説明

車体構造およびその製造方法

【課題】異種金属の接触部に電食が発生するのを簡単な構造で効果的に防止できるようにする。
【解決手段】鉄系材料からなる車体側部材(リヤサイドフレーム1)にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体(衝撃吸収部材3)が連結された車体構造であって、該車両用構造体には、上記車体側部材に連結部材(連結ボルト18)を介して連結される取付フランジ19と、該連結部材の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材31とが設けられるとともに、該ボビン状部材31の端面が上記取付フランジ19の端面よりも外方に突出した状態で該取付フランジ19内にボビン状部材31の本体部が鋳包まれた車体構造およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系材料からなる車体側部材にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体が連結された車体構造およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃費を向上させるとともに、これに伴って環境負荷の低減を図ること等を目的として車体を構成する鋼板の板厚を薄くし、あるいは鋼板材に代えてアルミニウム製の板材や押出材を使用する等により、車体の軽量化を図ることが行われている。例えば、下記特許文献1に示されるように、アルミニウム合金鋳物からなる中空部の肉厚を、軸方向に沿って連続的または部分的に変化させた構造とすることにより、車両の衝突時に一定の変形モードで軸方向に蛇腹状に塑性変形させることで優れた衝撃吸収能力が得られるようにし、かつ単一の鋳造工程で容易に形成可能としたアルミニウム合金鋳物製の衝撃吸収部材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−39245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているように、アルミニウム合金鋳物材で形成された衝撃吸収部材からなる車両用構造体を、鉄系材料からなる車体側部材であるリヤサイドフレーム等に連結した場合には、これらの異種金属が接触した部分に電流が流れることにより電食が発生する可能性があるため、上記車両用構造体と車体側部材との接触面に電着塗膜を形成することにより、電食の発生を防止することが行われている。例えば、上記車両用構造体と車体側部材とを連結する前に、それぞれ別々の工程で電着塗装を施し、あるいは上記車両用構造体と車体側部材とを仮止めして両者を離間させた状態で、これらを電着塗装液中に浸漬して電着塗装を施した後に、上記車両用構造体と車体側部材とを強固に連結することが行われているが、これらの作業が繁雑であるために製造コストが高く付く等の問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、異種金属の接触部に電食が発生するのを簡単な構造で効果的に防止できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、鉄系材料からなる車体側部材にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体が連結された車体構造であって、該車両用構造体には、上記車体側部材に連結部材を介して連結される取付フランジと、該連結部材の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材とが設けられるとともに、該ボビン状部材の端面が上記取付フランジの端面よりも外方に突出した状態で該取付フランジ内にボビン状部材の本体部が鋳包まれた構造としたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車体構造において、上記車両用構造体が車両の前後方向に延びるサイドフレームからなる車体側部材と、車幅方向に延びるバンパレインフォースメントとの間に配設された衝撃吸収部材であり、該衝撃吸収部材の取付フランジが、連結ボルトを介してサイドフレームに連結されたものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車体構造において、上記取付フランジの端面と、これに対向する車体側部材の壁面とに、それぞれ電着塗膜が形成されたものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の車体構造において、上記取付フランジの背面には、複数の凹部が形成されたものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、上記鉄系材料からなる車体側