説明

車両用駆動制御装置

【課題】車両発進時におけるドライバビリティ悪化の抑制と燃費の向上とを両立させる車両用駆動制御装置を提供する。
【解決手段】車両停止時にロックアップクラッチLUを係合させると共に電動機MGから出力される駆動力でオイルポンプ28により油圧を発生させている状態から、ブレーキ操作が解除されることにより車両発進が行われる場合には、ロックアップクラッチLUが係合された状態で第1クラッチC1を半係合させるフリクションスタートが行われることから、比較的負荷が小さい車両発進時において、トルクコンバータ16の損失を抑制し、ドライバビリティを低下させることなく好適に発進できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動制御装置に関し、特に、車両発進時におけるドライバビリティ悪化の抑制と燃費の向上とを両立させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
主駆動源であるエンジンと、駆動源として機能する電動機と、そのエンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両の駆動装置が知られている。斯かるハイブリッド車両の駆動装置において、前記駆動源として機能する電動機によりオイルポンプを駆動する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置がそれである。この技術によれば、例えば車両停止時において、前記駆動源として機能する電動機から出力される駆動力を用いてオイルポンプにより油圧を発生させることで、専用の電動オイルポンプを必要としないコンパクトな駆動装置を提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−037401号公報
【特許文献2】特開2010−149652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータと、前記トルクコンバータのポンプ側に連結された電動機及びオイルポンプと、エンジンと前記電動機との間を断接する断接クラッチと、入力軸と出力軸との間を断接する発進クラッチとを、備えた車両が知られている。斯かる車両では、車両停止時に前記電動機から出力される駆動力を用いてオイルポンプにより油圧を発生させる場合、前記ロックアップクラッチを解放させたままでは前記トルクコンバータの損失が大きく、燃費が悪化するという不具合があった。そこで、前記ロックアップクラッチを係合させた状態で前記電動機によりオイルポンプを駆動することが考えられるが、斯かる制御を行った場合、前記電動機の回転速度が低下することにより前記オイルポンプから出力される油圧が不足するおそれがあった。すなわち、車両発進時におけるドライバビリティ悪化の抑制と燃費の向上とを両立させる技術は未だ開発されていないのが現状であり、前記従来の技術によっては斯かる課題を解決することができなかった。このような課題は、車両の燃費及びドライバビリティの向上を意図して本発明者等が鋭意研究を続ける過程において新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両発進時におけるドライバビリティ悪化の抑制と燃費の向上とを両立させる車両用駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータと、前記トルクコンバータのポンプ側に連結された電動機及びオイルポンプと、エンジンと前記電動機との間を断接する断接クラッチと、入力軸と出力軸との間を断接する発進クラッチとを、備えた車両用駆動制御装置であって、車両停止時に前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態から、ブレーキ操作が解除されることにより車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチが係合された状態で前記発進クラッチを半係合させるフリクションスタートが行われることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、車両停止時に前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態から、ブレーキ操作が解除されることにより車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチが係合された状態で前記発進クラッチを半係合させるフリクションスタートが行われることから、比較的負荷が小さい車両発進時において、前記トルクコンバータの損失を抑制し、ドライバビリティを低下させることなく好適に発進できる。すなわち、車両発進時におけるドライバビリティ悪化の抑制と燃費の向上とを両立させる車両用駆動制御装置を提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、車両停止時に前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態から、アクセル踏込操作により車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチを半係合させるトルコンスタートが行われるものである。このようにすれば、駆動力が要求される車両発進時には、前記トルクコンバータをスリップさせることで加速要求に対して速やかなエンジン始動が実現される。
【0009】
前記第2発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、アクセル踏込操作量に応じた駆動力要求量が閾値以上である場合には、前記ロックアップクラッチを解放させるものである。このようにすれば、比較的大きな駆動力が要求される車両発進時には、エンジン始動後速やかに大きな駆動力を出力できる。
【0010】
前記第1発明に従属する本第4発明の要旨とするところは、前記電動機の回転速度が閾値未満となった場合には、前記ロックアップクラッチを解放させるものである。このようにすれば、登坂時等において電動機の回転が低下した場合に、必要なオイルポンプ吐出量を確保できる。
【0011】
前記第1発明に従属する本第5発明の要旨とするところは、ブレーキ操作が解除されず且つアクセル踏込操作が行われた場合には、前記ロックアップクラッチを解放させるものである。このようにすれば、ブレーキとアクセルが同時に踏み込まれた場合に、必要なオイルポンプ吐出量を確保できる。
【0012】
前記第1発明に従属する本第6発明の要旨とするところは、アクセル踏込操作が行われず且つ前記エンジンの始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチを半係合させるものである。このようにすれば、バッテリSOC低下時等、アクセル操作によらずエンジン始動が行われる場合に、エンジン始動に伴う駆動力の変化を抑制して始動ショックの発生を好適に防止できる。
【0013】
