説明

車両用駆動装置及び車両用駆動方法

【課題】クラッチ開放指令状態にあるときに、故障検出のためのセンサを持つことなく、実際のクラッチの固着の有無を検出することを可能にする。
【解決手段】エンジン1から駆動輪までのトルク伝達経路の途中に介装したモータ3からのトルク伝達を断接する油圧式の第2クラッチ4を介装する。上記第2クラッチ4は、所定条件下、モータ3のトルク及び回転数を制御することで、開放状態の上記液圧クラッチに対し待機圧を発生させて該待機圧で保持する。そのクラッチ待機処理のためのモータ駆動中における、モータ回転数Nmの上昇特性から、上記クラッチの固着故障の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両における、エンジン及びモータの少なくとも一方で駆動輪を駆動可能な車両用駆動装置に係り、特に、モータのトルク伝達を断接するクラッチの固着を検出する方式に特徴を有する車両用駆動装置及び車両用駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチの固着を検出する従来の技術としては、例えば特許文献1に記載する技術がある。
この特許文献1に記載の技術では、エンジンの出力軸に対し、ロックアップクラッチを介して流体継手が接続する。そして、ロックアップクラッチの固着を、ロックアップ油圧制御バルブ電気回路のショート検出回路を使用して、推定診断する。
【特許文献1】特願2003−571632号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術では、電気回路の故障によるクラッチ接状態を検出するものであり、実際にクラッチが固着しているか判定していない。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、クラッチ開放指令状態にあるときに、実際のクラッチの固着の有無を検出することを可能にすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、エンジンから駆動輪までのトルク伝達経路の途中に介装したモータからのトルク伝達を断接する液圧クラッチを介装した車両用駆動装置である。上記液圧クラッチは、所定条件下、モータのトルク及び回転数を制御することで、開放状態の上記液圧クラッチに対し待機液圧を発生させてる際に、モータ回転数の上昇特性から、上記クラッチの固着故障の有無を判定する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、クラッチ固着用の特別の回路を必要とせず、クラッチ開放指令状態にあるときに、実際のクラッチの固着の有無を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつ説明する。
図1は、本実施形態に係る車輪駆動装置を示す概略構成図である。
(構成)
その構成について説明すると、エンジン1の回転軸(クランクシャフト)に第1クラッチ2を介して駆動モータ3の回転軸(回転子3a)の一端部側が連結している。その駆動モータ3の回転軸3aの他端部側に、第2クラッチ4を介して変速機5の入力軸が連結している。変速機5の出力軸は、駆動輪6に連結する。駆動輪6は例えば前輪である。
【0007】
上記第1及び第2クラッチ2,4は、油圧クラッチである。すなわち、第1及び第2クラッチ2,4の圧着(締結)及び開放を、油圧によって制御する。
オイルポンプ7は、その第1及び第2クラッチ2,4及び上記変速機5に油圧を供給する。そのオイルポンプ7の駆動軸7aは、上記駆動モータ3の回転軸3aに接続する。そして、駆動モータ3の出力トルクによって、オイルポンプ7が作動する。そして、作動し回転駆動したオイルポンプ7は、クラッチの基圧を生成する。
【0008】
すなわち、オイルポンプ7と、第1及び第2クラッチ2,4及び上記変速機5とは油圧路8によって連結し、その油圧路8の途中に油圧弁9を設ける。そして、その油圧弁9を調整することで、オイルポンプ7からの油圧をクラッチに供給可能となっている。
油圧弁9は、クラッチコントローラ11及び変速機コントローラ10からのからの指令によって作動する。変速機コントローラ10は、変速機5を制御する。
【0009】
また、上記駆動モータ3の回転軸3aの回転を検出するモータ3用回転検出センサを備える。モータ用回転検出センサ12は、例えばレゾルバから構成し、検出した回転信号をモータコントローラ13及び制駆動用コントローラ14に出力する。
クラッチコントローラ11は、締結指令を入力すると、モータ3に締結トルク指令を出力すると共に、対応するクラッチの油圧弁9の開度を調整してクラッチ油圧を高める。また、開放指令を入力すると、対応するクラッチの油圧弁9の開度を調整してクラッチ油圧を下げる。
