説明

車両駆動装置

【課題】多様な形状、大きさの電動モータを使用可能であり、バネ下荷重を増大させることなく、デファレンシャルから車軸、車輪への回転伝達構造や、懸架構造を簡素化することができる車両駆動装置を提供すること。
【解決手段】電動モータ110によって駆動されるデファレンシャル120と、該デファレンシャル120に駆動される車軸130とを有する車両駆動装置100であって、電動モータ110の出力軸113のドライブスプロケット111と、デファレンシャル120のドリブンスプロケット121に掛け回されるドライブチェーン112によって駆動力が伝達されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータと、該電動モータによって駆動されるデファレンシャルと、該デファレンシャルに駆動され車両幅方向に沿って配置される車軸とを有する車両駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動モータによって駆動されるデファレンシャルと、該デファレンシャルに駆動され車両幅方向に沿って配置される車軸とを有する車両駆動装置は公知である。
この公知の車両駆動装置では、電動モータとデファレンシャルを一体化して、電動モータからデファレンシャルに歯車列によって動力伝達を行っていた(特許文献1等参照。)。
【0003】
また、このような電動モータとデファレンシャルを一体化した車両駆動装置を車両本体に懸架する際に、電動モータと一体化されて重量が大きくなったデファレンシャルを車輪と併せてバネ下荷重とするのを避けるため、デファレンシャルと車輪を別個に懸架するものが公知である(特許文献21等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−83842号公報(全頁、全図)
【特許文献2】特開2006−213179号公報(全頁、全図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの公知の車両駆動装置は、電動モータとデファレンシャルが一体化されているため、使用される電動モータが一体化可能な形状、大きさのものに限定され、実質的に専用設計とせざるを得ないという問題があった。
【0006】
また、構造が単純な車軸懸架とした場合、電動モータ分の重量がバネ下荷重として増加し、駆動力を大きくするために電動モータを大型化することが困難となるため、デファレンシャルから車軸、車輪への回転伝達構造や懸架構造を、より複雑なものとしなければならないという問題があった。
【0007】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、多様な形状、大きさの電動モータを使用可能であり、バネ下荷重を増大させることなく、デファレンシャルから車軸、車輪への回転伝達構造や、懸架構造を簡素化することができる車両駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本請求項1に係る発明は、電動モータと、該電動モータによって駆動されるデファレンシャルと、該デファレンシャルに駆動され車両幅方向に沿って配置される車軸とを有する車両駆動装置であって、前記電動モータが、その出力軸にドライブスプロケットを有し、前記デファレンシャルが、ドリブンスプロケットを有し、前記ドライブスプロケットとドリブンスプロケットに掛け回されるドライブチェーンによって駆動力が伝達されることにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
本請求項2に係る発明の車両駆動装置は、請求項1に記載の構成に加え、前記電動モータが、車両本体に直接支持され、前記デファレンシャルおよび車軸が、懸架手段を介して車両本体に支持されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0010】
本請求項3に係る発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記ドライブスプロケットとドリブンスプロケットの間に、前記ドライブチェーンの振動を抑制するチェーンテンショナを有することにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構成に加え、前記車軸が、車両前後方向に複数平行に配置され、前記複数の車軸を駆動するそれぞれのデファレンシャルが、車両幅方向の同一位置に配置され、前記複数のデファレンシャルが、それぞれ伝達スプロケットを有し、該複数のデファレンシャルの伝達スプロケットの間に掛け回される伝達チェーンによって複数のデファレンシャル間で駆動力が伝達されることにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
