説明

車載情報提供装置

【課題】乗員に提供する情報を表示する車載情報提供装置において、観察画像と乗員の頭部との間の相対変位を補正する光学的補正量を可変にする。
【解決手段】車載情報提供装置100は、乗員の頭部(とくに眼球)と乗員が観察する画像表示部105による画面との間に生じる相対変位の変化に起因する観察画像の動きを画像遠方結像部106による光学的な補正によってキャンセルする。画像表示部105を射出光束の中心線(光軸)の方向に進退移動可能に構成し、通常状態では画像遠方結像部106の焦点位置に、補正ゲインの変更が指示された状態では画像遠方結像部106の焦点距離より短い位置へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内で画像などを表示する車載情報提供装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の乗員が移動中の車両内で車両に固定されている表示画面を見る場合、車両の揺動に伴って画面と乗員との間に相対変位が生じる。一般に、視覚情報から得られる体の運動情報と前庭器(三半規管、耳石)から得られる運動情報とが一致しない場合、人は揺動に対する違和感や不快感を感じる。乗員が車両内から外部風景を見ている場合、視覚、前庭器いずれからも空間内での自身の動きに関する情報が得られ、これらの情報が一致するため違和感は生じない。一方、乗員が車両内の表示画面を注視している場合、視覚からは画面と乗員との相対変位に関する情報しか得られないため、視覚情報から判断した自身の動きと、前庭器からの運動情報から判断した自身の動きとの間に不一致が生じ、違和感や不快感が発生する。
【0003】
特許文献1には、ディスプレイと観察者の間に光学素子を配設し、画像を無限遠表示させることにより、観察者のディスプレイに対する位置が上下、左右にずれても観察者にとって表示画像が無限遠の位置に固定されて見えるように、観察者と表示画像との相対変位を光学的に補正する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−73785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、ディスプレイ、光学素子および観察者が一直線上に並んでいる場合は、観察者と表示画像とに相対変位が生じても観察者は光学的に補正された画像を観察できるが、観察者が上記一直線上に位置していない場合には、観察者に観察される画像が光学素子から外れてしまう(はみ出してしまう)おそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による車載情報提供装置は、車両の乗員に提供する情報を表示する表示手段からの光束を画像遠方結像手段の収束光学系によって略平行光にするとともに、変更指示に応じて、収束光学系および表示手段間の光路長と収束光学系の焦点距離との関係を変化させるようにしたものである。
本発明による車載情報提供装置は、車両の乗員に提供する情報を表示する画面からの光束を収束光学系によって略平行光にするとともに、変更指示に応じて、収束光学系および画面間の光路長と収束光学系の焦点距離との関係を変化させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車載情報提供装置では、変更指示に応じて収束光学系および表示手段(画面)間の光路長と収束光学系の焦点距離との関係を変化させることによって光学的な補正量を可変に構成したので、表示情報を収束光学系から外れにくくするように、光学的な補正量を変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(第一の実施形態)
図1(a)〜図1(c)は、本発明の第一の実施形態による車載情報提供装置に備えられる基本光学系を説明する図である。凸レンズによる実像を説明する図1(a)において、焦点距離fの凸レンズLから距離x1(ただし、x1>f)の位置に、高さy1の物体Oが載置されている。この場合の凸レンズLは、物体Oと反対側の距離x2の位置に高さy2の倒立像(実像)を結像する。このとき、ガウスのレンズ公式(1)が成立する。
1/f=(1/x)+(1/x2) (1)
【0009】
倒立像と物体Oの大きさの比(倍率)Mは次式(2)で表され、距離x2は次式(3)で表すことができる。
M=f/(x1−f) (2)
2=f×x1/(x1−f) (3)
【0010】
