説明

車両

【課題】車軸の移動を規制できる車両を提供する。
【解決手段】駆動モータと、駆動モータの回転動力が伝達されるリングギア211と、リングギア211に回転可能に支持される中間ピニオン213と、中間ピニオン213と噛み合うサイドギア214をと含むデファレンシャルギア21と、一端が前記サイドギア214に結合されるとともに軸線方向の中間には半径方向外側に延出する鍔部221が形成される車軸22と、デファレンシャルギア21が内部に収容されるとともに車軸22に形成される鍔部221が収容される凹状の収容部243が外部に形成されるギアケース24と、内部に車軸22が収容されるとともに一端がギアケース24に形成される収容部243を覆うように設けられる車軸ケース25とを有し、車軸22に設けられる鍔部221の外径は、ギアケース24に形成される収容部243の内径より小さく、車軸ケース25の内径より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハンドル形電動車いすなどの車両に関し、特に、駆動モータと、駆動輪と、駆動輪に駆動モータの動力を伝達する車軸(アクスルシャフト)を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンドル形電動車いすのような鞍乗型車両は、前輪操舵・後輪駆動の方式が一般的である。そして、このような鞍乗型車両は、駆動源としてのモータと、駆動輪としての後輪と、モータの回転動力を後輪に伝達するデファレンシャルギアを包含するリダクションアッシーとを有する。このような鞍乗型車両は、最高速度が低く抑えられているため、高級なサスペンションは必要ではない。このため、一般的には、リダクションアッシーは、車体フレームにリジットに懸架されるか、トレーリングリンクを用いる簡易なサスペンション機構により懸架される。
【0003】
このような鞍乗型車両においては、車軸(=アクスルシャフト)は、ベアリングなどの軸受によって回転可能に支持される。そして、車軸や軸受の軸線方向の移動は、サークリップなどの係止部材によって規制され、所定の位置から逸脱しないように保持される。しかしながら、このような構成においては、軸受や係止部材が破損すると、車軸が軸線方向に移動して、デファレンシャルギアからの駆動力が後輪に伝達されなくなる惧れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−281401号公報
【特許文献2】特開平6−81874号公報
【特許文献3】特許第3747547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、車軸を支持する軸受や、軸受を保持する係止部材(たとえば、サークリップなど)が破損などした場合であっても、車軸の移動を規制することができる鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、駆動源と、前記駆動源の回転動力が伝達されるリングギアと、前記リングギアに回転可能に支持される中間ピニオンと、前記中間ピニオンと噛み合うサイドギアをと含むデファレンシャルギアと、一端が前記サイドギアに結合されるとともに軸線方向の中間には半径方向外側に延出する鍔部が形成される車軸と、前記デファレンシャルギアが内部に収容されるとともに前記車軸に形成される鍔部が収容される凹状の収容部が外部に形成されるギアケースと、内部に前記車軸が収容されるとともに一端側が前記ギアケースに形成される収容部を覆うように設けられる車軸ケースとを有し、前記車軸に設けられる鍔部の外径は、前記ギアケースに形成される収容部の内径より小さく、前記車軸ケースの内径より大きいことを特徴とする。
【0007】
前記車軸の前記一端側は前記サイドギアに形成される軸孔に嵌め込まれるとともに、前記車軸の前記一端側の端面は前記サイドギアの端面から突出していないことを特徴とする。
【0008】
前記車軸に設けられる鍔部の他端側の端面と前記車軸ケースの一端側の端面との間の距離は、前記車軸と前記サイドギアとの係合部の軸線方向の長さよりも小さいことを特徴とする。
【0009】
前記車軸ケースの他端側に設けられ前記車軸の他端側を回転可能に支持する軸受をさらに備え、前記車軸に設けられる鍔部の他端側の端面と前記車軸ケースの一端側の端面との間の距離は、前記車軸ケースの他端側の端面と前記軸受の一端側の端面との間の距離よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
前記車軸に設けられる鍔部の駆動輪側の端面には、突起部が形成されることを特徴とする。
【0011】
前記車軸に設けられる鍔部は、前記車軸ケースよりも耐摩耗性が高いことを特徴とする。
【0012】
前記鍔部の他端側の端面は、前記車軸の半径方向の中心が前記他端側に突出する態様で前記車軸の中心に対して傾斜していることを特徴とする。
【0013】
前記車軸の鍔部の前記一端側に設けられるロータ部と前記ギアケースの前記収容部に設けられ前記ロータ部の回転を検出するセンサとを有する検出手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
前記ロータ部は、前記車軸の鍔部と別部材であることを特徴とする。
【0015】
前記ロータ部は、前記車軸に設けられる鍔部に一体に形成されることを特徴とする。
【0016】
前記検出手段は、前記センサと前記ロータ部との距離を検出することによって前記車軸の軸線方向の移動を検出することを特徴とする。
【0017】
前記検出手段が検出した前記車軸の軸線方向の移動が所定値以上である場合には、使用者または周囲の人間に対して異常の発生を報知する報知手段を更に備えることを特徴とする。
【0018】