本請求項5に係る発明は、請求項4に記載の構成に加え、前記複数のデファレンシャルの伝達スプロケットの間に、前記伝達チェーンの振動を抑制するチェーンテンショナを有することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本請求項1に係る発明の車両駆動装置は、電動モータと、該電動モータによって駆動されるデファレンシャルと、該デファレンシャルに駆動され車両幅方向に沿って配置される車軸とを有する車両駆動装置であって、電動モータがその出力軸にドライブスプロケットを有し、デファレンシャルがドリブンスプロケットを有し、ドライブスプロケットとドリブンスプロケットに掛け回されるドライブチェーンによって駆動力が伝達されることにより、電動モータとデファレンシャルを別個に設計することができるため、多様な形状、大きさの電動モータが使用可能となる。
【0014】
また、電動モータの出力軸とデファレンシャルとの軸間距離や軸線の角度が変動してもドライブチェーンにより吸収可能であるため、複雑な回転伝達機構を採用することなく電動モータとデファレンシャルを別個に懸架することが可能となる。
【0015】
本請求項2に記載の構成によれば、電動モータが車両本体に直接支持され、デファレンシャルおよび車軸が懸架手段を介して車両本体に支持されていることにより、構造が単純な車軸懸架とした場合でも電動モータ分の重量がバネ下荷重とならないため、複雑な回転伝達機構を採用する必要がなく、また、多様な形状、大きさの電動モータが使用可能となる。
【0016】
本請求項3に記載の構成によれば、ドライブスプロケットとドリブンスプロケットの間に、ドライブチェーンの振動を抑制するチェーンテンショナを有することにより、確実に回転を伝達することが可能となるとともに、電動モータの出力軸とデファレンシャルの入力軸との軸間距離や軸線の角度の変動をさらに大きく許容することが可能となるため、電動モータとデファレンシャルの配置の自由度がさらに大きくなる。
【0017】
本請求項4に記載の構成によれば、車軸が、車両前後方向に複数平行に配置され、複数の車軸を駆動するそれぞれのデファレンシャルが、それぞれ伝達スプロケットを有し、該複数のデファレンシャルの伝達スプロケットの間に掛け回される伝達チェーンによって複数のデファレンシャル間で駆動力が伝達されることにより、複雑な回転伝達機構を採用することなく、また、重量を増大させることなく、複数の車軸を駆動することが可能となる。
【0018】
また、複数の車軸の軸間距離を自由に設定できるとともに、複数のデファレンシャルの軸間距離や軸線の角度が変動しても伝達チェーンによって吸収可能であるため、複雑な回転伝達機構を採用することなく複数の車軸を別個に懸架することが可能となる。
【0019】
本請求項5に記載の構成によれば、複数のデファレンシャルの伝達スプロケットの間に、伝達チェーンの振動を抑制するチェーンテンショナを有することにより、複数の車軸の軸間距離や軸線の角度の変動をさらに大きく許容することが可能となるため、複数の車軸の配置や懸架の自由度がさらに大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例である車両駆動装置の平面説明図。
【図2】図1に示す車両駆動装置の正面説明図。
【図3】本発明の第2実施例である車両駆動装置の平面説明図。
【図4】図3に示す車両駆動装置の側面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、電動モータと、該電動モータによって駆動されるデファレンシャルと、該デファレンシャルに駆動され車両幅方向に沿って配置される車軸とを有する車両駆動装置であって、電動モータがその出力軸にドライブスプロケットを有し、デファレンシャルがドリブンスプロケットを有し、ドライブスプロケットとドリブンスプロケットに掛け回されるドライブチェーンによって駆動力が伝達され、多様な形状、大きさの電動モータを使用可能であり、バネ下荷重を増大させることなく、デファレンシャルから車軸、車輪への回転伝達構造や、懸架構造を簡素化することができるものであれば、その具体的態様は如何なるものであっても構わない。
【実施例1】
【0022】
本発明の第1実施例である車両駆動装置100は、図1、図2に示すように、電動モータ110と、該電動モータ110によって駆動されるデファレンシャル120と、該デファレンシャル120に駆動され車両幅方向に沿って配置される車軸130と、車軸130の両端部に設けられた車輪140を有している。
【0023】
電動モータ110は、その出力軸113にドライブスプロケット111を有しており、図2に示すように、車両本体160に電動モータ支持部161を介して支持されている。