凸レンズによる虚像を説明する図1(b)において、上述した凸レンズLから距離x1(ただし、x1<f)の位置に、高さy1の上記物体Oが載置されている。この場合の凸レンズLは、物体Oと同じ側の距離x2の位置に高さy2の正立像(虚像)を結像する。ここで、物体Oの距離x1を焦点距離fに近づけると、式(1)より距離x2は負(物体Oと同じ側)の無限大となる。この状態でレンズLに対して物体Oと反対側から観察すると、無限遠に正立虚像が観察される。
【0011】
図1(c)は、観察者の眼の位置と虚像が観察される方向との関係を説明する図である。図1(c)において、物体Oと反対側の焦点Fから観察される虚像の方向(角度)をθ0とすると、次式(4)が成立する。
θ0≒tanθ0=y1/f (4)
【0012】
また、焦点Fから下方(レンズLと平行)に距離y3だけずらした点ep1から虚像が観察される方向(角度)をθ1とすると、次式(5)が成立する。
θ1≒tanθ1={y1+(f−x1)y3/f}/f (5)
【0013】
上式(4)および(5)より、観察者の眼の位置が焦点Fから距離y3離れた点ep1へ移動した場合に生じる虚像の観察方向の変化dθは次式(6)で表される。
dθ=(f−x1)y3/f2 (6)
【0014】
上式(6)は、距離x1を焦点距離fに近づけるとdθが0に近づき、観察者の眼の位置の変位y3にかかわらず虚像の観察方向が一定になることを意味する。すなわち、観察者の眼と観察される像との間の相対変位が光学的な補正によってキャンセルされる。
【0015】
一方、上式(6)は、距離x1を0に近づけるとdθがy3/fに近づき、観察者の眼の位置の変位y3が虚像の観察方向の変化に比例することを意味する。すなわち、観察者の眼と観察される像との間の相対変位は光学的に補正されない。
【0016】
本実施形態では、物体Oと凸レンズLとの距離x1を焦点距離fより短くすることにより、観察者の眼と観察される虚像との相対変位に対する光学的な補正量を変化させる。
【0017】
図2は、本実施形態による車載情報提供装置の構成を説明する図である。図2において、車載情報提供装置100は、ゲイン設定部101と、制御部102と、表示部駆動部103と、画像入力部104と、画像表示部105と、画像遠方結像部106とを有する。車両の乗員である観察者は、車両内の座席(不図示)に着座して画像表示部105によって表示される画像などの情報を観察する。
【0018】
ゲイン設定部101は、乗員の頭部(とくに眼)と乗員が観察する画面(画像表示部105からの光束FL)との間に生じる相対変位を光学的に補正するための補正ゲイン信号を制御部102へ出力する。補正ゲイン信号は、通常状態ではあらかじめゲイン設定部101に設定されている初期値の信号が出力される。補正ゲインの変更を指示する信号がゲイン設定部101に入力された場合には、入力信号に応じて変更された補正ゲイン信号が出力される。補正ゲインの変更を指示する信号は、不図示の操作部材が乗員によって操作されると、操作量に応じた操作信号として当該操作部材からゲイン設定部101へ入力される。画像表示部105からの光束FLについては後述する。
【0019】
制御部102は、入力された補正ゲイン信号に応じて画像表示部105の画面位置を移動させるための移動制御信号を表示部駆動部103へ送出する。制御部102はさらに、車載情報提供装置100の各部を制御するように構成されている。
【0020】
表示部駆動部103は、制御部102から入力された移動制御信号に応じて、画像表示部105を進退移動させる。画像表示部105の進退移動については後述する。画像入力部104は、画像表示部105に表示させる元の画像を入力し、入力された画像信号(享楽画像などの表示データ)を画像表示部105の入力インターフェイスに応じた表示信号として画像表示部105へ出力する。
【0021】
画像表示部105は、たとえば、小型LCD(液晶表示器)によって構成され、入力された表示信号による画像などを表示する。画像遠方結像部106は、画像表示部105に表示されている画像を光学的に遠方結像させる。
【0022】
図3は、画像遠方結像部106、表示部駆動部103および画像表示部105の構成、配設位置を説明する図である。画像遠方結像部106は、2つの反射鏡21および22と、プリズムシート23と、フレネルレンズ24とを含む。画像などの情報を表示している画像表示部105から射出された光束FLは、反射鏡21によって反射されて上方の反射鏡22へ向けて進み、さらに反射鏡22によって反射されて左方へ進み、プリズムシート23に入射される。
【0023】
プリズムシート23は、入射光を観察者(乗員)の視方向(図3の例では水平左方)へ屈折させ、フレネルレンズ24へ向けて射出する。フレネルレンズ24は図1の凸レンズLに対応し、入射された光束FL(画像表示部105の表示画面からの光束)を観察者へ向けて略平行光として射出する。
