説明

車載通信装置

【課題】
周波数が近接したUHF帯の地上デジタル放送,ITS通信の通信システムを車両に実装するにあたって、これらの通信システムのアンテナが互いに近接することでアンテナ放射特性が劣化してしまうという問題がある。
【解決手段】
地上デジタル放送,ITS通信においてアンテナを共用し、高周波回路部内にて互いの送受信動作が干渉し合うことを防ぐため、それぞれの動作を周波数あるいは時間で分けることにより互いの干渉を防止する。これによりアンテナおよび回路部品の共用が可能となり、大幅なコストダウンを実現できる。更には複数の無線通信部を設けることで、移動体通信の条件下においても安定した通信を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の無線通信システムにおいて無線通信機能を有する車載通信装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車室内におけるエンターテイメントの一つとして地上デジタル放送視聴のニーズが増えてきた。地上デジタル放送は、日本国内においてはUHF帯である470MHz〜710MHzの周波数帯を用いた放送であり、12セグメントを利用する通常のテレビ向け放送サービスの他、主に携帯電話などの携帯機器を受信対象としたワンセグのサービスも含む。ここで、携帯電話は日本国内にて700MHz帯〜900MHz帯の周波数帯における音声通話サービスおよびデータ通信サービスを示す。
【0003】
その一方で、最近は安全運転支援の一環として、車々間通信や路車間通信などの無線通信を行うITS通信の特に車々間通信に期待が集まっており、日本国内においてやはりUHF帯(715MHz〜725MHz)の周波数帯が割り当てられようとしている。車々間通信の想定アプリケーションは車両同士が相互に自車両の位置や速度などを互いに無線通信することにより実現され、例えば見通しの悪い交差点における出会い頭衝突,正面衝突事故,追突事故,右左折事故,車線変更事故などが防止できると期待されている。
【0004】
ここで問題となるのが、地上デジタル放送とITS通信の両通信システムのアンテナ設置位置である。例えば地上デジタル放送においては各地の放送局からの電波を受信する必要があり、そのアンテナの設置位置は車両ルーフ上付近が望ましい。あるいはフロントガラスやリヤガラスに設置しても良いが、いずれにしても車体の高い位置に設置することが望ましい。また最近の地上デジタル放送の車載チューナは、移動体通信にて懸念されるフェージングやマルチパスへの対策としたダイバーシチ受信方式が主流となっており、この場合は上記の位置に複数のアンテナを設置することとなる。一方、ITS通信においては、上記の車々間通信のアプリケーションを実現するために車両に設置するアンテナの放射特性は、車両の周囲360度をカバーしなくてはならず、その為にアンテナはやはり見通しが良い高い位置に設置することが望まれる。
【0005】
すなわち地上デジタル放送とITS通信の両通信システムのアンテナはどちらも車両ルーフ上付近に設置することが望ましいが、これらの両通信システムのアンテナの互いの物理的距離が近接してしまう。一般にアンテナの放射特性はアンテナの周囲環境に大きく影響を受けることが知られており、両通信システムのアンテナが近接することで、両通信システムのアンテナの放射特性が劣化することが懸念される。更にはルーフトップにアンテナの様な突起物を多数設けることは車両の見た目にも影響を与えるため、ユーザの立場からも望ましいものではなく、アンテナ設置数は出来る限り少ないことが望ましい。
【0006】
アンテナ設置数を減らす方法として、例えば特表2007−524310号公報ではデュアルバンドアンテナに分波器の機能を持たせることでデュアルバンド通信装置を簡素化する方法が示されている。
【0007】
【特許文献1】特表2007−524310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特表2007−524310号公報に開示の方法は移動電話機の様なハンドヘルド型通信装置への適用を前提としており、アンテナ部と高周波回路部を分離させて構成する様な車載通信装置への適用を想定した場合は、アンテナ部と高周波回路部を接続する同軸ケーブルは2本必要となってしまい、コストアップを招くという問題がある。
【0009】
本発明は車両に複数の無線通信機能を実装するにあたり、各通信システムのアンテナの物理的距離が互いに近接することによるアンテナ放射特性の劣化を抑え、且つ部品や処理を新たに追加することなく簡素な構成にて混信を防止する回路構成を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車載通信装置は、主にアンテナ部と高周波回路部から成る無線通信部と、主にデジタル信号に変換された受信信号および送信するデジタル信号を処理するデジタル信号処理部と車載通信装置を制御する制御処理部から成る通信制御部により構成され、ITS通信と地上デジタル放送の両通信システムの無線通信周波数が近接していることを利用して、これらの両通信システムにおいてアンテナ部を共用する。ここで両通信システムにおいてアンテナ部を共用するため、該アンテナ部が接続された高周波回路部で両通信システムが混信しないようにする。高周波回路部におけるITS通信の送信および受信,地上デジタル放送の受信のうち、ITS通信送信とITS通信受信は時分割で動作するため混信を起こすことは無いが、ITS通信送信と地上デジタル放送受信は同時に実行される可能性があり、これに対する混信対策を行う。
【0011】
一つ目の混信対策として、ITS通信(715MHz〜725MHz)と地上デジタル放送(470MHz〜710MHz)は5MHzのガードバンドを挟んで離れていることから、バンドパスフィルタあるいは分波器等を用いてITS通信と地上デジタル放送の帯域を分波する。分波のためにITS通信の送信回路に地上デジタル放送の無線通信周波数帯を減衰するフィルタ、または地上デジタル放送の受信回路にITS通信の無線通信周波数帯を減衰するフィルタを設ける。あるいは両通信システムの周波数帯を各々に分波できる様な分波器を用いる。これによりITS通信送信と地上デジタル放送受信の混信が防止され、ITS通信の送受信動作と地上デジタル放送の受信動作においてアンテナを共用することが可能となる。
【0012】