デファレンシャル120は、ドリブンスプロケット121を有しており、ドライブスプロケット111とドリブンスプロケット121に掛け回されるドライブチェーン112によって電動モータ110から駆動力が伝達される。
【0024】
デファレンシャル120、車軸130および車輪140は、一体として車両本体160に懸架手段150を介して懸架されている。
なお、図1、図2は説明のために簡略化したものであり、それぞれの構成要素の実際の形状や大きさ、詳細な構成は採用される車両に応じて適宜決定される。
【0025】
以上の構成によれば、懸架手段150によって懸架されるバネ下荷重をデファレンシャル120、車軸130および車輪140のみとすることができるため、電動モータ110を、採用される車両に必要な出力特性に応じて、多様な形状、大きさのものを自由に選択することができる。
【0026】
また、車両走行時に懸架手段150が作動して電動モータ110の出力軸113とデファレンシャル120との軸間距離や軸線の角度が変動しても、ドライブチェーン112によって吸収可能なため、電動モータ110の出力軸113とデファレンシャル120との間、デファレンシャル120と車軸130との間、車軸130と車輪140との間に複雑な回転伝達機構を採用する必要がなく、簡単な構成とすることができる。
特に従来の前輪駆動の4輪自動車における後輪に設ける場合、懸架構造を複雑化することなく後輪も駆動することができ好適である。
【実施例2】
【0027】
本発明の第2実施例である車両駆動装置200は、図3、図4に示すように、電動モータ210と、該電動モータ210によって駆動される第1デファレンシャル220aと、該第1デファレンシャル220aに駆動され車両幅方向に沿って配置される第1車軸230aと、第1車軸230aの両端部に設けられた第1車輪240aを有しており、さらに、車両前後方向に平行に、第2デファレンシャル220bと、該第2デファレンシャル220bに駆動され車両幅方向に沿って配置される第2車軸230bと、第2車軸230bの両端部に設けられた第2車輪240bを有している。
【0028】
電動モータ210は、その出力軸213にドライブスプロケット211を有しており、図4に示すように、車両本体260に電動モータ支持部261を介して支持されている。
第1デファレンシャル220aは、ドリブンスプロケット221と伝達スプロケット224aを有しており、ドライブスプロケット211とドリブンスプロケット221に掛け回されるドライブチェーン212によって電動モータ210から駆動力が伝達される。
【0029】
第2デファレンシャル220bは、伝達スプロケット224bを有しており、伝達スプロケット224aと伝達スプロケット224bに掛け回される伝達チェーン222によって第1デファレンシャル220aから第2デファレンシャル220bに駆動力が伝達される。
【0030】
第1デファレンシャル220a、第1車軸230aおよび第1車輪240aは、一体として車両本体260に第1懸架手段250aを介して懸架され、第2デファレンシャル220b、第2車軸230bおよび第2車輪240bは、一体として車両本体260に第2懸架手段250bを介して懸架されている。
【0031】
また、ドライブスプロケット211とドリブンスプロケット221の間には、ドライブチェーン212の振動を抑制する第1チェーンテンショナ262aが設けられ、第1デファレンシャル220aの伝達スプロケット224aと第2デファレンシャル220bの伝達スプロケット224bとの間には、伝達チェーン222の振動を抑制する第2チェーンテンショナ262bが設けられている。
【0032】
なお、図3、図4も説明のために簡略化したものであり、それぞれの構成要素の実際の形状や大きさ、詳細な構成は採用される車両に応じて適宜決定される。
また、本実施例では、第1チェーンテンショナ262aおよび第2チェーンテンショナ262bは、車両本体260に支持されているが、それぞれ、電動モータ210、第1デファレンシャル220aあるいは第2デファレンシャル220bに支持されても良い。
【0033】
以上の構成によれば、第1実施例と同様に、第1懸架手段250aによって懸架されるバネ下荷重を第1デファレンシャル220a、第1車軸230aおよび第1車輪240aのみ、第2懸架手段250bによって懸架されるバネ下荷重を第2デファレンシャル220b、第2車軸230bおよび第2車輪240bのみと、それぞれすることができるため、電動モータ220を、採用される車両に必要な出力特性に応じて、多様な形状、大きさのものを自由に選択することができる。
【0034】