【0024】
駆動部25は図2の表示部駆動部103に対応し、画像表示部105から射出される光束FLの中心線(光軸)の方向に画像表示部105を進退移動させる。駆動部25は、ゲイン設定部101(図2)から制御部102(図2)へ通常状態の補正ゲイン信号が入力されている場合、制御部102による移動制御信号に応じて画像表示部105の画面位置をフレネルレンズ24の焦点に対応する位置(フレネルレンズ24からの光路長がフレネルレンズ24の焦点距離と合致する位置)へ移動させる。これにより、図1(b)および図1(c)において距離x1=焦点距離fとする場合と同様に、画像表示部105の表示画面からの光束FLが略平行光として進行し、乗員には表示画像が無限遠に位置するように見える。この場合、画像表示部105からの光束FLと乗員の頭部との間に上下、左右方向の相対変位が生じても、乗員が観察する画像は乗員の頭部動と一致する。つまり、上記相対変位は光学的な補正によってキャンセルされる。
【0025】
駆動部25は、ゲイン設定部101(図2)から制御部102(図2)へ通常状態から変更した補正ゲイン信号が入力されている場合、制御部102による移動制御信号に応じて画像表示部105の画面位置をフレネルレンズ24の焦点距離より短い位置(フレネルレンズ24からの光路長がフレネルレンズ24の焦点距離より短い位置)へ移動させる。つまり、画像表示部105の画面位置を反射鏡21へ近づけることによってフレネルレンズ24に近づける。これにより、図1(b)および図1(c)において距離x1<焦点距離fとする場合と同様に、光学的な補正量が上記x1=fの場合に比べて小さくなる。したがって、画像表示部105からの光束FLと乗員の頭部との間の相対変位が大きくなる場合でも、補正後の画像が画像遠方結像部106の有効領域からはみ出してしまう頻度が少なくなる。とくに、複数の乗員が画像を観察する場合など、フレネルレンズ24の正面からではなく斜めに画像を観察する(光束FLの中心線から離れた位置から観察する)乗員にとっては、画像が画像遠方結像部106の有効領域からはみ出さないように補正量が抑制されるため有効である。
【0026】
上述した車載情報提供装置100の制御部102で行われる表示制御処理の流れについて、図4のフローチャートを参照して説明する。図4のステップS10において、制御部102は、画像表示部105の画面電源がオンされているか否かを判定する。制御部102は、画面電源がオンされている場合にステップS10を肯定判定してステップS20へ進み、画面電源がオンされていない場合にはステップS10を否定判定し、ステップS10の判定処理を繰り返す。
【0027】
ステップS20において、制御部102は、表示部駆動部103(駆動部25)から入力される位置検出信号によって画像表示部105(LCD)の位置を検出し、ステップS30へ進む。ステップS30において、制御部102は、補正ゲインが変更されたか否かを判定する。制御部102は、通常状態から変更した補正ゲイン信号が入力されている場合にステップS30を肯定判定してステップS40へ進み、通常状態の補正ゲイン信号が入力されている場合にはステップS30を否定判定し、ステップS50へ進む。
【0028】
ステップS40において、制御部102は、画像表示部105(LCD)の位置変更を指示してステップS50へ進む。具体的には、画像表示部105の画面位置を変更後の補正ゲインに対応する位置へ移動させるための移動制御信号を表示部駆動部103へ送出する。
【0029】
ステップS50において、制御部102は、画像表示部105の画面電源がオフされたか否かを判定する。制御部102は、画面電源がオフされた場合にステップS50を肯定判定し、図4による処理を終了する。一方、制御部102は、画面電源がオフされていない場合にはステップS50を否定判定し、ステップS20へ戻って上述した処理を繰り返す。
【0030】
以上説明した第一の実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)乗員の頭部(とくに眼球)と乗員が観察する画面(画像表示部105からの光束FL)との間に生じる相対変位の変化に起因する観察画像の動きを光学的な補正によってキャンセルするようにしたので、乗員にとって表示画像が空間上に停止して見える。この結果、乗員にとって画像が見やすくなる上に、乗員が得る視覚情報と前庭器(三半規管、耳石)からの運動情報とが一致するので、乗員が感じる違和感・不快感を低減することができる。