部材にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体の取付フランジが連結部材により連結された車体構造の製造方法であって、車両構造体用金型を構成する可動型と固定型との間に形成されるフランジ成形用空間に、上記連結部材の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材を配設して、その端面をフランジ成形用空間の外方に突設させた状態で上記可動型と固定型とを型閉じする型閉じ工程と、上記車両構造体用金型のキャビティ内に溶融状態のアルミニウム合金を注入して車両用構造体を鋳造する鋳造工程と、該鋳造工程で鋳造された車両用構造体の取付フランジを上記車体側部材に連結部材により連結する連結工程と、上記取付フランジの端面およびこれに対向する車体側部材の壁面間に電着塗装液を進入させてそれぞれの面に電着塗膜を形成する電着塗装工程とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、車体を軽量化するために上記車両用構造体をアルミニウム合金鋳物材により形成し、該車両用構造体を鉄系材料からなる車体側部材に連結してなる車体構造において、該車両用構造体には、上記車体側部材に連結部材を介して連結される取付フランジと、該連結部材の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材とを設けるとともに、該ボビン状部材の端面を上記取付フランジの端面よりも外方に突出させた状態で該取付フランジ内にボビン状部材の本体部を鋳包むように構成したため、上記鉄系材料からなる車体側部材とアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体の取付フランジとが直接、接触するのを防止しつつ、両部材を上記連結部材により強固に連結することができるとともに、上記アルミニウム合金鋳物材と鉄系材料とからなる異種金属の接触部に電流が流れることに起因した電食が生じるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0012】
請求項2に係る発明では、上記車体側部材が車両の前後方向に延びるサイドフレームと、車幅方向に延びるバンパレインフォースメントとの間に衝撃吸収部材を配設するとともに、該衝撃吸収部材の取付フランジを、連結ボルトを介してサイドフレームに連結するように構成したため、鉄系材料からなるサイドフレームとアルミニウム合金鋳物材からなる衝撃吸収部材の取付フランジとが直接、接触するのを防止しつつ、両部材を上記連結ボルトにより強固に連結することができとともに、上記サイドフレームと衝撃吸収部材とからなる異種金属の接触部に電流が流れることに起因した電食が生じるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0013】
請求項3に係る発明では、上記取付フランジの端面と、これに対向する車体側部材の壁面とに、それぞれ電着塗膜を形成したため、上記取付フランジの端面およびこれに対向する車体側部材の壁面との間に雨水等が進入した場合においても、該雨水等を媒体としてアルミニウム合金鋳物からなる上記取付フランジと鉄系材料からなる車体側部材との間に電流が流れるのを防止することにより、上記電食の発生を効果的に抑制できるという利点がある。
【0014】
請求項4に係る発明では、上記取付フランジの背面に複数の凹部を形成したため、該取付フランジの重量をそれ程増大させることなく、その板厚を大きく設定することにより、上記衝撃吸収部材のサイドフレームに対する取り付け強度を充分に確保し、その取付状態を安定して維持できるという利点がある。
【0015】
請求項5に係る発明では、上記取付フランジの端面およびこれに対向する車体側部材の壁面との間に形成された隙間を利用して上記電着塗装工程で取付フランジの端面とこれに対向する車体側部材の壁面とにそれぞれ電着塗膜を形成することができるため、上記車体側部材に車両用構造体の取付フランジを連結する前に、それぞれ別々の工程で両者に電着塗装を施したり、あるいは上記車体側部材と車両用構造体の取付フランジとの間に隙間が形成されるように両者を仮止めした状態で、電着塗装液中に浸漬して電着塗装を施した後に、上記車体側部材と車両用構造体の取付フランジとの最終連結作業を行ったりする等の繁雑な作業を要することなく、上記取付フランジの端面および車体側部材の壁面にそれぞれ電着塗膜を容易かつ適正に形成できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車体構造の第1実施形態を示す側面断面図である。
【図2】上記車体構造の要部を示す平面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】衝撃吸収部材の具体的構成を示す斜視図である。