【0010】
また、クラッチ開放指令中にクラッチ待機指令を入力すると、モータ3に待機トルク指令を出力すると共に、対応するクラッチの油圧弁9の開度を調整してクラッチ油圧を待機圧まで高める。
上記モータ3には、バッテリ16からの電力を供給し、モータコントローラ13によってインバータ15及びモータ3の界磁を調整することで、所定のトルクに制御する。なお、駆動モータ3は直流モータであっても良い。
【0011】
モータコントローラ13は、通常走行処理部13A、システム始動処理部13B、クラッチ待機処理部13C、及びエンジン始動処理部13Dを備える。
通常走行処理部13Aは、制駆動用コントローラ14からのトルク指令となるようにモータ3の駆動力を制御する。
システム始動処理部13Bは、システム起動用の作動指令を入力すると、クラッチ2,4が作動するだけのトルクを発生するように制御する。
【0012】
また、クラッチ待機処理部13Cは、待機指令を入力すると、第2クラッチ4に待機圧が発生可能なようにモータ回転数Nm及びモータトルクを制御する。
ここで、クラッチ待機状態(スタンバイ状態)にするには、クラッチ締結油圧を待機圧状態にしておく必要がある。待機圧を保持するにはオイルポンプ7を回し、最低限の基圧を確保しておく必要がある。モータ3の規格やシステムにもよるが、最低限の基圧確保するためには、例えば、モータ回転数Nm600[rpm]を保持する必要がある。
【0013】
このため、クラッチ待機処理部13Cは、図3に示すように、3.55秒後にモータトルクが70[Nm]となるように上昇指令を出力する。これによって、モータトルク指令値を徐々に上昇させ、それに伴ってモータ3の回転数がゆっくりと所定待機圧相当の回転数(図3では600[rpm]を例示)まで上昇する。そして、モータ3を所定待機圧相当の回転数及び所定待機圧相当の実モータトルク(図3では5.0[Nm]を例示)で保持するようにトルクを制御する。これによって、第2クラッチ4を待機圧で保持した状態となる。
【0014】
エンジン始動処理部13Dは、エンジン1を始動するモータトルクとなるようにモータ3を制御する。
エンジンコントローラ17は、制駆動用コントローラ14からのトルク指令となるように、スロットル開度などを調整する。
また、上記制駆動用コントローラ14は、図4に示すように、始動処理部14A、走行制御部14B、及びクラッチ故障判定部14Cを備える。
【0015】
始動処理部14Aは、イグニッションがオンとなったことを検知してシステムの起動を検知すると、モータコントローラ13にシステム起動用の作動指令を出力する。モータ3が作動することで、オイルポンプ7は油圧を発生し、発生した油圧を変速機5及びクラッチ2,4に供給する。続いて、第2クラッチ4において所定以上の油圧が発生可能な状態となった状態で、シフトレンジがNレンジ若しくはPレンジである場合には、発進の際の応答性を高めるために、クラッチ待機モード処理をクラッチコントローラ11に出力する。
【0016】
制駆動用コントローラ14の走行制御部14Bは、各種センサからの信号に基づき、モータコントローラ13及びエンジンコントローラ17に走行用の駆動指令を出力する。例えば、所定車速以下の低速状態では、アクセル開度に応じて、モータコントローラ13に対し駆動指令を出力して、モータ駆動によって走行する。一方、所定車速以上では、アクセル開度に応じて、エンジンコントローラ17に駆動指令を出力して、エンジン駆動によって走行する。
【0017】
すなわち、走行制御部14Bは、シフトレバーがDレンジなど駆動可能位置を検出すると、アクセル踏角検出センサ16からの信号に基づき、車両の発進指示を検出する。発進指示を検出すると、モータコントローラ13に作動指令を出力する。また、クラッチコントローラ11に対し第2クラッチ4の締結指令を出力する。
一方、車速に基づき、モータ駆動からエンジン駆動に遷移すると判定すると、第2クラッチ4に半クラッチ状態(滑りを伴ってトルク伝動する状態)とする指令を出力すると共に、第1クラッチ2に締結指令を出力する。そして、モータコントローラ13に、エンジン始動トルクを出力する指令を出力する。
【0018】
エンジン1が始動したことを検知すると、エンジンコントローラ17に駆動指令を出力する。続けて、第2クラッチ4に締結指令を出力する。これによって、エンジン駆動による走行状態となる。
また、クラッチ故障判定部14Cは、クラッチコントローラ11へのクラッチ待機指令を検知すると起動する。
クラッチ故障判定部14Cは、図5に示すように、判定本体部14Ca、診断許可条件部14Cb、故障判定部14Cc、及び車両状況判定部14Cdを備える。
