説明

車両用駐車ブレーキ装置

【課題】電動モータにより回動部材を回転させて2本のブレーキワイヤ引き込む車両用駐車ブレーキ装置に、イコライザ機能を与える。
【解決手段】太陽歯車21と、環状内歯歯車23と、キャリア25と、キャリアに偏心して回転自在に支持された遊星歯車22よりなる遊星歯車機構20を用意し、電動モータ15,15Aにより太陽歯車に回転力を与えて、環状内歯歯車とキャリアに回転力を生じさせる。キャリアと環状内歯歯車にそれぞれ一体的に設けた円形または扇形の第1および第2回動部材30,35にそれぞれ巻き付けた第1および第2ブレーキワイヤ41,46により、それぞれ第1および第2ブレーキ機構43,48を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駐車ブレーキ装置、特に電動モータにより一方向に回転される回動部材により2本のブレーキワイヤを引き込んで2つのブレーキ機構を作動させ、回動部材を逆方向に回転させることにより各ブレーキ機構を解除させるようにした車両用駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動式駐車ブレーキ装置としては例えば特許文献1に開示された技術がある。この特許文献1の車両用駐車ブレーキ装置では、ウオームとウオームホイールを介して電動モータにより1個のプーリを回転させ、2本のブレーキワイヤの各一端はプーリの回転中心に対し対称となる位置に係止させ、各他端は各車輪に設けたブレーキ装置に連結し、プーリの回転により各ブレーキワイヤを引き込んで各ブレーキ装置を作動させ、またプーリを逆方向に回転させることにより各ブレーキ機構を解除させるようにしている。
【特許文献1】米国特許第6,863,162号明細書(コラム2,第63行〜コラム3,第32行、図1〜図4)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の車両用駐車ブレーキ装置では、各車輪に与えられる制動力が自動的に同一あるいは所定の比率になるようにすることが好ましいが、上述した特許文献1の技術では、そのような機能(イコライザ機能)を備えていない。特許文献1の技術においてイコライザ機能を与えるための手段としては、例えばプーリの支持軸が両ブレーキワイヤの引き出し方向に移動自在となるように浮動的に支持することが考えられるが、そのようにすると車両走行時に発生する振動に対して耐振機構、振動音対策が必要となる。
【0004】
本発明は、各ブレーキワイヤに対応して互いに別の回動部材を設けるとともに、遊星歯車機構を介して各回動部材を回転させるようにして、このような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、電動モータの回転力がブレーキ機構に連結されたブレーキワイヤの引張り力に変換され、前記電動モータの正転により前記ブレーキワイヤが引張り方向に引っ張られて前記ブレーキ機構が制動状態にされ、前記電動モータの逆転により前記ブレーキワイヤが戻し方向に戻されて前記ブレーキ機構が解除状態にされる車両用駐車ブレーキ装置において、互いに同軸上にかつ相対回転自在に支持された太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)とキャリア(25)、および、前記キャリア(25)に偏心して設けられた支持軸(24)に回転自在に支持されて前記太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)の両者と噛合される遊星歯車(22)よりなる遊星歯車機構(20)と、前記太陽歯車(21)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23)およびキャリア(25)に回転力を生じさせる電動モータ(15、15A)と、互いに異なる車輪にそれぞれ制動力を与える第1ブレーキ機構(43)および第2ブレーキ機構(48)と、前記第1ブレーキ機構(43)および第2ブレーキ機構(48)にそれぞれ一端が連結された第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、前記キャリア(25)と一体的に設けられて同キャリアの回転中心軸線を中心とする円形または扇形で円形または円弧形の第1案内溝(31,31A)を有する第1回動部材(30)と、前記環状内歯歯車(23)と一体的に設けられて同環状内歯歯車の回転中心軸線を中心とする円形または扇形で円形または円弧形の第2案内溝(36,36A)を有する第2回動部材(35)