【図5】衝撃吸収部材の具体的構成を示す端面図である。
【図6】図1のVI−VI線断面図である。
【図7】衝撃吸収部材の製造工程を示す平面断面図である。
【図8】衝撃吸収部材の比較例を示す斜視図である。
【図9】衝撃吸収部材の第1変形例を示す斜視図である。
【図10】衝撃吸収部材の第2変形例を示す斜視図である。
【図11】衝撃吸収部材の変形量と荷重との対応関係を示すグラフである。
【図12】衝撃吸収部材の最大変位量および塑性変形量を示す表である。
【図13】本発明に係る車体構造の第2実施形態を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1および図2は、本発明に係る車体構造の第1実施形態を示している。該車体には、後部車体の左右両側部において車体の前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム1からなる車体側部材と、該リヤサイドフレーム1の後方側において上記両リヤサイドフレーム1の後端部同士を連結するように車幅方向に延びるバンパレインフォースメント2とが設けられるとともに、上記リヤサイドフレーム1とバンパレインフォースメント2との間には左右一対の衝撃吸収部材3が配設されている。
【0018】
上記リヤサイドフレーム1は、上下一対の水平壁4,5と左右一対の側壁部6,7とを有する鋼板材等の鉄系材料からなる断面長方形状の部材、または断面ハット型の部材等からなり、その後端部には後端フランジ8がスポット溶接される等の手段で固着されている。該リヤサイドフレーム1の後端フランジ8には、上記衝撃吸収部材3がボルト止めされることにより取外し可能に取り付けられている。
【0019】
上記バンパレインフォースメント2は、前後に相対向した前壁部10および後壁部11と、上下に相対向した上壁部12および底壁部13とを有する鋼板材等の金属系材料からなる角パイプ状の部材、または断面ハット状の部材からなっている。上記バンパレインフォースメント2の上壁部12には、牽引用フック16の基端部が螺着されるねじ孔が形成された筒状体からなる左右一対のフック取付部材17が溶接される等により固定されている。そして、上記バンパレインフォースメント2の前壁部10に、上記衝撃吸収部材3がボルト止めされる等の手段で固着されるように構成されている。
【0020】
上記衝撃吸収部材3は、アルミニウム合金鋳物材からなり、図3〜図5に示すように、上記リヤサイドフレーム1の後端フランジ8に連結ボルト18を介して連結される取付フランジ19と、上記バンパレインフォースメント2に連結ボルト20を介して連結される先端壁21とを有している。上記衝撃吸収部材3の先端壁21と取付フランジ19との間には、上下に相対向した上壁22および下壁23と、左右一対の側壁24,25とを有する中空状部26が配設されている。そして、車両の後部に他車が衝突するという後突事故が発生した場合等に、上記衝撃吸収部材3の中空状部26が蛇腹状に塑性変形する等により衝撃エネルギーを吸収するように構成されている。
【0021】
上記取付フランジ19は、中空状部26の外周を囲繞するように延びる7mm〜15mm程度の板厚Ftを有する板状体からなり、その四隅には、上記連結ボルト18の挿通部27が設けられている。また、上記取付フランジ19の背面、つまりリヤサイドフレーム1の後端フランジ8に対する接合面には、複数の凹部28…が形成されている。当実施形態では、上記取付フランジ19の四隅に設けられた挿通部27,27間に、それぞれ一対の凹部28,28が形成されるとともに、該凹部28の深さが取付フランジ19の板厚Ftの1/2〜3/4程度に設定されている。これにより、上記取付フランジ19の相対向する挿通部27,27間には、その周縁部および中央部が厚肉に形成されるとともに、その他の部位(上記凹部28の設置部)が薄肉に形成されている。
【0022】
また、上記側壁24,25の基端側部分には、その先端側部分よりも板厚が大きくなった厚肉部29が設けられている。当実施形態では、平面視で側方に膨出するとともに、側面視で上下方向に延びる膨出部からなる厚肉部29が上記側壁24,25の基端側部分に形成されている。該厚肉部29の側方への突出量Tは、上記側壁24,25の板厚t(例えば3mm)と同程度に設定されている。さらに、上記厚肉部29の前後幅Wは、側壁24,25の前後長Lの1/3〜1/5程度に設定されている。
【0023】
上記衝撃吸収部材3の上壁22および下壁23には、上記取付フランジ19の端面から先端部側に向けて延びる複数枚のリブ30がそれぞれ設けられている。当実施形態では、上壁22の上面および下壁23の下面に、それぞれ3枚のリブ30が突設されている。該リブ30は、20mm程度の前後寸法と、10mm程度の上下寸法と、3mm程度の板厚とを有するとともに、側面視で先窄まりの三角形状に形成されている。