【0031】
画像表示部105の表示画面からの光束FLを画像遠方結像部106によって略平行光とする光学的な補正は、電気的な制御による補正と異なり、制御の遅延によってリアルタイムに補正できなくなるおそれがないため、とくに、観察画像の動き(相対変位の変化)の周波数成分が高い場合に有効である。
【0032】
(2)画像表示部105を射出光束FLの中心線(光軸)の方向に進退移動可能に構成し、通常状態では画像表示部105を画像遠方結像部106の焦点位置に、補正ゲインの変更が指示された状態では画像遠方結像部106の焦点距離より短い位置へ移動させるようにした。これにより、補正ゲインの変更が指示された状態では通常状態に比べて光学的な補正量を小さくする(変倍)ことが可能になり、光学補正後の画像が画像遠方結像部106の有効領域からはみ出してしまう頻度を少なくできる。
【0033】
(3)光学系を構成する各部材(反射鏡21および22、プリズムシート23、フレネルレンズ24)を可動としないで固定しているので、乗員が観察する画像のブレが生じにくくなる。
【0034】
画像表示部105を光軸方向に進退移動させる代わりに、反射鏡21(反射鏡22)もしくはフレネルレンズ24をそれぞれ光軸方向に進退移動させることにより、結果として画像表示部105を画像遠方結像部106の焦点距離より短い距離に位置させる構成にしてもよい。
【0035】
(第二の実施形態)
観察画像の動き(相対変位の変化)に対する光学的な補正量を調節する構成として、画像表示部自体を移動させる代わりに光学系の焦点距離を変化させる構成にしてもよい。図5は、本発明の第二の実施形態による車載情報提供装置に備えられる基本光学系を説明する図である。図5において、凸レンズLと画像表示部(LCD)との間に凹レンズLaが配設されている。凹レンズLaを画像表示部(LCD)による射出光束の中心線(光軸)方向に進退移動させることにより、上記光学系の焦点距離を変化させる。すなわち、凹レンズLaを凸レンズL側に移動させた場合、光学系の焦点距離は長くなり(L1)、凹レンズLaを画像表示部(LCD)側に移動させた場合、光学系の焦点距離は短くなる(L0)。光学系の焦点距離を長くした状態(L1)では、凸レンズLによる光学的な補正量が小さくなる。
【0036】
図6は、本発明の第二の実施形態による車載情報提供装置の構成を説明する図である。図6において、車載情報提供装置200は、ゲイン設定部201と、制御部202と、レンズ駆動部203と、画像入力部204と、画像表示部205と、画像遠方結像部206とを有する。車両の乗員である観察者は、車両内の座席(不図示)に着座して画像表示部205によって表示される画像などの情報を観察する。
【0037】
ゲイン設定部201は、乗員の頭部(とくに眼)と乗員が観察する画面(画像表示部205からの光束FL)との間に生じる相対変位を光学的に補正するための補正ゲイン信号を制御部202へ出力する。補正ゲイン信号は、通常状態ではあらかじめゲイン設定部201に設定されている初期値の信号が出力される。補正ゲインの変更を指示する信号がゲイン設定部201に入力された場合には、入力信号に応じて変更された補正ゲイン信号が出力される。補正ゲインの変更を指示する信号は、不図示の操作部材が乗員によって操作されると、操作量に応じた操作信号として当該操作部材からゲイン設定部201へ入力される。
【0038】
制御部202は、入力された補正ゲイン信号に応じて凹レンズLaの位置を移動させるための移動制御信号をレンズ駆動部203へ送出する。制御部202はさらに、車載情報提供装置200の各部を制御するように構成されている。
【0039】
レンズ駆動部203は、制御部202から入力された移動制御信号に応じて、凹レンズLaを進退移動させる。凹レンズLaの進退移動については後述する。画像入力部204は、画像表示部205に表示させる元の画像を入力し、入力された画像信号(享楽画像などの表示データ)を画像表示部205の入力インターフェイスに応じた表示信号として画像表示部205へ出力する。
【0040】
画像表示部205は、たとえば、小型LCD(液晶表示器)によって構成され、入力された表示信号による画像などを表示する。画像遠方結像部206は、画像表示部205に表示されている画像を光学的に遠方結像させる。
【0041】
図7は、画像遠方結像部206、レンズ駆動部203および画像表示部205の構成、配設位置を説明する図である。画像遠方結像部206は、図3に例示した構成に加えて、ゲイン変更用レンズ27を画像表示部205および反射鏡21間に有する。ゲイン変更用レンズ27は図5の凹レンズLaに対応する。