二つ目の混信対策として、高周波スイッチ等を用いて、少なくともITS通信送信の回路ブロックと、地上デジタル放送受信の回路ブロックを時分割で動作させる。この場合、無線通信部はITS通信送信動作と地上デジタル放送受信動作を同時に実行することができないため、複数の無線通信部を設ける。
【0013】
また複数の無線通信部では基準周波数を生成するための局部発振部を共用し、局部発振部の分周器の分周比を設定することで受信チャネルを切り換えて、局部発振部の発振周波数を地上デジタル放送の受信周波数に加えてITS通信の通信周波数にも設定できる様にする。
【0014】
更にはITS通信受信および地上デジタル放送受信のアナログ処理を行う回路ブロックも、両通信システムの無線通信周波数は近接していることから、アンテナから受信した高周波信号を増幅してI(同相)成分とQ(直交)成分のベースバンド信号に変換する回路ブロックを共用し、その後にITS通信のデジタル信号処理ブロックおよび地上デジタル放送のデジタル信号処理ブロックに分ける。
【0015】
また複数の無線通信部を設けて、複数の無線通信部からの出力を用いてダイバーシチ受信システムを構成する。
【0016】
以上の様に、本発明によれば前述の問題点を解決することができる。それと同時に、複数の通信システムにおいてアンテナおよび回路部品などの共用が可能となるため、大きなコストダウンを図ることができる。更には複数の無線通信部を設けることで、移動体通信の条件下においても安定した通信を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は周波数が近接した複数の無線通信、特にUHF帯のITS通信,地上デジタル放送,携帯電話サービス等において、これらの通信システムを互いに干渉させることなく且つ簡素な構成にてアンテナを共用することができる。具体的にはこれらの通信システムにおいてアンテナおよび回路部品の共用が可能となりコストダウンを図ることができる。且つ車両に設置するアンテナの数を抑えて車両外観の悪化を防ぐことができる。更には複数の無線通信部を設けることにより移動体通信の条件下においても安定した通信を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施例を図面を用いて説明する。尚、本発明は車載通信装置が複数の無線通信部を有している場合を例として、例えば車載通信装置が無線通信部を4つ有している場合に関して述べる。
【実施例1】
【0019】
図2は4つの無線通信部を搭載した車両の外観図を示している。前述の通り、無線通信部はアンテナと高周波回路部で構成されており、まずアンテナに関してその周波数バンドは地上デジタル放送(470MHz〜710MHz)とITS通信(715MHz〜725MHz)に対応するために、少なくとも470MHz〜725MHzの帯域を有している必要がある。アンテナ放射特性は、水平面において車両の周囲360度をカバーする必要があり、複数のアンテナの全てが水平面無指向特性を有していれば望ましいが、それが困難な場合はアンテナの設置位置を工夫することで以下の通り解決することができる。例えば指向性を持つ4つのアンテナを設置する場合は、アンテナ(1a)を車両の右前方向,アンテナ(1b)を左前方向,アンテナ(1c)を左後方向,アンテナ(1d)を右後方向にそれぞれその指向特性を向ければ、4つのアンテナを用いることで車両の周囲360度をカバーすることが可能である。
【0020】
次に高周波回路部の設置位置に関しては図2に図示されていないが、例えばアンテナ(1a)とアンテナ(1b)の様にフロントガラス貼り付けタイプのアンテナを採用する場合は高周波回路部は車両ピラーの内部に設置するか、アンテナ(1c)とアンテナ(1d)の様にルーフ上に設置する場合は高周波回路部はアンテナの筐体内に設置しても良くその設置位置には特に限定は無い。或いは高周波伝送用のケーブルを介して車載通信装置本体(3b)の中に含めても良い。但しこの場合はケーブルで発生する高周波信号の損失を考慮に入れる必要がある。
【0021】
図3は車載通信装置を搭載した場合の車両の運転席付近の概略図を示している。本実施例は、車載通信装置本体(3b)はカーナビゲーションシステム装置(3c)と一体となり機能する場合の構成例を示している。カーナビゲーションシステム装置(3c)は受信した地上デジタル放送を視聴するための手段として用いる他、ITS通信により得られた情報をドライバーに通知するための手段としても用いられる。ここで車載通信装置本体(3b)は必ずしもドライバーから見える位置である必要は無い。尚、受信用のアンテナについては図3には窓貼り付けタイプを一つだけ示しているが、その他、図2に示すとおり車両ルーフ上設置タイプなどがある。また前述の通り、車載通信装置本体(3b)には複数の無線通信部が接続されることとなるが、図3ではその記載を省略している。
【0022】
図1は車載通信装置の全体回路ブロック図を示している。前述の通り、本実施例は4つの無線通信部を用いた構成となっており、各アンテナ(1a,1b,1c,1d)は図2の様に車両に設置されているものとする。高周波回路部(1e,1f,1g,1h)は、主に地上デジタル放送受信機能とITS通信受信機能とITS通信送信機能を実現する回路ブロックと、通信チャネルを切り換えるための局部発振部から構成されており、その詳細は後述する。
【0023】
まず地上デジタル放送を受信する場合の動作に関して、受信するチャネルの設定は高周波回路部(1e,1f,1g,1h)内の局部発振部の発振周波数を切り換えることにより実現される。例えば乗員がカーナビゲーションシステム装置(3c)を介して設定した受信チャネルに応じて、制御処理部(1o)から局部発振部の発振周波数を設定する。高周波回路部(1e,1f,1g,1h)が出力するベースバンド信号は、地上デジタル復調部(1i)にてデジタル信号処理されて復調される。ここで図1に示すようにマルチアンテナ方式の場合、ダイバーシチ受信処理は各高周波回路部(1e,1f,1g,1h)から出力される成分の中から適切なものを選択するか、或いは各成分を重み付けして合成する手段がある。
【0024】
こうして復調された受信データはAVデコーダ(1j)にて映像信号に変換され、カーナビI/F(1p)を介して接続されたカーナビゲーションシステム装置(3c)のディスプレイにその映像が表示される。次にITS通信を受信する際の動作に関しては、地上デジタル放送受信の際と同様に制御処理部(1o)から高周波回路部(1e,1f,1g,1h)内の局部発振部の発振周波数をITS通信の受信周波数に切り換えることで実現される。
