説明

車体下部構造

【課題】燃料電池スタックを車両の床下に収容する車体下部構造において、車体フロアの変形を低減することができる車体下部構造を提供する。
【解決手段】車体フロア1は、フロアパネル10と、車両中央を貫くセンタートンネル11と、センタートンネルに交差するように接続されたフロントクロスメンバー14及びリアクロスメンバー13と、燃料電池スタック搭載部30と、車両両側に設けられたロッカー12と、二つのクロスメンバ13,14に接続されているフロント側シートのロアレール17と、二本のロアレール17に接続されたクロスレール18と、クロスレール18とフロアパネル10とを接続するテンションワイヤ21(片側3本)と、スリットプラグ15,16,22,23と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックを車両の床下に収容する車体下部構造に関し、特に、衝突を考慮した車体下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両の衝突安全に関して様々な技術が開発されおり、例えば、特許文献1には、車体フロアの下方側に床下収納スペースを確保することができ、側面衝突時には車体フロアを車両上方側へ凸となるように変形モードをコントロールすることで床下収納スペースに収納した部品などの保護を図る技術が開示されている。
【0003】
燃料電池車両では、車両室内を狭めることなく燃料電池を配置したものが種々提案されており、燃料電池スタック、水素タンク又は水素吸収合金タンク、燃料電池補機類及びバッテリユニットを車室床下に配置したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−125974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8は従来の燃料電池車における車体フロア40の構造を示している。図示しない前輪と後輪の間の床下に燃料電池などを配置した場合、センタートンネル11と搭載された燃料電池スタック20の上面のフロアパネル10は連続的につながることになる。図8に示すように、前突入に対し、センタートンネル11の縦壁部分は、クロスメンバ(14,13)等により変形入力を阻止する補強材があるが、センタートンネル11上面には補強がないため、図8のA−A断面図に示すように、燃料電池スタックのケース上面までフロア面の変形が及び、その変形がケース上面を変形させ、ケース内の燃料電池セル等が損傷し、短絡、冷却水もれ、水素もれ等の水素・高電圧安全に影響を与える可能性ある。
【0006】
一般的に燃料電池車のボデー構造は、前後衝突、側衝突によりボデーに加わる衝突荷重には積極的に行われているが、これらの衝突時に発生する変形につられて、平面剛性が弱いセンタートンネル11の変形及び燃料電池近傍の変形にはさほど注意がはらわれていなかった。また、燃料電池スタック20の各面は面積が広いにもかかわらず、平面構造であることから補強スペースが少なく、剛性が低く、変形侵入が容易であった。
【0007】
このように、燃料電池を床下搭載する場合、衝突により燃料電池上面のフロアパネル10が変形することに起因し、燃料電池スタック20が変形、内部で短絡等が発生する問題がある。そこで、本発明では、燃料電池スタックを車両の床下に収容する車体下部構造において、フロアパネル10の変形を低減することができる車体下部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る車体下部構造は、燃料電池スタックを車両の床下に収容する車体下部構造において、車体中央を貫くセンタートンネルと交差する位置にトンネル幅を広げるように形成された床下空間に燃料電池スタックを収容する燃料電池スタック収容部と、燃料電池スタック収容部の車両方向前後側に設けられたクロスメンバーと、シートが取り付けられたアッパーレールを前後方向へ摺動自在に係合すると共に車体フロアのクロスメンバーに固定されたロアーレールと、を有し、センタートンネルと燃料電池スタック収容部との交差部にフロア変形伝播防止のための緩衝スリットを設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る車体下部構造において、燃料電池スタック収容部上面の車体フロアとロアーレールとを接続するテンション部材が設けられ、緩衝スリットには、所定の厚さを有する弾性体で形成されたプラグがはめ込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車体下部構造を用いることにより、燃料電池スタックを床下に搭載した燃料電池車両の衝突時における車体フロアの変形に起因する燃料電池スタックの破壊を低減することが可能となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る車体フロアの構造を示した斜視図である。
【図2】本実施形態における車体フロアを車体上側から見た平面図である。
【図3】本実施形態における緩衝スリットの形状を説明する説明図である。
【図4】本実施形態における車体フロアのA−A断面を示した断面図である。
【図5】本実施形態における車体フロアのB−B断面を示した断面図である。
【図6】本実施形態におけるシートのクロスレールとフロアパネルとの変形を説明する説明図である。
【図7】本実施形態における車体フロアのパネルカバーを説明する説明図である。
【図8】従来の燃料電池車における車体フロア構造を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0013】
図1は車体フロア1の構造を示している。車体フロア1は、フロアパネル10と、車両中央を貫くセンタートンネル11と、センタートンネル11に交差するように接続されたフロントクロスメンバー14及びリアクロスメンバー13と、センタートンネル11を車幅方向に広げるようにして形成された凸形状の燃料電池スタック搭載部30と、車両両側に設けられたロッカー12と、二つのクロスメンバに接続されているフロント側シートのロアーレール17と、二本のロアーレール17に接続されたクロスレール18と、クロスレール18とフロアパネル10とを接続するテンションワイヤ21(片側3本)と、スリットプラグ15,16,22,23と、を有している。なお、燃料電池スタック20は床下方向から燃料電池スタック搭載部30に収容されている。
