説明

車輪用軸受装置およびそのハウジングの鋳造方法

【課題】 鋳造品であるハウジングを精度良く鋳造できる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】 車輪用軸受装置は、転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備える。ハウジングは、このハウジングの軸方向に並ぶ上型41と下型42に分割される鋳型40で鋳造された鋳造品とする。上型41と下型42の合わせ面46は、ハウジングの最終の製品状態で機械加工される部位を通るのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラック、バス等の大型車両用のアクスルユニットとして使用される車輪用軸受装置およびそのハウジングの鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型車両用のアクスルユニットとして、例えば特許文献1に開示された構造のものが知られている。図4に示すように、このアクスルユニットは、ユニット化された複列の転がり軸受2と、この転がり軸受2の外輪4が内周に嵌合する環状のハウジング7とを備え、ハウジング7の一端に、ボルト31により車輪のホイール取付け用ハブ32およびブレーキロータ33を取付けたものである。車輪のホイール(図示せず)はハブ32に取付けられる。
【特許文献1】特開2003−312205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種のアクスルユニットのハウジング7は鋳造品であることが多い。環状のハウジング7を生砂の鋳型で鋳造する場合、模型の取り出しが容易であるように、鋳型を周方向で分割された上型と下型とでなる構成としていた。しかし、上型と下型が周方向に分割されていると、上型と下型のずれによる鋳造製品の精度低下が大きく現れやすい。ハウジング7の精度が悪いと、車両走行中に振動を引き起こすため、鋳造時の精度低下を極力小さくする必要がある。
【0004】
この発明の目的は、鋳造品であるハウジングを精度良く鋳造できる車輪用軸受装置およびそのハウジングの鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明にかかる車輪用軸受装置は、転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備えた車輪用軸受装置であって、前記ハウジングは、このハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される鋳型で鋳造された鋳造品であることを特徴とする。
鋳型が、ハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される構成であると、ハウジングの周方向で上型と下型に分割される構成に比べて、上型と下型のずれによる鋳造製品の精度低下が小さい。
【0006】
前記上型と下型の合わせ面は、前記ハウジングの最終の製品状態で機械加工される部位を通るのが好ましい。
上型と下型の合わせ面が、ハウジングの最終の製品状態で機械加工される部位を通る場合は、上型と下型のずれにより生じた精度低下箇所が後の機械加工により消滅するため、完成品としては鋳造時の精度低下が残らない。
【0007】
この発明において、前記ハウジングは球状黒鉛鋳鉄製とすることができる。
球状黒鉛鋳鉄は、引張り強さ、伸び、粘り強さ(靭性)に優れ、自動車部品に多く使用されているが、前記鋳型でハウジングを鋳造する場合にも球状黒鉛鋳鉄を好適に使用することができる。
【0008】
前記ハウジングの外周に車輪取付用のフランジを有する構成とすることができる。
ハウジングの外周に車輪取付用のフランジを有する構成、有しない構成のいずれにも、この発明を適用できる。
【0009】
この発明にかかる車輪用軸受装置のハウジングの鋳造方法は、転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備えた車輪用軸受装置のハウジングの鋳造方法であって、前記ハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される鋳型を用いて鋳造することを特徴とする。
ハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される鋳型を用いて鋳造すると、ハウジングの周方向で上型と下型に分割される鋳型を用いる場合に比べて、上型と下型のずれによる鋳造製品の精度低下を小さくできる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の車輪用軸受装置は、転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備えた車輪用軸受装置であって、前記ハウジングは、このハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される鋳型で鋳造された鋳造品であるため、鋳造品であるハウジングを精度良く鋳造できる。