前記検出手段が検出した前記車軸の軸線方向の移動が所定値以上である場合には、減速および停止を実行する制御手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軸受や軸受を保持する部材(たとえば、サークリップなど)が破損して車軸が軸線方向に移動した場合であっても、車軸に形成される鍔部が車軸ケースに接触してそれ以上の移動が規制される。このため、軸受や軸受を保持する部材などが破損した場合であっても、回転動力を駆動輪に伝達できる状態を維持できる。したがって、鞍乗型車両の安全性の向上を図ることができる。また、スナップリングなどの部材によって車軸の移動を規制する構成と比較すると、スナップリングの組み付けが省略できるから、部品点数や組み付け作業工数の削減を図ることができる。したがって、鞍乗型車両の生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両の右側面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両の上面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両の駆動モータとリダクションアッシーと後輪の外観斜視図であり、前方から見た図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両の駆動モータとリダクションアッシーの外観斜視図であり、後方から見た図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両のリダクションアッシーの断面図である。
【図6】図6は、車軸の構成を示す外観斜視図である。
【図7】図7は、車軸の構成を示す断面図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両のリダクションアッシーの断面図であり、図5の部分拡大図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両の報知手段の動作に関する部分のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両を、「本鞍乗型車両1」と称することがある。以下の説明においては、本鞍乗型車両1として、ハンドル形電動車いすを例に示す。
【0022】
まず、図1と図2を参照して、本鞍乗型車両1の全体構成を説明する。図1は、本鞍乗型車両1の構成を示す側面図である。図2は、本鞍乗型車両1の構成を示す上面図である。図1と図2に示すように、本鞍乗型車両1は、車体フレーム11と、左右の前輪12と、駆動輪としての左右の後輪13と、駆動源としてのモータ(以下、「駆動モータ14」と称する)と、駆動モータ14の回転動力を左右の後輪13に伝達するリダクションアッシー2と、フロア15と、着座シート16と、ハンドルユニット17と、前部カバー181と、後部カバー182と、フロントバスケット183とを含む。
【0023】
車体フレーム11は、本鞍乗型車両1の車体の骨格を構成する部材である。車体フレーム11には、左右の前輪12とリダクションアッシー2とが、サスペンションを介して取り付けられる。車体フレーム11は、前部カバー181と、後部カバー182と、フロア15とによって、ほぼ全体が覆われる。
【0024】
前部カバー181は、着座シート16の前方において上側に向かって突起する構造物であり、着座シート16に着座する使用者の足回りに風雨等が当たらないように保護する機能を有する。前部カバー181には、たとえば樹脂成形品が適用される。なお、ハンドル形電動車いすの技術分野においては、前部カバー181を「レッグシールド」と称することがある。前部カバー181の上方には、使用者が本鞍乗型車両1を操作するためのハンドルユニット17が設けられる。ハンドルユニット17は、フロントバスケット183と略同一の左右幅を有するハンドル本体171と、バックミラー175と、バックミラー175を支持するステー176とを有し、車体フレーム11に回転可能に支持される。ハンドル本体171の中央には、スイッチボックス172が設けられる。スイッチボックス172の上面には、本鞍乗型車両1の操作に使用するスイッチや表示装置などが設けられる。スイッチボックス172の側方であってハンドル本体171の内側には、本鞍乗型車両1の速度を制御するためのアクセルレバー173が設けられる。スイッチボックス172の前部には、本鞍乗型車両1を制動するためのブレーキレバー174が設けられる。さらに、ハンドルユニット17には、左右のバックミラー175が、ステー176を介して取り付けられる。前部カバー181の内部には、左右の前輪12を操舵するためのステアリングシャフト184が配設される。ステアリングシャフト184の上端は、ハンドルユニット17のハンドル本体171に連結される。
【0025】
後部カバー182は、車体フレーム11の後部の上側に設けられる部材であり、内部に空間を有する略箱状の構造を有する。後部カバー182には、たとえば樹脂成形品が適用できる。後部カバー182の内部には、バッテリー192と、充電器191と、コントロールユニット193と、駆動モータ14と、リダクションアッシー2と、その他の所定の装置や部材とが収容される。バッテリー192は、駆動モータ14やコントロールユニット193や灯火類198(たとえば、ヘッドライト194、テールライト、ウィンカ195など)に電力を供給する。充電器191は、外部から供給される電気をバッテリー192に充電する。コントロールユニット193は、本発明の制御手段として機能する。コントロールユニット193は、使用者によるアクセルレバー173の操作に応じて駆動モータ14を制御するほか、使用者のスイッチボックス172の操作に応じて、灯火類198やクラクション197(図略)を作動させる。また、コントロールユニット193は、検出手段31の出力に基づいて、所定の動作を実行する(後述)。
【0026】
後部カバー182の上側には、車体フレーム11から上側に向かって立ち上がるブラケット(図においては後部カバー182に隠れて見えない)を介して、使用者が着座する着座シート16が設けられる。着座シート16は、シートクッション161と、シートバック162(背もたれ)と、左右のアームレスト163とを有する。着座シート16は、後部カバー182上で水平方向に旋回可能である。なお、着座シート16の旋回角度は、前方を向く位置から左右に45°および90°などに設定される。そして、着座シート16の側方に設けられる操作レバーによって、着座シート16を旋回させることができる。アームレスト163は、それらの後端がシートバック162に対して回転可能に支持される。なお、アームレスト163の側面には、ウィンカ195が配設されてもよい。