【0019】
まず判定本体部14Caの処理について、図6を参照して説明する。
まずステップS10にて、各種フラグの初期化処理を行う。
次に、ステップS20にて、診断許可条件部14Cbを呼び出す。診断許可条件部14Cbは、故障判定可能な状態か否かを判定する。診断許可の場合には、診断許可フラグfDSTRTが「1」となる。
続いて、ステップS30にて、診断許可状態となったか否かを判定する。許可状態となったと判定した場合にはステップS40に移行する。診断許可状態でないと判定した場合にはステップS20に戻る。
【0020】
ステップS40では、故障判定部14Ccを読み出す。故障判定部14Ccは、クラッチの固着故障を診断する。固着故障と判定した場合には、故障判定フラグvCLONSTAT=「02」となる。正常と判定した場合には、故障判定フラグvCLONSTAT=「01」となる。故障判定フラグvCLONSTAT=「00」の場合には、判定未実施の状態を示す。
ステップS50では、故障判定フラグvCLONSTATが「02」か否かを判定する。「02」と判定した場合には、ステップS70に移行する。そうでない場合にはステップS60に移行する。
【0021】
ステップS60では、故障判定フラグvCLONSTATが「01」か否かを判定する。「01」と判定した場合にはステップS80に移行する。そうでない場合には、判定未実施としてステップS20に移行する。
ステップS70では、故障フラグfCONFAIL=「1」として処理を終了する。
ステップS80では、故障フラグfCONFAIL=「0」として処理を終了する。
ここで、故障フラグfCONFAILは、「1」のときに故障を表し、「0」のときに正常を表す。
【0022】
次に、診断許可条件部14Cbの処理について、図7を参照して説明する。
まず、ステップS100にて、シフトレンジが「N」レンジ若しくは「P」レンジか否かを判定する。すなわち車両が停止指示状態か否かを判定する。シフトレンジが「N」レンジ若しくは「P」レンジと判定した場合には、ステップS110に移行する。そうでないと判定した場合にはステップS160に移行する。
ステップS110では、不図示のモータ3の診断システムにおいてモータ3が故障中か否かを判定し、モータ3が故障中と判定した場合にはステップS160に移行する。モータ3が故障中でないと判定した場合にはステップS130に移行する。
【0023】
ステップS130では、クラッチが待機処理が完了して待機圧で保持中か否かを判定する。待機圧相当のモータ回転数Nm(図3では600[rpm])で定常状態となっていることを検知することで、待機圧で保持中であることを検出することが可能である。第2クラッチ4が待機圧で保持中と判定した場合には、ステップS160に移行する。第2クラッチ4が待機圧で保持中でないと判定した場合にはステップS140に移行する。
【0024】
ステップS140では、第2クラッチ4を待機圧とする処理中(以下、単に待機処理中と呼ぶ。)か否かを判定し、待機処理中と判定した場合にはステップS150に移行する。ス待機処理中と判定しなかった場合にはステップS160に移行する。待機処理中かどうかは、モータ回転数Nmが定常の待機圧相当の回転数に向けて上昇しているか否かで判定できる。すなわち、図3に示すように、定常の待機圧相当の回転数に向けて上昇の場合には、待機処理中と判定出来る。
次に、ステップS150では、診断許可フラグfDSTRTを「1」として処理を終了する。
また、ステップS160では、診断許可フラグfDSTRTを「0」として処理を終了する。
【0025】
次に、故障判定部14Ccの処理について図8を参照して説明する。
まずステップS200にて、車両状況判定部14Cdを読み出す。車両状況判定部14Cdは、故障判定に関係する車両状況を判定し、その車両状況フラグvCHTRQを設定する。
ステップS210では、車両状況フラグvCHTRQの値に基づき、車両状況フラグvCHTRQが「01」若しくは「02」と判定すると、ステップS230に移行する。一方、車両状況フラグvCHTRQが「00」と判定すると、ステップS320に移行する。
【0026】
ステップS230では、カウンタtFAILを初期化してステップS240に移行する。
ステップS240では、モータ3の実トルクがスタンバイトルクとなったか否かを判定し、スタンバイトルクとなった場合には、ステップS330に移行する。スタンバイトルクになっていない場合にはステップS250に移行する。表1では、5.0[Nm]がスタンバイトルクとなる。
【0027】
ステップS250では、モータ回転数Nmを検出し、続いてステップS260にて、今回のモータ回転数Nmと前回のモータ回転数Nmとの差回転数ΔNmを算出する。