【0025】
高周波回路部(1e,1f,1g,1h)が出力するベースバンド信号はITS通信復調部(1k)にてデジタル信号処理され、ITS通信制御部(1n)とカーナビI/F(1p)を介して必要に応じてカーナビゲーションシステム装置(3c)を通じてドライバーに通知する。ITS通信制御部(1n)は、ITS通信の通信接続および通信切断,他車の位置情報の演算などの他、ITS通信全体を制御する。次にITS通信を送信する際の動作に関して、ITS通信制御部(1n)にて送信が必要と判断された場合は、送信するデータはITS通信変調部(1m)にてI成分とQ成分に変換され、高周波回路部(1e,1f,1g,1h)内の送信回路に入力され、アンテナ(1a)〜アンテナ(1d)より電波として送信される。
【0026】
尚、図1では4アンテナ方式として、送信回路を4つ示したが、必ずしもアンテナの数と送信回路の数が一致している必要は無い。例えば1つの送信回路の出力を分配器により4分配して4本のアンテナに接続するか、或いは1つの送信回路の出力を切り換えスイッチにより4本のアンテナの中の1本のいずれかに接続する様な方法であっても良い。
【0027】
図4は個々の無線通信部の内部回路構成の例を示している。前述の通り、本発明の様に両通信システムにおいてアンテナを共用した場合、特にITS通信送信動作と地上デジタル放送受信動作が同時に実行されると混信を起こすため、これに対する対策としては、上記動作を実現する回路を周波数で分離するか、或いは時間で分離する方法が有効である。図4は前者の方法で、周波数で分離する方法の回路構成例を示す。
【0028】
まず無線通信部は、アンテナ(4a)の他、分波器(4b),送受切り換えスイッチ(4c),地上デジタル放送受信回路(4d),ITS通信受信回路(4e),ITS通信送信回路(4f),地上デジタル放送用の局部発振部(4g),ITS通信用の局部発振部(4h)から構成される。分波器(4b)は受信時にはアンテナ(4a)から受信した両通信システムの帯域(470MHz〜725MHz)を、地上デジタル放送(470MHz〜710MHz)とITS通信(715MHz〜725MHz)の帯域に分波し、逆に送信時には混合の動作を行う。
【0029】
ITS通信送信動作と地上デジタル放送受信動作の混信防止に限定した目的を達成するのであれば、分波器(4b)を設ける代わりに、ITS通信の無線通信周波数帯を減衰できるフィルタを地上デジタル放送受信回路(4d)のローノイズアンプ(4i)の前段に設けたり、地上デジタル放送の無線通信周波数帯を減衰できるフィルタをITS通信送信回路(4f)のパワーアンプ(4v)の後段に設けたりする方法も有効である。
【0030】
局部発振部(4g,4h)はPLL周波数シンセサイザ方式とし、制御処理部(1o)から分周器の分周比を設定することでその発振周波数の切り換えを行う。具体的には、電圧に応じて周波数が変化するVCO(電圧制御発振器)の発振周波数を分周器にて分周した出力と、温度補償型水晶発振器(TCXO)から得られる基準周波数との位相差を位相比較器にて検出し、その結果をループフィルタ(LPF)にて平滑化したものをVCOにフィードバックすることで所望の周波数を得ようとするものである。
【0031】
地上デジタル放送の視聴チャネルの切り換えなど、通信周波数の設定は局部発振部(4g,4h)による発振周波数を切り換えることで行われる。まず地上デジタル放送受信時の動作に関して、分波器(4b)にて分波された地上デジタル放送の受信信号は雑音特性に優れたローノイズアンプ(4i)に入力され、その後、可変利得アンプ(4j)にて後段のIQ復調器(4k)が必要とする振幅レベルまで増幅される。IQ復調器(4k)は、入力された信号をI(同相)成分とQ(直交)成分のベースバンド信号に分離するためのものである。ここで分離されたI成分とQ成分はベースバンド信号増幅器(4l)にて後段のADコンバータ(4n)が必要とする振幅レベルにレベル調整され、チャネルフィルタ(4m)を通過後にADコンバータ(4n)にてデジタル信号に変換される。
【0032】
次にITS通信においては、まず受信時の動作の場合、制御処理部(1o)により送受切り換えスイッチ(4c)がITS通信受信回路(4e)側に設定される。分波器(4b)にて分波されたITS通信の受信信号は雑音特性に優れたローノイズアンプ(4o)に入力され、その後、可変利得アンプ(4p)にて後段のIQ復調器(4q)が必要とする振幅レベルまで増幅される。IQ復調器(4q)で分離されたI成分とQ成分はベースバンド信号増幅器(4r)にて後段のADコンバータ(4t)が必要とする振幅レベルにレベル調整され、チャネルフィルタ(4s)を通過後にADコンバータ(4t)にてデジタル信号に変換される。
【0033】
次にITS通信の送信時の動作の場合、制御処理部(1o)により送受切り換えスイッチ(4c)がITS通信送信回路(4f)側に設定される。ITS通信変調部(1m)からの送信信号は、DAコンバータ(4z)を介してI成分とQ成分がアナログ信号として出力され、ローパスフィルタ(4y)にて不要成分が除去された後、IQ変調器(4x)に入力されてITS通信で使用される変調波が生成される。その後、ドライバアンプ(4w)およびパワーアンプ(4v)にて規定の送信出力まで増幅されたのち、RFバンドパスフィルタ(4u)にて不要なスプリアス成分が除去され、アンテナ(4a)から電波として放射される。
【0034】
以上に示した回路構成により、ITS通信送信と地上デジタル放送受信の混信が防止され、ITS通信の送受信と地上デジタル放送の受信においてアンテナを共用することが可能となる。
【0035】
次にITS通信送信動作と地上デジタル放送受信動作の混信対策として、双方の動作を時間で分離する方法の回路構成例を図5に示す。まず無線通信部は、アンテナ(5a)の他、RFバンドパスフィルタ(5b),送受切り換えスイッチ(5c),受信回路(5d),送信回路(5f),局部発振部(5e)から構成される。RFバンドパスフィルタ(5b)はアンテナ(5a)から入力される様々な周波数帯から地上デジタル放送およびITS通信で使用する周波数帯を抽出する為に設けており、具体的には少なくとも両通信システムの無線通信周波数帯幅(470MHz〜725MHz)の通過帯域を有していることが望ましい。またRFバンドパスフィルタ(5b)はITS通信の送信動作時には回路内で発生した不要な周波数を外部に輻射させない役割も持つ。
【0036】