【0011】
また、この発明の車輪用軸受装置のハウジングの鋳造方法は、転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備えた車輪用軸受装置のハウジングの鋳造方法であって、前記ハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される鋳型を用いて鋳造するため、鋳造品であるハウジングを精度良く鋳造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の実施形態を図1と共に説明する。この実施形態の車輪用軸受装置1は、外輪回転タイプで、例えばトラック、バス等の従動輪用アクスルユニットに適用されるものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0013】
この車輪用軸受装置1は、転がり軸受2と、この転がり軸受2の外周に嵌合するハウジング7とからなる。転がり軸受2は、外周面に軌道面3aを有する一対の内輪3と、この一対の内輪3の軌道面3aに対向する複列の軌道面4aを内周面に有する外輪4と、これら内外輪3,4間に組み込まれた複列の転動体5とを備えている。この実施形態の場合、転動体5は円すいころであって、円すいころ軸受として構成されている。転動体5である複列の円すいころは、背面組合せで配列され、各列毎に保持器6で保持されている。内輪3と外輪4間の軸受空間の両端は、シール8,9によりそれぞれ密封されている。
【0014】
ハウジング7は環状の部材であり、その内周面11は、前記外輪4が圧入される圧入面部11aと、この圧入面部11aに段差部11bを介してアウトボード側へ続き前記圧入面部11aよりも小径な内側突出部11cとからなる段付き円筒面状に形成されている。また、ハウジング7の外周面15は、全体的にはアウトボード側ほど大径となるテーパ状とされ、そのアウトボード端に、他よりも一段と大径になった大径部15aが設けられている。ハウジング7の外周面15とアウトボード側の端面の角部には、面取り16が施されている。さらに、ハウジング7のアウトボード側の端面における周方向複数箇所に、車輪およびブレーキロータ取付用のボルト孔12が設けられている。
【0015】
転がり軸受2は、その外輪4をハウジング7の内周面圧入面部11aにインボード側から圧入することにより、ハウジング7に組み込まれる。組み込んだ後、ハウジング7の内周に形成された環状の止め輪溝13に止め輪14が嵌め込まれる。転がり軸受2をハウジング7に組込んだ状態では、外輪4は、そのアウトボード側の端面がハウジング7の内周面段差部11bに当接して、アウトボード側への移動が規制され、かつインボード側の端面が止め輪14に当接して抜け止めされる。
【0016】
ハウジング7は鋳造により製作される。ハウジング7の材料としては、例えば球状黒鉛鋳鉄を用いることができる。球状黒鉛鋳鉄は、引張り強さ、伸び、粘り強さ(靭性)に優れる。球状黒鉛鋳鉄を用いる場合、硬さがHB130〜330、材料疲労強度が200MPa以上とする。球状黒鉛鋳鉄以外では、低、中炭素鋼やその他の鋳鉄を用いることができる。
【0017】
図2はハウジング7を鋳造する鋳型の断面図である。鋳型40は生砂型であり、上型41と下型42と中子43とでなる。下型42は上に開口するキャビティ用凹部44を有し、このキャビティ用凹部44内に中子43が配置されている。中子43は、キャビティ用凹部44の底面上に載置され、その下端芯部43aが下型42の位置決め凹部42aに嵌合することにより、下型42に対して位置決めされる。また、中子43の上端部および上端芯部41aが上型41の段付き凹部41aに嵌合することにより、中子43が上型41に対して位置決めされる。
【0018】
このように構成された鋳型40のキャビティ45は、上型41と下型42の合わせ面46よりも下側に設けられ、ハウジング7の軸方向が上下を向き、かつアウトボード側が上側とされる。ハウジング7の外周面15は、下型42からアウトボード側ほど大径となるテーパ状とされているため、下型42を砂で成形した後、製品模型を取り出すことが可能である。なお、鋳造の段階では、面取り16の部分は形成されない。前記合わせ面46は、ハウジング7のアウトボード側の端面を通っている。この実施形態の鋳型40では、前記キャビティ用凹部44に対向する上型41の下面が、ハウジング7のアウトボード側の端面を形成する。
【0019】
上記鋳型40により鋳造されたハウジング7は、例えば次のようにして良否を判定する。すなわち、ハウジング7の予め定めた軸方向位置の外径を測定して、その測定値が基準値の範囲内に収まれば良品とし、前記範囲を超えれば不良品とする。基準値は任意に設定する。
【0020】