【0027】
使用者は、着座シート16に着座し、ハンドルユニット17のハンドル本体171を把持するかまたは手を掛け、ハンドルユニット17に設けられるアクセルレバー173を操作することで、本鞍乗型車両1を走行させることができる。そして、アクセルレバー173の押し加減を調節することにより、本鞍乗型車両1の速度を調節でき、ブレーキレバー174を操作することにより、本鞍乗型車両1を制動できる。また、使用者は、スイッチボックス172に設けられるスイッチ類を操作することにより、灯火類198やクラクション197を作動させることができる。
【0028】
次に、本鞍乗型車両1の駆動部の構成について、図3〜図5を参照して説明する。図3と図4は、本鞍乗型車両1の駆動部の構成を示す外観斜視図であり、図3は前方から見た図、図4は後方から見た図である。図5は、本鞍乗型車両1の駆動部の構成を示した断面図である。図3〜図5に示すように、本鞍乗型車両1の駆動部は、駆動モータ14と、リダクションアッシー2と、左右の後輪13とを有する。駆動モータ14は、本鞍乗型車両1の推進駆動源となる。駆動モータ14には、公知の各種モータ(電動機)が適用できる。なお、駆動モータ14には、回転数を検出できる回転数検出手段32(図略)が設けられる。この回転数検出手段32には、ホールセンサやロータリーエンコーダなど、従来公知の各種回転数検出手段が適用できる。また、駆動モータ14の種類は特に限定されるものではない。左右の後輪13も、従来公知の鞍乗型車両の後輪と同じ構成が適用できる。
【0029】
リダクションアッシー2は、ギアケース24と、左右の車軸22と、左右の車軸ケース25とを含む。ギアケース24には、デファレンシャルギア21と、駆動モータ14の回転動力をデファレンシャルギア21に伝達するための歯車と、ブレーキ装置27とが組み付けられる。また、ギアケース24には、左右の検出手段31が設けられる。検出手段31は、車軸22の回転と、車軸22の軸線方向の移動を検出できる。そして、リダクションアッシー2は、トレーリングリンク281(「トレーリングアーム」と称することもある)と、ラテラルリンク282(「ラテラルロッド」と称することもある)とによって車体フレーム11に連結される。また、車体フレーム11とリダクションアッシー2との間には、バネやダンパなどを有する緩衝装置が設けられる(図略)。このような構成のリダクションアッシー2は、駆動モータ14の回転動力を、歯車と、デファレンシャルギア21と、左右の車軸22とを介して、左右の後輪13に伝達する。そして、後輪13の回転によって、本鞍乗型車両1が走行する。なお、説明の便宜上、車軸22および車軸ケース25については、ギアケース24側の端部を「一端」と称し、後輪13側の端部を「他端」と称する。
【0030】
ギアケース24は、右半体241と左半体242とからなる。そして、右半体241と左半体242との合せ面の内側に空間が形成され、この空間に、デファレンシャルギア21と、デファレンシャルギア21に駆動モータ14の回転動力を伝達する歯車が収容される。デファレンシャルギア21には、従来公知の一般的な構成が適用できる。簡単に説明すると次のとおりである。デファレンシャルギア21は、リングギア211と、枠体212と、複数の中間ピニオン213と、左右のサイドギア214とを有する。リングギア211には枠体212が取り付けられ、リングギア211と枠体212とが一体に回転する。複数の中間ピニオン213は、枠体212に回転可能に支持される。左右のサイドギア214は対向して配設される。そして、左右のサイドギア214は、それぞれ枠体212に回転可能に支持され、複数の中間ピニオン213に噛み合う。また、左右のサイドギア214には軸孔215が形成される。軸孔215は、車軸22の一端をはめ込むことが可能な貫通孔であり、その内周面にはセレーションが形成される。駆動モータ14の回転動力をデファレンシャルギア21に伝達する歯車には、駆動モータ14の回転軸に設けられる歯車に噛み合う被動歯車283と、デファレンシャルギア21のリングギア211に噛み合う駆動歯車284とが含まれる。そして、被動歯車283と駆動歯車284とは、共通の回転軸285に設けられ、一体に回転する。また、ギアケース24には、車軸22を制動するブレーキ装置27が設けられる。ブレーキ装置27は、ブレーキドラムまたはブレーキディスク272と、ブレーキドラムまたはブレーキディスク272を制動する機構273とを有する。ブレーキドラムまたはブレーキディスク272は、共通の回転軸285の端部に設けられる。ブレーキドラムまたはブレーキディスク272を制動する機構273は、ギアケース24に設けられる。そして、ブレーキ装置27は、共通の回転軸285を制動することにより、車軸22を制動する。
【0031】
また、右半体241と左半体242のそれぞれには、互いの合せ面の反対側の面に、収容部243が形成される。これらの収容部243は、車軸22に形成される鍔部221(後述)が収容される部分であり、内部が空洞で後輪13側に向かって開放する凹状の部分である。収容部243の底部には、貫通孔244が形成される。この貫通孔244は、車軸22の一端を挿通可能で、ギアケース24の外部と内部空間とを連通する。
【0032】
右半体241と左半体242のそれぞれには、車軸ケース25のそれぞれが固定される。車軸ケース25は、内部が空洞の筒状の部材である。車軸ケース25は、左右の収容部243のそれぞれを覆うように取り付けられる。換言すると、車軸ケース25は、それらの内部空間が、左右の収容部243のそれぞれの内部空間に連通するように取り付けられる。車軸ケース25の一端には、半径方向外側に延出するフランジ251が形成される。車軸ケース25は、このフランジ251を介して、ネジやボルトなどによって、右半体241と左半体242のそれぞれに固定される。また、車軸ケース25の他端の近傍には、軸受(この軸受を「他端側軸受502」と称する)の軸線方向の移動を規制するサークリップ503を係止可能な溝が形成される。さらに、車軸ケース25には、トレーリングリンク281が設けられる。そして、トレーリングリンク281の先端は、車体フレーム11に回転可能に取付けられる。