ステップS270では、処理のサンプリング時間と上記差回転数ΔNmとから、モータ3の回転上昇速度(dω/dt)を算出する。
ステップS280では、図9に示すようなマップに基づき、モータ3の回転上昇速度(dω/dt)がNG領域に存在するか否かを判定する。
【0028】
ここで、図3のように、待機処理状態を作り出すために、3.55[s]にモータトルクを70[Nm]となるよう上昇指令する。これによって、モータトルク指令が上昇するに伴って、モータ回転数Nmが、ゆっくりと600[rpm]まで上昇し、モータ回転600[rpm]且つモータトルク5[Nm]で待機処理の保持状態に達する。
このように、モータトルク指令の上昇に応じて、モータ回転上昇速度は、図9に示すような、「モータトルク指令値 − モータ回転上昇速度」の特性マップを持っている。なお、モータトルク指令値は例えば線形に大きくなる。
【0029】
ここで、第2クラッチ4が固着して変速機がモータ3の負荷となっている場合には、モータトルク指令の上昇に伴うモータ回転上昇速度が小さくなる。すなわち、モータ回転数Nmが余り上昇せずトルク指令だけが大きくなってしまうNG領域を設定することで、クラッチ固着によるトランスミッションの引きずりと判定しクラッチ固着故障と判定する。
このように、モータ3の回転上昇速度(dω/dt)とモータトルク指令値とで決まる領域がNG判定領域にある場合には、クラッチ固着故障と判定することができる。NG領域は、上記固着がない場合における標準に比べてモータ回転数Nmの上昇が低い領域である。
【0030】
または、モータ3の回転上昇速度(dω/dt)の傾きが所定値閾値H未満の場合に、クラッチ固着故障と判定することができる。この場合には、所定モータトルク指令値(表2の場合には20.0[Nm])以上となってから判定することが好ましい。
また、作動油の粘性抵抗が低い方が、モータ回転上昇も速く待機保持状態への移行が速い。
このため、本実施形態では、後述の車両状況判定部14Cdの処理によって、上記NG判定領域を判定するためのマップを、車両状況に応じて選択している。
即ち、暖機中のオイル粘性抵抗が高い状態と、暖機完了後のオイル粘性抵抗の低い状態の2つの特性のマップを選択して、上記ステップS280にて使用するマップを決定している。
【0031】
すなわち暖機完了と判定した場合には、上記NG領域の境界を示すモータ回転上昇の閾値の傾きが、その分だけ大きくなったマップを使用する。図8中で一点鎖線で示した線が、暖機完了時の閾値H′の位置である。
上記ステップS280に回転上昇速度がNG領域と判定した場合にはステップS290に移行する。一方、回転上昇速度がNG領域で無い場合には、ステップS310に移行する。
ステップS290では、カウンタtFAILをカウントアップし、カウンタtFAILが所定時間(例えば5秒)経過したか否か判定し、所定時間経過したと判定した場合にはステップS240に移行する。所定時間経過したと判定した場合にはステップS300に移行する。
【0032】
上記所定時間とは、待機圧が発生するまでに掛かる時間若しくはそれより若干長い時間である。待機圧の保持状態となると、モータ3の回転数の上昇がほぼゼロとなる。このときに異常と判定しないようにするためである。
一方、ステップS240にてスタンバイトルクになったことを検知するとステップS330に移行する。
ステップS330では、モータ回転数Nmを検出し、続いてステップS240にて、今回のモータ回転数Nmと前回のモータ回転数Nmとの差回転数ΔNmを算出する。
ステップS350では、処理のサンプリング時間と上記差回転数ΔNmとから、モータ3の回転上昇速度(dω/dt)を算出する。
【0033】
ステップS360では、回転上昇速度(dω/dt)がゼロ若しくは実質的にゼロと見なせる値か否かを判定する。実質的にゼロとは、制御誤差分の余裕代を考慮したものである。回転上昇速度(dω/dt)がゼロ若しくは実質的にゼロと見なせる値の場合には、ステップS310に移行する。そうでない場合には、ステップS320に移行する。
ここで、スタンバイトルクになった状態では、モータ回転数Nmは定常状態となっているため、回転上昇速度(dω/dt)がゼロ若しくは実質的にゼロと見なせる値となっている。
【0034】
ステップS300では、異常として、故障判定フラグvCLONSTATに「02」を代入して処理を終了する。
ステップS310では、正常として、故障判定フラグvCLONSTATに「01」を代入して処理を終了する。
ステップS320では、未実施として、故障判定フラグvCLONSTATに「00」を代入して処理を終了する。
【0035】
次に、車両状況判定部14Cdの処理について、図10を参照して説明する。