とを備え、前記第1および第2ブレーキワイヤ(41,46)の他端部はそれぞれ前記第1および第2案内溝(31,31A,36,36A)に接線方向から当接され各案内溝に沿って導かれてその先端が前記第1および第2回動部材(30,35)に係止され、前記キャリア(25)および環状内歯歯車(23)にそれぞれ生じる回転力により前記各第1ブレーキ機構(43)および第2ブレーキ機構(48)を作動させたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記遊星歯車機構(20)の各歯車の噛み合いピッチ円径および前記第1および第2案内溝(31,31A,36,36A)の半径ならびに前記第1および第2ブレーキ機構(43,48)の制動特性は、前記第1および第2ブレーキ機構(43,48)により生じる制動力が同一となるように設定したことである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記遊星歯車機構(20)の各歯車の噛み合いピッチ円径および前記第1および第2案内溝(31,31A,36,36A)の半径は、前記第1および第2ブレーキワイヤ(41,46)に生じる引張り力が同一となるように設定したである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記電動モータ(15)から前記太陽歯車(21)への回転力の伝達は、前記電動モータ(15)の出力軸(15a)側に連結されたウオーム(17)と、前記太陽歯車(21)側に連結されたウオームホイール(18)を噛合させることにより行ったことである。
【0009】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記電動モータ(15)から前記太陽歯車(21)への回転力の伝達は、電動モータ(15)側から太陽歯車(21)側への回転は伝達するがこれと逆方向の回転の伝達は阻止する一方向クラッチ(50)を介して行ったことである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、遊星歯車機構はイコライザ作用を有しており、遊星歯車機構の太陽歯車に与えられる回転力は自動的に所定の比率で分配されてキャリアおよび環状内歯歯車に伝達され、この伝達された各回転力が第1および第2回動部材および第1および第2ブレーキワイヤを介して第1および第2ブレーキ機構を作動させる。このように太陽歯車に与えられる回転力はキャリアおよび環状内歯歯車に所定の比率で自動的に分配されるので、第1および第2ブレーキワイヤに所定の比率で分配して伝達することができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、遊星歯車機構の各歯車の噛み合いピッチ円径および第1および第2案内溝の半径ならびに第1および第2ブレーキ機構の制動特性を、第1および第2ブレーキ機構により生じる制動力が同一となるように設定しているので、請求項1の発明の効果に加え、駐車中に各車輪に発生する制動力を等しくすることができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、遊星歯車機構の各歯車の噛み合いピッチ円径および第1および第2案内溝の半径を、第1および第2ブレーキワイヤに生じる引張り力が同一となるように設定しているので、前各項の発明の効果に加え、各車輪に制動力を与える各ブレーキ機構を同一仕様のものとすることができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、電動モータから太陽歯車への回転力の伝達は、電動モータの出力軸a側に連結されたウオームと、太陽歯車側に連結されたウオームホイールを噛合させることにより行う様にしており、第1または第2ブレーキ機構を作動させた状態で電動モータを不作動状態にしても、第1または第2ブレーキ機構側からの回転力によりキャリアおよび環状内歯歯車が回転することがないので、前各項の発明の効果に加え、一旦作動された第1または第2ブレーキ機構が不作動時にゆるむおそれがない。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、電動モータから太陽歯車への回転力の伝達は、電動モータ側から太陽歯車側への回転は伝達するがこれと逆方向の回転の伝達は阻止する一方向クラッチを介して行っており、前項の発明の場合と同様、第1または第2ブレーキ機構を作動させた状態で電動モータを不作動状態にしても、一旦作動された第1または第2ブレーキ機構が不作動時にゆるむおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