前記第2発明に従属する本第7発明の要旨とするところは、前記ロックアップクラッチが係合された状態で前記発進クラッチを半係合させるフリクションスタートが行われる場合と、前記ロックアップクラッチを半係合させるトルコンスタートが行われる場合とで、それぞれ異なる変速線図に基づいて自動変速機の変速制御を行うものである。このようにすれば、フリクションスタート時には電動機の効率を向上させられると共に、トルコンスタート時にはトルクコンバータの損失を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の車両用駆動制御装置が好適に適用されるハイブリッド車両に係る駆動系統及び制御系統の構成を概念的に示す図である。
【図2】図1のハイブリッド車両に備えられた自動変速機の構成の一例を示す骨子図である。
【図3】図2の自動変速機の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図4】図1のハイブリッド車両における電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】従来の技術における、車両停止時に電動機から出力される駆動力でオイルポンプにより油圧を発生させる制御を行っている状態からの車両発進時における制御の問題点について説明する図である。
【図6】従来の技術における、車両停止時に電動機から出力される駆動力でオイルポンプにより油圧を発生させる制御を行っている状態からの車両発進時における制御の問題点について説明する図である。
【図7】図4の電子制御装置による自動変速機の変速制御に用いられる変速線図の一例であり、フリクションスタート制御時に用いられるものである。
【図8】図4の電子制御装置による自動変速機の変速制御に用いられる変速線図の一例であり、トルコンスタート制御時に用いられるものである。
【図9】図4の電子制御装置による車両発進時制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、好適には、車両停止時に、前記断接クラッチが解放されると共に前記エンジンが停止させられており、且つ、前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態からの車両発進時に好適に適用される。すなわち、前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態から、前記電動機を走行用の駆動源として車両発進を行う車両発進制御に好適に適用される。
【0016】
本発明は、好適には、車両停止時に、前記発進クラッチを半係合させるニュートラル制御が行われており、且つ、前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態からの車両発進時に好適に適用される。前記ニュートラル制御は、好適には、車両停止時において所定の条件が成立する場合、例えば、車速が零であり、シフト操作位置がDレンジであり、アクセル開度が零(アクセルオフ)であり、且つブレーキ踏込操作が行われている場合(ブレーキオン)に実行される。本発明は、好適には、前記ニュートラル制御が実行されている状態から、ブレーキ踏込操作が解除されることによりそのニュートラル制御からの復帰が行われる際における車両発進制御に適用される。
【0017】
本発明は、好適には、前記自動変速機等における各部へ供給される油圧を制御する油圧制御回路の元圧としての油圧を、専ら機械式の前記オイルポンプにより発生させる車両に好適に適用される。すなわち、本発明が適用される車両は、好適には、前記エンジン及び前記電動機の少なくとも一方の駆動力により油圧を発生させる前記オイルポンプ以外に、前記自動変速機等における各部へ供給される油圧を制御する油圧制御回路の元圧としての油圧を発生させる電動式オイルポンプを有しない。
【0018】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明の車両用駆動制御装置が好適に適用されるハイブリッド車両10に係る駆動系統及び制御系統の構成を概念的に示す図である。この図1に示すハイブリッド車両10は、駆動源として機能するエンジン12及び電動機MGを備えており、それらエンジン12及び電動機MGにより発生させられた駆動力は、トルクコンバータ16、自動変速機18、差動歯車装置20、及び左右1対の車軸22をそれぞれ介して左右1対の駆動輪24へ伝達されるように構成されている。上記電動機MG、トルクコンバータ16、及び自動変速機18は、何れもトランスミッションケース36(以下、ケース36という)内に収容されている。このケース36は、例えばアルミダイキャスト製の分割式ケースであり、車体等の非回転部材に固定されている。斯かる構成から、上記ハイブリッド車両10は、上記エンジン12及び電動機MGの少なくとも一方を走行用の駆動源として駆動される。すなわち、上記ハイブリッド車両10においては、専ら上記エンジン12を走行用の駆動源とするエンジン走行モード、専ら上記電動機MGを走行用の駆動源とするEV走行(モータ走行)モード、及び上記エンジン12及び電動機MGを走行用の駆動源とするEHV走行(ハイブリッド走行)モード等、複数の走行モード等が選択的に成立させられる。
【0020】
上記エンジン12は、例えば、燃料が燃焼室内に直接噴射される筒内噴射型のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。上記エンジン12の駆動(出力トルク)を制御するために、電子スロットル弁を開閉制御するスロットルアクチュエータ、燃料噴射制御を行う燃料噴射装置、及び点火時期制御を行う点火装置等を備えた出力制御装置14が設けられている。この出力制御装置14は、後述する電子制御装置50から供給される指令に従ってスロットル制御のために上記スロットルアクチュエータにより上記電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射制御のために上記燃料噴射装置による燃料噴射を制御し、点火時期制御のために上記点火装置による点火時期を制御する等して上記エンジン12の出力制御を実行する。
【0021】
前記トルクコンバータ16は、入力側回転部材であるポンプ翼車(ポンプインペラ)16pと、出力側回転部材であるタービン翼車(タービンランナ)16tと、それらポンプ翼車16p及びタービン翼車16tの間に設けられたステータ翼車16sとを、備えている。前記ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間には、それらポンプ翼車16p及びタービン翼車16tの間を断接し、接続状態においてはそれらが一体的に回転させられるように直結するロックアップクラッチLUが設けられている。すなわち、このロックアップクラッチLUは、油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、乃至開放(完全開放)の間で制御されるようになっている。前記トルクコンバータ16のポンプ側すなわち前記ポンプ翼車16pには、機械式のオイルポンプ28が連結されており、そのポンプ翼車16の回転に伴いそのオイルポンプ28により発生させられた油圧が油圧制御回路34に元圧として供給されるようになっている。
【0022】