【0033】
収容部243と左右の車軸ケース25には、左右の車軸22のそれぞれが回転可能に収容される。具体的には、次のとおりである。図5に示すように、車軸22に形成される鍔部221が収容部243に収容される。車軸22の一端は、収容部243の底部に形成される貫通孔244を通過してギアケース24の内部空間に入り込んでおり、サイドギア214に形成される軸孔215に嵌まり込む。車軸22の一端にはセレーション223が形成される。そして、車軸22に形成されるセレーション223とサイドギア214の軸孔215に形成されるセレーションとにより、車軸22とサイドギア214とが結合して一体に回転する。左右のサイドギア214は、枠体212またはリングギア211に回転可能に支持される。枠体212およびリングギア211は、ベアリングなどの軸受(この軸受を「一端側軸受501」と称する)によってギアケース24に回転可能に支持される。したがって、車軸22の一端は、ギアケース24に回転可能に支持される。
【0034】
車軸22の鍔部221よりも他端側の部分は、車軸ケース25に収容される。車軸22の他端は、車軸ケース25の他端から突出している。車軸22の他端(=車軸ケース25から突出する部分)には、後輪13が取り付けられる。車軸ケース25の内部の他端近傍には、ベアリングなどの他端側軸受502が配設される。そして、車軸22の他端近傍は、他端側軸受502によって回転可能に支持される。車軸22の他端近傍には、半径方向外側に突起する係止部224が形成される。そして、この係止部224が他端側軸受502の一端側の端面に係合する。また、車軸ケース25の内部には、サークリップ503が設けられる。そして、このサークリップ503が、他端側軸受502の他端側の端面に係合する。このような構成であると、サークリップ503により、他端側軸受502が他端側に移動することが防止される。なお、サークリップ503が配設されない構成であってもよい。
【0035】
ここで、車軸22の構成を、図6と図7を参照して説明する。図6は、車軸22の構成を示す外観斜視図である。図7は、車軸22に形成される鍔部221およびその近傍の断面図である。図6と図7に示すように、車軸22の軸線方向の中間位置には、半径方向の外側に延出する鍔部221が形成される。鍔部221の外径Aは、ギアケース24の右半体241と左半体242に形成される収容部243の内径Fより小さく、車軸ケース25の内径Bより大きい。鍔部221の他端側の端面は、車軸22の半径方向の中心が一端側に突起するような態様で、車軸22の中心線に対して所定の角度αをもって傾斜している。換言すると、鍔部221の他端側の端面は、半径方向の中心に向かうにしたがって他端側(後輪13が取り付けられる側)に接近し、半径方向の外側に向かうにしたがって一端側(サイドギア214に嵌まり込む側)に接近する。たとえば、鍔部221は、略円錐形状を有し、円錐の頂点が他端側を向き、円錐の底面が一端側を向くように形成される。さらに、鍔部221の他端側の端面(=駆動輪としての後輪13側の端面)には、突起部222が、円周方向に沿って並べられるように形成される。突起部222は、半径方向に延伸する凸状の構成を有する。突起部222の稜線も、車軸22の中心線に対して所定の角度βをもって傾斜している。具体的には、突起部222の稜線は、鍔部221の他端側の面と同様に、半径方向内側に向かうにしたがって他端側に接近し、半径方向外側に向かうにしたがって一端側に接近する。なお、これらの所定の角度α,βは、直角でなければよく、特に限定されるものではない。
【0036】
鍔部221および鍔部221に設けられる突起部222は、車軸ケース25よりも硬く高い耐摩耗性を有する。たとえば、車軸22が鉄系の材料などといった焼入れ可能な材料により形成される場合には、鍔部221および鍔部221に設けられる突起部222に焼入れ処理を施すことにより硬度を高め、車軸ケース25よりも硬くして耐摩耗性を高くするという構成が適用できる。なお、突起部222の寸法、形状および数は特に限定されるものではない。また、鍔部221の一端側には、ロータ部312が設けられる。ロータ部312は、検出手段31の一部として機能する部分である。ロータ部312の構成については後述する。
【0037】
車軸22の一端には、セレーション223が形成される。このセレーション223は、サイドギア214の軸孔215に形成されるセレーションに係合可能な構成を有する。一方、車軸22の他端近傍には、半径方向外側に向かって突起する係止部224が形成される。この係止部224は、他端側軸受502の一端側の面に係止可能な部分である。
【0038】
次に、車軸22とギアケース24と車軸ケース25とデファレンシャルギア21との関係について、図8を参照して説明する。図8は、図5の部分拡大図であり、車軸22およびその近傍を抜き出して示す図である。図8に示すように、車軸22の鍔部221は、ギアケース24に形成される収容部243の内部に収容される。車軸22の鍔部221の外径Aは、収容部243の内径Fよりも小さい。このため、車軸22の鍔部221は収容部243の内周面に接触しない。一方、車軸22の鍔部221の外径Aは、車軸ケース25の内径Bよりも大きい。すなわち、車軸22の鍔部221は、車軸ケース25の内部に入り込むことができない(=車軸ケース25の内部を通過することができない)。また、鍔部221の他端側の端面と、車軸ケース25の一端側の端面とは、所定の距離Cをもって離れている。このため、正常な状態においては、車軸22の鍔部221および鍔部221に形成される突起部222は、車軸ケース25の一端側の端面に接触しない。車軸22が他端側に向かって移動すると、車軸22の鍔部221または鍔部221に形成される突起部222が車軸ケース25の一端側の端面に接触する。そして、鍔部221は車軸ケース25の内部に入り込めないから、車軸22は、鍔部221が車軸ケース25の一端側の端面に接触した位置からは、他端側(=後輪13の側)に移動できない。このように、鍔部221によって、車軸22が他端側に移動することが防止される。なお、所定の距離Cの具体的な値は特に限定されるものではない。この所定の距離Cは、車軸22の鍔部221および鍔部221に設けられる突起部222が車軸ケース25の一端に接触しない状態に維持できる距離であればよい。なお、本発明の実施形態においては、車軸22が他端側に移動して、鍔部221または鍔部221に設けられる突起部222が車軸ケース25の一端に接触している状態を、「異常」と称する。