まずステップS400にて、イグニッションオンとなったシステム起動時か否かを判定する。システム起動時と判定した場合にはステップS420に移行する。一方、システム起動時でないと判定するとステップS410に移行して、車速がゼロつまり停止中か否かを判定する。車速がゼロと判定した場合にはステップS420に移行する。車速がゼロでない、つまり車両移動中と判定した場合にはステップS470に移行する。
【0036】
ステップS420では、暖機が完了したか否かを判定する。暖機が判定した場合には、ステップS430に移行する。暖機が完了していないと判定した場合にはステップS440に移行する。
ステップS430では、暖機完了用の「モータトルク指令値 − モータ回転上昇速度」の特性マップ(図3の閾値H′を採用)を選択し、続いてステップS450に移行して、車両状況フラグvCHTRQに、暖機完了マップ使用を示す「01」を設定して処理を終了する。
ステップS440では、暖機未完了用の「モータトルク指令値 − モータ回転上昇速度」の特性マップ(図3の閾値Hを採用)を選択し、続いてステップS460に移行して、車両状況フラグvCHTRQに、暖機未完了マップ使用を示す「02」を設定して処理を終了する。
【0037】
ここで、暖機完了用の「モータトルク指令値 − モータ回転上昇速度」の特性マップと、暖機未完了用の「モータトルク指令値 − モータ回転上昇速度」の特性マップとは、図3に示すように、NG領域が異なる。暖機完了用の「モータトルク指令値 − モータ回転上昇速度」の特性マップの方が、NG領域と判定する境界を示す閾値の傾きが大きくなる。
次に、ステップS470では、車両状況フラグvCHTRQに、未設定を示す「00」を設定して処理を終了する。
ここで、第2クラッチ4が液圧クラッチを構成する。クラッチ待機処理部13Cが、クラッチ待機処理を行う。クラッチ故障判定部14Cが、クラッチの固着故障を判定する。
【0038】
(動作)
イグニッションがオンとなって車両のシステムが起動時、若しくは車両停止状態であってシフトレバーの位置が「N」レンジもしく「P」レンジとなって停車指示となっているときに、第2クラッチ4を待機状態とする。第2クラッチ4を待機状態とするのは、運転者の発進意思(例えばシフトレンジが「D」レンジに操作で検出する。)ですぐに発進できるようにするためである。
第2クラッチ4の油圧を待機圧状態とする処理では、モータ3を駆動してオイルポンプ7を回して、最低限の基圧を確保して、第2クラッチ4の油圧を待機圧状態とし、その待機圧状態で保持する。
【0039】
このとき、図3のように、モータ3は、例えば所定時間後にモータトルク70[Nm]となるように上昇指令が出る。この結果、図9のように、モータ3のトルク指令が上昇するにつれて、モータ3の回転数が所定の回転数(例えば600[rpm])となるまで上昇する。そして、その所定のモータ回転数Nmで定常状態となり、待機圧を発生するためのモータトルク[例えば5.0Nm]で維持することで、第2クラッチ4の液圧を待機圧状態に保持した状態となる。
【0040】
そして、本実施形態では、上記待機状態とするための待機圧を発生させる処理中に、モータトルク指令の増加に対するモータ回転数Nmの上昇速度が、通常想定する上昇速度よりも低いNG領域となっている場合には、第2クラッチ4の固着による変速機5の引き擦りと判断してクラッチ固着と判定する。
またこのとき、作動油の粘性抵抗に応じて上記NG領域を変更することで、より精度良くクラッチ固着を検出する。
【0041】
なお、第1クラッチ2側が固着している場合でも、エンジン1側が負荷となって同様なこととなる。したがって、第2クラッチ4側が固着しておらず、第1クラッチ2側が固着している場合も、クラッチ固着の故障として検出できる。なお、負荷の違いによってNG領域を異にして、固着が第1クラッチ2か第2クラッチ4かの判別をしても良い。
ここで、クラッチの固着故障を検出したら、例えば、その旨を運転者に報知すると共に、エンジン1及びモータ3の駆動を禁止する。
【0042】
(本実施形態の効果)
(1)モータ3のトルク伝達を行うクラッチが固着故障をしているか否かを、車両のシステム起動時に検出できる。この結果、運転者の意図しない駆動力伝達で車両が移動することを防止することが出来る。
(2)モータ3の回転数でクラッチ固着を判定するので、既存搭載センサの出力信号で固着を診断可能となる。すなわち、固着検出のために新たなセンサを追加すること無く、固着診断を行うことが可能となる。
【0043】
(3)またこのとき、モータ回転数Nmの上昇の傾きで判定することで、判断が簡易となる。
(4)モータトルクとモータ回転数Nmの上昇特性を、暖機完了と暖機未完了とで変更することで、固着故障の判断の精度が向上する。