送受切り換えスイッチ(5c)は送信動作と受信動作を切り換えるためのもので、ITS通信の送信動作の際には送信回路(5f)、逆に地上デジタル放送およびITS通信の受信動作の際には受信回路(5d)がアンテナに接続されることとなる。送受切り換えスイッチ(5c)の切り換え制御は制御処理部から行う。局部発振部(5e)は、前述と同様にPLL周波数シンセサイザ方式とし、制御処理部からの指示により、地上デジタル放送の視聴チャネルの切り換え、およびITS通信への通信周波数の切り換えは局部発振部(5e)にて行われる。
【0037】
次に受信回路(5d)の動作に関して、送受切り換えスイッチ(5c)が受信回路(5d)側に設定されている場合は、アンテナ(5a)から受信してRFバンドパスフィルタ(5b)を通過した信号は雑音特性に優れたローノイズアンプ(5g)に入力され、その後、可変利得アンプ(5h)にて後段のIQ復調器(5i)が必要とする振幅レベルまで増幅される。IQ復調器(5i)は、入力された信号をI(同相)成分とQ(直交)成分のベースバンド信号に分離するためのものである。ここで分離されたI成分とQ成分はベースバンド信号増幅器(5j)にて後段のADコンバータ(5n,5o)が必要とする振幅レベルにレベル調整され、チャネルフィルタ(5k,5m)を通過後にADコンバータ(5n,5o)にてデジタル信号に変換される。
【0038】
尚、チャネルフィルタ(5k,5m)およびADコンバータ(5n,5o)の要求仕様はベースバンド信号(I成分,Q成分)の変調速度および帯域幅により異なるため、本実施例では地上デジタル放送とITS通信にてその回路を分けているが、必ずしもこの回路構成に限定されない。例えば受信回路5dにチャネルフィルタ(5k,5m)を設けず、このチャネルフィルタ(5k,5m)の機能を地上デジタル復調部(1i)とITS通信復調部(1k)に取り込んでデジタルフィルタで実現し、このデジタルフィルタのパラメータをプログラマブルに可変とすることで両通信システムに対応する方法であっても良い。こうして得られた地上デジタル放送およびITS通信のベースバンド信号は、それぞれ地上デジタル復調部とITS通信復調部(1k)にてベースバンド信号処理が行われることとなる。
【0039】
次に送信回路(5f)の動作に関して、ITS通信変調部(1m)からの信号は、DAコンバータ(5t)を介してI成分とQ成分がアナログ信号として出力され、ローパスフィルタ(5s)にて不要成分が除去され、IQ変調器(5r)に入力されてITS通信で使用される変調波が生成される。その後、ドライバアンプ(5q)およびパワーアンプ(5p)にて規定の送信出力まで増幅されたのち、送受切り換えスイッチ(5c),RFバンドパスフィルタ(5b)を経由してアンテナ(5a)から電波として放射される。
【0040】
以上に示した回路構成により、懸念されていたITS通信送信と地上デジタル放送受信の混信が防止され、ITS通信の送受信動作と地上デジタル放送の受信動作においてアンテナを共用することが可能となる。更には地上デジタル放送とITS通信において受信回路(5d)および局部発振部(5e)を共用させることも可能で、大きなコストダウンも期待できる。
【0041】
尚、図5に示す回路構成の場合は、送受切り換えスイッチ(5c)により動作を切り換えることでアンテナ(5a)を共用しているため、ITS通信と地上デジタル放送の両通信システムを同時に実行するためには、先の図1に示す様に無線通信部を複数設けることが前提となる。複数の無線通信部の動作は、制御処理部(1o)から個々に設定することになる。
【0042】
以上に示した例(図4,図5)においては、受信回路および送信回路は、共にRF信号とベースバンド信号を直接相互に扱うダイレクトコンバージョン方式を示したが、必ずしもこの方式に限定されず、例えば中間周波数を用いた方式であっても良い。
【0043】
前述の通り、例えば図5に示した無線通信部においては、その高周波回路部は、ITS通信の送信動作,ITS通信の受信動作、あるいは地上デジタル放送の受信動作のいずれか1つの動作のみを行うことになり、どの動作を行うかは制御処理部(1o)から設定する必要がある。以下は例として4アンテナ方式における動作設定方法を示す。
【0044】
図6に示す例では、いずれの時間においても常に4つのアンテナの内の3つアンテナを地上デジタル放送の受信に割り当て、残りの1アンテナをITS通信に割り当てている。一定周期でITS通信への割り当てを各アンテナに切り換えるのは、ITS通信において車両の周囲360度の範囲において情報を収集するためである。例えば先に述べた図2の様にアンテナを設置した場合、各アンテナは必ずしも無指向特性を有している必要は無い。そしてこの様に一定周期でITS通信に割り当てるアンテナを切り換えることにより、擬似的に車両の周囲360度の範囲をカバーすることが可能となる。
【0045】
一方、地上デジタル放送の受信はITS通信で使用していない残りのアンテナを用いれば良い。地上デジタル放送に関しては車両から見た通信相手は例えば各地の放送局であり、受信アンテナの指向特性における制約はITS通信に比べて小さく、ITS通信で使用していないアンテナを使えば十分に受信性能を確保できる。ここで地上デジタル放送に3アンテナを割り当てたのは、遠距離通信の地上デジタル放送は直接波と多数の間接波が散乱するマルチパス環境であるため、複数のアンテナを用いたダイバーシチ受信とすることで移動中でも安定した受信性能が得られる様にするためである。
【0046】
従って逆に地上デジタル放送の受信状況が良好であれば、例えばITS通信に2アンテナ、もしくは3アンテナを割り当てても良く、この場合は逆にITS通信の通信性能改善に有効である。図7はITS通信に3アンテナを割り当てた場合の例を示している。例えば見通しの悪い交差点への進入する際には、ITS通信には車々間通信を用いて出会い頭衝突への対策が要求される。この場合、前方方向の2つのアンテナ(1a,1b)をITS通信に割り当てることで、前方方向の通信を強化することができる。更にアンテナ(1c)とアンテナ(1d)を交互で切り換えることにより、後方からのITS通信の情報も受信できる。車両が交差点へ進入したことの検出は、例えばカーナビゲーションシステムから得られる地図情報を利用したり、あるいは車載カメラ等から得られる標識および車両周囲の情報を利用したりすることができる。
【0047】