【0042】
駆動部26は図6のレンズ駆動部203に対応し、画像表示部205から射出される光束FLの中心線(光軸)の方向にゲイン変更用レンズ27を進退移動させる。駆動部26は、ゲイン設定部201(図6)から制御部202(図6)へ通常状態の補正ゲイン信号が入力されている場合、制御部202による移動制御信号に応じてゲイン変更用レンズ27を所定位置へ移動させる。この場合の画像表示部205の画面位置は、図5において焦点距離をL0とする場合と同様に、フレネルレンズ24およびゲイン変更用レンズ27による焦点に対応する。これにより、画像表示部205からの光束FLと乗員の頭部との間に上下、左右方向の相対変位が生じても、乗員が観察する画像は乗員の頭部動と一致する。つまり、上記相対変位は光学的な補正によってキャンセルされる。
【0043】
駆動部26は、ゲイン設定部201(図6)から制御部202(図6)へ通常状態から変更した補正ゲイン信号が入力されている場合、制御部202による移動制御信号に応じてゲイン変更用レンズ27を所定位置より反射鏡21側へ移動させる。この場合の画像表示部205の画面位置は、図5において焦点距離をL1とする場合と同様に、フレネルレンズ24およびゲイン変更用レンズ27による焦点距離より短い位置に対応する。これにより、光学的な補正量が上記通常状態の場合に比べて小さくなる。したがって、画像表示部205からの光束FLと乗員の頭部との間の相対変位が大きくなる場合でも、補正後の画像が画像遠方結像部206の有効領域からはみ出してしまう頻度が少なくなる。
【0044】
上記車載情報提供装置200の制御部202で行われる表示制御処理の流れについて、図8のフローチャートを参照して説明する。図8のステップS110において、制御部202は、画像表示部205の画面電源がオンされているか否かを判定する。制御部202は、画面電源がオンされている場合にステップS110を肯定判定してステップS120へ進み、画面電源がオンされていない場合にはステップS110を否定判定し、ステップS110の判定処理を繰り返す。
【0045】
ステップS120において、制御部202は、レンズ駆動部203(駆動部26)から入力される位置検出信号によってゲイン変更用レンズ27の位置を検出し、ステップS130へ進む。ステップS130において、制御部202は、補正ゲインが変更されたか否かを判定する。制御部202は、通常状態から変更した補正ゲイン信号が入力されている場合にステップS130を肯定判定してステップS140へ進み、通常状態の補正ゲイン信号が入力されている場合にはステップS130を否定判定し、ステップS150へ進む。
【0046】
ステップS140において、制御部202は、ゲイン変更用レンズ27の位置変更を指示してステップS150へ進む。具体的には、ゲイン変更用レンズ27の位置を変更後の補正ゲインに対応する位置へ移動させるための移動制御信号をレンズ駆動部203へ送出する。
【0047】
ステップS150において、制御部202は、画像表示部205の画面電源がオフされたか否かを判定する。制御部202は、画面電源がオフされた場合にステップS150を肯定判定し、図8による処理を終了する。一方、制御部202は、画面電源がオフされていない場合にはステップS150を否定判定し、ステップS120へ戻って上述した処理を繰り返す。
【0048】
以上説明した第二の実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)第一の実施形態と同様に、乗員の頭部(とくに眼球)と乗員が観察する画面(画像表示部205からの光束FL)との間に生じる相対変位の変化に起因する観察画像の動きを光学的な補正によってキャンセルするようにしたので、乗員にとって表示画像が空間上に停止して見える。この結果、乗員にとって画像が見やすくなる上に、乗員が得る視覚情報と前庭器(三半規管、耳石)からの運動情報とが一致するので、乗員が感じる違和感を低減することができる。また、光学的な補正は電気的な制御による補正と異なり、制御の遅延によってリアルタイムに補正できなくなるおそれがない。
【0049】
(2)ゲイン変更用レンズ27を画像表示部205からの射出光束FLの中心線(光軸)の方向に進退移動可能に構成し、フレネルレンズ24およびゲイン変更用レンズ27による焦点距離を変更可能にする。通常状態では上記焦点距離をフレネルレンズ24および画像表示部205間の光路長に合致させ、補正ゲインの変更が指示された状態では上記焦点距離を通常状態より長くするようにした。これにより、第一の実施形態と同様に、補正ゲインの変更が指示された状態では通常状態に比べて光学的な補正量を小さくする(変倍)ことが可能になり、光学補正後の画像が画像遠方結像部206の有効領域からはみ出してしまう頻度を少なくできる。
