
前記車両走行状態検出手段によって検出した車両走行状態の分布に歪みがあるか否かを基に、運転者が漫然運転の状態であるか否かを検出する運転状態検出手段と、
前記運転状態判定手段の検出結果に基づいて、運転者に対して運転状態の報知を行なう報知手段と、
を備えることを特徴とする自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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