図8は車両が走行中に左車線から右車線に車線変更をしようとしている場合を想定したアンテナの割り当てを示している。この場合は右車線に存在する車両とITS通信を行うことを目的として、右方向の2つのアンテナ(1a,1d)をITS通信に割り当てる。車線変更の検出は図1には図示されていない車載カメラ等から得られる白線認識結果を用いるか、或いは方向指示器スイッチから検出することもできる。
【0048】
以上に示す様に、図5に示した無線通信部の高周波回路部がITS通信の送信動作,ITS通信の受信動作、あるいは地上デジタル放送の受信動作のいずれか1つを行う構成であっても、無線通信部の設定をリアルタイムに設定することで、通信の信頼性を向上することが可能である。無線通信部の設定のトリガとしては、上記に挙げた例の他、アクセルペダルやブレーキペダル等の操作ペダル,車速センサや加速度センサ等の各種センサ,ヘッドライトスイッチやワイパスイッチ等の各種スイッチなどを利用することも可能である。また地上デジタル放送を利用していない場合は、複数の無線通信部の全てをITS通信に設定することでITS通信の通信の安定化を図ることもできる。
【0049】
いずれにしても複数の無線通信部の各々を個々にITS通信あるいは地上デジタル放送のいずれかの通信システムへ設定することは、制御処理部(1o)からの指示により可能なため、その対応は柔軟に行うことができる。尚、以上の図6〜図8に示した例は、無線通信部の回路構成が図5に示す様にITS通信と地上デジタル放送の動作を切り換える必要がある場合を想定している。従って、図4に示す様に無線通信部がITS通信と地上デジタル放送の動作を並行して実行できる様な場合は、各々の無線通信部が常に両通信システムにおいて動作できるため動作の切り換えは不要であり、更に安定した通信を期待することができる。
【0050】
また更に、車両にて広域通信を実現する手段として携帯電話の通信方式を利用することが考えられる。特に700MHz帯〜900MHz帯の周波数帯で使用する携帯電話の場合は、ITS通信および地上デジタル放送と周波数が近接しておりアンテナ部の共用が可能である。例えばITS通信と地上デジタル放送と携帯電話を同一のアンテナで実現することができる。この場合、やはり懸念される互いの通信システム間における混信に対しては、前記と同様の手法を適用することで回避することができる。
【0051】
図9はITS通信、地上デジタル放送に加えて携帯電話の送受信機能においてもアンテナを共用した場合の、車載通信装置の回路ブロック図を示している。回路ブロックは主にアンテナ(9a),アンテナ共用手段(9b),ITS通信送受信回路(4e,4f),地上デジタル放送受信回路(4d),携帯電話送受信回路(9e),通信制御部(1q)から構成される。アンテナ(9a)はITS通信と地上デジタル放送と携帯電話サービスの無線通信周波数帯に対応する。アンテナ共用手段(9b)は各通信サービスにおいてアンテナを共用するための手段で、フィルタあるいは高周波スイッチなどにより構成されており、前述と同じ手法にて実現することができる。ここで携帯電話送受信回路(9e)に関して、一般に市販されている携帯電話機の様に、それ単体で携帯電話サービスを実現できる様な携帯電話機あるいは通信カードなどを適用する場合は、これにアンテナ共用手段(9b)を介してアンテナ(9a)を接続すれば良く、必要に応じて、通信制御部(1q)を介さずにカーナビゲーションシステムに直接接続しても良い。
【0052】
以上の通り、本発明によれば、車両に複数の通信システムの機能を実装するにあたり、互いを干渉させることなく、且つ簡素な構成にて両者の機能を実現することができる。
【0053】
尚、以上の実施例では日本国内のUHF帯におけるITS通信,地上デジタル放送,携帯電話を例にとって記載したが、前述の通り、本発明の適用範囲は国内外を含めこれに限定されるものではない。本発明は複数の無線通信システムにおいて無線通信機能を有する通信装置において適用が可能である。
【実施例2】
【0054】
次に本発明を、車両に対して情報提供を行う放送サービスのサービス配信エリアに車両が進入しようとしている際に、車両に搭載された車載通信装置が本サービスの受信準備を自動的に行うことができるシステムおよび車載通信装置に適用した場合の実施例について説明する。
【0055】
車載情報通信の技術は、道路交通社会の安全性,利便性を向上するための手段として期待されている。例えば、車内に居ながら情報を取得する手段として、ISDB−T方式の地上デジタル放送(以下、ワンセグ放送)などがその一例として挙げられる。また特に最近は、サービス配信エリアを一定領域に限定したエリア限定ワンセグのサービスなどがある。本サービスは微弱電波を用いることを前提として、放送免許が無い事業者でもコンテンツの配信が行えるというもので、例えば観光施設や店舗などの限定されたサービス配信エリア内にて簡易的な基地局を用いて、ワンセグ受信機を有するユーザに独自のローカルなサービスを提供できる手段として期待されている。
【0056】
ここで日本国内の地上デジタル放送では、SI情報を用いて郵便番号などで受信機の地域設定をすることで、受信した周波数チャネルを自動的に特定のリモコン番号に割り当てる事が可能である。また車両の様な移動体での受信を前提としてドライバーが地上デジタル放送受信機の選局の動作を容易にする方法としては、特開2007−311987号公報には、周波数チャネルとリモコン番号が対応するチャネルリストをユーザが意識することなく、自動的に更新する方法が記載されている。これは移動する車両の位置が予め区分された地域から他の地域に移動した場合に、自動的にチャネルリストを更新し、例えば関東広域圏に関してNHK総合の放送番組は周波数チャネル「27ch」とリモコン番号「1」が自動的に関連付けされる様にチャネルリストを更新するというものである。
【0057】
しかし、例えば前述のエリア限定ワンセグサービスの様に、エリアが限定された様なローカルなサービスを利用する場合、以下2つの問題が発生する。
【0058】
一つ目の問題は、車載通信装置のチャネル設定である。エリア限定ワンセグサービスは、あらかじめ予約されていた受信周波数チャネルがある訳ではなく、その地域で使われていない空き周波数チャネルを使って提供されるサービスである。このため、一般のテレビ放送の様に、受信周波数チャネルとチャネル番号が1対1で対応しておらず、サービスを受けるユーザが所持する受信機のチャネル設定はユーザ自身で行わなくてはならない。しかし、ユーザが手動で選局をすることは容易では無く、特に走行中の車両をサービス対象とした場合には、ドライバーは運転中にワンセグ受信機の選局の動作を行うことができないため、サービスを受けることが出来ぬまま本サービスのサービス配信エリアを通過してしまう可能性があるという問題がある。例えばドライバーがあらかじめ事前に受信機のチャネルをサービスが配信される周波数チャネルに選局していれば本サービスを受けることはできるが、移動を前提とした車両にてサービス提供場所や提供事業者により異なる受信チャネルをその都度事前に選局することは現実的では無い。