図2は、前記自動変速機18の構成の一例を示す骨子図である。斯かる自動変速機18は、その軸心に対して対称的に構成されているため、図2の骨子図においてはその下側が省略されている。この図2に示すように、前記自動変速機18は、前記トルクコンバータ16のタービン側すなわち前記タービン翼車16tに連結された入力軸38と、前記差動歯車装置20に連結された出力軸40との間の動力伝達経路に、例えばシングルピニオン型の遊星歯車装置42、44を主体として構成され、予め定められた複数の変速段(変速比)の何れかが選択的に成立させられる有段式の自動変速機構である。上記遊星歯車装置42、44は、それぞれサンギヤS1、S2、遊星歯車P1、P2、それら遊星歯車P1、P2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、CA2、遊星歯車P1、P2を介してサンギヤS1、S2と噛み合うリングギヤR1、R2を備えている。
【0023】
前記自動変速機18は、複数の油圧式摩擦係合装置を備え、それら係合装置の係合乃至解放の組み合わせに応じて予め定められた複数の変速段を選択的に成立させる有段式の変速機構である。すなわち、前記自動変速機18においては、上記サンギヤS1が第1ブレーキB1を介して前記ケース36に選択的に連結されるようになっている。上記キャリアCA1とリングギヤR2とが一体的に連結され、第2ブレーキB2を介して前記ケース36に選択的に連結されるようになっていると共に、一方向クラッチF1を介してそのケース36に対する一方向の回転が許容されつつ逆方向の回転が阻止されるようになっている。上記サンギヤS2が第1クラッチC1を介して上記入力軸38に選択的に連結されるようになっている。一体的に連結された上記キャリアCA1及びリングギヤR2が第2クラッチC2を介して上記入力軸38に選択的に連結されるようになっている。上記リングギヤR1とキャリアCA2とが一体的に連結されると共に上記出力軸40に連結されている。
【0024】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、何れも従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するための装置である。前記一方向クラッチF1は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられているワンウェイクラッチであり、前記自動変速機18(入力軸38)の駆動時において係合されて前記ハウジング36に対する前記キャリアCA1(リングギヤR2)の相対回転を阻止するが、非駆動時(エンジンブレーキ時)には空転させられて前記ハウジング36に対する前記キャリアCA1(リングギヤR2)の相対回転を許容する。
【0025】
図3は、前記自動変速機18の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表であり、「○」は係合、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合、空欄は解放をそれぞれ表している。この図3に示すように、前記自動変速機18においては、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.20」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。前記自動変速機18では、第1速ギヤ段「1st」を成立させる第2ブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時等の加速時(駆動時)には必ずしも前記第2ブレーキB2を係合させる必要は無い。従って、第1変速段「1st」を成立させる前記第2ブレーキB2は、エンジンブレーキ時に作動(係合)させられる一方、駆動時すなわちパワーオンシフト時においては一方向クラッチF1が係合させられるため係合させられない。前記第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.72」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.00」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。前記第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.67」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γRが例えば「3.20」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0026】
ここで、図3に示すように、前記自動変速機18においては、第1変速段から第4変速段までの各前進変速段において、前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合させられるように構成されている。図2に示すように、前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、前記自動変速機18の入力軸38と出力軸40との間に設けられ、それらが何れも解放された状態においては前記入力軸38と出力軸40との間の動力伝達経路が遮断されるが、少なくとも一方の係合により前記入力軸38と出力軸40との間の動力伝達経路が接続されるように構成されている。必要に応じて半係合(スリップ係合)させられることで、そのトルク容量に応じた動力伝達が行われる。すなわち、本実施例においては、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2が前記自動変速機18の入力軸38と出力軸40との間を断接する発進クラッチ(入力クラッチ)に相当する。本実施例において、車両発進時には、例えば前記第1クラッチC1の係合(及び一方向クラッチF1の係合)により第1変速段「1st」が成立させられる。以下、この第1クラッチC1を発進クラッチとして本実施例の説明を行う。
【0027】
図1に戻って、前記電動機MGは、前記トルクコンバータ16のポンプ側すなわち前記ポンプ翼車16p側に、前記ケース36に対して軸心まわりの回転可能に支持されたロータ30と、そのロータ30の外周側において前記ケース36に一体的に固定されたステータ32とを、備えており、駆動力を発生させるモータ(発動機)及び反力を発生させるジェネレータ(発電機)としての機能を有するモータジェネレータである。この電動機MGは、インバータ56を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置58に接続されており、後述する電子制御装置50によりそのインバータ56を介してコイルに供給される駆動電流が調節されることにより、前記電動機MGの駆動が制御されるようになっている。換言すれば、上記インバータ56を介しての制御により前記電動機MGの出力トルクが増減させられるようになっている。
【0028】