先ず図1〜図3により本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第1実施形態の説明をする。この第1実施形態は、図1および図2に示すように、太陽歯車21と環状内歯歯車23とキャリア25と3個の遊星歯車22よりなる遊星歯車機構20と、太陽歯車21に回転力を与えて環状内歯歯車23およびキャリア25に回転力を生じさせる電動モータ15と、第1および第2コントロールケーブル40,45と、キャリア25と環状内歯歯車23に生じる回転力をそれぞれ第1および第2コントロールケーブル40,45の各インナワイヤ(ブレーキワイヤ)41,46の引張り力に変換する第1および第2プーリ(回動部材)30,35、これらを保持するハウジング10と、第1および第2ブレーキ機構43,48よりなるものである。
【0016】
図1および図2に示すように、第1実施形態のハウジング10は、第1室R1を形成する四角の箱状の第1部分と、その一側から突出して第2室R2を形成する第2部分からなり、分割可能な複数部分を一体的に連結したものである。第1室R1内には遊星歯車機構20と第1および第2プーリ30,35が設けられ、第2室R2内には電動モータ15により太陽歯車21を回転させる駆動機構が設けられている。
【0017】
遊星歯車機構20の環状内歯歯車23はハウジング10の第1部分の第2部分側となる壁部の内面のほゞ中央部に、ボールベアリング27を介して回転自在に支持されている。円盤状のキャリア25は、第2部分と反対側となるハウジング10の壁部に、ボールベアリング26を介して環状内歯歯車23と同軸上に回転自在に支持され、その回転軸線から同一距離偏心して等角度間隔で立設された3本の支持軸24にはそれぞれ遊星歯車22が回転自在に支持されて、環状内歯歯車23の内歯に噛合されている。
【0018】
ハウジング10の第2室R2内には、ウオームホイール18の出力軸18aが、遊星歯車機構20と同軸上にボールベアリング19を介して回転自在に支持され、第1室R1内に突出する出力軸18aの先端部には遊星歯車機構20の太陽歯車21が固定され、該太陽歯車21は各遊星歯車22と噛合されている。ハウジング10の第2部分の外側に取り付けられた電動モータ15の出力軸15aは、ウオームホイール18と直角に第2室R2内に入り、出力軸15aに固定されたウオーム17はウオームホイール18と噛合されて太陽歯車21を回転駆動するようになっている。ウオーム17のリード角は、ウオーム17側からウオームホイール18側への回転運動の伝達は可能であるが、それと逆向きの回転運動の伝達は不能である様な角度となっている。
【0019】
図1および図2に示すように、第1プーリ(第1回動部材)30はほゞ一定の厚さの環状部材で、キャリア25の外周に同軸上に固着され、外周面30aに一定の深さで全周にわたる円形の第1外周溝(第1案内溝)31を形成したものであり、外周面30a付近の一部には次に述べる第1コントロールケーブル40の第1インナワイヤ41の先端の連結金具41aを係止する取付穴31aが形成されている。第2プーリ(第2回動部材)35は、固着先が環状内歯歯車23の外周であり外径が多少小さい点を除き、第1プーリ30と同様な環状部材で、外周面35aに一定の深さで全周にわたる第2外周溝(第2案内溝)36を形成し、また取付穴31aと同様な取付穴36aを形成したものである。キャリア25に一体的に固着された第1プーリ30と、第2プーリ35が一体的に一体的に固着された環状内歯歯車23の間には、同軸上にスラストニードルローラベアリング28が介装されて、環状内歯歯車23とキャリア25の間の軸線方向相対移動を拘束している。なお、キャリア25と第1プーリ30および環状内歯歯車23と第2プーリ35は、それぞれ一体形成してもよい。
【0020】
第1インナワイヤ(第1ブレーキワイヤ)41と第1アウタチューブ42よりなる第1コントロールケーブル40は、第1アウタチューブ42の一端がハウジング10の一側の外壁に取付金具42aを介して取り付けられ、第1アウタチューブ42内を通る第1インナワイヤ41は取付金具42aからハウジング10内に延び、その一端部は第1プーリ30の第1外周溝31の底面に接線方向から当接され各底面に沿って導かれてその先端の連結金具41aが取付穴31aに係止されている。同様に、第2コントロールケーブル45は第2アウタチューブ47の一端が取付金具47aを介してハウジング10の他側の外壁に取り付けられ、第2インナワイヤ(第2ブレーキワイヤ)46の一端は第2プーリ35の第2外周溝36に沿って導かれてその先端の連結金具46aが取付穴36aに係止されている。各コントロールケーブル40,45のインナワイヤ41,46及びアウタチューブ42,47の他端は、それぞれ異なる車輪に設けたドラムブレーキ、ディスクブレーキなどの第1および第2ブレーキ機構43,48に連結されている。