【0024】
上記衝撃吸収部材3の取付フランジ19に設けられた挿通部27には、図6に示すように、上記連結ボルト18の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材31が配設されている。該ボビン状部材31は、筒状本体部32と、その前後両端に設けられたドーナツ板状の鍔部33,34とを有している。そして、上記ボビン状部材31の端面、具体的には上記鍔部33,34の外壁面が、上記取付フランジ19の端面よりも1〜3mm程度、外方に突出した状態で、該取付フランジ19内に上記ボビン状部材31の筒状本体部32が鋳包まれるように構成されている。
【0025】
また、上記衝撃吸収部材3の先端壁21には、図3および図4に示すように、該先端壁21とバンパレインフォースメント2とを連結する連結ボルト20の挿通孔が形成された連結部35が四隅に設けられるとともに、上記上壁22の前端部と下壁23の前端部と接続するように上下方向に延びる所定幅の接続部36が設けられている。
【0026】
上記衝撃吸収部材3からなる車両用構造体を製造し、かつ該衝撃吸収部材3をリヤサイドフレーム1からなる車体側部材に連結して車体を構成するには、まず図7に示すように、ボビン状部材31の支持ピン41が突設された固定型42と、該固定型42に対して接離可能に設置された可動型43とを有する鋳造用金型44を型閉じすることにより、上記ボビン状部材31の端面をフランジ成形用空間45の外方に突設させた状態で、該フランジ成形用空間45を有する衝撃吸収部材成形用のキャビティを形成する。
【0027】
上記型閉じ工程で固定型42と可動型43との間に衝撃吸収部材成形用のキャビティを形成した後、鋳造工程において、該キャビティ内に溶融状態のアルミニウム合金を高圧で注入するダイキャスト法により上記衝撃吸収部材3を鋳造する。なお、該ダイキャスト法に代え、溶融状態のアルミニウム合金をその自重で上記鋳造用金型44のキャビティ内に注入する重力鋳造法により上記衝撃吸収部材3を鋳造することも可能であるが、該衝撃吸収部材3を適正に成形して、その強度を充分に確保するという点では、上記ダイキャスト法によることが望ましい。
【0028】
上記鋳造工程で製造された衝撃吸収部材3を上記鋳造用金型44から取り出してバリ取り等を行った後、連結工程において、該衝撃吸収部材3の取付フランジ19を上記リヤサイドフレーム1の後端フランジ8に連結ボルト18により固着して両者を連結する。次いで、上記衝撃吸収部材3およびリヤサイドフレーム1を有する車体構造を電着塗装工程に搬送し、電着塗装液中に浸漬した状態で電圧を印加する電着塗装を施すことにより、図6に示すように、上記取付フランジ19の端面およびこれに対向する車体側部材の壁面、つまり上記後端フランジ8の後面間に電着塗装液を進入させて、それぞれの面に電着塗膜46を形成する。
【0029】
すなわち、上記衝撃吸収部材3の取付フランジ19には、ボビン状部材31の端面が取付フランジ19の端面よりも外方に突出した状態で鋳包まれているため、連結ボルト18により上記取付フランジ19をリヤサイドフレーム1の後端フランジ8に対して強固に連結した状態においても、該取付フランジ19の端面と、これに対向する後端フランジ8の後面との間には、上記ボビン状部材31の突出量に対応した隙間が形成されることになる。したがって、上記衝撃吸収部材3の取付フランジ19とリヤサイドフレーム1の後端フランジ8との間に形成された間隙内に、電着塗装工程で電着塗装液を確実に進入させることができ、これにより上記取付フランジ19の端面とこれに対向する後端フランジ8の後面とに電着塗膜46をそれぞれ容易かつ適正に形成し、上記隙間を確実にシールすることができ、上記取付フランジ19の端面が水分を介してリヤサイドフレーム1の後端フランジ8と接触することによる電食を防止することもできる。
【0030】
また、上記取付フランジ19の背面には、複数の凹部28が設けられているため、該取付フランジ19の重量をそれ程増大させることなく、その板厚Ftを大きくすることが可能である。したがって、上記取付フランジ19の板厚Ftを比較的大きな値、例えば10mm程度に設定したとしても、上記凹部28の深さを例えば取付フランジ19の板厚Ftの1/2以上に設定することにより、上記衝撃吸収部材3の重量が増大するのを抑制しつつ、該衝撃吸収部材3の上記リヤサイドフレーム1に対する取り付け強度を充分に確保することができ、上記衝撃吸収部材3の取付状態を安定して維持することが可能である。
【0031】