【0050】
(3)フレネルレンズ24に比べて小型のゲイン変更用レンズ27を移動させるので、駆動部26を小型に構成できる。この結果、高速移動が可能になるとともに、消費電力も少なく抑えられる。
【0051】
(第三の実施形態)
乗員の頭部(とくに眼球)と乗員が観察する画面(画像表示部からの光束FL)との間に生じる相対変位の変化に起因する観察画像の動きについて、第一の実施形態(もしくは第二の実施形態)による光学的な補正のみならず、画像表示部に表示される画像を上記相対変位の変化と逆方向に変位させる電気的な補正とを組み合わせてもよい。
【0052】
図9は、本発明の第三の実施形態による車載情報提供装置の構成を説明する図である。図9において、車載情報提供装置300は、ゲイン設定部301と、乗員運動検出部302と、制御部303と、画像入力部304と、画像変位部305と、表示部駆動部306と、画像表示部307と、画像遠方結像部308とを有する。車両の乗員である観察者は、車両内の座席(不図示)に着座して画像表示部307によって表示される画像などの情報を観察する。
【0053】
ゲイン設定部301は、乗員の頭部(とくに眼)と乗員が観察する画面(画像表示部307からの光束FL)との間に生じる相対変位を光学的に補正するための補正ゲイン信号を制御部303へ出力する。補正ゲイン信号は、通常状態ではあらかじめゲイン設定部301に設定されている初期値の信号が出力される。補正ゲインの変更を指示する信号がゲイン設定部301に入力された場合には、入力信号に応じて変更された補正ゲイン信号が出力される。補正ゲインの変更を指示する信号は、不図示の操作部材が乗員によって操作されると、操作量に応じた操作信号として当該操作部材からゲイン設定部301へ入力される。
【0054】
乗員運動検出部302は、車両の回転運動(ノーズダイブやスクワットに対応する運動)を検出し、この検出値に基づいて乗員の頭部(とくに眼球)と車両(とくに、乗員が観察する画面)との間に生じる上下方向の相対動をさらに検出し、検出信号を制御部303へ出力する。
【0055】
制御部303は、入力された補正ゲイン信号に応じて画像表示部307の画面位置を移動させるための移動制御信号を表示部駆動部306へ送出する。また、制御部303は、入力された上下方向の相対動を示す検出信号と入力された上記補正ゲイン信号とに基づいて、画像表示部307に表示させる画像の変位量を決定する。画像の変位量は、画像表示部307の表示画面内で画像の表示位置をリアルタイムに移動させる移動量である。制御部303はさらに、車載情報提供装置300の各部を制御するように構成されている。
【0056】
画像入力部304は、画像表示部307に表示させる元の画像を入力し、入力された画像信号(表示データ)を画像変位部305へ出力する。画像変位部305は、制御部303によって決定された画像の変位量にしたがって、画像表示部307による画像の表示位置が移動するように表示データを加工する。加工後の表示データは、画像表示部307の入力インターフェイスに応じた表示信号として画像表示部307へ出力される。
【0057】
表示部駆動部306は、制御部303から入力された移動制御信号に応じて、画像表示部307を当該画像表示部307による射出光束の中心線(光軸)の方向に進退移動させる。画像表示部307は、たとえば、小型LCD(液晶表示器)によって構成され、入力された表示信号による画像などを表示する。画像遠方結像部308は、画像表示部307に表示されている画像を光学的に遠方結像させる。
【0058】
画像遠方結像部308、表示部駆動部306および画像表示部307の構成、配設位置は、図3に例示した構成と同様である。
【0059】
上述した車載情報提供装置300の制御部303で行われる表示制御処理の流れについて、図10のフローチャートを参照して説明する。図10のステップS210において、制御部303は、画像表示部307の画面電源がオンされているか否かを判定する。制御部303は、画面電源がオンされている場合にステップS210を肯定判定してステップS220へ進み、画面電源がオンされていない場合にはステップS210を否定判定し、ステップS210の判定処理を繰り返す。
【0060】