【0021】
次に上述した第1実施形態の作動の説明をする。図2において電動モータ15により太陽歯車21が反時計回転方向に回転されれば、キャリア25および第1プーリ30は反時計回転方向に回転され、環状内歯歯車23および第2プーリ35は時計回転方向に回転され、第1および第2インナワイヤ41,46は何れも引き寄せられ、最後まで引き寄せられたところで各駐車ブレーキ機構43,48は作動される。電動モータ15により太陽歯車21が時計回転方向に回転されれば、前述と逆の作用により第1および第2インナワイヤ41,46は何れも戻されて各駐車ブレーキ機構43,48は解除される。
【0022】
上述のように駐車ブレーキ装置が作動され、各インナワイヤ41,46が最後まで引っ張られて停止され、遊星歯車機構20も停止された状態において、電動モータ15により太陽歯車21に与えられる回転力をT(=F・b/2;bは太陽歯車21の噛み合いピッチ円径)とすれば、遊星歯車22の太陽歯車21と噛合する箇所には、図3に示すようにFなる力が作用する。また遊星歯車22の環状内歯歯車23との噛合箇所、遊星歯車22を枢支するキャリア25の支持軸24の中心および環状内歯歯車23の遊星歯車22との噛合箇所に作用する力は、それぞれF、2F、Fとなる。これにより、キャリア25に生じる回転力T、環状内歯歯車23に生じる回転力Tならびに第1および第2インナワイヤ41,46に作用する各引張り力G1,G2はそれぞれ次のようになる。
【0023】
=2F(c+b)/4=F(c+b)/2
【0024】
=−c・F/2
【0025】
G1=T/d=F(c+b)/2d
【0026】
G2=T/e=−c・F/2e
【0027】
ただし
【0028】
a:遊星歯車22の噛み合いピッチ円径
【0029】
c:環状内歯歯車23の内歯の噛み合いピッチ円径
【0030】
d:第1外周溝31の径+第1インナワイヤ41の径
【0031】
e:第2外周溝36の径+第2インナワイヤ46の径
【0032】
(c+b)/4:支持軸24の中心の偏心量
【0033】
ここにおいて、第1および第2インナワイヤ41,46に作用する各引張り力G1,G2が同一となるようにするには、d/e=1+b/c とすればよい。1組の数値例を示せば次の通りである。a=17.5、b=5、c=40、d=81、e=72、d/e=1.125。
【0034】
上述した第1実施形態によれば、電動モータ15からウオーム17およびウオームホイール18を介して遊星歯車機構20の太陽歯車21に与えられた回転力は、遊星歯車機構20のイコライザ作用により、自動的に所定の比率で分配されてキャリア25および環状内歯歯車23に伝達され、この伝達された各回転力が第1および第2プーリ30,35および第1および第2ブレーキワイヤ41,46を介して第1および第2ブレーキ機構43,48を作動させているので、両ブレーキ機構43,48に常に所定の比率で制動力を与えることができる。これに加え第1および第2プーリ30,35の第1および第2外周溝31,36の径は遊星歯車機構20の各歯車の噛み合いピッチ円径に合わせて、第1および第2インナワイヤ41,46に作用する各引張り力G1,G2が同一となるように設定しているので、同一仕様の第1および第2ブレーキ機構43,48を使用して、駐車中に各車輪に発生する制動力を等しくすることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、異なる仕様の第1および第2ブレーキ機構43,48を使用し、あるいは各インナワイヤ41,46の引張り力G1,G2を異なるものとして、各車輪に常に所定の比率の制動力を発生させるようにして実施することもできる。
【0035】
なお上述した第1実施形態では、第1および第2プーリ30,35は全周に外周溝31,36を形成した円形のものを使用しているが、例えば図2に丸括弧で囲んだ符号で示すように、各プーリ30,35の回転範囲より多少大きい中心角30R,35Rを有する第1および第2扇形部材30A,35Aを第1および第2プーリ30,35代わりに使用してもよい。この第1および第2扇形部材30A,35Aは第1および第2プーリ30,35の一部を切り取ったもので、その各円弧面30Aa,35Aaおよび各円弧溝31A,36Aの半径は、第1および第2プーリ30,35の各外周面,30a,35aおよび各外周溝31,36の半径と同じであり、各円弧面30Aa,35Aa付近の一端部には取付穴31a,36aが設けられている。このような各扇形部材30A,35Aは円形のプーリ30,35よりも小型かつ軽量化されるので、車両用駐車ブレーキ装置を小型かつ軽量化することができる。