【0039】
図8に示すように、車軸22の一端は、サイドギア214に形成される軸孔215に嵌まり込んでいる。ただし、車軸22の一端は、サイドギア214に形成される軸孔215から突出していない。すなわち、車軸22の一端は、サイドギア214の一端側の端面よりも他端側であって、サイドギア214の厚さ方向の中間に位置する。車軸22の一端がサイドギア214に形成される軸孔215から突出しない構成であると、左右のサイドギア214どうしを接近させても、左右の車軸22の一端どうしが接触しない。このため、左右のサイドギア214どうしの間の距離を小さくすることができ、デファレンシャルギア21の左右方向寸法を小さくすることができる。したがって、デファレンシャルギア21の小型化を図ることができる。
【0040】
車軸22の鍔部221の他端側の端面と車軸ケース25の一端側の端面との間の距離Cは、車軸22の一端とサイドギア214の軸孔215とが係合している部分(この部分を「係合部504」と称する)の軸線方向の寸法Dよりも小さい。このような構成であると、車軸22が他端側に移動して異常な状態になっても(すなわち、鍔部221または鍔部221に設けられる突起部222が、車軸ケース25の一端側の端面に接触した状態となっても)、車軸22の一端はサイドギア214の軸孔215から抜け出ていない状態に維持される。同様に、車軸22の鍔部221の他端側の端面と車軸ケース25の一端側の端面との間の距離Cは、車軸ケース25の他端から他端側軸受502の一端側の端面までの距離Eよりも小さい。このような構成であると、車軸22が他端側に移動して異常な状態になっても、他端側軸受502は車軸ケース25から抜け出ていない状態に維持される。このように、異常な状態になっても、車軸22の両端がギアケース24と車軸ケース25に回転可能に支持される状態に維持される。すなわち、鍔部221によって、車軸22が他端側に移動することが防止されるとともに、車軸22の両端が回転可能に支持される状態に維持される。したがって、本鞍乗型車両1は安全に走行可能な状態に維持される。さらに、このような構成によれば、車軸22をサイドギア214の軸孔215の内側に突出させて突出部に係止用スナップリングを配設することなく、車軸22の移動が規制されるから、スナップリングが不要になる。このため、部品点数と組立工数の削減を図ることができる。したがって、本鞍乗型車両1の生産性の向上を図ることができる。
【0041】
また、車軸22の鍔部221に突起部222が形成される構成であるため、鍔部221が車軸ケース25の一端側の端面に接触している状態で車軸22が回転すると、突起部222が車軸ケース25に接触して断続的な接触音が発生する。このため、本鞍乗型車両1は、断続音を発することによって、使用者や周囲の人間に対して異常の発生を報知できる。
【0042】
鍔部221および鍔部221に設けられる突起部222が車軸ケース25よりも硬く耐摩耗性が高いと、鍔部221および突起部222が車軸ケース25に接触した場合には、車軸ケース25が摩耗する。そして、車軸ケース25の摩耗が進行すると、鍔部221および鍔部221に設けられる突起部222と車軸ケース25との接触面積が増加していくため、車軸22の回転抵抗が増加していく。したがって、本鞍乗型車両1は、車軸22の接触面圧が下がり、車軸ケース25の摩耗の進行を遅らせることができる。
【0043】
また、鍔部221の他端側の端面および突起部222の稜線が、車軸22の中心線に対して直角ではなく傾斜している。このような構成であると、車軸22が他端側に移動して鍔部221および鍔部221に設けられる突起部222が車軸ケース25に接触した場合には、鍔部221および鍔部221に設けられる突起部222と車軸ケース25の一端側の端面との接触面積は、最初は小さく、車軸ケース25の摩耗が進行するにしたがって大きくなっていく。そして、接触面積が大きくなるにしたがって、車軸22の回転抵抗が大きくなる。このように、本鞍乗型車両1は、車軸22の接触面圧が下がり、車軸ケース25の摩耗の進行を遅らせることができる。
【0044】
次に、検出手段31の構成を、図7と図8を参照して説明する。検出手段31は、車軸22の回転と、車軸22の他端側への移動とを検出できる。図7と図8に示すように、検出手段31は、ホールセンサ311とロータ部312とを有する。ホールセンサ311は、ギアケース24の収容部243に設けられる。ホールセンサ311は、磁界の強さの変化を検出することができる。なお、ホールセンサ311には、従来公知の各種ホールセンサ(たとえば、ホール素子やホールIC)が適用される。ロータ部312は、車軸22と一体に回転する略円板状の部分であり、鍔部221の一端側に設けられる。ロータ部312は鉄などの強磁性材料からなり、その端面には複数の開口(凹部または貫通孔など)が、円周方向に沿って配列されるように形成される。なお、ホールセンサ311およびロータ部312には、従来公知の構成が適用できる。そして、ホールセンサ311は、ロータ部312の一端側の端面の近傍に、当該端面から所定の距離をおいて近接して設けられる。ロータ部312に形成される開口とそれ以外の部分とでは磁界が異なるため、ロータ部312が回転すると、ホールセンサ311は磁界の強弱を検出できる。このような構成によって、検出手段31は車軸22の回転を検出できる。また、車軸22が他端側に移動すると、ホールセンサ311とロータ部312との距離が大きくなり、ホールセンサ311により検出される磁界が弱くなる。このように、検出部31は、ホールセンサ311がロータ部312の磁界の大きさを検出することにより(または、ロータ部312の磁界を検出できなくなることにより)、ホールセンサ311とロータ部312との距離を検出できる。したがって、検出手段31は、この距離を検出することにより、車軸22の他端側への移動を検出できる。
【0045】