上記のように鉄系材料からなる車体側部材(リヤサイドフレーム1)にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体(衝撃吸収部材3)が連結された車体構造において、該衝撃吸収部材3に、連結部材(連結ボルト18)を介して上記車体側部材に連結される取付フランジ19と、該連結部材の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材31とを設けるとともに、該ボビン状部材31の端面を上記取付フランジ19の端面よりも外方に突出した状態で該取付フランジ19内に上記ボビン状部材31の筒状本体部32を鋳包むように構成したため、車体を軽量化するために上記車両用構造体をアルミニウム合金鋳物材で形成した場合においても、簡単な構造で上記車体構造に電食が発生するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0032】
すなわち、上記第1実施形態では、車両の前後方向に延びる鋼板材等の鉄系材料からなるリヤサイドフレーム1と、車幅方向に延びる鋼板材等の金属系材料からなるバンパレインフォースメント2との間に配設される衝撃吸収部材3をアルミニウム合金鋳物材により形成するとともに、該衝撃吸収部材3の取付フランジ19に、上記リヤサイドフレーム1の後端フランジ8に連結する連結ボルト18の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材31を上記取付フランジ19に設け、該ボビン状部材31の端面を取付フランジ19の端面よりも外方に突出させた状態で、該取付フランジ19内にボビン状部材31の筒状本体部32を鋳包むように構成したため、図6に示すように、上記鉄系材料からなるリヤサイドフレーム1の後端フランジ8とアルミニウム合金鋳物材からなる衝撃吸収部材3の取付フランジ19とが直接、接触するのを防止しつつ、両部材を上記連結ボルト18により強固に連結することができる。したがって、上記アルミニウム合金鋳物材からなる衝撃吸収部材3と、鉄系材料からなるリヤサイドフレーム1とが接触した異種金属の接触部に電流が流れることに起因した電食が生じるのを効果的に防止することができる。
【0033】
また、上記第1実施形態に示すように、鋳造用金型44を構成する固定型42と可動型43とを型閉じする型閉じ工程で、該固定型42と可動型43との間に形成されるフランジ成形用空間45に、上記連結ボルト18の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材31を配設して、その端面をフランジ成形用空間45の外方に突設させた状態でセットした後、鋳造工程において上記鋳造用金型44のキャビティ内に溶融状態のアルミニウム合金を注入して鋳造した衝撃吸収部材3の取付フランジ19を、リヤサイドフレーム1の後端フランジ8に連結ボルト18により強固に連結した状態で、これらを電着塗装工程に搬送し、電着塗装液中に浸漬した状態で電圧を印加して電着塗装を施すように構成した場合には、図6に示すように、上記取付フランジ19の端面およびこれに対向する後端フランジ8の後面間に電着塗装液を進入させることができる。このため、上記取付フランジ19の端面およびこれに対向する後端フランジ8の後面に電着塗膜46を容易かつ適正に形成して、両者の間を上記電着塗膜46で確実にシールすることにより、上記電食の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0034】
すなわち、上記取付フランジ19の端面およびこれに対向する後端フランジ8の後面との間に形成された隙間を利用して上記電着塗装液を進入させて電着塗膜46を形成することができるため、上記リヤサイドフレーム1に衝撃吸収部材3を連結する前に、両者を別々に電着塗装し、あるいは上記リヤサイドフレーム1と衝撃吸収部材3との間に隙間が形成されるように両者を仮止めした状態で、電着塗装液中に浸漬して電着塗装を施した後に、上記リヤサイドフレーム1と衝撃吸収部材3とを強固に連結する等の繁雑な作業を要することなく、上記取付フランジ19の端面および後端フランジ8の後面に電着塗膜46を容易かつ適正に形成することができる。そして、該電着塗膜46を形成することにより、上記取付フランジ19の端面およびこれに対向する後端フランジ8の後面間に雨水等が進入した場合においても、該雨水等を媒体としてアルミニウム合金鋳物からなる衝撃吸収部材3の取付フランジ19と鉄系材料からなるリヤサイドフレーム1の後端フランジ8との間に電流が流れるのを防止して上記電食の発生を効果的に抑制できるという利点がある。
【0035】
さらに、上記実施形態では、リヤサイドフレーム1の後端フランジ8に連結される衝撃吸収部材3の取付フランジ19の背面に複数の凹部28を設けた構造としたため、アルミニウム合金鋳物材からなる上記衝撃吸収部材3の輸送時等における塑性変形を効果的に抑制することができるとともに、これにより車両の衝突時には該衝撃吸収部材3の機能を充分に発揮させて衝突エネルギーを効果的に吸収できるという利点がある。
【0036】