【0059】
二つ目の問題は、サービスを提供する周波数チャネルをドライバーに告知する方法に関する課題である。特にエリアが限定された放送サービスにおいては、サービス対象が特定の会場内に集まった人々であるのならば、館内放送やポスター等の手段によりサービスを配信する周波数チャネルを告知することができるが、提供対象となる車両が走行中であることを前提とすると、限られた時間内でしかサービスを受けることができない。すなわち十分なサービスを得るためには、車両が本サービスのサービス配信エリアに進入する前に、車載通信装置が受信準備を完了していることが必要であるが、特開2007−311987号公報で開示されている発明で更新されるチャネルリストは、各地の放送局を通じて各放送事業者から提供される放送番組を対象としているため、エリア限定ワンセグサービスの様に、簡易的な基地局から微弱電波で提供される様なサービスには適用することはできない。
【0060】
そこで本実施例では、上記の様なエリアが限定された様なローカルなサービスの様に、微弱電波によりエリアが限定された様なローカルなサービスであっても、車両がそのエリアに進入した際にはそれを検出し、車両が走行中においてもドライバーが意識することなく本サービスの周波数チャネルの選局を完了し、自動的にサービスを受けることを可能とする。
【0061】
そして、移動車両がエリア限定ワンセグサービスのサービス配信エリアに進入する前にそのサービスを検出するために、限られた狭域エリアで路側機と車両との間で無線通信を行う光ビーコン路車間通信システムを用いる。そして、光ビーコン路車間通信を行う光ビーコン路上機は、エリア限定ワンセグサービスのサービス配信エリアの前に設置されているとし、車両に搭載された車載通信装置が光ビーコン路上機から受け取る情報は、少なくともエリア限定ワンセグサービスが提供する周波数チャネルに関する情報を含んでいるとする。
【0062】
光ビーコン路上機からサービスの情報を受け取った車載通信装置は、エリア限定ワンセグサービスの周波数チャネルを知ることができる。車載通信装置では、光ビーコン路上機から受け取った情報を元に、制御処理部からの指示によってワンセグ受信機の受信周波数チャネルを切り換える。
【0063】
以上の実施例を図面を用いて説明する。尚、以下は例として放送サービスにはエリア限定ワンセグサービス,路車間通信システムには光ビーコンを適用した例を用いて説明する。
【0064】
尚、ここで述べる放送サービスとは、不特定多数に情報を一斉に配信できるサービスを示しており、例えば、ISDB−T方式の地上デジタル放送(ワンセグ放送)、あるいはISDB−TSB方式のデジタルラジオ放送、あるいはアナログテレビ放送、あるいはアナログラジオ放送、あるいはMediaFLOなどがあるが、以下はエリアが限定されたワンセグ放送のサービスを例として述べる。また路車間通信システムは、光ビーコン,電波ビーコン,DSRC,無線LANなどがあるが、以下では、光ビーコンを例として述べる。
【0065】
図2は車載通信装置を車両に搭載した際の車両の外観図を示している。本発明に係る情報提供システムは放送サービスと路車間通信システムにて構成されることから、車載通信装置は放送サービスと、路車間通信システムの通信機能を有している。すなわち本実施例で扱う車載通信装置はワンセグ受信機能と光ビーコン送受信機能を有している。まず光ビーコン路車間通信を行うための光ビーコン投受光部(3a)はダッシュボード上に設置するのが一般的である。また前述のように受信用のアンテナ(1a,1b,1c,1d)では、元々は放送局から送信されてきたワンセグ放送電波を受信し、移動する車両を前提とした場合はその電波伝播特性は直接波と多数の間接波が散乱するマルチパス環境であることから、移動中でも安定した受信性能が得られる様に、複数のアンテナを用いたダイバーシチ受信とする。尚、光ビーコン投受光部(3a)からは、図3に示すように車載通信装置(3b)が接続されることとなるが、図2ではその記載を省略している。
【0066】
図3に示すように、光ビーコン投受光部(3a)は主に路上機から受信した近赤外線を電気信号に変換する受光部と、電気信号を近赤外線に変換して路上機へ送信する投光部から構成される。またカーナビゲーションシステム装置(3c)は、一般的なナビゲーション機能の他、本実施例では受信したコンテンツを視聴する手段としても用いる。
【0067】
図11は本実施例における情報提供システムの利用シーンとして、施設の駐車場などでのエリア限定ワンセグサービスにより放送サービスを行う例を示したものである。ここで前述の通り、放送事業を展開するにあたっては原則として放送免許が必要であるが、本実施例におけるエリア限定ワンセグサービスは微弱電波を用いることでサービス配信エリアを限定したものであり、放送免許が無い事業者でもコンテンツの配信が行えるというものである。すなわち簡易基地局(2b)を用いることで情報提供を容易に実現することが可能で、サービスを受ける側にとってもその地域に特化した有益な情報を得ることができる。ここで本実施例ではサービスの対象を駐車場に駐車している車両(2e)に限定するために、サービス配信エリア(2c)はこの敷地内に限定する。或いは、車両から降車したユーザも対象として、例えば道の駅の屋内にもそのサービス配信エリア(2c)を拡大しても良い。この場合、ユーザはワンセグ放送受信機能付き携帯電話などによりサービスを受けることができる。また所望のサービス配信エリア(2c)を確保するにあたっては、簡易基地局(2b)は1台である必要は無く、複数台の簡易基地局を用いても良い。その際、一般には基地局を複数設けた場合、受信側では複数の基地局から到達する電波により、遅延波の影響を考慮しなくてはならないが、本実施例ではサービス配信エリアは狭い範囲に限定しており、遅延スプレッドも一般の放送サービスを受信する場合と比べて十分に小さく、その影響を考慮する必要は無い。また車内にて本サービスを受けるために、ワンセグ受信機の周波数チャネルを選局するため、施設の駐車場の入口には光ビーコン路上機(2a)が設置されており、光ビーコン路上機(2a)からは少なくともエリア限定ワンセグサービスの周波数チャネルに関する情報を送信するものとし、これを受信した車両(2d)の車載通信装置はワンセグ受信機の受信周波数チャネルを選局することで、ドライバーが面倒な操作をすることなくサービスを受けることが可能となる。