ステップS220において、制御部303は、表示部駆動部306から入力される位置検出信号によって画像表示部307(LCD)の位置を検出し、ステップS230へ進む。ステップS230において、制御部303は、補正ゲインが変更されたか否かを判定する。制御部303は、通常状態から変更した補正ゲイン信号が入力されている場合にステップS230を肯定判定してステップS240へ進み、通常状態の補正ゲイン信号が入力されている場合にはステップS230を否定判定し、ステップS250へ進む。
【0061】
ステップS240において、制御部303は、画像表示部307(LCD)の位置変更を指示してステップS250へ進む。具体的には、画像表示部307の画面位置を変更後の補正ゲインに対応する位置へ移動させるための移動制御信号を表示部駆動部306へ送出する。
【0062】
ステップS250において、制御部303は乗員動検出部302へ指令を送出し、乗員動を検出させてステップS260へ進む。これにより、乗員の頭部(とくに眼球)と車両(とくに、乗員が観察する画面)との間に生じる上下方向の相対動の検出信号が乗員動検出部302から制御部303へ入力される。
【0063】
ステップS260において、制御部303は、画像変位部305へ画像変位量を示すデータを送るとともに、画像シフトを行うように指令を出力してステップS270へ進む。制御部303は、乗員動検出部302によって検出された上下方向の相対動を光学的に補正する場合の不足分に応じて、不足分をキャンセルするために必要な画像表示部307上の表示画像の上下方向の変位量を算出し、この変位量を示すデータを画像変位部305へ送出する。光学的な補正量の不足は、ゲイン設定部301から入力される補正ゲイン信号が通常状態の補正ゲイン信号から変更されている場合に生じるので、画像表示部307上における画像変位量は、補正ゲイン信号の変更量に応じて算出される。画像シフトの指令を受けた画像変位部305は、画像入力部304から入力された表示データに対し、上記変位量に応じて表示データを加工する。
【0064】
ステップS270において、制御部303は、画像表示部307へ指令を送り、加工後の表示データによる画像を表示させてステップS280へ進む。これにより、画面内を上下方向に移動した画像が画像表示部307に表示される。ステップS280において、制御部303は、画像表示部307の画面電源がオフされたか否かを判定する。制御部303は、画面電源がオフされた場合にステップS280を肯定判定し、図10による処理を終了する。一方、制御部303は、画面電源がオフされていない場合にはステップS280を否定判定し、ステップS220へ戻って上述した処理を繰り返す。
【0065】
以上説明した第三の実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)乗員の頭部(とくに眼球)と乗員が観察する画面(画像表示部307からの光束FL)との間に生じる相対変位の変化に起因する観察画像の動きを光学的な補正によってキャンセルするようにしたので、乗員にとって表示画像が空間上に停止して見える。この結果、乗員にとって画像が見やすくなる上に、乗員が得る視覚情報と前庭器(三半規管、耳石)からの運動情報とが一致するので、乗員が感じる違和感・不快感を低減することができる。
【0066】
(2)画像表示部307を射出光束FLの中心線(光軸)の方向に進退移動可能に構成し、通常状態では画像遠方結像部308の焦点位置に、補正ゲインの変更が指示された状態では画像遠方結像部308の焦点距離より短い位置へ移動させるようにした。これにより、補正ゲインの変更が指示された状態では通常状態に比べて光学的な補正量を小さくする(変倍)ことが可能になり、光学補正後の画像が画像遠方結像部308の有効領域からはみ出してしまう頻度を少なくできる。
【0067】
(3)上記(2)で光学的な補正量を小さく変倍したことにより、乗員動検出部302で検出された上下方向の相対動(相対変位の変化)に対する補正量が不足する場合には、不足分を電気的な制御(相対動の動きと逆方向への画像シフト)によってキャンセルするようにしたので、乗員が感じる違和感・不快感をより低減することができる。
【0068】
(4)相対動の上下方向についてのみ、光学的な補正と電気的な補正とを組み合わせるようにしたので、相対動の上下方向と左右方向とで補正量を異ならせることができる。したがって、乗員が感じる違和感・不快感に応じて、観察画像の動きを必要な方向について適切にキャンセルできる。
【0069】
以上説明した第三の実施形態では、第一の実施形態による光学的な補正と電気的な補正(画像表示部に表示される画像を上記相対変位の変化と逆方向にシフトする)とを組み合わせる例を説明したが、第二の実施形態による光学的な補正と電気的な補正とを組み合わせてもよい。