【0036】
また上述した第1実施形態では、電動モータ15から太陽歯車21への回転力の伝達は、電動モータ15側であるウオーム17から太陽歯車21側であるウオームホイール18への回転の伝達は可能であるが、それと逆向きの回転の伝達は不能であるウオーム17とウオームホイール18を介して行っているので、第1または第2ブレーキ機構43,48を作動させた状態で電動モータ15を不作動状態にしても、第1または第2ブレーキ機構43,48側からの回転力によりキャリア25および環状内歯歯車23が回転することはない。従って一旦作動された第1または第2ブレーキ機構43,48が不作動時にゆるむおそれがない。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、次に述べる第2実施形態の一方向クラッチ50、あるいは不作動時には自動的にロックされるような電動モータを使用して実施することも可能である。
【0037】
次に図4〜図6に示す第2実施形態の説明をする。この第2実施形態は、一方向クラッチ50を介して電動モータ15Aにより太陽歯車21を回転駆動している点が、ウオーム17およびウオームホイール18を介して電動モータ15により太陽歯車21を回転駆動している第1実施形態と異なっている。この第2実施形態の、遊星歯車機構20と、第1および第2コントロールケーブル40,45と、第1および第2プーリ(回動部材)30,35と、第1および第2ブレーキ機構43,48は、前述した第1実施形態と同一であり、ハウジング10Aも電動モータ15Aおよび一方向クラッチ50の取付部分を除き、第1実施形態と同一である。一方向クラッチ50は、回転方向が何れの場合でも、電動モータ15A側から太陽歯車21側へは回転を伝達するが、これと逆方向の回転の伝達は阻止するものである。
【0038】
次に図5及び図6により一方向クラッチ50の説明をする。一方向クラッチ50の主要な構成部材は、シリンダ部材51、電動モータ15Aの出力軸に連結された入力軸52に設けられた入力カム53、出力軸55に設けられた出力カム56及びコイルスプリング59である。シリンダ部材51は取付ねじにより電動モータ15Aのケーシング15Aaに固定され、円筒状の内周面51aが形成されている。出力軸55はシリンダ部材51に形成した軸受孔により同軸上に回転自在に支持され、その先端部には太陽歯車21が形成されている。シリンダ部材51内となる出力軸55の一端には、フランジ部55aと出力カム56が連続して同軸上に形成されている。出力カム56には、出力軸55の回転軸線を中心とする扇形の切欠き57が外周の一部に形成され、中心部には同軸上に円筒孔55bが形成されている。切欠き57の円周方向両端の各内端面57aは半径方向に延びている。
【0039】
入力軸52は電動モータ15Aのケーシング15Aaに形成した軸受孔により電動モータ15Aの出力軸と同軸上に回転自在に支持されている。シリンダ部材51内となる入力軸52の一端には、出力カム56の端面と対向するフランジ部52aが同軸上に形成され、このフランジ部52aには、出力軸55の切欠き57内に円周方向両内端面57aとの間に円周方向に隙間をおいて挿入される扇形の入力カム53が一体的に形成されている。この入力カム53の円周方向両外端面53aの半径方向内端部には、出力軸55の切欠き57の円周方向両内端面57aに向けて突出する1対の突出部53bが形成されている。シリンダ部材51の内周面51aと入力カム53及び出力カム56の各外周の間には、次に述べるコイルスプリング59を収容するのに充分な隙間が設けられている。
【0040】
シリンダ部材51の内周面51aには、巻き数が複数(図示の例では4巻きあまり)のコイルスプリング59が、その弾性により押圧されて摩擦係合されるように嵌挿されている。コイルスプリング59の両端部には、比較的大きい半径で約90度内向きに折曲されて、先端部が入力カム53の円周方向各外端面53aと切欠き57の円周方向各内端面57aの間の各隙間内に位置する折曲部59aが形成されている。この第1実施形態のコイルスプリング59は、四角い断面形状の線材を使用しているが、丸い断面形状の線材を使用してもよい。