また、車両走行時に第1懸架手段250aおよび第2懸架手段250bが独立して作動して電動モータ210の出力軸213と第1デファレンシャル220aとの軸間距離や軸線の角度、あるいは、第1デファレンシャル220aと第2デファレンシャル220bとの軸間距離や軸線の角度が変動しても、ドライブチェーン212あるいは伝達チェーン222によって吸収可能なため、電動モータ210の出力軸213と第1デファレンシャル220aとの間、第1デファレンシャル220aと第2デファレンシャル220bとの間、それぞれのデファレンシャル220a、bと車軸230a、bとの間、それぞれの車軸230a、bと車輪240a、bとの間に複雑な回転伝達機構を採用する必要がなく、簡単な構成とすることができる。
【0035】
さらに、第1チェーンテンショナ262aおよび第2チェーンテンショナ262bを設けることで、軸間距離や軸線の角度が変動して際のドライブチェーン212あるいは伝達チェーン222による吸収範囲が大きくなるため、電動モータ210、第1チェーンテンショナ262aおよび第2チェーンテンショナ262bのそれぞれの配置や、第1懸架手段250aおよび第2懸架手段250bの作動機構等を、本発明の車両駆動装置採用する車両に応じて、広範囲に選択できる。
【0036】
なお、第1チェーンテンショナ262aあるいは第2チェーンテンショナ262bは、第1懸架手段250aおよび第2懸架手段250bの可動範囲によっては省略してもよく、また、第2実施例で示した第1チェーンテンショナ262aを、第1実施例のドライブスプロケット211とドリブンスプロケット221との間に設けても良い。
また、第2実施例ではデファレンシャル220を2個設けているが、さらに3個以上設けても良く、また、その際には、電動モータ210を複数設けても良い。
【0037】
以上のように、本発明の車両駆動装置によれば、多様な形状、大きさの電動モータを使用可能であり、バネ下荷重を増大させることなく、デファレンシャルから車軸、車輪への回転伝達構造や、懸架構造を簡素化することができるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0038】
100、200 ・・・車両駆動装置
110、210 ・・・電動モータ
111、211 ・・・ドライブスプロケット
112、212 ・・・ドライブチェーン
113、213 ・・・出力軸
120、220 ・・・デファレンシャル
121、221 ・・・ドリブンスプロケット
222 ・・・伝達チェーン
224 ・・・伝達スプロケット
130、230 ・・・車軸
140、240 ・・・車輪
150、250 ・・・懸架手段
160、260 ・・・車両本体
161、261 ・・・電動モータ支持部
262 ・・・チェーンテンショナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、該電動モータによって駆動されるデファレンシャルと、該デファレンシャルに駆動され車両幅方向に沿って配置される車軸とを有する車両駆動装置であって、
前記電動モータが、その出力軸にドライブスプロケットを有し、
前記デファレンシャルが、ドリブンスプロケットを有し、
前記ドライブスプロケットとドリブンスプロケットに掛け回されるドライブチェーンによって駆動力が伝達されることを特徴とする車両駆動装置。
【請求項2】
前記電動モータが、車両本体に直接支持され、
前記デファレンシャルおよび車軸が、懸架手段を介して車両本体に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記ドライブスプロケットとドリブンスプロケットの間に、前記ドライブチェーンの振動を抑制するチェーンテンショナを有することを特徴とする請求項2に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記車軸が、車両前後方向に複数平行に配置され、
前記複数の車軸を駆動するそれぞれのデファレンシャルが、車両幅方向の同一位置に配置され、
前記複数のデファレンシャルが、それぞれ伝達スプロケットを有し、
該複数のデファレンシャルの伝達スプロケットの間に掛け回される伝達チェーンによって複数のデファレンシャル間で駆動力が伝達されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両駆動装置。
【請求項5】
前記複数のデファレンシャルの伝達スプロケットの間に、前記伝達チェーンの振動を抑制するチェーンテンショナを有することを特徴とする請求項4に記載の車両駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−67901(P2012−67901A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215678(P2010−215678)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】