前記エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路には、係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチK0が設けられている。すなわち、本実施例においては、このクラッチK0が前記エンジン12と前記電動機MGとの間を断接する断接クラッチに相当する。前記エンジン12の出力部材であるクランク軸26は、斯かるクラッチK0を介して前記電動機MGのロータ30に選択的に連結されるようになっている。その電動機MGのロータ30は、前記トルクコンバータ16の入力部材であるフロントカバーに連結されている。このクラッチK0は、例えば、油圧アクチュエータによって係合制御される多板式の油圧式摩擦係合装置であり、前記油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、乃至開放(完全開放)の間で制御されるようになっている。すなわち、前記油圧制御回路34から供給される油圧に応じてそのトルク容量が制御されるようになっている。上記クラッチK0が係合されることにより、上記クランク軸26とトルクコンバータ16のフロントカバーとの間の動力伝達経路における動力伝達が行われる(接続される)一方、上記クラッチK0が開放されることにより、上記クランク軸26とトルクコンバータ16のフロントカバーとの間の動力伝達経路における動力伝達が遮断される。上記クラッチK0がスリップ係合されることにより、上記クランク軸26とトルクコンバータ16のフロントカバーとの間の動力伝達経路においてそのクラッチK0のトルク容量(伝達トルク)に応じた動力伝達が行われる。
【0029】
前記ハイブリッド車両10は、図1に例示するような制御系統を備えている。この図1に示す電子制御装置50は、CPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記エンジン12の駆動制御、前記電動機MGの駆動制御、前記自動変速機18の変速制御、前記クラッチK0の係合力制御、及び前記ロックアップクラッチLUの係合制御等の各種制御を実行する。この電子制御装置50は、必要に応じて前記エンジン12の制御用、前記電動機MGの制御用、前記自動変速機18の制御用といったように、複数の制御装置に分けて構成され、相互に情報の通信が行われることで各種制御を実行するものであってもよい。
【0030】
図1に示すように、前記電子制御装置50には、前記ハイブリッド車両10に設けられた各センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、アクセルペダル52の踏込量に対応してアクセル開度センサ60により検出されるアクセル開度ACCを表す信号、ブレーキペダル54の踏込操作に対応してブレーキセンサ62により検出されるブレーキ操作の有無SBを表す信号、エンジン回転速度センサ64により検出される前記エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、タービン回転速度センサ66により検出される前記トルクコンバータ16のタービン翼車16tの回転速度(タービン回転速度)NT(=入力軸38の回転速度NIN)を表す信号、電動機回転速度センサ68により検出される前記電動機MGの回転速度(電動機回転速度)NMGを表す信号、電動機温度センサ70により検出される前記電動機MGの温度TMGを表す信号、車速センサ72により検出される前記出力軸40の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、水温センサ74により検出される前記エンジン12の冷却水温TWを表す信号、吸入空気量センサ76により検出される前記エンジン12の吸入空気量QAを表す信号、及びSOCセンサ78により検出される蓄電装置58の蓄電量(残容量、充電量)SOCを表す信号等が前記電子制御装置50に入力される。
【0031】
前記電子制御装置50から、前記ハイブリッド車両10に設けられた各装置に各種出力信号が供給されるようになっている。例えば、前記エンジン12の駆動制御のためにそのエンジン12の出力制御装置14に供給される信号、前記電動機MGの駆動制御のために前記インバータ56に供給される信号、前記自動変速機18の変速制御のために前記油圧制御回路34における複数の電磁制御弁に供給される信号、前記クラッチK0の係合制御のために前記油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁に供給される信号、前記ロックアップクラッチLUの係合制御のために前記油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁に供給される信号、及びライン圧制御のために前記油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁に供給される信号等が、前記電子制御装置50から各部へ供給される。
【0032】
図4は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示す各制御部は、好適には、前記電子制御装置50に機能的に備えられたものであるが、それぞれ個別の制御部として構成されると共に相互に情報の通信を行うことで以下に詳述する各種機能を実行するものであってもよい。この図4に示す電動機駆動制御部80は、基本的には、前記インバータ56を介して前記電動機MGの作動を制御する。具体的には、前記インバータ56を介して前記蓄電装置58から前記電動機MGへ電気エネルギを供給することによりその電動機MGにより必要な出力すなわち目標電動機出力が得られるように制御したり、その電動機により発電された電気エネルギを前記インバータ56を介して前記蓄電装置58に蓄積する等の制御を行う。
【0033】
エンジン駆動制御部82は、基本的には、前記出力制御装置14を介して前記エンジン12の駆動を制御する。具体的には、前記出力制御装置14を介して前記エンジン12の吸気配管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHの制御、燃料噴射装置による燃料供給量の制御、及び点火装置による前記エンジン12の点火時期(点火タイミング)の制御等を行うことにより、前記エンジン12により必要なエンジン出力すなわち前記目標エンジン出力が得られるようにそのエンジン12の駆動を制御する。
【0034】
前述のように、前記ハイブリッド車両10においては、専ら前記エンジン12を走行用の駆動源とするエンジン走行モード、専ら前記電動機MGを走行用の駆動源とするEV走行(モータ走行)モード、及び前記エンジン12及び電動機MGを走行用の駆動源とするEHV走行(ハイブリッド走行)モード等、複数の走行モード等が選択的に成立させられる。前記電子制御装置50の記憶部96には、専ら前記電動機MGを駆動源とする走行状態である前記EV走行モード(モータ走行領域)と、前記エンジン12を駆動する走行状態である前記エンジン走行モード或いはハイブリッド走行モード等(エンジン走行領域)との切り替えを判定する判定線が、電動機回転速度NMG、要求駆動力、及び電動機トルク上限TMGL等とに基づいて定められて記憶されている。前記エンジン駆動制御部82は、斯かる関係から前記電動機回転速度センサ68により検出される電動機回転速度NMG及び要求駆動力(要求出力トルク)等の車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断し、前記電動機駆動制御部80による前記電動機MGの駆動制御、及び前記エンジン駆動制御部82による前記エンジン12の駆動制御等を行う。ここで、前記ハイブリッド車両10におけるモータ走行制御は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルク域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。
【0035】