ロータ部312は、車軸22と別部材が車軸22に取り付けられる構成が適用できる。たとえば、端面に開口が形成される円板が、車軸22に取り付けられる構成が適用できる。ロータ部312が車軸22と別部材である場合には、ロータ部312に既存の部材が適用できる。このため、車軸22への加工を少なくすることができる。したがって、本鞍乗型車両1の生産性の向上を図ることができる。また、ロータ部312は、車軸22の鍔部221に一体に形成される構成であってもよい。たとえば、鍔部221の一端側に、ロータ部312として半径方向外側に延出するフランジ状の構造物が鍔部221に一体に形成される構成が適用できる。また、鍔部221の一端側の端面に開口を形成することによって、鍔部221の本体をロータ部312として用いる構成が適用できる。ロータ部312が車軸22の鍔部221に一体に形成される構成であると、ロータ部312を別に形成する構成と比較して、車軸22の軸線方向長さを短くできる。したがって、リダクションアッシー2の小型化や軽量化を図ることができる。
【0046】
次に、本鞍乗型車両1の動作を、図9を参照して説明する。図9は、本鞍乗型車両1の構成を示したブロック図である。図9に示すように、本鞍乗型車両1は、コントロールユニット193と、駆動回路196と、バッテリー192と、駆動モータ14と、左右の車軸22のそれぞれに設けられる検出手段31(=検出手段(右)と検出手段(左))と、左右の後輪13と、アクセルレバー173と、スイッチボックス172と、報知手段199とを有する。本鞍乗型車両1においては、灯火類198とクラクション197とが報知手段199として機能する。とコントロールユニット193は、本発明の制御手段として機能する。コントロールユニット193(制御手段)は、たとえば、本鞍乗型車両1の動作の設定や動作させるためのソフトウェア(コンピュータプログラム)が格納されるメモリと、メモリに格納されるソフトウェアを読み出して実行するCPUとを備える。駆動回路196は、コントロールユニット193の制御にしたがって、バッテリー192の電力を駆動モータ14に供給して駆動モータ14を駆動する。したがって、使用者がアクセルレバー173を操作すると、コントロールユニット193はアクセルレバー173の操作量に応じて駆動回路196を制御し、本鞍乗型車両1が走行する。コントロールユニット193は、使用者によるスイッチボックス172の操作にしたがって、灯火類198を点灯させたり、クラクション197を鳴動させたりする。また、コントロールユニット193は、左右の検出手段31が検出する左右の車軸22の回転数と、駆動モータ14の回転数検出手段32が検出する駆動モータ14の回転数とに基づいて、後輪13が正常に回転しているかを検出する。さらに、コントロールユニット193は、検出手段31の出力に基づいて異常が発生しているかまたは異常が発生するおそれがあるかを判断する。そして、コントロールユニット193は、異常が発生しているかまたは異常が発生するおそれがある場合には、報知手段199を作動させて、使用者や周囲の人々に異常が発生しているかまたは異常が発生するおそれがあることを報知する。
【0047】
検出手段31としてのロータ部312が車軸22の鍔部221の近傍に設けられ、ホールセンサ311がギアケース24の内部空間に設けられる構成であると、検出手段31によって後輪13の回転の検出を簡単に実施できる。そして、コントロールユニット193は、検出手段31により検出される後輪13の回転数と、回転数検出手段32により検出される駆動モータ14の回転数との差を算出することにより、後輪13が正常に回転しているかを検出することができる。具体的には、次のとおりである。駆動モータ14の回転動力は、デファレンシャルギア21を介して左右の後輪13に伝達されるため、駆動モータ14の回転数と、左右の後輪13の回転数との関係は一定ではない。このため、駆動モータ14に設けられる回転数検出手段32の出力と、左右の検出手段31の出力とは同期しない。そこで、駆動モータ14の回転の周期(T0)と、左右の後輪13の一方の回転の周期(T1)と他方の回転の周期(T2)と差に所定の閾値(ΔT)を設定する。そして、駆動モータ14の回転の周期(T0)と、左右の後輪13の回転の周期(T1),(T2)との差が所定の閾値(ΔT)を超えた場合には、後輪13が正常に回転していないとみなす。具体的には、駆動モータ14の回転の周期(T0)と、左右の後輪13の回転の周期(T1),(T2)と、所定の閾値(ΔT)との関係が、

T1<(T0−ΔT)

または、

(T0+ΔT)<T2

となった場合に、コントロールユニット193は、後輪13が正常に回転していないとみなす。なお、所定の閾値(ΔT)の具体的な値は特に限定されるものではない。この所定の閾値(ΔT)は、本鞍乗型車両1が旋回する場合における左右の後輪13の回転数の差などに応じて、適宜設定される。
【0048】
さらに、コントロールユニット193は、左右の検出手段31の出力に基づいて、左右の車軸22が他端側に移動していないかを検出する。車軸22が他端側に移動すると、検出手段31としてのホールセンサ311の出力が小さくなる。そこで、検出手段31としてのホールセンサ311の出力に所定の閾値を設定する。そして、検出手段31としてのホールセンサ311の出力がこの閾値よりも小さくなった場合には、コントロールユニット193は、車軸22の移動量が所定値以上になったと判断し、鍔部221もしくは鍔部221に設けられる突起部222が車軸ケース25に接触しているか、接触するおそれがあると判断する。すなわち、コントロールユニット193は、検出手段31の出力に基づいて、車軸22の移動量が所定の値以上であるか否かを判断し、所定値以上である場合には、車軸22に異常が発生したか、または異常が発生するおそれがあると判断する。なお、この所定値の具体的な値は特に限定されるものではない。この所定値は、車軸22がそれ以上他端側に移動した場合には車軸ケース25の端面に接触するか、または接触するおそれがある距離である。この所定値は、正常な状態における車軸22の鍔部221と車軸ケース25の端面との間の距離Cなどに基づいて、適宜設定される。
【0049】