すなわち、上記取付フランジ19の背面に複数の凹部28を設け、該取付フランジ19の重量をそれ程増大させることなく、その板厚Ftを大きくすることにより、上記衝撃吸収部材3の上記リヤサイドフレーム1に対する取り付け強度を充分に確保することができるため、車体の軽量化を図るとともに充分な延性を持たせることを目的として上記衝撃吸収部材3をアルミニウム合金鋳物材により構成した場合においても、その取付状態を安定して維持することができる。したがって、上記衝撃吸収部材3を有する自動車を船積みし、上記バンパレインフォースメント2に取り付けられた牽引用フック16に連結されたロープを船体の床部に固定した状態で自動車を搬送する際等に、上記衝撃吸収部材3において最大モーメント荷重が作用する部位である上記取付フランジ19の設置部に大きな塑性変形を生じるのを効果的に防止することができる。
【0037】
そして、上記のように自動車の搬送時に、船体の揺れ等に応じて上記牽引用フック16およびバンパレインフォースメント2から上記衝撃吸収部材3に車両の重量に対応した高荷重が入力された場合においても、上記リヤサイドフレーム1とバンパレインフォースメント2との間に配設されたアルミニウム合金鋳物からなる衝撃吸収部材3に大きな塑性変形を生じるのを効果的に防止することができる。このため、該衝撃吸収部材3の衝撃吸収機能が充分に発揮されなくなるという事態の発生を効果的に抑制し、自車の後部に他車が衝突するという後突事故が発生した場合等に、上記衝撃吸収部材3の中空状部26を蛇腹状に塑性変形させることにより、車体後部に作用する衝撃エネルギーを効果的に吸収して、その影響が車室内等に及ぶのを確実に抑制できるという利点がある。
【0038】
上記衝撃吸収部材3用の鋳造材料として、Mn:1.4〜1.6、Fe:0.4〜0.7、Mg:0.2〜0.5、Ti:0.〜0.2、Si:<0.10、Zn:<0.10、Cu:<0.05、N:<0.05(wt%)を含有し、残部がAlからなるAl−1.5Mn−0.7Fe系ダイカスト材で、180MPaの引張強度(TS)と、90MPaの耐力(YS)と、25%の全伸び特性(EL)とを有する素材を使用し、各部の寸法が図8に示すように設定されるとともに、その取付フランジ19の板厚Ftが5mmに設定された比較例に係る衝撃吸収部材3′と、図9に示すように、取付フランジ19の板厚Ftが10mmに設定されるとともに、その背面に7.5mmの深さを有する凹部28…が形成された点のみが上記比較例とは異なる本発明の第1変形例、つまり上記第1実施形態の第1変形例に係る衝撃吸収部材3aとを鋳造した。そして、これらに所定の荷重を作用させてその変形量を計測するシミュレーション試験を行った。
【0039】
具体的には、上記比較例および第1変形例に係る衝撃吸収部材3′,3aをリヤサイドフレーム1とバンパレインフォースメント2との間に配設した状態で、該バンパレインフォースメント2の上面左右に取り付けられた牽引用フック16を、平面視で約20°の傾斜角度αで斜め外後ろ向きに引っ張るとともに(図2参照)、側面視で約45°の傾斜角度βで斜め外下向きに引っ張る引張荷重を作用させた(図1参照)。そして、図11に示すように、該引張荷重を7.65kNまで徐々に増大させて上記衝撃吸収部材3′,3aの最大変位量を測定するとともに、上記引張荷重を除去した後に衝撃吸収部材3′,3aに生じた塑性変形量を測定したところ、図12に示すようなデータが得られた。
【0040】
上記データから、比較例に係る衝撃吸収部材3′では、8.4mmの塑性変形量が発生した。これに対して本発明の第1実施形態の第1変形例に係る衝撃吸収部材3aでは、その塑性変形量を半分以下の3.6mmに抑えることができることが確認された。したがって、例えば上記取付フランジ19の板厚Ftを10mmに設定して、上記中空状部26の厚み(例えば3mm)の2倍以上とするとともに、その背面に複数の凹部28を設けた構造とすることにより、上記衝撃吸収部材3aの重量をそれ程増大させることなく、アルミニウム合金鋳物材からなる上記衝撃吸収部材3aの輸送時等における塑性変形を効果的に抑制しつつ、車両の衝突時には該衝撃吸収部材3aの機能を充分に発揮させて衝突エネルギーを効果的に吸収できることが分かる。
【0041】
また、図10に示すように、上記中空状部26を構成する側壁24,25の基端側部分に、20mm程度の前後幅Wと3mm程度の突出量Tとを有する厚肉部29が設けられている点を除いて、上記第1変形例と同様に構成された本発明の第1実施形態の第2変形例に係る衝撃吸収部材3bを鋳造し、上記と同様の荷重を作用させてその変形量を計測するシミュレーション試験を行ったところ、図12に示すようなデータが得られた。該データから、上記側壁24,25の基端側部分に、その先端側部分よりも板厚が大きく形成された厚肉部29を設けた構造とすることにより、アルミニウム合金鋳物材からなる上記衝撃吸収部材3bの輸送時等における塑性変形を、より効果的に抑制しつつ、車両の衝突時には該衝撃吸収部材3の機能を充分に発揮させて衝突エネルギーを効果的に吸収できることが確認された。