前記ハイブリッド車両10において、専ら前記電動機MGを駆動源として用いる前記EV走行モードから、前記エンジン12を駆動源として用いる前記エンジン走行モード或いはハイブリッド走行モードへの移行に際して、好適には、前記クラッチK0の係合により前記エンジン12の始動が行われる。すなわち、後述する断接クラッチ制御部88を介して前記クラッチK0をスリップ係合乃至完全係合させることにより、そのクラッチK0を介して伝達されるトルクにより前記エンジン12を回転駆動させる。斯かる回転駆動によりエンジン回転速度NEが引き上げられると共に、前記出力制御装置14を介してエンジン点火や燃料供給が開始されることで前記エンジン12の自律運転が開始される。
【0036】
変速制御部84は、前記自動変速機18による変速を制御する。例えば、予め定められて前記記憶部96に記憶された変速線図から車両の走行状態例えば前記アクセル開度センサ60により検出されるアクセル操作量ACC(或いはスロットル弁開度θTH)及び前記車速センサ72により検出される車速V等に基づいて前記自動変速機18において成立させられるべき変速段を判定し、判定された変速段が成立させられるように前記油圧制御回路34を介して前記自動変速機18におけるクラッチC及びブレーキBの係合乃至解放を制御する。すなわち、各クラッチC乃至ブレーキBに対応して前記油圧制御回路34に備えられた電磁制御弁の出力圧を制御することにより、各クラッチC及びブレーキBにそれぞれ供給される油圧を制御することで斯かる変速制御を行う。
【0037】
ロックアップクラッチ制御部86は、前記油圧制御回路34に備えられたリニアソレノイド弁を介して前記クラッチLUの係合制御を行う。具体的には、アクセル操作量ACC(或いはスロットル弁開度θTH)及び車速Vをパラメータとして予め設定され、前記記憶部96に記憶されたロックアップ線図に従って、前記ロックアップクラッチLUを解放(完全解放)、係合(完全係合)、乃至一定の領域で半係合(スリップ係合)させるロックアップ係合制御を行う。具体的には、前記油圧制御回路34に備えられたリニアソレノイド弁を介して、前記ロックアップクラッチLUにおける係合側油室と解放側油室との差圧ΔPを制御することにより斯かる制御を行う。前記ロックアップクラッチLUを半係合させるスリップ制御(フレックスロックアップ制御)においては、前記ロックアップクラッチLUが所定の目標スリップ量SLP(例えば−50rpm程度)でスリップ係合させられるように、例えば前記差圧ΔPに関与するリニアソレノイド弁に対する指令値(励磁電流)を制御する。
【0038】
断接クラッチ制御部88は、前記油圧制御回路34に備えられたリニアソレノイド弁を介して前記クラッチK0の係合制御を行う。具体的には、そのリニアソレノイド弁に対する指令値(励磁電流)を制御することにより、そのリニアソレノイド弁から前記クラッチK0に備えられた油圧アクチュエータへ供給される油圧を制御する。斯かる油圧制御により、そのクラッチK0の係合状態を前述のように係合(完全係合)、半係合(スリップ係合)、乃至開放(完全開放)の間で制御する。例えば、前記エンジン駆動制御部82による前記エンジン12の始動制御に際して、前記クラッチK0を係合させる制御を行う。この断接クラッチ制御部88の制御により前記リニアソレノイド弁から前記クラッチK0へ供給される油圧に応じてそのクラッチK0のトルク容量(伝達トルク)が制御される。すなわち、前記断接クラッチ制御部88は、換言すれば、前記油圧制御回路34に備えられたリニアソレノイド弁を介して前記クラッチK0のトルク容量を制御する断接クラッチトルク容量制御部である。
【0039】
前記変速制御部84は、前記自動変速機18に備えられた発進クラッチである前記第1クラッチC1の係合制御を行う発進クラッチ制御部90を含んでいる。この発進クラッチ制御部90は、前記変速制御部84による変速制御において前記第1クラッチC1の係合制御を行うと共に、後述するニュートラル制御部92によるニュートラル制御等において前記第1クラッチC1の係合制御を行う。すなわち、前記油圧制御回路34に備えられたリニアソレノイド弁を介して前記第1クラッチC1の係合制御を行う。具体的には、そのリニアソレノイド弁に対する指令値(励磁電流)を制御することにより、そのリニアソレノイド弁から前記第1クラッチC1に備えられた油圧アクチュエータへ供給される油圧を制御する。斯かる油圧制御により、その第1クラッチC1の係合状態を係合(完全係合)、半係合(スリップ係合)、乃至開放(完全開放)の間で制御する。
【0040】
ニュートラル制御部92は、車両停止時に発進クラッチである前記第1クラッチC1の係合状態を制御してニュートラル状態を成立させるニュートラル制御を実行する。具体的には、車両停止時において所定の条件が成立する場合、例えば、車速Vが零であり、図示しないシフト操作装置のシフト操作位置がDレンジであり、アクセル開度ACCが零(アクセルオフ)であり、且つ前記ブレーキペダル54の踏込操作が行われている場合(ブレーキオン)には、前記発進クラッチ制御部90により前記第1クラッチC1の係合荷重を低下させてそのトルク容量を低減させる。このニュートラル状態とは、駆動力の伝達が完全に遮断された状態或いは発進クラッチによる若干の伝達トルクを許容しつつもそれと略同等の状態である。
【0041】
車両発進制御部94は、前記ハイブリッド車両10の発進時における駆動制御を行う。基本的には、専ら前記電動機MGを駆動源として前記ハイブリッド車両10を発進させる制御を行う。例えば、前記クラッチK0が解放(完全解放)されると共に前記エンジン12が停止させられた状態において、前記電動機駆動制御部80により前記電動機MGの駆動を制御し、その電動機MGから出力される駆動力を前記自動変速機18等を介して前記1対の駆動輪24へ伝達することにより前記ハイブリッド車両10を発進させる。ここで、斯かる車両発進時において、基本的には、前記発進クラッチ制御部90により発進クラッチである前記第1クラッチC1が係合させられる。これにより、前記自動変速機18において第1速ギヤ段「1st」が成立させられる。
【0042】
前記ハイブリッド車両10の停止時において、好適には、前記クラッチK0が解放(完全解放)されると共に前記エンジン12が停止させられた状態において、前記電動機MGから出力される駆動力で前記オイルポンプ28により油圧を発生させる制御が行われる。すなわち、前記トルクコンバータ14のポンプ側に連結された前記オイルポンプ28を、前記電動機MGから出力される駆動力により駆動することで、前記オイルポンプ28から出力される油圧すなわち前記油圧制御回路34の元圧を確保する。この制御が行われる際、好適には、前記ニュートラル制御部92によるニュートラル制御が併行して実行される。すなわち、前記発進クラッチ制御部90により前記第1クラッチC1のトルク容量が低下させられ、前記出力軸40側への動力伝達が遮断される。このように、車両停止時において、前記電動機MGから出力される駆動力を用いて前記オイルポンプ28により油圧を発生させることで、専用の電動オイルポンプを設けることなく前記油圧制御回路34に必要十分な元圧を供給することができる。
【0043】