【0070】
特許請求の範囲における各構成要素と、発明を実施するための最良の形態における各構成要素との対応について説明する。表示手段は、たとえば、画像表示部105(205/307)によって構成される。画像遠方結像手段は、たとえば、画像遠方結像部106(206/308)によって構成される。収束光学系は、たとえば、フレネルレンズ24(もしくはフレネルレンズ24およびゲイン変更用レンズ27)によって構成される。変倍手段は、たとえば、表示部駆動部103(306)もしくはレンズ駆動部203によって構成される。表示位置移動手段は、たとえば、画像変位部305によって構成される。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する上で、上記の実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)〜(c)は基本光学系を説明する図である。
【図2】第一の実施形態による車載情報提供装置の構成を説明する図である。
【図3】画像遠方結像部、表示部駆動部および画像表示部の構成、配設位置を説明する図である。
【図4】制御部で行われる表示制御処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】基本光学系を説明する図である。
【図6】第二の実施形態による車載情報提供装置の構成を説明する図である。
【図7】画像遠方結像部、レンズ駆動部および画像表示部の構成、配設位置を説明する図である。
【図8】制御部で行われる表示制御処理の流れを説明するフローチャートである。
【図9】第三の実施形態による車載情報提供装置の構成を説明する図である。
【図10】制御部で行われる表示制御処理の流れを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
24…フレネルレンズ
27…ゲイン変更用レンズ
101(102、301)…ゲイン設定部
102(202、303)…制御部
103(306)…表示部駆動部
104(204、304)…画像入力部
105(205、307)…画像表示部
106(206、308)…画像遠方結像部
203…レンズ駆動部
302…乗員動検出部
305…画像変位部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員に提供する情報を表示する表示手段と、
前記乗員と前記表示手段との間の光路上に配設され、前記表示手段からの光束を略平行光にする収束光学系を含む画像遠方結像手段と、
変更指示に応じて、前記収束光学系および前記表示手段間の光路長と前記収束光学系の焦点距離との関係を変化させる変倍手段とを備えることを特徴とする車載情報提供装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載情報提供装置において、
前記変倍手段は、前記表示手段を前記光路上で前記収束光学系に近づけるように移動させることにより、前記収束光学系および前記表示手段間の光路長を前記焦点距離より短くすることを特徴とする車載情報提供装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車載情報提供装置において、
前記変倍手段は、前記収束光学系の焦点距離を長くすることにより、前記収束光学系および前記表示手段間の光路長を前記焦点距離より短くすることを特徴とする車載情報提供装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載情報提供装置において、
車両の動きに起因して生じる前記表示手段からの光束および前記乗員の頭部間の相対変位をキャンセルするように、前記表示手段に表示される情報の表示位置を前記相対変位と逆方向に移動させる表示位置移動手段をさらに備えることを特徴とする車載情報提供装置。
【請求項5】
乗員に提供する情報を表示し、
前記表示された画面からの光束を収束光学系によって略平行光にし、
変更指示に応じて、前記収束光学系および前記画面間の光路長と前記収束光学系の焦点距離との関係を変化させることを特徴とする車載情報提供装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−285000(P2006−285000A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106021(P2005−106021)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】