(変形例)
(1)上記実施形態では、暖機の完了の有無で、作動油の粘性抵抗を判定している。これに代えて、作動油の温度を検出若しくは推定し、その検出若しくは推定した温度に基づき、上記固着NGと判定する境界の傾きを変更するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るシステムの概要構成図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るモータコントローラの構成を説明する図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る待機処理時におけるモータの回転数及びトルクの遷移を示す図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る制駆動用コントローラの構成を説明する図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係るクラッチ故障判定部の構成を説明する図である。
【図6】本発明に基づく実施形態に係るクラッチ故障判定部の処理を説明する図である。
【図7】本発明に基づく実施形態に係る診断許可条件部の処理を説明する図である。
【図8】本発明に基づく実施形態に係る故障判定部の処理を説明する図である。
【図9】本発明に基づく実施形態に係るモータトルク指令値とモータの回転上昇速度との特性を説明する図である。
【図10】本発明に基づく実施形態に係る車両状況判定部の処理を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジン
2 第1クラッチ
3 モータ
4 第2クラッチ(液圧クラッチ)
5 変速機
6 駆動輪
7 オイルポンプ
11 クラッチコントローラ
13 モータコントローラ
13A 通常走行処理部
13B システム始動処理部
13C クラッチ待機処理部
13D エンジン始動処理部
14 制駆動用コントローラ
14A 始動処理部
14B 走行制御部
14C クラッチ故障判定部
14Ca 判定本体部
14Cb 診断許可条件部
14Cc 故障判定部
14Cd 車両状況判定部
ΔNm 差回転数
(dω/dt) 回転上昇速度
H 暖機未完了時のNG領域の閾値
H′ 暖機完了時のNG領域の閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから駆動輪までのトルク伝達経路の途中に、モータを介装すると共に該モータから駆動輪へのトルク伝達を断接する液圧クラッチを介装した車両用駆動装置であって、
上記液圧クラッチは、上記モータの出力トルクによって液圧を発生する構成とし、
かつ、所定条件下、モータのトルク及び回転数を制御することで、開放状態の上記液圧クラッチに対し待機液圧を発生させて該待機液圧で保持するクラッチ待機処理を備え、
上記クラッチ待機処理のためのモータ駆動中における、モータ回転数の上昇特性から、上記クラッチの固着故障の有無を判定することを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
上記モータ回転数の上昇の傾きが所定閾値未満の場合に、上記クラッチの固着故障と判定することを特徴とする請求項1に記載した車両用駆動装置。
【請求項3】
上記クラッチ液圧の液温に応じて上記所定閾値を変更し、液温が低い場合よりも液温が高い方が上記閾値を高くすることを特徴とする請求項2に記載した車両用駆動装置。
【請求項4】
上記クラッチ待機処理及び固着故障の判定処理を、車両のシステム起動時に行うことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した車両用駆動装置。
【請求項5】
エンジンから駆動輪までのトルク伝達経路の途中に、モータを介装すると共に該モータから駆動輪へのトルク伝達を断接する液圧クラッチを介装した車両用駆動方法であって、
上記液圧クラッチを、所定条件下、開放状態の上記液圧クラッチに対し、モータのトルクによって待機液圧を発生させる待機処理を行い、その待機処理中のモータ回転数の上昇特性から、上記クラッチの固着故障の有無を判定することを特徴とする車両用駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−202712(P2009−202712A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46201(P2008−46201)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】