【0014】
図2は車体フロア1を車体上側から見た平面図である。なお、説明のため右フロント側のシート25のみ表示し、左フロントのシートは省略している。図中、燃料電池スタック20の近傍には、センタートンネル11の前後のスロットプラグ15,16及びロッカー12近傍にスロットプラグ22,23を設けている。二つのクロスメンバ13,14に固定されたロアーレール17に接続したクロスレールに3本のテンションワイヤ21を設けている。
【0015】
本発明において特徴的な二つの事項は、燃料電池スタック前後のフロアパネル10に変形伝達を防止又は緩衝する緩衝スリット及びスリットプラグ15,16を設けたことと、燃料電池スタック上面のフロアパネル10が燃料電池スタック側に変形することを防止する複数のテンションワイヤ21を設けたことである。
【0016】
最初に、スリットプラグ15,16,22,23について説明する。スリットプラグは、燃料電池スタック手前のフロアパネル10に変形伝播の防止用に緩衝スリットを設け、さらに、例えば、数cmの厚みを有する弾性体(ポリイソブチレン・ゴム)等のプラグを設けている。この緩衝スリット及びスリットプラグにより、スタック上面のフロアの変形が抑制可能となる。
【0017】
図3は緩衝スリットの形状と配置位置を示している。緩衝スリットは、センタートンネル11と、ロッカー12近傍に設けている。緩衝スリットの幅(a)はフロア剛性に影響がないトンネル幅(b)の60%以下が最も望ましいが、変形抑制効果としては、幅が広いほど良く、フロア剛性と変形抑制の効果の損得関係を実験によって求めて形状と配置位置を決定した。また、緩衝スリット高さ(c)は侵入変形を吸収できる距離が必要であり、実験の結果から例えば数cmから10cm程度が好適であった。
【0018】
図4は図2における車体フロア1のA−A断面を示し、図5は図2における車体フロアのB−B断面を示している。なお、図6は図4のP部の拡大した図である。図4においてシート25を固定するロアーレール17はフロントクロスメンバー14とリアクロスメンバー13とに接続され、クロスメンバーを補強している。ロアーレール17の中央部にはテンションワイヤ21が設けられ、フロアパネル10と結合されている。また、図5に示すようにシート25のロアーレール17は車両側面のロッカー12近傍のフロアパネル10に接続されている。
【0019】
図5のロアーレール17の中央部に接続されているクロスレール18は、ロアーレール17の下部2カ所とクロスレール18の下部1カ所の合計3カ所で燃料電池スタック20の上面のフロアパネル10と結合されている。。
【0020】
図6は図4のP部を拡大したものであり、シートのクロスレール18とフロアパネル10との変形を示している。図6の(A)では、テンションワイヤー21に引張り力が働いた場合であり、フロアパネルが燃料電池スタック20側へ変形することをテンションワイヤー21の引張り力により抑制できる。また、図6の(B)では、クロスレール18が変形をした場合には、テンションワイヤ21がたるむことでクロスレール18の変形がフロアパネル10に入力されない。
【0021】
図7は車体フロア1のパネルカバー31を示している。燃料電池スタック20のフロア上面が変形すると、燃料電池スタックケースに干渉することになる、特にケース内の最弱部位であるスタックエンドプレートターミナル32の突起部に当たる可能性があり、短絡の可能性が高い。そこで、D−D断面図に示すように突起部に当たる部分のフロア上面に穴をあけ、フロア上面が変形侵入しないようにすると共に、絶縁部材を配置して短絡を防いでいる。なお、穴をあける位置は燃料電池スタック内部の部品配置によっても変わるので、基本は、ケース上面に最も近接している部品の上面部が好適である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係る車体下部構造は、燃料電池車両の衝突時における車体フロアの変形を低減することにより燃料電池スタックの損傷を低減する構造であり、燃料電池車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 車体フロア、10,40 フロアパネル、11 センタートンネル、12 ロッカー、13 リアクロスメンバー、14 フロントクロスメンバー、15,16,22,23 スリットプラグ、17 ロアーレール、18 クロスレール、20 燃料電池スタック、21 テンションワイヤ、25 シート、30 燃料電池スタック搭載部、31 パネルカバー、32 エンドプレートターミナル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックを車両の床下に収容する車体下部構造において、
車体中央を貫くセンタートンネルと交差する位置にトンネル幅を広げるように形成された床下空間に燃料電池スタックを収容する燃料電池スタック収容部と、
燃料電池スタック収容部の車両方向前後側に設けられたクロスメンバーと、
シートが取り付けられたアッパーレールを前後方向へ摺動自在に係合すると共に車体フロアのクロスメンバーに固定されたロアーレールと、
を有し、
センタートンネルと燃料電池スタック収容部との交差部にフロア変形伝播防止のための緩衝スリットを設けたことを特徴とする車体下部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車体下部構造において、
燃料電池スタック収容部上面の車体フロアとロアーレールとを接続するテンション部材が設けられ、
緩衝スリットには、所定の厚さを有する弾性体で形成されたプラグがはめ込まれていることを特徴とする車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−247559(P2010−247559A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96127(P2009−96127)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】