【0041】
次にこの一方向クラッチ50の作動の説明をする。図6において入力軸52が反時計回転方向に回転して出力軸55側への回転の伝達がなされようとした場合には、入力軸52に固定された入力カム53は、図6に示す不作動状態から反時計回転方向に回転し、外端面53aがコイルスプリング59の折曲部59aの内側に当接する。この当接により内側から折曲部59aに加わる力はコイルスプリング59の外径を縮小させる様に作用し、シリンダ部材51の内周面51aに対するコイルスプリング59の摩擦力が減少されるので、内周面51aに対してコイルスプリング59は摺動され、出力カム56および出力軸55は反時計回転方向に回転される。入力カム53が回転されれば、突出部53bの先端が出力カム56の切欠き57の内端面57aに直接当接され、あるいは外端面53aがコイルスプリング59の折曲部59aを介して切欠き57の内端面57aに当接されるので、出力カム56および出力軸55も入力カム53とともに反時計回転方向に回転される。入力カム53が時計回転方向に回転した場合も、同様にして出力カム56および出力軸55は入力カム53とともに時計回転方向に回転される。
【0042】
上述とは逆に、図6において出力軸55が反時計回転方向に回転して入力軸52側への回転の伝達がなされようとした場合には、出力軸55に固定された出力カム56は、図6に示す不作動状態から反時計回転方向に回転し、円周方向内端面57aがコイルスプリング59の折曲部59aの外側に当接する。この当接により外側から折曲部59aに加わる力はコイルスプリング59の外径を拡大する様に作用し、シリンダ部材51の内周面51aに対するコイルスプリング59の摩擦力が増大されるので、内周面51aに対するコイルスプリング59の摺動は阻止され、出力カム56および出力軸55の回転は阻止される。従って、出力カム56および出力軸55の回転が入力カム53および入力軸52に伝達されることはない。出力軸55が時計回転方向に回転した場合も、同様にして出力カム56および出力軸55の回転が入力カム53および入力軸52に伝達されることはない。
【0043】
この第2実施形態では、一方向クラッチ50を組み付けた電動モータ15Aは、一方向クラッチ50の出力軸55の先端に設けた太陽歯車21が各遊星歯車22と噛合されるように、遊星歯車機構20と同軸上にハウジング10Aに取り付けられる。
【0044】
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様、電動モータ15Aにより太陽歯車21が反時計回転方向に回転されれば、一方向クラッチ50を介してキャリア25および第1プーリ30は反時計回転方向に回転され、環状内歯歯車23および第2プーリ35は時計回転方向に回転され、第1および第2インナワイヤ41,46は何れも引き寄せられ、最後まで引き寄せられたところで各駐車ブレーキ機構43,48は作動される。電動モータ15により太陽歯車21が時計回転方向に回転されれば、前述と逆の作用により第1および第2インナワイヤ41,46は何れも戻されて各駐車ブレーキ機構43,48は解除される。
【0045】
この第2実施形態でも、第1実施形態と同様、電動モータ15から一方向クラッチ50を介して遊星歯車機構20の太陽歯車21に与えられた回転力は、遊星歯車機構20のイコライザ作用により、自動的に所定の比率で分配されてキャリア25および環状内歯歯車23に伝達され、前述した第1実施形態と同じ作用効果を得ることができる。
【0046】
またこの第2実施形態では、第1実施形態のウオーム17およびウオームホイール18の代わりに一方向クラッチ50を介して電動モータ15Aにより太陽歯車21を回転駆動しているが、この一方向クラッチ50は電動モータ15A側から太陽歯車21側への回転は伝達するがこれと逆方向の回転の伝達は阻止するであるので、第1実施形態と同様、一旦作動された第1または第2ブレーキ機構43,48が不作動時にゆるむおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第1実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】第1実施形態の作動に説明図である。
【図4】本発明による車両用駐車ブレーキ装置の第2実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図5】第2実施例に使用する一方向クラッチの構造を示す縦断面図である。
【図6】図5の6−6断面図である。
【符号の説明】
【0048】