【0068】
図12は本実施例における情報提供システムの利用シーンのもう一つの例を示しており、ガソリンスタンドやレストランやデパートなどの店舗に設置された簡易基地局(2b)から放送サービスを提供する場面を示す。例えば簡易基地局(2b)からはワンセグの通信方式を通信手段としてその店舗に関する情報が提供されている。ここで簡易基地局(2b)から提供される情報は必ずしも1チャネルである必要は無い。例えば左車線を走行している車両の為の情報と右車線を走行している車両の為の情報を分けたい場合は、簡易基地局(2b)から2チャネル分の情報を提供しても良い。この場合、光ビーコン路上機(2f,2g)から車両に提供するデータを車線毎に分ければ良い。
【0069】
尚、路車間通信システムとして、ここでは光ビーコン路車間通信を例としたが、前述の通り、これに限定されるものではない。しかし例えばある車線を走行する車両に限定してサービスを提供したい場合など、サービスの対象車両を絞りたい場合には、路車間通信システムには指向性が強い無線通信メディアが望まれる。光ビーコンは近赤外線通信を通信メディアとし、指向性が非常に強い特性を有しているため、サービス対象を絞り込みたい場合には特に有効な手段である。
【0070】
前述の通り、光ビーコンは近赤外線を通信メディアとし、指向性が非常に強い特性を有しているため、走行車線毎に通信エリアを限定することが可能である。また店舗から提供する放送サービスの内容に関しては、走行中の車両(2j)をサービスの対象としているため、音声による情報提供に特化するのも効果的である。その際、通信方式はワンセグに限定されず、配信コンテンツに適したものを適用すれば良い。以上の通り、本発明はドライバーが面倒な操作をすることなく、自動的にワンセグ受信機の受信周波数チャネルが選局可能であり、走行中の車両をサービスの対象とした場合には、本発明は特に有効である。
【0071】
図10は本実施例における車載通信装置の回路ブロック図を示している。基本的な構成は図1に示した回路ブロック図と同様であるが、光ビーコン送受信回路(1s)を備えている点が異なる。本実施例ではITS通信を考慮していないため、高周波回路部(1e,1f,1g,1h)においてはITS通信受信回路,ITS通信送信回路を図示しておらず、また、ITS通信復調部,ITS通信変調部,ITS通信制御部も図示していない。そして、高周波回路部(1e,1f,1g,1h)の地上デジタル放送受信、及び地上デジタル復調部(1i)においては、ワンセグ放送を受信して処理するものとする。まず光ビーコン送受信回路(1s)に関して、投受光部(1u)は光ビーコンの通信メディアとなる近赤外線と車載通信装置内で扱う電気信号を相互に変換するものである。アナログ回路部(1v)は受信時には受信信号を増幅し波形整形を行い、送信時には投受光部(1u)内の投光素子を駆動するための回路ブロックで構成される。光ビーコン用の通信制御部(1w)は受信データ信号のデコードと、送信データ信号のエンコードを行う。
【0072】
本実施例では4アンテナ(1a,1b,1c,1d)を搭載した場合の例を示している。高周波回路部(1e,1f,1g,1h)は、アンテナからの受信信号を処理するアナログ回路ブロックであり、受信周波数チャネルを切り換えるための局部発振部も高周波回路部に含む。
【0073】
高周波回路部(1e,1f,1g,1h)からアナログ−ディジタル変換後に出力された信号は、地上デジタル復調部(1i)にてデジタル信号処理される。ここで図10に示すような複数アンテナ方式の場合、ダイバーシチ受信処理は各高周波回路部(1e,1f,1g,1h)から出力される成分の中から適切なものを選択するか、或いは各成分を重み付けして合成されて出力されることとなる。この処理も地上デジタル復調部(1i)で行われる。
【0074】
こうして復調された受信データは、AVデコーダ(1j)にて映像信号に変換され、必要に応じて制御処理部(1o)を経由してカーナビゲーションシステム装置(3c)のディスプレイにその映像が表示される。
【0075】
本発明では、光ビーコンの通信結果に基づいて受信周波数チャネルを切り換えるため、光ビーコン路車間通信によりエリア限定ワンセグサービスの受信周波数チャネルに関する情報を取得した際には、制御処理部(1o)は高周波回路部(1e,1f,1g,1h)に指示して受信周波数チャネルを切り換える。
【0076】
すなわち光ビーコン路車間通信により取得した情報を元に、制御処理部(1o)からの指示によって、PLLシンセサイザ方式で構成することが一般的な高周波回路部(1e,1f,1g,1h)の局部発振部では、分周器の分周比を設定することで受信周波数チャネルを切り換える。またこの際に、受信周波数チャネルの切り換えだけではなく、必要に応じてカーナビゲーションシステム装置(3c)の動作モードを切り換えても良い。例えば、カーナビゲーションシステム装置(3c)の電源が投入されていなければ電源投入を行い、受信周波数チャネルを切り換える前にユーザに問合せを行う機能があると、更に利便性を向上することができる。
【0077】
以上に示す様に、本実施例で示した情報提供システムは、放送サービスと路車間通信システムにて構成することで、例えばエリア限定サービスの様に、微弱電波を用いエリアが限定されたローカルな放送サービスであっても、車両がそのエリアに進入した際には、車両が走行中においてもドライバーが意識することなく自動的に放送サービスの受信周波数チャネルの選局を完了し、ドライバーは自動的にサービスを受けることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は通信周波数が近接した複数の通信システムを車両に実装する場合に適用することができる。例えば日本国内におけるUHF帯のITS通信,地上デジタル放送,携帯電話サービスなどの通信システムを車両に実装する場合、これらの通信システムにおいてアンテナを共用することが可能となり、車両に設置するアンテナの数を必要最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】車載通信装置の回路ブロック構成例である。