【0042】
特に、本発明の第2変形例に示すように、側面視で上下方向に延びるとともに、平面視で側方に膨出した膨出部からなる厚肉部29を上記側壁24,25の基端側部分に設けた構造とした場合には、上記衝撃吸収部材3bの重量をそれ程増大させることなく、自動車の搬送時等に、最大モーメント荷重が生じる上記衝撃吸収部材3の基端部、つまり上記取付フランジ19に大きな塑性変形が生じるのを効果的に抑制することができる。このため、上記衝撃吸収部材3bをアルミニウム合金鋳物材で形成して効果的に軽量化するとともに、容易に製造できるように構成したにも拘わらず、その搬送時等における変形を抑制して衝撃吸収機能を充分に維持することができるという効果が顕著に得られるという利点がある。
【0043】
さらに、図4に示すように、上記衝撃吸収部材3の中空状部26を構成する上壁22および下壁23に、20mm程度の前後寸法と、10mm程度の上下寸法と、3mm程度の厚みとを有するとともに、先窄まりの三角形状に形成された3枚のリブ30を上記取付フランジ19の端面から先端部側に向けて延びるように設置した点を除いて、上記第2変形例と同様に構成された本発明の第1実施形態に係る衝撃吸収部材3とを鋳造し、上記と同様の荷重を作用させてその変形を計測するシミュレーション試験を行ったところ、図12に示すようなデータが得られた。
【0044】
上記データから、衝撃吸収部材3の上壁22および下壁23に上記取付フランジ19から先端部側に向けて延びるリブ30をそれぞれ設けることにより、アルミニウム合金鋳物材からなる衝撃吸収部材3の塑性変形が生じ易い部位である上記中空状部26と取付フランジ19との連結部を効果的に補強することができ、輸送時等における上記衝撃吸収部材3の塑性変形を、さらに効果的に抑制して、車両の衝突時に該衝撃吸収部材3の機能を充分に発揮できることが確認された。特に、上記第1実施形態に示すように、上記リブ30を側面視で先窄まり形状に形成した場合には、簡単かつ軽量な構成で、上記中空状部26と取付フランジ19との連結部を効果的に補強することにより、その変形を充分に抑制できるという利点がある。
【0045】
なお、図6に示すように、上記ボビン状部材31を構成する筒状本体部32の前後両端に設けられたドーナツ板状の鍔部33,34の端面を、上記取付フランジ19の端面よりも外方に突出させた状態で、該取付フランジ19内に上記ボビン状部材31の筒状本体部32を鋳包むように構成した上記実施形態に代え、鍔部のない筒状部材の端面を上記取付フランジ19の端面よりも外方に突出させた状態で該取付フランジ19と上記筒状部材とを一体に鋳造することも可能である。
【0046】
しかし、上記第1実施形態に示すように、前後両端部にドーナツ板状の鍔部33,34が設けられたボビン状部材31の筒状本体部32を使用し、上記鍔部33,34の端面を上記取付フランジ19の端面よりも外方に突出させた状態で上記筒状本体部32を取付フランジ19内に鋳包むように構成した場合には、上記鍔部33,34の移動規制機能により上記取付フランジ19内にボビン状部材31を安定して保持させることができる。このため、上記連結ボルト18からなる連結部材により上記衝撃吸収部材3の取付フランジ19をリヤサイドフレーム1の後端フランジ8に連結する際に、その連結強度を簡単な構成で効果的に確保できるという利点がある。
【0047】
また、図13に示す第2実施形態のように、上記連結ボルト20を介してバンパレインフォースメント2に連結される上記先端壁21の連結部35aに、鉄系材料からなるボビン状部材51を配設し、該ボビン状部材51の前後両端に設けられたドーナツ板状の鍔部52,53のうち少なくとも上記バンパレインフォースメント2側(後方側)に位置する鍔部52の外壁面を上記先端壁21の端面よりも外方に突出させた状態で、該取付フランジ19内に上記ボビン状部材51の筒状本体部54を鋳包むように構成してもよい。そして、上記ボビン状部材51の筒状本体部54に形成された螺子孔に上記連結ボルト20のねじ軸を螺着することにより、上記衝撃吸収部材3の先端壁21をバンパレインフォースメント2の前壁部10に連結するように構成した場合には、鋼板材等の鉄系材料からなるバンパレインフォースメント2の前壁部10とアルミニウム合金鋳物材からなる衝撃吸収部材3の先端壁に1とが直接、接触するのを防止しつつ、両部材を上記連結ボルト20により強固に連結することができる。したがって、異種金属の接触部に電流が流れることに起因した電食が生じるのを効果的に防止することができる。
【0048】