そして、コントロールユニット193は、異常が発生したと判断した場合、または異常が発生するおそれがあると判断した場合には、報知手段199を作動させる。報知手段199は、使用者および周辺の人間に対して、異常が発生したこと、または異常が発生するおそれがあることを報知する。具体的には、コントロールユニット193は、使用者によるスイッチボックス172やアクセルレバー173の操作よりも優先して、(1)報知手段199としての灯火類198を点灯や点滅させる、(2)報知手段199としてのクラクション197を鳴動させる、(3)本鞍乗型車両1を減速させて停止させる、という動作のいずれかまたは全部を実行する。なお、コントロールユニット193が、(1)〜(3)のいずれの動作を実行するかは、あらかじめ使用者などによって設定される構成が適用できる。コントロールユニット193が、前記(1)(2)の動作を実行する構成であれば、本鞍乗型車両1の使用者および周囲の人間に、本鞍乗型車両1に異常が生じたことまたは異常が生じるおそれがあることを報知できる。したがって、たとえば使用者は、本鞍乗型車両1を停止させるなどできる。コントロールユニット193が前記(3)の動作を実行する構成であれば、本鞍乗型車両1が減速して停止するため、使用者や周囲の人間の安全を確保できる。
【0050】
本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両の作用効果をまとめると、次のとおりである。
【0051】
車軸22が他端側に移動して異常が発生した場合であっても、車軸22に設けられる鍔部221が車軸ケース25に接触することによって、車軸22の移動が規制される。すなわち、鍔部221の外径Aは車軸ケース25の内径Bよりも大きいから、車軸22は、他端側に移動して鍔部221が車軸ケース25の一端側の端面に接触すると、それ以上は他端側に移動できない。また、このような構成であれば、スナップリングなどといった、他端側軸受502を係止する部材を省略できる。このため、スナップリングを嵌合させて車軸22をサイドギア214の内側で保持する構成と比較すると、部品点数と組立工数の削減を図ることができる。したがって、本鞍乗型車両1の生産性の向上を図ることができる。
【0052】
車軸22の一端側の端部は、デファレンシャルギア21のサイドギア214に形成される軸孔215に嵌め込まれている。そして、車軸22の一端側の端部は、サイドギア214に形成される軸孔215から突出していない。このため、デファレンシャルギア21のサイドギア214どうしを接近させても、車軸22どうしが干渉しない。したがって、サイドギア214どうしを接近し配設することにより、デファレンシャルギア21の小型化を図ることができる。
【0053】
車軸22に形成される鍔部221の他端側の端面と、車軸ケース25の一端側の端面との間の距離Cは、車軸22とサイドギア214のセレーションとの係合部504の軸線方向寸法Dよりも短い。なお、係合部504とは、車軸22の外周面とサイドギア214の軸孔215の内周面とが接触している部分であり、車軸22の一端のうち、サイドギア214の軸孔215に嵌まり込んでいる部分をいう。また、この距離Cは、車軸ケース25の他端側の端部から他端側軸受502の一端側の端面までの距離Eよりも短い。したがって、車軸22が他端側に移動した場合であっても、車軸22に形成される鍔部221が車軸ケース25の一端側の端面に接触するため、車軸22がサイドギア214から抜けない。同様に、他端側軸受502は車軸ケース25に保持される。このように、車軸22に形成される鍔部221によって、車軸22の一端がサイドギア214の軸孔215から抜けることが防止され、他端側軸受502が車軸ケース25に保持される。このため、車軸22の両端がギアケース24と車軸ケース25に回転可能に支持される状態に維持される。したがって、車軸22が他端側に移動した場合であっても、本鞍乗型車両1は走行能力を喪失しない。
【0054】
鍔部221の他端側の端面に突起部222が形成される構成であると、突起部222が車軸ケース25の一端側の端面に接触した状態で回転した場合に、断続的な接触音(または打音)が発生する。このため、本鞍乗型車両1は、この接触音の発生によって、使用者や周囲の人間に対して、異常の発生を報知できる。
【0055】
突起部222が車軸ケース25よりも硬く耐摩耗性が高い構成であると、突起部222が車軸ケース25に接触した場合には、車軸ケース25が摩耗する。そして、車軸ケース25の摩耗が進行すると、鍔部221と車軸ケース25との接触面積が増加し、車軸22の回転抵抗が増加する。このように、本鞍乗型車両1は、車軸22の接触面圧が下がり、車軸ケース25の摩耗の進行を遅らせることができる。
【0056】
鍔部221の他端側の端面が略円錐形状に形成されるとともに、突起部222の稜線が車軸22の中心線に対して傾斜している構成であると、鍔部221と車軸ケース25との接触面積は、最初は小さく、車軸ケース25の摩耗が進行するにしたがって徐々に大きくなっていく。このため、鍔部221と車軸ケース25との接触面圧が下がり、車軸ケース25の摩耗の進行を遅らせることができる。
【0057】
検出手段31として、車軸22の鍔部221の近傍に設けられるロータ部312と、ギアケース24の収容部243に設けられるホールセンサ311とを含む構成であると、後輪13の回転を簡単に検出することができる。そして、コントロールユニット193は、検出手段31により検出される後輪13の回転数と、駆動モータ14の回転数との差を算出することにより、後輪13が正常に回転しているかを検出することができる。そして、ロータ部312と車軸22とが別部材であると、ロータ部312に既存の部材が適用できる。したがって、車軸22への加工を少なくすることができ、生産性の向上を図ることができる。一方、ロータ部312が車軸22に一体に形成される構成であると、ロータ部312が別部材である構成に比較して、車軸22の軸線方向寸法を短くできる。したがって、リダクションアッシー2の小型化や軽量化を図ることができる。
【0058】
また、コントロールユニット193は、検出手段31の出力に基づいて、車軸22の軸線方向の移動を検出することができる。
【0059】