図5及び図6は、前述のように車両停止時に前記電動機MGから出力される駆動力で前記オイルポンプ28により油圧を発生させる制御を行っている状態からの車両発進時における、従来の技術の問題点について説明する図である。図5及び図6では、前記電動機MGから出力された駆動力の動力伝達に関与している構成を太線で、動力伝達に関与していない構成を細線で示している。車両停止時に前記電動機MGから出力される駆動力を用いて前記オイルポンプ28により油圧を発生させる場合、図5に示すように前記ロックアップクラッチLUを解放させた状態では前記トルクコンバータ14の損失(発熱量)が大きく、燃費が悪化するという不具合が生じる。更に、車両発進に際して前記ロックアップクラッチLUを係合させる必要性が生じた場合に時間がかかるという弊害がある。そこで、図6に示すように前記ロックアップクラッチLUを係合させた状態で前記電動機MGにより前記オイルポンプ28を駆動することが考えられるが、斯かる状態から車両発進が行われる場合、前記電動機MGの回転速度NMG(=オイルポンプ28の回転速度)が低下し、車両発進に際して前記オイルポンプ28から出力される油圧が低下するおそれがあった。
【0044】
前記従来の技術における問題点を背景として、前記車両発進制御部94は、車両停止時に前記ロックアップクラッチLUを係合させると共に前記電動機MGから出力される駆動力で前記オイルポンプ28により油圧を発生させている状態から、ブレーキ操作が解除されることにより車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチLUの係合を維持したまま発進クラッチとしての前記第1クラッチC1を半係合(スリップ係合)させるフリクションスタート制御を行う。ここで、ブレーキ操作の解除とは、例えば前記ブレーキペダル54の踏込が行われなくなる等して前記ブレーキセンサ62によりブレーキオフが検出されることをいう。すなわち、前記車両発進制御部94は、前記アクセルペダル52の踏み込みが行われることなく、前記ブレーキペダル54の踏み込みが解除(踏み戻し)されることにより車両発進が行われる場合に、前記ロックアップクラッチLUが係合された状態で前記発進クラッチ制御部90により前記第1クラッチC1を滑らせる制御を行うことにより、前記電動機MGから出力される駆動力をその第1クラッチC1を介して前記1対の駆動輪24へ伝達することにより前記ハイブリッド車両10を発進させる。前記アクセルペダル52の踏み込みが行われていない場合には、要求される駆動力は比較的小さいため、前記第1クラッチC1のスリップ係合により比較的負荷の小さい車両発進を実現でき、前記トルクコンバータ14の損失を抑制しつつ効率よく発進することが可能となる。
【0045】
前記車両発進制御部94は、好適には、車両停止時に前記ロックアップクラッチLUを係合させると共に前記電動機MGから出力される駆動力で前記オイルポンプ28により油圧を発生させている状態から、アクセル踏込操作により車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチLUを半係合させるトルコンスタート制御を行う。すなわち、前記車両発進制御部94は、前記ブレーキペダル54の踏み込みが解除(踏み戻し)された後、前記アクセルペダル52の踏み込みが行われることにより車両発進が行われる場合に、予め前記ロックアップクラッチLUをスリップ係合させると共に、前記第1クラッチC1を半係合乃至完全係合させることで、前記電動機MGから出力される駆動力をその第1クラッチC1を介して前記1対の駆動輪24へ伝達することにより前記ハイブリッド車両10を発進させる。前記アクセルペダル52の踏み込みが行われた場合、要求される駆動力はアクセル操作が行われない場合に比べて大きく、駆動力を確保するために前記エンジン12の始動が要求される場合があるが、予め前記ロックアップクラッチLUをスリップ係合させておくことで、前記エンジン12の始動要求があった場合に速やかなエンジン始動が可能となる。換言すれば、予め前記ロックアップクラッチLUをスリップ係合させておくことで、前記エンジン12の始動時におけるショックの発生を抑制することができる。
【0046】
前記車両発進制御部94は、好適には、前記トルコンスタート制御すなわち前記アクセルペダル52の踏込操作に応じた、前記ロックアップクラッチLUを半係合させる車両発進制御において、アクセル踏込操作量すなわち前記アクセル開度センサ60により検出されるアクセル開度ACCに対応する駆動力要求量Preqを算出し、その駆動力要求量Preqが予め定められた閾値Pbo以上である場合には、前記ロックアップクラッチ制御部86により前記ロックアップクラッチLUを解放(完全解放)させる。斯かる判定は、アクセル開度ACC等に基づいて行われるものであってもよい。すなわち、前記トルコンスタート制御時において、前記アクセル開度センサ60により検出されるアクセル開度ACCが予め定められた閾値Abo以上である場合には、前記ロックアップクラッチLUを解放させる制御を行うものであってもよい。車両発進時に前記アクセルペダル52が大きく踏み込まれた場合等、要求される駆動力が比較的大きい場合には、予め前記ロックアップクラッチLUを完全解放させておくことで、前記エンジン12の始動要求があった場合に速やかなエンジン始動が可能となり、更には前記エンジン12の始動後に、駆動系により可及的に大きな駆動力を発生させることが可能となる。
【0047】
前記車両発進制御部94は、好適には、前記フリクションスタート制御すなわちブレーキ操作の解除に応じた、前記ロックアップクラッチLUの係合を維持したまま前記第1クラッチC1を半係合(スリップ係合)させる車両発進制御において、前記電動機回転速度センサ68により検出される前記電動機MGの回転速度NMGが予め定められた閾値Nbo未満となった場合には、前記ロックアップクラッチ制御部86により前記ロックアップクラッチLUを解放(完全解放)させる。この閾値Nboは、好適には、前記オイルポンプ28から出力される油圧により前記油圧制御回路34における必要十分な元圧が確保されるように予め実験的に定められた値である。前記電動機MGの回転速度NMGが低下した場合、それに伴って前記オイルポンプ28の回転速度も低下するため、そのオイルポンプ28から出力される油圧が低下して前記油圧制御回路34における元圧が不十分となるおそれがある。そのような場合に、前記ロックアップクラッチLUを解放させることで前記電動機MGの負荷を軽くでき、前記オイルポンプ28から出力される油圧を増加させて前記油圧制御回路34における必要十分な元圧を確保できる。これにより、車両発進時における前記第1クラッチC1等の係合を維持することが可能となる。
【0048】
前記車両発進制御部94は、好適には、車両停止時に前記ロックアップクラッチLUを係合させると共に前記電動機MGから出力される駆動力で前記オイルポンプ28により油圧を発生させている状態から、ブレーキ操作が解除されず且つアクセル踏込操作が行われた場合、すなわち前記アクセルペダル52及びブレーキペダル54が同時に踏み込まれた場合には、前記ロックアップクラッチLUを解放させる。例えば、前記ブレーキセンサ62によりブレーキ操作が行われていること(ブレーキオン)が検出された状態において、前記アクセル開度センサ60等により前記アクセルペダル52の踏込操作に応じたアクセル開度ACCの上昇が検出された場合には、前記ロックアップクラッチ制御部86により前記ロックアップクラッチLUを解放(完全解放)させる。前記アクセルペダル52及びブレーキペダル54が同時に踏み込まれた場合、前記ロックアップクラッチLUを係合させたままでは前記オイルポンプ28の回転速度の上昇が不十分となり、そのオイルポンプ28から出力される油圧が不足して前記油圧制御回路34における元圧が不十分となるおそれがある。そのような場合に、前記ロックアップクラッチLUを解放させることで、前記オイルポンプ28から出力される油圧を増加させて前記油圧制御回路34における必要十分な元圧を確保できる。これにより、車両発進時における前記第1クラッチC1等の係合を維持することが可能となる。