さらに、上記バンパレインフォースメント2の前壁部10と衝撃吸収部材3の先端壁21とを連結ボルト20により強固に連結した状態で、これらを電着塗装工程に搬送し、電着塗装液中に浸漬した状態で電圧を印加して電着塗装を施すことにより、上記先端壁21の端面およびこれに対向するバンパレインフォースメント2の前壁面間に電着塗装液を進入させ、それぞれの面に電着塗膜55を容易かつ適正に形成することができる。このため、上記先端壁21の端面およびこれに対向するバンパレインフォースメント2の前面間に雨水等が進入した場合においても、該雨水等を媒体としてアルミニウム合金鋳物からなる衝撃吸収部材3の先端壁21と鉄系材料からなるバンパレインフォースメント2の前壁部10との間に電流が流れることがないように、両者の間を上記電着塗膜46で確実にシールすることができ、これにより上記電食の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0049】
なお、上記実施形態では、後部車体の左右両側部において車体の前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム1からなる車体側部材に、該リヤサイドフレーム1の後端フランジ8に衝撃吸収部材3が連結ボルト18を介して連結されてなる車体構造について、本発明を適用した例について説明したが、車体前部に配設されるフロントサイドフレームと、その前方側のパンパレインフォースメントとの間に配設される衝撃吸収部材とが連結されてなる車体構造、または鉄系材料からなる車体側部材にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体が連結されたその他の車体構造についても、本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 リヤサイドフレーム(車体側部材)
3 衝撃吸収部材(車両用構造体)
18 連結部材
19 取付フランジ
28 凹部
31 ボビン状部材
42 固定型
43 可動型
44 鋳造用金型
45 電着塗膜
46 フランジ成形用空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料からなる車体側部材にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体が連結された車体構造であって、該車両用構造体には、上記車体側部材に連結部材を介して連結される取付フランジと、該連結部材の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材とが設けられるとともに、該ボビン状部材の端面が上記取付フランジの端面よりも外方に突出した状態で該取付フランジ内にボビン状部材の本体部が鋳包まれた構造としたことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
上記車両用構造体が車両の前後方向に延びるサイドフレームからなる車体側部材と、車幅方向に延びるバンパレインフォースメントとの間に配設された衝撃吸収部材であり、該衝撃吸収部材の取付フランジが、連結ボルトを介してサイドフレームに連結されたことを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
上記取付フランジの端面と、これに対向する車体側部材の壁面とに、それぞれ電着塗膜が形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車体構造。
【請求項4】
上記取付フランジの背面には、複数の凹部が形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車体構造。
【請求項5】
鉄系材料からなる車体側部材にアルミニウム合金鋳物材からなる車両用構造体の取付フランジが連結部材により連結された車体構造の製造方法であって、車両構造体用金型を構成する可動型と固定型との間に形成されるフランジ成形用空間に、上記連結部材の挿通孔を有する鉄系材料からなるボビン状部材を配設して、その端面をフランジ成形用空間の外方に突設させた状態で上記可動型と固定型とを型閉じする型閉じ工程と、上記車両構造体用金型内のキャビティに溶融状態のアルミニウム合金を注入して車両用構造体を鋳造する鋳造工程と、該鋳造工程で鋳造された車両用構造体の取付フランジを上記車体側部材に連結部材により連結する連結工程と、上記取付フランジの端面およびこれに対向する車体側部材の壁面間に電着塗装液を進入させてそれぞれの面に電着塗膜を形成する電着塗装工程とを備えたことを特徴とする車両用構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−255749(P2011−255749A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130812(P2010−130812)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】