得られた良品については、図2において一点鎖線で示す箇所A,B,C,Dを機械加工で仕上げる。Aはハウジング7の内周面11であり、転がり軸受2の外輪4が圧入される。Bはハウジング7のアウトボード側の端面であり、ブレーキロータまたは車輪のホイール取付け用ハブ(共に図示せず)が取付けられる。Cはハウジング7の外周面15の大径部15aであり、ブレーキロータを取付けた場合にブレーキロータの一部が接する。Dはハウジング7のアウトボード側の端面であり、車輪の回転検出用の磁気エンコーダ(図示せず)が取付けられる。また、前記面取り16も、機械加工により形成される。
【0021】
上記ハウジング鋳造用の鋳型40は、ハウジング7の軸方向で上型41と下型42に分割され、キャビティ45が上型41と下型42の合わせ面46よりも下側に設けられているため、上型41と下型42にずれが生じたとしても、そのずれによる精度低下はハウジング7のアウトボード側の端面にしか現れない。ハウジング7のアウトボード側の端面は、上述したように鋳造後、機械加工により仕上げされるため、鋳造時の精度低下の痕跡は残らない。
【0022】
図3は異なる実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置1は、外輪回転タイプで、例えばトラック、バス等の駆動輪用アクスルユニットに適用される。この実施形態が前記実施形態と異なる点は、ハウジング7の外周に車輪およびブレーキロータ取付用のフランジ21を有することである。フランジ21には、周方向の複数箇所にボルト挿通孔22が設けられており、フランジ21の両側に配した車輪(図示せず)およびブレーキロータ(図示せず)を、ボルト挿通孔22に挿通したボルト(図示せず)により、フランジ21に結合するようになっている。ハウジング7のアウトボード側の端面に設けたボルト孔23は、車軸結合用である。なお、車軸(図示せず)は、内輪3の内周に嵌合する筒軸(図示せず)の内周部に、回転自在に挿通される。
この実施形態の車輪用軸受装置1のハウジング7についても、前記実施形態の場合とほぼ同様の方法で鋳造することができる。このようなフランジ21を有するハウジング7の場合、図2と同様な鋳型を用いるが、鋳型の合わせ面は、例えばフランジ21のインボード側かアウトボード側のいずれか一方の側面とする。
【0023】
上記各実施形態では第1世代タイプの車輪用軸受装置としたが、この発明は単列ころ軸受タイプの車輪用軸受装置にも適用できる。
また、上記各実施形態では、転がり軸受2を円すいころ軸受型としているが、アンギュラ玉軸受等の玉軸受型としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】同車輪用軸受装置のハウジングの鋳造に用いる鋳型の断面図である。
【図3】この発明の異なる実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図4】従来のアクスルユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…車輪用軸受装置
2…転がり軸受
3…内輪
4…外輪
7…ハウジング
21…フランジ
40…鋳型
41…上型
42…下型
43…中子
45…キャビティ
46…合わせ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備えた車輪用軸受装置であって、前記ハウジングは、このハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される鋳型で鋳造された鋳造品であることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記上型と下型の合わせ面は、前記ハウジングの最終の製品状態で機械加工される部位を通る車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ハウジングは球状黒鉛鋳鉄からなる車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記ハウジングの外周に車輪取付用のフランジを有する車輪用軸受装置。
【請求項5】
転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備えた車輪用軸受装置のハウジングの鋳造方法であって、前記ハウジングの軸方向に並ぶ上型と下型に分割される鋳型を用いて鋳造することを特徴とする車輪用軸受装置のハウジングの鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−166536(P2009−166536A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4151(P2008−4151)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】