【0049】
前記車両発進制御部94は、好適には、前記フリクションスタート制御すなわちブレーキ操作の解除に応じた、前記ロックアップクラッチLUの係合を維持したまま前記第1クラッチC1を半係合(スリップ係合)させる車両発進制御において、前記アクセルペダル52の踏込操作が行われず且つ前記エンジン12の始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチLUを半係合(スリップ係合)させる。前記アクセルペダル52の踏込操作が行われず且つ前記エンジン12の始動要求が行われる場合としては、例えば、前記SOCセンサ78により検出される前記蓄電装置58の蓄電量SOCが予め定められた規定値未満となった場合等が考えられる。この規定値は、例えば、専ら前記電動機MGにより車両の走行用駆動力を発生させるEV走行モードを実現し得る蓄電量の下限値である。そのような場合には、前記アクセルペダル52の踏込操作が行われなくとも前記エンジン12の始動要求が行われ、前記エンジン駆動制御部82による前記エンジン12の始動制御(及び断接クラッチ制御部88によるクラッチK0の係合制御)が行われる。斯かる場合において、前記ロックアップクラッチLUを半係合(スリップ係合)させることで、前記エンジン12の始動ショックを好適に抑制でき、前記駆動輪24側へ伝達される駆動力に変化を生じさせることなく好適にエンジン始動及び車両発進が可能となる。
【0050】
前記変速制御部84は、前記ロックアップクラッチLUが係合された状態で発進クラッチをとしての前記第1クラッチC1を半係合させるフリクションスタートが行われる場合と、前記ロックアップクラッチLUを半係合させるトルコンスタートが行われる場合とで、それぞれ異なる変速線図に基づいて前記自動変速機18の変速制御を行う。図7及び図8は、前記電子制御装置50による前記自動変速機18の変速制御に用いられる変速線図の一例であり、図7はフリクションスタートが行われる場合に用いられる変速線図、図8はトルコンスタートが行われる場合に用いられる変速線図をそれぞれ示している。これらの図においては、低速側変速段(変速比が大きい変速段)から高速側変速段(変速比が小さい変速段)への変速すなわち所謂アップシフトを判定するためのアップシフト線を実線で、高速側変速段から低速側変速段への変速すなわち所謂ダウンシフトを判定するためのダウンシフト線を一点鎖線でそれぞれ示している。図8においては、比較のために図7に示すアップシフト線を破線で、ダウンシフト線を二点鎖線でそれぞれ示している。
【0051】
図7及び図8に示すように、本実施例の変速制御部84による変速制御では、前記トルコンスタートが行われる場合には、前記フリクションスタートが行われる場合よりも低車速側に寄った変速線図を用いる。換言すれば、前記トルコンスタートが行われる場合には、前記フリクションスタートが行われる場合よりも低車速で変速が行われる変速線図が用いられる。前記フリクションスタートが行われる場合すなわち前記ロックアップクラッチLUが係合された状態で車両発進が行われる場合には、比較的高回転である方が前記電動機MGの効率が良くなるため、トルコンスタートが行われる場合よりも高車速側に寄った変速線図(高車速で変速が行われる変速線図)を用いることで燃費の向上を図ることができる。前記トルコンスタートが行われる場合すなわち前記ロックアップクラッチLUを半係合させた状態で車両発進が行われる場合には、比較的低回転である方が前記トルクコンバータ16の差回転が小さくなり、そのトルクコンバータ16の損失を低減できるため、フリクションスタートが行われる場合よりも低車速側に寄った変速線図(低車速で変速が行われる変速線図)を用いることで損失の発生を抑制できる。
【0052】
図9は、前記電子制御装置50による車両発進時制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0053】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記車速センサ72により検出される車速V等に基づいて車両停止中(停車中)であるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、前記ロックアップクラッチLUが係合させられ且つ前記第1クラッチC1を半係合(スリップ係合)させるニュートラル制御が行われているか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、前記アクセルペダル52及びブレーキペダル54が同時に踏み込まれたか否かが判断される。このS3の判断が肯定される場合には、S4において、前記ロックアップクラッチLUが解放させられた後、本ルーチンが終了させられるが、S3の判断が否定される場合には、S5以下の処理が実行される。
【0054】
S5において、前記ブレーキペダル54の踏込操作が行われたまま(ブレーキオン)前記エンジン12の始動要求があったか否かが判断される。このS5の判断が肯定される場合には、エンジン始動準備フラグがオンとされ、S12以下の処理が実行されるが、S5の判断が否定される場合には、S6において、前記ブレーキペダル54の踏込操作の解除(ブレーキオフ)によりニュートラル制御からの復帰条件が成立したか否かが判断される。このS6の判断が否定される場合には、S4以下の処理が実行されるが、S6の判断が肯定される場合には、S7において、エンジン始動準備フラグがオンであるか否かが判断される。このエンジン始動準備フラグは、好適には、アクセルオフからアクセルオンへの切換時、或いはバッテリSOCが規定値以下となった時等、前記エンジン12の始動が要求される場合にオンとされる。このS7の判断が肯定される場合には、S11以下の処理が実行されるが、S7の判断が否定される場合には、S8において、発進クラッチである前記第1クラッチC1の半係合(スリップ係合)による発進制御すなわち所謂フリクションスタート制御が実行された後、S9以下の処理が実行される。
【0055】
S9においては、予め定められて前記記憶部96に記憶された変速線図のうちフリクションスタート制御に対応する図7に示すような第1の変速線図が選択される。次に、S10において、前記電動機回転速度センサ68により検出される前記電動機MGの回転速度NMGが予め定められた閾値Nboより小さいか否かが判断される。このS10の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S10の判断が肯定される場合には、S4以下の処理が実行される。S11においては、パワーオンエンジン始動要求フラグがオンであるか否かが判断される。このパワーオンエンジン始動フラグは、好適には、前記アクセルペダル52が比較的大きく踏み込まれる等して、駆動力要求量Preqが予め定められた閾値Pbo以上である場合にオンとされる。このS11の判断が肯定される場合には、S4以下の処理が実行されるが、S11の判断が否定される場合には、S12において、前記ロックアップクラッチLUが半係合(スリップ係合)させられる。次に、S13において、予め定められて前記記憶部96に記憶された変速線図のうちトルコンスタート制御に対応する図8に示すような第2の変速線図が選択された後、本ルーチンが終了させられる。