【図2】車載通信装置のアンテナを車両に搭載した際の概略図である。
【図3】車載通信装置をカーナビゲーションシステム装置に接続した際の概略図である。
【図4】車載通信装置の無線通信部の回路ブロック構成例である。
【図5】車載通信装置の無線通信部の回路ブロック構成例である。
【図6】車載通信装置の無線通信部の動作設定例である。
【図7】車載通信装置の無線通信部の動作設定例である。
【図8】車載通信装置の無線通信部の動作設定例である。
【図9】車載通信装置の回路ブロック構成例である。
【図10】実施例2に係る車載通信装置の回路ブロック構成例である。
【図11】実施例2に係る情報提供システムの利用シーン例である。
【図12】実施例2に係る情報提供システムの利用シーン例である。
【符号の説明】
【0080】
1a,1b,1c,1d,4a,5a,9a アンテナ
1e,1f,1g,1h 高周波回路部
1i 地上デジタル復調部
1j AVデコーダ
1k ITS通信復調部
1m ITS通信変調部
1n ITS通信制御部
1o 制御処理部
1p カーナビI/F
1q,1w 通信制御部
1s 光ビーコン送受信回路
1u 投受光部
1v アナログ回路部
3a 光ビーコン投受光部
3b 車載通信装置本体
3c カーナビゲーションシステム装置
4b 分波器
4c,5c 送受切り換えスイッチ
4d 地上デジタル放送受信回路
4e ITS通信受信回路
4f ITS通信送信回路
4g,4h,5e 局部発振部
4j,4p,5h 可変利得アンプ
4k,4q,5i IQ復調器
4l,4r,5j ベースバンド信号増幅器
4m,4s,5k,5m チャネルフィルタ
4u,5b RFバンドパスフィルタ
4w,5q ドライバアンプ
4x,5r IQ変調器
4y,5s ローパスフィルタ
5d 受信回路
5f 送信回路
9b アンテナ共用手段
9e 携帯電話送受信回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線通信システムの無線通信機能を有する車載通信装置において、
前記車載通信装置は少なくとも、前記複数の無線通信システムに対応した複数の無線通信部と、通信制御部を備え、
前記無線通信部は、前記複数の無線通信システムにおいて共用され該複数の無線通信システムの各無線通信周波数において電波と高周波電気信号を相互に変換するアンテナ部と、該高周波電気信号とベースバンド信号を相互に変換する高周波回路部を備え、
前記高周波回路部は、前記複数の無線通信システムの内のいずれかの無線通信システムにおける送信回路部と、前記複数の無線通信システムにおいて共用され、前記アンテナ部で受信した高周波電気信号を処理する受信回路部を備え、
前記通信制御部は、前記車載通信装置を統括制御する制御処理部を備え、
前記無線通信部は、前記制御処理部からの指示に従って高周波電気信号の経路を前記送信回路と前記受信回路とに切り換えが可能な高周波スイッチを備える
ことを特徴とする車載通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載通信装置において、
前記高周波回路部は、前記複数の無線通信システムの無線通信周波数においてその基準周波数を生成する局部発振部を備え、
該局部発振部は、前記制御処理部から分周比を設定することでその発振周波数を可変とし、前記複数の無線通信システムにおける無線通信周波数の基準周波数を生成する手段として共用されていることを特徴とする車載通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車載通信装置において、
前記複数の無線通信システムは、UHF帯のITS通信とUHF帯の地上デジタル放送であり、
前記車載通信装置は、ITS通信の送信動作および受信動作の機能と、地上デジタル放送の受信動作の機能を有することを特徴とする車載通信装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車載通信装置において、
前記複数の無線通信部の各々は、ITS通信送信動作またはITS通信受信動作、あるいは地上デジタル放送受信動作に設定されることが可能であり、
該車載通信装置は、カーナビゲーションシステム装置が接続されており、
上記制御処理部は、該カーナビゲーションシステムから得られる情報に基づいて、該無線通信部をITS通信送信動作またはITS通信受信動作、あるいは地上デジタル放送受信動作のいずれかの通信動作に設定することを特徴とする車載通信装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車載通信装置において、
前記制御処理部は、ITS通信で得られた情報に基づいて、前記複数の無線通信部の各々をITS通信送信動作またはITS通信受信動作、あるいは地上デジタル放送受信動作のいずれかの通信動作に設定することを特徴とする車載通信装置。
【請求項6】
請求項3に記載の車載通信装置において、
上記制御処理部は、該無線通信部が有する高周波回路部から得られる受信信号の振幅および位相の状態に基づいて、前記複数の無線通信部の各々をITS通信送信動作またはITS通信受信動作、あるいは地上デジタル放送受信動作のいずれかの通信動作に設定することを特徴とする車載通信装置。
【請求項7】
請求項3に記載の車載通信装置において、
上記制御処理部は、車両に搭載された車載カメラシステムから得られる情報に基づいて、前記複数の無線通信部の各々をITS通信送信動作またはITS通信受信動作、あるいは地上デジタル放送受信動作のいずれかの通信動作に設定することを特徴とする車載通信装置。
【請求項8】
請求項3に記載の車載通信装置において、
上記制御処理部は、車両操作ペダル,各種センサ,各種スイッチなどの車両情報に基づいて、前記複数の無線通信部の各々をITS通信送信動作またはITS通信受信動作、あるいは地上デジタル放送受信動作のいずれかの通信動作に設定することを特徴とする車載通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−56980(P2010−56980A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220679(P2008−220679)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】