15,15A…電動モータ、17…ウオーム、18…ウオームホイール、20…遊星歯車機構、21…太陽歯車、22…遊星歯車、23…環状内歯歯車、24…支持軸、25…キャリア、30…第1回動部材(第1プーリ)、30a…外周面、30A…第1回動部材(第1扇形部材)、30Aa…円弧面、31,31A…第1案内溝(第1外周溝、第1円弧溝)、35…第2回動部材(第2プーリ)、35a…外周面、35A…第2回動部材(第2扇形部材)、35Aa…円弧面、36,36A…第2案内溝(第2外周溝、第2円弧溝)、41…第1ブレーキワイヤ(第1インナワイヤ)、43…第1ブレーキ機構、46…第2ブレーキワイヤ(第2インナワイヤ)、48…第2ブレーキ機構、50…一方向クラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸上にかつ相対回転自在に支持された太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)とキャリア(25)、および、前記キャリア(25)に偏心して設けられた支持軸(24)に回転自在に支持されて前記太陽歯車(21)と環状内歯歯車(23)の両者と噛合される遊星歯車(22)よりなる遊星歯車機構(20)と、
前記太陽歯車(21)に回転力を与えて前記環状内歯歯車(23)およびキャリア(25)に回転力を生じさせる電動モータ(15,15A)と、
互いに異なる車輪にそれぞれ制動力を与える第1ブレーキ機構(43)および第2ブレーキ機構(48)と、
前記第1ブレーキ機構(43)および第2ブレーキ機構(48)にそれぞれ一端が連結された第1ブレーキワイヤ(41)および第2ブレーキワイヤ(46)と、
前記キャリア(25)と一体的に設けられて同キャリアの回転中心軸線を中心とする円形または扇形で円形または円弧形の第1案内溝(31,31A)を有する第1回動部材(30)と、
前記環状内歯歯車(23)と一体的に設けられて同環状内歯歯車の回転中心軸線を中心とする円形または扇形で円形または円弧形の第2案内溝(36,36A)を有する第2回動部材(35)とを備え、
前記第1および第2ブレーキワイヤ(41,46)の他端部はそれぞれ前記第1および第2案内溝(31,31A,36,36A)に接線方向から当接され各案内溝に沿って導かれてその先端が前記第1および第2回動部材(30,35)に係止され、前記キャリア(25)および環状内歯歯車(23)にそれぞれ生じる回転力により前記各第1ブレーキ機構(43)および第2ブレーキ機構(48)を作動させることを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記遊星歯車機構(20)の各歯車の噛み合いピッチ円径および前記第1および第2案内溝(31,31A,36,36A)の半径ならびに前記第1および第2ブレーキ機構(43,48)の制動特性は、前記第1および第2ブレーキ機構(43,48)により生じる制動力が同一となるように設定したことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記遊星歯車機構(20)の各歯車の噛み合いピッチ円径および前記第1および第2案内溝(31,31A,36,36A)の半径は、前記第1および第2ブレーキワイヤ(41,46)に生じる引張り力が同一となるように設定したことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記電動モータ(15)から前記太陽歯車(21)への回転力の伝達は、前記電動モータ(15)の出力軸(15a)側に連結されたウオーム(17)と、前記太陽歯車(21)側に連結されたウオームホイール(18)を噛合させることにより行うことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用駐車ブレーキ装置において、前記電動モータ(15)から前記太陽歯車(21)への回転力の伝達は、電動モータ(15)側から太陽歯車(21)側への回転は伝達するがこれと逆方向の回転の伝達は阻止する一方向クラッチ(50)を介して行うことを特徴とする車両用駐車ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−298245(P2008−298245A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147451(P2007−147451)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】