【0056】
以上の制御において、S7及びS11が前記エンジン駆動制御部82の動作に、S9及びS13が前記変速制御部84の動作に、S4及びS12が前記ロックアップクラッチ制御部86の動作に、S8が前記発進クラッチ制御部90の動作に、S1〜S13が前記車両発進制御部94の動作に、それぞれ対応する。
【0057】
このように、本実施例によれば、車両停止時に前記ロックアップクラッチLUを係合させると共に前記電動機MGから出力される駆動力で前記オイルポンプ28により油圧を発生させている状態から、ブレーキ操作が解除されることにより車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチLUが係合された状態で発進クラッチである前記第1クラッチC1を半係合させるフリクションスタートが行われることから、比較的負荷が小さい車両発進時において、前記トルクコンバータ16の損失を抑制し、ドライバビリティを低下させることなく好適に発進できる。すなわち、車両発進時におけるドライバビリティ悪化の抑制と燃費の向上とを両立させる車両用駆動制御装置としての電子制御装置50を提供することができる。
【0058】
車両停止時に前記ロックアップクラッチLUを係合させると共に前記電動機MGから出力される駆動力で前記オイルポンプ28により油圧を発生させている状態から、アクセル踏込操作により車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチLUを半係合させるトルコンスタートが行われるものであるため、駆動力が要求される車両発進時には、前記トルクコンバータ16をスリップさせることで加速要求に対して速やかなエンジン始動が実現される。
【0059】
アクセル踏込操作量に応じたPreqが予め定められた閾値Pbo以上である場合には、前記ロックアップクラッチLUを解放させるものであるため、比較的大きな駆動力が要求される車両発進時には、エンジン始動後速やかに大きな駆動力を出力できる。
【0060】
前記電動機MGの回転速度NMGが閾値Nbo未満となった場合には、前記ロックアップクラッチLUを解放させるものであるため、登坂時等において電動機MGの回転が低下した場合に、必要なオイルポンプ吐出量を確保できる。
【0061】
ブレーキ操作が解除されず且つアクセル踏込操作が行われた場合には、前記ロックアップクラッチLUを解放させるものであるため、ブレーキペダル54とアクセルペダル52が同時に踏み込まれた場合に、必要なオイルポンプ吐出量を確保できる。
【0062】
アクセル踏込操作が行われず且つ前記エンジン12の始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチLUを半係合させるものであるため、バッテリSOC低下時等、アクセル操作によらずエンジン始動が行われる場合に、エンジン始動に伴う駆動力の変化を抑制して始動ショックの発生を好適に防止できる。
【0063】
前記ロックアップクラッチLUが係合された状態で前記第1クラッチC1を半係合させるフリクションスタートが行われる場合と、前記ロックアップクラッチLUを半係合させるトルコンスタートが行われる場合とで、それぞれ異なる変速線図に基づいて前記自動変速機18の変速制御を行うものであるため、フリクションスタート時には電動機MGの効率を向上させられると共に、トルコンスタート時にはトルクコンバータ16の損失を抑制できる。
【0064】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0065】
12:エンジン、16:トルクコンバータ、18:自動変速機、28:オイルポンプ、38:入力軸、40:出力軸、50:電子制御装置(車両用駆動制御装置)、C1:第1クラッチ(発進クラッチ)、K0:クラッチ(断接クラッチ)、LU:ロックアップクラッチ、MG:電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチ付きトルクコンバータと、前記トルクコンバータのポンプ側に連結された電動機及びオイルポンプと、エンジンと前記電動機との間を断接する断接クラッチと、入力軸と出力軸との間を断接する発進クラッチとを、備えた車両用駆動制御装置であって、
車両停止時に前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態から、ブレーキ操作が解除されることにより車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチが係合された状態で前記発進クラッチを半係合させるフリクションスタートが行われることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項2】
車両停止時に前記ロックアップクラッチを係合させると共に前記電動機から出力される駆動力で前記オイルポンプにより油圧を発生させている状態から、アクセル踏込操作により車両発進が行われる場合には、前記ロックアップクラッチを半係合させるトルコンスタートが行われる請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項3】
アクセル踏込操作量に応じた駆動力要求量が閾値以上である場合には、前記ロックアップクラッチを解放させるものである請求項2に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項4】
前記電動機の回転速度が閾値未満となった場合には、前記ロックアップクラッチを解放させるものである請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項5】
ブレーキ操作が解除されず且つアクセル踏込操作が行われた場合には、前記ロックアップクラッチを解放させるものである請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項6】
アクセル踏込操作が行われず且つ前記エンジンの始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチを半係合させるものである請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項7】
前記ロックアップクラッチが係合された状態で前記発進クラッチを半係合させるフリクションスタートが行われる場合と、前記ロックアップクラッチを半係合させるトルコンスタートが行われる場合とで、それぞれ異なる変速線図に基づいて自動変速機の変速制御を行うものである請求項2に記載の車両用駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−103537(P2013−103537A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246880(P2011−246880)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】