コントロールユニット193は、異常が発生したと判断した場合や、異常の発生のおそれがあると判断した場合には、報知手段199を作動させて、使用者や周囲の人間に対して異常の発生や異常の発生のおそれを報知する。このような構成であると、本鞍乗型車両1の安全性の向上を図ることができる。さらに、コントロールユニット193は、異常が発生した場合や異常が発生するおそれがあると判断した場合に、本鞍乗型車両1の減速および停止を実行する。このような構成であると、異常発生時に本鞍乗型車両1を安全に停止させることができる。したがって、本鞍乗型車両1の安全性の向上を図ることができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能である。たとえば、前記実施形態においては、鞍乗型車両としてハンドル形電動車いすを示したが、本発明が適用できる車両はハンドル形電動車いすに限定されるものではない。駆動モータと、左右一対の駆動輪と、駆動モータの回転動力を駆動輪に伝達する左右一対の車軸と、車軸を収容する車軸ケースとを備える車両であれば、種類にかかわらず適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、鞍乗型車両に好適な技術である。特に、鞍乗型車両の車軸の支持構造に関する技術である。
【符号の説明】
【0062】
1:本発明の実施形態にかかる鞍乗型車両、13:後輪、14:駆動モータ、193:コントロールユニット、194:ヘッドライト、195:ウィンカ、196:駆動回路、197:クラクション、198:灯火類、199:報知手段、2:リダクションアッシー、21:デファレンシャルギア、211:リングギア、212:枠体、213:中間ピニオン、214:サイドギア、215:サイドギアの軸孔、22:車軸、221:鍔部、222:突起部、223:セレーション、224:係止部、24:ギアケース、241:右半体、242:左半体、243:収容部、244:貫通孔、25:車軸ケース、31:検出手段、311:ホールセンサ、312:ロータ部、32:回転数検出手段、501:一端側軸受、502:他端側軸受、503:サークリップ、504:係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源の回転動力が伝達されるリングギアと、前記リングギアに回転可能に支持される中間ピニオンと、前記中間ピニオンと噛み合うサイドギアをと含むデファレンシャルギアと、
一端が前記サイドギアに結合されるとともに軸線方向の中間には半径方向外側に延出する鍔部が形成される車軸と、
前記デファレンシャルギアが内部に収容されるとともに前記車軸に形成される鍔部が収容される凹状の収容部が外部に形成されるギアケースと、
内部に前記車軸が収容されるとともに一端側が前記ギアケースに形成される収容部を覆うように設けられる車軸ケースと、
を有し、
前記車軸に設けられる鍔部の外径は、前記ギアケースに形成される収容部の内径より小さく、前記車軸ケースの内径より大きいことを特徴とする車両。
【請求項2】
前記車軸の前記一端側は前記サイドギアに形成される軸孔に嵌め込まれるとともに、前記車軸の前記一端側の端面は前記サイドギアの端面から突出していないことを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車軸に設けられる鍔部の他端側の端面と前記車軸ケースの一端側の端面との間の距離は、前記車軸と前記サイドギアとの係合部の軸線方向の長さよりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
前記車軸ケースの他端側に設けられ前記車軸の他端側を回転可能に支持する軸受をさらに備え、
前記車軸に設けられる鍔部の他端側の端面と前記車軸ケースの一端側の端面との間の距離は、前記車軸ケースの他端側の端面と前記軸受の一端側の端面との間の距離よりも小さいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
前記車軸に設けられる鍔部の駆動輪側の端面には、突起部が形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
前記車軸に設けられる鍔部は、前記車軸ケースよりも耐摩耗性が高いことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
前記鍔部の他端側の端面は、前記車軸の半径方向の中心が前記他端側に突出する態様で前記車軸の中心に対して傾斜していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両。
【請求項8】
前記車軸の鍔部の前記一端側に設けられるロータ部と前記ギアケースの前記収容部に設けられ前記ロータ部の回転を検出するセンサとを有する検出手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の車両。
【請求項9】
前記ロータ部は、前記車軸の鍔部と別部材であることを特徴とする請求項8に記載の車両。
【請求項10】
前記ロータ部は、前記車軸に設けられる鍔部に一体に形成されることを特徴とする請求項8に記載の車両。
【請求項11】
前記検出手段は、前記センサと前記ロータ部との距離を検出することによって前記車軸の軸線方向の移動を検出することを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の車両。
【請求項12】
前記検出手段が検出した前記車軸の軸線方向の移動が所定値以上である場合には、使用者または周囲の人間に対して異常の発生を報知する報知手段を更に備えることを特徴とする請求項11に記載の車両。
【請求項13】
前記検出手段が検出した前記車軸の軸線方向の移動が所定値以上である場合には、減速および停止を実行する制御手段を更に備えることを特徴とする請求項11または12に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−232637(P2012−232637A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101391(P2011−101391)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】